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先日はげきむらと表記してしまってすみませんでした。
たのしく読ませていただきました!
すらすら読めるすっきりした文体も、ゴースト使いらしく意図せずもセクシーな季時先生などなどいきいきしたキャラクター達も素敵で、八話を読み終わってしまうのが惜しかったです。ごみ捨て場でもっと時間を過ごしたかった……!
やんわりと続編を希望しておきます。
できることなら一話ずつ面白かった! ここが! と言いふらしたいところなのですが、時間がないので……お話も、生徒の悩みを先生が解決する、というような形をもってすっきりと収まっている上、捻りがぐっといい具合に食い込み、また独特の会話テンポと回し方も素敵で、とにかく面白かったです。常川ちゃんを八話まで引っ張るところがもうさすがとしか。
また戯村さんの作品を読めるのを楽しみにしています。
あと、カゲボウズを「てるてる坊主のような」と比喩するところに凄まじいアレなアレを感じました。すばらしいと思います。
ふむ、なかなか涼しくなってきた。
秋というものは不思議なもので、町にはお得な話が流れ始める季節だ。
そう例えば、食欲の秋。そこかしこで食い物が安くなって、美味い物を求めるおれなどは嬉しさのあまり、歓喜歓喜、庭のポケモンたちと一緒に仮装パーティーを開いてもいいくらいにココロオドル。主に食い物のためにだ。
それからそうだ、食欲の秋。それと、食欲の秋。それから……、
「だぁ! お前ら、食欲の秋だァ! 食べたいだけ食べることを許された最高の季節がやってきたぞ!」
茶の間で両手を挙げて、だぁ! とやったら縁側から見える中庭で、がさがさとやつらが動き出す。
テッカニン、アメタマ、スピアー、マメパト、ミノムッチ、ポッポ。それから、お隣さんちのストロベリー。
「今日はおれのおごりだ。ついてこい、野郎ども」
様々な雄叫びが中庭に響いた。
ただしストロベリー、お前だけはダメだ。
そういうわけで、おれがある筋から仕入れた情報によると、なにやら素晴らしい催し物が行われているらしい。家を出て空を見上げればそこに見えるアドバルーン。ドーナツ半額! 半 額 !
おれたちはその二文字に導かれてドーナツを食すというわけだ。いいか、半額だぞ。おまえら分かっているか、半額なんだぞ。二個買っても通常一個分の値段にしかならないってことだぞ。ポケモン一匹掴まえたと思ったら首が二個ついてたみたいな、そういお得感に溢れた催し物だ。
「で、お前ら、なんて名前だっけ」
おれとしたことがポケモンたちにつけた名前をすっかり忘れてしまった。確かそうだ、かきごおりの味にちなんだ名前をつけたような気がするけれど、残念ながらもう季節外れだ。名前剥奪。ストロベリーだけはきちんと覚えていてしまっているが、何故だろう。でもお前のその素敵な名前も今日限りでおしまいだ。
「ざまあみろ!」
って言ったら前後の文脈もなしにストロベリーが噛みついてきやがった。こいつ、心を読めるのか。
おれはストロベリーにつける新しい名前は最低な物にしてやろうと心に決めた。
電気屋の前を通ったら、何の因果か、タイミングよくドーナツ半額のCMをやっている。
――ミミスタードーナツ♪
首の周りに大きなドーナツを巻いたミミロルがぴょっこぴょっこ跳ねている。
草原に花柄のベンチシートを広げて飛び乗り、その上でちょこちょこ踊るとヒトデマンが回転しながら降臨してきて、ミミロルの方は一回転してカメラ目線、くいっと身体を傾けてヒトデマンと一緒にポーズを決める。
――ミミスタードーナツ♪
「せめて半額らしさを出せよ」
って言ったらストロベリーに噛みつかれた。こいつはミミスタードーナツの回し者か。それとも画面に映ったミミロルに惚れてしまったのか。これぞ雄の性というやつか。しかし残念だったなストロベリー、やつは絶対雄だ。
「ってええ、だから何故かみつく!」
こいつ、とりあえず噛みつけばいいと思っていやがる。これだから最近のポケモンは。とりあえず厨ポケ入れてれば勝てるだろ、とか思ってる姑息なガキの方がまだかわいげがある。
ミミスドに着く間で五回くらい噛まれて、スピアーに一回刺されたおれだったが、首の皮一枚繋がる程度のライフでどうにか生きている。しかし店の行列を見た瞬間、おれは息絶えた。
というのは冗談だ。
これくらいは十分に予想できたので大人しく並ぶこと十五分弱。さあ、おれたちの食欲を解放する時が来た!
「お前ら、おれに対する感謝の気持ちを忘れずにドーナツを選べ! 慎重にだ! お願いだからあんまり取りすぎないで!」
やつらは早速器用にトレイを持ち、ドーナツをぽんぽんぽんと次々に積み上げていく。いくらなんでも半額だからってそれは……!
「あんまり財布をいじめないでくれ!」
とか言いつつおれも自分の食べたいものは回収。フエンチクルーラーにコールドパッション、ソン・デ・リオル、ハニーヒヤップ、そうだ、これを忘れてはいけない。D−ポッポ。
いくらなんでも買いすぎかもしれないと思いつつレジに三つものトレーを並べて、さあ、おれたちの秋は始まる!
「いらっしゃいませ。店内で……あら?」
店内であら、とはまた何だか新しい試みだなあ、と思って店員さんの顔を見れば、まさしくあらだった。
スマイル〇円とはよく言うが、この人のスマイルに〇円というのは申し訳ない。というよりこれは何の奇跡だ、1301の店員さん、あの、イノウエさんが何故ここにいる!
「あ、あなたは……あの時の……いてえ!」
感動的な場面において何故ストロベリー、お前はかみついてくるんだ! 早く食べたいのは分かるが今は待て、待つんだ。人の恋路を邪魔するやつはコールドパッションの食い過ぎで死んでしまえ。
「今日も騒々しいですね、うふふ」
「ええ、まったく、騒々しいやつらで。ははは、ほんと、申し訳ないです」
「いえ、微笑ましい光景が見られるので嬉しいです。それじゃあ、お会計しますね」
嬉しいですなんて言われてしまうと、こっちも、へへ、嬉しいです。
会計を済ませて店内のテーブルにトレイを運んで、さあて、食べようかと意気込んだところで、なぜだかイノウエさんがやってきた。
「私もご一緒していいですか?」
「いいですとも!」
おれは即答した。
ちょうど上がる時間だったらしい。制服を着替えてたら帰ってしまうと思ったのか、制服のままやってきた。ちょっと私服を見てみたいような気もしたが、彼女は何を着ても似合うから大丈夫。
「あ、あの」
我ながら情けない声が出た。ミミスドのドーナツを食べながら、ちょっとずつ話す。
「今度、カフェにでも行きませんか」
ストロベリーにハニーヒヤップを奪われた。
「いいですよ。ご一緒させてください」
ああ、これぞ秋だ!
秋というものはまったく不思議で、お得な話に溢れている。ようやくおれにも秋がやってきたのだ。違う、春だ! でも秋だ!
「その時はそのガーディをだっこさせてもらってもいいですか?」
「えっ、は?」
何を言うてらっしゃる。
「あら、ポケモンたちと一緒に行くんですよね?」
「あ、はは、そう、そうですね。ポケモンたちと、一緒に」
「楽しみです」
笑った顔はとても可愛いわけですけれど……こいつも連れて行かなければいけないのか、ちらりとストロベリーの顔を見る。
めちゃくちゃむかつく顔をしていた。でれっと垂れた目にいやらしく持ち上がる口の両端。しかも今食べているのはおれが買ったはずのD−ポッポだ。
「ところで、このガーディはなんて名前です?」
ああ、こいつ、こいつの名前ね。
「とってもかわいい名前ですよ。ゲーチスちゃんって呼んであげてください」
そう言った喜色満面のおれに、ゲーチスがもの凄い勢いで噛みついてきた。ざまあみろ。
○ ○ ○
秋と言えば、ひきこもりの季節ですわね。
約1000年前 兄レシラム 弟ゼクロム が誕生した。
その時、彼らはお互いを敵だと思い込み 傷付けあい 共に、力尽きた。
レシラムは己の肉体をライトストーンに託し眠りについた。
ゼクロムは己の肉体をダークストーンに託し眠りについた。
その2体の神と呼ばれしドラゴンが 今 目覚めようとしていた。
世紀の戦いが 今 始まる。
ようやく苦戦させられたエルレイドを撃破したものの、喜田の次のポケモンはまたもやエルレイドだが、そのHPは90/130。
ギンガ団のアジトなどでじわじわ削った甲斐があった。
今の俺と相手のサイドは共に二枚。喜田のベンチにはラルトス40/60とペラップ60/60。
そして俺のバトル場にゴウカザル四LV.X110/110とベンチにクロバットG80/80が二匹。
「俺のターン。手札の闘エネルギーをエルレイドにつける」
喜田はエルレイドに三つ目のエネルギーをつける。これで再びサイコカッターの使用条件が満たされる。
「手札の不思議なアメを発動! 自分のたねポケモンから進化するポケモンを手札から一枚選び、進化させる。ベンチのラルトスをサーナイトに進化させる!」
「手札からの進化やからギンガ団のアジトの効果受けてもらうで」
先のターンのダメージと加算して、サーナイトのHPはすでに70/110。俺のデッキの火力やと一撃圏内であるのは確かだ。
「まずはエルレイドでゴウカザル四LV.Xを倒す! サイコカッター!」
「それはええけど倒しきれんの?」
「っ……」
「裏側のサイド一枚しかない上に、達人の帯もない状況。どうあがいても80ダメージが関の山や。これやとゴウカザル四LV.Xは倒しきれへん」
「……分かっている! くっ、サイドを一枚めくってサイコカッター!」
最後の喜田のサイドがめくられ、ゴウカザル四LV.Xに80ダメージだ。
残りHP30/110は決して喜ばしくないが、喜田は全てのサイドを開いた。もうサイコカッターの威力は上がらない、今なら押していける。
「さあ、俺のターンや!」
引いたカードはリョウの採集。SPポケモンと基本エネルギーを計二枚まで手札に戻せるサポーターだ。ここは使うの一択!
「サポーターのリョウの採集を発動。トラッシュのレントラーGL、レントラーGL LV.Xを手札に加える。そしてレントラーGL(80/80)をベンチに出して、ゴウカザル四LV.Xに炎エネルギーをつけるで!」
残りの展開は読めてきた。おそらくこの勝負で俺がこれ以上たねポケモンを出すことはないだろう。これで勝負を決めてやる。
「ゴウカザル四LV.Xでエルレイドに攻撃! 炎の渦!」
炎の渦の威力は100。残りHP90/130のエルレイドにトドメを刺す。
「炎の渦の効果でゴウカザル四LV.Xの炎エネルギーを二枚トラッシュするけど、エルレイド倒したからサイド引くで!」
残るサイドはあと一枚。ようやくリーチに差し掛かった。あと一匹倒せれば!
その時、不意に背後から由香里の声がかかる。
「先に三連勝したから杉森とフードコートで先にお昼食べとくで?」
声のした方に振り返ると、由香里は三連勝したらもらえるカードをちらつかして会場から離れていく。わざわざ見せびらかすとこがいやらしいし腹立たしい。
由香里が会場から出ると同時に長身の女の人がやってきた。パッと見、俺より大きい、百七十五センチくらいの背の高さで胸辺りまで濃い青色の髪を真っ直ぐ伸ばしている。綺麗だが、ちょっと怖い印象だ。
辺りが男ばかりなだけあって由香里同様に目立つのだが、なんというかオーラが違う。そのせいで、悪い意味で目立つ。なんだか嫌な予感がする。
その女の人は俺の二つ左の席に座ったが、妙に気になる。目の前の喜田も同様だった。
「こほん」
喜田がわざとらしく咳き込んだ。そのお陰で目の前の現実に俺は戻って来る。
「まだ勝負は終わってないぞ。俺のターン」
喜田の手札は僅か二枚。しかし、カード一枚で最大八ドローするポケモンカードでは手札の数は簡単にひっくり返ってしまう。
……のだが、喜田はここで長考してしまう。考えるなら手札を増強してからが普通だろうが。おそらく、喜田の手札に手札を増やすカードはないようだ。
「まずサーナイトをレベルアップさせる!」
サーナイトLV.Xにレベルアップしたため、HPが90/130に。さらに使えるワザが一つから二つに増えた。
今、サーナイトLV.Xには超エネルギーが一枚ついている。レベルアップ前のワザは超無無とエネルギーを三つ要求するため、このターンはダメージがないと踏んでいた。しかしレベルアップしてから使えるワザ、仕留めるは超エネルギー二枚あれば使えるワザ。しかもそのワザの効果は、サーナイトLV.X以外の互いのポケモン全員の中から残りHPが一番少ないポケモンをきぜつさせる。というとんでもないワザだ。
今一番HPが少ないのは30/110ゴウカザル四LV.X。喜田の手札の残り一枚が超エネルギー及びそれを引き寄せる物であるなら……。
「サーナイトのポケパワー、テレパスを使う。相手のトラッシュのサポーター一枚をこのポケパワーとして使う。ハマナのリサーチを選択!」
ポケパワーからサーチに来たか!
「待ってたぜ! 手札からパワースプレーを発動。自分の場にSPポケモンが三匹以上でなおかつ相手の番に相手がポケパワー使ってきたときに発動できるカードや。そのポケパワーを無効にする!」
最後の希望を失った喜田は金魚のように口をパクパクさせる。我に帰ると残りの一枚のカードを苦い顔でプレイする。
「サーナイトLV.Xに闘エネルギーをつけて、ターンエンド……」
「よし、俺のターン!」
このドローで手札は四枚。手札0の喜田よりは良いが、手札を増強するカードがない。
「手札からポケターンを発動。ゴウカザル四LV.Xについているカードを全て手札に戻す!」
ゴウカザル四LV.Xについているカード、つまりゴウカザル四、ゴウカザル四LV.X、エナジーゲインを手札に戻す。
ゴウカザル四LV.Xがバトル場からいなくなったため、ベンチのレントラーGL80/80をバトル場に上げる。
「エナジーゲインをレントラーGLにつけ、更に手札の雷エネルギーもつける。そしてレントラーGLでサーナイトLV.Xに噛みつく攻撃!」
30ダメージを受けたサーナイトの残りHPは60/130になる。手札の状況を考えると次のターンで倒せる!
ターンが重なるごとに、喜田の顔が苦しそうになっていく。そんな喜田を見て少し心に余裕を持った俺は、プレイマットから顔を上げて試合を適当に見ているギャラリーを見渡した。
しかし、ギャラリーは皆が皆、同じテーブルを見つめている。
その視線を追い続けると、さっき見た青い髪の女の人がいるテーブルだった。何かあったのだろうか。
「俺のターン!」
喜田が自分の番を始める合図を放ったので、俺は再び目の前の戦いに集中する。
「手札の超エネルギーをサーナイトLV.Xにつける!」
どうやら喜田は超エネルギーを引き当てたようだ。これでワザ、サイコロックも仕留めるも使えるようになる。
「サーナイトLV.Xで仕留―――」
「それでええん? 仕留めるの効果は、互いの番にいるサーナイトLV.X以外で一番HPの低いポケモンを気絶させるやけど、その条件に適合するのはそっちのペラップやで」
最初にベンチに戻ってから、ノータッチだったペラップ60/60。可哀想だがまあ忘れていても致し方ないかな。
「く、サイコロック!」
威力は60。レントラーGLのHPが一気に20/80へと減少する。
「俺の番や! レントラーGLをレベルアップさせ、そのまま攻撃。フラッシュインパクト!」
フラッシュインパクトの威力は70。残りHPが60/130のサーナイトLV.Xはこれで気絶。俺がサイドを一枚引くことによってサイドを全て引ききった。
「ありがとうございました」
対戦が終わり一礼すると、俺がカードを片付けるよりも早く喜田はテーブルを発った。
のこのこやって来たスタッフから三連勝記念のプロモカードをもらい、やっとカードを片付けた俺は由香里の元へと向かわんと、数十分お世話になったパイプ椅子から腰を上げる。
その刹那、二つ隣の席からパイプ椅子が蹴飛ばされたかのような音と同時に、嫌な異臭とピチャピチャと何かが滴る音がする。
その元に目を移すと、あの女の人と戦っていた不健康そうな男が、体をくの字に折って会場で嘔吐していた。
休む間もなく、やけに用意周到な救護班らしき人たちに介抱されたその男はどこか他所へ運ばれていく。
その様子を見ていた女の人は、まるで何事にも興味がないような目をしてプロモカードももらわず人々の雑踏に紛れて行った。
何が今起きたんだ……?
啓史「今日のキーカードはサーナイトLV.X!
ポケパワーで場を動きつつ、
仕留めるを使って勝負を決めろ!」
サーナイトLV.X HP130 超 (DP4)
ポケパワー テレポーテーション
自分の番に、1回使える。自分のバトルポケモン、または自分のベンチポケモンを1匹選び、このポケモンと入れ替える。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
超超 しとめる
自分以外の、おたがいのポケモン全員の中から、残りHPが一番少ないポケモンのうち1匹を選び、きぜつさせる。
─このカードは、バトル場のサーナイトに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 超×2 抵抗力 なし にげる 2
いやはや、まさか某(それがし)に執筆を振られるとは思いもよりませんでしたな。
お初にお目にかかる方もいらっしゃいましょう。改めて某、シュンヤ殿のパートナーを、僭越ながら務めさせてもらっております、フーディンのルーカスと申します。以後、お見知りおきを。
さて、今回はいつものスプーンを万年筆に持ち替えて、ナタネ殿が養子として迎えられた頃の話を、つらつら綴っていきたいと考えております。なにせ某、知能が高い部類に分類されているとはいえ所詮ポケモン、お見苦しい文章かと思いますが、読んでいただければと思います。
『ダブルスプーン☆森ガール page6』
時は某がまだケーシィの頃に遡ります。シュンヤ殿はまだ小学校四年生。彼は相当なやんちゃ者で、しょっちゅう職員室に呼びだされておりましたな。やれ窓ガラスに油性ペンでいたずら描きをするわ、女子生徒の悪口を言って泣かすわ――時には先生方にもちょっかいを出して、学校中を困らせておりました。かく言う某も、あの頃はその悪行に加担し、彼のいたずらをえすかれーとさせていたうちの一人――もとい、一匹でございました。うとうとと舟を漕ぎながらでも可能であった某の「テレポート」は、いたずら少年にとって夢のような術でございましたから。
もちろん、父上殿と母上殿はたいそう頭を悩ませました。母上殿は責任を感じ、毎晩のように泣いていた時期もございましたし、父上殿はあまり怒鳴り声を上げてお叱りになる方ではございませんでしたので、一体どうしたらよいか分からない。そんな日々が続いておりました。そんな様でしたので、シュンヤ殿のいたずらはとどまるところを知らず、ついには小学校のぴーてーえー――保護者の皆さまの会合のことですな――がお怒りになり、学校全体の問題へと発展するほどでした。
そんなシュンヤ殿でも、一人だけ逆らうことのできない人物がおりましてな。それが当時のハクタイシティジムリーダーを務めておりました、祖父のシゲクニ殿でございます。
寡黙で頭の切れる方でした。それでいて家族や友人を大切にしておりまして、ハクタイシティの人々からは絶対の信頼を置かれていました。彼は他のジムリーダーとは違い、ただポケモンバトルを極めるだけでなく、街の振興にも尽力しておりました。今現在、ハクタイシティで毎年開かれるお祭りのいくつかは彼が主催したのが事の始まりでしたし、ハクタイの森で当時から問題になっていた不法投棄の改善にも、彼は手を尽くしました。
思うに、彼ほどこの街を愛し、街のために生きた人物は他にいないでしょう。
ところで、ナタネ殿のお書きになった文章を拝見するに、シュンヤ殿の悪行はシゲクニ殿が一喝したことによって無くなっていったとされているようですな。確かにシゲクニ殿によってシュンヤ殿が行いを改めた部分はございます。シュンヤ殿はシゲクニ殿にポケモントレーナーとしての才能を認められて、こっそりバトルの稽古をつけてもらっておりました。そのこともあり、シュンヤ殿はシゲクニ殿を尊敬しておりましたから。
ですが、シュンヤ殿がいたずらを控えるようになった本当の理由は、他にございました。
父上殿と母上殿は、以前からずっと女の子を授かりたいと考えておりましたが、シュンヤ殿以降子宝には恵まれず、悩んでおりました。そしてついにお二人は、ある児童養護施設から女の子を一人、養子に迎えることを決めたのです。
当時小学二年生の彼女の名は、ナタネと言いました。
「聞いてよルーカス! 僕に妹ができるんだ!」
部屋のソファでうとうとしていた私を揺さぶり、シュンヤ殿は目を輝かせて歓喜しておりました。
「血の繋がった子じゃないけど、でも僕の妹だ。僕、お兄ちゃんになるんだ!」
某は当時、そのシュンヤ殿を見て驚いたものです。なにせ彼は普段、ほとんどのことに無関心で、何をやっていても楽しくない――そんな顔をしておりましたからな。悪友といたずらを決行する時も、本気で笑ったシュンヤ殿を見ることはできませんでした。口元だけで冷たく笑った後、すぐに表情を閉ざす。そんな男の子だったのです。
妹ができることが嬉しくてたまらなかったのでしょう。仕事で忙しい両親と、なかなかジムを空けることができない祖父。彼はこの広い森の洋館でいつも独りぼっちでした。
しかし彼はその喜びを両親や祖父の前で現すことはありませんでした。ナタネ殿と始めて顔を合わせた時も、挨拶一つしないで部屋に走って戻ってしまいました。本当は一緒に遊びたいと思っているのに、自分の中の嬉しい気持ちに正直になることができなかったのでしょうな。
その頃からシュンヤ殿は悪事を働かなくなりました。悪友たちはポカンとした顔であきれていましたし、職員室は驚きと安堵で包まれました。手を焼いていた学校一の問題児が突然大人しくなったのですから。
「お兄ちゃんなんだからさ、ちゃんとしないといけないだろ?」
シュンヤ殿は、自分の部屋で某の前でだけ、そう言っていましたな。ナタネ殿本人の前では、依然としてつっけんどんな態度をとっておりました。
ここまでで済んでいたら、大人になるにつれてシュンヤ殿も心を開き、仲の良い兄妹になっていたと、某は思うております。しかし、彼は両親や祖父の笑顔や優しい言葉がナタネ殿へと傾いていくのに気付き始めてしまいます。
ナタネ殿は――今でさえあのような性格でたくましく生きておられますが――当時はおしとやかで女の子らしく、勉強もでき、そして魅力的な笑顔を持った子でございました。両親にとってナタネ殿は、たとえ養子で迎えた子だとしても、自慢の「我が子」でございました。当然ながらご近所様の評判もすこぶる良く、小学校のクラスでは入学してすぐに注目の的となりました。
極め付けが、ナタネ殿にポケモントレーナーとしての才能があったことでした。しかもそれを認めたのは他でもない、祖父のシゲクニ殿だった。嗚呼、今思い出してもシュンヤ殿には辛いことです。ナタネ殿が来る前はむしろシュンヤ殿がシゲクニ殿に才能を認められていたのですから。
ある朝のこと、家族で朝食を取っている時でした。ナタネ殿がうっかり牛乳をテーブルにこぼしてしまったのです。母上殿は「しょうがない子ねえ」と優しくナプキンでテーブルを拭き始めました。シュンヤ殿は恐らく思ってしまったのでしょう。こぼしたのがもし自分だったら、お母さんは僕を激しく怒鳴りつけるのだろう、と。
「何やってんだよ! ノロマ!」
気付いた時には、既に口にしてしまった後でございました。シュンヤ殿にそう言われたナタネ殿はみるみるうちに顔を真っ赤にし、ボロボロと涙をこぼして泣き始めてしまいました。
「シュンヤ! いい加減にしろ!」
怒鳴り声を上げたのは、普段めったに大声を出さない父上殿でございました。「いい加減に」とは、シュンヤ殿がナタネ殿に対して取ってきたこれまでの態度のことを指しておりました。
思い起こせば、シュンヤ殿のいたずらの標的がクラスの女の子や学校の窓ガラスからナタネ殿に変わったのはこの些細な事件からでございました。
シュンヤ殿はナタネ殿を部屋へ閉じ込めたり、嘘のかくれんぼに誘って森に置き去りにしたりと、たちの悪いいたずらを繰り返しました。このことはナタネ殿も書いておりますな。そのたびにお叱りを受けるのは当然シュンヤ殿で、慰められるのは泣きやまぬナタネ殿の方でございました。
当時既に亡くなられていたおばあ様のナエトル――タネキチは、ナタネ殿の十歳の誕生日にプレゼントされました。これもまた、シュンヤ殿の嫉妬心に火を付けてしまいました。
一度は改めた悪行も、妬みと恨みによってぶり返してしまったのです。これはとても悲しいことです。彼は部屋ではいつも「ナタネは僕の妹だからさ――」と、口癖のように言っておりました。私がユンゲラーに進化した頃も、彼が高校生になった頃も、ずっと言っておられました。
しかしながら、その言葉は一度もナタネ殿に届けられることなく、シュンヤ殿は高校二年生の時にこの家を出ました。さすがにいたずらは無くなっていたものの、二人の間にできた分厚い壁は、結局取り除かれることのないまま。シュンヤ殿は軽口を叩くことによってナタネ殿との間に気まずい雰囲気が流れるのを防ぐ術を身に付けておりましたが、それは最後まで、その場しのぎの言葉でしかありませんでした。
ナタネ殿は酷く責任を感じていることでしょう。自分がシュンヤ殿の居場所を奪ってしまったと。ですが、そう落ち込むことはございません。確かにシュンヤ殿はナタネ殿とのことで傷つきましたし、大変辛い時期を過ごしました。
ですが、既に申し上げました通り、シュンヤ殿は家を出る最後の最後までナタネ殿を妹だと言っていたのです。某は、そのことだけで、いずれ二人の仲は修復されると考えております。
それに、シュンヤ殿が家を出た理由は、また別のところにあります。シゲクニ殿は、ちゃんとシュンヤ殿の才能を見抜いておられました。
さて、某の話は一端この辺りで止めにしておきましょう。あまり多くをいっぺんに語るのはいけません。
それに、そろそろ次の仕事の時間です。それではまた、お会いできることを。
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ルー「最低限の文章作法はわきまえたつもりですが、どうですかな?」
森ガ「――ポケモンでこれ書けたら十分w」
大長編ポケットモンスター第2部制作決定!
今度の舞台は、ななななんと学校!
はちゃめちゃなキャラクターが織りなす痛快な生活に、もう釘付け!
さらに進化したバトルや理論は読者の想像をはるかに超える! これを読めばバトルに強くなる!
さあ、新たなステップへ……。
大長編ポケットモンスター第2部「逆境編」、こうご期待。
いやあ、最後まで読んでいただきありがとうございました。これで本編は終了です。次に投稿する時は別の作品になっているでしょう。
では、なぜ今更特別号なのか。早い話が、連載の総括と質問の受け答えをするためです。なにせ86話も書きましたから、色々考えることもあるのです。では、まず総括からいきましょう。
・総括
この作品は「バトルの面白さ」を前面に出すことを目標に作りました。当初はただの冒険物語という予定でしたが、サトウキビさんを思いついたので大幅修正。結果的にこのような話になりました。
序盤こそは普通のアクションみたいなバトルでしたが、ヒワダジム戦で激変の兆しが現れました。そう、ダメージ計算という概念の導入です。これも当初はなかった要素です。せいぜいタイプ相性を意識すれば良いかと考えていたのですよ。ところがちょっといけそうな感じでしたので試してみたら、あら意外。結構バトルっぽくなってるではありませんか。おかげで途中から「再現性のあるバトル」に目標が変化しました。まあ、シナリオを組む上では楽でしたよ。短いですからね。淡白なのは否めませんが。
後半からは、とにかく先に続くキーワードを忘れないように入れるのが重要課題でした。突飛な流れは読者を逃がしかねないので、バランス取りに苦心。連載作家さんてこんなに大変なのね。個人的には短編より楽でしたけど。
さて、この辺で質問に移りたいと思います。いまだリクエストが来ないので自問自答となりますが、良ければどうぞ。
・Q&A
Q:ダルマ、ゴロウ、ユミ、カラシの中で一番強いのは?
A:ストーリー的にもダメージ計算的にもゴロウが最強で間違いありません。ただ、現実的にはフラットバトルを採用するので、その場合はゴロウが最弱です。フラットではユミかカラシでしょうが、ポケモンの能力や相性でユミが1歩リードしています。やはり600族2匹の壁は高い。
Q:得意なジャンル、苦手なジャンルは?
A:これはどうなんだろう。ネタでは陽気な話が得意で、深い思想とかを混ぜた話はてんで駄目、というか好きじゃないです。これはあくまでも私の持論ですが、お話は始めに面白さありきだと考えています。暗くてうじうじした話はイライラしてしまい、内容云々を論じる気になれないと感じているからです。だからその手の話は書きません。よって上手くありません。また、書き方で言えばいわゆる「堅い書き方」を得意としますが、そうでなくても案外書けると思います。
Q:自分の作風はどのようなものだと思うか?
A:これは先の質問と被りそうですが、せっかくなので。私の作風を、自分ではこのように評価しています。「とにかく前向きなエンターテイメント」と。ぶっちゃけた話、作者である私は最初の読者でもあります。もし私が嫌いな作風を貫いたら、仮に読者から好評でも私が持ちません。そのままうんざりして、よくある未完成作品になるでしょう。そうした事態を避ける意味も込めて明るい作品に仕上げています。
Q:次回作で力を入れたい点は?
A:これを語るには、まず今作の反省点を挙げねばなりません。まず何よりもまずかった点が、「ストーリーにカットを入れすぎた」ことです。お気付きだと思いますが、町から町への移動時間が短いんですよ。あって1話を挿入する程度。これを言い換えれば、モブを作ったりするのが苦手なのです。せっかく原作とは違うのですから、こうしたモブをばんばん使えば良かったと反省しています。
2つ目は「100話に届かなかった」ことです。この後書きと感想を合わせても92件の記事と、大長編を名乗るにはやや物足りないです。この作品は3部作なので100話どころか200話くらい軽く超えますが、単体で100話書けなかったのは悔やまれます。
3つ目はあまりにもしょぼい心理描写です。私の話を丁寧に観察すれば、毎度同じ表現を使っていることに気付くでしょう。心理描写に限らず、私は描写全般で苦戦しています。連載中の改善が見られなかったのが非常にもったいないです。
以上より、次回作の目標は「どんな小さな話でも書ききる」、「100話以上続ける」、「一人称で気持ちを前に出す」、これらに加えて「世界中で使われる戦術を世に送る」の4つです。可能な限り頑張りますよ。
Q:ストーリーはどの辺で決まったか?
A:大元となる「普通の冒険」は4年前にできてました。それからしばらくしてサトウキビさん関連のイベントを思いつき始め、原形は完成。あとは執筆の度に町ごとで起こるイベントを考え、町と町の間のイベントをその場その場で構想します。小さな話にはプロットなんて一切ありません。あるのは流れをメモしたものだけです。それすらない話も大量にあります。自分でもよく何も書かずにできたものだと呆れています。
Q:作るのが一番きつかった話は?
A:とにかく逆転クルーズがきつかったです。あんななりでも推理ものですからね、細心の注意を払いましたよ。構想3ヶ月、執筆4日。この後の展開まで全て計算した上であの話を書いたので、随分手間取りました。
ちなみに、次点はダメージ計算の書いてあるバトル全般です。結構辻褄を合わせるのが難しいんですよ。あと、バランスを重視すると様々なタイプを使う必要があります。ところが、鋼タイプやドラゴンタイプはすぐにネタ切れになるのです。おかげで構成の時点で悩まされました。
Q:思い入れのあるキャラは?
A:ゴロウとサトウキビ、ドーゲンです。ゴロウは金銀クリスタルの30番道路にいる短パン小僧で、クリスタルでは「コラッタ1匹で最強になる」という野望を持ってました。これが妙に印象に残っていて、次第に使いたくなりました。実においしいところをさらっていきました。
サトウキビさんは完璧超人として書いたつもりでした。ストーリーの都合上ダルマに負けるので、どうしても完全体にできなかったのが残念です。個人的には渋いキャラで、あらゆる分野に見識を持つおじさんなんですよ。次もこういうキャラを出したいところ。
ドーゲンさん……名前のないパパからよくここまで出世したものです。1話での台詞に爆笑されてしまい(だがお前は俺の息子だけあって、野心が途中で消え失せるからなあ)、そこからキャラとしてレギュラー化。一体何人がこの展開を予想したでしょうか。サトウキビさんとやや被るのが難点ですが、ギャグでもシリアスでも使えるので助かりました。
Q:一番気に入っている話は?
A:やはり逆転クルーズが挙げられますね。産みの苦しみがあった分、愛着もひとしおです。次回作でもミステリーをやってみたいと考えていたり。
これ以外では、キキョウジム、ヒワダジム、フスベジム、69話がお気に入りです。ワタルとサバカンの3回目のバトルも中々。
Q:次回作の目標は?
A:上の質問と被る気がしますが気にしない。今作は残念なことに、誤字が1箇所ありました。故に、次回作は誤字脱字を一切見逃さないようにしたいです。また、風刺や時事ネタをきかせてみたいとは考えています。
Q:なぜサトウキビさんはサングラスをしているのか?
A:ストーリー的には素性を隠すためです。作者的には作画の負担を減らすためです。彼を考案した当初、私は絵、特に目元が壊滅的に下手でした(現在は多少ましになってます)。で、いつか描きたいと思っていたので、「眼鏡かけよう」ということになったのです。しかし眼鏡だと年寄り臭くなりそうでしたから、サングラスを採用したのです。
以上。最後までありがとうございました。次回作もお楽しみください!
あつあ通信特別号、編者あつあつおでん
「終わっちゃったなあ……」
「どうだダルマ、俺の強さがわかったろ? 初めて戦ったあの時のリベンジ、遂に果たしたぜ!」
「わかったわかった、頼むから何回も言わないでくれ」
決勝戦が終わった直後から、ダルマ達はセキエイのポケモンセンターで旅の打ち上げをしていた。もっとも、既に寝呆け眼ながら太陽が仕事を始めた様子である。皆、バトル以上に疲れきった表情をしている。その中でも、ゴロウは自分の活躍を語るのに忙しいのか、まだまだはつらつとしている。
「ふふ、2人とも兄弟みたいですね」
「それは」
「ないぞ!」
ユミの軽い突っ込みに、ダルマとゴロウは即座に否定した。この茶番を眺め、カラシがため息をつく。
「ふん、最後までこのざまか。こんな奴に負けたと思うと、どうしても納得いかないな」
「ははは、そりゃきついなあ。まあ良いじゃないか」
ダルマは手元にあったサイコソーダで喉を鳴らした。それから、感慨に浸りつつ旅を振り返る。
「この旅で色んな人に出会ったけど、誰もかれも凄い奴ばかりだったよ。ゴロウ、カラシ、ユミ……他にもいっぱいいるけど、これでお別れとなるのは寂しい限りだ」
「確かになー。なんだかんだで長い付き合いになったし、これでおしまいなのはもったいねえ」
「で、でしたらまた旅に出るのはどうですか?」
ここで、ユミが皆に提案を出した。ダルマは彼女の方を向き、大事な点を尋ねる。
「またって、どこかあてがあるの?」
「ええ。私の家がアサギシティにあるのですが、そこを中心にジョウトの西部なんてどうでしょう。私達、コガネシティまでしか行ってませんから丁度良いと思いますよ」
「お、そりゃ面白そうだな! じゃあ俺は行くぜ、ダルマも当然行くだろ?」
ゴロウは挙手で意思表示をした。彼はダルマに目を遣る。ダルマは頷きながら答えた。
「ああ、しばらくやることもないしな。カラシはどうする?」
「ふん、俺は遠慮させてもらうぜ、これから忙しくなるからな。……それじゃ、そろそろ失礼する。いいかダルマ、次は俺が勝つことを忘れるな」
カラシはそうとだけ言い残すと、荷物を手に取りその場を後にするのだった。この無愛想にはダルマもお手上げである。
「行っちまったか、かわいげのない奴。ま、あの調子ならまた会えるだろうし、大丈夫か」
「そうですね。では、私達も出発しましょう。まずはワカバタウンですかね」
「そうだな。……おや、こんな時間に誰だ? もしもし」
突然、ダルマの図鑑、もといポケギアの着信音が辺りに響いた。彼はポケギアを耳に押し当て受け答える。相手は、聞き慣れない声で話した。
「あ、ダルマさんですか? 私作家をやっている者です、突然のお電話失礼しました。ご迷惑でしたでしょうか?」
「いえ、俺もさっき起きたばかりですから。それで作家さん、こんな時間にご用件ななんでしょう?」
ダルマがこう問ったところ、作家を名乗る者の声が一段と大きくなった。
「おお、よくぞ聞いてくれました。実は私、ノンフィクションの題材を探していたのですが、なんとも凄い体験をしたトレーナーがいると聞きましてね。そこで、あなたの旅を小説にしたいので、許可を頂こうと連絡をした次第です。どうですか、了承してもらえますか?」
「それは構いませんが……」
ダルマは気の抜けた返事をした。作家はいよいよご機嫌な調子で喋る。ダルマはもちろん、端から見ているゴロウとユミも、漏れてくる声に戸惑い気味だ。
「そうですか、ありがとうございます! では後に取材をさせてもらいますね。そうそう、タイトルはもう決まっているんですよ。こっそり教えておきますね」
ここで、作家は受話器越しに深呼吸をして間を置いた。そして、澄ました声でこう叫ぶのであった。
「『大長編ポケットモンスター「逆転編」』!」
大長編ポケットモンスター「逆転編」
・キャスト
・ポケモントレーナーのダルマ
・ポケモンリーグ優勝者のゴロウ
・探検家志望のユミ
・道具職人のドーゲン
・ポケモン博士のウツギ
・ポケモントレーナーのカラシ
・ポケモン塾のジョバンニ
・キキョウジムリーダーのハヤト
・がらん堂幹部のパウル
・がらん堂塾長のサトウキビ
・ボール職人のガンテツ
・???のミツバ
・ヒワダジムリーダーのツクシ
・コガネ市長のカネナルキ
・市議のイブセ
・技術者のボルト
・コガネジムリーダーのアカネ
・国際警察のハンサム
・チャンピオンのワタル
・四天王のキョウ
・がらん堂幹部のサバカン
・フスベジムリーダーのイブキ
・がらん堂幹部のリノム
・科学者のナズナ
・他端役多数
・出演ポケモン73種類63匹
・スタッフ
・元作品:ポケットモンスターシリーズ
・原作:ゲームフリーク様
・執筆:あつあつおでん
・ストーリー:あつあつおでん
・バトルプラン:あつあつおでん
・設定:あつあつおでん
・デバッグ:読者の皆様
・スペシャルサンクス(敬称略)
・もんじろう
・モバイル色見本 原色大辞典
・文体診断ロゴーン
・小説形態素解析CGI(β)
・トレーナー天国i
・ポケモン ブラック・ホワイト攻略ガイド
・ネタポケまとめwiki
・ポケモン第五世代・対戦考察まとめwiki
・Weblio類語辞典
・ライトノベル作法研究所
・マサラのポケモン図書館
・Google先生
・Yahoo!辞書
・後日談
・逆転の代名詞 ダルマ
ポケモンリーグでの戦いぶりから、良くも悪くも逆転の代名詞として名を馳せる。パーティ全員で1つの戦略を成し遂げる姿は、初心者トレーナーの手本となった。現在はジョウトの西部を旅しているらしい。
・不器用な優勝者 ゴロウ
たった1匹でポケモンリーグを制したこだわりと強さから、後々まで語り継がれていく。やがて、彼は全てのポケモントレーナーの目標になる。
・二面性の探検家 ユミ
故郷に戻り、ダルマと共に探検家の訓練をしている。また、時々ジョバンニの下でポケモンバトルを教えている。彼女の授業は恐れと敬意を持って親しまれているともっぱらの噂らしい。
・真摯な虎 カラシ
その実力を高く評価され、四天王の1人となる。家族をセキエイに呼んで生活しているらしい。世間から忘れられたはらだいこを使いこなしたことで、評論家からは高い評価を受けた。もっとも、彼は周りを気にせず修練に励むばかりである。
・稀代の道具職人 ドーゲン
大会で使った量産型しんかのきせきを売りさばき、財産を築く。彼が作った道具はどれもポケモンバトルを変革し、常に時代を作り続けた。しかし、彼自身はバトルをしなかったようだ。
・片割れの科学者 ジョバンニ
がらん堂が崩壊したことで、閑古鳥が鳴いていたポケモン塾に人が戻ってきた。彼の昔話は様々な人を引き付け、それにより友人トウサが見直されることとなる。
・技術者の鑑 ボルト
コガネの海に沈んだレプリカボールを作り直し、1代にして巨万の富を得る。しかし物作りへの情熱はとどまるところを知らず、数々の発明品を世に送り出すのだが、それはまた別の話である。
・立ち向かう警察 ハンサム
最近は暇になり、スロットで時間を潰すこともしばしば。だが割に上手く、コインで手に入れた道具でバトルの腕を磨いていったらしい。
・忘れられた科学者 トウサ
あれから捜索が続くが、一向に見つからない。果たして彼は生きているのか、それとも……。その答えは神のみぞ知る。
THE END
「ポケモンリーグ、今日は15日目、時刻は午後8時。いよいよこの時がやってまいりました。先程行われた3位決定戦も中々の盛り上がりを見せました。しかし、ここにいる観客、テレビの視聴者が見たいのは! 今から行われる決勝戦だ! 笑っても泣いてもこれが最後。だからこそ、笑顔で迎え入れよう! それでは、選手入場!」
「……いくぜ。俺とポケモン達、最後の勝負だ!」
ダルマは力強くスタジアムに乗り込んだ。雲1つない夜空、瞬く星々、スタジアムを照らすライト……全てが彼のために用意されたような気さえ起させる。
「久しぶりだなダルマ! 最後はお前と勝負か」
「ゴロウ! まさかお前が決勝戦の相手なのか?」
ダルマはトーナメント表と対戦相手を見比べ、目を丸くした。表に書かれていた256人の名前は殆ど消されてしまっている。残るは、ダルマとゴロウ、この2人のみである。決勝戦の相手は、ダルマが初めて戦ったゴロウだったのだ。
ダルマはふと、スクリーンに注目した。映っているのは手持ちの数である。ダルマが6匹なのに対し、ゴロウは1匹しか表示されていない。
「な、なんで1匹しか表示されてないんだ……?」
「それはもちろん、俺が1匹しか持ってねえからだ」
「1匹……はっ、もしかして?」
「その通りだ。俺はポケモンをゲットするのが壊滅的に下手だからな、割り切って1匹で戦っていたんだよ。まあ、キョウのおっさんに相当鍛えてもらったから1匹でも全然大丈夫だけどな!」
「……そうか、なら良い。じゃあそろそろ始めようぜ、これが最後だ」
「おう。あの時の悔しさ、今こそ晴らしてみせる!」
ゴロウの目に炎が宿った。戦いの開始を告げる合図である。ダルマは1匹目のボールを手に取った。
「これより、ポケモンリーグ決勝戦を始めます。対戦者はダルマ、ゴロウ。使用ポケモンは最大6匹。以上、始め!」
「ブースター、まずはお前だ!」
「いくぞラッタ!」
2人はほぼ同時にボールを投げた。出てきたのはラッタとブースターである。ラッタには、体中に傷が入っている。
ダルマは図鑑を開いた。ラッタはコラッタの進化形で、並以上の素早さを武器とする。全体的に能力が低いものの、特性や技の威力でそれらを補う。技の範囲は狭いが、全く駄目ということもない。単に鋼タイプを出せば止まるわけではないので、注意が必要だ。
「ダルマ選手はブースター、ゴロウ選手はラッタからです。ゴロウ選手はラッタがやられた瞬間負けとなりますが……な、あれはなんでしょう!」
「う、どうなってるんだ!」
ダルマはスクリーンの表示に腰を抜かした。ブースターのレベルは50と示されている。他方、ラッタのレベルは上限の100となっていたのである。ブースターは、そんなラッタの威圧感に委縮してしまっている。
「れ、レベル100なんて……どの対戦相手も50程度だったのを考えると、とんでもないな。けどそれがなんだって言うんだ。ブースター、手始めに馬鹿力だ!」
「俺のバトルに手始めなんてねえぞ! 不意打ちだ!」
ブースターが動き出した途端、ラッタの姿が消えた。すると次の瞬間、ラッタがブースターの背後に現れ、ブースターを殴った。一見普通の攻撃のようだが、ブースターは為す術なく崩れ落ちた。
「ブースター戦闘不能、ラッタの勝ち!」
ダルマは思わず唸ってしまった。対するゴロウは完全に勝ち誇った様子である。
「ブースター! くそー、こりゃかなり厄介だな。……あ、あれ?」
ダルマはラッタの異変を察知した。体中を炎が包んだかと思えば、ラッタは火傷状態になってしまったではないか。
「ラッタ、火炎玉で自ら火傷になりました。これはまさか……」
「根性か!」
「その通り。1発耐えてどうにかできるなんて思うんじゃないぞ!」
「へ、へへ。1発耐えるくらい簡単さ、頼むぞスピアー!」
ダルマはブースターと入れ替わりにスピアーを繰り出した。例のように、右腕にタスキを結んでいる。
「きあいのタスキか。んなもんで俺達は止まらねえよ、みだれひっかき!」
ラッタは一気にスピアーに接近、自慢の爪でやたらめったらに引っかいた。火傷をしているとは思えないキレである。なんと2回目の攻撃でスピアーを切り捨ててしまった。ラッタはそのままゴロウの元に戻る。
「スピアー戦闘不能、ラッタの勝ち!」
「な、なんだとおおお! みだれひっかきなんて反則だろ」
「んなことねえよ。相手の意表を突くのは立派な戦略だ」
「う、反論できない……」
ゴロウの言葉に、ダルマは唇を震わせながら地面を踏みつけた。彼はしばし首を捻ると、苦渋の色を浮かべた。
「ええい、こうなったら持久戦だ。キマワリ!」
ダルマはスピアーとキマワリを交代した。今日もこだわりメガネを装備している。こうして見てみると、どこか別世界の敵と似てなくもない。
「無駄無駄無駄無駄ぁっ、かえんぐるまだ!」
ラッタは攻め手にこと欠かない。自らに着火し、キマワリに高速で突っ込んできた。これを食らったキマワリは瞬く間に火だるまとなり、炭を通り越して灰となってしまった。
「キマワリ戦闘不能、ラッタの勝ち!」
「やはり耐えないか。けど徐々に体力が削れてきたな。よし、次はキュウコンだ!」
ダルマはためらわずにキュウコンを投入した。日差しが一気に強くなる。ここまで敵なしのラッタは徐々に火傷のダメージが蓄積しているのか、やや呼吸が荒くなっている。
「おらおら、今度はからげんき!」
ラッタの快進撃は止まらない。キュウコンの懐へ駆け、無理に暴れまくったのである。歴戦のキュウコンでさえ話にならず、たまらず気絶した。
「キュウコン戦闘不能、ラッタの勝ち!」
「まだまだ、カモネギ!」
ダルマはすぐさまキュウコンを退かせ、カモネギを送り出した。準決勝と同じく、二刀流で立ち向かう。
「何匹来ても同じこと、からげんきだ!」
ラッタの前に茎ではあまりに脆い。ラッタは再度からげんき攻撃を行い、2本の茎でガードしていたカモネギを吹き飛ばした。耐久力のないカモネギは、確認するまでもなく瀕死である。
「カモネギ戦闘不能、ラッタの勝ち!」
「なんという戦力差でしょうか。ダルマ選手、あっという間に1対1に持ち込まれました。この絶体絶命のピンチをしのげるのでしょうか」
「……あー、ここが勝負所だな。時間稼ぎをしてくれた皆のためにも、これは負けられない。出番だ、オーダイル!」
ダルマは努めて冷静に最後の1匹、オーダイルに全てを託した。迎え撃つラッタは既に火傷のダメージが馬鹿にできないものになっている。息は切れ切れで、持ってあと数ターンと言ったところだ。
「へっ、最後は最初と同じ相手か。今の俺達は違う、不意打ちだ!」
最後の対決、先に動いたのはラッタだ。ラッタはまたしても姿を隠してオーダイルの背後を取り、正拳突きをかました。オーダイルは苦痛に顔を歪ませながら、辛うじて耐えてみせた。一方的な展開で沈黙していたスタジアムが、一気に盛り上がる。
「よし、計画通り。アクアテールを食らえ!」
オーダイルは背後のラッタに尻尾を叩きつけた。虚を突かれた1発により、ラッタの体は宙を舞う。
「とどめだ、アクアジェット!」
すかさずオーダイルは全身に水をまとい、激流の如き砲弾となって追撃した。これを受けたラッタは体勢を崩したまま着地し、それを見たダルマは安堵の表情を浮かべた。スタジアムは再び静まり返り、ジャッジを待つ。
ところが、予想外の事態が発生した。なんとラッタが起き上がったのである。スタジアムのあちこちに、悲鳴にも似た叫びがこだまする。もちろん、ダルマの顔も凍りついた。
「……お前は最高の相棒だぜ、ラッタ。終わりにするぞ、からげんき!」
「うおおおおおおおおおお!」
ラッタは最後の力を振り絞り、からげんきを叩き込む。ほうほうの体であるオーダイルにはこれを避けることなどできず、地響きを立てながら倒れた。そして、審判の声が全てに幕を下ろすのであった。
「オーダイル戦闘不能、ラッタの勝ち! よって決勝戦、勝者はゴロウ選手!」
・あつあ通信vol.66
ダメージ計算は6V、ラッタ@火炎玉陽気攻撃素早振り、ブースター意地っ張り攻撃素早振り、キマワリ@メガネ臆病特攻素早振り、スピアー@タスキ陽気攻撃素早振り、キュウコン臆病特攻素早振り、カモネギ@長ネギ陽気攻撃素早振り、オーダイル意地っ張りHP攻撃振り。レベルはラッタが100、その他が50。ブースターへの通常不意打ちを皮切りに、キマワリは火炎車で、スピアーは根性乱れひっかき2発目で、キュウコンは根性空元気で、カモネギも根性空元気で確定1発。オーダイルは根性不意打ちをギリギリ耐えた後激流アクアテールとアクアジェットを255/256の確率で耐えられ、根性空元気で万事休す。ダメージ乱数の選び方がBWで変わってなければ255/256以上の確率で耐えます。まあ、日照り状態の時点で完璧に耐えられてしまうのですが。
あつあ通信vol.66、編者あつあつおでん
pocket
monster
parent
『バリアー・後編』
シオンは女や子供を殴った覚えなど一度もなかった。
それでも殴る覚悟をした。
目の前を立ち塞がるワカバをグッとにらみつけた。
「どうしても退いてくれないのか?」
「何度言えば分かるの? 仕事だから、ここは通せないって」
ワカバの顔面はすでに殴られた後のように不細工だった。
流れるような金髪、色白の肌、細長い手足、小柄な体系、
そしてベトベトンのような醜い容貌、顔を隠せば美少女であろう。
「じろじろ見ないで。気持ち悪い」
「自意識過剰だな。どうしても退かないなら、
俺は力ずくで通り抜けてやるぞ?」
「力ずく? 笑わせないでよ。
アンタみたいなもやしっ子が、無理に決まってんじゃん」
ワカバは鼻で笑った。
やせ我慢や見栄を張った様子はなく、
異様な自信があるようだった。
シオンは運動が得意なワケではないが、
細身のワカバよりも一回り体が大きい。
実はナントカ拳法の免許皆伝取得者、
なんてことはありえない。
この世がフィクションでもない限りシオンは、
ワカバの妨害を切り抜けられると信じていた。
そうこう思案している内に、
ワカバはおもむろに鉄球を取って見せた。
赤と白の鉄球だった。
「ああモンスターボール」
紅白の鉄球がワカバの手の平から離れた。
モンスターボールは大地で真っ二つに割れ、
白い光が宙に漂う。
みなぎる光が、ポケモンへと変形していく。
ベトベトンが現れる予感がした。
鉄球の内部から青き竜が姿を披露した。
大きな蛇のような小さな龍がいた。
その太く、長く、しなやかな体躯が、
なめらかな曲線を描いている。
尾と首元に瑠璃の玉が飾られ、
真珠色をした円錐の頭角をはやし、
天使の翼を形作る純白の耳に、
黒い光沢のある瞳がキラキラしている。
ドラゴンポケモンのハクリューだった。
初見だったシオンは、思わず声を漏らした。
「びゅっ……ビューティフォー……」
目の前で、美術品が鼓動しているかのようだった。
宝石が生を受けたかのようだった。
瑠璃の化身だった。
隣のベトベトン女と見比べるとより輝いて見えた。
「彼女が私のポケモンよ、名前はハクリーヌ。
これでも力ずくで通るって言える?」
青き竜の体長はワカバのおよそ三倍近くあった。
良く育てられてるのだと思った。
人がポケモンに勝利するケースは少ない。
シオンは勝てると思っていない。
勝敗よりもハクリーヌを、
このまま奪い去ってしまいたかった。
「人間が、それもアンタみたいなのが
ポケモンに勝てるわけないでしょ。
分かったら帰りな」
「嫌だ! 俺はこの先へ行く」
「ハクリーヌと闘うつもり? 殺されたいの?」
「ああ、相手をしてもらいたいくらいだよ」
「そ。じゃあハクリーヌ、そこらへんの地面にたたきつける」
青き竜は、尻尾を天にかざすと、ムチのようにしならせた。
ビュンと風を切る強い音が、パン!と足元から鈍く轟く。
一瞬だけ空間がねじれて見えた。
ハクリーヌの尻尾から胴体まで地面に減り込んでいた。
一瞬で大地が凹んだ。
「次は当てるわ」
ワカバはいやらしい笑みを浮かべる。勝ち誇った表情に見えた。
シオンは大地を思いっきり踏みつけたが、
分厚い鉄のように固く微動だにしない。
それをハクリーヌは粘土ようにひしゃげる。
もしハクリーヌの一撃を生身の人間が受けたならば、
無事では済まないだろう。
衝撃を受けた骨格は粉々に砕け、体内の臓器が全て破裂し、
肉片と血をまき散らして、原型のない遺体へと成り果てる。
途端、死の恐怖に足がすくんだ。
「お前は、そんな簡単に人殺しになるつもりか?」
「死なないわよ。知らないの『エッチピー』って」
いやらしい何かの単語かと勘繰ったが、
シオンはすぐに理解した。
「『ヒットポイント』だろ?
ポケモンの持ってる体力みたいなもんだよな。それが何だって?」
「ポケモンの『技』って『HP』を削るためのもの。
でも人間には『HP』がない。よって死なない」
シオンは大地に空いた穴をもう一度見つめた。
「死ぬって!」
「そんなことない、理屈が通ってる」
「屁理屈だ!
人間にポケモンの技を試してみたい愚か者の言う屁理屈だ!」
「でも、私やるから。仕事だし。アンタが通るって言うのならね」
さらりと言ってのけるワカバの言葉が冗談に聞こえなかった。
ワカバはトキワシティの門番でもあった。
不審者を捕まえ、悪人を街から逃走させない使命を受けていた。
強い力を持つ証だった。
か弱いから勝てる、女だから、
などと浅い読みをし、今になって後悔した。
命を賭けてまで突撃したくはない。
その一方で、ここを乗り越えねばトレーナーになる時が
永久に訪れそうにない。
ポケモントレーナーになれないのなら、
死んだ方が良いと本気で思っていた。
自己暗示をした。
目の前の困難を乗り越えたらポケモントレーナーになれる。
今、頑張ったなら夕方頃にはポケモントレーナーになっている。
黄色い電気ネズミが相棒として、自分の隣にくる。
この場を切り抜けて帰ってくるだけで、念願が成就する。
苦しみの後に必ず幸せはやってくる。
女と竜が視線を投げ、待ち伏せていた。
勇気を携え、シオンは腹をくくる。
大地を蹴って、走り出した。
「はかいこうせん!」
ハッキリした声だった。
目の前が真っ白になった。
張り裂けるような爆音と雷鳴が轟いた、かのようだった。
灼熱の炎が体を押し潰す勢いで迫っている、ように感じた。
背中から猛スピードで疾走している、ように感じた。
燃え上がる烈火の中を延々と落下しているような、
そんなイメージがシオンの頭で展開された。
熱い炎と凍える風に圧迫されて、見動きは取れず息が苦しい。
何処も白しか見当たらない。
何が起きているのか分からず、不安と恐怖でいっぱいだった。
視界からうっすらと白色が引いていった。
青空と大地がかき混ぜられる景色を眺めていた。
シオンはごろごろ転がっていた。
思い切り力んで、起立すると、その場で崩れるように倒れた。
体中を鈍痛が何度も突き刺した。
頭から足までズキズキと鮮明に感じとれる。
めまいがする。吐き気がする。脳みそが震えているようだ。
シオンは深呼吸すると、石のように固まり、眠るように休んだ 。
痛みが薄まる。シオンは踏ん張って立ち直る。
周囲にワカバとハクリーヌの姿はない。
至る所で緑色の屋根の住宅が見つかった。
推理する。ハクリーヌの攻撃を受け、
シオンはトキワシティまで吹っ飛ばされてしまった。
人の限界を余裕で超える圧倒的な威力だった。
腹の底にのめり込んだ灼熱が、今更じわじわと伝わってきた。
あらがえず無力を感じた凄まじい圧力。
軽々と人体を猛スピードで飛来させる大力。
簡単に恐怖や不安を覚えさせる能力。
心を揺さぶる一撃だった。シオンは感動した。
「ふははははは」
弱弱しく笑ってしまった。変態になったのかもしれない 。
シオンは、強い力に憧れていた。
ポケモンは凄くて強くてカッコイイのだと再認識した。
それが嬉しかった。
たまらなくワカバが羨ましくなった。
「ああ、俺も力欲しいなぁ。ポケモン欲しいなぁ。ちくしょう!」
もし自分が破壊光線をぶっ放していたら、
そんな力があったらと考えただけで気持ちが高ぶった。
ちょっとしたヒーローになれそうだった。
たまらなくハクリーヌが欲しくなった。
「さて。どうしようかな」
自分のポケモンが欲しくてたまらない。
今すぐにでも手に入れたい。
ワカバとハクリーヌに無謀な再挑戦を挑んだ所で、
半殺しに遭うのは目に見えている。無策での挑戦を中止した。
果たして何をどうすればポケモントレーナーとなれるのか。
頭をひねって悩み続けてもさっぱり分からない。
奇跡でも起きてくれない限り、
ポケモンを手にする自分が想像できない。
未だに起きてくれる気配のない奇跡にシオンは失望していた。
「普通のポケモントレーナーになるぐらいなのに。
ただそれだけのことだってのに。
ああ! ちくしょう!」
つづく?
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