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「番組の途中ですが、ここでコトブキシティに出現した巨大な草体に関する続報が入ってまいりましたのでお伝えします。」
マサト達が滞在しているグリーンフィールドのポケモンセンター。そこで流れていたテレビのニュースが、草体に関する臨時ニュースを流し始めた。
草体発生以降、シンオウ地方一帯に注意を喚起する情報が多く流されており、ニュースもL字テロップで情報を流していた。その中でアナウンサーが淡々とした表情で続ける。
「先ほど、バンギラスデパートに出現した草体が、巨大な花びらを咲かせたという情報が入ってまいりました。花びらは渦巻きの形状となっており、高さはデパートの屋上から計算して、およそ5、6メートルとされています。」
アナウンサーの声と共にその異様な花びらが画面に映し出される。
「これは・・・!」
「見たこともない花びらだわ!」
マサトとコトミがテレビの画面を見つめながら思わず言葉を漏らす。
「ナナカマド研究所やコトブキ大学の調査によりますと、この花びらはこの星に自生している花びらと同様の生命サイクルと考えられていますが、その過程で周囲の酸素濃度を高め、極限まで高まった段階で種子を宇宙に打ち上げると言うことです。そのとき周囲の酸素が大爆発を起こすとされており、シミュレーションの結果、コトブキシティが壊滅するほどの威力だと言うことが明らかになりました・・・。」
「コトブキシティが・・・壊滅・・・!?」
テレビを見ていたトレーナーが呆然としながらつぶやく。
「繰り返します。草体の破壊に失敗した場合、コトブキシティは壊滅する可能性が高まってまいりました。コトブキシティ周辺にお住まいの皆さん、落ち着いて行動してください。現在のところ、すぐにでも草体が種子を打ち上げるといった兆候は確認されておりません。ですが最悪の事態に備えて、自主的な避難を呼びかけます・・・。」
「マサト君、コトミちゃん。あたし達が今置かれている状況は予想以上にひどいものだわ。」
ミキがマサトとコトミの肩に手を置いて言う。
「あたし達もすぐにでもあの草体を破壊しに出向きたいところだけど、ジョウトからシンオウはかなり離れてるし、それに行けたとしても今の状況ではコトブキシティに近づくことはできないと思うわ。だから、今のあたし達にできることは、アスカさんやチヒロさん達、ポケモンレンジャーや警察隊の皆さんが草体を無事に破壊できることを祈るだけだわ。」
「僕だってアスカさんやチヒロさんを手伝いたいです。だけどあの花、上手く破壊できるんでしょうか・・・。」
「あたしにも分からないわ。だけどアスカさんやチヒロさん達だったら、きっと上手くやれると思うわ。」
だがそう言っているミキの表情も、心なしか険しいものだった。いつもマサトやコトミに対して見せている笑顔も消えている。見たこともないポケモン。そして見慣れた町が壊滅してしまうかもしれないという緊迫した状況。そう言った状況が、彼女の表情を険しくしていたのだろう。
<このお話の履歴>
全編書き下ろし。
草体の破壊に手をこまねいていてはコトブキシティが壊滅してしまう――。ナナカマド博士の助手・コレキヨが衝撃的な事実を発言した翌日、その言葉を裏付けるかのごとく、コトブキバンギラスデパートに出現した草体が、恐るべき変化を遂げたのだった。
「あれは!?」
警戒に当たっていたアスカは思わずキャプチャ・スタイラーでデパートを覆う草体を指し示した。
「間違いない・・・!草体が花を咲かせようとしているわ!」
チヒロもその異様なまでの光景を目の当たりにしようとしていたのだった。
まがまがしいオレンジ色のつぼみ。そのつぼみが次第にふくらんでいき、やがて渦を巻いたかのごとく規則正しい20枚ほどの花びらとなって花開いたのだった。
花びらの真ん中には異様なまでに長く、そしてとがったものがある。おそらくここに種をため込んでいるのだろう。
「アスカさん、チヒロさん!」
そこに警察隊が駆けつける。
「昨夜、ナナカマド博士の助手でコレキヨさんっていう、ポケモン研究者の方が中心となってあのポケモンの生態を解明するべく緊急会議が開かれたのですが、あの草体、放っておくと大変なことになるんだそうです!」
「大変なこと?」
アスカが思わず警察隊に聞き返す。
「はい。草体が花を咲かせると、このあたりの酸素濃度はさらに高まります。そして濃度が極限まで高まると、あの草体は種子を宇宙に向けて打ち上げるんだそうです。そのとき、この一帯の酸素が大爆発を起こすのですが、今私たちが知っているポケモンのだいばくはつの威力など、とても比べものにならないんだそうです・・・。」
「それで、爆発するとどうなるんですか?」
チヒロも尋ねる。
「・・・コトブキシティは壊滅します!」
「えっ!!」
アスカとチヒロは互いに困惑の表情を浮かべる。事態は予想していた以上に深刻だということを改めて突きつけられることになった。
「それで、草体はどうなっています!?」
「あれを見てください!」
「!!」
アスカの声に警察隊は驚いてデパートの方向を見上げた。――毒々しいオレンジ色の花びらが、まるで地上にいるアスカ達を威圧するかのごとく咲き誇っている。まるで破壊できるなら破壊してみろと言わんばかりの異様である。
「これは・・・!もはや一刻の猶予も許されません!アスカさん、チヒロさん!私たちに協力してください!すぐにでもあの草体の活性化を抑えなければ、コトブキシティは何も残らなくなります!」
「分かったわ。行きましょう、チヒロ!」
「うん!」
ついに恐れていた事態が起きてしまった。草体が花を開くと言うことは、すなわちコトブキシティ壊滅のカウントダウンが始まったと言うことを意味している。それも、針の刻まれていない時限爆弾という代物である。
一刻も早く次の手を打たなければ想像以上の大惨事が起きてしまう。果たして、巨大な花を破壊することはできるのだろうか。
<このお話の履歴>
全編書き下ろし。
前書?
うちきりとか言っておきながらやっぱり続けます。
なんだか矛盾っぽい部分が見つかりましたが、
面倒くさいので放っておきます。
完結を最大の目標として書かせてもらいます。
pocket
monster
parent
『いいから黙ってそいつをこっちに寄こせ!』
金の少年は博士からポケモンを貰った。
銀の少年は博士からポケモンを盗んだ。
二人とも結果は同じポケモントレーナー。
しかし片方は悪人と呼ばれる。
シオンはどちらだろうか、悩んだ。
少なくとも貰える側の人間ではない。
日が沈むより先に、シオンは帰宅した。
扉を超えて、ふすまを開けて、隣の部屋をそっと覗く。
窓の外が夜の色に変わり、天井の灯りは部屋を照らす。
そこには、絶対にポケモンを譲ってくれない父親がいた。
酒瓶を片手に、ちゃぶ台にあぐらをかくカントは、
炎タイプかと錯覚するほどに赤い顔をしていた。
酔いつぶれたカントのふところに肌色の毛玉が、
イーブイが丸まって眠っている。
シオンの口元がにやりと浮ついた。
千載一遇のチャンスが目の前で転がっていた。
「父さん?」
シオンが呼んでも返事が返ってこない。
半分眠ったような状態で座っているようだ。
覚悟を決するのに時間はかからなかった。
うつらうつらとしている様子のカントに、
シオンは全速力で駆け寄った。
勢いのつけて、
ためらうことなく、
赤い顔面に飛び膝蹴りをぶちかました。
初めて親を蹴り飛ばした。
カントが思いっきり転倒する。
シオンが罪悪感に浸る暇などなかった。
ぶっ倒れたカントから、
イヌをひったくり、
そのまま逃走をはかる。
イヌを右手で掴み、脇にかかえて、急いで部屋の外へと、
家の外へと突っ走る。
廊下にさしかかり、玄関を見据えた。
振り向くことなく、いつもより長い廊下を駆ける。
「シャドーボール!」
背後から低い声が走った。
シオンに寒気が走る。
脇に抱えた肌色の毛玉から、漆黒の球体が生まれるのを目視する。
慌ててシオンは振り向き、後ろにいた男へ向けイヌをかざした。
かざした腕の先から漆黒の渦巻きが放たれた。
小さなブラックホールが真っすぐ吹っ飛び、
棒立ちしていたカントに直撃した。
鼓膜を突き抜けるような轟音が鳴り、
深い漆黒色の煙が部屋にあふれ返った。
爆発した。
突風が風向きを変えながらシオンを襲い、
メキメキと家のどこかの木が壊れる音がした。
「逝ったか」
シオンは縁起でもない冗談をつぶやいた。
しかし、本気で死んだとは思っていない。
黒い靄が空気に溶けるように薄まっていくと、
シオンは安心して玄関へと足を動かす。
「電光石火!」
逝ったハズの男の声だった。
シオンのあごから衝撃が走り、脳天を突き抜ける。
思考を忘れて、シオンは背中から倒れた。
ふと、右腕が軽くなった。
横に目をやると、イヌが体を揺らして遠く離れていくのが見えた。
壁を駆けているように見えた。
意識が濃くなり、力を振り絞り、シオンが立ち上がると、
そこにヤツはいた。
晴れた黒い煙の中から、
半壊したふすまを背景に、
顔を真っ赤にする鬼がいた。
シオンは今になって昼間のワカバの言葉を思い出した。
人間にポケモンの技はあんまり通用しないことを。
完全に油断していた。
「愚息がぁ!」
震える雄たけびだった。
顔の赤色は、酔いではなく怒りによるものだ。
カントは両腕でイヌを大事そうにかかえながら、近づいてきた。
「人のポケモンを盗ったら泥棒! 知ってるだろ!」
強くギラついた眼光がシオンを見下していた。
イヌもカントの両腕から顔を出し黒い眼でじっと見つめている。
シオンは責められている気分でいいわけした。
「赤の他人のポケモンを盗めば警察沙汰になるのは間違いない。
けど父さんのポケモンを盗むのだったら、
ただの親子喧嘩で済むと思ったんだ」
「許されると思ったら盗むのか!」
「俺はポケモンが欲しい。だから盗もうとした。それだけ」
「この腐れ外道が! じゃあ、ロケット団と同じだな!」
「なんだよ悪人扱いして! 誰が好き好んで泥棒なんてするか!
ポケモン盗む人間の気持ちにもなってみろよ!」
「ロケット団の気持ちになんかなれるか!」
「相手の気持ちになろうとしない父さんが
ポケモンの気持ちなんて理解できるハズないだろ!」
「イヌが悲しんでるのが分からないのか!
お前、まさかポケモンの気持ちを考えたことがないのか?」
「ポケモンが悲しんでる? 違うだろう?
父さんが怒っているのは、イヌが可哀想だからじゃないだろう?
自分が可哀想だから怒っているんだろう?」
「……どういう意味だ」
「父さんはイヌを俺に持ってかれるのか嫌なだけだ。
今まで大切にしてきたポケモンが他人の所に行ってしまうのが 嫌なだけなんだ。
ポケモンのためとか言っておきながら、
結局は自分のためなんだろう? そうなんだろ!」
「……俺は自分のためにポケモントレーナーになったワケじゃねぇ」
「嘘をつくな! そんなこと信じられるワケがないだろ!
イイ人ぶるんじゃない!」
カントが鉄球を取り出し、イヌに触れる。光となったイヌを、
鉄球に収めるとカントは少し息を吸う。
「あの屑どもと俺を同じにするな!」
カントの怒声で、シオンの顔に唾が飛んできた。
「俺は自分のためにポケモントレーナーになる下種どもとは断じて違う!」
「嘘だ! 俺だって、他の皆だって、誰もがポケモン好きだから、
ポケモンが欲しいから、だからポケモントレーナーになりたいんだ!」
「私利私欲のためにポケモンを捕まえているようでは、
ロケット団と五十歩百歩の違いではないか!」
シオンはひるんで言い返せなかった。
「ロケット団と同じだ!」、ではなく
「五十歩百歩の違い」という曖昧な表現をされてしまったが故に、
「そんなことない!」と断言できなかったのだ。
困ったシオンは、関係のない話題で誤魔化した。
「俺とポケモン、どっちが大切なんだよ!」
「お前に決まっているだろう!」
もっと困ってしまった。
「そっ……それじゃ、俺にイヌを譲ってくれてもいいじゃないか」
「だからこそやらんのだ!
俺はな、お前にポケモンに迷惑かけるような
人間になって欲しくないんだ。
ポケモン達の苦労で築き上げた成功を、
自分がやって見せたみたいに披露するポケモンマスター
とかいう阿呆にも、本当は憧れて欲しくはないんだ!」
和室内に静けさが蘇る。
一つだけシオンは理解できた。
カントはシオンにポケモンを譲ってはくれない。
「シオン。お前の都合で、人間の都合で関係のないポケモンを
巻き込んだりして欲しくないんだ。それだけなんだ」
「うおおおおおお!」
シオンは唐突に叫び、カントに向かって走り出した。
カントはボールからイーブイを再び召喚し、盾のように構えた。
シオンの繰り出した拳は、イヌに触れる寸前で静止した。
「お前なら、ポケモンの気持ちを考えてやれる。
俺はそれを信じてる」
「とっ……言ってることとやってることが滅茶苦茶じゃないか!」
「ポケモンを殴ることよりも、
ポケモンを支配することの方がよっぽどたちがわるいぞ。
ポケモンを殴る程度のことをためらっているようなら、
ポケモンをゲットするなんて馬鹿な真似は止めろ」
シオンは拳を構えた。カントはイヌを盾のように構えた。
シオンはいつまでたってもパンチを決められなかった。
そしてシオンは、仕方なくカントに背を向けた。
「今日のところは見逃してやる」
「何様のつもりだ?」
「でもね、明日も明後日も父さんが眠っている隙にでも
俺はイヌを奪いに行くからな!
俺は絶対ポケモントレーナーになりたいんだからな!
覚悟しておけよ!」
シオンは馬鹿正直に脅した。
それから力なくヨタヨタと部屋を去っていった。
廊下を歩いていると、体中の熱が冷めていくのが分かった。
暗い玄関で泣きながらスニーカーのひもを結んだ。
冷えた風に吹かれながら、暗い夜道を歩いた。
どこの家も電気が灯り、時折にぎやかな声が届いてくる。
楽しそうな声は今のシオンにとって耳触りだった。
「くそ! どうして俺がトレーナーになることを許してくれない?
そのくせ自分はポケモントレーナーなのに!
差別だ! えいこひいきだ! 異常なまでの自己愛だ!」
大きな独り言だった。
「父さんが認めてくれればそれでおしまいなのに……」
小さな独り言になった。
冷たい夜の道をシオンは無言で歩いた。
光を失った希望を胸に秘めて。
ゴールドはウツギからポケモンを貰った。
シルバーはウツギからポケモンを盗んだ。
二人の道は違えども、たどり着いたのは同じポケモントレーナー。
シオンは自分がどちらだろうか試してみた。
しかし前者にも後者にもなれなかった。
つづく?
「ようやく人数が集まってきたな」
9月4日、金曜日。世間的には週末だが、俺達に週末なんて無い。今日の放課後も、イスムカ達と部室に詰めているというわけだ。しかし、さすがに立派な部室だな。物置小屋2つ分くらいの広さはもちろんのこと、大量のボールにパソコン、果ては回復用の機材まで、かつての強豪ぶりが垣間見れる。
「そ、そうですか? 3人は少ないと思いますよ」
「……私はこのくらいが丁度良いですが、皆様が望むのでしたら構いません」
「おお。さすがラディヤちゃん、大人でマス。イスムカも見習うでマス!」
「う、なんで僕が怒られるんだ……」
……この3人には緊張感と言うものはあるのか? こんな奴らが2年後までに立て直しの礎を築けるのか、今更ながら不安になってきた。今に始まったことではないだろうがな。
「ま、細かい話は言いっこ無しだ。それより、今日は重要な知らせが入ってきた。こいつを見てくれ」
気を取り直し、俺はとある紙を1枚ずつ配った。3人は軽く目を通すと、ぽつりぽつりと声を上げてきた。
「これ、秋季大会の案内ですね。僕達出られるのですか?」
「ああ。しかし、それが変なんだ」
「と、言いますと?」
「俺達は部員の殆どを逮捕されたんだぞ? しかも、今では風当たりの強いポケモン虐待でだ。にもかかわらず参加できるなんて、罠としか思えないじゃねえか」
「言われてみればその通りでマス。これは何者かの陰謀でマス!」
ターリブンは顔を真っ赤にさせながら叫んだ。俺は彼をなだめながら、説明を続ける。
「まあ待て。これは俺達から見てもチャンスだ。この大会……参加する価値があるぜ」
「それじゃあ、何か秘策でもあるんですか?」
イスムカのこの問いに、俺は胸を張って言い切った。
「任せな、ちゃんと用意してある。残すはお前さん達の同意のみだが、どうする?」
まあ、嘘だがな。大見得切らねえと乗らないからな、最近の若者は。
「そうですね、策があるなら大丈夫でしょう。僕は参加しますよ」
「オイラも出るでマス。ラディヤちゃんに良いところを披露するでマス」
「……皆様が参加するそうですから、私も参加させていただきます」
イスムカにターリブン、そしてラディヤは首を縦に振った。なんだ、思ったより素直じゃねえか。
「決まりだな。では早速だがこれを熟読しとけ」
3人の意志を聞いた俺は、3冊の本をそれぞれに手渡した。各々何気無しにページをめくる。
「これは、ルールブックですか?」
「ああ。普通のルールとは少し勝手が違うみたいでな。環境を知るのは勝つための1歩というわけだ」
「なるほど。どれどれ……シングルバトル『マルチ』?」
首をかしげるイスムカに対し、ターリブンが解説を入れる。息が合ってるな。
「マルチと言えば、ダブルバトルでのスタイルでマス。トレーナーは2人1組になり、それぞれ1匹ずつ繰り出すのでマス。けど、シングルのマルチなんて聞いたことないでマスよ」
「……実は俺も、これを読んで初めて知った。結構ややこしいだろ?」
ポケモンバトルってのは、もっとシンプルであるべきなんだがな。どうせ、お寒い協調性教育の一環なんだろう。勝負の世界に下らねえ考えを持ち込みやがって。勝負の結果生まれるものは否定しないが、最初からそういうものがあったら生まれる余地がねえじゃないか。
ま、ここで何を言っても仕方ない。もう少しこいつらの反応を見てみるか。
「えーと、どうやら3人1組のシングルバトルみたいですね。3人で合わせて6匹使うようで、1人最低1匹持たないと駄目だそうです。もし、誰かが1匹も使わなかったら反則負けか……案外厳しいですね」
「同じトレーナーのポケモンの交代は自由でマスが、別のトレーナーのポケモンに交代できるのは3回までとなっているでマスね」
「まあ、そういうことだ。ともかく、俺達の戦いはここから始まる。当日までにルールの把握、鍛練をやっとけよ」
俺は3人に漠然な指示を出した。3人はそれに対し、元気に返事をするのであった。
「はーい、わかりました」
「了解でマス」
「承知致しました。皆様、頑張りましょうね」
……さてさて、どうなるか楽しみだぜ。
・次回予告
さあ、いよいよ秋季大会が始まるぞ。あいつらの力がどれ程通用するのか見物だが……果たしてどうなることやら。次回、第11話「地方大会1回戦」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.76
ダブルバトルではマルチという形式がありますが、シングルやトリプルにはマルチってないんですよね。ローテーションは言うに及ばす。ポケモンスタジアム金銀にはシングルのマルチがあったのですが、スタッフ忘れちゃったのかしら。ルールは2人1組で、1人3匹を使います。で、2人のうちどちらかのポケモンが全てやられたら負け。交代にも色々制約があった気がしますが、覚えていないのでこの辺にしときます。
あつあ通信vol.76、編者あつあつおでん
「私の番です!」
桃川めぐみのバトル場はグレイシア70/100。ベンチには悪エネルギー一つついたブラッキー70/100とエーフィ100/100、ネンドール80/80が控えている。
その一方で私の場は達人の帯と水エネルギー二枚、鋼と闘エネルギーが一枚ずつついているレジギガスLV.X120/190。そしてベンチにはレジアイス90/110、闘エネルギー一枚と鋼エネルギーが一枚ついたレジロック90/110、ユクシー70/90がいる。
私の場のポケモンのHPの高さからも予想できるでしょうけど、スタジアムはたねポケモンのHPを20上げるキッサキ神殿が発動している。
サイドは共に五枚だが、どちらが有利かは誰だって分かるだろう。
「グレイシアに水エネルギーをつけて、手札からグッズカードのポケモンレスキューを発動。トラッシュのポケモンを一枚手札に戻します。私はイーブイを手札に戻し、ベンチへ出します」
さっきからのプレイングを考えるともしやこのデッキでメインで戦えるポケモンはイーブイしかいないのかしら。イーブイの元のHPは60だが、キッサキ神殿の効果で20増幅し80/80とネンドールと同値になっている。
「更にネンドールのコスモパワーを使います。手札を二枚デッキに戻して六枚になるようにドロー」
彼女の手札は最初は四枚。二枚戻したので引くカードは四枚だ。
「ミズキの検索を使います。手札を一枚戻してデッキから好きなポケモンを一枚手札に加えます。私はシャワーズを選びますね」
今引いたシャワーズ以外にもグレイシアとエーフィ、ブラッキー以外にもブイズがまだまだ控えているようだ。
「グレイシアで雪隠れ! コイントスは……オモテです」
雪隠れは威力30のワザで、効果でコイントスを投げてオモテの場合このグレイシアは次の相手の番にワザのダメージや効果を受けない。激しい吹雪が発生し、レジギガスLV.Xを襲ってHPを90/190まで下げると同時にグレイシアの周りに雪のカーテンのようなものが現れる。
「私のターンよ。レジギガスLV.Xのサクリファイスを発動。ベンチのポケモンを一匹気絶させ、ダメカンを八つ取り除くわ」
80も回復したためHPは170/190とほぼ全回復。サクリファイスはこれ以外にもトラッシュの基本エネルギーを二枚まで選んでこのポケモンにつけるという効果もあるのだがトラッシュには残念ながら基本エネルギーがない。とにかく今は主軸となっているレジギガスLV.Xを気絶させないことだけを念頭にするべきだろう。
その巨体を180度回転させてこちらにむいたレジギガスLV.Xは私のベンチにいるユクシーをガッシリ握ってそのまま握りつぶしてしまう。何度も見たが決して楽しい光景じゃないわね。
「サイドを一枚引きます」
「攻撃が防がれているからやることがないわ。ターンエンドよ」
「私の番ですね、手札の水エネルギーをイーブイにつけてこのイーブイをシャワーズに進化させます。ネンドールのコスモパワーを発動! 手札を二枚戻して四枚ドローしますね。ではグレイシアで再び雪隠れ!」
シャワーズは進化したためキッサキ神殿の恩恵は受けれなくなったが代わりにエーフィのサンライドヴェールの効果を受けれるようになり、再びHPが20上がって110/110。
コイントスの結果は再びオモテ。先ほど回復したばかりのレジギガスLV.XのHPを140/190へと削っていく。
「私のターン。……」
基本的に私のデッキは力でゴリ押す短期決着型のデッキ。不本意にもこういう風に長期戦を強いられるとやることがなくなってしまう。
それに追い打ちをかけるかのように、手札のカードは良いとは言えない。
「エムリットをバトル場に出すわよ。そしてサイコバインドを使うわ」
エムリット90/90(キッサキ神殿の効果でHPが+20されている)のポケパワー、サイコバインドはこのカードを手札からベンチに出した時に使え、次のターン相手のポケパワーを使えなくさせるというカードだ。だが相手のポケパワーを持ったポケモンはネンドールのみ。あまりプラスの方向には働いてくれなさそうだ。
「エムリットに超エネルギーをつけてターンエンド」
「行きますね、私は水エネルギーをシャワーズにつけてグッズのミステリアス・パールを使います。サイドを全て確認し、その中にあるポケモンのカードを一枚手札に加えて発動したミステリアス・パールを新たにサイドに置きます」
攻め手にかける桃川と、攻めあぐねる私。どちらも膠着状態だったのだが、その膠着がようやく解ける。
「グレイシアでもう一度雪隠れ行きます」
しかしここでのコイントスはウラ! ようやくグレイシアを守る盾はなくなった。攻撃を受けたレジギガスLV.XのHPは110/190と半分に近くなっているが今はそんなに重要ではない。
「私のターン、ハマナのリサーチを発動。デッキから基本エネルギーまたはたねポケモンを手札に二枚まで加える。私はユクシーとアグノムを手札に加えるわ」
今引いた二匹を両方ともベンチに一気に出すとベンチが埋まってしまう。レジギガスLV.Xのサクリファイスを使えば減ると言っても、結局は気絶扱い。そんなに調子に乗るわけにはいかない。ここは温存か。
「レジギガスLV.Xでギガブラスター!」
轟音と巨大な橙色のレーザーがグレイシアと手札、デッキポケットを襲う。ギガブラスターの効果は攻撃した後相手のデッキトップと手札のカード一枚を強制的にトラッシュさせるものだ。
相手のデッキの一番上からはブラッキー。手札からは悪エネルギーがそれぞれトラッシュされる。
肝心のグレイシアは威力100に達人の帯で20足された120ダメージを受けて気絶。これで雪隠れで攻めあぐねる心配は取り払われた。
次の桃川のポケモンはシャワーズ。先ほどからベンチで育てていたポケモンだ。
「サイドを一枚引いてターンエンドよ」
「私の番です、手札から時空のゆがみを使います」
時空のゆがみはコイントスを三回し、オモテの数だけトラッシュにあるポケモンを手札に加えるグッズカードだ。そのコイントスの結果はウラ、オモテ、ウラ。彼女はイーブイを再びトラッシュから手札に戻した。
「シャワーズに雷エネルギーをつけてイーブイをベンチに出し、更にサポーターカードのクロツグの貢献を発動。トラッシュの基本エネルギーまたはポケモンを合計五枚まで選んでデッキに戻します。私はトラッシュの水エネルギー三枚と、グレイシア、グレイシアLV.Xをデッキに」
イーブイのHPはスタジアムの効果で20追加され80/80。これで通算六回目の登場だ。
「シャワーズで破壊の渦潮攻撃! この効果でウラが出るまでコインを投げます」
コイントスはオモテ、オモテ、ウラ。このコイントスのオモテの数だけ、相手のエネルギーをトラッシュさせるという効果を持つ。
「それではレジギガスLV.Xの水エネルギーを二枚トラッシュしてもらいます!」
レジギガスLV.Xの足元に大きな渦潮が発生し、レジギガスLV.Xを飲み込もうとする。エネルギー三つで使うワザとしては60ダメージに二枚のエネルギーをトラッシュというのはかなり上々だろう。これでレジギガスLV.Xの残りHPは50/190。
「私のターン。アグノムをベンチに出してポケパワー、タイムウォークを発動」
ベンチに出てきたアグノム90/90(通常は70/70だが、スタジアムのキッサキ神殿の効果でHP+20)の足元(?)を中心に紫色の波紋が発する。
「この効果はサイドを確認し、その中にいるポケモンを望むなら一枚手札に加えれるもの。加えた場合は手札から一枚カードをサイドにセットするの。……、ノーチェンジね」
というのも単純にサイドにポケモンがいなかっただけなのだが。
「そしてエムリットに超エネルギーをつけて手札からグッズカードレベルMAXを発動。コイントスをしてオモテなら自分のポケモンをレベルアップさせるわ」
レベルアップさせるだけならなんてことないと思うかもしれないが、レベルアップできるのはバトル場にいるポケモンのみ。この効果でならベンチのポケモンもレベルアップさせることが可能だ。
「オモテね。ベンチのアグノムをアグノムLV.Xにレベルアップ!」
このときレベルアップするLV.Xのカードはデッキから選択しなければならない。手札やトラッシュでは意味がないのだ。また、アグノムLV.X110/110はサイキックオーラというポケボディーを持っている。これにて自分の場の超ポケモンの弱点はすべて無くなる。
「そしてサクリファイスを発動。ベンチのレジアイスを気絶させ、トラッシュにある水エネルギー二枚をこのポケモンにつけてHPを80回復させるわよ」
トラッシュさせられたエネルギーも、受けたダメージもこれで大丈夫HPは130/190。これでなんとか……。いや、違う。これはわざとサクリファイスを使わせているのか。
「サイドを一枚引きますね」
そう、達人の帯がついている上に高火力を誇るレジギガスLV.Xは私の攻撃の要。その分ダメージを受けるとすぐにサクリファイスで回復させているのだがそれを逆に利用しているのか。
自力で高HPを誇る私のポケモン一匹ずつ倒すより、レジギガスLV.Xによる攻撃を無理に受けてまでもサクリファイスによって引くことのできるサイドで自分のサイドを減らしていく作戦のようだ。しかし分かってしまえば怖いことはない。
「レジギガスLV.Xでギガパワー!」
ギガブラスターは使った次のターンにもう一度使えないという反動効果を持つので不本意だがこのワザを使うしかない。
ゆっくりと、それでいて力強く前進するレジギガスLV.Xはシャワーズの元に来ると両手を組んでそのままハンマーのように両手を振り下ろす。ズシンという鈍い音が響いた。
このワザの元の威力は60だが、効果で40ダメージ追加することができる。その分レジギガス自身が40ダメージを受けるのだが。達人の帯の効果も含め120ダメージ、110しかHPのないシャワーズはこれで気絶。一方攻撃した方も90/190。このままレジギガスLV.Xを捨てるのか維持するべきか。
次のポケモンはまだ進化していないイーブイ。私がサイドを引いたことでこれで両者残りのサイドは三枚。ここからが終盤、油断はなおのこと出来ない。
「それじゃあ私の番ですね。手札からポケモンレスキューを使い、イーブイを回収してベンチに出します」
七回目のイーブイ80/80(キッサキ神殿の効果含め)を見ると、流石に萎えてくる。
「バトル場のイーブイをブースターに進化させ、炎エネルギーをつけます」
ブースター110/110(エーフィのサンライドヴェールの効果含む)、シャワーズと来ると次は予測できる。それにさっきのシャワーズに雷エネルギーがついていたということが予想をより盤石にする。
「ネンドールのコスモパワーで手札を一枚デッキボトムに戻してデッキから六枚引きます。それではブースターで炎の牙攻撃!」
ブースターがレジギガスLV.Xの元に駆けつけて足に炎を纏った牙で噛みつく。大きさ的に大したことはなさそうに見えるのだがHPバーはしっかりと30削って60/190。
「コイントスをしてオモテだったら炎の牙の効果で相手のバトルポケモンは火傷になります」
ここで下手に火傷になると相手の思うツボ。だが運よくコインはウラを出してくれた。
「それじゃあ私のターン。手札の闘エネルギーをレジロックにつけ、手札からユクシーを場に出してセットアップを発動。今の手札は三枚なので四枚ドロー」
ユクシーもキッサキ神殿の効果を受けHPは90/90。しかしさっきからドローで引いてくるカードがイマイチだ。
「レジギガスLV.Xでギガブラスター!」
あえてここでサクリファイスを使えばそれこそ思い通りになってしまう。ここはレジギガスLV.Xを切る勢いで突っ込んでいってしまおう。
再び破壊力抜群の攻撃がブースターを。手札を。デッキを襲う。あっという間にブースターを気絶に追い込み、相手の手札の時空のゆがみとデッキの一番上にあるグレイシアLV.Xを丸ごとトラッシュだ。しかしまたしても出てくるポケモンはイーブイ。
「サイドを一枚引いてターンエンドよ」
ようやくサイドが私の方が一枚上回った。このままあと二枚、なんとか突っ切れるか。
「私だって、行きます! イーブイに雷エネルギーをつけ、ミズキの検索を発動! 手札を一枚戻してデッキからサンダースを手札に加えます。そしてイーブイをサンダースに進化!」
これでサンダースもHPが110/110。イーブイから進化するポケモンのHPを20上げるサンライトヴェールがやはり厄介だ。
「サンダースで雷の牙!」
さっきと同じような感じのワザだが、威力はブースターのそれに比べて10劣る20。レジギガスLV.Xは40/190とまだ二発は耐えれる。
そしてここでもコイントス。今度は火傷よりも厳しくマヒだ。だが今さらどっちもどっちのような気がしないでもないが。
「オモテです」
レジギガスLV.XのHPバーにマヒと黄色い字で表示される。マヒはワザを使う事も逃げることも出来ない特殊状態だ。そしてサクリファイスも特殊状態だと使えない。そして桃川の顔が少し緩む。
頬が緩むと言う事は余裕が出来たと言う事か? まだHP40をあるが、それをあっさりひっくりかえせるのだろうか。いや、意外と簡単だ。キッサキ神殿をトラッシュしてしまったり達人の帯をはずしたりすればHPは20下がり、次のサンダースの雷の牙でも十分倒せる。
「私のターン、ドロー。マヒで自分から逃げられないのならば、手札からワープポイントを発動するわ。その効果で互いにバトル場とベンチのポケモンを入れ替える!」
桃川はブースターからエーフィへ。私はレジギガスLV.Xからユクシーへ。私の今の場ではレジギガスLV.X以外でエーフィを一撃で砕くポケモンがいないと踏んだからか。
「ユクシーに超エネルギーをつけて、ユクシーをレベルアップさせるわ。そしてユクシーLV.Xのポケパワー、トレードオフを発動するわ」
ユクシーLV.X110/110(キッサキ神殿の効果含め)のトレードオフは自分のデッキのカード上から二枚見て片方手札に加えてもう片方をデッキの底に戻す効果だ。今確認した二枚はプレミアボールとポケドロアー+。わたしが選んだのはプレミアボールだ。
「続いてグッズのプレミアボールを発動。デッキまたはトラッシュからLV.Xのポケモンを手札に一枚加える。私はデッキからエムリットLV.Xを加えるわよ。そしてユクシーLV.Xの超エネルギーをトラッシュしてベンチに逃がし、ベンチのエムリットをバトル場に出してレベルアップ!」
これでシナジー完成! エムリットLV.X110/110(キッサキ神殿の効果含む)が私のレジギガスLV.Xに次ぐもう一枚のキーカード。
「エムリットLV.Xで攻撃。ゴッドォブラスト!」
エムリットLV.XとアグノムLV.X、ユクシーLV.XがZ軸方向に輪を結ぶように集まり、回転し始めるとと三匹の間に紫色のエネルギー球体が集まる。そして回転が目まぐるしく早くなった刹那、エネルギー球体がレーザーとなってエーフィめがけて襲いかかる。
このゴッドブラストはアグノムLV.X、ユクシーLV.Xがいないと使えない上エムリットLV.Xについている全てのエネルギーをトラッシュしないと使えないワザだが威力はポケモンカード最強の200。今のところ200を越えるカードがないので実質一撃必殺だ。しかも追い打ちをかけるようにエーフィの弱点である超タイプを突いているので+20され220ダメージ。HPが100しかないエーフィには十分すぎる。
これでエーフィが気絶したのでサンライトヴェールの効果は失われ、ベンチにいるブラッキーとサンダースのHPはそれぞれ20下がって元通りの50/80と90/90に戻る。桃川は次のポケモンにサンダースを選んだ。だが、
「サイドを一枚引いてターンエンド!」
これで残りサイドは一枚。実質桃川は詰みである。
たとえ雷の牙で連続してマヒを出してエムリットLV.Xを倒したところでその次に控えているレジギガスLV.Xは倒せない。
彼女のブイズデッキは小粒揃いのテクニカルタイプ。こういう状況に持ち込まれるとどうしようもないのは本人が一番分かっているはずだ。
しばらく黙りこんでいた彼女が口を開いた時、やはりね、と思った。
「……参りました」
「どーも。いい勝負だったわ。途中何度か危ないと焦ったわよ」
「いえいえ、私の力不足です。またいつか対戦するときがあれば今度は負けませんよ」
「ええ、望むところよ」
対戦に熱中していたため気付かなかったが隣の山本信幸が戦っていたステージはもう勝負は終了していた。様子を見る限り予想通りというか山本信幸が勝ったようだ。
次の二回戦ではとうとう山本信幸との対戦。それを意識すると嫌な汗が背をつたうのを感じた。
松野「今回のキーカードはレジギガスLV.X。
サクリファイスは相手にサイドを引かせてしまうけども超強力。
そしてなによりギガブラスターは破壊力ばっちしよ!」
レジギガスLV.X HP150 無 (破空)
ポケパワー サクリファイス
自分の番に1回使える。自分のポケモン1匹をきぜつさせる。その後、自分のトラッシュの基本エネルギーを2枚まで選び、このポケモンにつけ、このポケモンのダメージカウンターを8個とる。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
水闘鋼無 ギガブラスター 100
相手の山札のカードを上から1枚トラッシュ。相手の手札から、オモテを見ないでカードを1枚選び、トラッシュ。次の自分の番、自分は「ギガブラスター」を使えない。
─このカードは、バトル場のレジギガスに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 闘×2 抵抗力 − にげる 4
「おれのターン!」
今のおれの場は闘エネルギーと達人の帯をつけたカブトプス50/150。ベンチにはプテラ80/80とヤジロン50/50とこうらの化石50/50に水エネルギー一つのオムナイト80/80。
それに対して如月のバトル場はユクシー70/70。ベンチにいるポケモンは闘エネルギー一つ乗っているグライガー60/60と闘二つのルカリオ90/90、そしてガーディ70/70だ。スタジアムは今ハードマウンテンが発動している。
「手札の闘エネルギーをこうらの化石につけることでロックリアクションが発動される。こうらの化石をカブト(80/80)に進化!」
ロックリアクションは自分の番に手札から闘エネルギーを出してこのこうらの化石につけたとき、自分のデッキからこのポケモンから進化する進化カードを一枚選んでこのカードの上に乗せて進化させる便利なポケボディー。手札にカブトが無くても使える分、デッキ圧縮にもなって良いアドバンテージとなる。
「さらにヤジロン、オムナイトもネンドールとオムスターに進化させる」
これで俺のベンチのポケモンが徐々に戦闘体勢になりつつある。オムスター120/120はカブトプスに次ぐこのデッキのキーカードだ。そしてネンドール80/80は強力なドローソース!
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動。手札を二枚戻してデッキから六枚になるように、つまり六枚ドロー!」
デッキポケットに表記されている残りのデッキ枚数を確認すると残り二十八枚。デッキ切れには気をつけたいものだ。
「プテラのポケパワーの発掘を発動。デッキから化石カードを一枚手札に加える。おれが加えるのはひみつのコハクだ。更に化石発掘員を使用してトラッシュのひみつのコハクを手札に加える」
化石発掘員はデッキかトラッシュにある化石と名のつくトレーナーか、化石から進化するポケモンを一枚選んで手札に加えるサポーターだ。化石をトラッシュしながら攻めるカブトプスとは相性がいい。
「そして手札のひみつのコハクをトラッシュしてカブトプスで攻撃。原始のカマ!」
カブトプスの鋭い両腕のカマがユクシーを切り裂く。このワザの元の威力は20だが、手札の化石カードをトラッシュすることで威力を50上げる。更に達人の帯の効果を含めて20+50+20の合計90ダメージ。HPが70しかないユクシーは即気絶だ。
「やるわね。わたしはルカリオをバトル場に出すわ」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
「わたしのターン! ルカリオに闘エネルギーをつけて、ベンチのグライガーをグライオン(80/80)に進化。そして新たにグライガー(60/60)をベンチに出すわよっ」
ここまで激しい手札消費をしたのにまだ七枚も残っている。手札にはまだグライオンLV.Xがいるのは分かっているが、いったい何が来るか。
「へへーん。ルカリオもレベルアップさせるわ! そして見極めを発動!」
見極めはルカリオLV.X110/110がレベルアップした時に使えるポケパワー。このカードを手札から出してレベルアップさせたときのみ一度使えて次の相手の番に相手のワザのダメージや効果を受け付けなくするものだ。さっきの逃げたグライオンLV.Xといい小癪な真似をする。
「ルカリオLV.Xでインファイト!」
ルカリオLV.Xは軽い身のこなしでカブトプスに近づき、手や足、体全体を使ってカブトプスに激しい物理攻撃の連打を見舞いする。80ダメージを受けてカブトプスはそのまま気絶する。おれの次のポケモンは……オムスターだな。
「インファイトを使った次のターン、このルカリオLV.Xが受けるダメージは+30されるけどもまあどうせダメージ受けないしいいわ。達人の帯の効果でサイドを二枚引いてターンエンドよ」
「おれのターン! ダメージを受けないのはそのルカリオLV.Xだけ。だったらワープポイントを使えばそれでいい!」
開いたサイドの差は力で押し縮める! ワープポイントは互いのバトルポケモンをそれぞれのベンチポケモンと入れ替えるもの。これでルカリオLV.Xの見極めの効果は無視してターンを行える。
おれはオムスターとカブトを入れ替え、如月はルカリオLV.Xとグライオンを入れ替えてきた。
なるほど分かりやすい。カブトプスでいくら攻撃してもこのターンで出せる火力は(達人の帯を考慮しなければ)70であってグライオンの80/80を削ることはできない。そして次のターンにバーニングポイズンで逃げるということか。
「おれはバクのトレーニングを発動。デッキからカードを二枚ドローする。そしてカブトに闘エネルギーをつけてカブトプス(130/130)に進化させる。プテラの発掘を使ってデッキからかいの化石を手札に加える!」
御膳立ては整った。
「手札のかいの化石をトラッシュしてカブトプスで攻撃。原始のカマ!」
「残念だけど、いくら手札の化石カードをトラッシュして原始のカマの威力を50上げたところで70ダメージ。グライオンのHPはギリギリ10残るわよ」
「バクのトレーニングがバトル場の隣にあるとき、このターン自分のポケモンが相手のバトルポケモンに与えるダメージは+10される」
「嘘っ!?」
カブトプスの鋭い一撃がグライオンを仕留める。これでグライオンLV.Xのループは一旦止まった。如月は再びルカリオLV.Xをバトル場に繰り出す。
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
しかしこれでもサイド差は一枚不利。こうなれば相手の戦えるポケモンを封じ込めてひたすら攻めきるしかないか……。
ん? 如月が拳を作ってうつむいている。どうやら体も少し震えているようだ。
「絶対こんなやつに負けたくない……。わたしなんて頑張って頑張って可愛く見てもらえるように必死になってるのに、あんたより絶対私の方が可愛いのに! たまたま大会で戦ってその後偶然遭ったからってだけで大した苦労もしないで、それなのにわたしよりも翔様の近くにいるなんて許せない!」
「……」
急に飛び出た本音に気圧されてしまう。しかしなんでおれと翔が再会したことまで知ってんだ。
「わたしはあんたのような男みたいなやつには絶対負けたくない! あんたなんて翔様とは不釣り合いよ!」
流石にこの言葉には衝撃を、というかショックのようなものを受けた。
確かに言う通りかもしれない。自分なんかじゃ確かに不釣り合いかもしれない……。
「行くわよ! わたしのターン! 手札からミズキの検索を発動。このカードの効果によって手札を一枚デッキに戻し、デッキから好きなポケモンを選択して手札に加えることができるわ。わたしはウインディを手札に加えてベンチのガーディに進化させる! そしてウインディに炎エネルギーをつけるわ」
ウインディ100/100にはフレアコンディションというポケボディーがある。このポケボディーは炎エネルギーがこのウインディについているなら、ウインディの弱点は無くなるというものだ。
「更にベンチにロコンを出すわよ」
ベンチにロコン60/60が現れると、一気に如月の場の炎ポケモンの比率が上がる。グライオンLV.Xによるヒットアンドアウェイが通じないとわかったからの戦法転換か。
「40、80。ちょっと足りないわね。ルカリオLV.Xでインファイト!」
如月のさっきまでの可愛らしげな様子から一変して、猛る獣のような雰囲気を受けれる。つまり、勝ちたいのだ。
この大会に優勝したいのではなく、この試合に。
ルカリオLV.Xは命じられた通り一瞬で間合いを詰めて拳や蹴を含めた多連段攻撃をカブトプスにぶつける。80ダメージの威力を受けたカブトプスのHPは50/130。次のインファイトは喰らうとおしまいだ。
「ターンエンドよ」
「……」
気持ちは揺らいでいた。確かに翔は好きだ。だからこそ幸せになって欲しい。おれが勝ったところで本当に翔は喜ぶのだろうか。
「なーに弱気になってんのよ! それでもあんたはわたしのライバルなの?」
「ライバル……」
「ライバルよライバル。あんたとわたしはライバルよ。もしかしてわたしがさっき言ったこと気にしてるの?」
「……うん」
そういえば如月は年下だったなと今さら関係ないことを思い出す。
「これからがあるじゃない! あんたがそのことで気にかけるならこれからなんとかしていけばいいの。可愛くなりたいとかそんなこと思えれば今はそれでいいじゃない。もちろん、わたしに勝ってからだけどね」
背丈も差があるはずなのに、年上に説教された気になった。が、嫌だとはまったく思わなかった。むしろこんな自分にここまで声をかけてくれただけでもうれしい。そう、これからだよね。
『薫、もし父さんが何かあったら俺のでっかい化石を掘る夢を頼むな』
小さい頃から父さんがよく言っていたことだった。そんな憧れの父の背を見て成長していた自分は小学校のころから今のような感じでオトコオンナと言われることもあったが別段気にはしていなかった。父の夢を追おうとするのに一生懸命だったからそんなことは別段どうでもよかった。
しかし、そんな父とは対照的に母はこう言った。
『薫は自分がやりたいと思ったことをやりなさい。お父さんの言う事は……、まあそんなに心に受けないで自分で決めなさい?』
今分かった。自分がやりたいことが。
「お、お……」
「お?」
「わ、あ、あたしのターン!」
不安ながらも如月を見ると、そこには僅かながらも笑顔のようなものが見受けられた。
「あ、あたしはオムスターに水エネルギーをつけて、プテラの発掘でデッキからこうらの化石を加える……わ」
インファイトを使ったルカリオLV.Xは、その反動としてこのターンに受けるダメージが+30されるデメリットを抱えている。そこをうまく突きたいのだが、これもまたさっきのグライオンと同じ。
「いくらインファイトで弱ってるからって、原始のカマしても10余るわよ? 流石にさっきと同じ展開にそうそう上手く行くわけないわよね」
「サポーター、化石発掘員を発動。このカードの効果によってデッキまたはトラッシュから化石カードまたは化石カードから進化するポケモンを手札に加えれる。あ……あたしが加えるのはトラッシュにあるカブトプス!」
残念ながら如月の思惑通りになるもバクのトレーニングは手札にない。そして達人の帯も。自分のデッキの中で打点を強化するこの二枚が手元にない。だったらとりあえずダメージを与えることが先決。
「手札のひみつのコハクをトラッシュして原始のカマ!」
元の威力20にひみつのコハクをトラッシュして+50。更にインファイントの効果でダメージは+30加わり100ダメージ。インファイトの反動で片膝を立てているルカリオLV.Xはカブトプスの攻撃を受けて倒れこむ。うんしょと体全体を使って立ち上がるもののHPは10/110。
ここまでいけばダメージを少しでも与えれたなら倒せる! まだ如月のベンチは戦える準備が不完全だったのでこのターンのうちに仕留めておきたかったがそこまではいかなかったようだ。
「さあ、わたしのターン! 手札のサポーター、ライバルを使うわ。デッキの上から五枚をめくって相手に見せ、相手はその中から三枚選ぶ。その選んだカードがわたしの手札に加えられる!」
「ライバル……」
「良い響きよね? さあ、選んで頂戴」
相手のバトルテーブルの情報がこちらのバトルテーブルに転送される。タッチパネル形式でモニタを確認する。如月のデッキは上からハードマウンテン、キュウコン、炎エネルギー、闘エネルギー、バトルサーチャー。
キュウコンは相手のアドバンテージになるから余り手札に加えさせたくない。そしてエネルギーも同じく。だがどちらかを選ばざるを得ない。
「じゃあ闘エネルギー、ハードマウンテン、バトルサーチャーを」
「それじゃあ早速グッズカードのバトルサーチャーを発動するわ。トラッシュのサポーターを手札に一枚加える。わたしはミズキの検索を手札に戻すわ。早速もらったばかりの闘エネルギーをウインディにつけて、ベンチのロコンをキュウコンに進化させるね」
手札にもキュウコンがいたのか! それじゃあさっきわざわざキュウコンを避けて三枚選んだ意味はない。むしろエネルギーを与えてしまっただけだったようだ。
キュウコン80/80は色化けという変わったポケパワーがある。相手のポケモン一匹と同じタイプになるというものだが、それがどう絡んでくるか。
「ルカリオLV.Xのインファイト!」
ルカリオLV.Xの他のワザでは威力が最大40まで。こちらもインファイトでしか倒せない歯がゆい状況だ。なぜ歯がゆいかというと、ルカリオLV.Xの他のワザはエネルギーが二つ以下。どうせ次のターンにルカリオLV.Xは気絶させられてしまうだろうから、その前にハードマウンテンの効果で今着いているエネルギーをベンチのウインディなどにつけかえた方が間違いなく勝手がいい。
しかしエネルギー三つを要するインファイトを使わなければカブトプスを倒すことができないというわけだ。
二撃目のインファイトを食らったカブトプスはもう立ち上がることができない。ベンチには次のカブトプスがまだいないのでここはオムスターで勝負だ。
「サイドを一枚引いてターンエンド。さあこっからが勝負よ!」
石川「今回のキーカードはルカリオLV.X。
見極めはレベルアップしたターンしか使えないけど、
相手のワザのダメージでなく効果もかわす強力なポケパワー!」
ルカリオLV.X HP110 闘 (DP2)
ポケパワー みきわめ
自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。次の相手の番、このポケモンはワザによるダメージや効果を受けない。(このポケモンがバトル場を離れたなら、この効果は無くなる。)
闘闘無 インファイト 80
次の相手の番、自分が受けるワザによるダメージは「+30」される。
─このカードは、バトル場のルカリオに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 超×2 抵抗力 − にげる 1
奥村翔くんが不戦勝で勝ち上がり、他の二試合が試合を始めた最中こちらも戦いが始まろうとしていた。
これは勝たなければいけない試合。既に光が閉ざされつつあるポケモンカードの命運を分かつ事件。能力者……。忌々しいことこの上ない。
当然、理論も分からない。能力とは一体なんなのか? なぜポケモンカードに破れると能力が失われるのか?
初めて能力が見つかった日からほぼ半年。この疑問だけは常に胸の中にあった。
とにかくここで勝てば、二回戦に能力者の一人である山本信幸と対戦することになる。今現在分かっている能力者で一番危険な力を持つ男だ。他の人をこれ以上犠牲にさせないため、この一回戦はしっかり勝たないと。
一回戦の相手は桃川 めぐみ(ももかわ めぐみ)。過去の大会やイベントでも何度か見たことがある。いつも着ている服がメイド服という変わった人なので目立ちやすい。
直接対戦したことはないが、いつもそれなりの成績を残しているため実力はあるのだろう。そして現に決勝トーナメントまで勝ち抜いている。油断はもちろん、勝ち急ぎもしないようにしなくては。
「お願いします」
先攻は桃川めぐみ。最初のバトルポケモンはイーブイ60/60のみ。私のバトルポケモンはレジギガス100/100、ベンチにはレジスチル90/90。
相手のポケモンが小型でこちらが大型なだけに、威圧感が凄いことになっている。
「私の番です。イーブイに悪エネルギーをつけてワザを使います。仲間を呼ぶ」
イーブイが可愛らしく鳴き声をあげると、どこからかベンチに他のイーブイ60/60が三匹現れる。
仲間を呼ぶは、自分のデッキのイーブイを好きなだけベンチに出せるワザ。あっという間に展開してきたのは流石だと言うべきだろう。
「私のターン。手札の水エネルギーをレジギガスにつけてサポーター、ハマナのリサーチを発動。その効果でデッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚まで加えるわ。私はレジアイス、レジロックを手札に加えてそれぞれベンチに出すわよ」
ベンチにレジアイス90/90とレジロック90/90が現れると、レジギガスの体にある橙、青、鈍色の点が光を放つ。
「レジギガスは、ポケボディーのレジフォームの効果で場にレジロック、レジアイス、レジスチルの三匹がいるときワザエネルギーが無色一個ぶんだけ減少するわ。さあ、レジギガスの攻撃よ。メガトンパンチ!」
大きな拳がゆっくりとした動作で、だがしかし威力は十分なそれが小さなイーブイを殴りつける。まるで投げられたかのように放物線を描いてイーブイが飛んでいく。メガトンパンチは追加効果なしの30ダメージのワザ。後攻一ターン目で30はなかなか価値を持つ。
「さあ、貴女のターンよ」
「行きます! 私はバトル場のイーブイをブラッキーに。そしてベンチのイーブイをグレイシア、エーフィに進化させます! そしてベンチにヤジロンを」
彼女の場があっという間にがらりと変わる。バトル場はブラッキー50/80、ベンチはエーフィ80/80にグレイシア80/80とイーブイ60/60、ヤジロン50/50。しかも、それだけではない。
「サンライドヴェールね……」
「そうです。エーフィのポケボディー、サンライドヴェールはイーブイから進化するポケモンのHPを20ずつアップさせるもの。そしてブラッキーのムーンライトヴェールはイーブイから進化するポケモンの弱点と逃げるエネルギーを0にさせます」
正確にはブラッキーのHPは70/100、そしてエーフィとグレイシアは100/100だ。どれも一撃で倒すのは難しいHP。
「ブラッキーを逃がし、グレイシアをバトル場に出してグレイシアに水エネルギーをつけます。そして攻撃、雪隠れ!」
グレイシアを中心に強い雪風が舞い起こり、雪に襲われたレジギガスのHPが70/100まで下がる。このワザで厄介なのは水エネルギー一個だけで30ダメージを与えれる威力ではなく、その効果。
「雪隠れの効果でコイントスをします。……オモテ! よって次のターンにこのグレイシアは相手のワザのダメージや効果を受けません。ターンエンド」
「そうねえ。私のターン。雪隠れによってワザを受け付けないのはそのグレイシアだけならば除けてしまえばいいだけよ。行くわよ、手札のポケブロアー+を二枚発動。このカードは二枚同時に使用したとき相手のバトルポケモンとベンチポケモン一匹と強制的に入れ替える! イーブイを場に出してもらうわ。更にスージーの抽選を使うわよ」
スージーの抽選は手札を一枚または二枚捨ててデッキからカードをドローするサポーターだ。手札のバトルサーチャーと闘エネルギーの二枚をトラッシュして四枚ドローする。
「レジギガスに闘エネルギーをつけ、ベンチにユクシーを出すわ。そしてユクシー(70/70)をベンチに出した時にポケパワーのセットアップを発動。デッキからカードを四枚引くわよ」
セットアップはベンチに出した時のみに使えるポケパワーであり、手札が七枚になるようドロー出来るモノだ。今の手札は三枚なので四枚引けるという訳。
「さて、行くわよ。メガトンパンチ!」
再びレジギガスの激しいパンチがイーブイを襲う。これでHPは30/60。イーブイは当然イーブイから進化したポケモンではないのでブラッキーやエーフィのポケボディーの恩恵を受けることができない。次のターン、イーブイはエネルギーを一つつけないと逃げることはもちろんできない。
「私の番ですね。ミズキの検索を発動して手札を一枚戻し、デッキからネンドール(80/80)を加えてヤジロンを進化させます。そしてネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動!」
コスモパワーはポケモンカードの中でユクシーのセットアップに並ぶトップクラスのドローエンジン。手札を一枚か二枚デッキの底に戻してデッキから六枚になるようにドローするそれは、手札の不要なカードを処理しつつドローできるという超強力なものだ。実際に桃川は二枚戻して手札は0枚、そして六枚ドローした。
「私はバトル場のイーブイをグレイシアに進化させます」
グレイシアのHPはエーフィのサンライドヴェールの効果を含めて70/100。これで彼女の場は全て進化ポケモンで埋まった。たねポケモンは一匹もいない。
「そしてバトル場とベンチのグレイシアを入れ替え、新たにバトル場に出たグレイシアに水エネルギーをつけて攻撃します。雪隠れ!」
コイントスは再びオモテ。また攻撃が通用しなくなる。レジギガスのHPは40/100とやや余裕がなくなりつつある上、攻撃への道筋が塞がってしまいる。
「私のターン。ここは凌ぐしかないわね、手札からスタジアムカード、キッサキ神殿を発動!」
周囲が一気に雪景色に変わり、私の背後にゲームと同じように大きなキッサキ神殿が構える。
「キッサキ神殿がある限り、互いの進化していないポケモンの最大HPは20ずつ上がる。よって、レジギガスは60/120、ベンチのレジスチル、レジアイス、レジロックは110/110、ユクシーは90/90になるわ」
進化ポケモンしかいない彼女の場を逆手に取ったカードだ。
「手札のカードを二枚トラッシュしてレジロックのレジサイクルを発動。このポケパワーは自分のトラッシュに闘エネルギーがあるときに使え、手札を二枚トラッシュすることでその闘エネルギーをこのポケモンにつけることができるようになるわ」
「闘エネルギーなんていつ……?」
「前のターン、スージーの抽選を発動したときのコストであらかじめ送っていたのよ」
手札の鋼エネルギーと水エネルギーをトラッシュすると、ベンチにいるレジロックの点字が全て橙色に光りだして足元から闘のシンボルマークが出現。それはレジロックの体に直接吸収される。
「そしてバトル場のレジギガスをレベルアップさせるわ」
レジギガスLV.Xが大きく雄たけびを上げる。元からの巨大さもあってかなりの迫力だ。HPもレベルアップ前から50も上がり、110/170との大台に到達。進化しないポケモンでもLV.Xとはいえこんな高いHPになるのは滅多である。
「ここからよ。レジギガスLV.Xのポケパワーを発動。サクリファイス!」
相手のグレイシアを睨んでいたレジギガスが振り返り、私のベンチポケモン達を睨む。そして大きな足音を立てながらベンチポケモン、レジスチルの元に近づいて行く。すると自分の背の半分ほどあるレジスチルを大きな右手で掴むとそのまま持ち上げ、握り潰してしまう。
「サクリファイスは自分の番に一回使え、自分のポケモンを一匹気絶させる! もちろん貴女はサイドを一枚引いていいわよ」
「自ら気絶させるなんて……」
この勝負で先にサイドを引いたのは桃川。しかしサクリファイスはただ気絶させて相手にサイドを引かすだけではない。
「そしてレジギガスLV.Xにトラッシュの基本エネルギーを二枚つけてダメージカウンターを八個取り除く! トラッシュにはさっきのレジサイクルでトラッシュしておいた鋼と水エネルギーが。それをつけるわ。そしてレジスチルが場を離れたことでポケボディーのレジフォームは効果を失う」
一気にレジギガスLV.XのHPがMAXの170/170。このタフさを削り取れるカードはそうそうない。
「ただ、雪隠れの効果でレジギガスLV.Xは攻撃しても意味がないわね。ターンエンド」
「私の番です。バトル場のグレイシアをレベルアップさせて水エネルギーをつけます!」
グレイシアもレベルアップしてHPを120/120にのばしてきた。
「これであなたのポケパワーを封じれますね」
そう。グレイシアのポケボディー、凍てつく吹雪はグレイシアLV.Xがバトル場にいる限り相手のポケモン全員のポケパワーを封じるものだ。ポケパワーを主体としているこちらを妨げる絶好のポケボディー。
「そしてグレイシアで攻撃、雪雪崩! ワザの効果でコイントスをします。……オモテ!」
雪雪崩は70ダメージに加えてコイントスをしてオモテならベンチポケモン全員に20ダメージを与えるワザだ。
グレイシアの背後からポケモンバトルレボリューションの波乗りのような感じで多量の雪がこちらの陣営めがけて襲ってくる。しかし目の前で大きな雪の波が襲ってくるのを見ると結構迫力がある。思わず右腕で顔をカバーする。
「きゃっ」
雪崩の波がこちらのポケモンを飲み込もうと、ずしんと重い音が響くと凄い風が吹きすさぶ。バトルベルトは実際の衝撃はないが、それっぽさを出すためワザのエフェクトに被せて風を噴き出す仕組みがある。
これでレジギガスLV.X100/170、レジアイス、レジロックは90/110、ユクシーは70/90。合計130ダメージだ。
「それじゃあ今度は私のターンね。手札の鋼エネルギーをレジロックにつけてさらにレジギガスLV.Xに達人の帯をつけるわ」
他の選手も使ってるから効果はお馴染みだがもう一度説明しておく。達人の帯はつけたポケモンのHPを20上げ、ワザの威力も20上げるポケモンの道具。しかしデメリットとして達人の帯をつけたポケモンが気絶した場合は相手はサイドを一枚多く引くのだ。ただでさえとてもつもなく高いHPを誇るレジギガスLV.Xが、120/190へ。これでちょっとやそっとじゃびくともしない。
「雪隠れの効果が切れた今、精一杯攻撃出来るわ。ギガブラスター!」
レジギガスLV.Xが右手を後ろに下げると、右手の手のひらいっぱいにオレンジ色のエネルギー球体が現れる。レジギガスLV.Xは思いっきり右手を前に突きだすと、グレイシアLV.Xを包み込むほどのとても太いレーザー光線が発射された。地面を跳ね返ったレーザーの一部が相手の手札とデッキポケットをも射る。
「ギガブラスターの効果で、あなたのデッキの一番上と手札を一枚トラッシュしてもらうわ」
手札からは夜のメンテナンス、デッキからはクロツグの貢献がトラッシュに送られた。
そしてギガブラスターは元の威力が100、達人の帯で20足されて与えるダメージは120。レーザーによる猛攻を受けて吹っ飛ばされたグレイシアLV.XのHPはあっという間に0。
このワザはかなりの大技であるため次のターンにギガブラスターを撃つことができない。レーザーを打ち切ったレジギガスLV.Xは右膝を地につけて片膝座りになっている。
「これでポケパワー封じもおしまいね。サイドを一枚引いてターンエンドよ」
新たにバトル場に出てきたグレイシア70/100程度じゃこのレジギガスLV.Xの勢いは止められない。さあ、一気に行くわよ!
松野「今日のキーカードはグレイシアLV.X
そのポケボディー、凍てつく吹雪は
ポケパワー中心に組み立てているデッキを凍らすモノね」
グレイシアLV.X HP100 水 (DP4)
ポケボディー いてつくふぶき
このポケモンがバトル場にいるかぎり、相手のポケモン全員は、ポケパワーを使えない。
水水無 ゆきなだれ 70
コインを1回投げオモテなら、相手のベンチポケモン全員にも、それぞれ20ダメージ。
─このカードは、バトル場のグレイシアに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 鋼+30 抵抗力 ─ にげる 1
「ドサイドンLV.Xで一気にヤバくなったけどなんとか捲き返したぜ!」
「よくやった」
「よくやったってお前一回戦で負けただろ!」
「それとこれとは別の話だろ!」
「恭介も蜂谷も折角のおめでたムードが台無しだろ」
俺が間に割って二人のじゃれ合いを止める。割と似た者同士な二人なのでこんなのは喧嘩になんか入らない。
「今から俺の出番だから二人仲良く応援してるんだな」
「絶対応援しない」
「翔応援するなら薫ちゃん応援する」
「それがいい」
「なんでそんなときに限って息合うんだ」
一回戦の最終試合は、俺と石川と松野さんの三人が出場する。この三人はそれぞれ別の人と当たるので、順当に行けば二回戦で俺と石川が当たる。
そしてその二回戦のもう一試合には松野さんと能力者の一人である山本信幸が。拓哉(裏)をあっさりと倒してしまう実力の持ち主なので負けるなんてことはないだろうが。
「翔、ボサッとしてないで早く行ってこい」
風見が俺の背中を突きだす。なんだなんだ、今日はやけに皆冷たいな。三人を少し睨んで所定位置へと足を運ぶ。
「よろしくお願いします」
俺の左のフィールドでは石川が。そして俺の向かいでは松野さんが、それぞれ勝負を始めた。……が、俺の対戦相手が一向に出て来ない。
すると困惑した表情のスタッフがこちらへ駆けて来て、対戦相手が見つからないと伝えてくる。
「それってもしかして」
「不戦勝になります」
「……、はあ」
折角の気持ちや意気込みも、塩をかけられてどんどんすぼまっていく。仕方ないので他の二人の応援をすることにしておこう。
「お昼に翔様とご飯食べてるヤツと戦えるなんて運がいいわ、ケチョンケチョンにしてやる!」
「は……?」
いきなり突っ込みどころが満載だ。翔様? なんだこいつ。
自分よりも二十センチは低い身長で当然小柄な少女だ。顔立ちも押さなく、黒く長い髪をピンクのリボンでツインテールにしている。年齢は一つ下のようだ。
「いいこと、この勝負でわたしが勝ったらわたしの翔様に近づかないで」
「い、いきなりなんだよ」
「だーかーらー! わたしが勝ったら石川薫、あんたは翔様に近づかないで! って言ってるのよ」
「なんでそうしなきゃいけないんだ」
「あんたみたいな男みたいなやつを、翔様が好きになるわけないでしょ! だからお邪魔虫はこうやって力づくで排除するの」
「……」
「言ってること分かる?」
「それじゃあもしこっちが勝てばお前は翔に近づかないってことだな」
「っ……、言うわね。ということは条件を飲んだってことでいいかしら」
「ああ」
なんでこんなわけのわからない勝負を引き受けたのだろう。自分でもよくわからないが、少なくともいろいろ馬鹿にされたのが悔しかった。
「そんなことを言ってるんだからもちろん実力はあるんだろうな」
「もちろんよ、さあ勝負! わたしのターンから」
おれのバトル場はラプラス80/80、相手の如月 麻友(きさらぎ まゆ)のバトル場にはグライガー60/60。互いにベンチはガラ空きだ。
「わたしは闘エネルギーをグライガーにつけ、ガーディをベンチに出すわ」
如月の場に新たな小柄ポケモンが現れる。しかし、そのガーディはHP70/70。進化するたねポケモンにしては割と高めのHP。
「グライガーでラプラスに攻撃。え〜い、ライトポイズン!」
一つ一つが可愛らしい挙動で、カードの配置の仕方も、ワザの指示も、そしてライトポイズンのエフェクトで行うコイントスを行っていく。なんだか浮ついた気持ちになっていて真剣になれないような気がする。
「表ね。ライトポイズンはコイントスが表じゃないとワザが発動しないからよかったわ。それじゃあ今度こそ攻撃よ!」
グライガーは尻尾をバネにしてラプラスへと飛びかかり、そのまま尻尾をチクリとラプラスに突き刺す。HPバーが僅かに10だけ減り、数値の隣に毒のマークがついたところでラプラスから飛び離れる。
「10ダメージと毒ダメージよ。逃げるエネルギーが多くて進化しないラプラスにとっては痛手よね? わたしのターンエンドと同時にポケモンチェック。毒のラプラスは10ダメージ受けてもらうわ」
これであっという間に60/80。グライガーと並んでしまった。
「行くぞ、おれのターン。手札からグッズカード、ひみつのコハク、こうらの化石を使ってそれぞれをベンチに置く。この二枚は手札やデッキにあるときはトレーナーだが、無色タイプのたねポケモンとして場に出すことができる」
ラプラスの後ろに石ころとほぼ同然な化石が二つ現れる。各々HPは50/50。
「化石ね」
「水エネルギーをラプラスにつけ、ラプラスの運びこむ。デッキからポケモンのどうぐ、サポーター、基本エネルギーを手札に加える。おれは達人の帯、化石発掘員、闘エネルギーを加えてターンエンド」
そしてポケモンチェック。毒のダメージを受けたラプラスのHPは50/80と落ち込む。相手のグライガーに劣ってしまう結果になったが、まだまだ。そんなすぐにやられはしないはず。
「わたしのターン。手札から闘エネルギーをグライガーにつけて、グライオンに進化させる!」
グライガーの体が一回りも大きくなり、グライオンが姿を見せる。しかしHPは80/80。決して高いとは言えない数値だ。
「そしてぇ、ベンチに新しいグライガーを出すわ。そしてサポーター、ハマナのリサーチを発動。デッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚まで手札に加えれる効果によって、リオルとユクシーを手札に加える。わたしはリオルをベンチに出してユクシーもベンチに出すわ。このときユクシーのポケパワーのセットアップを発動。手札が七枚になるようにデッキからカードを引くわ」
このターンであれよあれよと如月のベンチが埋まる。先のターンに出たガーディに加え、グライガー60/60、リオル60/60、ユクシー70/70で空きスペースはもう一枠しかない。しかも減った手札をユクシーのセットアップで補充。今の如月の手札は一枚なので六枚も引くことになる。
「グライオン、ラプラスをやっちゃいなさい! 追撃!」
びしっ、と如月がラプラスに向けて指をさすと、それに合わせるかのようにグライオンがラプラスにキバを使って噛みついてくる。そして、重たいハサミの一撃もラプラスに加わる。
「追撃は相手が状態異常だと、威力が40も上がるの。元の威力は40だから、80ダメージ。イチコロよ」
舌をちょろっと出して笑う如月。しかしこっちは一切笑えない。思っていたよりも強い。
「くっ……。おれはこうらの化石をバトル場に出す」
「そんな石ころで何が出来るのかしら。サイドを一枚引いてターンエンドよ」
「おれのターン! 手札の闘エネルギーをこうらの化石につける。この瞬間でこうらの化石のポケボディー、ロックリアクションが誘発!」
「化石なのにポケボディー……」
「ロックリアクションはこのカードに闘エネルギーをつけたときに発動され、デッキからカブトを一枚選んでこうらの化石の上に重ね、進化させる!」
化石の内側から光が発せられ、表面の砂や石がはがれて中からカブト80/80が現れる。余談だが、カブトは化石から進化しているので扱いはたねポケモンではなく一進化ポケモンである。
「ヤジロン(50/50)をベンチに出し、サポーターの化石発掘員を発動。デッキから化石またはそれから進化するカードを一枚手札に加える。おれはプテラを手札に! そしてひみつのコハクの上に重ねて進化させる」
コハクも先ほどと同じエフェクトがかかって中からプテラが現れる。ようやく自陣に現れた大きめのポケモンは、登場するや否やけたたましい雄たけびを上げる。
「プテラのポケパワーを発動。発掘! デッキからかいの化石、こうらの化石、ひみつのコハクのうち一枚を手札に加える。おれはかいの化石を選択」
プテラが空中から地面に向かって急降下し、立派な足でガッチリとかいの化石をつかみ取る。
「そして加えたばかりのかいの化石をベンチに出し、カブトに達人の帯をつける」
また新たな化石50/50がベンチに現れる。如月のように四匹までとはいかないが、こちらもベンチに三匹揃える。そしてカブトに達人の帯をつけたことで、HPとワザの威力が20ずつ上昇して100/100。しかしこのカブトが気絶したとき、相手は二枚サイドを引ける。
「カブトのワザ、進化促成を発動。デッキから進化ポケモン二匹を手札に加える。おれはカブトプスとオムスターを加えてターンエンド」
「わたしのターン、リオルに闘エネルギーをつけてグッズカードのプレミアムボールを発動よ! デッキからグライオンLV.Xを手札に加えるわ」
プレミアムボールはデッキまたはトラッシュからLV.Xをサーチするカード。サーチ手段が限られているLV.Xの数少ないそれである。
「そしてグライオンをレベルアップさせ、その時にグライオンLV.Xのポケパワーを発動させるわよ。スピットポイズンッ!」
グライオンLV.X110/110がレベルアップするや否やカブトに噛みついてくる。ダメージはないものの、カブトは毒とマヒの二つの状態異常を負ってしまう。
「スピットポイズンはレベルアップしたときのみ使えるポケパワーで、相手のバトルポケモンを毒とマヒにさせるのよ。これであんたは思うどおりに動けない!」
マヒになっているポケモンは、ワザを使う事も逃げることも出来ない。その上毒でHPを奪われていく。本当に思い通りにはできない。
「そしてグライオンLV.Xで攻撃よ。追撃!」
あっという間にHPが20/100へ。しかも、ポケモンチェックで毒のダメージを受けて更に10ダメージ。これで残り10!
「さああんたのターンよ。もっとも逃げることもワザも出来ないから何もできずにターンを終えて、毒のダメージでカブトは気絶ね」
「おれのターン。おれがカブトプスを手札にしていたことを忘れていたか? カブトをカブトプスに進化させることによって、状態異常は全て回復する!」
カブトプス60/150に進化することによって状態異常はこれで回復、毒はもちろん麻痺に悩むこともない。
「そしてプテラのポケパワー、発掘によってデッキからひみつのコハクを手札に加え、ベンチにこうらの化石50/50を出してかいの化石に水エネルギーをつけることによってポケボディーのアクアリアクションが発動する」
これもこうらの化石と同様に、水エネルギーをつけることでデッキからオムナイト80/80を一枚選び出してかいの化石に重ね進化させる。
「カブトプスで攻撃、原始のカマ! 手札のひみつのコハクをトラッシュして攻撃」
原始のカマの威力は20だが、手札のかいまたはこうらの化石、ひみつのコハクを手札からトラッシュすると50足される闘エネルギー一つで使える大技であり、達人の帯の効果で更に20追加。合計90ダメージとなる。
カブトプスが乱暴に切りつけたカマの一撃によってグライオンLV.XのHPは20/110。次のターンは手札の化石類をトラッシュしなくても倒せる!
「今の攻撃で倒せなかったのが運のツキねぇ。わたしのターン。リオルに闘エネルギーをつけてルカリオ(90/90)に進化させるわよ!」
運のツキ……? その意味がイマイチ分からない。
「スタジアム、ハードマウンテンを使用するわ。このカードの効果は自分のターンに一度、自分のポケモンの炎または闘エネルギーを一個選んで自分の炎または闘ポケモンにつけかえる効果。グライオンLV.Xの闘エネルギーをベンチのグライガーに移すわ」
っ!? グライオンLV.Xは闘エネルギー二つで相手に60ダメージを与えるワザ、辻斬りを持っているのだがそれで攻撃すればカブトプス60/150を気絶させることが出来る。
しかもカブトプスは達人の帯をつけているのだから如月はサイドを二枚引け、これでサイドの差が三枚とかなりのアドバンテージを稼げるはず。行動の意図が分からない。
「グライオンLV.X、やっちゃって! バーニングポイズン!」
グライオンLV.Xはカブトプスに噛みつく。ダメージはないが、カブトプスは毒になっていた。
「バーニングポイズンは相手を毒か火傷のどちらかにするワザ。わたしは毒を選択したわ。そしてこのワザの発動後、任意でグライオンLV.X自身とそれについているすべてのカードを手札に戻す。それで新たにユクシーを出すわよ」
ポケモンチェックで毒のダメージを受け、カブトプスのHPは50/150。一撃食らうと倒れかけないギリギリのボーダーへ。
しかし一見残りHPが減っているグライオンLV.Xを手札に戻すのは良い手に見える。何せレベルアップしたときに使えるポケパワーもあるのだ。だがそれが悪手だということを教えてやる……!
石川「今回のキーカードはグライオンLV.X。
相手を毒とマヒにするポケパワーは強烈!
ワザも使い勝手がいいぞ」
グライオンLV.X HP110 闘 (DP5)
ポケパワー スピットポイズン
自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。相手のバトルポケモン1匹をどくとマヒにする。
闘無 つじぎり 60
のぞむなら、自分を自分のベンチポケモンと入れ替えてよい。
─このカードは、バトル場のグライオンに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 水×2 抵抗力 闘−20 にげる 0
エレナさんのホテルの一室を出て、午後九時過ぎのカイナの街をユナと共に並んで歩く。
あの後晩御飯をご馳走してもらったり、コンテストの話をしてもらったり、砂だらけになったおれの服を袋に入れてもらったり、さっきの着替えをそのまま頂いたりと至れり尽くせりなエレナさんの優しさには頭が上がらない。いつかまた会おうね、とまで言ってもらった。
しかもエレナさんはおれ達の質問やコンテストの成功談や失敗談を包み隠さずに教えてくれたが、やはり気掛かりが残る。
「八年かぁ……」
「気にしすぎじゃない?」
「気にするよそりゃ」
「どうしてよ」
「そんなにかかるなんて思って無かったから」
「何事も為すには時間がかかるのは普通じゃない?」
「他人事みたいに言わない。まあ、でもおれらの歳以下でチャンピオンになった奴もいるのに」
「おれ?」
「あ、ごめん……」
互いに口が止まり、大通りを歩くおれ達の足音だけが静かな通りに響く。
エレナさんは一年半ほどでハイパーランクを全階級クリアしたが、そこから一年はマスターランクでは結果が出ず、思いきって三年半をブリーダーの勉強に充て、国家資格のA級ポケモンブリーダーを取得。そこから二年弱でマスターランクをクリアし、全制覇者となった。らしい。
ブリーダーの勉強は大きな寄り道だが、それでもそれが結果を残す糧になった、とエレナさんは言っていた。
そもそもコンテストはお金がかかる割にはマスターランクで、かっこよさでもかしこさでもとにかく何れかの階級一つはクリアしない限り、収入が少なく赤字続きになるらしい。詳しい事は後程自分で調べてみることにする。
今言ったように赤字続きな上資金が尽き、途中で社会人を兼任しながらコンテストをやる人もいるらしい。ただでさえマスターランクの異常なまでの難しさも相まって、それ故コンテスト全制覇は時間がかかると言われる。エレナさんの実家はお金に恵まれていたらしく、あまりそっちでは悩まなかったらしいが。
ともかくただでさえ膨大な時間がかかるのに、さらにジグザグマの件も被さってしまう。
時間がかかればかかるほど、一つの懸念が生じるのだ。
「これがいつまでか分からない」
手のひらを見つめながら、突発的にそう小さく呟く。ユナは、えっ? と聞き返した。
「わたしがいつまでカノンなのかの保証が無い」
「あっ……。そういえばそう、よね」
「戻れるかもしれないし、戻れないかもしれない。戻るにしても、いつ戻るかも分からない」
「だよね。そもそもどうしてこうなったかも定かじゃ無いんだもん」
「だから出来るだけ早く。それこそ八年よりももっと早く制覇していかないといけない」
と、言い終えたと同時に我が家まで辿り着いた。
二人揃えて足を止めて、互いに顔を見ず、ただただじっとする。
運命はにべもない。明日や明後日くらいに元に戻っていたらまだしも、ある程度、コンテストをいくらかクリアしてから元に戻ると全てが水泡に帰す。コンテストの記録はカノン名義であってユウキ名義ではないからだ。
「わたし、帰るね」
「あ、ごめん。おやすみ、ユナ」
「おやすみなさい」
棒立ちしたまま、ユナが自身の家に入り見えなくなるまで、ただじっとその背中を見つめていた。
ユナに呼び出されたのは翌日の昼過ぎだった。いつものように、ユナの部屋に上がり込み、落ち着きのないルリリを傍目に何かお菓子でもつまみながら喋る。
今日はやはり昨日のエレナさんの話になった。雑誌のグラビア撮影でこっちに来るんだね、のような昨日の話を反芻するものであったり、エレナさんすごくスタイル良くて綺麗だったね、とエレナさんを賛辞するものだったり。
過去にどこかで起きたことをただただ言い放つ、まるで進歩のない会話。それは進歩の無かったおれたちのようで、中途半端な居心地の良さがあった。
空気が変わったのは互いに喋り、語り尽くして口数が減ってきてからだ。
不意にユナが目をおれから反らし、小さく下を向いた。憂いのような、そんな表情だった。
「出発予定日って二日後だよね」
「うん」
果たしてユナは何を言いたいのか。再び黙りこくってしまった。
「ジグザグマはどうするの?」
「どうするもこうするもないよ。時間かかるけどなんとかするしかない」
そう、とだけ返事したユナは、やがて意を決したかのように真剣な面持ちでこちらを見る。
「――しない?」
「はぇ? い、今なんて言ったの」
「わたしのルリリとジグザグマ、交換しない?」
驚き、というよりは戸惑いだった。予想外のその提案に、おれはどんな表情を浮かべたんだろう。口をパクパクさせていると、更にユナからもう一刺し。
「どっちにしろ最初からルリリは渡すつもりだったの。ルリリは小さい頃に、いつか旅に出れたらコンテストに一緒に出たい、って思って捕まえてもらったポケモンだから、代わりにお願いしたくて……。それにわたしは貴女で貴女はわたしでしょ?」
名前が上がった当のルリリは事情を分かっていないのか、おれとユナを交互に見ている。ユナはそんなルリリを抱き上げておれに近付き、ルリリを押し付けてきた。
仕方なく腕の中にルリリを収める。じっと目を見つめあっていると、やがてルリリはニコリと笑みを作った。
「代わりにジグザグマはわたしが面倒を見る。わたしに慣れれたら、カノンにも慣れれる筈よ。だって」
「わたしは貴女で貴女はわたしだから?」
「そういうこと」
単に語呂がいいから気に入っているだけに違いない。カノンはそれに、と一つ置いて続ける。
「時間がない、でしょ? もっとも時間があるのかないのかさえも分かってないけど」
「うん。分からない以上、早い方がね」
「あともう一つ。今度はわたしからの発表!」
「発表?」
ユナは振り返って自分の机の上に広げてある本を手にとる。本を畳んでこちらに体を戻すと、本の表表紙をこちらに向ける。
「わたし、ブリーダーになるわ」
基礎からのブリーディング。まだ新品の本だ。今朝にでも買いに行ったのだろう。
「とりあえず、C級ブリーダーを目指すつもり。C級なら筆記だけでも受けられるらしいし。そのうちちゃんと自分でもポケモン育ててA級ブリーダーまで目指したいな。あ、C級がブリーダーの中で一番下でA級が一番上ね」
「それはいいけどどうしてブリーダー?」
「わたしも何かやりたいことを見つけないと、って前から悩んでて、それでエレナさんとカノンの言ってた事を思い返して昨日ずっと考えてたの。わたしがブリーダー、カノンがコンテスト。二人で分担したら早くなれるじゃない」
エレナさんは一度ブリーダーの資格をとるために遠回りをしていた。が、その役割を初めから二人でやれば、ということか。なるほど。
「それにジグザグマについても役に立つかもしれないしね」
「そっか。そういうことならお願いするよ」
重荷が一つほどけたような気がして、やがて顔が綻ぶ。ユナもそっと笑い返した。
「うちのルリリをよろしくね」
「こっちこそジグザグマをお願い」
ユナはルリリをモンスターボールに戻す。ようやく腕が自由になり、スカートのポケットからジグザグマのボールを取り出すと、互いにパートナーのボールを右手に乗せて差し出す。そして、新たなパートナーのボールを左手で受けとる。
「もうすぐだね」
「うん」
出発予定日までは僅か二日。こうしてユナといられるのも、あって十時間くらいだ。
胸の高ぶりと共に、どことない寂しさも混じるけど、旅とはそもそもこういうものなのかもしれない。
もう後戻りは出来ない。
射出された弾丸は……二つ!
弾丸がライチュウLV.Xに衝突するや否や、鼓膜が破れそうな轟音が響き渡る。
「くっ、あぶねえ。首の皮一枚繋がったや……」
もしライチュウLV.XがレベルアップしていなかったらHPは0となっていた。また、スタジアムのナギサシティジムが無ければそれでもライチュウLV.Xは気絶。まさに間一髪。
ドサイドンのハードクラッシュによってトラッシュされた八雲のカードはアンノーンQ、闘エネルギー二枚、ハードマウンテン、ミステリアス・パール。
しかしいずれにせよもう一度アレを食らってしまえばライチュウLV.Xの息の根は止まるもかもしれぬ。
今の俺のバトル場は雷エネルギー三つのライチュウLV.X10/110、ベンチにはネンドール80/80、ピカチュウ10/60、ピカチュウ60/60。スタジアムは前述したとおりナギサシティジム。
向かいにいる八雲のバトル場には闘エネルギーが一枚ついたドサイドンLV.X170/170。しかしベンチにはユクシー70/70のみ。
「俺のターンだ。ベンチにいるピカチュウのポケパワーを発動、エレリサイクル。ピカチュウがピチューから進化している場合自分の番に一回使え、トラッシュの雷エネルギーを一枚手札に加える。もう一匹いるピカチュウもエレリサイクルを使うぜ」
トラッシュを多用する俺のデッキにとって、弾切れは最大の弱点。こうして補給し続けていないと攻めれなくなる。
「ピカチュウ(60/60)に雷エネルギーをつけ、ライチュウLV.Xの雷エネルギーを三つトラッシュして攻撃だ。炸裂玉!」
再び低速の玉がドサイドンLV.Xに襲いかかる。激しい音と光を纏った炸裂玉は、ドサイドンLV.Xに直撃するとより大きな音を放つ。
「よし、なんとか100ダメージ削ってやったぜ」
ドサイドンのHPバーは大きく削られて70/170まで落ち込む。
しかし次のターン、高確率でライチュウLV.Xは倒されてしまう。ライチュウLV.Xの代わりを勤めれるアタッカーがいないので大きなビハインドになるだろう。
「私のターンです。手札からヒポポタス(70/70)をベンチに出してそのヒポポタスにエネルギーをつけます。そしてドサイドンLV.Xのハードクラッシュ攻撃!」
ドサイドンLV.Xが再び両腕を真っすぐ伸ばす。八雲がデッキの上からトラッシュする五枚のカードのうち、一枚でも闘エネルギーがあればライチュウLV.Xはおじゃんとなる。
「っ、南無三!」
当たるなと願ったのはいいが、ドサイドンからは弾丸が一つ発射される。
音に耐えるため両手で耳を塞ぐ。しかし手で妨げる音なんてたかが知れていて、それでも耳をつんづくような音波が発生する。
これでライチュウLV.XのHPは尽きた。
「俺はピカチュウ(10/60)をバトル場に出すぜ」
「私はサイドを一枚引いてターンエンドです」
これでお互いに残りのサイドは四枚ずつ。出来ればサイドうんぬんの前に、八雲の場のポケモンを全て倒しきってしまいたいが……。
「行くぜ、俺はピカチュウのポケパワー、エレリサイクルを発動。トラッシュにある雷エネルギーを一枚手札に加える。もう一匹のピカチュウも同じようにポケパワーを使って合計二枚の雷エネルギーを回収する! そしてバトル場のピカチュウをライチュウ(40/90)に進化させ、ベンチのピカチュウに雷エネルギーをつける!」
「ライチュウにエネルギーは乗ってないのに何を……」
へへっ、と笑って鼻の下を人差し指でなぞる。
「ライチュウでスラッシュ攻撃!」
ライチュウが尻尾を鞭のように器用に扱い、尻尾で鋭い斬撃を起こす。ドサイドンLV.XのHPバーは40/170まで減り、ようやくゴールが見えてきた。
「スラッシュはエネルギーなしで攻撃出来て、しかも30ダメージも与えれる強力なワザだぜ。でも次のターンにこのライチュウはスラッシュを使えないけどな」
「くっ、私の番です。……」
八雲はさっきのドサイドンLV.Xの攻撃で闘エネルギー以外にサイホーンが二枚とドサイドン、不思議なアメの四枚がトラッシュされている。相手の残りデッキも25枚。こっちがデッキ破壊のスキルを持っていればよかったなと思った。
「手札の闘エネルギーをヒポポタスにつけて、ヒポポタスをカバルドンに進化させます」
ベンチにもう一度カバルドン110/110が現れる。折角頑張ってここまで八雲の陣営を削ってきたのに、またまたここでタフなポケモンが現れたか。
「ドサイドンLV.Xでハードクラッシュ!」
「またかよチキショー!」
ドサイドンLV.Xの両腕から再び弾丸が……。
「あれ?」
出なかった。バトルベルトのモニターで何をトラッシュされたか確認する。念のために左手で左耳は塞いでいたが、無用だったようだ。トラッシュされたカードはサイドン、レベルMAX、ワープポイント、ドサイドン、シロナの想い。安心して左耳のガードをはずす。
「なんかしっくり来ないけど俺のターン! これ以上ハードクラッシュを打たれると心臓と鼓膜がもたないや。そろそろドサイドンLV.Xには帰ってもらうぜ」
「……」
あまりにも八雲が冷静すぎて、逆にこっちが冷めてしまいそうになる。いやいや、俺は俺のペースで自分なりに行けばいいんだ。
「ベンチのピカチュウに雷エネルギーをつけ、ポケパワーのエレリサイクルを発動。トラッシュの雷エネルギーを手札に加える。サポーター、ミズキの検索を使って手札一枚をデッキに戻し、デッキからライチュウを手札に加えてベンチのピカチュウに進化!」
ベンチにもライチュウ90/90が並ぶ。しかしこれでピカチュウのポケパワーは使えなくなってしまった。でもこれだけ手札に雷エネルギーあれば大丈夫だろう。たぶん。
「バトル場のライチュウ(40/90)とベンチのライチュウ(90/90)を入れ替える! ライチュウの逃げるエネルギーは0だから安心して逃げれるぜ。そんでバトル場のライチュウにポケモンの道具、達人の帯を使うぜ」
ライチュウ90/90の頭に鉢巻きのように帯がつけられる。ぽっこりお腹だから腰には巻けなかったようです。
「達人の帯をつけたポケモンはHPと、与えるワザの威力が20アップ。その代わりつけたポケモンが気絶したとき相手は一枚多くサイドを引くことができる」
これでライチュウのHPが110/110へ。
達人の帯は確かに強い。しかしサイドを一枚多く引かせるディスアドバンテージがあるので、この一匹で二匹くらい倒さないとダメなのがネックだ。
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動。手札を一枚デッキに戻して六枚になるよう、つまり三枚ドロー。ライチュウでスラッシュ攻撃だ」
威力20増しの、50ダメージ攻撃がドサイドンLV.Xを襲う。ようやっとドサイドンLV.XのHPが0となったが、一匹倒すのにここまで手間がかかるとはなかなか。
「私はカバルドンをベンチからバトル場に出します」
「俺はサイドを一枚引いてターンエンドだ」
「行きます、私のターン。サポーターのシロナの想いを発動。前のターンに自分のポケモンが気絶された場合、手札をデッキに全て戻してシャッフルし、八枚ドロー」
八枚ドロー!? たぶん俺が知る限り一番カードを引くサポーターだ。
「闘エネルギーをカバルドンにつけ、カバルドンをレベルアップさせます。そしてカバルドンLV.Xのポケパワーを発動。サンドリセット!」
轟、と音が鳴り始めて砂嵐が巻き起こる。どうしてこいつのポケモンは耳に優しくないのばっかなんだ、カバルドンLV.X130/130を中心に起こる砂嵐のせいで、フィールドも八雲も見づらいったらありゃしない。
しかしこの砂嵐が3Dで本当によかった。あまりにも砂嵐が激しすぎて、本物であったら目が一切開けられない状況だっただろう。
「サンドリセットは対戦中に一回使え、互いの場にあるポケモン、サポーター以外のカードを全てデッキに戻してシャッフルする。先ほどライチュウにつけた達人の帯をデッキに戻してもらいます!」
砂嵐の強風によってライチュウが頭に巻いていた達人の帯が吹き飛ばされて空高く消え去る。そして砂嵐がようやく止んだ。大きな音に慣れ過ぎて、八雲の声が先ほどよりはっきり聞こえない。後で風見に音をどうにかしろとケチをつけないとな。
「カバルドンLV.Xで砂を飲み込む攻撃。その効果で、ダメージを与える前にトラッシュの闘エネルギーを一枚このポケモンにつける。砂を飲み込む攻撃は20に加え、自分についているエネルギーの数かける10ダメージを与える。今、このポケモンに闘エネルギーは四つついているので60ダメージ!」
再び熾烈な攻撃が始まる。帯がなくなってHPが減ったところに、火力の高いワザが飛んでくる。あっという間にライチュウのHPは30/90。
「くそっ、俺のターンだ!」
引いたカードはプレミアボール。まだまだ運は俺に味方してる。
「よし、グッズのプレミアボールを発動だ。デッキかトラッシュのLV.Xポケモンを手札に加える。俺はトラッシュからライチュウLV.Xを手札に加え、バトル場のライチュウにレベルアップさせる!」
しかしそれでもHPは50/110。次の攻撃はとてもじゃないが耐えられない。
「手札の雷エネルギーを二枚トラッシュして攻撃、ボルテージシュート! ベンチのユクシーに80ダメージだ!」
どこにでも届く紫電が再び八雲の場を荒らす。HPが70/70しかないユクシーもこれで一撃、気絶だ。
「俺はサイドを引いてライチュウLV.Xのポケボディーの連鎖雷の効果でもう一度攻撃する。効果は言わなくても分かるな?」
「しかしそれでもカバルドンLV.Xは倒せませんよ。ボルデージシュートはユクシーでなくカバルドンLV.Xにして、そこから追撃でカバルドンLV.Xを倒すべきでしたね。初歩的なミスです」
「……。ライチュウLV.Xについている雷エネルギーを三つトラッシュして炸裂玉!」
やはり三つトラッシュはかなりのボードアドバンテージを失うが、100ダメージはそれだけの価値がある。これでカバルドンLV.XのHPは30/130だ。
「私のターンの前のポケモンチェックでカバルドンLV.Xのポケボディー、サンドカバーが発動します。このポケモンがバトル場にいる限り、ポケモンチェックの度に相手のポケモンLV.X全員にダメージカウンターを一つずつ乗せる。よってライチュウLV.XのHPを削って行きます」
砂がライチュウLV.Xを足元から襲う。これで40/110。しかし今さら10ダメージ、たかが知れている。
「それでは私のターン、カバルドンLV.Xに闘エネルギーをつけます。そしてカバルドンLV.Xの闘エネルギーを二つトラッシュして、ダブルシュート!」
カバルドンLV.Xの足元の砂から、直方体の砂の塊が現れてそれが俺のベンチへ飛んできた。
「バトル場のポケモンは攻撃しないのか!」
「ダブルシュートは相手のベンチポケモン二匹にそれぞれ40ダメージ与えるワザです」
ベンチのネンドールとライチュウに砂の塊がぶつかり鈍い音を放つ。それぞれHPは40/80と0/90。
「サイドを一枚引いてターンエンド。そしてカバルドンLV.Xのサンドカバーで再びライチュウLV.Xに10ダメージです」
「俺のターン! さっき、俺が初歩的ミスをしたって言ったよな。でもそれは俺じゃなくてお前の方だぜ! ライチュウLV.Xで攻撃、スラッシュ!」
「しまっ……」
「エネルギーを全てトラッシュしたからもうワザが使えないと思ったその根拠のない余裕が命取りだぜ!」
最後のライチュウLV.Xの一撃がカバルドンLV.Xにヒットする。ドスンと重い音を立てて崩れ落ちたカバルドンLV.XのHPは0/130、サイドを一枚引くがもう八雲には戦えるポケモンがいないのでここで勝敗が決まった。
「よっし! ありがとうございました」
「ありがとうございました」
遠くから見ていた翔達に向かって、拳を突き出して親指を立ててニッと笑う。蜂谷も同じように返してくれ、翔や風見はただ頷いてくれた。
勝利を分かち合える仲間がいるのはなかなかいいもんだな!
恭介「今日のキーカードはドサイドンLV.X!
出来ればもう戦いたくないな……。
MAX250を出せるハードクラッシュが脅威だぜ」
ドサイドンLV.X HP170 闘 (DP5)
─ ハードクラッシュ 50×
自分の山札のカードを上から5枚トラッシュし、その中のエネルギーの枚数×50ダメージ。
闘闘無 なげあげる 60
自分のトラッシュの闘エネルギーをすべて、相手プレイヤーに見せてから、山札にもどす。その後、山札を切る。
─このカードは、バトル場のドサイドンに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 水×2 抵抗力 雷−20 にげる 4
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 | 82 | 83 | 84 | 85 | 86 | 87 | 88 | 89 | 90 | 91 | 92 | 93 | 94 | 95 | 96 | 97 | 98 | 99 | 100 | 101 | 102 | 103 | 104 | 105 | 106 | 107 | 108 | 109 | 110 | 111 | 112 | 113 | 114 | 115 | 116 | 117 | 118 | 119 | 120 | 121 | 122 | 123 | 124 | 125 | 126 | 127 | 128 | 129 | 130 | 131 | 132 | 133 | 134 | 135 | 136 | 137 | 138 | 139 | 140 | 141 | 142 | 143 | 144 | 145 | 146 | 147 | 148 | 149 | 150 | 151 | 152 | 153 | 154 | 155 | 156 | 157 | 158 | 159 | 160 | |