マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  •   [No.758] 第78話「ポケモンリーグ5回戦第1試合中編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/10/01(Sat) 11:39:01     64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    「まずは態勢を整えねばな、身代わりだ」

    「ならばこちらはわるだくみ!」

     バトルに新たな流れが生まれつつあった。キュウコンは不敵な笑みを浮かべながら辺りに熱を撒き散らす。一方ラッキーは身代わり人形を作り、タマゴを入れる袋の中に入れた。互いににらみ合いを続け、攻め手に欠く。

    「試合は緊迫した展開が続きます。しかし両者決定打を欠きます」

    「ほれほれダルマ、そっちが来ないならこっちから行くぞ。ラッキー、どくどくだ」

    「くっ、ひとまず身代わりだ!」

     ここでラッキーが動いた。タマゴの袋の中から毒々しい塊を投げつけてきた。キュウコンは身代わり人形でそれを受けとめる。人形には傷1つできず、互いの人形が残る形となった。

    「うむ、避けられてしまったか。このままではすこぶる不利、これはあやつの出番だな。ゆくのだニョロトノ!」

    「今だ、わるだくみ!」

     ドーゲンはラッキーを引っ込めると、別のポケモンを繰り出した。腹部に渦巻きがあるポケモンである。キュウコンはすかさずわるだくみで特攻を上げた。

    「ドーゲン選手、ラッキーからニョロトノに交代です。そしてスタジアムはいきなり土砂降りになったぁ!」

    「そ、そんな馬鹿な、出てきただけで雨が降るなんて……」

     天気がめまぐるしく変わる中、ダルマは図鑑を開いた。ニョロトノはニョロゾの進化形で、全体的に平均的な能力を持つ。ほろびのうたやアンコールといった補助技を備え、相手をかき回しながら攻撃をする。また、ごくまれに天気を変える特性を持つ個体もいる。

    「ぬはは、ニョロトノの特性はあめふらし。晴れてなければキュウコンなど怖くないわ、ハイドロポンプ!」

    「くそ、身代わりでしのぐんだ!」

     先手はニョロトノだ。キュウコンを上回る速さで水柱を発射する。キュウコンは身代わり人形でそれをしのぎ、再び人形を盾にした。

    「こりゃまずいな……って、あれ? ニョロトノってそんなに速くないはずだぞ。もしや……」

     ふと、ダルマは首を捻った。そしてニョロトノを凝視する。頭、腕、足……あちこちチェックした末、ダルマは思わず唸る。しかしその間にもニョロトノの攻撃は止まらない。

    「どんどんゆくぞ、ハイドロポンプ!」

    「させるか、かなしばりで止めろ!」

     ニョロトノはもう1度キュウコンの身代わり人形を破壊した。その隙に、キュウコンはニョロトノをにらみつける。すると、ニョロトノは上手く動けなくなってしまったではないか。

    「ぐう、しまった。戻れニョロトノ、ゲンガー!」

    「隙あり、大文字!」

     慌てたドーゲンはニョロトノを戻し、5匹目のゲンガーを投入。キュウコンは雨を蒸気にする程熱い大の字の炎を撃った。出てきたゲンガーはこの炎をまともに受け、何もせず倒れてしまった。

    「ゲンガー戦闘不能、キュウコンの勝ち!」

    「い、一体何が起こったのでしょうか。有利なはずのニョロトノを交代。そして雨にもかかわらず大文字1発で倒れてしまいました」

    「……父さん、ニョロトノの持ち物はこだわりスカーフなんでしょ。でなければ、キュウコンより速く動けるはずがない。どこに隠したのかは分からないけど」

    「やはり読まれたか。さすが俺の息子だ。実は背中に貼りつけておいたのさ。ではもう1度、ニョロトノ!」

     ドーゲンはカラクリをばらした上で、ニョロトノを再度送り出した。天気は相変わらず雨、ダルマは3匹目のボールを握り締める。

    「ここは引くべきと見た。戻れキュウコン、オーダイル!」

    「そうはいかん、ハイドロポンプ」

     ダルマは手早くキュウコンとオーダイルを入れ替えた。オーダイルは出てきて早々ハイドロポンプを浴びる。だがニョロトノの攻撃はまだまだ終わらない。

    「続けるのだニョロトノ!」

    「負けるか、つるぎのまい!」

     ニョロトノは何回も水の槍を刺してきた。オーダイルはオボンの実をほおばりながら、負けじと戦いの舞いを披露する。反撃の準備は整った。

    「そこから地震攻撃!」

     オーダイルは地面を踏みならし、波でニョロトノを攻めた。ニョロトノは浮き足だっていたのか、転んで背中を打った。

    「よし、とどめのアクアジェットだ!」

     このタイミングで、オーダイルは水をまといニョロトノに襲いかかった。雨、つるぎのまい、特性の激流……まさに水を得た魚、ニョロトノを完膚なきまで叩きのめした。

    「ニョロトノ戦闘不能、オーダイルの勝ち!」

    「オーダイル、交代から強引にニョロトノを沈めました。今は普段と違い雨の恩恵があります。果たしてどこまで戦えるのでしょうか」

     実況の解説と並行して、観客席もざわついてきた。モニターに映し出される残りポケモンは、ダルマが6匹に対し、ドーゲンは3匹。もっとも、ドーゲン自身は意に介さない様子で笑い飛ばしている。

    「……がはははは、これで勝ったつもりか? まだ俺は3匹も残しておる。出でよ、エアームド!」

    「ふん、今更出ても遅い。アクアテール!」

     ドーゲンは先程のエアームドを場に呼んだ。一気に勝負を決めようとしたオーダイルは自慢の尻尾でエアームドを打ちのめす。だが、エアームドはなんとか堪えた。

    「甘いわ、頑丈からのドリルくちばし」

     エアームドはオーダイルを逃がさない。その鋼鉄のくちばしで突きまくる。虫の息だったオーダイルはたまらず気絶した。

    「オーダイル戦闘不能、エアームドの勝ち!」

    「ふっ、やっぱ頑丈は便利だな、不測の事態に柔軟な対応ができる」

     ドーゲンは胸を張ってダルマを威圧した。ダルマは一瞬たじろぐものの、モニターを見て深呼吸をした。少し落ち着いた模様だ。

    「……よく考えたら、俺にはまだ5匹も残っているじゃないか。何故不利なはずの父さんがあんなハッタリをするのか掴めないな。けど、いくら厄介な戦いをされても、最後は必ず勝ち抜いてみせる!」



    ・次回予告

    親子対決も佳境に入った。数で押すダルマと戦略で戦うドーゲン。勝負の行方は如何に。次回、第79話「ポケモンリーグ5回戦第1試合後編」。ダルマの明日はどっちだっ。



    ・あつあ通信vol.59

    今考えたら、キュウコンの攻撃技が文字しかない。あと、パパさんの使うポケモンが贅沢すぎる。そういえば、パパさんの6匹目は何かわかりますか? 少しバトルの組み合わせを勉強していればすぐわかるはずですよ。

    ダメージ計算は、ニョロトノ@こだわりスカーフ臆病特攻素早振り、ゲンガー@命の珠臆病特攻素早振り、オーダイル@オボン意地っ張りHP攻撃振り、エアームドわんぱくHP防御振り。悪巧み2回積んだら雨でも大文字でゲンガーを確定1発。オーダイルはステルスロックとニョロトノの雨ハイドロポンプ3回をオボン込みで乱数で耐え、剣の舞からの地震と激流アクアジェットで倒せます。雨剣の舞激流アクアテールでエアームドの頑丈を発動させます。


    あつあ通信vol.59、編者あつあつおでん


      [No.757] 六話 面倒臭がり屋の背景 投稿者:戯村影木   投稿日:2011/10/01(Sat) 11:19:32     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     1

     土曜日だった。季時九夜はフィールドワークに出かけていた。これにはとても深い理由があったが、ざっくりと説明すれば、補習である。単位が足らず、留年の危険性がある生徒のために、補習授業を行っていた。休みの日に仕事をさせられる季時は、とても機嫌が悪かった。
    「すみません、先生」
    「許したくないな」季時は山道を歩きながら、淡々と言った。「君は僕の休日がどれだけ貴重かを理解していない」
    「ごめんなさい」
    「許したくないな」季時はまた言った。
     補習対象の生徒は、桐生という名の女子生徒だった。特待生ばかりを集めた三年一組の生徒である。本来であれば単位が足りなくなる、というようなことはないのだが、大病を患い、今まで学校を休んでいた。
     その大病というのも、決して彼女が不健康な生活をしていたというわけではない。夜間の学校で、浮遊しているゴースに遭遇したのが直接の原因だ。ゴースのガスは人体にとても悪い影響がある。理由がそんなものであるから、季時もこの補習を断るわけには行かなかった。
     もっとも、それくらいなら、単位だけ与えてそれで終わりでも良かった。しかし、桐生に補習を受けさせてくれるよう、と頼んできたのが、白凪であった。季時は端的に言って、白凪が苦手だった。彼女は正しい。正しく美しいものに、季時は抵抗しようとしない。
    「ところで、病気はもういいの」
    「あ、はい、良くなりました」
    「受験は?」
    「します」桐生はゆっくりと頷いた。「出来れば、玉虫大学に行きたいなと思ってるんですけど……」
    「ああ、へえ、桐生君、ポケモン好きだったの?」季時は初めてそうした認識をした。「なんだ、それなら早く言ってくれればいいのに」
    「はあ」
    「ふうん、ポケモン好きか。じゃあ、今回の件は許そう」季時はすぐに機嫌を良くした。「玉虫行って、何をするつもりなの?」
    「獣医になりたいなって」
    「ふうん。獣医学部か。まあ、就職にも困らないかもね」
    「そう言えば、先生もやっぱり……」
    「卒業生だよ」
    「受験、難しかったですか?」
    「いや、あまり。他の先生からね、こういうことは生徒に言わないように、と言われているんだけど、僕は勉強が苦手だと思ったことはないからね。そこにあることを覚えるだけなんだから、簡単だよ」
     季時と桐生はさらに山道を進んでいく。木々が多く、人工物がほとんどない、完全な自然だった。
    「でも、特待だし、桐生君も頭良いんじゃないの。二年の頃、生物学はトップ成績だった記憶があるけど」
    「どうでしょう……ポケモンのことばかりなので、他の教科は、普通ですね」
    「普通ね。普通って言う辺り、頭が良さそうだ」季時は笑って言った。
     季時は今日は白衣ではなかった。山登り用の服装をしている。リュックサックにはボールが六種類収納されている。いつもの暢気な高校教師という雰囲気とは一変していた。桐生も制服ではなく、私服である。こちらも動きやすい服装ではあったが、本格的な登山服ではない。長い髪の毛は一本にまとめられていた。
    「もうすぐだよ」振り返り、季時は言った。「開けた場所に出たら、休憩をして、内容をもう一度説明しよう」
    「はい」
    「なるほどね、ポケモン好きか」
     季時は独り言のように言った。
    「こういう休日もたまには悪くない」

     2

    「知っているとは思うけど、改めて説明しよう。今回の実習は、まあ、戦闘が主だね。体育とか、生物学とか、そういうのに属さない、特別授業。最近は自然も少なくなってきて、気軽に野生のポケモンと触れ合う機会はないし、ましてや戦う機会もないからね。ポケモン、持って来てるよね」
    「あ、はい」
    「じゃあ、出してみて」
     桐生は言われた通り、リュックにぶらさげていたボールを放り投げた。炸裂したボールから、ラッキーが現れる。季時はそれを見て、満足したように頷いた。
    「珍しいポケモン持ってるね」
    「小さい頃に、プレゼントしてもらったんです」
    「なるほど。ある程度戦えるのかな」
    「いえ、戦闘経験は、ほとんど……」
    「どうして?」
    「戦うこと、あまり好きではないので」
    「なるほどね」季時は口を曲げた。「否定はしないけど、獣医になりたいなら、もっとたくさん戦って、ポケモンを傷つけた方が良いよ。自分のポケモンを傷つけて、それを治せるという自信がないと、他人のポケモンで同じことをするのは難しいから」
     季時は水筒を取り出し、コップに中身を注いだ。岩場に座り、溜め息をついた。
    「いやあ、運動不足だ」
    「大丈夫ですか……?」
    「頭はクリアだよ」
    「身体が、です……」
    「大丈夫じゃないから、休憩をするんだけどね」季時はお茶を飲み干した。「戦闘経験がほとんどないっていうのは、どれくらいないの? せっかく個人授業だから、詳しく授業しようか」
    「えっと……小さい頃、男の子と遊んだくらいで」
    「野生ポケモンは?」
    「全くないです」
    「よし、じゃあレクチャーをしよう」
     季時は荷物をリュックサックにしまって、ボールを一つ取り出した。それを片手に持ったまま、立ち上がる。
    「野生ポケモンと遭遇したことは?」
    「ないです……」
    「温室育ちか。悪くないけどね。大学行ったら、実習ばっかりだから、慣れておいた方が良いよ」
    「……あの、先生って何学部だったんですか?」
     季時のあとをつけながら、桐生が訊ねる。
    「獣医学部」
    「えっ、本当ですか?」
    「うん。まあ、教員免許取って、教師になったけどね」季時は珍しく、面倒臭そうな口調だった。「えーと……弱いポケモンの方がいいかな」
    「どうして教師になったんですか?」
    「楽だからかな。君はどうして獣医になりたいの?」
    「えっと……昔ラッキーが病気になった時、獣医さんに診てもらって……格好いいなって思って。そんな、単純な理由です」
    「素敵だと思うよ」季時は頷いた。「だけど、もうちょっと、現実を知った方がいいな」
    「現実……ですか?」
    「うん。まあ、自分で気づいた方がいいかな」
     季時は草むらが生い茂っている場所まで来て、足を止めた。そして、桐生に手招きをする。桐生とラッキーが近づいてきて、草むらの前で立ち止まった。
    「この辺を歩いてると、ポケモンが襲ってくるだろう。僕がいるから、とりあえず試してごらん。危なくなったら、助けてあげるから」
    「あ、はい……ありがとうございます」
    「まあでも、出来るところまで、自分でやってみて。出来るところまで、というのは、全てが終わるまで、ということだけど」
     桐生は言葉の意味を完全には理解出来ないまま、草むらに一歩踏み出した。ラッキーも、おそるおそる桐生のあとをついていく。季時はそこから少し離れて、リュックサックからチョコレートを取り出して、かじり始めた。
     かなりゆっくりとした動作で桐生が歩いていると、ふいに、草むらの揺れる音がした。桐生は慌ててそちらを振り向く。と、大きな尻尾が草むらから覗いていた。オタチだ。桐生とラッキーはそれに向き合うように対峙した。
    「ら、ラッキー……頑張って」
     桐生が控えめに攻撃の指令を出すと、ラッキーはゆっくりとオタチに近づいて、控えめに手を出した。オタチの身体を叩く動作だった。オタチはそれを受けても、しかし、まだ倒れる様子はない。オタチは威嚇するように、鳴き声を上げた。気弱なラッキーの戦意を喪失させるには十分な威嚇だった。
    「ラッキー……まだ、攻撃して」
     桐生はまた、控えめに指令を出す。ラッキーはまた、おそるおそる、オタチを攻撃した。
    「キイッ」
     たった二発叩くだけの、単純な行為だ。だがしかし、たったそれだけの行動で、オタチは動かなくなった。草むらの中で倒れ、呼吸を乱し、今にも死んでしまいそうな状態になって、喘いでいる。
    「あっ……」
     桐生はそれを見て、困ったように身を屈めた。そして、助けを求めるように、草むらの外にいる季時を見た。しかし季時は、何を言うでもなく、ただ暢気にチョコレートを食べている。
    「あの……先生、どうしたらいいでしょう」
    「どうしたら、っていうのは?」
    「その……今倒してしまったオタチを」
    「桐生君はどうしたい?」
    「……」
     桐生は無言でリュックサックを開けた。そこから、傷薬を取り出した。市販のものだ。
    「桐生君、それはダメだ」
    「え……でも」
    「放っておけばいいんだよ」季時は肩を竦めた。「そのままそこに転がしておけばいいよ。そのうち、勝手に体力を回復させて生き延びるか、そのまま力尽きるかのどちらかだよ。まあ、前者が圧倒的に多いけどね」
    「死んじゃうんですか……?」
    「かもしれない」季時は首を振った。「でも、じゃあ、倒したオタチをわざわざ助けて回るのかい? それとも、遭遇したポケモンからは常に逃走する? ポケモンを全員捕まえて行く? そうじゃないよね」
    「でも……」
    「君の気持ちはよく分かる」季時は草むらに近づいて来て、倒れたオタチをそっと抱き上げた。「このオタチは、例えるなら、自分の家に侵入されたようなものなんだ。このオタチには家族がいて、縄張り、家族を守るために、戦う決意をした。そしてそれに負けたんだ。この辺を探せば、きっと家族がいるよ。大体の場合、負けてしまった野生のポケモンは、家族や仲間が引きずって行って、安静な場所まで連れて行く。けど、僕たちがこうしてここに居座っている限り、彼らはこのオタチを助けに来ることが出来ない」
    「……そう、だったんですか」
    「そういう場合が多い。もしこのオタチが一匹だけで生活していたなら、この場で死ぬだろうね」
     季時はリュックサックの中から、いくつか木の実を取り出して、草むらにばらまいた。そして、オタチを地面に横たわらせると、桐生の手を取って、立ち上がらせた。
    「本当は野生のポケモンに慈悲を与えるべきじゃないんだ。野生のポケモンに傷薬を与えるというのも、良くない。もし、どうしても意図しない戦いの末に傷つけてしまったなら、木の実がいい。木の実は、人工的じゃないからね。市販薬は、案外毒素も多い」
    「……はい」
    「さっきの場所まで戻ろう。あそこまで行けば、オタチの家族も安心出来る」
     季時は桐生の手を握ったままで歩いた。桐生は終始俯いていたが、その理由を季時は尋ねなかった。

     3

     この実習は本来一日かけて行われるものである。今回は桐生一人だけなので、もう実習は済んだようなものだったのだが、しかし二人はまだ山の上にいて、今は昼食を食べていた。桐生は手作りの弁当を、季時はカレー味のカップヌードルを持って来ていた。
    「それ、自分で作ったの?」
     ガスバーナーでお湯を沸騰させながら、季時は訊ねた。桐生は控えめに、「はい」と頷いた。
    「ふうん。料理も出来るんだ。完璧超人だね」
    「いえ……趣味なので」
    「僕は出来れば一生料理なんてしたくないけどね」沸騰したお湯を注いで、蓋を割り箸で留める。「あともう少し野生と触れ合って、そうしたら帰ろうか」
    「あの……私、獣医に向いていないでしょうか」
     俯きながら、桐生が訊ねる。
    「向いているかいないかは、僕には判断出来ない」
    「……そうですね」
    「三分間、話をしてあげよう」季時にしては珍しい発言だった。「ある学生の話なんだけどね」
    「学生さん?」
    「昔、獣医になりたかった学生がいたんだ。その学生は勉強熱心でね、かなり小さい頃から将来の夢を決めていた。それで、うん、情報ばかりを頭に詰め込んだ。勉強魔だった。それが全てだと思っていた。だけど、ある日……大学生になってからだね、一週間くらいキャンプをするっていう授業があって、それは野生のポケモンと触れ合う授業だった。その時に、学生は思ったんだ。人間たちが傷つけて、人間たちが治して、何がしたいんだろうってね」
    「……」
     桐生は動きを完全に止めていた。その話はまさに、自分の思っていることと同じだったからだ。
    「戦いに傷ついたポケモンや、病気に苦しむポケモンを治してあげよう、というのが学生の夢だった。でもね、知れば知るほど、その根源が人間にあることに気づいたんだ。戦闘不能になるまで痛めつけるのは人間の指示があればこそ。病気というのだって、人間が生み出した環境に適応出来なかったポケモンが陥っていく。そのうちに、学生は獣医になることをやめた。諦めたというよりは、魅力を感じなくなった。そして、その学生は今、若い学生に説教をしているよ。こんなところで、三分間だね」
    「先生も、獣医になりたかったんですね」
    「まあ、昔の話だけどね」季時は割り箸を割った。「でもね、それは僕の考え方だから」
    「私も同じことを考えました」
    「うん。でも、獣医はいなくちゃいけないんだ。僕たちが作り出した環境からポケモンを守るためにはね」
    「でも……」
    「君が病気を患ったのは、ゴースのせいだろう」
     桐生はゆっくりと頷いた。
    「その時の君の正直な意見が聞きたい。ポケモンなんかいなければと思ったか、人間が悪いと思ったか」
     桐生はしばらく考えてから、「あの時は、ゴースがいなければ、って思いました」と素直に答えた。
    「うん、じゃあ、君は獣医になった方がいい」
    「え?」
    「僕も昔、似たようなことがあってね。でもその時、僕は君とは違って、偽善的な考え方をした。人間がいなければ、って思った。人間さえいなければポケモンは傷つかない、ってね。だけど、僕は死なずに生きている。人間が悪いと思いながら、ポケモンに何もしようとしない。でも君は、善悪の判断がきちんと出来ている。断言しよう、君は獣医に向いている」
    「でも……」
    「僕は、ポケモンが悪さをしたらポケモンが悪い、という当たり前のことに気づくまで、何年もかかった。あの時、今と同じ考え方を出来ていれば、教師にはなっていなかったかもしれない。でも教師になっていなかったら、君と話すこともなかった」
    「そうですね」
    「……ああ、意味のない発言をしたようだ」季時は首を振った。「さて、さっさと食べて、もう何回か戦ってみよう。傷付け方を知っている方が、傷は治しやすい」
    「はいっ」
     昼食を食べながら、季時が次の野生のポケモンはどのレベルにしようか、と考えていると、地響きのような音が聞こえた。
     桐生は驚いたように周囲を覗う。季時は食事を続けた。
    「先生、なんの音ですか?」
    「リングマだね」
    「えっ……野生の、ですか?」
    「だねえ。良い機会だ、ちょっと、戦ってごらん」
    「む、無理ですよ! 私のラッキーじゃ、倒せるはずないですよ……」
    「倒せとは言っていないよ。戦ってごらん、と言ったんだ」季時は淡々と続ける。「傷を治すなら、傷付かないとね」
     話をしていると、地響きは次第に大きくなり、ついに、二人のいる開けた場所に、リングマが現れた。リングマは二人の人間と、一匹のポケモンを順番に見た。
    「先生……」
    「ラッキー、自分のご主人様を守るんだ」季時は割り箸をリングマに向けた。「さあ、頑張って」
    「あの、でも、ラッキーは……」
    「いいから」
     リングマはラッキーに狙いをつけた。本能的に、誰を相手にすればいいか、ということを理解しているのだろう。ラッキーは怯えた様子で、リングマを見上げていた。身長差がかなりある。ラッキーの頭上には、リングマの影が落ちていた。
    「ら、ラッキー……頑張って!」
     桐生はどうすることも出来ず、ただ声をかけるだけだった。しかし、そんな声援もむなしく、リングマが振り回した爪はラッキーの身体を深く切り裂いた。ラッキーはその反動で倒れ、桐生の元に転がった。
    「ラッキー!」
    「あ、ラッキーが一撃か。意外と強いなあ」季時は暢気に言いながら、スープを飲んだ。「桐生君、あと三メートル下がって、ラッキーを手当てしていて」
    「に、逃げた方がいいんじゃないですか?」
    「まあ、それも選択肢の一つではあるね」
     季時は地面に起きっぱなしにしていたボールを拾い上げ、素早い動作で投げつけた。リングマの付近でボールが開き、中から現れたのは、オノノクスだった。
    「ドラクロ安定、かな」
     季時は略語で指示を出した。オノノクスはそれに対して頷くでも、合図を出すでもなく、淡々と任務を遂行した。ラッキーを傷つけた腕の動きが、まるでスローモーションのように見えた。オノノクスは下から突き上げるように腕を這わせ、リングマの腹部を切り裂いた。
    「……ああ、でも、そこまで強いわけじゃあないのか」
     季時はのんびりと言って、倒れたリングマを見つめた。地面に落ちたボールを拾い上げ、素早くオノノクスを回収する。そして、桐生の元へと歩み寄った。
    「ラッキーは、無事?」
    「え、あ、はい……」
    「ああ、処置も適切。上手だね。いい獣医になるよ」
    「先生、強いんですね」
    「僕は強くないよ。強いのはオノノクスだ」
    「でも、育てて来たんですよね」
    「ポケモンをちゃんと育てるようになったのは、獣医になるのをやめてからかな」
     季時は倒れたラッキーの頭を優しく撫でる。
    「ポケモン、人間という言い方をついしてしまうけど、僕たちは個々だからね。どちらが悪いわけでもない。時々、すごく悪い一人とか、一匹がいるだけで、他のみんなはとても優しい。君がゴースに襲われたからといって、ゴース全体が悪いわけじゃない」
    「……それは、そうですね」
    「今のリングマだってそうだ。食べ物の匂いにつられたか、それとも、他の人間が彼に悪さをして、人間を嫌いになっていたのかもしれない。そういう理不尽な循環から身を守るためには、やっぱり、強くないとね」
    「……ラッキーでも、強くなれますか?」
    「いや、どうだろうね。ポケモンにも向き不向きがある。僕と君の志が違うみたいに。役割っていうものがあるからね」
     季時は立ち上がり、ゴミやガスバーナーを片付け始める。桐生はまだラッキーの横に座って、身体を撫でていた。
    「処置が済んだらボールに戻した方がいいよ。ここよりはいい環境だ」
    「はい……」
     桐生はラッキーを回収し、少し緩慢な動きで、残りの弁当をつまみ始めた。将来のことについて、色々と、考えているのかもしれない。
    「……幸い、医学部にはいたからね、それについての相談なら、乗ってあげられるよ」
    「先生のところにお邪魔しても、大丈夫ですか?」
    「うん。それに、ポケモンを強くしたいなら、それについての相談もしていいよ。あんまり、生徒に協力的じゃない教師なんだけどね。僕も人間だから、たまには気まぐれも起こす」
    「じゃあ……その時は、よろしくお願いします」
     桐生は控えめに微笑んだ。
    「でも私、今……獣医もいいけど、先生もいいな、なんて思ってるんです。影響受けやすいですから」
    「教師? うーん、それはやめておいた方がいいんじゃないかな」季時は表情を曇らせた。「僕はそれ、あんまりおすすめしないよ」
    「どうしてですか?」
    「教師はねえ、休日がなくなるんだよ」
     季時が言うと、桐生はおかしそうに笑った。


      [No.756] 五話 目立ちたがり屋の失態 投稿者:戯村影木   投稿日:2011/09/30(Fri) 20:09:06     53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     1

     生物の授業もなく、かといってどこかに行くほどの暇でもない、一時間の空き時間、季時九夜はカゲボウズを室内に放って、事典を見ていた。ポケモンに関することだけを集めた事典だ。暇な時間、季時はそうして時間を潰すことが多かった。知識を増やそう、というつもりではない。新しいことを知りたいわけでもないし、興味のないものを見たいわけでもない。既に知っていることを再確認するように事典を眺めるのが、季時にとって、ポケモンと戯れることの次に優れた暇潰しだった。
     それは二時間目の授業の空き時間だった。一時間目と三時間目に授業を持っていたため、身動きが取れない状態だった。しかし、珍しくコーヒーメーカーで三人分のコーヒーを淹れていた。まだ一杯目だが、もう半分以上なくなっている。空き時間はまだ半分以上残っていた。
     ふと、断続的なノックの音を耳にした。季時は事典を閉じて、「閉まってはいないよ」と答えた。するとすぐにドアが開いて、白い制服を着た男子生徒が入ってきた。
    「失礼します」
    「失礼はされたくないな」季時はすぐに答えた。「ええと、君とは初対面だ」
    「転校生です。三年生の……自分、水際と言います」
    「三年生で転校生? へえ、実在するの?」季時は不思議そうに言った。「制服の色が白いのは、そのせい?」
    「あ、いえ……」
    「何の用?」
    「ちょっと、相談に乗って頂きたくて」
    「ふうん。まあ、いいよ、座って」季時は書類まみれの椅子を勧めた。「上に乗っているものは、どうにかして」
    「失礼します」
    「先に断っておくけど、僕は男女で対応に差があるから、そのつもりで」
    「そうなんですか?」
    「いや、今からそうしようと思って」季時は言って、小さな食器棚からコーヒーカップを取り出した。「ねえ、男ならコーヒーくらい飲めるだろう?」
    「いただきます」
     水際という生徒は、書類を丁寧に机の上に移動させ、その机にも、少しばかりのスペースを用意した。季時はそこにコーヒーカップを置いた。わざと仏頂面で、「男なんだからブラックでいいだろう」と言った。あまりに暇だったからだろう、来客を喜んでいて、機嫌が良かった。しかし、初対面の水際には、不思議な光景に映ったに違いない。
    「で、君は何組の生徒?」
    「一組です」
    「特待か」季時は言った。「白凪君と同じだよね?」
    「あ、はい。あの綺麗な人ですね」
    「うん。付き合ってるんだ」
    「えっ? 先生とですか?」
    「いや、他の男子とね」
    「それは何か関係のある話ですか?」
    「まったくないよ」季時は自分の機嫌が良いことを自覚していた。機嫌が良ければ良いほど、心に余裕があればあるほど、季時の口はよく動く。「で、そんなに目立ちたがってどうするの」
    「えっ!」
     水際は今度こそ本当に驚いた。生物準備室を訪れて、一番驚いただろう。コーヒーカップを持っていなくて良かった。もし持っていたら、中身を全てこぼしていただろう。
    「なんで……自分の悩みを?」
    「学校指定とは違う制服の色、三年生で転校する行為、一人称が自分、これだけでも十分に目立ちたがり屋だなあと思ってね。まあ、目立っているよ、君の思惑通り」
    「そうでしょうか」
    「見た目はね」季時はマグカップを揺らした。「ああ、聞いてなかった、ポケモンは外に出していても大丈夫?」
    「あ、ええ……カゲボウズ、でしたっけ」
     生物準備室に浮遊するカゲボウズを見て、水際が訊ねた。季時はカゲボウズの頭をぎゅうとつかんで、「可愛いだろう?」と言った。答えを望まない類の質問だった。
    「で、目立ちたがり屋の水際君は、何がしたいんだい?」
    「何がしたい、というわけではないんですけど……あの、自分はもともと、進学校出身で」
    「だろうね。そんな顔しているよ」
    「分かりますか?」
    「ううん、適当に言った」
    「……それで、授業を受けて、勉強をして、ただ寝るばかりの生活はどうなのだろうと思って、転入手続きをしたんです。つい一週間ほど前ですね、転校してきたのは」
    「その行動力は評価しよう」
    「もっと、自分の思い通りの人生を手に入れたいと思って、この学校に来て……どうすれば楽しい人生を送れるかと、考えていたんです」
    「僕のところに来た理由は?」
    「その、この学校で一番変わっていて、目立っている先生が、季時先生だとお聞きしたので……」
    「心外だ」季時は溜め息をついた。「あのねえ、君、水際君だっけ? 心外だよ。僕は普通だよ」
    「はあ」
    「僕はね、心の中では服なんて着ていたくないし、仕事だってしたくないし、女子には大正時代に流行った袴とかね、ああいうものを着せたいと思っているよ。出来れば毎日、毎食、カレーがあればいい」
    「やっぱり先生は自分の理想通りの……」
    「いや、だけど僕はちゃんと服を着るし、仕事に来るし、制服を改革しようなんて運動は起こさないよ。食事もね、毎日適当にバラして食べる。これは、普通であろう、社会的に全うであろうという努力のおかげだ」
    「何故そんな努力を?」
    「生きやすいからだよ」季時は溜め息をついた。「君こそそんなに変わった人生を送って、何がしたいの? 僕には理解出来ないな」
    「もっと認めてもらいたいんです。自分という、個としての存在を。勉強だけをする機械じゃない。自分は、もっと自分を持っているんだということを」
    「……ふうん」
     季時は退屈そうに溜め息をついた。それを見ていたカゲボウズが、少しだけ怯えた表情になる。季時の機嫌が悪くなったのを察知したようだった。
    「君、授業は?」
    「先生が休みの時間ということで、休みました」
    「ああ、それも演出か。じゃあ、昼休みに、白凪君を連れてまたおいで。授業はしっかり出た方がいい」
    「……白凪さんですか?」
    「僕から言わせれば、君は魅力のない平凡な人間だ」季時は明らかに機嫌が悪かった。「でも何かに向けて努力をする人間は嫌いじゃないから、手を貸してあげよう」
    「あの、でも、どうして白凪さんを?」
    「綺麗な人だから」季時は淡々と言った。

     2

    「お久しぶりです」
     生物準備室に来るなり、白凪は礼儀正しく頭を下げた。何故か通学用の鞄を持っていた。季時はその時まだ昼食を食べていた。今日の昼食はカレーパンだった。これも季時が普通さを演じるための、一つのギミックだ。
    「水際君は?」
    「まだ昼食を。私、食べるのが早いので」
    「ふうん。ヤブクロン持ってる?」
    「ええ。出してもいいですか?」
    「いいよ。この部屋は無法地帯だから」
     白凪は鞄の中からボールを取り出した。鞄は本来不要であるから、季時に見せるために持って来たのだろう。
    「ああ、久しぶり」
     ヤブクロンを見て、季時は微笑んだ。
    「やっぱり清潔すぎない?」
    「私は私のやり方で育てようと思って」
    「うん、完璧だ。その答えには98点をあげたい」
    「残りの2点は?」
    「意見に名前が書かれてないから」
     季時が言うと、遅れてドアが開かれ、水際がやってきた。相変わらず目立つ風貌をしている。「遅れてすみません」と頭を下げて、彼はドアの前に立った。
    「君たち、食べるの早いね」
    「先生が遅いんじゃないですか?」
    「観測者の問題だね」季時は呆れたように言った。「ところで、水際君になんで連れてこられたか、聞いた?」
    「いえ、どういう理由かは聞いていません」
    「ほら、これだよ」
    「どういうことですか?」水際が訊ねる。
    「白凪君は、僕が知る中でも、結構な変人だ」
    「失礼じゃありませんか?」白凪はむっとして言う。
    「言い換えれば、特徴があるよ。でもね、水際君にそういう魅力はない。例えば、水際君にヴィジュアルイメージがなければ、大して魅力的には映らないと思う。特徴っていうか、キャラクター性がない」
    「キャラクター性……ですか?」
    「あのねえ、キャラクターっていうのは、リアクションなんだよ。相手の発言にどう答えるのかって言うね。ただ言われたように、任されたように発言するキャラクターってね、魅力がない。その点白凪君はいい」
    「そのために私を呼んだんですか?」
    「それが八割」
    「残りの二割は?」
    「それはさっき水際君に話したよ」季時は淡々と言った。「ところが水際君はなんというか、個性がない」
    「……そ、その個性を欲して、どうにかならないか、と思っているんですけど」
    「個性を欲している時点で、もしかしたら、没個性だね」季時はそこで残りのカレーパンを口に含んだ。指先についたパンをカゲボウズがつまむ。カレーパンの袋は、小さくまるめて、ヤブクロンに与えられる。
    「私のヤブクロンをゴミ箱代わりにしないでください」
    「愛情ある譲渡だよ。しかし便利だな。僕も飼おうか」
    「あの、先生、自分……個性ありませんか?」
    「見た目としての個性はあるよ。でもそれって、個性じゃなくて、服だろう」
     季時は白凪をじっと見る。
    「彼女なんか、普通だろう」
    「先生、私を虚仮にしたいのでしょうか」
    「いや、褒めているよ。でも、白凪君という存在を、僕はちゃんと認識している。それは、見た目が優れているからではなくて、中身が優れているから。だから自然と、外見も覚える。そういう人はね、話したことがなくても、なんとなく覚えてるよ。とくに、学校みたいな小さい集団ではね」
    「自分は、見た目だけ、ということですか」
    「うん。だから、水際君はね、普通の制服を着たら、すれ違っても分からないかもしれない。僕は今君のことを、白い制服を着ている男子生徒、としか認識していないから」
    「そんな……」
    「ああ、そういう理由で白い制服を着ていたの」白凪は納得したように頷いた。「前の学校の制服かと思っていた」
    「まあ、別に個性を求めようという気持ちは、僕には分からないけどね」季時は溜め息をついた。「白凪君もきっと分からないだろう?」
    「ええ、全然。出来れば白凪凉子という存在は、普通の中の普通でありたいですね」
    「ああ、それで100点だ」季時は満足そうに微笑んだ。
     水際はドアの前で、二人のやりとりを聞きながら、その特異性を不思議に思っていた。確かに、見た目だけでは、季時も白凪も、大しておかしくはない。けれど、何故かとても、濃い人間のように見えた。
    「やっぱり、才能とか、そういうものなんでしょうか」
    「いや、個性に才能なんてないよ。個性なんてみんなにある。君の場合は、他の要素で埋没させているにすぎない」季時は脚を組み替える。「もっと普通になりなさい」
    「普通、ですか」
    「見た感じ、ポケモンを飼っていないようだけど、どう?」
    「あ……そう、ですね。勉強ばかりで、そういう余裕がありませんでした」
    「ちょっと、ポケモン捕まえてごらん。これ、あげるよ」季時はデスクの大きい引き出しを開けた。そこには、未使用のボールが大量に詰め込まれていた。「性能が良いから、一発で捕まるよ」
    「一発で?」質問したのは白凪だった。
    「ちょっと細工がしてある」
    「それ、いいんですか?」
    「ああ、うん。認可は下りてるよ。見た目は普通のボールなんだけどね、授業用に使うために、細工してもらってるんだ。これも授業の一環だし」
    「もしかして、私がいただいたボールも?」
    「そうだよ。まあ、君とヤブクロンなら、普通のボールでも一発だっただろうけどね」
     水際はボールを受け取って、それをまじまじと見つめた。まったくなんの変哲もない、普通のボールだ。だが、それは特別なボールでもあるらしい。
    「普通のボールだろう?」
    「え?」
    「普通だけどね、中身が違う。人間と同じ。ポケモンもそうだよ、僕のカゲボウズや、白凪君のヤブクロン……見た目は普通なんだ。でもね、僕たちにとっては、掛け替えのない、大切なパートナーなんだよ。これ、どうしてか分かる?」
    「……分かりません」
    「お互いが認め合うから」
     季時はそう言ったあと、「いい冗談が思いつかないな」と言った。照れ隠しのようでもあった。
    「時に白凪君、水際君に、ポケモンを捕まえる利点があったら、先輩として教えてあげて」
    「利点ですか?」
     白凪はしばらく考えたあと、ぽつりとこう言った。
    「暇が潰れます」

     3

     二日後の四時間目、昼休みが終わったあと、五時間目の授業を控えている季時は、また暇な時間をもてあましていた。暇で暇で仕方がなかったので、以前、ある女子生徒から受け取った手紙を読んでいた。一通読めば十分だろうと思って残りは放置していたが、あまりに暇だったので、その決断をした。内容は予想通り、一通読めば十分な内容だった。だからこれは、内容ではなく、捨てにくいという特性を利用した、物的な訴えなのだろうと、季時は判断した。
    「先生! 僕の話を聞いてください!」
     ノックもなく、生物準備室のドアが開いた。季時はゆっくりと広げていた手紙をしまって、引き出しに入れる。そして入ってきた生徒を見て、「誰?」と訊ねた。
    「水際です!」
    「水際君? ああ、へえ」
     彼は普通の制服を着ていた。一人称も変わっている。季時は立ち上がり、椅子を引いて、水際に勧めた。
    「まあ座って」
    「ありがとうございます」
    「ふうん、雰囲気変わったね」
    「あの、ポケモンを捕まえたんですよ」水際は興奮したように言った。「ついさっきなんです。出来れば格好いいポケモンにしようと思って、ボールを頂いてから、ちょっと山奥まで行っていて……学校に来たのも、ついさっきなんです。ああ、季時先生が休みの時間で良かった」
    「興奮してるね」
    「そんなことありません」水際は笑顔で首を振った。「その、この周辺だとあまり格好いいポケモンがいなかったので、電車に乗って、奥地まで行って来ました。これがなんか、すごく感動するというか、先生の言っていたことが分かりました。ポケモンって素晴らしいです」
    「僕はそんなことは一言も言っていない」
    「文脈から読み取りました」
    「そう。さすがは秀才だ」季時は呆れて言った。「で、何を捕まえてきたの?」
    「あ、ここで出しても大丈夫ですか?」
    「ん、大きいポケモン?」
    「いえ、そこまでは」
    「じゃあ、いいよ」
     水際はボールを転がした。そして、床の開いた場所に、ポケモンが現れた。赤と黄色のコントラスト。ポケモンの名前は、ツボツボだった。
    「どうですか!」
    「……ツボツボか」季時は頷いた。「うん。で、格好いいポケモンは?」
    「格好いいですよね」
    「ツボツボが?」
    「はい」
     季時はツボツボの頭に手を伸ばした。ツボツボは少し怯えた様子だったが、彼の手を受け入れる。
    「ツボツボが格好いい?」
    「虫で、岩で、頑丈ですよ!」
    「ああ、うん、勉強熱心だね」
     季時はツボツボをしばらく撫でてから、諦めたように言った。
    「僕、季時九夜は間違っていた。僕が思う以上に、君は最初から個性的だ」
    「いえ、そんなことありません。先生のおかげで気づけたんです。僕に足りないものは、たくさんのものから、特別なものを選び取る努力だったんです。ツボツボのおかげで気づくことが出来ました」
    「いや、そういうことじゃなくてね」
    「これからは見た目にこだわらない、真っ直ぐな人生を送ろうと思います。それで個性がなくなってしまっても、別に構わないんですよね。自分を信じて生きていく、それが大事なんだって」
    「僕はそんなことは言っていない」
    「行間から読み取りました」
    「……好きにしてくれ」
     季時は呆れたように溜め息をついて、ツボツボを撫でた。そして、「これから苦労するぞ」と、小声で囁いた。


      [No.755] 46話 凍結! 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/09/29(Thu) 23:22:53     61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「俺はハマナのリサーチの効果によりデッキからヒトカゲとヒノアラシを手札に加える。そしてその二匹をベンチに出す。あらかじめバトル場にいるヒノアラシに炎エネルギーをつけ、ヒノアラシをマグマラシに進化させる!」
     バトルベルトの機能によってヒトカゲとヒノアラシが現れ、ヒノアラシはマグマラシへ進化した。
     冬の公園で行われている俺と姉さんの突発対戦。元は風見がうちに寄こしたバトルベルトが原因だ。
     現在互いにサイドは三枚。俺のバトル場には今進化させたばかりで炎エネルギーを二つ付けたマグマラシ80/80、ベンチにはヒトカゲ60/60。
     対する姉さんのバトル場は水エネルギー一枚ついているデリバード60/70、ベンチにユキワラシ50/50とタマザラシ50/50の計三匹。
     さて、こういうバトルベルトのような光学機器は俺からすれば風見との対戦や風見杯、こないだの拓哉と松野さんの戦いのせいで至って普通に思えるのだが、世間一般的にはこうして空想上の生き物が生きているように見える、そんな素晴らしくかつ、かつて見た事のない珍しい技術だ。
     そのせいか辺りの野次馬、もっとも小学生だが、そいつらが俺たちが何かアクションを起こす度にワーだのキャーだの黄色い声を上げるので耳が痛い。
    「うーん、なんか調子狂うなぁ」
    「さっさとしなさいよ」
    「はいはい。マグマラシで攻撃。火花! コイントスをしてオモテなら技は成功、ウラなら失敗する。……ウラ」
    「あっはっは、運に見放されてるわね」
    「うるさいなぁ」
     自分の番でダメージを与える唯一のチャンスを失ってしまった。これは痛い。後に響かなければいいんだけど。
    「あたしのターン! ユキワラシに水エネルギーをつけ、タマザラシをトドグラーに進化させる。更にユキワラシもユキメノコに進化させるわよ」
     トドグラー80/80、ユキメノコ80/80とポケモンが二匹とも進化すると同時に、子供たちの歓声も上がる。ちょっとまずいぞ。
    「そして進化した瞬間にユキメノコのポケパワー、雪の手土産を発動! ユキメノコに手札から進化させた時、自分の山札から好きなカードを一枚手札に加える」
    「ま、また?」
     姉さんはうふふと小さく笑いながら、何かしらデッキからカードをサーチして手札に加える。何かが続けて来る……!
    「そして手札からサポーターカードのギンガ団のマーズを発動。このカードの効果によってあたしは山札からカードを二枚引き、その後相手の手札をウラのまま一枚選んでデッキの下に置いてもらうわ。それじゃあ翔から見て一番左のカードを」
    「うっそー!」
     次の番、進化させようと思っていたバクフーンが山札の底、デッキボトムへ行ってしまった。だめだ、姉さんは欲しいカードをどんどん引いてるのに俺はどんどん調子が下がっていく。何とかしなければ。
    「デリバードのワザ、プレゼントを発動。……ウラね」
    「まだまだ! 俺の番だ。ベンチのヒノアラシもマグマラシ(80/80)に進化させ、手札のゴージャスボールを発動する」
     カードの発動宣言と同時に、バトル場のマグマラシの横にゴージャスボールが現れた。
    「その効果で好きなポケモンを山札から一枚加えることが出来る。俺はリザードンを手札に加える」
     そう宣言するとゴージャスボールが開き、リザードンのカードの拡大コピーが数秒姿を見せる。
    「そして手札の不思議なアメを発動。ベンチのヒトカゲを手札からリザードンに進化させる!」
     ヒトカゲは突如現れた小さな飴を飲み込むと、ヒトカゲを大きな光の柱が覆い、徐々にリザードンへとフォルムを変えていく。シルエットがリザードンになると、リザードン140/140は光の柱をかき消して大きく吠える。
    「手札からハンサムの捜査を発動。まずその効果によって相手の手札を見ることが出来る」
     姉さんが俺の方に手札を見せると同時に、デリバードの前に姉さんの四枚の手札が先ほどのゴージャスボールと同じように拡大して現れる。
     水エネルギーにワープポイント、トドゼルガとハマナのリサーチ。ワープポイントが気になるってところか。
    「俺はハンサムの捜査の効果によって手札をデッキに戻してシャッフルした後、カードを五枚ドローする。しかし今の俺の手札は0なので、手札をデッキに戻す行為は省略だ」
     これで手札が五枚まで潤う。キーカードも来た、行ける。
    「手札の炎エネルギーをベンチのリザードンにつけてマグマラシで攻撃。火花!」
     コイントスボタンをもう一度押す。子供らも見守る中で表示される結果はウラ。子供らの笑い声が聞こえてちょっとムッとなる。
    「くっそー、二回連続失敗かよ」
    「調子悪いみたいね。それじゃああたしの番よ。まずはトレーナーカード、ワープポイントを発動」
     バトル場のマグマラシとデリバードの足元に青い渦が現れ、二体ともそれに引き込まれていく。
    「ワープポイントによって互いのバトルポケモンを自分のベンチポケモンと入れ替える。あたしはユキメノコを場に出すわ」
    「ならば俺はリザードンを出す」
     さっきと同様にユキメノコとリザードンの足元にも青い渦が現れて二匹を引き込み、バトル場に残っていた青い渦からその二匹が現れる。同じようにベンチにデリバードとマグマラシが帰っていく。
    「よし、それじゃあ手札の水エネルギーをトドグラーにつけて、トドゼルガに進化させるわ。そしてこの瞬間にトドゼルガのポケパワー発動」
    「この瞬間で!?」
    「トドゼルガのポケパワー、凍結はさっきよりも強力よ。このカードを手札から進化させたときに一度使えるポケパワーで、コインを二回投げて全てオモテなら相手のバトルポケモンとそのポケモンについているカードをトラッシュさせる!」
    「な、なんだって!」
    「さ。コイントスよ」
     ……オモテ、オモテ。姉さんはまるで俺から運を吸収しているかのようにコイントスを見事に成功させた。
    「効果発動、凍結!」
     トドゼルガ130/130が足元から放つ冷気がリザードンを包み込み、リザードンは文字通り氷漬けとなった。
    「このポケパワーで唯一残念なのはこの効果でトラッシュさせても、気絶扱いじゃないことね」
     気絶扱いじゃない。ということは姉さんはサイドを引けない。でも折角手塩にかけてここまで育てたポケモンがほんの一瞬で無に帰すのはあまりにもダメージが大きい。
    「くっ……。俺はエネルギーが付いていない方のマグマラシをバトル場に出す」
     このままだとまだ何かされそうだ。大事をとって、エネルギーをつけていない育ってない方を壁としてバトル場に送りだす。
    「あたしはハマナのリサーチを発動。水エネルギーとタマザラシを手札に加えて、タマザラシ(50/50)をベンチに出すわ」
     姉さんの手札は前の番、ハンサムの捜査で確認した限り水エネルギー一枚だけのはず。これ以上の追撃はないとだけ信じたいが。
    「ユキメノコで攻撃よ。霜柱!」
     マグマラシの足元から人の背ほどあるような霜柱が何十本も伸びてきてマグマラシを襲う。こんな大きさの霜柱は果たして「霜柱」と分類していいのかっ。
     しかし大きいのは霜柱だけでなく、被ダメージ量も半端ない。マグマラシのHPゲージがほとんどなくなり、色も緑から黄、赤色と変わっていく。
     ユキメノコの霜柱の威力は50に加え、マグマラシの弱点が水+20なので合計50+20=70ダメージとなり、残りHPはたったの10/80。でも、首の皮一枚繋がっただけまだマシとするべきか。
    「ぐう。俺の番だ、ドロー」
     引いたカードはバクフーン。巡り巡りでようやく手札に戻ってきた。しかし少し遅かったか。いいや、なんとかしてみせる。
    「ベンチのマグマラシを進化させる。さあ来い、バクフーン!」
     ベンチのマグマラシが四足歩行から後ろ脚二本でしっかりと立ち上がり、バクフーン110/110へと進化。そして辺りに響くよう、大きく咆哮する。子どもたちも様々に反応してみせた。
    「ポケパワー焚きつけるを発動。トラッシュの炎エネルギーを自分のベンチポケモンにつける。俺はバクフーンにトラッシュの炎エネルギーをつける」
     さて、手札がリザード、リザードン、不思議なアメ、ポケドロアー+、ワープゾーン。山札からカードを一枚引く効果をもつトレーナー、ポケドロアー+に賭けてもいいが、これまでの戦況的に運に持ち込むのは危ないような気がする。だったら。
    「俺もワープポイントを発動。マグマラシとバクフーンを入れ替える」
    「あたしはトドゼルガと交代よ」
     再び青い渦がポケモン達を入れ替える。思えばこれはかなりおいしい選択だ。トドゼルガは逃げようにも逃げるエネルギーが多い。交代させられないままサンドバッグするのは良い判断だ。しかもトドゼルガには十分なエネルギーがついていない。攻めるなら今しか!
    「バクフーンで攻撃。気化熱!」
     バクフーンが口から溢れんばかりの炎をトドゼルガにぶつけると、大きな音を立てて蒸発していき、白い水蒸気に覆われてトドゼルガが一瞬隠れてしまう。トドゼルガのHPバーが半分近くの70/130まで削られ、トドゼルガの体から水エネルギーのマークが出てくると、水エネルギーのマークが真っ二つに割れる。
    「気化熱は攻撃を与えた相手の水エネルギーをトラッシュさせる!」
    「へぇ。これじゃあトドゼルガはどうあがいても、ワザを使う事も逃げることもできないってことね。それくらいしてくれなきゃ」
     当たり前だ、それくらいしなきゃ負けてしまう。まだ可能性はいくらでも残っている。不利を蹴飛ばし勝利をもぎ取ってみせる!



    雫「今回のキーカードはトドゼルガ。
      コイントスで二回連続表は大変だけど、効果は絶大!
      ワザのアイスバインドは任意トラッシュかマヒの付属つき!」

    トドゼルガLv.51 HP130 水 (DP2)
    ポケパワー とうけつ
     自分の番に、このカードを手札から出してポケモンを進化させたとき、1回使える。コインを2回投げ、すべてオモテなら、相手のバトルポケモン1匹と、そのポケモンについているすべてのカードをトラッシュ(この効果はきぜつでなはい)。
    水水無  アイスバインド 70
     相手プレイヤーが手札を1枚トラッシュしないかぎり、相手をマヒにする。
    弱点 鋼+30 抵抗力 ─ にげる 3


      [No.754] 四話 怖がり屋の大恋愛 投稿者:戯村影木   投稿日:2011/09/29(Thu) 21:23:40     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     1

     季時九夜にとって土日ほど心休まる日はない。朝九時に目を覚まして、たっぷりとあくびをしてから、洗面所に向かった。
     彼の家にはあまり物がない。彼はほとんどの行為を家の外で行う。家の中は、寝るか、休むかという使い方しかしない。実際、季時は顔を洗ってすぐに着替えを始めた。朝食は外で食べることにしている。というよりも、コーヒーを飲むためには外に出るしかなかった。仕事に行かなくなるから、という理由で、季時は家にコーヒーメーカーやインスタントコーヒーを置いていない。これを置いておくと、朝の一杯を準備して一時間を費やすことになるからだ。
     季時は枕元に置いてあるボールを手に取り、財布を持って、家を出た。白衣がないことを除けば、学校に行く時と同じ服装だ。季時にとっては服装なんてどうでも良いことだった。白衣だけは自分でセンスが良いと思って着ているが、それ以外のものは社会に生きるための道具でしかなかった。
     馴染みの喫茶店に向かい、いつも座る席に座った。喫茶店の店長は、彼の知り合いだった。親友と言い換えてもいい。彼が友人という言葉を使う時に対象となる人物は、この店長だけだった。
    「朝飯は?」
     鈴鹿という名の男は訊ねた。客は多く、繁盛しているようだが、忙しさを感じさせない振る舞いだった。
    「コーヒーだけでいい」
    「腹は減ってないのか」
    「昨日、飲み会だった」
    「へえ、珍しいな」
    「僕もそう思う」
    「断れなかったのか?」
    「断れなかったというか、正確にはその段階にすら存在していなかった。つまり……いや、上手く言えないな。そういうことだよ」
    「二日酔いか?」
    「いいや、飲み会だっただけで、酒は一滴も飲んでいない」季時は腕時計を確認した。起きてから時間を確認したのはその時が初めてだった。「九時半か」
    「今日は遅いんでどうしたのかと思ってたんだ」
    「どうかしてたよ。コーヒーは?」
    「今淹れてる」
     若い女性の店員が、コーヒーを持ってやってきた。「顔色良くないですね」と、季時に言葉を添えた。季時は軽く手を振って、「型が古いからね」と、とくに意味のない発言をした。
    「何があったんだよ」鈴鹿が興味深そうに訊ねて来た。
    「仕事はいいのか」
    「仕事より大事なこともある」
    「お前みたいな子がいるんだ」季時は言った。「引っ込み思案で、根暗で、ぼそぼそ喋る子だ」
    「将来有望だぞ」
    「まあ、その子は、女子生徒なんだ。四日前に相談事に乗って、それからよく僕の部屋を訊ねるようになって、その子の家は居酒屋で、僕はそこで昨日飲み会をした」
    「誘われたのか?」
    「いや、違うんだ。言っただろう、断る段階にはいなかった。罠にかかったと言った方がいい。ポケモンをダシに使われた。思い出すと腹立たしい」
    「よく意味が分からんな」
    「こいつだよ」
     季時はボールをカウンターに乗せた。カゲボウズの入っているボールだ。鈴鹿も馴染みのあるボールである。
    「影子がどうした」
    「それよりお前、仕事は?」
    「今から休憩だ」鈴鹿はエプロンを脱いで、カウンターの中で椅子に腰掛ける。「おーい、俺にもコーヒー一杯くれ」
    「まあ、大して面白い話じゃないんだが」
     季時は溜め息をついて言った。疲労の色が見て取れた。

     2

     その前の日の放課後、季時は困っていた。自分の最愛のパートナーであるカゲボウズの姿が見えなくなったのだ。いつも、片時も離れず一緒にいるパートナーである。いなくなるなどということは、今までの人生でも、片手で数えるほどしかなかったはずだ。
     季時はまず、その認識が誤りである可能性を考慮した。しかし、いくら探してもカゲボウズも、ボールも見つからない。次に、それが過剰な考察の末に導き出された悲劇であることを考えた。しかしながら、やはり生物準備室の中に、カゲボウズの姿はなかった。季時は珍しく慌てていた。慌てるという自覚もないままに、慌てていた。だからだろう、あまりに慌てていたせいで、季時は大した思慮もしないまま、ある女子生徒の元を訪ねていた。
    「どうかしましたか、先生」
     美化委員の白凪は、パートナーのヤブクロンを連れて、学校の敷地内をうろついていた。校舎内でのポケモンの連れ歩きは校則違反であるが、グラウンドや中庭は黙認されているし、委員会等で利用する場合は許可されていた。今日も、ヤブクロンはゴミを拾い集めてそれを身体に付着させていた。
    「ああ、悪いんだけど、白凪君、カゲボウズって知ってる?」
    「ええ、先生がお持ちのポケモンですよね」
    「うん。ああ、やっぱり、白凪君は頭がいいね」
    「先生、大丈夫ですか?」
    「僕? 大丈夫じゃなかったことがないからね」
    「大丈夫じゃなさそうですね」白凪は首を傾げた。「それで、カゲボウズがどうかしたんですか?」
    「うん、その、カゲボウズがいなくなった」
    「え? 逃げたということですか?」
    「いや、逃げるということはないと思う。少なくとも、彼女との関係は良好だ」
    「そうですか。では、ボールをなくされたのでしょうか」白凪はヤブクロンを抱きかかえる。「探すのをお手伝いしましょうか?」
    「ああ、いや、君が見ていないならいい。君が見ていないということは、多分つまり、校舎の中か、敷地の外だろう」
    「先生、慌てているようですね」白凪は少し楽しそうに言った。「本当に、私にお手伝い出来ることはありませんか?」
    「うん、まあ、もし見つけたら教えて欲しい、ということくらいかな。ああ、時間を取らせて悪かったね。じゃあ、僕は行くから」
    「いつもの会話のキレがありませんね」
     去って行こうとする季時の背中に、白凪の言葉がかかったが、すぐに落ちて消えた。それほどまでに、季時は慌てていた。
     次に季時は、学校の中でもそれなりに親しみのある生徒を探した。校内放送をかけるのも手だったが、あまり公にしたくないという気持ちもあった。生物学教師としての矜持のようなものだろう。
     季時はふらふらと廊下を辿り、家庭科室を訪れた。そこは手芸部の活動場所だった。季時がドアを開けると、そこで活動していた部員が全員振り返った。
    「あ……やあ」
    「あれ、きゅーやんだ」一番に反応したのは常川だった。「何? なんか用?」
    「うん」珍しく殊勝な態度の季時だった。「えっと……カゲボウズを探してるんだけど」
    「先生のですか?」塚崎が訊ねる。
    「そう、僕のカゲボウズ。彼女、何故かどこにもいなくてね……不思議なんだけど、うん、いなくなっていたんだ。だからちょっと、探しているんだけど……」
    「季時先生が狼狽えるなんて珍しい」
     一人の女子生徒が言った。それに同調するように、他の生徒も頷いていた。生物学以外で関わることはほとんどなかったが、変わり者教師として全生徒に名を知られている季時だった。
    「カゲボウズに愛想尽かされたんじゃない?」
    「そんなわけないだろう!」季時は少し語気を強めた。
    「うわっ、きゅーやんが怒った……」
    「ボールをなくされたんですか?」
    「ボール? ああ、ボールをね、そう……多分そうだと思うんだよ。ボールにね、カゲボウズは収納されているから」
    「どこでなくしたか、心当たりはありませんか?」
    「心当たり? いや、僕は授業が終わって、部屋に戻って、誰も来ない予定だったから、インスタントコーヒーを淹れて……ああ、そのあと、トイレに行った」
    「それじゃないの?」
    「ボール、いつも白衣に入れてますよね?」塚崎が空想の白衣のポケットに手を入れる動作をする。「白衣は着ていました?」
    「いや、僕は白衣はトイレには着ていかないし、白衣を脱ぐ時はボールはちゃんと引き出しにしまう。誰かにボールが盗まれることは有り得ない」
    「でも、その時じゃん?」
    「誰かが部屋に入ったってことか?」
    「きゅーやん鍵かけなかったの?」
    「僕の部屋は内鍵しかかからない」
    「あ、そう言えば……」塚崎が思い出したように、周囲を見渡した。「宮野さん、帰ってこないね」
    「あ、そう言えば。どこ行ったんでしたっけ。トイレ?」
    「うーん、覚えていないけど……なんだか気になりますね」
    「宮野君? ああ、あの引っ込み思案の……」季時はそこまで言って、額に手を当てた。「まずいな」
    「どうしたの?」
    「君に話すとややこしくなる類の話だ」
    「またかんに障る言い方するなあ」
    「宮野君、宮野君か……ああ、誰か宮野君と連絡取れる人、いる?」
    「出来るけど」常川がすぐに携帯電話を取りだした。超小型のボールがぶら下がっている。「どうしたの、なんか本当に様子おかしいね、きゅーやん」
    「悪いけど、カゲボウズのこと、聞いてもらえる?」
    「え、うん……でもなんで宮野ちゃん?」
    「ほら、一昨日、宮野君の相談に乗っただろう」
     文字を打ちながら常川は頷いた。塚崎も、「あれからなんだか随分明るくなりましたよ、宮野さん」と同調した。
    「うん、それが、明るいというか、なんかね」
     季時は困ったように頬を掻いた。
    「昨日、ラブレターを十通ほどもらったばかりだ」
     そこにいた全員の生徒が、季時の発言に言葉を失い、呆然と季時を見上げていた。

     3

    「ついに女子高生から告白される日が来たか」
    「ついにというか、今までになかったわけでもないけれどね。今回はまあ、僕も詰めが甘かった。反省している」
    「でもどうしてすぐに分かったんだ」
    「その、宮野君という子が飼っているジュペッタはね、なんて言えばいいかな、透視能力に長けているんだ。僕がボールをどこにしまったかを、多分、判断したんだ」
    「でも、ポケモンだろう?」
    「その子、僕と同じでね、ポケモンと会話出来るんだ」
    「ああ」鈴鹿は溜め息をついた。「天敵だな」
    「まあね。宮野君にとっても、僕は天敵だろうけど……好かれてしまうと、その関係は崩れるね」
    「それでどうなった?」
    「まあ、追跡をすることになったんだけどね」

     4

     常川が宮野にメールを送ると、宮野は素直に、カゲボウズを連れ去ったことを認めた。そして、自分が今どこにいるかを伝えてきた。それは、季時に来いと言っているのと同じだった。
    「へー、宮野ちゃんがねえ。きゅーやんのどこがいいんだろうね」
    「冴えないところがいいんだろうね」季時は自嘲気味に言った。「冗談はさておき、人のポケモンを盗むのは泥棒だ。生徒指導をしてくる」
    「大丈夫? 襲われたりしない?」
    「僕が? まさか、僕は大人だよ」
    「でも先生、押しには弱そう」
     塚崎が言うと、他の生徒が控えめに笑った。季時はいたたまれなくなり、「協力ありがとう」とだけ言って、家庭科室を出た。
     宮野がいるという場所は、学校からかなり離れていた。その時、その場所がどういう場所なのか、ということを季時は疑っていなかった。そこに理由を求めていなかったのだ。あるいは、そこまで考える余裕がなかったのか。とにかく、季時は自転車に乗って目的地を目指すことにした。カゲボウズを取り返さないことには、おちおち仕事も出来ない。
     いつもの二倍の速度で自転車を漕いで、宮野がいる目的地についた。そこは少し寂れて、薄暗い、女子高校生がいるのにはにつかない場所だった。一方、カゲボウズが好みそうな、湿っぽい、じめじめした場所であった。
    「ああ、宮野君」
    「こんにちは……」宮野は律儀に頭を下げた。
    「うん、じゃあ、カゲボウズを返してくれるかな」
    「あの……」
     そこで季時はようやく、宮野の違和感に気づいた。校内ではともかく、下校時や生物準備室に来る時はいつも抱きしめているジュペッタがいなかったのだ。かといって、ボールも見当たらない。単体としての宮野を見るのは、季時はこれが初めてだった。
    「ジュペッタは?」
    「えっと、先生のカゲボウズと遊んでます」
    「どこで?」
    「私のうちです……」
    「それ、どこ?」
    「ここ……です」
     宮野は背後にある建物を指差した。コンクリートの壁と、換気扇、小さなドア、詰まれた空き瓶などが詰まれている。一見して、居酒屋の裏口という感じだった。実際そこは路地で、奧には似たような光景が続いていた。
    「君の家、お店なの?」
    「はい」
    「ああ……へえ、なるほど。おや、ドーガスになりかけてるスモッグが浮いてるよ。他にも、コラッタとか……なるほどね、こんな環境なら、君みたいな特殊な子が育ってもおかしくはないか」
    「そうですか……?」
    「僕の実家もすごかったからね。築百年以上の日本家屋で、とくにゴーストポケモンが多かった……まあ、そんな話は今度ゆっくりするとして、カゲボウズを返してくれるかな。君がジュペッタをそそのかしたんだろう?」
    「え、あ、はい……」
    「君みたいな子がね、一番厄介なんだよ……あとで彼女には謝っておこう。変なこと吹き込んでいないだろうね?」
    「はい……あの、じゃあ、こっちに来てください」
     宮野は季時を手招きして、路地を出た。てっきり裏口から入るものだと思っていたが、部外者がその敷居をまたぐのもおかしいのかもしれない。季時は素直に宮野のあとをついて、正面に回った。居酒屋というか、小料理屋というか、それなりに洒落た店ではあるようだった。
    「どうぞ……」
    「いや、ここで待ってるよ」
    「……返しません……よ……?」
     宮野の控えめな訴えが逆に恐ろしかったので、季時は素直に店に入ることにした。とにかくカゲボウズに会うことが先決だった。季時はのれんをくぐって店に入る。すぐに独特の匂いが鼻を突いた。
    「いらっしゃい!」
    「どうも」季時は頭を下げた。「客ではないんです」
    「先生……座って待っていてください」宮野はカウンター席を勧めた。「今、連れてきますから」
    「ああ、はい」
     季時は素直に椅子に腰掛ける。
     店内にはポケモンが多くいた。四足歩行で、丸っこい、愛玩用として飼われることの多いポケモンたちだった。オオタチが季時の足下を通過していく。宮野のような才能を持った子どもが生まれるのも、当然という気がした。
    「あんたが季時先生かい」
    「ああ、はい。宮野君のお父さんですか?」
    「そうそう」カウンターの奧にいる男性は快活に笑った。「いやあ、うちの娘の悩みを聞いてもらったそうで」
    「いえ、別に」
     季時は宮野が消えて行った階段に目をやったが、彼女が戻ってくる気配がない。一体どういう了見だろう。
    「先生、お夕飯は? 食べていきましょうよ」
    「いえ、まだ早いですから」
    「まあまあ。じゃあ一杯どうです」
    「いえ、僕はお酒は……」
     また階段に目をやったが、帰って来ない。何をやっているんだ。季時は段々と焦り始めた。心に余裕がないせいで、会話もいつも通りには行かない。
    「いやあ先生には感謝してるんですよ。しばらく家に引きこもってたと思ったら、急に元気になりましてね。いやあ、やっぱり専門家の先生は違いますね」
    「いえ、そういうわけではないんですよ」
    「軽いものなら食べられるでしょう? 焼き鳥でも焼きましょう。ああ、ついでにうちの小僧たちの様子も見て行ってくださいよ。こういう店にいるもんで、不健康かもしれませんから」
     ポケモンのことを言っているんだろうか。季時は店内を見渡した。確かにあまり良い環境とは言えないが、ポケモンはどんな環境でも生きていける生物だ。それに、ポケモンごとに見合った環境がある。一概にどうと言えるものではない。
    「あの……宮野君は」
    「すぐに降りてきますよ。それまでまあゆっくりしていってくださいよ」
    「いえ、ポケモンを取りに来ただけですから」
    「明日は休みなんだし、ね、お礼がしたいだけですから」
     宮野はまだ降りてこないのか。季時はもう立ち上がろうとしたが、しかし宮野の父が回ってきて、隣に腰掛けた。愛想の良い男だ。その分、何か強気に出ることが難しい。
    「すぐ降りてきますって。降りたら引き留めませんから。ね、それまでの間」
    「宮野君が来たら、すぐに帰りますよ」
    「ええ、はい。これ、美味しいですから。まだたくさん焼けますからね」
    「いや……」

     5

    「で、どれだけ居座ったんだ?」
    「二時間かな」
    「おい!」
    「飯は美味かったよ……三十分経った頃に、どうせタダなら食いたいだけ食おうと思って、食い尽くした」「それで朝飯が入らなかったのか」
    「いや、そういうわけじゃないんだ。まあ……僕が長くいたのは、彼女がそこを気に入ったというのが本当の理由かな。どうもね、宮野君という子はすぐに連れてきてくれる予定だったらしいんだけど、彼女がジュペッタと遊ぶのを楽しんでいたらしい。こちらにも落ち度はあったわけだ」
    「ふうん。まあ、そういう日もあるわな。で、珍しくお前が細かく話してくれたのにはどんなわけがあるんだ?」
    「これさ」
     季時はボールを床に転がした。そこから出て来たのは、カゲボウズではなく、ジュペッタだった。
    「……進化したのか?」
    「いや、多分、トリックかなあ……」
     季時は疲れたように言って、カウンターにうつぶせになった。
    「帰り際に入れ替えられた可能性が高い……」
    「天敵か」
    「ポケモンと意思疎通が出来る子ほど恐ろしいものはないよ。それを無意識とは言え、いたずらに使うのはね」
    「ジュペッタも楽しそうだな」
     鈴鹿は床に転がってケタケタと笑うジュペッタを見て、困ったように言った。
    「どうするんだ?」
    「生徒指導かたがた、カゲボウズを回収しに行ってくる。そうしたらまた何か食べさせられるかもしれないから、朝飯は抜いていく」
    「……なるほど。頑張れよ」
    「ああ」
     季時はまったく疲れた声で言って、ジュペッタの頭を掴み、持ち上げた。
    「お前の飼い主をこっぴどく叱ってやるから、覚悟しとけよ」
     季時が言うと、ジュペッタはまたケタケタと笑った。季時は疲れたように、溜め息をついて、またカウンターに突っ伏した。


      [No.753] 三話 恥ずかしがり屋の腹話術 投稿者:戯村影木   投稿日:2011/09/29(Thu) 21:22:38     55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     1

    「で、今のは全部教科書に書いてあることだから、分からなくなったら八十六ページを読むといいよ。理解出来ない場合のみ、僕に聞きに来て。じゃ、まだ三分あるけど、今日はここまで。お疲れ様」
     季時九夜は簡潔に授業を終わらせると、そのまま教科書をまとめて教室を出て行こうとした。だが、生徒同士が雑談を始めると同時に、前の席にいた生徒の一人が「先生」と、彼を引き留めた。
    「何?」
     彼を引き留めたのは塚崎という女子生徒だった。季時とは少し顔なじみという間柄である。教師と生徒の間にも、そうした親密度は存在する。
    「あの、今日も準備室にいらっしゃいますか?」
    「いる予定だけど、何?」
    「あとでお邪魔しても良いですか?」
    「構わないけど、授業の話はしたくないな」
    「あ、そうじゃないので、大丈夫です」
    「そう。君一人?」
    「もう一人連れて行く予定ですけど……」
    「あ、そうなの。コーヒー飲める子?」
    「ちょっと分かりません」
     季時は数度頷いて、「じゃあ、話を聞くかどうかは、その時に決めよう」と言って、教室を出て行こうとした。が、またも「先生」と呼び止められて、教室を出ることは叶わなかった。
    「仕方ない、あと一分半は君たちの呼びかけに応じよう」
    「すいません」声を上げたのは絹衣という男子生徒だった。「ちょっと質問なんですけど」
    「ああ、白凪君、どうしてる?」
    「俺は無視ですか」
    「君のためになる質問だよ」
    「えーと……先輩は、真面目に育ててますよ。なんか、ただの綺麗なポリ袋って感じになってますけど」
    「ああ、身だしなみを整えてるのか。でも、ヤブクロン、ゴミつけてるくらいが健康的なんだけどね。で、質問って? 恋愛相談は、僕には無理だけど」
    「いえっ……あの、ヤブクロンって、何食べるんですか? 先輩がなんかぽつっと言ってたので」
    「ああ、ゴミだよ」季時は簡単に言った。「あと三十秒」
    「ゴミならなんでも食べるんですか?」
    「食べるっていうか、うーん、身に纏うんだよ。あれはね、栄養を循環させて生命活動を維持しているんじゃなくて、生命エネルギーを身体に直接貼り付けて生きているっていうタイプのポケモンだから。試しに学校を一周させれば、一週間分のエネルギーが得られるよ。はい、授業終わり。まだあれば準備室で」
     季時は絹衣に、右手の二本の長い指を動かして、さようなら、の合図をした。特に意味のない行動だった。絹衣もそれを真似してみたが、意味は感じられなかった。
     教室を出て、廊下を歩いている途中、また「季時先生」という声が聞こえた。幻聴ということで処理をしようと試みたが、声の主が目の前に現れたので、諦めた。幻視は経験がないので、試すことが出来ない。
    「季時先生、すみません」
     相手は笹倉という司書だった。図書室の管理というよりは、もっぱら、生徒の心のケアを担当している。
    「どうもこんにちは、笹倉先生」
    「あの、今、お時間大丈夫ですか?」
    「時間は正常に働いてると思いますよ」季時は腕時計を見た。「ええ、大丈夫みたいですね」
    「季時先生は、私とお話しても生活に支障がありませんか?」笹倉はゆっくりと言い直した。
    「支障ありませんよ」季時はすぐに言った。「ただ、僕の右腕は荷物を抱えて立ち止まることに不満があるみたいです」
    「では、図書室に来て頂けますか?」
    「ええ、喜んで」
     今日は厄日かな、と思いながら、季時は笹倉のあとに続いた。しかしほぼ毎日が平和なら、たまの厄日も受け入れるべきかもしれない。
    「どんなご用ですか?」
    「今一人の生徒が相談に来ているんです」
    「それはいけない。僕は邪魔者ですね」
    「でも私では専門的な知識もないので」
     ポケモンの話か、と季時は思った。季時は別に、そこまでポケモンが好きというわけではないので、面倒だった。どちらかと言えば、コーヒーの方が好きだ。
     笹倉に案内されて図書室に向かうと、ポケモンを膝に乗せた女子生徒が座っていた。制服の色を見るに、一年生のようだ。膝に乗っているポケモンは、ジュペッタだった。
    「こんにちは。僕の知らない子だ」
    「コンニチハ、ボクジュペッタ」
     どこからともなく、そんな声が聞こえた。機械的な声だ。その言葉を発したのが季時でも笹倉でもないとするなら、この少女だろう。しかし、少女の口元は動いていなかった。
    「腹話術なんです」笹倉が季時の耳元で説明した。「あまり学校に来ない子で、ちょっと……」
    「ああ、なるほど」面倒な子か、と、季時は判断した。「で、僕は何を?」
    「ポケモンをずっと大事そうにしているので、お話を聞いてあげて欲しいんです」
    「まあ、それも僕の職務内容にありましたっけね。座っていいですか?」
    「ええ、どうぞ」
     季時はパイプ椅子に腰掛けて、少女と対面する形を取った。面倒であればあるほど、真剣に取り組むのが季時だった。その方が効率が良い。
    「こんにちは。名前は?」
    「ボク、ジュペッタ」少女はまた甲高い声で言った。
    「そうか、変わった名前だね。じゃあ、こっちのぬいぐるみの名前は?」
     少女ははっとした表情をした。そして、少女もジュペッタも、その問いには答えなかった。予想していなかった質問だったのだろう。
    「名前がないのかい? 可哀想だな。じゃあ、君の名前はロビンにしよう。いい名前だね」
     少女は何も答えない。反応のない相手ほどやりにくいものはないな、と、季時は思った。
     ふいに音階が聞こえ、校内放送が始まった。それは偶然にも、笹倉を呼び出すアナウンスだった。職員室まで来るように、という事務的な内容だった。
    「あ……」
    「ああ、いいですよ。この子は僕が引き受けます」季時はすぐに言った。「自分の部屋の方がやりやすいですから」
    「あ、そう、ですか……では、お願いします。またあとで、覗います」
    「ええ、まあ、気が向いたらどうぞ。さあジュペッタ君、ロビンを連れて生物準備室に行こう。あのね、仕事が終わったらコーヒーを飲むのが僕の日課なんだよ」
     少女は季時に連れられて廊下を出たあと、笹倉がいなくなったのを確認してから、ぽつりと、「私、宮野」と呟いた。
    「それ、下の名前?」季時は飄々と言った。

     2

     宮野と名乗った少女は、生物準備室を物珍しそうに見ていた。勧められた椅子に座り、ジュペッタをぎゅうと抱きしめていた。
    「基本的に生徒は苗字で呼ぶようにしているんだけど、なんて呼べばいいかな」
    「宮野」
    「宮野君か。君、喋るの苦手なの?」
     宮野はこくりと頷いた。
    「腹話術はしないの?」季時は畳み掛けるように言った。「僕ね、学生時代に君みたいな子と友達だったんだ。根暗でね、自分の世界に入るやつ。だから扱いには慣れてるんだよ」
    「……」
    「タイミングを逃すと、普通に喋れなくなるよ」
    「……はい」
     宮野はようやくきちんと口を開いて喋った。少し低い声だった。女子にしては、かなり低音が効いている。
    「君は、何? 登校拒否?」
    「……はい」
    「間を置かないで、さくさく話そう」
    「はい」宮野は頷いた。
    「ちゃんと話せるのに、なんで腹話術なんかしてるの?」
    「あの……自分の声が嫌いで」
    「あ、そう」季時は簡単に言った。「僕も、自分の声はあんまり好きじゃないね。自分に好きなところなんてないよ」
    「先生は、恥ずかしくないんですか?」
    「え? 何が?」
    「その、嫌いな声で喋るのが」
    「別に僕のことなんか、誰も気にしていないでしょう」
     季時はマグカップを洗ったあと、コーヒーメーカーをセットし始めた。「宮野君、コーヒー飲める?」と訊ねたが、首を振られてしまった。最近の学生は子どもが多いらしい。
    「私、低い声で喋ると、笑われるんです」
    「あ、そうなの。僕も笑った方がいい?」
    「え、いえ……」
    「僕は別におかしいとは思わないな。君の声には興味がないからね。むしろ人形扱いされてるジュペッタの方に興味があるくらいだ」
     季時は宮野が抱きしめているジュペッタの頭を軽く撫でた。ジュペッタは、嬉しそうに目を細める。宮野はそれを見て、驚いた様子だった。
    「ジュペッタ……先生のこと、怖くないの?」
    「ああ、このジュペッタは怖がりなのかな。でもね、何故か僕はポケモンに嫌われないんだよ。不思議なものだね。随分君に懐いてるみたいだね」
    「あ……はい。生まれた時から、一緒なので」
    「ふうん」
     季時はしばし考え込んだあと、人差し指を親指にひっかけて、ジュペッタの額に、デコピンをした。
    「ジュッ」
    「わっ、何するんですか!」
    「ジュペッタ、ダメだろう、君の飼い主が集団生活を送れなくなってるというのに、自分の都合だけで飼い主を困らせるんじゃない」
    「ジュ……」
    「先生、やめてください! ジュペッタに何するんですか!」
    「こっちのセリフだよ。宮野君に何をするんだ」
     季時は優しく、ジュペッタの頬をつまんだ。ジュペッタは困ったような、諦めたような表情で、それを受け入れていた。
    「先生やめて!」
    「なんて悪い子なんだお前は。ご主人様を困らせるなんて。お仕置きが必要だな。そうか、実はお仕置きがされたくてここに来たんだな? いやらしいやつだ」
    「先生、やめてください。もうしませんから!」
    「君の意見は聞いていない。さあ、立って、これを飲むんだ」季時はコーヒーをマグカップに注いで、それを持ち上げた。「悪いことをするとどうなるか、思い知らせてやろう」
    「ごめんなさい、ごめんなさい……もう、もうしませんから……」
    「いいや僕は許さない。僕はね、一度決めたら必ずやる男なんだよ」
    「あ、あの……」
     季時と宮野がジュペッタを取り合っているところに、割って入る声があった。声の主は塚崎だった。生物準備室の前で、呆然と立っている。その横には、常川もいた。
    「きゅーやん……最低」
    「先生……女の子に、そういうことをするのは……」
    「え?」季時はマグカップを片手に、首を傾げた。そしてコーヒーを一口飲みながら、「何が?」と訊ねた。
    「宮野ちゃんにお仕置きとか……きゅーやん見損なったよ」
    「ああ、なるほど、誤解があるのか。宮野君、悪いんだけど、誤解を……ああ、なんてことだ」
     宮野は開放されたジュペッタを抱きしめながら、泣いているようだった。季時はようやく、客観的な思考を取り戻す。どうやら、端から見ると、自分は今女子生徒に何か乱暴を働こうとしていたように見えるかもしれなかった。コーヒーが上手く飲み込めない。
    「頼むから、ちょっと寄ってかない?」季時は珍しく真面目な声で発言をした。「これはね、誤解なんだよ」

     3

    「ポケモンに対しては結構辛辣だよね、きゅーやん」
     事情を説明したあと、一番最初に答えたのは常川だった。常川は今日はポケモンをちゃんと携帯していた。
    「少し強く接するくらいで丁度良いんだよ。人間みたいに、言葉が分かるわけじゃないからね。態度で示さないと」
    「それにしても、びっくりしました。先生があんな……なんていうか、ああいう言い方をするなんて……」
    「自覚はないんだけどね」
    「そっちの方がよっぽど悪いよ」
    「塚崎君の用事は?」季時はすぐに話題を変えた。「連れてくるのって、常川君だったの?」
    「あ、いえ、実は宮野さんだったんですけど」
    「あ、へえ。手芸部繋がり?」
    「ええ」意外そうに、塚崎は頷いた。「よく分かりましたね」
    「学年の違う知り合いでしょ? すぐ分かるよ」
    「なんで宮野ちゃんの時はすぐに分かるわけ?」
    「あのねえ、僕にも常識くらいあるんだよ」
    「どういう意味よ」常川は季時を睨んだ。
    「宮野さんが今日学校に来ていたみたいだったので、先生に相談しようと思って。でも教室にはいなくて。常川さんと同じクラスなので、足跡を辿っていたら、ここに」
     塚崎が宮野に視線を向けると、宮野は軽く頭を下げて、ジュペッタをより強く抱きしめた。
    「で、僕はどうすればいいわけ?」
    「悩み相談?」
    「僕は適任じゃないなあ」季時はマグカップを揺らした。「乙女の悩みは解決出来ないよ」
    「ポケモン関係は専門じゃないの?」
    「専門だよ」
    「じゃあ、解決してよ」
    「問題がそもそもポケモンが主題じゃないんじゃないかなあ。まあいいか、宮野君」
    「はい」宮野はびくっとして答える。
    「君、ジュペッタと会話出来るだろう」
     季時が言うと、塚崎と常川が、驚いたように宮野を見た。宮野はその視線から逃げるように、ジュペッタに顔をくっつける。
    「きゅーやん……何言ってるの?」
    「日本語」季時は足を組み替える。
    「ポケモンと会話出来るって……そんなこと、あるんですか?」
    「稀にね。とくに、幼少期から一緒にいたり、相手がゴースト、エスパーあたりだとこの現象が起きやすい。ポケモンの言葉が理解出来るということじゃなくてね、直接語り合えるんだ。そうじゃない?」
    「え……あ……はい」宮野は渋々と頷いた。
    「え、すごいじゃん宮野ちゃん。天才?」
    「だねえ」季時は珍しく、普通に相手を褒めた。「ちなみに、僕も天才だよ」
    「え?」常川と塚崎が同時に言った。
    「僕もポケモンと会話が出来る。カゲボウズと」
    「嘘でしょ?」
    「いや、本当だよ。やってみようか?」
     季時は白衣の中からボールを取りだして、カゲボウズを繰り出した。カゲボウズはすぐに季時にすりよってきて、ポケットの中をまさぐった。
    「また前みたいに、リボンを探してるんですか?」
    「うん。じゃあ僕がカゲボウズに、こらっ、今はお客さんがいるんだからリボンはダメだよ、って語りかけるとするよね」
     季時が言うと、カゲボウズの動きが止まった。そして、少し寂しそうな表情をして、てるてる坊主のように、その場に留まった。
    「ほら、やらなくなったでしょ」
    「え、今のは、人間の言葉を理解したんじゃなくて?」
    「まあ、そういう風にも見て取れるね。じゃあ、こう会話するとしよう」
     季時がカゲボウズをじっと見つめると、カゲボウズは常川のところにやってきて、腕を甘噛みした。常川はくすぐったそうに、「こらっ」と、カゲボウズに注意した。
    「何て言ったんですか?」塚崎が訊ねる。
    「常川君は美味しいよ、って」
    「美味しくないわよ!」
    「あれ、そうなの? 知らなかったな。まあ、とにかくね、僕、喋れるんだよ。僕の場合はある程度親しくなると、喋れちゃうかな」
    「へー、すごい。それは素直にすごいよきゅーやん。もっとみんなに自慢すればいいのに」
    「しないから自慢になるんだよ」季時は宮野に身体を向けた。「で、いつから喋れるようになったの?」
    「私は……高校生になったくらいから……です」
    「つい最近か」
    「はい」
     季時はジュペッタを見つめた。
    「もっと構って欲しいって言われたのかな」
    「……そう、です」
    「ね? お仕置きしないといけないでしょう?」季時は常川と塚崎に言った。「僕は悪くないよ」
    「それにしても言い方が卑猥だった」
    「君がそう思ったのは、君の責任だよ」
    「でも、なんでお仕置きしないといけないんですか?」塚崎が訊ねた。
    「多分ね、ジュペッタがずっと一緒にいて欲しい、みたいなことを言ったんだと思うんだな。それに加えて、宮野君は自分にコンプレックスがあるようだから、学校に来るのが嫌になったのかもしれないね。そんなところだろう?」
    「……はい」
    「なあんだ、そんなことか」常川は溜め息混じりに言った。「そりゃ私だってピカチュウが一緒にいてーって言ったら学校行きたくないよ」
    「僕だって働きたくないよ」季時が言った。「まあとにかく、ジュペッタが宮野君を困らせていたから、僕はジュペッタを叱っていたわけ。理解してくれた?」
    「はいはい」
    「はいは?」
    「十回」常川はふてくされて言った。
    「とにかく宮野君、君の声は別に悪くないから普通に喋るといいよ。それとジュペッタ、ご主人様を困らせないように。いいね?」
     季時がジュペッタの頭を撫でると、ジュペッタは項垂れて、頷いたように見えた。
     ふいに音階が流れ、校内放送が始まった。それは、季時を呼び出すアナウンスだった。「あれ、今度は僕か」と季時は言って、マグカップをデスクに置いた。
    「君たち、ここにいる? いるよね。僕が帰るまでいてよ」季時はそう言って、部屋を出る。「宮野君も、ゆっくりしていって」
     季時は生物準備室を出て、廊下を歩いていた。と、前方に笹倉を見つけた。声を掛けると、笹倉は「宮野さんは?」と訊ねて来た。
    「えっと、時間大丈夫ですかね?」季時はすぐにそう訊ねた。
     笹倉は不思議そうな顔をしたあと、腕時計を確かめて、「問題なく進んでますよ」と答えた。
    「それは良かった。じゃあ、宮野君もすぐに進めますよ。それでは、僕はこれで。手芸部の生徒が生物準備室にいますから、良かったら寄っていってください」
     季時は微笑みを浮かべて、職員室へ向かった。


      [No.752] 第77話「ポケモンリーグ5回戦第1試合前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/29(Thu) 17:24:30     62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    「ポケモンリーグは10日目に入りました。今日から2日にかけて5回戦を実施します。現在残るのは16人ですが、誰もが優勝を狙える位置にいます。また、5回戦から最大6匹のフルバトルになるので、本当の実力が試されます。では5回戦第1試合、選手入場!」

    「次は誰が相手になるんだろ」

     セキエイ高原のスタジアムに、ダルマは今日も入っていた。ポケモンリーグ本選もいよいよ後半戦とあり、彼の顔は自然と引き締まる。その一方で、場慣れした穏やかな表情も見受けられる。

    「ダルマじゃないか、まだ負けてなかったのか」

    「げえっ、父さん! まさか5回戦まで進んでくるとは思わなかった」

     そんなダルマの落ち着きは、今日の対戦相手によって吹き飛ばされた。ダルマはトーナメント表を確認する。ダルマの今日の相手は父、ドーゲンだ。ドーゲンはぐふぐふ笑いながら胸を張る。

    「ふふふ、俺を甘く見てはいけないぞ。今、俺は人生で最も充実している。当然よ、諦めたはずのポケモンリーグが、この年になってチャンスを得たんだからな。そんな俺の前では、例え四天王が相手でも負けん。勢いが違うわ」

    「……要は、興奮して暴走気味ってことだよね?」

    「そうとも言う。しかし今の俺は最強だ、息子と言えど容赦せんぞ」

    「別に手加減してもらう必要はないよ、俺は実力で勝ってみせる!」

    「さあさあ、試合前から火花が飛び散っております。ドーゲン選手とダルマ選手は親子のようで、実に数年ぶりの親子対決となります」

     実況の一言で、にわかに外野が騒がしくなった。スタジアムは徐々に熱気に包まれる。ダルマとドーゲンはボールを手に取った。それを確認した審判は試合開始を宣言する。

    「これより、ポケモンリーグ本選5回戦第1試合を始めます。対戦者はダルマ、ドーゲン。使用ポケモンは最大6匹。以上、始め!」

    「ゆけ、キマワリ!」

    「ゆくのだカメックス!」

     必然の対決、開幕。ダルマとドーゲンは、ほぼ同時にボールを投げた。フォームが2人共よく似ている。

    「親子対決、遂に火蓋を切りました。ダルマ選手はキマワリ、ドーゲン選手はカメックスが先発となります。今日のキマワリはこだわりメガネを装備していませんね」

    「カメックスか、何故か印象に残らないんだよな」

     ダルマは図鑑を開いた。カメックスはカメールの進化形で、バランスの良い能力を持つ。だがどれも突出しているとは言い難く、火力も耐久も微妙に半端。逆に言えば火力も耐久もそれなりにあるので、様々な立ち回りを同時にこなせる。

    「ふふふ、カメックスは水タイプだからキマワリは有利……そう思っているだろ? 馬鹿め、カメックスを舐めるな! 冷凍……」

    「まずはリーフストームだ!」

     先手はキマワリだ。キマワリは嵐を巻き起こし、それに尖った葉っぱを乗せてカメックスに飛ばした。カメックスは紙のように切り刻まれ、試合開始30秒も経たないうちにノックアウトしてしまった。

    「カメックス戦闘不能、キマワリの勝ち!」

    「おっと、キマワリがいきなりカメックスを倒しました! ダルマ選手、1歩リードです」

    「むう、やってくれるわ。しかしカメックスは俺の手持ちでは最弱、まだ5匹残っているぞ」

    「ならさっさと出してよ」

     ダルマは素っ気なく促した。ドーゲンはため息をつきながら2匹目の準備をする。

    「……つれない息子め。出番だ、エアームド!」

     ドーゲンは力強く次のポケモンを繰り出した。出てきたのは、薄い羽に鋼の体を持った鳥ポケモンである。

    「エアームドか、フスベの周辺にいたような気が」

     ダルマは図鑑を覗き込んだ。エアームドは鋼、飛行の組み合わせで、非常に物理耐久が高い。耐性も優秀で、一昔前は必須と言われる程のポケモンだった。近年は炎タイプの台頭で使用率が下がっているものの、とある組み合わせの発見で再評価されつつある。ダルマはエアームドに目を向けると、ボールを握り締めた。

    「相性は良くないな。戻れキマワリ、いくぞキュウコン!」

    「隙あり、ステルスロック」

     ダルマはキマワリを引っ込めてキュウコンを投入。対するエアームドは辺りに切れ味鋭い岩石を浮かべた。キュウコンの周りを岩が衛星のように回転する。

    「ダルマ選手、キマワリをキュウコンに交代。しかし、周りに尖った岩が漂いだしました。」

    「うむ、これは厄介だな。晴れがキュウコンの力の源、これを封じるのも悪くないが……戻れエアームド、仕事だラッキー!」

    「逃がすな、大文字!」

     ドーゲンは手早くエアームドを回収し、3匹目のポケモンを送り出した。現れたのは、腹部にタマゴを抱える白いポケモンである。また、薄紫の石が首からぶら下がる。丁度キュウコンの大文字が直撃するも、そのポケモンは何食わぬ顔でタマゴをさすった。

    「ドーゲン選手、エアームドからラッキーに交代です。その際キュウコンの大文字を受けましたが、驚くことにぴんぴんしています!」

    「な、なんだあれは! キュウコンの晴れ大文字をああもたやすく耐えるなんて」

     ダルマは図鑑を食い入るようにチェックした。ラッキーはピンプクの進化形で、全ポケモン中トップクラスの体力を誇る。特防にも定評があり、進化途中にもかかわらずかなりの特殊型が止まる。ただし決定力は皆無に等しく、防御も恐ろしく低い。もっとも、防御を伸ばせば体力があるので、物理耐久は高くなる。

    「見たかダルマ。これが俺の最高傑作、量産型しんかのきせきの力だ」

    「しんかのきせき? 何それ」

    「なんだ、知らんのか。しんかのきせきは『進化できるけど進化していないポケモンに持たせたら防御と特防が上がる』という効果を持つ。便利だが希少性が高く、値段が高騰していたのだ。そこで、俺は1個買って同じものを作ったのさ。観客席の皆さん、これさえあればかなりの数のポケモンがバトルで活躍できます。興味のある方は是非ワカバ工房までお電話ください!」

     ドーゲンは観客席とテレビカメラに向けて惜し気もなく新製品を紹介した。その直後、彼の懐からバイブレータの音が止まらなくなった。そんな父親に、ダルマは唸りながらも頭を抱えるのであった。

    「く、くっそー。宣伝なんて余裕かましやがって。けど、どうすれば良いんだ?」



    ・次回予告

    父、ドーゲンは、お手製の道具とポケモンの組み合わせでダルマを悩ませる。ダルマはこの強敵を打ち破ることができるのか。次回、第78話「ポケモンリーグ5回戦第1試合中編」。ダルマの明日はどっちだっ。



    ・あつあ通信vol.58

    親子対決がやってきました。ドーゲンは一応フスベジムまで到達しているのでそれなりに強いです。道具職人だけあり、アイテムが彼の強さを支えています。

    ダメージ計算は、レベル50、6V、カメックス@オボン冷静HP特攻振り、キマワリ臆病特攻素早振り、エアームド@食べ残しわんぱくHP防御振り、キュウコン臆病特攻素早振り、ラッキー@進化の輝石図太い防御素早振り。キマワリの手ぶらリーフストームで確定1発。キュウコンの晴れ大文字はラッキーに乱数4発。ラッキーぇ……。


    あつあ通信vol.58、編者あつあつおでん


      [No.751] 第12話 ほんとうの決着 投稿者:マコ   投稿日:2011/09/29(Thu) 12:24:04     55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ゲーチスとの勝負は、確かに決着がついた。
    しかし、そんな彼女を認めないというように、たくさんのポケモン達がいた。
    「嘘だ……私……もう……こんなに……たくさん……戦えない……」
    先のバトルで精神力をほぼ使い果たしたマイコに、こんな大群と戦うことなんて無理な話である。
    そんな彼女を嘲笑うかのように、ゲーチスは冷たく、下賤に笑った。
    「動けないアナタをいたぶってあげましょう。みなさん、総攻撃をしてあげなさい!」
    ポケモン達から一斉に技が放たれ、マイコに迫ってゆく。
    (みんな……ゴメン……折角……ゲーチスを……倒したって……いうのに……)
    マイコは死を覚悟した。その時であった。

    ズゴバキグシャッ!!!

    ドアが粉々に破壊され、それとともにポケモンの大群も1匹残らず瀕死状態になっていたのだ!
    こんなことを平気で出来るのは、彼女の知る限りでは、数人しかいなかった。
    (まさか……?)
    マイコがその音の発生した方向を向くと、そこには、七賢人と戦っていた6人の仲間……オオバヤシ、ハマイエ、トキ、カワニシ、アキヤマ、キザキがいた。そして、その傍らには6人の所持するポケモンが勢揃いしていた。恐らく、ドアを全力の技で吹き飛ばし、後ろの相手すら簡単に打ちのめしたのだろう。
    「みんな!来てくれたんだ!!」
    マイコは思わぬ助太刀にただただ感激していた。
    「ごめんな、思ったより手こずった……」
    「マイコちゃん、大丈夫?」
    「……結構、限界……。もう、自力じゃ、立てないよ」
    「ほんなら、肩貸すわ。……これで大丈夫か?」
    「ありがとう。助かったよ」
    マイコを助けた6人だったが、実は彼らも立っているのがやっとな状態だった。合流した直後に例にもれずプラズマ団下っ端の大群と一戦交えていたわけだ。しかも、マイコの場合より数が多くなっていたのだ。
    「バ……バカな……他の七賢人がアナタ達を倒しているはず……なのに……」
    「俺らがここに来れたんは、その七賢人を倒したから、や。分からんのか?」
    「……特に、スムラと戦った者は、絶対に再起不能になるはずなのに……どうして誰もそうならない!?」
    ゲーチスは動揺していた。七賢人が倒されたこと、そして、その中でも、洗脳を得意とするスムラが倒されたことに。
    「よう聞けおっさん。物事に絶対なんてないねん。ほんで洗脳なんてそんな付け焼き刃みたいなもん効くか。今頃はスムラの方が再起不能かもしれへんけど」
    その洗脳を破った張本人であるオオバヤシがそう言うと、ゲーチスの顔がみるみるうちに強張る。そして本性むき出しで叫んだ。
    「こうなったら……こうなったら、貴様等まとめてあの世へ送ってやるっ!!!」
    彼の手には、一つのスイッチがある。
    「これは、ポケモンと人をまとめて殺せる、いや……世界を壊せるほどの核爆弾だ。これで反逆者であるアナタ達をまとめて処分してあげましょう」
    「そんなことしたらお前らも……」
    「負けた下っ端にも、七賢人にも用はない!ワタクシはここから脱出します、アナタ達はこのワタクシを怒らせたことを後悔しながら死ぬがいい!!!」
    そして、大群の中の1匹であった念力の小鳥を引っ張りだし、指示した。
    「ネイティ、テレポートしなさい!」
    しかし……全く動くことができなくなっていた。動揺するゲーチス。
    「何故離脱できないのですか!?」
    7人はそれを横目に話し出す。
    「え?誰かのポケモンが黒い眼差しを使った?」
    「いや……使ってへんで」
    「使えるポケモンはボールの中やしなあ……」
    「影踏みの特性を持っているポケモンは?」
    「誰も持ってる人はおらんで。……あっ!!!」
    気がつくと、7人の傍にソーナノがいた。ゲーチスの影を踏んで喜んでいる。
    さらに、もう一人男が増えていた。
    「ったくよお……一度助けてやったっていうのに、また死にかけのパターンか……こりねえよな、あんた達……」
    前に会った時の姿とは異なっていたが、彼とマイコ、ハマイエ、カワニシは面識があった。
    「博物館での戦いの時に、私達を助けてくれた……」
    ポケリアのその5で、博物館にてあわや生き埋めとなるところだった3人を助けた、あの少年である。
    「あんたらもかなり強くなったことだしな、もう正体を明かしてやるぜ。僕はカイトっていうんだ……そこの彼女の、ひ孫なんだぜ」
    「「「ひ孫!?」」」
    「え、え、そうなんだ……」
    各々絶句していた。マイコは苦笑するしかなかった。
    「アナタ達、ワタクシがいることを忘れてやしませんか?アナタ方の生殺与奪はワタクシが握っているのですよ!」
    「てめえは……ゲーチスか。100年も前にこの世界で悪事を働いた大悪党……」
    「このボタン1つで世界を壊せるのですから。邪魔者であるアナタも排除できるのです」
    「じゃあてめえ、そのボタンを押してみろ」
    カイトの発言に怒ったのはマイコ達だ。
    「お前、何てこと言うとんねん!」
    「押されたら誰も助からへんねんで!?」
    「それはやめて!!!」
    ゲーチスは下品な笑いをフハハ、と見せた。
    「カイト君のお望みとあらば、押してあげましょう!」
    「やめて!!!」
    「やめろ!!!」
    『やめてくれ!!!!!』
    7人の願いもむなしく、カチッとボタンが押された。



    しかし……何秒待っても、何十秒待っても、一分待っても、何も起きない。
    「な、何故だ……何故世界は壊れない!?」
    ゲーチスは絶叫した。それを見てカイトが話し出す。
    「お前がろくでもねえことを始めようとするから、僕の友達の伝説ポケモンに色々頼んで止めさせたのさ。セレビィには爆弾の設置される時間に飛んで、爆弾をそっと運んでもらった。後、アルセウスには、安全な場所で裁きの礫を使ってそれを壊してもらったのさ。全部、お前の知らない場所でしたんだよ!」
    「そ……そんな……」
    「後、お前にはそれに相応しい罰を受けてもらおうかな……ギラティナ、出てきてくれ」
    すると、床の一部が闇に包まれ、反骨ポケモンが姿を見せる。
    「何をする気です!!」
    「お前は色々とやりすぎてしまったんだよ。こいつのもとで根性叩き直してきてもらえ。まあ、一生出られねえだろうけど」
    霊竜は触手のような影の翼を伸ばすと、ゲーチスを掴み、闇の中に引きずり込んだ。
    「うわああああ……」
    闇は小さくなり、そして消滅した。
    「さてと、あんたら、ここをとっとと出るぜ。ここは危なすぎるからな……」
    7人とカイトは手をつないだ。
    「行くぜ、ケーシィ、テレポートで安全な場所へ!」
    禍々しい場所から全員が脱出に成功する。
    そして、その直後、プラズマ団の城は崩壊していった……。


    次へ続く……。


    マコです。
    ゲーチスを完全に倒し、プラズマ団の城からも無事に脱出したみんな。
    次はいよいよフィナーレです。


      [No.750] 第11話 最終決戦! VSゲーチス 投稿者:マコ   投稿日:2011/09/29(Thu) 11:00:07     50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    鈍臭い足を精一杯動かして走り、ようやく玉座の間に辿り着いたマイコ。
    そこには、緑の髪を持つプラズマ団の総帥が待ち構えていた。
    「アナタがやはり来ましたか。待っていましたよ。途中でくたばってしまったのかと思いましたけどね」
    「ゲーチス!私はあんたを倒すために来たの。くたばるわけがないじゃない。これ以上あんたの好きにはさせない!!」
    「フフ、孤独のアナタに何ができるのです?仲間の方々はみな七賢人と戦っていて、なおかつみな負けるというのに」
    「少なくとも、あんたの手下みたいな奴なんかに、私の友達は負けない。絶対に負けないんだから!!」
    「そう言い切りましたか……。マイコさん、ワタクシは……アナタの絶望する顔が見たいのだ!!!」
    「絶望の表情を見せるのはあんただっ!!!」
    その言葉とともに、バトルは幕を開けた。


    ゲーチスの先発は金色の棺桶ポケモン、デスカーン。一方のマイコはウォーグルを出していた。
    「ワタクシの攻撃手段を少し封じる作戦に出ましたか……、しかし!それはアナタも同条件。ノーマルの技が通じないのですよ」
    「それは知っているよ。じゃあ、ウォーグル、まずは遠距離攻撃で様子を見ようか。岩雪崩!」
    勇猛ポケモンの周囲から大きな岩がいくつも飛び出し、棺桶ポケモンに命中していく。しかし、デスカーンの方も守りの障壁を張り、衝撃を軽減していた。
    「じゃあ、今度は近距離で!シャドークロー!」
    マイコのこの指示をゲーチスは嘲笑う。
    「ハッハッハ。アナタはデスカーンの特性《ミイラ》を知らないのですか?押し付けられて困るのはアナタなのですよ」
    「そこは大丈夫。心配される必要なんてない。倒すことが優先よ。それより、心配すべきなのはそっちなんじゃないの?」
    影でできた爪が棺桶ポケモンに対し、何条もの傷を与えていった。特性が《鋭い目》から《ミイラ》に変わっても構わず攻撃を重ねた結果、堅い守りが特徴のデスカーンは、早くもノックアウトされるに至った。


    2匹目にゲーチスが出したのはバッフロンだった。出てきた瞬間から鼻息荒くいきり立っていた頭突き牛は、なんと、マイコに向かって突進してきたのだ!
    「あんたの相手は私じゃないわ!お願いムシャーナ、あの牛を止めて!!」
    ウォーグルを引っ込め、半分慌てながらも夢現ポケモンを出す。マイコの呼びかけに応じたムシャーナは、バッフロンをサイコキネシスで押しとどめ、逆に弾き飛ばしていた。
    「危なかった……。まさか、ダイレクトアタックが来るとは、ね。ありがとう、ムシャーナ」
    頭突き牛は体に雷を纏い、突進を見せてくる。ワイルドボルトだ。そして夢現ポケモンに当たる、その瞬間だった。

    ガキイッ!!!

    すごい音とともに、バッフロンは弾かれた。さらに遠くに弾かれていく。
    「アナタ、今一体、どんなトリックを行ったのですか?」
    「リフレクターを張った後にサイコキネシスを使ったの。こっちも負けられないから……」
    「そうですか。それではバッフロン、地震を行いなさい!」
    ゲーチスの指示に応じ、頭突き牛が地面を揺らそうとした、その時だった。
    「何故浮き上がるのですか!?」
    足をバタバタ、せわしなく動かすバッフロン。そのまま浮いていく様はとても滑稽だ。
    「よーし、そのまま破壊光線!!」
    目を開いたムシャーナから放たれた極太の光が、テレキネシスによってしっかりと猛牛を飲み込んでいった……。


    ゲーチスの手から出された3匹目はキリキザンだった。対してマイコはライボルトを出す。
    のっけからとうじんポケモンは鋭い石の欠片を投げていく。ストーンエッジだ。
    「電撃波であの石を相殺して!」
    耐久力には優れない放電ポケモンは、避けることではなく攻めることで、相手に立ち向かう。「攻撃は最大の守り」を体現した形だ。狙い通りにストーンエッジを壊していく。
    「ぐっ、遠距離の攻撃を消されるとは!さらにダメージも与えられるほど育てているとは、ね。ならば今度は接近して見せましょう。辻斬り!!」
    腕にある刃でライボルトを仕留めようと向かうキリキザン。しかし、スピード勝負ならば、ライボルトの方に分があるもので、ことごとくかわしていく。
    「最初は10万ボルト!」
    放電ポケモンの体から鋭い電撃が浴びせられる。それによる痺れでキリキザンの方は思うように体が動かなくなる。マイコは次の指示を出す。
    「そして火炎放射!!」
    ライボルトは口からエンブオー顔負けの炎を放つ。とうじんの弱点を突くとどめの一撃で、ノックアウトに追い込んだ。


    そして4匹目。ゲーチスは振動ポケモン、ガマゲロゲを出す。
    「ヘドロウェーブを使いなさい!」
    何とマイコが次のポケモンを出す前に、毒の大波によって彼女を亡き者にしようとしたのだ!しかし、彼女は落ち着いていた。
    「フシギバナ、出てきて!」
    草と毒、二つのタイプを併せ持つ種ポケモンは、主人を庇うように出現し、毒の大波を防ぎきったのだ!毒のタイプがあるために、そこまで大きなダメージも受けていない。
    マイコは種ポケモンを撫でてあげた。
    「ありがとう、フシギバナ。……ゲーチス!!ダイレクトアタックをしないでほしいわね!2回もそんなことしてさ。あんたにはモラルってものがあるの!?」
    2回目ともなると、彼女にも言い返す余裕が出た。
    「ポケモンの解放をするためなら、その様なこともいとわないのが、我々プラズマ団のポリシー。アナタみたいな危険ランクAAA(トリプルエー)の方は、抹殺するに相応しいのです!」
    「……あんた、相当堕ちているものね。まあいいわ。あんたに痛い目を見せてあげるんだから!!!」
    スピード、という点で勝るガマゲロゲは、接地面積の大きいフシギバナに地震をお見舞いする。しかしフシギバナは動じず、青蛙の体にいくつもの種を植え付け、締め上げるように体力を吸っていく。唯一の弱点である草技を決められたガマゲロゲに最早勝ち目はなく、とどめのタネ爆弾によって倒された。


    5匹目にゲーチスが出したのは、三つ首の悪竜、サザンドラ。オオバヤシも連れているあのポケモンだ。マイコは次のポケモンをラグラージに決め、場に出した。
    凶暴ポケモンはかなり素早く、竜の波動や気合い玉といった大技を次々出していった。それこそ、ラグラージの付け入る隙がないほどに。しかし、沼魚は強靭な耐久力によって、そこまで消耗はしなかった。
    さらに、大技の連続使用のツケが回ってきたのか、サザンドラの方が疲労の蓄積が大きく、息を荒くついていた。
    マイコはその疲れを見逃さず、指示を発した。
    「ラグラージ、チャンスよ!ジャンプして冷凍パンチ!」
    沼魚は一気にジャンプを決め、凶暴ポケモンの背に乗り、凍った太い腕の一撃を与える。サザンドラはみるみるうちに凍りつき、浮遊していたはずなのにドスーン、という音とともに地に墜ちた。そして、
    「アームハンマー!!!」
    力強い腕の一振りで難敵の凶暴ポケモンを倒したのだ!


    「さあ、ゲーチス、あんたも残り1匹ね」
    「……バトルというものは、最後の最後までわからないものなのですよ。行きなさい、シビルドン!!」
    「最後の相手は、一番のパートナーで倒してあげる。行っておいで、エンブオー!!」
    浮遊特性によって若干宙に浮く電気魚と、どっしりとした大火豚が対面する。緊張の糸がピンと張り詰める。
    最初はお互い火を吹き付けていた。二つの炎がぶつかり合う。
    「炎タイプをなめるなあっ!!!」
    マイコの絶叫とともに激烈に燃え盛る炎はシビルドンを飲み込む。しかし炎を食らいつつも電気魚はアクロバットを決めようとする。そこに巻き付くいくつもの草。エンブオーは草結びを放っていたのだ。
    「マイコさん、アナタは相当ポケモンを信頼しているようですね。しかし!勝つのはこのワタクシなのです!!シビルドン、ワイルドボルト!」
    「フレアドライブで迎え撃って!!」
    炎と雷がぶつかり合い、大きな煙が巻き起こる。
    それが晴れると、お互いのポケモンが肩で息をしていた。
    「しぶといですね……。では、次の一撃で決めてあげましょう!全力の雷で葬ってあげなさい!」
    「こっちはこれで決める!炎の究極技、ブラストバーン!行けええっ!!!」
    猛火特性が発動し、普段の威力よりもさらに強くなった究極技。さらにマイコの「想い」まで乗ったその力は、雷を消し飛ばし、電気魚を一気に飲み込み、倒した。
    マイコの勝利は、これで決まった。ガッツポーズをした彼女であったが、もう立っていられなかった。膝から崩れ落ちるように倒れていた。
    「ハア……ハア……これで……プラズマ団は……倒した……」
    負けたゲーチスは、しかし、不敵に笑っていた。
    「クックック……ワタクシをこれほどまでに圧倒しようとは、ね。しかし!『試合に負けて勝負に勝つ』とはよく言いますよね?」
    そう言う悪の総帥の後ろには……

    たくさんのポケモン達が、ギラギラと目を光らせていた姿があった……!


    次へ続く……。


    マコです。久し振りの更新です。
    とうとうゲーチスを倒したマイコちゃん。
    それでもまだ脅威は収まりません。
    どうなってしまうのでしょうか!


      [No.749] 二話 寂しがり屋の清掃員 投稿者:戯村影木   投稿日:2011/09/28(Wed) 19:25:32     66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

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     季時九夜は午前六時に目が覚めてしまったので、仕方なく仕事に向かうことにした。今日は一時間目の授業がなかったはずだ。職員会議もない。しかし二度寝をすると危ないので、ならばいっそ学校に向かう方が良いだろうと考えた。自転車のカゴに鞄を入れて、学校に向かう。通勤にかかる時間は十分ほどだった。今の学校を季時はとても気に入っている。仕事というのは、職場までの距離が短ければ短いほど良くなる傾向にある。
     職員用の駐輪場に自転車を駐め、中庭を経由して直接B棟へ向かおうとすると、ジャージを着た集団に会った。部活の朝練だろうか。こんなに朝早くから練習しているのかと感心する振りをした。生徒たちはすぐに季時に気づいて、頭を下げた。
    「先生、早いですね」唯一声まで出したのは、絹衣という男子生徒だった。二年生で、生物学を取っている。「いつもこのくらいの時間ですか?」
    「いや、三年ぶりくらいかな。君たちこそ早いね」
    「僕たちは、一ヶ月ぶりです。美化委員なんですよ」
    「ああ」季時は深く頷いた。「それ、教室の清掃とかはしないの? 例えば、生物準備室とか」
    「しませんね」絹衣は苦笑した。
    「今、何してるの?」
    「学校を回って、外に落ちてるゴミを拾ってるんです。紙パックとか、パンの袋とか、まあ色々。結構、無法地帯ですよ」
    「ふうん。ゴミかどうかの判断はどうやってするの?」
    「名前が書いてなければゴミですね」
    「なるほどね。がんばって」
     季時は集団と反対の方向へ、つまりB棟へと向かった。しかし、また障害があった。そこに、ポケモンがいたのだ。
    「あれ、ヤブクロンか」
     季時は、ゴミ袋の山にひっそりと隠れているヤブクロンを見つけた。きっとさっきの集団がゴミをまとめている場所なのだろう。どこから沸いてきたのかは分からないが、居心地が良さそうだった。
    「ゴミの匂いを嗅ぎつけて来たのか。ふうん、ベトベターじゃなくて助かったってところか」季時は周囲を見回した。「美化委員に知らせないとな……進化すると惨劇だ」
     季時はヤブクロンの頭に手を置いて、「しばらくここにいるように」と指示を出してから、先ほどの集団を追いかけた。美化委員たちは、さきほどの場所から少し進んだ場所で、ゆっくりとした歩みでゴミを拾い集めていた。
    「作業中に悪いね、委員長は誰?」
    「私ですが」反応したのは白凪という、三年の女子生徒だった。「何ですか?」
    「ゴミ袋、あれ、君たちの?」
    「B棟にあるものですか? そうですけど」
    「ヤブクロンがいたよ」
    「あっ、またですか」次に反応したのは絹衣だった。「前も沸いたんですよね。この学校に住み着いてるみたいで」
    「へえ。よく今まで進化、というか、破裂しなかったね」
    「いつもはすぐに気づくんですけどね。さっきはいなかったのになあ……」
    「ポケモンは学習するんだよ。まあ、とにかく忠告しておくよ。ゴミが荒らされたら大変だろうから」
    「処理しないといけませんね。じゃあ、絹衣君、このまま校門まで行ってくれる? 私はそっちを処理するから」
    「え、でも、一人で大丈夫ですか、委員長」
    「一人?」白凪は季時を見た。「でも、先生、手伝ってくれますよね?」
    「僕? いや、僕は仕事があるんだけど……」
    「三年ぶりに早く学校に来てまで、やらなければならない仕事があるんですか?」
    「ああ、うん、そうね、学校に出たヤブクロンを処理するっていう仕事があってね。生物学教師として」
    「そうですか。ありがとうございます。というわけだから、私は先生とヤブクロンを処理します。絹衣君、あとよろしく」

     2

     二人でゴミ袋の場所に戻ると、ヤブクロンがいなくなっていた。白凪は季時をじっと見つめた。
    「いませんね」
    「なるほど、人間の気配を察知して逃げるように成長したわけだ。ポケモンは頭が良いからね」
    「先生は見たんじゃないんですか?」
    「僕はね、何故かポケモンに逃げられない体質なんだ」
    「そう言えば、そんな話を聞いたことがあった気がします。ということは、私は邪魔だったでしょうか? 先生が一人で捕まえた方が……」
    「うーん、でも、僕一人に任せると、三時間はかかるよ。動きが遅いから」
    「一緒に探しましょう」白凪は姿勢を整えた。「心当たり、というか、ヤブクロンが隠れそうな場所、想像出来ますか?」
    「出来るよ。じゃあ、歩こうか」
     季時は目的地を告げず、歩き出した。白凪は黙ってそれについていくる。
    「そう言えば、白凪君、ポケモン非所持で有名だね。まあ、個人の思想をどうこう言うつもりはないけど、目的地まで暇だから話さない?」
    「何を話せばいいですか?」
    「なんでポケモン持ってないのかな、って」
    「別に、大した理由ではないですけど、機会がなかっただけです。あと、ポケモンを見つけるのが下手だったり、捕まえるのが下手だったので。昔、何度か挑戦したんですけど、無理でした」
    「なるほどね。でも今はもう出来るんじゃない?」
    「今はもう、あまり興味がないですね。なくても生活出来ていますし、不必要かと」
    「ふうん」
     季時は白衣のポケットに手を入れて歩いていた。ポケットの中にはボールがあった。それをなんとなく握り込んだ。
    「そう言えば、なんで美化委員なんてやってるの?」
    「綺麗なのが好きだからです。というか、汚いものを見ていたくありません、という方が正しいですね」
    「へえ。あのさあ、僕の部屋汚いんだけど、掃除してくれる?」
    「ご自宅ですか?」
    「いや、生物準備室。別名ゴミ捨て場」
    「何か報酬があれば考えます」
    「そうだね……掃除の最中にコーヒーが飲めるよ」
    「遠慮しておきます」白凪は首を振った。「それに、教科準備室は簡単に白黒つけられませんから、私たちでは難しいです。何を捨てて良いのか分かりませんから」
    「あ、そう……別に、白黒つけなくても、あるものをあるべき場所に戻してくれればいいんだけど」
    「私は掃除は捨てることだと思っていますから」
    「へえ?」
    「必要なものは、利用するという名目があって出されているわけですから、汚れとは違いますよね。だから、それは無理に収納しなくても、綺麗だと思います。ですが、ゴミは捨てなければなりません。綺麗ではありませんから」
    「必要ないものだけ捨ててくってこと?」
    「ええ。ですから、生きていく上で不要だと思うものは排除していくという考えです。先生に言うことではないかもしれませんが、ポケモンだって、はっきり言ってしまえば、私の人生には不要ですから、所持していません」
    「なるほど、白凪君とは少し、考え方が似てるかもしれないね」
    「では先生のお部屋は綺麗かもしれませんね」
    「うん、個人的にはね。でも、普段はいらないものばかりだよ。大切なものだけどね」
     季時と白凪は、プールへと向かった。夏が終わり、朝は吐く息が多少白くなる季節だ。プールはもう使われていなかった。
    「こんなところにいるんですか?」
    「彼の友達がたくさんいるからね」季時はコンクリートの階段を上る。「冬場のプールはねえ、ベトベターがいるんだよ」
    「そうなんですか」
    「知ってる? ベトベターは、ヘドロが月の光を浴びると生まれるんだ。だからね、屋根のないプールは、ベトベターが沸くんだよ。そもそもこれ、プール開きの前に、美化委員が掃除したりしないの?」
    「プールは水泳部の管轄だと思います」
    「ああ、なるほど。とにかく、見てごらん」
     ロープをまたいでプールに向かう。水の張られていない、二十五メートルプールの中には、紫色のヘドロがうごめいていた。
    「すごい……いっぱいいますね」
    「でも、彼らは別に悪さはしないから、安心して。うちの学校もね、害はないから放っておくことにしているんだ。ほら、あそこ」
     季時が指差した先には、ヤブクロンがいた。コンクリート塀の角で、丸まっていた。
    「確かにここなら誰にも見つかりませんね」
    「で、美化委員としては、彼をどうするつもり?」
    「どうする、とは」
    「捨てるかい?」
    「活動の邪魔になるようなら、やむを得ません」
    「そうか。まあ、僕は美化委員とは関わりがないから、止めないよ。でも、白凪君、ポケモン持ってないんだろう? ポケモンの扱い方、分かる?」
    「知識はあります」
    「そう。じゃあ、あとは任せた」
     季時はそう言って、プールから出て行こうとする。白凪は慌てて季時の白衣を引っ張った。
    「何かな」
    「先生も手伝ってください」
    「手伝うって言っても、難しいことじゃないよ。そっと行って捕まえればいい。ボールなんか使わなくても大丈夫だよ、あのくらいのサイズなら」
    「いえ、その後の処理が分からないんです。ポケモンは流石に、ゴミ袋に詰めて出すわけにはいかないでしょうし」
    「ああ、なるほどね。でもそれは、僕が教えることじゃないな」季時は白衣を引っ張り返す。「しばらく自分で考えてごらん。これ、貸しておいてあげるから」
     季時はポケットの中からボールを取りだした。それは、中に何も入っていない、空っぽのボールだった。
    「これは……」
    「よければあげるよ。まあ今日はまだ授業まで時間があるしね、少し経ったらまた来るから、ちょっと考えてみてごらん」
     季時はそう言って、さっさとプールを離れてしまった。白凪はボールを片手に取り残されて、その場に残った。何故自分がここに残されたのか、その意味も分からないままだった。

     3

    「あれ、委員長は一緒じゃないんですか?」
     季時が美化委員のところへ来ると、絹衣がすぐに訊ねて来た。
    「プールにいるよ」
    「プールですか? どうしてまた」
    「白凪君のこと、気になる?」
    「え、っと……いや、どうしてプールなんだろうかと」
    「ゴミ、結構出たね」質問に答えずに、季時は言った。「それ、全部回収してもらうわけ?」
    「え、まあ、そうですけど」
    「ふうん。楽でいいね」
    「そうですね」絹衣がよく分からないままで、頷いた。「えっと……委員長は帰ってこないんですかね」
    「どうだろうね。しばらくかかるかもしれない」
    「そうですか、じゃあ……」
     絹衣は美化委員たちを集め、ゴミ袋をゴミ捨て場まで運ぶよう指示を出した。そして、それが終わったら自由解散するように、と説明した。
    「絹衣君、君ってもしかして、副委員長?」
    「え、あ、そうです」
    「そうか。ふうん。あ、そこの体格の良い君、絹衣君の分も持って行って」季時はゴミ袋を一つ、背の高い美化委員に渡した。「で、絹衣君は僕と一緒に来て」
    「どうしてですか?」
    「しかし、ゴミ、たくさん出たなあ」季時はまた質問に答えなかった。

     4

     白凪はボールを片手に、ヤブクロンと睨み合っていた。上手く動けなかった。どのようにして捕まえ、どのようにして運搬し、そして、どこに運べばいいかが分からなかった。それに、季時から言われたことも、分からなかった。何を考えたら良いのか、何を思考すれば良いのか。
    「煮詰まっているようだね」
     声がした方を振り返ると、そこには季時と絹衣がいた。絹衣はわけが分からない様子で、頭を下げた。
    「先生、先生が何を仰りたいのか分からないのですが」
    「なるほど。まあ、僕は一応教師だからね、分からない生徒は導くのが仕事だ」
     季時はゆっくりと歩を進める。絹衣もそのあとに続いた。
    「ゴミってなんだろうか」
    「ゴミ、ですか?」
    「正解は不要なもの」季時は屈み込み、プールの内側をノックした。「じゃあ、このプールは?」
    「えっと……どういうことですか?」
    「このプールは今不要だけど、ゴミじゃないよね」
    「それは……そうですけど」
    「じゃあ、そのヤブクロンは?」
     季時はヤブクロンを指差した。ヤブクロンは、人間が三人もいることに怯えているのか、縮こまっていた。
    「彼もね、別にゴミじゃないんだ。ちゃんと生きてる。それは、分かるよね」
    「ええ……分かりますけど」
    「で、絹衣君」
    「はい」
    「君は不要だ」
    「えっ」絹衣は驚いたように声を上げた。
    「本来この場にいる必要はない。君、ゴミなの?」
    「いやっ、違いますよ! 何ですか急に!」
    「うん、分かってる。君はゴミじゃないし、ここにいてもいい。傍観者としてとか、観察者としてとかね」
    「びっくりさせないでくださいよ……」
    「先生が何が仰りたいのか、よく分かりません」
    「あのねえ、ゴミっていうのは、実はこの世にはあんまりないんだよ」季時はプールの中にいるベトベトンと握手をしていた。「だから、これは自分の人生には必要ないとか、そういう考え方ね、あんまりオススメしないよ。別に、僕が生物学教師だから言うんじゃなくてね」
    「ポケモンが不要だというのが、良くないということですか?」
    「いや、別にいいんだ、それ自体は。ポケモンがいなくたって人は生きていけるよ。ただね、君はもうちょっと視野を広げないといけないな。あのねえ、ゴミって、どこかに行くんだよ」
    「それは、まあ、そうですけど」
    「僕らはね、ゴミをまとめて袋に詰めて、ゴミ捨て場に置けば終わりだけど、それは絶対にどこかに行くんだよ。世の中の物量なんてほとんど変わらないよ。質量保存の法則とか、まあそういうのだね。絹衣君」
    「はいっ」絹衣は真面目な声で答える。
    「君、ポケモン飼ってるよね。アブソルだっけ」
    「あ、はい……そうですけど」
    「アブソルがいなくなったら、どうする?」
    「え、それは、困りますけど……」
    「うん。困るんだよね。けど、最初っからいなかったら、別に困らないんだよ。自分のものじゃないから、どうなったって困らない。でも、一度自分のものになるとね、いなくなると、困るんだよ。それが例え、今自分にとってゴミのように見えるものでもね」
     季時はプールの中のベトベターとの握手を解いた。不思議なことに、季時の手には何も付着していなかった。ベトベター側が、好意的な接触をしたせいだろう。
    「このヤブクロンは、ここにいる」
    「え、はい……」
    「でもね、彼を処理するなら、誰かが捕まえるしかないんだよ。野生のまま放っておくと、今日みたいに悪さをするし、かと言って、殺すわけにもいかないだろう?」
     白凪は答えずに、じっとヤブクロンを見ていた。
    「ボール、投げてごらん」
     白凪に近づいて、季時が言った。
    「僕の短い人生経験から言うと、綺麗好きな人は、強がりで、寂しがり屋だ。それは、僕から言わせると、少しもったいないね。必要か不要かどうかを決めるのはね、経験したあとでいいんだよ」
     季時は白凪の手を握った。その手には、ボールが握られている。
    「ヤブクロン、綺麗じゃないかな?」
    「ええ、綺麗じゃないですね」白凪はようやく答えた。「でも、先生の仰る意味は分かります」
    「それは良かった」
    「ヤブクロンを捕まえたら、大切に思えますか?」
    「それは君次第だし、やっぱりいらないって思うかもしれない。でも、それはやってからじゃないと分からないし、やる前の意見は、本物じゃない」
    「分かりました」
    「頭の良い子で助かるよ」
     白凪は、季時から一歩分前に出ると、ヤブクロンをじっと見つめた。季時はそれを見届けて、白凪から離れる。
    「絹衣君」
    「はい」
    「あと、頼むよ」
    「えっ……すいません、俺、全然飲み込めてないんですが」
    「うん。でもまあ、君が適任だろうし、ここから先は、僕は不要だから。いい加減コーヒーが飲みたい」
     季時は絹衣の肩に手を置いて、プールを去った。
    「ゴミにはね、ゴミ捨て場がお似合いなんだよ」


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