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私たちはずっと前……もう数えきれないほど前に生まれました。
この島から、ホウエン地方を守ることを言いつけられました。誰からにでもありません。それが自分たちの使命だと知っていたのです。
そこで私たちは役割を決めました。ラティアスが島に残るときは私が外へ。私が島に残る時はラティアスが外を見回っていました。この島には私たちの命の源とも呼べる宝石がありましたから、離れるわけにはいかなかったのです。
当時のホウエン地方はグラードンとカイオーガが争った傷跡も深く、ところどころ住めそうにもないところがありましたが、ほとんどが青い海と深い緑の森に覆われていました。
紅色の珠と藍色の珠が作ったヒトガタを中心に、人々は復興への道を歩み始めた頃です。一番最初であるヒトガタは本当によく人々を導き、私たちポケモンと協力して文明をさらに発展させていきました。
人々は私たちを珍しいポケモンだと言い、二つで一つの守り神と崇めていました。そんな人間たちに興味を持ち、私とラティアスは人間の言葉を学びました。私たちからしたら不思議な生き物だったのです、人間というのは。言葉一つで相手との意思疎通を図り、縄張りに入っても激しく威嚇するでもなく諭して帰す。こんなことが出来る生き物は、人間以外にいませんでした。
ですから私たちはどんどん人間の社会に入り、様々なものを学んでいきました。
その日も私は人間たちと共にいました。そこでは人間が祭りの日でしてね、全体的に浮かれていたのです。明るい提灯に祭り囃子。夜が暗いなど忘れるかのように。特別だからとその時は私たちは2匹ともここを離れていました。本当はいけないことだと知っていました。
気付いた時は遅かったと思います。突然の光の滝といった方がいいでしょうか。夜空の星が全て落ちたような眩しさでした。そんなものが降り注いだのです。とっさに守れる範囲のものは守りました。が、その外にいる人間やポケモンたちはみな死んでいました。
生き残ったヒトガタたちと空を見上げました。直後、何が起きたかすぐに解りました。そこにいたのは美しく輝く星とそれを守護する人の形をしたものでした。人間は醜いので全て殺すと。
ヒトガタを中心に人間たちは結束し、私たちはそれらと戦うべく空へと舞い上がりました。
しかし、大規模な攻撃をできる2匹に対し、私たちがなす術もありませんでした。どんなに押し返しても向こうが優勢です。
そんなとき、ヒトガタはある提案をしました。再びグラードンとカイオーガを起こすかどうか。二匹の力を借りれば追い返すことが出来そうだと。
先ほども言った通り、まだ二匹の戦いの爪痕が残っていたばかりでしたので、誰もが反対をしました。またあんな恐ろしいものを繰り返すのかと。けれど呼ばなければこのまま全滅するのは目に見えてます。その時でした。
ヒトガタに仕える三人が私たちが囮になると言い出したのです。けれど人間がそんなことをしたって無駄だと私は止めました。誰もが止めました。けれど三人の覚悟は強かったのです。
もちろん、三人が勝算なしに言ったわけではありません。私たちが持つ宝石には他の生き物に力を与えることが出来ましたので、それを欲しいといったのです。一度使えば元に戻れないと忠告し、納得した上で私たちは三人に力を与えました。
何の攻撃も受け付けない鋼、大地を切り取った岩、海を凍らせ戦う氷。そして私たちは戦いました。すでに人ではなくなってしまった三人と共に。
倒せると思ったのです。それでも、攻撃は止まりませんでした。未知の生物は私たちの予想の遥か上を行く猛攻で襲いかかっていました。
正直、死ぬことも覚悟しました。それは怖くなかったのですが、人間を守ることができないままというのは少し残念だなと思っていました。
諦めかけた時に人は笑うといいますが、そんな感じでした。もう滅びるしかないと諦め、皆笑っていました。
嵐の海を思わせる暗い雲海の中を、光が差しました。一匹のドラゴンが降りてきたのです。レックウザと名乗るそれは、人の形をした方に食らいつきました。
レックウザの力は、グラードンやカイオーガに似ていました。本気を出せばホウエンを壊しかねない存在です。レックウザと共に戦いながら私たちは思っていました。この戦いが終わったらこれも封じなければならないと。
話はそれましたが、思わぬ助っ人に私たちは勝つことが出来たのです。2匹を遠くの彼方へと追いやり、ホウエンは再び平和を取り戻しました。
そして、私たちはレックウザの力を恐れて彼を天空の石に封じました。
「これが、過去のホウエンで起きたことです」
ずっとラティオスの声が響いていた。頭の中に流れ込むような映像と共に。一気に現実に引き戻されたようだった。3人は茫然と目の前のラティオスとラティアスを見つめる。
「封じたのは人間の言葉の力。初代のヒトガタたちだけでは出来なかったこと。言葉の魔力を常に引き出す人間、言霊が裏切ればすぐにまたあの惨事が起きる。ホウエンの地に再び入ることのないよう、見張っていたのに貴方は入って来た。空間どころか時間すら越えて。私たちにはホウエンを守る義務がある。私たちは最強の人間も手に入れた。片割れとなってしまったヒトガタも含め、私たちが今、終わらせてあげましょう」
ラティオスとラティアスの手に握られた石が光る。それは眩しくてみていられず、手で顔を覆う。
遠くで地響きのような轟音が聞こえ、それが何か確認する間もなく3人の体は強い衝撃に叩き付けられた。そして上も下もない水流に飲み込まれた。
流されまいと必死で掴んだのは大きな石だった。腕力で体を寄せ付け、大きな水流が去るのを待つ。目を閉じて、あとどれくらい息をとめていいかも解らずに。
体を押し流す水流が弱くなる。そして水がひいて頭が出た。次第に見えてくる景色。先ほどと全く変わらないが、ラティオスとラティアス、そしてミツルとミズキがいない。
「何が……」
ふとザフィールが掴んでいた石を見る。遠くからは見えなかったが、近くにいると石に刻まれている言葉が見えた。
「記憶霞みしものは心に刻み付けることを望む……全ての夢はもう一つの現実。これを忘れるべからず、か。何かの詩?」
ラティオスが言っていた言葉の魔力とはこれなのだろうか。ザフィールが考えるまでもなく、足音に振り向く。こんなところにくる人間なんていないはずだ。しかしその音はまぎれも無く人間だった。
世界で一番嫌な人をあげるとしたら、ザフィールは真っ先にその人をあげた。出会ってからというもの、全くいい印象なんてない。なぜこんなところにいるのかという疑問より、なぜ会ってしまったのかという疑問が上がる。
「ダイゴさん、でしたっけ。なんでこんなところにいるんです?今は……」
「ラティオスとラティアスの言う通りにしただけさ。僕は……平和を乱す君たちを殺すために来たんだ」
言葉数は少ないが、ザフィールは今のでラティオスの言った最強の人間の意味を理解した。最強なんて意外に身近にいたものだ。そうなればあのエアームドが一撃でホエルコを瀕死に追いやったのも納得がいく。その映像は同時にザフィールに恐怖と戦慄を与えた。
「もう片方だけのヒトガタなんて用はない。死んでくれるね」
ダイゴの傍らにいるのはあのエアームドだった。震えて上手く握れないボールをなるべく遠くに投げる。何も言わず、ただ黙って。いつもの主人とは違う雰囲気を察したのか、出て来たプラスルはじっとエアームドを睨みつけた。
「戦おうっていうの?君は飲み込みが悪いんだね。結局僕が一番強くて凄いんだよね。そのことを教えてあげる。君と、君のポケモンたちにもね!」
プラスルの赤い耳が揺れた。エアームドが翼を動かした風圧で。もうすでに戦いは始まっていたことをザフィールはようやく自覚した。
殺される。この戦いに負けたら確実に殺される。ダイゴの目がそういっていた。人を殺すことを何とも思わない目。アクア団とは違う。ただひたすら、意志よりも義務を背負ったような目だった。
「僕のターン、ドロー。手札の鋼エネルギーをディアルガにつけ、ベンチにココドラとコイルを出す。そしてミズキの検索を発動。手札を一枚デッキに戻し、好きなポケモンを手札に加える。ボスゴドラを手札に加え、更に不思議なアメを発動。自分のたねポケモンから進化するポケモンを手札から一枚選び、そのポケモンに乗せて進化させる。僕はココドラをボスゴドラへ一気に進化させる!」
現れたばかりのココドラの足元から光の柱が形成される。光の中でシルエットだけ浮かぶココドラのフォルムが徐々に変わり、光の渦が消えるや否やボスゴドラが現れる。だがディアルガに比べると大きさは半分以下。フィールド的には俺の方が威圧されている雰囲気がある。
これで今の沙村のバトル場は鋼エネルギー三つのディアルガ90/90。ベンチにはレアコイル70/70、ボスゴドラ130/130、コイル50/50。
「ディアルガでラスターカノン!」
ディアルガが口を開くと口の前で鈍色のエネルギー体が形成され、ヨノワールに向けて放たれた。ディアルガの口元にあるときラスターカノン自体は大きく見えなかったが、ヨノワールの元に来ると意外とでかい。ヨノワールのHPが40削られ60/120へ。
「なんだぁ? そんなもんか? つまんねえな」
(……)
サイドも一枚有利なため勢いづく俺だが、相棒はむしろ危機感を持っているようだ。
「どうした相棒」
(あんまり熱くなり過ぎちゃダメだよ)
「それくらい言われなくても分かってる」
どちらかというと、いちいちそんなことを口に出されることで冷静さを欠きそうだった。
「俺のターン! ゴースに超エネルギーをつけてゴーストに進化させる。そしてベンチのサマヨールをヨノワールに進化させる!」
これで俺のバトル場には超エネルギー二つのヨノワール60/120と、ベンチにはエネルギーなしのヨノワール120/120、ベンチシールドのついたネンドール80/80、超エネルギーがついたゴースト80/80が二体。相手と比べ、ほとんどベンチのポケモンが立っている。
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動する。俺は手札を一枚戻し、手札が六枚になるまで。つまり四枚ドロー。それだけじゃねえ、バトル場のヨノワールをレベルアップさせる!」
これでヨノワールのHPは更に増強され、80/140となった。これでだいぶタフになった。簡単にはやられまい。
「さて、ヨノワールLV.Xで攻撃だ。ダメージイーブン!」
ヨノワールに乗っているダメージカウンターの数だけ、つまり六個の奇妙な赤い玉がヨノワールの腹部にある口からディアルガに向けて放たれる……。と誰もが思ったはずだが、ディアルガを通り抜けてその後ろにいたコイルに赤い玉の群れが襲いかかる。
「なっ……!」
「ダメージイーブンによってダメージカウンターを乗せられるのは『相手』ではなくて『相手のポケモン』だ。よってベンチのポケモンにもダメージカウンターが乗せられるってわけだ」
コイルのHPバーがあっという間に底を尽き、急に力を失ったよう空中から地面に落ちた。
「サイドを引いてターンエンドだ」
これで俺の残りサイドは四枚。相手とは二枚の差ぶん引き離している。決勝リーグってのに大した事ねえな。
「僕のターン。手札からグッズカード、プレミアボールを発動。自分の山札またはトラッシュからLV.Xを一枚手札に加える。僕はトラッシュからディアルガLV.Xを加えて場のディアルガをレベルアップさせる!」
「ディアルガLV.X……。二ターン前のか!」
(あのときにスージーの抽選で捨てたカード、やっぱりサルベージしてきたね)
ディアルガのHPは90/90からレベルアップすることによって110/110まで上昇。ダメージイーブンで倒そうとするにもヨノワールの残りHPが10だけでなくてはならない。
「そしてサポーターカード、デンジの哲学を発動。手札を六枚になるようにドローする。また、ドローする前に手札を一枚トラッシュ出来る。僕は手札の鋼の特殊エネルギーをトラッシュ。これによって今の手札は0。なので六枚ドロー!」
「特殊鋼……」
エネルギーはエネルギーでも、基本エネルギーはサーチやサルベージ手段が豊富であるが特殊エネルギーはその逆でサーチもサルベージもしづらい。そんな貴重なカードをトラッシュしてまで六枚引きたかったのだろうか。
「ベンチのレアコイルをジバコイルに進化させ、バトル場のディアルガLV.Xに特殊鋼エネルギーをつける!」
ジバコイルに進化することによってHPが70/70から120/120へと大幅に上昇した。更にディアルガLV.Xについた特殊鋼エネルギーは、そのエネルギーが鋼タイプのポケモンについているなら受けるワザのダメージを10減らす厄介なものだ。
「ディアルガLV.Xのポケパワーを発動。その効果によって相手プレイヤーはコインを二回投げる」
「ふん」
コイントスのボタンを押す。……裏、裏。二回とも裏か。
「ディアルガLV.Xでヨノワールに攻撃。メタルフラッシュ!」
ポケパワーは発動されなかったのか……? 考える間もなくディアルガLV.Xの体が眩く輝きだし、視界が白で覆われる。その中でヨノワールLV.Xは両腕を使って目をかばうも、HPバーは順調に削られて0になった。
「メタルフラッシュの威力は80。だけどメタルフラッシュを使った次のターン、このワザは使えない」
「そんな程度知ったこっちゃねえ。だがたった今、お前は自分で地獄行きのチケットを切った。ヨノワールLV.Xのポケパワー発動。エクトプラズマー!」
「そんな、倒したはずなのに……」
「こいつのポケパワーは、こいつ自身がバトル場にいて相手のワザによって気絶させられた時に発動する」
俺と沙村の周囲が一気にスタジアム状で紫色の何かに包まれる。観客の姿は見えなくなり、俺と沙村とそのポケモンしかモノが見えなくなった。上下左右前後全てが紫色で、足元までも紫色なので地面に立っている感じがしないでもない。
「その効果により、ヨノワールLV.Xはスタジアムカードとして扱われる」
急きょ俺たちを包んでいた紫の景色にスゥっと切れ目がいくつも入り、それは開いた。目だ。人の目のような小奇麗なものではない。少し濁った白目の真ん中にあるその瞳孔は闇のように暗い。上下左右前後にウン百万、ウン千万もある目は丁度俺達の方を向いている。
普通なら気分が悪くなる。あまりの不快感に吐き気を催すだろう。だが俺はこの程度じゃ何ともない、そのついでに沙村も戸惑いはしたが、やがて何事もないように俺をしっかり見据えた。なかなか根性があるじゃねーか。周りにいた観客共は嫌そうな顔をして俺らから離れるのが大半だ。
「このスタジアムの中ではポケモンチェックの度に『相手のポケモン全員に』ダメージカウンターを一つずつ乗せていく。ギリギリな寿命でファックしとけ。俺の次のポケモンはもう一匹のヨノワールだ」
「サイドを引いてターンエンド」
沙村がターンエンドをすると同時にポケモンチェックが行われる。急に沙村のポケモンが苦しそうにのたうつ。HPバーが10ずつ減って行き、ディアルガは100/110。ジバコイルは110/120。ボスゴドラは120/130。どいつもなかなかタフそうだな。
「俺のターン、ドロー!」
「この瞬間、ディアルガLV.Xのポケパワー発動、タイムスキップ!」
「あぁ?」
「このポケパワーによって行ったコイントスで二回とも裏を出した場合、次の相手の番の最初に相手がドローした瞬間、そこで強制的にターンエンドとなる」
「俺のターンを……スキップだと!?」
予想外の展開に驚かざるを得ない。まさか自分のターンが簡単に飛ばされるだなんて。だが。
「ポケモンチェックは行ってもらうぜ」
再びポケモン達がのたうつ。苦しそうな悲鳴を上げる奴もいる。なかなかな情景じゃねぇか。ディアルガLV.Xは90/110。ジバコイル100/120。ボスゴドラ110/130。少しずつ。少しずつだが確実にダメージを負わせている。
「それじゃあ僕のターン、ドロー。特殊鋼エネルギーをボスゴドラにつけ、ディアルガLV.Xを逃がしてボスゴドラと入れ替える」
(そうか、ジバコイルのポケボディー、電磁波によってあの人のバトルポケモンに鋼エネルギーさえ乗っていたら逃げるエネルギーは必要なくなるんだ)
「ケッ、入れ替えるのは構わねえがそいつ(ボスゴドラ)には生憎まだエネルギーが一個しか乗ってねえぞ」
「僕は手札からエネルギー付け替えを発動。その効果によってディアルガLV.Xについている鋼の基本エネルギーをボスゴドラに付け替える」
その辺も考えているのか。気に食わねえな。
「さらにスタジアムカード、帯電鉱脈を使う。新しいスタジアムが発動したことにより、前のスタジアムはトラッシュされる」
紫色の空間は霧のように消え行き、一度元のホールに戻る。だが休む間もなくまた新たな背景へと変わる。今度は殺伐とした谷だ。その谷の底の部分にあたるところに立っているようだ。辺りからは紫電が飛び交っている。
「悪いが地獄はこの程度じゃ終わんねぇぜ。ヨノワールLV.Xはトラッシュされるとき、手札に戻ってくる」
常に辺りに不快感を撒き散らしていた沙村だが、今回ははっきりと悪意のある目を向けて舌打ちをしてきた。
「帯電鉱脈の効果により自分の番にコインを一回投げることができる。表なら自分のトラッシュの雷または鋼エネルギーを一枚手札に加えることができる」
なるほどねぇ。さっきから鋼エネルギーを簡単に捨てていたからどうかと思っていたが、リカバリー手段はあるんだな。
沙村のコイントスの結果は表。ヤツはトラッシュから鋼の基本エネルギーを手札に加えた。この帯電鉱脈では鋼の特殊エネルギーもサルベージ出来るはずなのに、あえて鋼の基本エネルギーを選んだ。何かあるな。
「ココドラをベンチに出し、ボスゴドラで攻撃。山盛り」
ボスゴドラは右腕で地面を殴りつけた。もちろん立体映像なので会場自体にヒビが入るわけもないのだが、ボスゴドラの腕は帯電鉱脈の地面に深々とめり込んでいた。そして力技で右腕を引っこ抜く。
引っこ抜いた時に鉱脈がヒビ割れ、ヨノワールの足元までヒビが広がり、そのヒビから大量の土砂がヨノワールめがけて飛んでくる。しかし飛んできたのは土砂だけではない。土砂の中に鋼のシンボルマークがいくつも混ざっていた。
「自分のトラッシュにあるエネルギーを全てデッキに戻してシャッフルする。戻すエネルギーの中に鋼の特殊エネルギーがある場合、元の威力40に加え更に30ダメージ追加する」
だから帯電鉱脈のときに鋼の特殊エネルギーを戻さなかったのか! 沙村は自分のトラッシュにある鋼の基本エネルギー二枚と鋼の特殊エネルギーを一枚デッキに戻した。これによってヨノワールが受けるダメージは70。HPも50/120と大幅に減った。
「ほう。行くぞ、俺のターン」
今の沙村は勝ち急いでいる。俺に優勢をとられていたため、流れを持ち返そうとしていて、実際流れは沙村にあるように見える。
が、実際は全然逆だ。その理由として先ほどのターンにディアルガLV.Xの効果を使わなかったのが挙げられる。もしこれでタイムスキップを発動すれば利率は大きい。しかしタイムスキップは相手が二回とも表を出した時にそこで自分のターンが終わってしまうというデメリットも存在する。沙村はそれを恐れたのだ。
「中々頑張ってる。と褒めてやりたいところだが、俺と戦(や)ろうってんならその程度じゃ困るな」
沙村は再び悪意のある視線を送りつけてきた。感情的だな。ああ、感情的だ。こうも簡単に挑発に乗ってくれると助かるぜ。
「手札からミズキの検索を発動。手札を一枚デッキに戻し、俺はゲンガーを手札に加える。ベンチにいるゴーストを二匹ともゲンガーにし、ヨノワールをレベルアップさせる!」
ゲンガーはのHPは二匹とも110/110と高水準に昇り、ヨノワールLV.Xは70/140となった。
「片方のゲンガーに超エネルギーをつけてネンドールのコスモパワーを使うぜ。手札を二枚デッキの底に戻して三枚引くぜ。これでターンエンドだ」
「僕のターン。スージーの抽選を発動。ドーブルと鋼の特殊エネルギーをトラッシュして四枚ドロー! 更にボスゴドラに鋼の特殊エネルギーをつける!」
さっきまでおとなしい口調が、段々荒くなっている。語尾に力がこもってる。完全に冷静さを欠いているな。戦法も粗い。
「さあ、タイムスキップでもすんのか? またしょっぼいコイントスして裏二回出るといいな、ああ?」
もはや脅しともとれるような声音でもう一段階挑発する。
「……。ボスゴドラでヨノワールLV.Xに攻撃! 山盛り!」
再び地面にヒビが入り、土砂がヨノワールLV.Xを襲う。さっき捨てられたばかりの鋼の特殊エネルギーはデッキに戻ってシャッフルされる。ヨノワールLV.XはHPが尽きた。
「さあもう一度地獄の幕開けだ!」
演出っぽく指をパチンと鳴らすと同時、殺風景な谷から元のホールへ。そして再びあの紫の空間に戻って行く。またもや空間のあちこちから目が現れて二人を、どちらかというと沙村を見つめる。
「俺様のお次は超エネルギー一個の方のゲンガーだ!」
「サイドを一枚引いてターンエンドっ!」
もう一段階深い地獄を見せてやる。
乾いた下唇を少し舐めて憤っている沙村を見つめる。
拓哉(表)「今日のキーカードはディアルガLV.X。
特徴的なポケパワーはコイントス次第。
だけど決まればすごいことになるよ!」
ディアルガLV.X HP110 鋼 (DP3)
ポケパワー タイムスキップ
自分の番に、1回使える。相手プレイヤーは、コインを2回投げる。すべてオモテなら、この番は終わる。すべてウラなら、次の相手の番の最初に、相手プレイヤーが山札からカードを1枚引いた後、すぐにその番は終わる。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
鋼鋼無無 メタルフラッシュ 80
次の自分の番、自分は「メタルフラッシュ」を使えない。
─このカードは、バトル場のディアルガに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 炎×2 抵抗力 超−20 にげる 2
───
翔の使用デッキ
「フレイムブースト」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-747.html
「テンサイさん、今日から仕事始めだそうですね、しかも私と一緒のタンバ学園!」
9月1日、登校初日。時刻は7時37分、俺はタンバ学園へ向かっている。もう目と鼻の距離だ。しかし、何故か緊張する。若い頃は旅、その後は研究をしていたから、学校というものはどうにも馴染みが薄いんだよな。ま、教えることは慣れているから大丈夫だろ。それより、ナズナと同じ職場か。腐れ縁もここまで続けば大したもんだ。
「なんだ、あんたの勤め先はあそこだったのか」
「はい。物理を教えているんですけど、みんな元気いっぱいですよ」
「そ、そうか」
非常に嬉しくない話だな。若い奴にはもっとこう、「元気」と言うより「ぎらぎらした」感じであってほしいもんだ。もう良い年なんだからな。
「ところで、何故この時期に求人なんてしたんだ? 普通は新年度が始まる前に募集するもんだろ」
「普通はそうですね。けど確か、部活の練習中に顧問の先生が怪我をしたとは聞きましたけど」
「怪我だと? 俺の任期は2年のはずだが、いくらなんでも長すぎるぞ」
もしや、よほどひどい状態なのか。そう思ったのだが、彼女が内訳を説明してくれた。
「あ、怪我自体は1年でリハビリまで終わるらしいですよ。ただ、その先生が研修で1年抜けちゃうんです。もともと研修に行くことになっていたんで、怪我がなくても募集する必要があったみたいです」
「なるほどな。まあ、任期中は全力を尽くすのみだ」
誰かのために、なんて陳腐な標語は嫌いだからな。どんな状況でも最良のパフォーマンスを見せる……昔からそれができれば良かったのだが。
しばらくして、ようやく校門が見えてきた。中々広い敷地だ。町の中に校舎があるのではなく、校舎の中に町があると例えれば分かりやすいだろうか。……おや、あそこにいるのは校長じゃねえか。こんな朝っぱらから校門に立つとは立派なもんだ。しかし、その割には落ち着きが無い。俺達がやって来ると、彼は待ちわびたと言わんばかりにしゃべり始めた。
「おお、やっと来たかテンサイ」
「おはようございますシジマさん。何をそんなに慌ててるんですか?」
「ナズナか。それが……いや、ここで言ってはまずい。まずは職員室に入ってくれ」
校長はナズナを職員室に向かわせた。俺もそれに続こうとしたが、校長に止められた。
「まずい、もう時間がないぞ。いきなりだがテンサイ、すぐに講堂へ向かってくれ。あそこの建物だ」
「了解。早速初仕事だな」
俺は校門を通って右方面にある講堂へ走った。何故かあちこちにカメラを持った奴らがいやがる。おい、間違っても俺を撮るなよ。
講堂に入ると、テレビカメラが目に飛び込んで来た。次に大量の客らしき面々。おいおい、いったい何の真似だ? 俺はなるべく顔を隠しながら進む。最前列に机と椅子が用意されているが、おそらくあそこに行けば良いのだろう。
机にたどり着くと、俺は腰かけた。机上にはメモ書き1枚と数枚のプリントが置いてある。俺はまずメモ書きに目を通した。
「どれどれ、『これを読んでやり過ごしてくれ』か。人使いが荒いぜ全く」
俺は不平を漏らしながらプリントの読み上げを始めた。さっきまで騒いでいた聴衆も、瞬く間に静かになる。
「ええ、おはようございます。タンバ学園ポケモンバトル部顧問代理のテンサイです。この度は当校の部員による不祥事、大変申し訳ありません。これより、概要の説明へと入らせていただきます」
……なるほど、俺は部活の指導までせねばならんのか。しかも不祥事だと。まあ、今はさっさとこの状況から脱出するのが先だ。俺は棒読みで手早く説明に入った。
「事件が発生しましたのは7月26日。高校ポケモンバトル選手権タンバ大会準決勝にて、部員がポケモンに違法なドーピングをしたとのことです。ポケモン保護の観点から、基準量を超えた薬の投与は厳しく禁じられていますが、今回はこれに抵触する格好となりました。ポケモンの挙動が不自然なことに気付いた相手チームが通報、検査の結果事態が発覚。昨晩部員19人中18人が逮捕されました」
な、なんだと。ほとんど壊滅したも同然じゃねえか。しかも違法ドーピングてか。部外者の俺には事情が分からんが、確か結構重い刑期が約束されていたはずだぞ。
「当校は今回の事態を重く受け止め、再発防止のために努力する所存です。この度は申し訳ありませんでした」
くそ、心にも思っていないことを言うのは気分が良くないな。さて、ここからは質問タイムだ。どうにかやり過ごすしかないが……ま、あのセリフを盾にするしかないな。
「顧問は事態を把握していたのですか?」
「それは分かりません、なにせ自分は今日初めてこの学園に来たのですから。顧問の先生は現在怪我の療養中です」
「ポケモンバトル部の廃部はあり得ますか?」
「それもこちらでは判断つきません。まあ、1人残っていますし、存続自体は可能だと思いますよ」
さあさあ、どんどんかかってきやがれ!
「校長、一体どういうことだ?」
一通り済んだ後、俺は職員室に足を運んだ。そして校長に事情を尋ねた。他の先生方はいない。多分生徒への対応に追われているんだろう。それにしても、くたくただぜ。
「むう、すまん。まさかこのタイミングで不祥事が発覚するとは思わなんだ」
校長は頭を下げた。まあな、本来なら始業式でもやるもんだろうに、まさか不祥事の謝罪をするとは露にも思うまい。さて、これからどうしたもんだか。今の俺は雇われの身、上の意見を聞いておこう。
「で、俺は何をすれば良いんだ? 俺が顧問代理なら、再建だろうがなんだろうがやってやるよ」
「……やってくれるか?」
「指示さえあれば今すぐにでも」
俺はぶっきらぼうに答えた。校長はしばし考え込んだが、それから俺にこう頼んだ。
「そうか。なら君に頼もう。ポケモンバトル部は我が校の魅力の1つ、失えば経営にも関わる。必ず任期中に再建をしてくれ」
「ああ、わかった。まずは部員探しだな」
……あ。俺の仕事、増えちまったな。
・次回予告
さて、早速部員集めをすることになった。まずは生き残りの部員を探すのだが、どこを探しても見つからない。もしや、俺から隠れているのか? 面白い、俺の前には全てが用を為さないこと、教えてやるぜ。次回、第6話「部員を探せ」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.71
展開の構成が非常に悩ましかったです。前作とは毛色が違う上にこの構成難はこたえました。次回からも苦戦が予想されるでしょう。
あつあ通信vol.71、編者あつあつおでん
「よし、決勝リーグ一回戦頑張ろう!」
両頬をパチンと手のひらで叩いて気合いを入れる。すると、耳の奥から僕にだけしか聞こえない声が聞こえる。
(俺が出なくてもいいのか?)
とある事情で二カ月ほど前に僕の中で生まれたもう一つの人格。彼が心の奥から声をかけてくる。
「大丈夫。予選も僕が勝ち抜いたし、僕だって出来るってことをさ」
(そうか。応援はしてるが、ヤバそうになったら俺が出るからな。例えば……能力者とか)
「分かってるさ、そのときは頼むよ」
外からすれば独り言にしか聞こえない。そのため傍にいるスタッフがこちらを変な人を見る目で見つめる。
(ケッ、損な役回りだ事)
心の中の存在のため、表情は見えないがきっと笑っているのだろう。
スタッフに誘導され指定位置につくと、バトルベルトを起動する。
かつてもう一人の人格がバトルベルトを使用したことがあるが、僕自身がバトルベルトを使うのは初めてである。そのためどう操作すればいいかわからない。
(おいおい。そんなんで本当に大丈夫か?)
「ごめん、変わって」
折角頑張ろうと思ったのにこれじゃあどうしようもない。息を吸って目を閉じればもう一人の人格がなんとかしてくれるだろう。
「フン」
相棒がようやくしっかりしたかと思えば結局これかよ。以前にあの松野とかいうチビと戦ったことを思い出すのは癪だが、そのときに言われた通りベルトを起動させる。
「ねえ、この程度の操作も満足にできないの」
既にバトルベルトを展開してバトルテーブルを組み立てた対戦相手が声をかけてきた。
「ああん? 今組み立ててんのが見えねぇのか」
「早くしろよな……」
「ケッ、どうしてこうもチビガキの相手ばっかり俺がしなくちゃいけないんだ」
対戦相手の背丈からして中坊程度だろう。しかし相手の容姿で気になるのは背丈よりも左目にしている眼帯と、対戦をするというのに未だつけられているヘッドホンだ。
肩にかかるぐらいに伸びたちょっとパーマ掛かった黒髪。そして上は半袖の白色Tシャツの上から手が隠れるほどぶかぶかな白のパーカだが、下は鼠色と黒のチェック柄のスーツというやや変わった格好がそいつの変わり具合を更に醸し出す。
「準備出来たぜキテレツ野郎」
「ちゃんと沙村凛介(さむら りんすけ)っていう名前があるんだけど」
「お前の名前なんて知ったこっちゃねえ。せいぜい俺に潰されるっていう程度でしか価値はねーよ」
「一々五月蠅いな……」
今のはきっと本人にとって独り言のつもりで言ってるのだろうが、声が大きいため耳に普通に入ってくる。それが俺の苛立ちを加速させる。
(揉めても仕方ないよ)
「それくらい分かってる」
デッキをデッキポケットにセットして、デッキ横の赤いボタンを押す。カードがオートでシャッフルされ、デッキの底から六枚サイドがセットされる。そしてデッキの上から手札となる七枚が突き出される。
互いに最初のバトルポケモン及びベンチポケモンをセットする。
「さあ潰しあいと行こうか!」
セットされたポケモンが表示される。俺のバトル場にはヨマワル50/50。そしてベンチには同じくヨマワル。一方、相手のバトル場のポケモンはドーブル70/70からのスタートだ。
「先攻は僕がもらう。ドロー。ディアルガをベンチに出し、ディアルガに鋼エネルギーをつける」
いきなりベンチに大型ポケモンのディアルガ90/90が現れたため、ドーブルがとても小さく見える。もちろんドーブルだけではなく俺のヨマワルもだ。
「ドーブルの色選びを発動。自分のデッキから基本エネルギーを三つまで選び、手札に加える」
ドーブルが自分の尻尾で空中に絵を描く。鋼のシンボルマークが三つ描かれた。
「鋼ねぇ。まあ俺様のオカルトデッキの相手になんねえな」
「所詮エスパーじゃん」
「どこまでも喧嘩売んのが好きなガキだな。よっぽど痛い目に遭いたいと見た」
「そんなこと言ってると自分が負けた時すごくはずかしいから気をつければ?」
「ケッ。俺のターン! ベンチにヤジロンを出してバトル場のヨマワルに超エネルギーをつける。手札からサポーターのミズキの検索を発動する。デッキからたねポケモンか基本エネルギーをそれぞれ二枚まで選択して手札に加える。俺が選ぶのはゴースと超エネルギーだ」
デッキ横の赤いボタンを押すと、デッキから指定通りのカードが出てくる。便利なこった。
「ヨマワルで攻撃。影法師! このワザの効果によって相手にダメカンを一つ乗せる!」
ヨマワルは一瞬で姿を消すと、ドーブルの影から現れ右手でドーブルをはたく。ドーブルが振りかえる前にヨマワルは再び姿を消し、俺のバトル場に戻った。
「ターンエンドだ」
「僕のターン。ディアルガに鋼エネルギーをつけてベンチにコイルを出す」
ディアルガの隣にコイル50/50が現れるが、ディアルガと大きさを対比すると小さいのなんの。
「そして手札のモンスターボールを発動。コイントスをして表ならデッキから好きなポケモンを手札に加える」
そうして沙村はデッキ横の青いボタンを押した。ドーブルとヨマワルの間に大きなコインが現れ、虚空にトスされる。示された結果は裏。沙村はおもむろにバツの悪そうな顔にする。
「ドーブルでもう一度色選び」
再び鋼のシンボルマークが三つ、ドーブルによって描かれる。
「鋼しか入ってねえのかよ」
「いちいち五月蠅いなあ。ムカつく。マジでくたばっちゃえよ」
「そおかい。だったらお前に特別に地獄を見せてやる。まずはそのための下準備だ。俺のターン、手札からミズキの検索を発動。手札を一枚戻し、デッキから好きなポケモンを手札に加える。俺はネンドールを手札に加えさせてもらうぜ」
手札のカードを一枚デッキトップに置いて青いボタンを押すと、ネンドールがオートで選ばれデッキから突き出される。俺がネンドールを手札に加えるや否や、デッキは再びオートでシャッフルしだす。
「ベンチのヤジロンをネンドールに進化させ、バトル場のヨマワルに超エネルギーをつけてサマヨールに進化させる!」
それぞれのポケモンが進化する。ポケモンの右下に表示されるHPバーはサマヨールが80/80で、ネンドールも同じ80/80だ。
「ここでネンドールのポケパワーを発動だ、コスモパワー! 自分の手札を二枚まで好きな順にデッキの底に戻し、自分の手札が六枚になるまでドローする!」
手札のクロツグの貢献をデッキボトムに戻す。これによって俺の手札は0。よって六枚きっちりドローすることができる。
「手札のポケモンの道具、ベンチシールドをネンドールにつける。ベンチシールドがついたポケモンはベンチにいる限りワザのダメージは受けなくなる」
ベンチにいるネンドールの前に六角形の水色の薄い盾が現れる。
「ここでサマヨールで攻撃だ。闇の一つ目!」
サマヨールが目を閉じて息を大きく吸うと辺りが暗くなった。サマヨールが勢いよく目を開くと、まさにインパクトは大。ドーブルは衝撃で後ろへ吹っ飛ばされる。ドーブルのHPバーは60/70から40/70へ。
「闇の一つ目の効果によって、俺は手札を一枚捨てる。そしてお前も手札を一枚捨てるんだ」
俺は手札からヨマワルを捨てる。相手は鋼エネルギーを捨てたようだ。
「僕のターン。手札の鋼エネルギーをドーブルにつける。ベンチのコイルをレアコイルに進化させてサポーターカード、スージーの抽選を発動。手札を二枚トラッシュしてデッキから新たに四枚ドローする」
沙村が手札からトラッシュしたカードは鋼エネルギーとディアルガLV.Xだ。
(LV.Xのカードを捨てるって一体……)
「なんかしらのサルベージ手段があンだろな」
「手札からゴージャスボールを発動。デッキからLV.X以外のポケモンを手札に加える。僕が手札に加えるのはジバコイル」
ドーブルの横にゴージャスボールが現れ、パンと軽快な音を立てて開く。中からはジバコイルの拡大コピーの絵が現れた。
「ドーブルでトレース。このワザはコイントスをして裏ならば失敗する」
再びコイントス。さっきのモンスターボールで外れたせいか、今回はきっちり表を出した。
「トレースのダメージや効果は相手のベンチポケモンのワザと同じになる。あんたのネンドールのワザをもらうよ。回転アタック」
ドーブルがコミカルに回転し、サマヨールに突撃していく。
「わりぃな。サマヨールの抵抗力は無色だ。よってサマヨールが受けるダメージは40から20へ減少する」
サマヨールのHPバーは60/80。まだまだ余裕はある。
「さあ俺のターンだ。ドロー。ゴースに超エネルギーをつけてゴーストに、サマヨールをヨノワールに進化させる!」
これでヨノワールのHPは100/120。一気に40上昇だ。ゴーストも80/80までHPが上がる。
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動。俺は手札を一枚デッキボトムに戻して六枚になるよう、つまり五枚ドローする。ベンチのヨマワルをサマヨールに進化させ、サポーターのシロナの導きを発動する。自分のデッキの上から七枚を見て、そのうち一枚手札に加える。残りをデッキに戻してシャッフル!」
上から七枚めくって確認する。コール・エネルギー、ヨノワールLV.X、アンノーンQ、ネンドール、ミズキの検索、不思議なアメ、ゴーストの七枚だ。
「ケッ、憎いほどいいタイミングだな」
黙ってヨノワールLV.Xを手札に加える。シロナの導きの効果によって手札に加えたカードは相手に見せるまたは知らせる必要はない。残りの六枚をデッキに戻してシャッフルさせる。
(場は揃ってきたけど油断は禁物だよ)
「はいはい。だがまあまずは目の前のドーブルを潰すとっからだな」
今の手札は五枚。ヨノワールを効率よく動かすには一枚邪魔だな。
「ゴースをベンチに新たに出すぜ」
これで俺のベンチはサマヨール、ネンドール、ゴースト、ゴースの四匹がいることになる。空きスペースに入れるのは残り一匹か。
「ここでヨノワールのポケパワーだ。影の指令! デッキからカードを二枚ドローし、手札が七枚以上ならば六枚になるようにトラッシュする。その後ヨノワールにダメージカウンターを二つ乗せる」
手札をわざわざ四枚にしたのはこのためだ。用無く手札からカードを捨てるのはあまり得策ではない。
「ダメカンを乗せてまでドローしたいの?」
「俺がわざわざ手札を引きまくった理由を教えてやる。ヨノワールでダメージイーブン!」
ヨノワールの腹にある口が開き、四つの赤い玉が現れる。
「さっさとそのドーブルを潰させてもらうぜ」
頬の筋肉が痛くなりそうなほど笑ってやる。ヨノワールが放出した赤い玉はドーブルに突き刺さり、HPバーを削って0にする。するとドーブルは急に力を失ったように前に倒れこんだ。
「ダメージイーブンはヨノワールに乗ってるダメージカウンターの分だけ相手のポケモン一匹にダメージカウンターを乗せる。影の指令でダメージカウンターを乗せなきゃドーブルのHPは20しか削れず20/70で耐えられるが、わざわざカードを二枚引くだけでお前のドーブルは気絶だ。ざまあねえな」
「っ……。次のバトルポケモンはディアルガだ」
「ケッ。サイドを一枚引いてターンエンドだ。この俺様にケンカを売ったんだ、もうちょっと楽しませてくれよ?」
拓哉(裏)「今回のキーカードはヨノワールだ。
影の指令、ダメージイーブン、ナイトスピンとそれぞれ方向性が違う。
このカードを使うトレーナーのプレイングが鍵だ」
ヨノワールLv.48 HP120 超 (破空)
ポケパワー かげのしれい
自分の番に、1回使える。自分の山札からカードを2枚引き、自分の手札が7枚以上になったら、6枚になるまで手札をトラッシュ。その後、このポケモンにダメージカウンターを2個のせる。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
超無 ダメージイーブン
自分のダメージカウンターと同じ数のダメージカウンターを、相手のポケモン1匹にのせる。
超超無 ナイトスピン 50
次の相手の番、自分は、ついているエネルギーが2個以下のポケモンから、ワザのダメージや効果を受けない。
弱点 悪+30 抵抗力 無−20 にげる 3
「あっ、アイコさん。今着きましたよ」
『お疲れ様ね』
「とりあえずホテルにチェックインしてからポケモンセンターオーサカにでも行ってみます」
『遊びに行かした訳じゃないわよ、ちゃんと仕事しなさい』
「分かってますよそれくらい」
『いつもはもっと大人数で行くんだけどもごめんね? こっちもいろいろ忙しくて。言わなくても分かってるだろうけど』
「大丈夫です。任せてください」
『うーん、そう言われると逆に不安ねぇ。とにかく、大阪はよろしくね。一之瀬くん』
PCC大阪地区予選が明日に控えた日の昼頃、新大阪駅に一人の男が現れた。
一之瀬と呼ばれた彼は、携帯電話の通話が切れたのを画面で確認する。通話相手は松野藍。クリーチャーズの社員であり、彼の上司である。
とある仕事のために彼は東京から大阪にやって来たのだ。
携帯電話を畳んでポケットに入れると、彼は新大阪駅の出口を目指す。
来る二月下旬の土曜日。翌日が模試とぶつかるため、二日あるPCC大阪予選を、日曜日ではなく土曜日を選んだ。由香里ももちろん土曜日だが、タカは俺達の都合に合わせてくれた。
会場はインテックス大阪。大阪市の南西部に位置する建物で、こういうイベントにならなければ陽の目を浴びない埋め立て地である。とはいえ割りと頻繁にイベントは行われているが。
地元の地下鉄の駅で集合した俺達は、しばらく電車に揺られると、途中から中央線へ乗り換えて今度はコスモスクエア駅に行き、そこから更に南港ポートタウン線に乗り換えて二駅次の中ふ頭駅で降りる。
もちろん、電車に乗っている間は口を開けて天井を眺め、だらっと寝ている訳もない。
タカのようにゲーム部門出場者はギリギリまでポケモンを確認、及び努力値を振っていない場合はさっさと振る。ちなみにこの作業は電池との戦いであり、前日にきちんと充電しないと痛い目に会う。余談だが去年のタカはその目に会った。
今年からカードで出場する俺と由香利は、自分のデッキとスペアカードを見比べうんうん唸る作業をしなくてはならない。他のカードゲームとは違い、デッキが60枚以上ではなく60枚ジャストでなければならないので、欲しいカードを全部詰めておくという訳にはいかないのだ。そもそもデッキ圧縮的に60枚を越すというような考えは普通はないのだが。
「啓史、コスモスクエア着いたで」
由香利が俺の右肩を結構な力でバシバシ叩きながら言ってくれる。痛いです。
適当に頷き、広げてたカードを慣れた手つきで手に持ったケースに直して席を立つ。そしてホームへと降り立ち、南港ポートタウン線へと向かおうとしていた時、背後から急に現れた人とぶつかった。
「でふっ!」
後ろからの衝撃に耐えきれず、思わず前に倒れそうになる。
ギリギリのところで踏みとどまったが、手に持っていたカード数枚が手の中からこぼれ落ちる。線路に落ちなくてよかった。
「ごめん、大丈夫!?」
ぶつかった張本人が、慌てて重そうなショルダーバッグを下ろして落ちたカードを回収する。
幸いにもそんなにあちこちに散らばりまくったわけでもないのですぐに回収することが出来た。
「本当にごめんね」
「えっと、大丈夫です」
時間ギリギリだったらぶちギレだった。早めに家を出れて本当に良かった。
改めてぶつかった男を見れば、ひょろい体格で、髪型にもあまり特徴がなく、大学生のように見えた。この人にかろうじて印象をつけるなら優男?
しかしまあ用は済んだわけだし、軽く会釈して立ち去ろうとすると、それを引き止めるように男が声をかけてきた。
「君たちはPCCに出るんだよね」
「はぁ」
「僕も行くんだけど、連れて行ってくれないかな、この辺全然来ないもんだから分からなくて」
別に断る理由があるわけでもないので、この優男と一緒に行くことにした。
男の名前は一之瀬 和也(いちのせ かずや)というらしい。
言葉の訛りが関西圏ではなさそうなので、どこの人かと尋ねたところ、なんと東京から来たらしい。
「なんで東京から大阪に来たんですか?」
「えーと、まあ仕事みたいなのかな」
仕事ってことはスタッフ? 会場のスタッフって東京からわざわざ来てるの? っていうか選手と同じ時間で来るってどーよ。
「ところで森くん達はカードでPCCに出るの?」
「えっとここにいるタカだけゲームで、俺と由香里はカードです」
「へー。それじゃあさっきのお詫びも兼ねて、僕が森くんと宇田さんにプレゼントをあげよう」
と言うなり一之瀬さんはすぐさま重そうなショルダーバッグをごそごそ漁り始めた。
一之瀬さんは横に広い直方体の段ボールを二つ取り出し、それぞれ俺と由香里に渡した。
「お?」
「それは『バトルベルト』。今年から公式大会で導入される機械で、TECKって会社が作ったんだよ。企画したのが高校生らしいけどすごいね」
バトルベルトはよく聞くし、玩具店などでショーウィンドウ越しに見たことはある。
一色のベルトにモンスターボールのような球体が六つついた機械で、一定の操作を行う事でモンスターボールがテーブルに変形し、そのテーブルを使ってポケモンカードを使うと鮮明な3D映像として実際にポケモンが動いてるように見える最新機械である……らしい。
もちろん、立派なものだけあってか値段が相当なので買う気にはなれなかった。大会の予選はともかく本選ではこれが導入されるのだが、レンタル可能なのでそっちに頼るつもりだったものの、もらえるなんて嬉しい誤算。俺は一之瀬さんの手を握って何度もありがとうといいながらその手をぶんぶんと強く振った。
「杉浦君はごめんね。今はゲームの方も作ってるらしいから、そっちが出来てまた会えたときに」
「あっ、ありがとうございます!」
しかしこんな高いものをくれるなんてただ者ではない。親しくなってウルトララッキー。ここで運を使い果たしたかもしれない。
「箱のまま持っていくのは大変だし、大会まで時間があるからここで開けてみたら?」
一之瀬さんは荷物の減ったショルダーバッグを担ぎ直して提案する。
「よっしゃ、開けよか!」
段ボールに一切の配慮なく豪快に開けていった由香里を尻目に、俺も自分のを開けていく。
薄いブルーのバトルベルト。なかなかいい色だ。持った感じはやはり重みがあるのだが、これくらいはなんてことない。
「よし、着けれたで」
今つけていたベルトを外して新たにバトルベルトをつける。
由香里も着けたらしく、自慢気に見せつける。色は薄い赤だ。
「似合ってる似合ってる」
一之瀬さんはご満悦らしく、俺たちのことを称賛する。
いやぁ、しかし結局はほんと時間よりも早めに出てよかった。早起きは三文の得ということわざを初めて体で知った。
段ボールや梱包材等を駅のゴミ箱に押し込み、説明書や備品を鞄の中に入れ、目的地に向かい再び歩き出す。
「思ってたより遅くなったけど、そろそろ行こか」
コスモスクエア駅からようやく南港ポートタウン線に乗り換え、中ふ頭へ向かう。
予想通りであるが、南港ポートタウン線にいる人のほとんどがDSをいじくっている。
俺はゲームで出場しないのでこいつらすげぇと遠目に見るも、隣にいるタカにしてはプレッシャーを感じているかもしれない。
この二駅の間は短く、中ふ頭駅に着いた。
乗客の大多数がこの駅で降りる。普段は使われなさそうな線なだけに多少は金が回るな、なんてどうでもいいことを考えていた。
中ふ頭駅は至ってシンプルな駅で、キップ売り場と改札とホームしかないといっても反論はないような小さい駅だ。そこがごった返すんだから大変大変。
人で溢れる改札をサクッと通り、駅から直結している白い橋を渡る。
橋を渡り終え、別れ道を右に進むとすぐにインテックス大阪が見えてくる。
インテックス大阪は国際会議に使われることもあるらしく、そのときに旗をつけるであろう白い棒が風でカタカタ騒いでいた。
そこから少ししてインテックス大阪の玄関口が見えてくる。
「ねぇ、この辺りってコンビニとかない? 喋り疲れて喉渇いちゃってさ」
一ノ瀬さんが尋ねてくる。
この人、出会ってからずっと喋りっぱなしなのだからそりゃ渇くだろう。が、
「ないです」
そう、全くない。
一ノ瀬さんが後ろにエフェクトが付き添うなほど露骨なリアクションをとった。
「えぇ!? お昼ご飯もなし!?」
「あ、でも会場内に売店みたいなのがいくつかあるからそこで弁当やらペットボトルやらありますよ」
「それならよかった」
とやりとりしてる間に、インテックス大阪の玄関を越える。すると開放的な空間が広がり、いくつか売店の姿が見える。
「ほら、あれとか売店ですよ」
「おぉ、ありがとう! みんなも喉乾いてるんじゃない? なにか買ってあげるよ」
「いや、いいですいいです」
いいですと言いつつ、めっちゃ欲しいです。
でも露骨におごってもらうと悪い気がするからね。無駄な抵抗をして少しでもいい人っぽく装った方が印象がいい。
由香里はそのことを知っているのですごい白い目で俺を見つめた。どうせお前も欲しいだろうに。
「いやいや、案内してくれたお礼ってことで」
俺の呼び止めも虚しく一ノ瀬さんは売店の中に入っていった。しめしめ。しかし同時にタカも一之瀬さんとは反対方向に去っていく。
「それじゃあまた後でな」
「おう」
タカはネットの友人と会いに行くため、ここからは別行動である。あとでまた合流することにはなっているのだが。
遅れて売店から出てきた一ノ瀬さんは、おにぎりと爽健美茶と、缶ジュースの温かいコーンスープを三つ持って来た。
「あれ、杉浦くんは?」
「別の友達のとこに合流しました」
「そっか。じゃあとりあえず二人にはコーンスープを。僕もこれからいろいろあるからまた後でね」
立て続けに一ノ瀬さんとも別れてコーンスープを手に持った俺と由香里の二人はただ立ち尽くす。なぜコーンスープ。とにかくもらったコーンスープをさっさと飲んで処理(入場の際に持ち物検査があり、そのときに飲み物は徹底的に調べられて面倒だから)して会場へ入場する。
「ゲームのカテゴリーBの最後列はこちらでーす!」
スタッフ専用の赤いウインドブレーカーを羽織った男性職員が大きな声を張り上げる。
まだまだ寒さの続く二月。海に近いため冷たい海風もやってくるインテックス大阪で、ゲームカテゴリーBみたいな列に並ぶだなんて冷えて冷えてたまらない。
そんな行列を横目に、俺たちは手早く会場の方に進んでいく。ゲームと違ってカード出場選手は少ないため、列は並ばずさっさと中に入れるのだ。
会場入り口のスタッフに、だいすきクラブのカードと身分証明となる高校の生徒手帳を提示すると選手証を受けとる。
そのあと、荷物検査と金属検査を受ける。
そしてようやく会場内だ。俺と由香里は迷う暇なくカードの予選ラウンドが行われる方へ向かった。
啓史「今回のキーカードはガブリアスC LV.X!
ポケパワーも強力やけど、なんといってもそれ以上の魅力はワザやな。
ドラゴンダイブに死角はなし!」
ガブリアスC[チャンピオン] LV.X HP110 無 (Pt)
ポケパワー いやしのいぶき
自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。自分のSPポケモン全員のダメージカウンターをすべてとる。
無無無 ドラゴンダイブ
自分のエネルギーを2個トラッシュし、相手のポケモン1匹に、80ダメージ。次の自分の番、自分は「ドラゴンダイブ」を使えない。
─このカードは、バトル場のガブリアスC[チャンピオン]に重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 無×2 抵抗力 ─ にげる 0
何事か、思わず目を大きくして驚いた。
一昨日テレビで観ていた人が目の前にいる。コンテストだけじゃなくて、それ以外にもメディアや雑誌でも活動していて、おれでさえ今回の件になる前から知っている人だ。
偉そうな口を言えたものではないが、観光地なだけあって取材に来る有名人も多くそれを遠巻きで見ていたことはあったが、その有名人に話しかけられることなんて今の今まで一度もなくて、初めてのことに胸の鼓動が高ぶった。
このチャンスにいろいろコンテストについて話をしてみたいが、ジグザグマのグウウウウという唸りが現実に引き戻す。そうだった。優先順位は決まってる。
「あの、ジグザグマをどうにかしてやってください!」
つい反射的に、頭を下げて頼み込む。揺れたおれの長い髪から、さらさらと髪にまとわりついていた砂がいくつか零れる。まだ口の中が砂のせいでじゃりじゃりとした感覚を残し、非常に気持ち悪い。
「……はいはい、ちょっとそこのジグザグマ見せてくれるかな?」
エレナさんはユナが抱えてるジグザグマの様子を伺う。が、当のジグザグマはそんなエレナさんをスルーし、牙を立てておれを威嚇し続ける。
「わっ。ぜ、全然こっち見ないわ、ここまでなのは私も初めてねぇ。トレーナーさんはどっち?」
「わ、わたしです」
「一度ボールに直してもらえる?」
「あ、はい」
ポケットから取り出したモンスターボールに、ジグザグマを吸い込ませる。ようやく威嚇の吠えがなくなり、ただただザザァと遠くで波の音がする。
「うーん、どうしようかしら。二人はこれから時間ある? さすがにパッと見ただけでは解決出来ない感じだから、普段どうやって育てたかとかの経緯が聞きたいし」
「お、お願いします! ユナはどうする、先に帰る?」
「わたしも一緒にいて良いですか?」
「ふふっ、もちろんよ。仲が良いのね。貴女達は双子かしら?」
「えっ、あの――」
「そうです。わたしがユナで、こっちが姉のカノンです」
「え?」
「そう、やっぱり。髪型が違うから印象はちょっと違うけど、ちゃんと見れば凄く似てるものね。そうだと思ったわ!」
ちょっと待て、いつの間に双子になったんだ。っていうかおれが姉なのかよ。問い詰めようとユナに近付いたとき、余計な事は言うな、と目で言われた。
まあ確かに似てるどころか完全に顔が一緒なのに、他人と言うのも難しいか……。
「とりあえずカノンちゃん、だっけ? 砂だらけだし、何とかしないと。一旦私がいるホテルにいらっしゃい?」
「いいんですか?」
「もう日も落ちるし、女の子だけで夜中に外にいるのは何かと危ないでしょ?」
「はぁ……。そう、ですね」
女の子、ねぇ。それに自分が含まれてるというのは、もやもやしたような、複雑な気分でもあった。
「バスルーム貸してくださってありがとうございます」
「気にしないでいいよ。砂だらけだったからねぇ、着替えもサイズ合うかわからないけど……」
エレナさんが宿泊しているという、109番水道とカイナシティの狭間に位置するかなり大きなホテルに案内されたおれたち。ホテルに行くなんてまずないことだし、ましてやスイートルームなんてものを見せつけられて威圧されてしまう。
エレナさんに渡された、肩紐の丈の短いキャミソールワンピを身に纏い、ソファーに座っているユナの隣に腰を降ろす。大衆の前にそれを晒している訳ではないが、肌が大分露(あらわ)になっているのはなんだか恥ずかしい。
「可愛いね! うん。足も白くて綺麗」
「エレナさんに綺麗って言われるなんて凄いじゃない!」
「うん、ありがとう……」
おれが褒められることは間接的にユナを褒められることでもある。おかげでユナの方が嬉しそうだ。
……が、そんな悠長な事を考えてる場合じゃない。
「あの、本当にいいんですか?」
「何がかしら?」
「ジグザグマをわざわざ見てもらって。……お金も今は無いし」
エレナさんは体を小さく揺らしてクスリと微かに笑う。女になった訳だけど、エレナさんの陶器のように綺麗な白い肌や、優しげな瞳に吸い込まれてしまいそうになった。
「困ってる人を助けるのに理由はいらない、ってやつよ。気にしないで。じゃあジグザグマについていくつか質問させてもらうわ」
「……はい」
「ジグザグマとは昔からこうなの?」
昔から。いいえ、と言うのは簡単だけど、ただそれとは事情が違いすぎる。かと言ってそんな突飛な話を言えるはずもない。
と迷っていると、ユナが先にはい、と答えた。
「本当は幼なじみの男の子のポケモンだったんですけど、ちょっといろいろあって男の子はいなくなって、預かることになったんです。あっ、でも前からジグザグマはわたしのことそんな好きじゃないみたいだったんですけどカノンが預かってからカノンにすごい攻撃的で」
エレナさんは右手を顎に添えて、真剣な様相で軽く頷く。その挙動にも気品があって、つい目が行ってしまう。
「……じゃあ、ちょっと根掘り葉掘り聞かせてもらうわね」
そこからは本当に矢継ぎ早にジグザグマの生活について、例えば件の前後での体調変化や食生活についてなどを質問される。ユナが答えれるならユナが先に答えて、細かいところはおれが答える。それを繰り返しているうちに、やがてエレナさんの口が止まった。
少しの間待っていると、俯いていたエレナさんがパッと顔を上げてこっちを向く。
「一番現実的にありえそうなのは環境ね」
「環境?」
「そう。環境。今まで慣れていたトレーナーから、違うトレーナーに預けられたことによって環境が変わり、気が立ってるんじゃないかしら」
例えて言うなら、引っ越ししてから慣れるまでは落ち着かないのと同じこと、とエレナさんは表情を緩めて続ける。
「だいたい……。あの様子だと数ヶ月くらいは」
「数ヶ月もするん……ですか」
「何かあるの?」
気落ちしたおれに変わって、ユナが割って入るように口を開く。
「実はカノン、今週中に旅に出るつもりなんです」
「旅! いいじゃない。……あっ、手持ちがジグザグマだけとか?」
「そうなんですよー。だからちょっと気落ちしたみたいなんです」
「うーん。逸る気持ちも分かるけど、ここはじっくりした方が貴女のためにも、ジグザグマのためにもなるわ。旅をしながらだと、ほら、常に環境が変わった状態でしょ? ポケモンは自然の力とか保護色みたいなワザにも性質が現れてるけど、人間以上に環境の影響を受けやすいの。だから一流トレーナーだってアウェイで戦うときはフルパワーを出せないポケモンがいたりするのよ」
分かりやすく、もっともだ。もっともだから、何も言い返せない。
ユナも心配そうに顔を伺う。目が合って、そっと笑みを作ると、ユナも静かに笑ってくれた。
「旅するからにはやっぱりチャンピオンとかを目指すの?」
「いや、コンテスト全制覇です」
「全制覇かあ。もちろんチャンピオンも目指すのは大変だけど、それ並に全制覇も厳しいわよ。覚悟はある?」
すっ、とエレナさんの目が鋭利な刃物のようにおれを射す。喋り口調は先程と同じように柔らかかったが、こちらを見る表情は一番の真剣さが宿っていた。
覚悟。具体的にはなんなんだ。分からない。緊張してきた。手が汗ばむ。
でも全制覇をしたい、してやりたい気持ちに違いはない。これが覚悟なのだろうか?
「絶対全制覇します」
乾いてシールのようにひっついた口を開け、語気を強めて言い放つ。程なく、エレナさんは小さく頷いた。
「良いわね。貴女の意気込み、伝わったわ」
どうやらまずいことを言った訳ではないようで、そっと胸を撫で下ろす。
入れ替わるように、ユナが身を乗り出してエレナさんに質問する。
「エレナさんは最短全制覇記録出してますよね。何かコツってあるんですか?」
「ちょっと待って、最短全制覇記録って?」
「最初にノーマルコンテストに参加してから、マスターコンテスト全部門制覇までにかかった日数のことよ。私はだいたい八年ちょっとくらいだったわ」
「は、八年!?」
「さて、残るは実技だけか」
8月18日、俺は仕事の採用試験を受けていた。さっき面接が終わったばかりだ。内容はと言うと、免許の有無や知識の程度を計るもの。俺は免許なんて持ってないから、実演してやった。すると残りの質問は全てパスされた。まあ、これでも何年間かやっていたからな。ある程度の腕になるのも当然か。
面接が終わると、俺はグランドに案内された。中々広いな。校舎も合わせればがらん堂に匹敵するだろう。俺が着いた時には、辺りに野次馬が1人の男を囲っていた。男は上半身裸で、髪は白髪混じり。裸足にズボンの組み合わせだ。……上くらい着ろよ。俺がそんなことを考えていると、男は声をかけてきた。
「ほう、君が志願者か。なるほど、見ただけでかなりの強者だと分かるな。これは期待できそうだ!」
「……あんたが校長か。どこかで見たことがあるような気がする」
人ごみをかき分けながら男が俺の前にやって来た。実技試験は校長自らがやるとは聞いていたが、何をするつもりだ?
「なんだ、君はわしを知らんのか。では自己紹介だ。わしはシジマ、タンバジムリーダーであると同時に、タンバ学園の校長をやっておる。まあ、学園とは言っても高校なんだがな、がはははは」
男、シジマは腹の底から笑いあげた。……そう言えば、俺が旅をしていた頃に戦った記憶があるぞ。格闘タイプの使い手だったような。
「タンバジムリーダーか。どうりで強そうなはずだ。で、その校長がわざわざ出向いたということは……」
「その通り!」
俺の言葉が終わる前に、シジマは頷いた。それからボールを手に取る。
「実技試験は、わしとのバトルだ。2対2で戦い、その結果を評価に加味する。ここまで来たのだ、今更後戻りなどできんぞ」
「勿論だ。ジムリーダーとは厄介な相手だが、大丈夫だろう」
俺は腰に提げたボールを掴み、シジマと距離を取った。野次馬達も俺達から離れていく。勝負の準備は整った。俺とシジマの間に審判らしき男が残り、試合開始を宣言する。
「これより、実技試験を始めます。対象は校長、志願者。使用ポケモンは2匹。以上、始め!」
「ではわしから、オコリザル!」
「フォレトス、出番だ」
俺はまず、フォレトスを繰り出した。一方シジマはオコリザルだ。オコリザルは、確か格闘タイプでは6番目くらいの素早さだったな。技の種類も豊富、油断したら手痛い一発を食らうだろう。ま、フォレトスを一撃で仕留めるのは不可能だがな。
「ぬふふ、格の違いを示すのだ。オーバーヒート!」
先手はオコリザルだ。オコリザルは体中から熱波を放った。その熱さは、地面が焼け焦げていることから想像に難くない。俺も暑い。フォレトスはこれを直に受けたが、なんとか踏みとどまった。さすが、頑丈の特性は便利なもんだ。さて、反撃と行くか。
「甘いぜ、だいばくはつだ」
フォレトスはオコリザルに接近し、爆発した。爆風はオコリザルを襲い、黒煙が2匹を覆う。しばらくして、煙が晴れてきた。そこには気絶したフォレトスとオコリザルがいた。
「フォレトス、オコリザル、両者戦闘不能!」
「なぬ、オコリザル!」
シジマは唸りながらオコリザルをボールに戻した。俺もフォレトスを回収し、2匹目をスタンバイさせる。
「なんだ、ジムリーダーも弱くなったもんだ。俺が旅をしていた頃はもっと強かったはずだが」
「……貴様、わしと戦ったことがあるのか?」
俺の言葉に、ジムリーダーは反応した。まあ、もう20年も前の話だからな。覚えていなくてもなんら不思議なことではない。
「ああ、確かに。さっき思い出した。もっとも、もう随分昔の話だがな」
「なるほどな。ふっ、それを聞いて安心した。ならばわしの新たな力、とくと見るが良い。ハリテヤマ!」
シジマは自信満々に2匹目のハリテヤマを投入した。ハリテヤマと言えば、格闘タイプでも指折りの耐久を持つポケモンだよな。攻撃も十分ある。素早さが低いから行動回数こそ少ないものの、交代からでも仕留められるポケモンは多い。
「ハリテヤマか、一撃は難しいな。だがこいつにかかれば……カイリュー!」
だが、俺の前にその程度では意味がねえぜ。俺は切り札のカイリューを送り出した。その瞬間、野次馬達がどよめいた。なんだ、ドラゴンタイプがそんなに珍しいのか? 45番道路で釣りをすればゲットできるんだがな。まあ、そんなことはどうでも良い。今は目の前の試合に集中だ。
「ねこだまし!」
先に動いたのはハリテヤマだ。ハリテヤマは拍手をしてカイリューをひるませると、その巨体に似つかわしくない速さで接近、カイリューをはたいた。俺のカイリューの特性をマルチスケイルと知っての行動とは思えないが、面倒なこった。
「っち、ちょこざいな。カイリュー構うな、ぼうふう攻撃」
カイリューは肩の翼で突風を巻き起こした。ハリテヤマは地面に伏せてやり過ごそうとするが、そうは問屋が卸さねえ。大風はハリテヤマを吹き飛ばし、ハリテヤマは背中を叩きつけられた。
「なんの、ストーンエッジ!」
ハリテヤマはすぐに立ち上がると、その場で足踏みをした。すると、カイリューの足元から岩の刃が生えてきた。刃はカイリューの腹部をえぐるが、なんとか凌いだ。俺は胸をなでおろし、最後の指示を出す。
「終わりだ、しんそく」
カイリューは、目にも止まらぬ速さでハリテヤマに突っ込み、そのまま蹴散らした。ハリテヤマは地響きをたてながら崩れ落ちる。
「ハリテヤマ戦闘不能、カイリューの勝ち! よって勝者、志願者テンサイ!」
「ふん、当然だな」
俺はカイリューを引っ込めた。引退したとは言え、かつては頂点を取った男だ。そう易々とジムリーダーに後れを取るわけがない。しかし、野次馬共の歓声はどうにかならねえのか? うるさくて仕方がない。
そんなことを考えていると、敗れたシジマはハリテヤマをボールに収め、俺に近寄って来た。妙に晴れ晴れとした表情だ。
「テンサイとやら、見事であった。ジムリーダーのわしをこうもたやすく突破するとは。だが、これでもまだ実力の一部しか出しとらんのだろ?」
「……さすがに分かっちまうか。俺の本領は力任せではない。もっと、驚きと巧さを備えたものだ」
「そうか。しかし、その状態でこれほど強いとなれば話は早い。是非とも、9月1日より教師として我が学園の生徒を鍛えてやってくれ」
シジマは俺に握手を求めた。俺はそれに応じた。これで採用か。なんだかあっけないもんだが、それについては言わないでおこう。
「……了解した。それでは、俺はそろそろ失礼させてもらおう。当日からはよろしく頼む」
俺はこう言い残すと、さっさと帰宅するのであった。今日の飯は美味くなりそうだ。
・次回予告
登校初日、事件は起きた。職員室は朝から大慌て、カメラがあちこちを撮っている。一体、何が起きたと言うんだ? 次回、第5話「9月1日」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.71
久々のバトル、中々楽なものです。何故なら、まだポケモンの数が少ないからです。これが段々増えてくると思うと……。しかしテンサイさん、さすがに採用試験であの口調はまずかったかな。普通ならあの時点で一発アウトな予感。
ダメージ計算は、レベル50、6Vフォレトス腕白HP防御振り、オコリザル無邪気攻撃素早さ振り、カイリュー控えめHP特攻振り、ハリテヤマ意地っ張り攻撃特防振り。フォレトスの大爆発でオコリザルが中乱数1発、カイリューはハリテヤマの猫だましとストーンエッジをマルチスケイル込みで確定で耐え、暴風と神速でハリテヤマを確定で倒せます。
あつあ通信vol.71、編者あつあつおでん
フードコートにやってきた。大概こういうところは相当な広さを誇り、人が多くて困るのだが由香里達を探すのに時間はかからなかった。
それもそのはずフードコートに入ると同時に石焼きビビンバを乗せたお盆を運ぶ由香里とすぐに出会った。
「勝てた?」
「当たり前やん、ちゃんとカードもらって来たで」
「まあそれくらいは当然やな。で、とりあえず杉浦も待ってるから席教えるわ」
今いるところからタカが待っているところまではそう距離はなく、ちょっと歩くだけで席に着いた。タカはラーメンを食べながらDSしている。
席について由香里はビビンバを置くと水取ってくると言って雑踏に混ざっていった。
「どやった?」
タカがスープをレンゲで掬いながら話しかけてくる。こっちを見てない。
「ちゃんと勝てたで。そっちの方は?」
「ここ来てからワイヤレス通じるようなって、今三戦目。ちょこちょこギラティナ出てきてめっちゃうっといわ」
「パルキア入れてへんかったっけ」
「いつもとちゃうPTでやってる」
「ふーん。とりあえず俺もなんか飯買ってくるわ」
「ゲームの方までまだ一時間あるからあんま慌てなくてもええで?」
「じゃあのんびり決めてくるわ」
そう言って、タカのいるテーブルを離れる。そんなお昼の一時だ。
店を回ってうんうん言った割には、俺もタカと同じくラーメンを食べることにし、ささっと食べるとデッキケースを直して午後のゲーム部門のためにDSを取り出した。
「あれ、由香里はゲームも出るっけ」
「あたしも出るよ? ちゃんとDS持ってきたし」
と、ハンドバッグから黒いDSLiteを見せつける。
DSを出したのと入れ替わりにデッキケースを直しかけた由香里だが、手が滑ったらしくケースを床に落としてしまう。
しかも蓋がきちんと閉まっていなかったがために中のカードがこぼれ落ちている。
「おっと」
なんだか俺のせいで落とした気がしてなんだか悪い。という訳でもないのだが、脊髄反射的に落ちたカードを拾うのを手伝う。
由香里のカードは基本的にデッキシールドされているのだが、一枚だけデッキシールドのされていないカードが落ちていた。
他のカードがまだ拾われていないにも関わらず、先にそのカードを拾いあげる。
「なんだこれ」
裏面は普通のカードだが、表面の部分は剥がされ、剥がされたところにボールペンでイラストとテキストが書かれていた。※プロシキカードかと思ったがそうでもないようだがなんだこれ。
※プロシキカード・代理のカード。持って無いカードを代理で別のカードを入れて使うこと。
カード名は「マニーの決意」とのことで、サポーターカードらしい。バクフーンを連れ、腕組みをした男がイラストにある。
そのカードテキストには、「約束を守る」。はぁ?
なんだこれと思っていると、由香里がひったくるようにそのマニーの決意を奪い取った。
「……」
急に手元のカードをひったくられたことに呆気に取られ、由香里を見つめる。
「な、なんでもええやん!」
顔を赤くして大きな声を出す由香里。よくわからないままこれまた反射的にごめんと謝ってしまう。
とはいえあのカードのことを思い返してしまう。あの字は筆跡からしても由香里のではない。力強くカクカク書かれた具合が男の字だと物語っていた。
まさか彼氏とかか!
一人でニヤニヤしていると、隣のタカが不審な顔でこっちを見てきた。
「なるほど、そういうことか」
確証を得るためにアタックを仕掛ける。
「な、何よ」
「誰からもろたん?」
「……」
自分でも余計に顔がニヤつくのを実感する。そして自分で自分が気持ち悪いとも思う。
「もー、鬱陶しいし隠すことでもないから言うわ」
開き直って白状モードか! さあ真実はなんなのか!
「ほらあたしさ、中学んとき東京行ってたやろ? 東京から大阪に戻るときにあたしと向こうの友達二人と作ってん」
もらった、ではなく作ったらしい。まあ自作カードなのは分かるが。
「離れても、ポケモンカードやってたらまた三人いつか会えるっていう約束こめて、な」
青春臭くて妬ましい。いや、でもポケカしてたらまたいつか会える? 意味が分からん。
「やからポケモンカードで会うっていう約束を守ろう! って忘れへんようにね」
「なるほど」
あんましわからん。
そういえば、由香里は東京行く前はポケモンカードやってなかったのに、戻ってきたらポケモンカードをやっていたな。
その東京の友達らに影響されたんだろうか。
でもこれ以上根を掘るのはなんだか野暮っぽいから、今は遠慮しておこう。
さっさと残りのカードを拾い、ぐだぐだしていると、割りといい時間になっていた。
「よし次のゲーム部門もサクッと行こか!」
再び会場に戻ると、先程よりも大きいお友達が一段と増えていた。
予想していたよりも多く、少し面食らいそうになる。
「来年のPCCの調整に来てるんやろな」
タカは俺の表情を察してか、声をかける。
PCCとはポケモンチャレンジカップの略で、毎年行われるポケモンの世界大会である。
各都道府県で予選を行い、その予選と東日本、西日本で行われる敗者復活戦の勝者が東京で更にトーナメントで戦い、そのうち何名かがハワイで行われる世界大会に行くのだ。
このバトルチャレンジはゲームもカードもPCCと同じルールなので、各環境を調べる絶好の場である。Wi-Fiとは違った臨場感もある。
「うーん、なんかちょっと緊張するな」
ちなみに俺は、PCCではカードではなくゲームで出場予定。
というわけでここからが正念場だ。
「メタグロスで大爆発!」
「ディアルガのトリックルーム」
「ミュウツー、吹雪だ!」
「ドーブルでこの指止まれ!」
「ギラティナのシャドーダイブだ」
声が飛び交う会場の中に俺はいなかった。
現在、ギャラリーに混じって遠目でタカを応援している。
距離があるのでもちろんDSなんて見えず、かろうじて浮き沈みするタカの表情で試合の優劣を推し測るのみ。
俺は一回戦で手持ちのカイオーガが放った雷の威力が足りず、相手の攻撃を急所に受けてリズムを狂わされたために負けてしまった。
「まさか一回戦で負けるってのはなぁ」
「運ゲーで負けたんやろ? しゃーないやん」
同じく一回戦負けの由香里が、ざまぁねぇなと言わんばかりににやつきながら話す。
「くっ、めっちゃ腹立つ」
「あたしはカードでPCC出るから別にええんやけど、啓史はゲームやろ? この調子やったら予選も危ういやん」
タカが大きくガッツポーズを作る。
俺らとは違って、きっちり三連勝をして記念品を受けとる。
「俺、やっぱさ」
「?」
「ゲームよりカードで出るわ」
「これまたずいぶん都合良い考えやん。ま、相手になっても手加減せーへんで?」
調子の良い由香里の返事を鼻でふんと笑って一蹴する。
そんなことをしているうちにどうやらタカも戻ってきたし、時刻も陽が沈み始める頃だ。半日くらい世話になったショッピングモールを離れ、俺たちは大阪の街へと戻っていく。
啓史「今日のキーカードはマニーの決意!
約束のカード、ねぇ」
マニーの決意 サポーター
全国大会で再会する約束を守る。
サポーターは、自分の番に1枚だけ使える。使ったら、自分のバトル場の横におき、自分の番の終わりにトラッシュ。
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