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1
季時九夜が授業を終えて廊下に出ると、一人の生徒とぶつかった。視線を下に向けていたので、目に入ったのは制服のスカートだった。季時は身体を教室に戻して、顔を上げた。
「あっ、きゅーやんごめん」
「廊下は走らない」
「走ってないよ」
常川という女子生徒だった。胸のところに、服を着せた黄色いネズミを抱えていた。制服にもところどころ黄色いものが見える。意識しているのだろう。
「廊下を走らなければ僕とはぶつからない」
「走らなくても双方がよそ見をして歩いてればぶつかるんじゃない?」
「じゃあ追加しよう。廊下でよそ見はしない」
「きゅーやんだってよそ見してたじゃん」
「僕は教室にいたよ」
常川は頬を膨らませる。どうして怒りを表す時に人間は頬を膨らませるんだろう、と季時は思った。頬の膨張率に何か因果があるのだろうか。少なくとも威嚇しているようには見えない。可愛らしくすらある。
「じゃあ、今度から気をつける」
「まだ話がある。校舎内では、ポケモンはボールに入れて携帯するのが校則だ。校則違反は、ここまで至近距離で見てしまうと、見逃せない」
「もう授業終わったしいいじゃん。あとホームルームだけだし」
「校則は授業中だけ適用されるものじゃない」
「はいはい」
「はいは一回か十回、どっちがいい?」
「はーい」常川はまたふてくされて頷いた。「でも、ちゃんと服着せてるし、悪さもしないんだからいいじゃん」
「悪さをするから校則があるんじゃない」
「じゃあ何のためにあるの?」
「何かのためにあるんじゃないよ」季時はようやく廊下に足を踏み出した。「ただ校則はあるだけ」
「それじゃ納得出来ない」
「校則は納得するためにあるんじゃないよ」
「じゃあ校則なんていらないじゃん」
季時が教科室に向かおうとするのを、常川が追跡する。他の生徒が、季時の姿を見て、挨拶をしてくる。
「その通り、校則なんていらない」
「じゃあなくせばいいのに」
「なくしたくてなくせないもので地球は出来てる」
「大人の都合」
「人間の都合だよ」季時は階段を降りる。常川がそれに続いた。「早くボールにしまった方がいいんじゃない。僕はいいけど、他の先生は僕より厳しい」
「……はぁい」
「いい返事だ」
常川は携帯電話についているボールで、黄色いネズミを回収した。縮小するとビー玉ほどの大きさだ。携帯電話か、バッグについていることが多い。
「なんでうちの学校ってこんなに校則厳しいの?」
「厳しい校則があるのがうちの学校なんだよ」
「そういう話がしたいんじゃなくて」
「服は感心しないな」
「え?」突然の話題の切り替えに、常川は戸惑う。
「服。ポケモンに服を着せるもんじゃない」
渡り廊下を進み、棟を移動する。こちらには実験室や教科関係の教室がある。季時の城もそこにある。
「なんで? 可愛いじゃん」
「僕にはそうは思えない」
「それはきゅーやんのセンスが悪い」
「君はポケモンが好きなんじゃなくて、服が好きなわけ?」
「違うよ。可愛いポケモンが可愛い服着てるのがいいんじゃん」
「可愛さに可愛さを足すとあくが強いなあ」
B棟と呼ばれるその校舎の三階に、季時の城がある。生物準備室という名前の部屋だ。生物を担当する教師は季時しかいないので、完全に季時の個人部屋だった。
「で、君はいつまでついてくるの」
「んー、たまにはきゅーやんの部屋でも覗こうかと思って」
「僕に拒否権は?」
「ないよ」
「そう。じゃあ、どうぞ」季時は部屋に常川を案内した。「ホームルームまであと六分。教室まで二分。時間が四分ある。まあ、ごゆっくり」
「はー……いつ来てもすごい部屋だよね。ポケモングッズだらけ。でも、いい加減掃除したら?」
「するよ」
「あ、そうなの? いつ?」
「決めてない」
生物準備室は物で溢れかえっていた。それは全部ポケモンに関する物だった。季時が担当している生物学は九割以上ポケモンに関する授業を展開する。使用する資料も全てポケモンに関するものだった。
「私も早くきゅーやんの授業取りたいなー」
「生物学は二年から。今は真面目に化学を勉強しなさい」
「別に化学とか興味ないんだよねー。ポケモンのことが知りたいだけだからさ」
「知ってどうするの?」
「え、何それ、禅問答?」
「いや、これは完全に個人的な興味」季時はインスタントコーヒーの瓶を空けて、中身をマグカップに入れる。「僕はポケモンのことなんて知りたくないから」
「え、だってきゅーやんポケモンの先生じゃん」
「うん、そうだよ。常川君もコーヒー飲む?」
「すぐホームルームだけど……」
「ああ、そう。僕は担任じゃないから、ホームルームないんだけどね」季時は電動ポットからお湯を注いだ。「で、なんでポケモンのことを知りたいの?」
「え、それはだって……興味あるから」
「ふうん。でも、ポケモンならそこにいるじゃない」
季時は常川の携帯電話を指差した。ボールがぶらさがっている。先ほどの黄色いネズミが入っている。
「いるけど、だから、それについて勉強したいの」
「勉強がしたいなら一人でも出来るよ。教科書もあるし、参考書もあるし、学術書もあるし。そんなに知りたいんだったら僕が教えてあげてもいい。授業外でね」
「なんか、きゅーやん今日いじわるじゃない?」
「怒ってるからね」スプーンでマグカップをかき混ぜながら季時は言う。
「え、なんで?」
「君がポケモンに服を着せるから」
「そんなに怒ってたの?」
「激怒してるよ。憤怒と言い換えてもいいかな」
「なんで?」
「四分経つよ」季時は時計を指差して言った。「教えて欲しかったら、授業外に教えてあげるから、またおいで」
「今教えてくれてもいいじゃん」
「説明するのに七分はかかる」
「……じゃあ、ホームルーム終わったら来るから」
「走らない、よそ見をしない」
「はーい。分かってるってば」
常川は部屋から出て行く際、小さく唇を尖らせた。これもあまり威嚇しているようには見えないな、と季時は思った。
2
「あの、季時先生、聞きたいことがあるんですけど」
ホームルームが終わって三分が経過した頃、一人の女子生徒が季時の元を訪れた。二年生の塚崎という生徒だ。大人しい風貌だ。赤縁のメガネとセーラー服に黒髪が似合っていた。生物学を取っている生徒で、勉強熱心な子だった。
「何? 授業内容だったら聞きたくないな」
「いえ、個人的な相談なんですけど」
「そう。じゃあ聞くよ」季時は立ち上がって、塚崎をエスコートし、書類を取り除いた椅子に勧めた。「ああ、ドアの鍵を閉めておいて」
「え、どうしてですか?」
「邪魔者が来ると話が途切れるから」
塚崎は不思議そうにしながら内鍵を掛けた。
「で、質問って?」
塚崎は椅子に腰掛けて、バッグの中から四角いケースを取りだした。膝の上でその蓋を開く。中には六つ、ボールが入っていた。それを固定するように、ボール型に穴の開いたスポンジが敷き詰められている。
「私のポケモンのことなんですけど」
「ああ、うん。続けて」
「この前、友達に連れられて、ポケモン用の服屋に行ったんです。それで、可愛いと思うものがあったので買って、着せてみたんですけど……なんだかそれから機嫌が悪いんですよね。私、何かしちゃったかな、と思って」
「ああ……そう。ひどいことするなあ。世が世なら犯罪者だ」
「えっ」
「何? 最近、ポケモンに服を着せるの、流行ってるの?」
「えっと……どうでしょう。前から結構。でも、最近、駅前にお洒落なお店がオープンしたので、それで最近みんな、行ってるみたいですよ」
「なるほどね。塚崎君が行くレベルとなると、もうこの学校の女子生徒は全員行ってると考えて良さそうだね」
「それはどういう意味でしょう」
「そのお店がすごくお洒落って意味だよ」季時は微笑んだ。「で、全員に着せたわけ?」
「あ、いえ、この子だけなんですけど……」
塚崎は一つのボールをつまんで、季時に手渡した。季時は慣れた手つきでそれを元の大きさに復元させると、足下にあった本を蹴散らした。
「体長は? というか、ポケモンの種類は?」
「あ、イーブイです」
「三十センチか。もう少しかな」さらに本を蹴散らす季時。「特異個体だったりしないよね。つまり、大きさは平均だよね」
「普通ですね」
季時が床にボールを転がすと、イーブイが現れた。イーブイは外に出るなり、辺りを見渡して、そこが自分の知らない場所だと気づき、不安そうにしていた。
「ああ、なるほど、こりゃ相当に機嫌が悪いな」
「先生、分かるんですか?」
「全然。でも、悪いんでしょう?」季時は不思議そうに言った。「さて、ちょっと触らせてもらうよ」
季時はイーブイを抱き上げる。イーブイは、相手が知らない人間ではあったが、あまり嫌悪感を示さなかった。季時という人間は、そういう人間だ。ポケモンに嫌悪感を抱かせない才能を持っていた。悪意や善意というものがない、まったくの無邪気な人間だったからだ。
「なんで服を着せようと思ったの?」
「えっと……可愛いかな、って」
「イーブイ、可愛くないかな?」
「え? 可愛いですけど」
「あのねえ、服ってのはさ、センスなわけだよ」
季時は珍しく真面目な顔になった。
「センスですか」
「うん。ポケモンって、いつも裸ん坊でしょう。でも、裸でも、いいセンスだよ。そうやってね、成長して、進化して、時代の中で個性を身につけて行ってるわけ。もう、何万年もかけて自分のスタイルを確立しているのもいるわけだよ。それがさ、十何年しか生きていない小娘に否定されて、センスの欠片もない服を着せられたら、怒るよね」
「……そうなんですか」
「多分ね」季時はまたイーブイに向き直った。「それか、単純に息苦しかったかどっちかかな」
「どっちなんですかっ」
「両方かな。そもそも血の気の多い種族なんだからさ、戦いに無駄な布なんてつけたくないでしょう。ああ、これか」
季時はイーブイの胸毛から、一本の糸くずを取り出した。それは緑色をした、明らかに人工的なものだった。
「糸くず……」
「イーブイってね、胸のところ、四肢が届かないんだよ。それに、毛が長いから、深部にあるものはなかなか取れないんだ。これ、豆知識」季時はイーブイを塚崎に渡した。「何が起きてたかって言うと、人間で例えると、耳の、鼓膜辺りに砂鉄が三粒くらい入ってて、それが取れないまま、部屋に閉じ込められて、訴えることも出来ない、って気分かな。ちゃんと謝っておきなよ」
「そんなにひどかったんですか……」
「さあ。例えだから分からないけど、まあ、似たようなものだと思う」
「ごめんね、イーブイ」
塚崎がイーブイに謝罪の言葉を述べると、イーブイは怒ったように、身体を大きくしてみせた。これこそ威嚇のあるべき姿だな、と季時は思った。
「服を着せるのって、良くないんですね」
「え、別にいいんじゃない?」
「どっちなんですかっ」
「いや、双方の合意があるならいいと思うよ。そういうものでしょ。なんでもそうだけど、一方的なものって良くないよ。ああ、塚崎君、コーヒー飲む?」
「え?」急な話題転換に塚崎はついていけない。
「インスタントじゃないやつ。それを飲むなら授業内容についての質問も受け付けるけど」
「えっと……じゃあ、いただきます」
「あのねえ、コーヒーメーカーで淹れると、絶対に美味しい一人分は作れないんだよ。かと言ってさ、二人分作っても、飲むのは一杯でいいんだよね。実際は三人分出来ちゃうんだけどさ。まあ、これはね、ポケモンと人間の関係と一緒だよ」
「それ、どういう意味ですか?」
「意味はまだ考えてない」季時はコーヒーメーカーをセットし始める。「塚崎君、ちょっと、二百円あげるからさ、購買で良さそうなお菓子買ってきてよ」
「えっと……はい」
「ついでに、ポケモンに服を着せるのは良くないって噂、広めて来てくれるかな」
3
常川は季時の言うことが気に入らなかった。教室でクラスメートと雑談の延長戦をしたあと、B棟にある生物準備室に向かって歩いていた。
別にポケモンに服を着せるのがポケモンのためにならないというのなら納得が出来る。しかし、その理由をちゃんと伝えてもらえないと、納得がいかない。常川が生物準備室のドアをノックすると、「開いているか確認して」と暢気な声が帰ってきた。
「失礼します」
「あれ、常川君か。五パーセントの予想が当たった」
「なんですか?」
「いや、こっちの話。そっちの話は?」
「さっきの話を説明してもらいに来ました」
「コーヒーが入るまであと五分かかるし、今から話すと二分オーバーするから、そのあとでいい?」
「別にいいですけど。ここ、座っていいですか?」
「そこは先客がいるんだよ」
常川はもう一つの椅子の上にあった書類を床に移動させて、座り込んだ。部屋は中心にダイニングテーブルが置いてあった。上は書類や本だらけなので、物置としてしか機能はしていない。季時は一般的なデスクを利用していた。その上は、比較的片付いている。
「誰かいたんですか?」
「塚崎君」
「ああ、塚崎先輩ですか」
「知ってるの?」
「はい。部活の先輩ですよ」
「冗談はもっと面白い方がいいな」
「本当ですよ」
「え、だって、塚崎君、手芸部だろう?」
「そうですよ。私も手芸部です」
「……そうかあ、人生は驚きの連続だなあ」
「どういう意味ですか」
「額面通りの意味だよ」
二人が話していると、塚崎が戻ってきた。手には羊羹が四つ握られていた。「あ、常川さん」と、来客の存在に気づいて、小さく頭を下げた。
「こういうものしかなかったんですけど」
「コーヒーに羊羹かあ」季時は渋い顔をしながら羊羹を受け取って、デスクに置いた。「そうか、君、なかなかいいセンスしてるね」
「ありがとうございます」
「やっぱりきゅーやんセンスないよ」
「いや、僕には僕のセンスがあるよ。センスがない、という言葉は一方的だな。さっき、一方的なのは良くないって話をしただろう?」
「聞いてませんけど」
「うん、君にはしていないけど、僕はしたんだよ」
常川は今にも怒り出しそうだった。季時の人を食ったような話し方が、いちいちかんに障った。だが、どうやらこういう話し方はある程度親しい間柄の人物に限定されるようなので、嬉しいような、苛立たしいような、複雑な気分だった。
「常川さん、どうしたの?」
「きゅーやんに抗議に来たんです」
「授業を受けに来たんじゃなかったの?」季時が訊ねる。
「似たようなものですよ」
「それもそうだね」季時は否定しなかった。「ところで常川君、塚崎君のイーブイがね、服を着せたおかげで機嫌が悪くなって、今僕のところに相談に来たんだよ」
「え、そうだったんですか?」
「うん……先生に見てもらおうと思って」
「それ、本当に服が原因だったんですか?」
「いや、僕は違うと思うな」
「えっ」驚いたのは塚崎だった。「先生、さっきと言ってることが……」
「間違ってないよ。イーブイの機嫌が悪くなった直接の原因は糸くずだからね。要因は服だけど。さて丁度三人分のコーヒーが出来たからみんなで飲もう。君たち、羊羹食べる?」
「いらない」
「いただきます」
季時の汚れたマグカップとは違う、綺麗なコーヒーカップが二つ出て来た。この部屋にも、最低限の客人をもてなす用意は出来ているようだった。
「砂糖とかあります?」常川が訊ねた。
「あるけど、どうするの?」
「コーヒーにいれます」
「それはもうコーヒーじゃないよ」
「私、苦いと飲めないんです」
「今回だけだよ」季時はスティックシュガーを常川に放り投げた。
「あるんじゃないですか」
「一応ね。ではここから授業を始めようか」季時は身体を二人の女子生徒に向けた。「そうやって、なんでもかんでも自分好みにして、君らはどこに行くつもりだい?」
「え、どこに行くって……別に、ここにいますよ」
「君たちがね、その、制服を改造したりとか、制服の上にセーターを着たりとかするのを、僕は否定しないよ。それは君たちの問題だからね。でも、ポケモンに服を着せたら、君一人の問題じゃないわけだ。分かる?」
「……?」塚崎は首を傾げた。「ポケモンにも主張する権利があるということですか?」
「うん。じゃあ、例えば常川君が僕のものになったとしよう」
「いやですよっ」
「いやでもなるんだよ。ポケモンはそうやって捕まえられるんだからね」
季時の声はいつもと違い、少し強ばっていた。
「中には望んで飼われるポケモンもいるかもしれないね。でも大半はね、自分の意思とは関係なく飼われるんだ。哀れだね。その上、自分の意思や理想とは関係ない服を着せられると思ってごらんよ。例えば常川君にはそうだな、バニーガールのコスプレをさせよう」
「きゅーやんそういうのが好きなの?」
「いや、嫌いだよ。僕が好きなのは袴にブーツ」
「あ、それお洒落ですね」塚崎が言った。
「うん、塚崎君が例えば僕のものになって、袴にブーツという格好をさせられるのは、お互い合意の上だ。でも、常川君はバニーガールが嫌だろう?」
「嫌に決まってるじゃないですか」
「ポケモンもそう思ってるかもしれない」
季時が言うと、常川は黙り込んでしまった。
季時はしばらく常川の答えを待ったが、しゃべり出しそうにないので、話を続けた。
「センスが良い悪いとかさ、そういうのじゃなくて、まあ、つまり、服を着せるという行為の中に、お互いの心は通じ合ってるのか、ってところかな。はい、七分経ったよ」
季時はそう言って、コーヒーを飲み、羊羹をかじった。そして、「悪くないね」と呟いた。
「それは、服を着たいかどうか、ピカチュウに聞いてみろってことですか?」
「聞けるものならね。でも、聞けないでしょう」
「……聞けないです」常川は項垂れる。
「じゃあ、特別に、簡単な見分け方を教えてあげようか」
季時は白衣のポケットからボールを取り出した。それは、常川や塚崎が利用しているものとは大きさが違った。季時の世代では一般的なボール。現代では、少し時代遅れのボールだ。
「見ててごらん」
季時がボールを床に放ると、中からカゲボウズが現れた。カゲボウズは季時を見ると、喜んですり寄ってくる。そして、季時の白衣のポケットを探った。
カゲボウズはポケットの中から、赤いリボンを取り出した。そしてそれを口に咥えると、季時の手に置いた。季時は慣れた手つきで、それをカゲボウズの頭にくくりつけた。
「彼女のお気に入り」
「可愛いですね」塚崎が言った。「自分でつけてって持って来るんですか?」
「そう。これはね、彼女がつけたがるんだ。僕もまあ、悪くないと思うから許可してる。常川君、僕たちはね、自己満足のためにポケモンを捕まえたんだ。だったら、それ以上のことは、せめてポケモン側が訴えるまで、待ってあげるべきじゃないかな。僕らが自分の勝手で捕まえた都合はなくならないわけだしね。これが人間の都合。さっき話しただろう?」
「うん。ごめん、きゅーやんの言う通りだと思う」
「いい子だね。きっといいパートナーになれるよ」季時は笑顔を見せた。「ところでさあ、その駅前に出来たっていう店、なんて名前?」
「え、先生、行くんですか?」
「うん。そんなにみんなが行くなら、僕も行こうかなと思ってさ」
「服着せるの?」常川が怪訝そうに訊ねる。
「彼女が気に入ればね」
「でも、店内はポケモン連れ歩き禁止だったはずですから、一緒には見られないと思いますけど……」
塚崎が言うと、季時はげんなりとした表情をした。
「ポケモンはボールに入れて携帯しろって?」
「そう、ですね」
「そのルールは、一体何のためにあるんだ」
「ルールって、何かのためにあるの?」
常川が訊ねると、季時は溜め息をついて言った。
「いや、ルールはあるだけだ」
連作形式の作品を書いてみようと思ったので、こちらに投稿させていただきます。
全八話の連作で終わる予定です。短編小説で練習した成果が出ればと思います。
常川水琴(つねかわ みこと) 一年生
宮野早穂(みやの さほ) 一年生
塚崎静佳(つかさき しずか) 二年生
絹衣了吾(きぬい りょうご) 二年生
白凪凉子(しらなぎ りょうこ) 三年生
水際誠 (みぎわ まこと) 三年生
桐生萌花(きりゅう もえか) 三年生
笹倉美菜(ささくら みな) 学校司書
鈴鹿大地(すずか だいち) 喫茶店店長
季時九夜(きとき きゅうや) 生物学教師
「ジョバンニ選手の2匹目はオクタン、ダルマ選手はキュウコンとなりました。そして日差しが一気に強くなった!」
「オクタンか……色々使いそうだな」
ダルマは図鑑を開いた。ジョバンニの2匹目は、7本の足と茹であがった赤いボディが特徴的なオクタンである。オクタンはテッポウオの進化形で、攻撃と特攻が高めだ。水タイプだが、ドラゴン、格闘、ゴースト以外のタイプの技を覚えられる。そのため水タイプでも屈指の攻撃範囲を持つので注意が必要だ。
「ふふふふふ、私のトリックルームパーティに翻弄されるといいでーす。ロックブラスト!」
「く、速い!」
歪んだスタジアムの中、先手を取ったのはオクタンだ。なんと、口から岩を発射してきたのである。あまりの奇襲にキュウコンは全く対応できない。1発、2発、3発、4発。ここで攻撃は止まった。キュウコンはまだ戦えそうだが、出て早々虫の息である。
「ほー、耐えてきましたか。しかし耐えただけでは勝てませんよー」
「言われなくてもわかってますよ。キュウコン、ソーラービームだ!」
キュウコンは意地を見せた。ひとたび雄叫びをあげると、天から光の束が降り注ぐ。それはオクタンを飲み込み、そのまま焼き尽くした。光が消えると、オクタンの丸焼きが完成していた。
「オクタン戦闘不能、キュウコンの勝ち!」
「ぬうう……これは予想以上にまずいですねー。しかし私は勝ちまーす、リングマ!」
ジョバンニはオクタンを戻すと、3匹目を繰り出した。出てきたのは、腹部にわっかが描かれているポケモンである。
「ジョバンニ選手、3匹目はリングマです。これが最後のポケモンになってしまいました」
「リングマか、最後にふさわしい強敵だな」
ダルマは図鑑をチェックした。リングマはヒメグマの進化形で、ノーマルタイプで3本の指に入る攻撃を持つ。特性はどちらも状態異常に関するもので、相手の補助技読みで交代したり、補助技の制限を期待できる。
「まずはとどめでーす、アームハンマー!」
先に動いたのはリングマだ。素早くキュウコンに接近し、丸太のような腕を振り下ろす。ほうほうの体であるキュウコンを仕留めるには十分な威力、たまらずキュウコンは気絶した。
「キュウコン戦闘不能、リングマの勝ち!」
「くそー、さすがに甘くはいかないか。……よし、久々の出番だ。しくじるなよスピアー!」
ダルマはキュウコンを引っ込めると、最後のボールを握り締める。そしてそのまま送り出した。3匹目はスピアーだ。肩には気合いのタスキがかかっている。
「ダルマ選手の最後の1匹はスピアーです。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか?」
実況の言葉を受け、スタジアムは一段と静まり返る。そんな中、ジョバンニが動いた。
「勝負はいただきでーす、すてみタックル!」
リングマはスピアーめがけ、なりふり構わずタックルした。スピアーは脂汗を噴出するものの、気合いのタスキでことなきを得る。ここで反撃のチャンスが生まれた。
「なんの、がむしゃらで反撃だ!」
スピアーは、両腕の針でやたらめったらに突きまくった。瞬く間にリングマの体が蜂の巣になっていく。しかしリングマはまだ動けそうである。
「おや、スタジアムの歪みが……」
実況が思わず漏らした。スタジアムを支配していた歪みが、跡形もなく消え去ったのだ。ダルマは力強く最後の指示を出す。
「これで終わりだ、シザークロス!」
「のおおおおおおお!」
スピアーは右腕の針でリングマを切り裂いた。トリックルームの効力が切れた今、先手を取ることはできない。リングマは膝をつき、地響きをあげながら地に伏せた。
「……リングマ戦闘不能、スピアーの勝ち! よって勝者、ダルマ選手!」
「やったぜ、4回戦突破だ!」
「ダルマ選手、4回戦も勝利を手にしました。5回戦にも期待がかかります」
ダルマはガッツポーズを取った。スタジアム全体から歓声とフラッシュが巻き起こる。そこに、ジョバンニが近寄ってきた。
「いやあ、やりますねーダルマ君。私に勝ったのはあなたが2人目ですよー」
「ありがとうございますジョバンニさん。まあ今回はタスキがあったから実力とは言い難いですけどね」
「のんのんのん、それは違いまーす。道具を誰に持たせるか、与えられた状況をいかに用いるかはトレーナーの腕の見せ所。あなたはただ胸を張っていれば良いのですよ、私みたいに」
「はあ。しかしジョバンニさん程やるのは遠慮しときます」
「ほっほっほっ、そうですかー。……今日の勝負、彼と戦っているみたいでした。負けはしましたが、非常にすがすがしい気分でーす」
「ジョバンニさん……」
ダルマはそれ以上の言葉が出なかった。いつもはピエロのようなジョバンニが、この時は風格漂う男に見えたからである。
「では、私はそろそろキキョウに帰りまーす。ダルマ君、頑張ってくださいねー」
ジョバンニはダルマにこう言い残すと、高速スピンしながらスタジアムを後にした。ダルマは言葉が出ないので、礼をするのであった。
・次回予告
5回戦を迎えたダルマ。彼の相手は「超えなければならない人」であった。ダルマはどのような戦いを繰り広げるのか。次回、第77話「ポケモンリーグ5回戦第1試合前編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.57
気合いのタスキの便利さが痛感できる小説になってきた気がします。RSE時代に同じパーティを使ったらまずこうはいかないでしょう。
にしても、次回からいよいよフルバトル。構成に悩まされる……。
ダメージ計算はレベル50、6V、オクタン冷静攻撃特攻振り、キュウコン臆病特攻素早振り、リングマ勇敢HP攻撃振り、スピアー@タスキ陽気攻撃素早振り。オクタンのロックブラスト4発をキュウコンは中乱数で耐え、返しのソーラービームで最高乱数を引けば1発。リングマのアームハンマーでキュウコンは瀕死。スピアーのがむしゃらと虫の知らせシザークロスでリングマはダウン。
あつあ通信vol.57、編者あつあつおでん
日も暮れた、深い深い山の中。歩いてくるのは、一人の幼い子供。
うつむいて、かすかな嗚咽を漏らしながらも、細い山道をとぼとぼ進んでいく。
――彼女の親は今日、死んだ。
彼女の進む先に、目的地など存在しない。行く当ても無い。すでに来た道も見失った。
それでもただひたすら、小さな足を動かし、彼女は歩き続けたかったのだ。
その悲しみが消えうせるまで……。
引いていく波のように、だんだんと悲しみも心の底へ戻っていった。重苦しいものはまだ残っているけれども。思考力を取り戻した彼女は、おうちにかえりたい、と思った。
でも帰れない。深く入り込み過ぎて、後になってようやく気付く。大抵の子供がそうするように、彼女もまたそうだった。とたんに、また悲しさがこみ上げて来るようだった。
「おかあ、さん」
もちろん、その呟きに対して彼女の母親が来てくれるなどということはありえない事なのだ。その呟きを聞いていたのは辺りの木々と、空で輝いている三日月くらいだろう。
少女は、立ち止まった。そして、一番そばに生えていた木の根元に座り込み、そのまま動かなかった。疲れて、眠ってしまったようだった。
その時彼女が一番見たかった夢は、きっと父親と母親の夢だっただろう。
【好きにしていいのよ】
どうも、中二全開、駄文鯱ことオルカです。
上達するためには数を書かねばいけないかと思い、このたび人生初めての長編小説を書くことにいたしました。
肝心の内容はと言いますと、ポケストの方に投稿した、『陰から覗く日向』に出てくる女の子、天野夏希ちゃんのお話を書かせていただきます(読んで無くても多分大丈夫です)。とりあえず大体の設定は考えてありますが、行き当たりばったりな所も多く、よく止まったりするかと思います。どうか温かい目で見守ってやって下さい。とりあえずは書かないと始まらない気がしたので。
作品には全部、【好きにしていいのよ】タグを付けておきます。
楽しめるかは微妙だと思いますが、よろしくお願いします。
「ポケモンリーグも7日目に突入しました。現在32人のトレーナーが勝ち残っています。今日から4回戦を2日で行い、1日の休みが入ります。それ以降最大6匹使える5回戦へと続きます。果たして後半戦へ進むことができるのは誰でしょう。では4回戦第1試合、選手入場!」
本日もダルマの1日はスタジアムへの入場から始まった。トーナメント表をチェックし、対戦相手が誰なのか確かめる。そしてルーチンが終わったら驚くのが常だ。
「ジョバンニさん! 思った以上に残りましたね」
「4回戦はダルマ君ですかー。……トウサに勝った君と勝負するなんて、何か縁がありそうですねー」
ダルマと対峙するのはジョバンニであった。今日も背広姿で高速スピンをしている。ダルマはまずこう述べた。
「あの時は助かりました。トウサさんの過去を知らなければ、今回の事件はいつか忘れたでしょう。尊敬する人の真相に近づけた……それだけでも旅をした甲斐がありましたよ。もちろん、ポケモンリーグも大事ですけどね」
「ほー、嬉しいことを言ってくれますねー。しかし、私もかつては旋風を巻き起こした身。手加減なしでいくので覚悟してくださーい」
「望むところですよ!」
ダルマは腕まくりをした。既に右手にはボールが握られている。頃合いと判断した審判は試合開始を宣告した。
「これより、ポケモンリーグ本選4回戦第1試合を始めます。対戦者はダルマ、ジョバンニ。使用ポケモンは3匹。以上、始め!」
「行け、ブースター!」
「ナッシー、出番でーす」
両者最初のポケモンを繰り出した。ダルマの先発は何やらもふもふした赤いポケモン。対するジョバンニの1匹目は頭が3つあるポケモンである。
「さあ4回戦が始まりました。ダルマ選手はブースター、ジョバンニ選手はナッシー。ジョバンニ選手は20年前の大会で準優勝している実力者、ダルマ選手との勝負は今大会屈指の好カードとなっています」
「ブースターですかー。進化させたということですねー?」
「ええ、昨日。ジョバンニさんはナッシーからか」
ダルマは図鑑を取り出した。ナッシーはタマタマの進化形で、弱点の数が7個もある。もっとも耐性も6個あるので、強い弱いがはっきりしている。特性のようりょくそを活かして晴れパーティで使うと活躍が期待できるだろう。
「ナッシーを倒した後も考えると、あの技かな。まずはニトロチャージだ!」
「甘いでーす、トリックルーム!」
バトルの歯車が回りだした。先手を取ったブースターは全身に炎をまとい突進した。これをナッシーの頭の1つは冷静な顔で耐え、頭の葉っぱを揺らした。すると驚くべきことに、スタジアム全体が歪んで見えるではないか。明らかに妙な状態に、ダルマは辺りを見回す。
「な、なんだこれ?」
「これはどういうことでしょう! 歪んでいます……おかしい……何かが……スタジアムの……」
「ほっほっほっ、トリックルームを使うと遅いポケモンから動けるのでーす。ではナッシー、だいばくはついきましょー!」
観客席がざわめく中、ジョバンニは調子が上がってきたみたいだ。回転しながらナッシーに指示を送ると、ナッシーはいきなり爆発した。頭は飛び散り葉っぱは宙を舞い、胴体は破裂する。会場全体を煙が包み、爆風はブースターにも襲いかかった。
「な、なんだってー!」
「どぅわぁいぶぁくはつが決まったー!」
ダルマは吹き飛ばされないよう、目を閉じ前屈みで耐えた。やがて煙が晴れて目を開けると、気絶したブースターとナッシーがいた。審判が落ち着いてジャッジを下す。
「……ナッシー、ブースター、共に戦闘不能!」
「な、なんてこったい。予想外すぎる……」
「バトルはナッシーのだいばくはつで状況が一変、2対2となりました! これがこの先の勝負にどのような影響を与えるのでしょうか!」
ダルマはブースターをボールに戻しながら必死に次の手を考える。それを尻目にジョバンニは不敵な笑みを浮かべるのであった。
「ふふふ……まだまだこれからですよ!」
・次回予告
ジョバンニが扱うトリックルームでバトルは大混乱。完全にアウェーな状況に立たされたダルマは、このピンチをしのげるのか。次回、第76話「ポケモンリーグ4回戦第1試合後編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.56
今回のバトルは久々に難産でした。
ダメージ計算はレベル50、6V、ナッシー冷静HP特攻振り、ブースター意地っ張り攻撃素早振り。ブースターのニトロチャージはナッシーに確定2発、ナッシーの大爆発はブースターを高乱数1発。威力が下がっても大爆発は優秀な退場技ですね、特にトリパなら。
あつあ通信vol.56、編者あつあつおでん
「さあ、ポケモンリーグも5日目になりました。今日から3回戦が2日にわたり行われます。残るトレーナーは64人、4回戦に進める32人になるのは誰なのでしょうか。では3回戦第1試合、選手入場!」
「よし、今日も勝つぞー」
ダルマは足取り軽やかに入場した。だいぶ場慣れしてきたように見受けられる。
「3回戦はダルマ君か。悪いけど勝たせてもらうよ」
「ハンサムさん、勝ち残ってたんですか」
ダルマはトーナメント表と対戦相手をチェックした。彼の立ち位置の向こう側には、いつか見たよれよれのコートを着た痩身の男、ハンサムがたたずんでいる。ハンサムは朗らかに笑って受け答えした。
「そりゃ、がらん堂の調査を単独で任されていたくらいだからね。全国各地で捕まえたポケモンが私の味方さ」
「……そのわりに、誤認逮捕しようとしてましたが?」
「むう、それはそれだ。ではそろそろ始めよう」
ダルマの突っ込みに言葉が詰まったハンサムは、審判に試合の開始を促した。審判はいつも通り試合開始を宣言する。
「これより、ポケモンリーグ本選3回戦第1試合を始めます。対戦者はダルマ、は、ハンサム。使用ポケモンは3匹。以上、始め!」
「カモネギ、出番だ!」
「アバゴーラ、今日も頼むぞ」
ハンサム、ダルマ共に最初のポケモンを繰り出した。ハンサムはカメックスによく似たポケモン、ダルマはカモネギである。互いにレベルは50と表示された。
「ただ今試合が始まりました。ダルマ選手はカモネギ、ハンサム選手はアバゴーラ。アバゴーラはかなり珍しいポケモンですが、入手経路が気になります」
「アバゴーラ? 見たことないポケモンだな」
ダルマは図鑑を開いた。アバゴーラはふたの化石から復活したポケモンである。岩、水タイプでどの能力もそれなりにある。それ故何をやらせてもネタとは言えず、戦い方に幅がある。型の見極めが重要であろう。
「なるほど。じゃあまずはリーフブレードだ!」
「アバゴーラ、からをやぶる!」
バトルの幕が開けた。先手はカモネギだ。その植物の茎でアバゴーラの腹部を真っ二つにした。これをアバゴーラは耐え、体中に力を入れる。すると甲羅の表面がはがれ落ち、新しい甲羅が現れたではないか。ダルマは目を丸くした。
「うっそ、リーフブレード耐えられたぞ。それにあれは……脱皮か? いずれにせよ相手は虫の息、フェイントでとどめだ!」
「甘い、冷凍ビーム」
カモネギは右に動くふりして左に流れ、茎でアバゴーラを叩いた。しかしアバゴーラはびくともせず、返しの冷気を込めたビームで返り討ちにされた。
「カモネギ戦闘不能、アバゴーラの勝ち!」
「ふふ、これが私の力だ。君とてそう簡単には勝てまい」
「うぬぬ、予想外だった。ならば行くぞ、オーダイル!」
ダルマはカモネギを引っ込めると、オーダイルを場に出した。今やパーティを支える重要なポケモンとなったオーダイルは、3試合連続の登場である。
「ダルマ選手、2匹目はオーダイルです。今大会初の瀕死による交代となりました」
「これは先制技がくるな。アバゴーラ、アクアジェットだ」
「こっちもアクアジェット!」
アバゴーラとオーダイルはほぼ同時に水をまとい、そのまま突進。ぶつかり合う形となったが、ダメージの蓄積していたアバゴーラが力尽きた。オーダイルは顔色1つ変えずにダルマの前に戻る。
「アバゴーラ戦闘不能、オーダイルの勝ち!」
「よし、これで2対2か」
「ふむ、これで場は整ったわけだ。ではそろそろ使うか、これが私の切り札だ!」
ハンサムは不敵な笑みを浮かべると、2匹目を投入した。出てきたのは、3本の指と1本の爪を備えた手が特徴的なポケモンである。指と爪は分かれており、用途別に使うのだろう。
「ハンサム選手、2匹目はドクロッグです。これまたカントーでは見かけないポケモンだ」
「ドクロッグ……タイプからしてわからない」
ダルマは図鑑を眺めた。ドクロッグは毒タイプと格闘タイプを兼ねるポケモンだ。多くのタイプに耐性を持つが、厄介なのは特性の乾燥肌である。なんと水無効なのだ。そのため立ち回りに気を付けねばならない。
「水が効かないか。仕方ない、戻れオーダイル。キュウコン、仕事だ!」
ダルマはオーダイルを戻し、キュウコンと交代した。スタジアムはみるみるうちに日本晴れとなっていく。
「おっと、キュウコンが登場した途端日差しが強くなりました!」
「読み通り。ドクロッグ、つるぎのまい」
ドクロッグはしてやったりと言った顔で万歳をした。おそらく戦いの舞いなのだろう。ダルマがクエスチョンマークを泳がせるのを見て、ハンサムは次の1手に出る。
「さらに不意討ちで仕留めるんだ!」
「やべっ。負けるな、大文字!」
キュウコンが攻撃しようとすると、ドクロッグは体から煙をあげながら懐に右腕をねじ込んできた。キュウコンは大きくのけぞるが、口から大の字の炎を放つ。キュウコンのすぐ近くにいたドクロッグはこれを直撃で受けた。ドクロッグは晴れと灼熱の炎の二重苦状態となり、たまらず地面をのたうち回る。そしてそのまま気絶した。
「ドクロッグ戦闘不能、キュウコンの勝ち!」
「やれやれ、なんとかなったか。最後の1匹が気になるけど、また他の地方のポケモンかな?」
「むむむ……遂にあと1匹か。仕方あるまい、意地を見せるぞロトム」
ハンサムはコートをたなびかせると最後のポケモンに全てを託した。現れたのは、ふわふわと浮いたポケモンである。小柄で明るい色なので、観客席からはほとんど見えてないと思われる。
「ハンサム選手、最後はロトムで勝負します。ダルマ選手は1歩リードです」
「最後までよく分からないポケモンばかりだなあ」
ダルマは図鑑に目を通す。ロトムは電気、ゴーストタイプのポケモンだ。しかし電化製品の中に入るとタイプがころころ変わる。現在は電気と草、水、炎、飛行、氷の組み合わせがある。また、特性の浮遊により電気タイプながら地面タイプに強い。
「ふっ、警察の底力をとくと見せてくれる。シャドーボール!」
「させるか、大文字で終わりだ!」
最後の戦いが始まった。ロトムは黒い塊を作り出し、キュウコン向けて発射しようとした。だが既に目の前にキュウコンの大文字が迫っている。キュウコンの方が1歩先に動いていたのだ。ロトムは避けようとするが間に合わない。結局、攻撃することなく業火に焼かれ、ロトムは倒れこんだ。ここで審判のジャッジが下る。
「……ロトム戦闘不能、キュウコンの勝ち! よって勝者、ダルマ選手!」
「ふうー、危ない危ない。これで次は4回戦か」
ダルマは額の汗を拭うと、キュウコンをボールに収めた。一方ハンサムはスタジアムに響く程の高笑いをする。
「……あっはっはっはっはっ、実に良い勝負だったよダルマ君。やはり君は有能だな、国際警察にスカウトしたいね」
「ありがとうございます。しかし俺はまだ……」
「わかってる、将来の目的が決まってないんだろう? だからゆっくり考えれば良いさ、人生に早い遅いなんてないからね」
ハンサムはロトムを回収すると、ダルマにこう告げた。実に満ち足りた表情である。
「さて、私はそろそろ職場に帰るよ。事件が私を待っている。君のことは同僚に自慢できるよ、『がらん堂を壊滅に追い込んだトレーナーと戦った』って。またどこかで会いたいものだ、もちろん事件抜きでね。……さらばだ!」
ハンサムはそう言い残すと、出口を向いた。彼は背後のダルマに手を振りながら、しかし決して後ろを見ずにポケモンリーグを後にするのであった。
・次回予告
3回戦も危なげなく突破し、4回戦へ駒を進めるダルマ。ここから試練の道が続くとは、まだ誰も知る由もなかった。次回、第75話「ポケモンリーグ4回戦第1試合前編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.55
ポケモンリーグの話を書いてる時、ふと「これロックマンのボスラッシュじゃね?」と思いました。
今回ハンサムはシンオウやイッシュのポケモンをバリバリ使いましたが、行ったことあるから使っても大丈夫ですよね?
ダメージ計算はレベル50、6V、カモネギ陽気攻撃素早振り、アバゴーラ無邪気攻撃素早振り、オーダイル意地っ張りHP攻撃振り、ドクロッグ意地っ張りHP攻撃振り、キュウコン臆病特攻素早振り、ロトム(ノーマル)臆病特攻素早振り。カモネギのリーフブレードとフェイントをアバゴーラは耐え、返しの冷凍ビームで確定1発。しかしオーダイルのアクアジェットでとどめ。ドクロッグの2段階上昇不意討ちをキュウコンはギリギリ耐え、乾燥肌補正大文字で一撃。続けざまにロトムも即死。
あつあ通信vol.55、編者あつあつおでん
PCCが着実に近づいてきた二月のとある寒い日曜日の昼ごろ。姉さんがキッチンでチャーハンを作ろうとしていた時だった。
ピンポン、と軽快な音を鳴らして玄関のチャイムが鳴る。家はボロアパートだがチャイムだけついているのだ。
「翔、悪いけど見てくれない?」
「はいはい」
丁度床で寝転がって英単語集を見ていた俺は、今開けてるページをスプーンの尻で栞代わりに挟み込んで玄関へ向かった。
「宅配便です」
扉を開けると少し年を取った男の人が細長い段ボールを抱えていた。
「ここにハンコを……」
男の人は段ボールを左足と左脇で器用に挟むと、開いた両手で伝票を渡してくる。
ハンコをきっちり押して伝票を渡すと、先ほどと同じ器用な動作で伝票を直すと段ボールを手渡してきた。それを抱えていると邪魔なので、先に家の中に入れて玄関の床に置く。
「ご苦労様です」
男の人は律儀に社名とロゴの書かれた帽子を脱いでこちらに深くおじぎをする。誘われてこちらも少し体を全体的に傾けた。
宅配便が去り改めて段ボールを見ると、風見のとこの会社、TECKのロゴマークが。もしやと思って差出人を確認すれば、そこにはきっちりと風見雄大と書かれていた。
確かにこのデカさ、学校で渡されると軽いが非常に迷惑である。そんなに重くはないけれど。
一体何を送って来たのか、と段ボールに貼られた伝票の品名を覗くと「バトルベルト」と書かれていた。
なんだ。バトルベルトか。……ん、バトルベルトだって?
「うおおお! バトルベルトじゃん!」
駆け足でリビングへ戻り、サンタさんがプレゼントをくれたかのように無邪気に段ボールを開けていった。
姉さんのチャーハンはとてもおいしかったです。さて、昼ごはんも食べて段ボールの中身をようやく確認する。開けた段ボールの中にはバトルベルトが二つと、風見の手紙が入っていた。
手紙といっても、「普段の礼だ」みたいな大したことは書かれていなかったので早々にトラッシュした。そういえばくれるとか言ってた記憶があったような無かったような。ともかく恩に切るぜ。
バトルベルトは赤と青の二つで、俺は赤のベルト、姉さんは青のベルトをもうらことに。
「折角だし、早速やってみよう」
もらったバトルベルトをPCCが開かれるまで埃かぶせる気はさらさらない。それにこの前の拓哉と松野さんの対戦を見てから結構ワクワクしてるんだ。
ちっさい部屋の中でバトルベルトを装着し、起動させようとする。使い方はこないだの勝負で見て覚えてる。
「ちょっと待って! ここじゃ狭すぎて出来ないらしいわよ」
姉さんが取扱説明書の一部分を見せるが、確かに互いに距離を取り合って広い空間で遊ぶようにと書いてあった。場所取るのはめんどくさいな。
「えー。じゃあこんな二月のクソ寒いのに外でなくちゃいかんのか」
「仕方ないじゃない。まあ風邪ひかないようにちゃんと何か着といてね」
幸いにも今日はまだ暖かい方で、ダウンを着てさえいればなんてことない寒さだった。といえど、外でカードをしてたら手はほぼ間違いなくかじかむだろう。
だがそれでも早速。ドキドキワクワクした気持ちでバトルベルトを起動する。
「おおおおっ、おおおお!」
いざやってみるとめちゃくちゃ楽しい! 勝手にベストがテーブルに変形するなんて、子供時代に見た戦隊アニメの合体ロボットを思い出す。
「このボタンでテーブルとベルトを切り離すんだな」
よし、離れた。デッキをデッキポケットに入れてオートシャッフルのボタンを入れる。
本当に勝手にシャッフルしてくれて、さらに最初の手札となる七枚をデッキから突き出して用意してくれる。手札のポケモンをセットすると、いつの間にかサイド置き場にサイドが三枚置かれていた。
「よし、先攻は俺からだ!」
俺の最初のバトルポケモンはヒノアラシ60/60でベンチにポケモンはなし。姉さんの最初のバトルポケモンはデリバード70/70でベンチはタマザラシ50/50だ。
風見杯編の時のように、目の前にポケモンの映像が出ている。不思議なようで、胸の鼓動が高まるぞ。
さて、姉さんのデッキは氷タイプねぇ。氷タイプといってもポケモンカードでは氷タイプは水タイプにカテゴライズされていているのだが、弱点が違う。
ポケカの水タイプは基本的に雷タイプに弱いのだが、ゲームで氷タイプとなっているポケモンはカードでは鋼タイプが弱点になっている。現に今目の前にいるデリバードとタマザラシは弱点が鋼タイプだ。
もっとも、俺のデッキではどちらの弱点も付けないのだけれど。
「まずはヒノアラシに炎エネルギーをつけて攻撃。体当たり!」
ヒノアラシがデリバードに頭から突っ込んで体当たりを仕掛ける。デリバードは少し後方に飛ばされると、体当たりを食らった場所をさすりながら元のポジションに戻る。デリバードの緑色のバーが少し削られ、HP表示は60/70となる。
「あたしの番ね。手札のスーパーボールを発動。デッキのたねポケモンを一枚選んでベンチに出すわ」
タマザラシの右側にどこからかスーパーボールが現れた。スーパーボールは閃光を放つと、そこからユキワラシ50/50が放たれる。
「ユキワラシに水エネルギーをつけてデリバードのプレゼント!」
デリバードが尻尾の袋をごそごそ漁り始める。一体何をするつもりなんだろう。
「コイントスをしてオモテなら、デッキから好きなカードを一枚手札に加えれるわ。さて、トスよ」
姉さんがコイントスのボタンを押す。運は俺の方に傾いていないらしく、オモテと表示された。好きなカード、となるとめちゃくちゃ範囲が広いじゃないか。
ポケモンカードはカードをサーチするモノが多いが、大抵はたねポケモン限定だったりエネルギー限定だったりと縛りが存在する。このワザはそれを打ち破るモノだ。
「この効果で山札のカードをサーチしたとき、相手に見せる必要はないのよ。さあ、何を引いたでしょう?」
「そりゃ知らん」
どうせ進化系のカードだろう。トドクラーかトドゼルガかオニゴーリかユキメノコか。いや、それとも……。考えても仕方がない!
「行くぞ、俺の番だ!」
よし。引いたカードはハマナのリサーチ。まずはこちらもポケモン達を立てていかないとな。
「手札のハマナのリサーチを発動。山札から基本エネルギーまたはたねポケモンを合計二枚まで選び、相手に見せてから手札に加える。俺が選ぶカードは……」
デッキのカードをサーチする前に気づく。近所の小学生が俺たちの周りに集まっていた。
そうか、バトルベルトが物珍しくて見学か。子供が見てる前で負けるなんてちょっと恥ずかしいな。
安いプライドだが、炎対水デッキと相性は悪いものの安易に負けるわけにはいかないな。
雫「今日のキーカードはデリバードよ
コイントス次第だけど、プレゼントはなかなかいい効果。
好きなカードを一枚、ってのは大きなアドバンテージになるわよ!」
デリバードLv.26 HP70 水 (DP4)
─ プレゼント
コインを1回投げオモテなら、自分の山札の好きなカードを1枚、手札に加える。その後、山札を切る。
水 アイスボール 20
弱点 鋼+20 抵抗力 ─ にげる 1
───
奥村雫の使用デッキ
「DD・フローズン」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-692.html
「ポケモンリーグ本選も3日目に突入しました。今日から2日にわたり2回戦を行います。まず128人になりましたが、現チャンピオンのワタル選手にストレート勝ちしたダルマ選手の注目度が急上昇中です。各局テレビカメラにスカウトがわんさか詰めかけています。さあ、そんな中2回戦第1試合が間もなく始まります。選手入場!」
「うわあ、なんだかとんでもないことになってきたな」
実況に合わせ、ダルマは入場した。1回戦とはうってかわってカメラが彼の一挙手一投足を追いかける。対応の違いに戸惑いながらもダルマは歩く。
「おっと、これはビックリ。2回戦で君と当たるなんてね」
「ボルトさん! あなたも勝ち残ってましたか」
トレーナーの立ち位置にたどり着いたダルマは声をあげた。そしてトーナメント表を確認する。相変わらず他の組み合わせは隠されているが、自分の対戦相手なら分かる。2回戦の相手はボルトだ。
「当然だよ。工場の宣伝のためにも、なるべく勝たないといけないし」
「……けど、服に広告を貼りまくるのはどうかと思いますよ」
ダルマはボルトを指差した。彼は作業服を着ているのだが、あちこちに「世界を揺さぶる発明、ボルト製作所」と書かれたアップリケを縫いつけてある。呆れたことに、電話番号や料金体系まで書いてあるものもある。しかしボルトは気にせず話を進めた。
「気にしない気にしない。さて、そろそろ始めましょうか審判さん」
「了解。ではこれより、ポケモンリーグ本選2回戦第1試合を始めます。対戦者はボルト、ダルマ。使用ポケモンは3匹。以上、始め!」
「……行くぞオーダイル!」
「仕事だランターン!」
2回戦の幕が開いた。ダルマの1番手はオーダイル、ボルトはランターンである。
「さあ2回戦が始まりました。ダルマ選手はオーダイル、ボルト選手はランターン。共に1回戦と同じ出だしです」
「ランターンか、厄介なポケモンだな」
ダルマは図鑑をチェックした。ランターンはチョンチーの進化形で、高い体力とタイプ構成が特徴的だ。水タイプと電気タイプを兼ね備え、特性で電気タイプが無効。故に水タイプと電気タイプに滅法強い。似たような性能のポケモンがいるが、そのポケモンを完封することも可能だ。
「ちょっとオーダイルは面倒だねえ。よし、まずは10万ボルト!」
「やべ。戻れオーダイル、キマワリ!」
バトルの歯車が動きだした。まずダルマはオーダイルとキマワリを交代。いつものようにこだわりメガネを装備している。一方ランターンは10万ボルトで攻めた。しかし、キマワリは余裕綽々の表情でこれを受けとめる。ボルトは至って普段通りに指示を送る。
「やっぱりいたね、キマワリ。しかし晴れてなければ怖くないさ。冷凍……」
「それはどうでしょう。キマワリ、リーフストーム」
なんと、キマワリがランターンより先に技を使ったではないか。キマワリは尖った葉っぱを嵐のように飛ばし、技を使おうと隙だらけのランターンに襲いかかった。さすがこだわりメガネは伊達ではなく、直撃を受けたランターンは崩れ落ちる。
「ランターン戦闘不能、キマワリの勝ち!」
「おいおい……ランターンより速いのかよあのキマワリ」
「これでも速さは限界まで鍛えてますからね」
ボルトの驚く様を見て、ダルマは胸を叩いた。ボルトはまごついて次の手を考える。
「なるほど。参ったなあ、僕電気タイプと水タイプしかいないんだよね。てなわけでピカチュウ、頼んだよ」
ボルトはランターンを戻すと、2匹目のポケモンを投入した。ギザギザ尻尾に赤いほっぺたのポケモンである。
「ボルト選手、2匹目はピカチュウです。中々テレビ受けするポケモンを出してきました」
「ピカチュウ? あえてライチュウを使わないってことは……」
ダルマは図鑑を眺めた。ピカチュウは既に進化したポケモンである。別世界では大人気で、とあるポケモンに責任を押しつけたりもする。責任を押しつけられたポケモンは出番がなくなるらしい。これでもかと言う程強化され、決定力は非常に高い。ただし装甲は紙同然である。
「僕はピカチュウを3匹持ってるんだけど、この子はそのうちの1匹、物理寄りの二刀流さ。ではさらばキマワリ、めざめるパワー!」
「なんのこれしき、もう1度リーフストーム!」
バトルはピカチュウが冷気のこもったエネルギーを放つことで再開した。多少疲れがたまったのかキマワリはめざめるパワーを被弾するものの、歯を食い縛りこれを耐える。そして2度目のリーフストームを撃った。ピカチュウは予想以上に脆く、特攻の下がったキマワリの攻撃であっけなく気絶してしまった。
「……ピカチュウ戦闘不能、キマワリの勝ち!」
「あちゃー、これはもしや、僕の負け決まっちゃった? ……いや、人間もポケモンも諦めの悪さが肝心だ。だから僕はこいつに賭けるよ、ヌオー!」
ボルトはふてぶてしく笑った。そして最後のポケモンを送り出す。登場したのはずんぐりむっくりな体型をしているヌオーだ。首から何かの木の実がぶら下がっている。
「ボルト選手、最後の1匹はヌオーです。果たしてこの状況を覆すことはできるのでしょうか」
「……やってみせるさ。幾度となくピンチを切り抜けてきたんだ。キマワリはリーフストームを連打してかなり特攻が下がっている。そこを狙えば勝機はある」
ボルトはダルマの出方を伺った。ダルマはヌオーの木の実に警戒したが、そのままごり押しを進めた。
「そうはいきませんよ。見映えはしないけど、とどめのリーフストーム!」
「ふっ、そのくらい……な、これは!」
キマワリは3発目のリーフストームを使った。ところが、既に特攻がガタガタにもかかわらず最初と同じ勢いで葉っぱが舞い散るではないか。ここでヌオーの木の実がいくらかその力を軽減したが、最早焼け石に水。切り裂かれたヌオーは顔色1つ変えずに倒れた。
「……ヌオー戦闘不能、キマワリの勝ち! よって勝者はダルマ選手!」
「よし、2回戦も突破だ!」
「ダルマ選手、危なげなく2回戦も勝利。これは本当に最後まで勝ち残るかもしれません。2試合連続ストレート勝ちは中々できませんからね」
実況がスタジアムにこだまする中、ダルマはガッツポーズを取った。その瞬間シャッターの音が鳴り響く。ダルマは目を細めながらボルトの元へ歩み寄った。
「いやあ、さすがダルマ君だ。全くかなわなかったよ」
「ありがとうございます。けど今回はタイプ相性があったからなんとも言えないですよ」
「なるほどね。しかし最後のリーフストームは何故あんなに強かったんだろ?」
「……多分それはヌオーの特性が天然だからじゃないですか? もしそうならこちらの特攻ダウンもないものとして扱われちゃいますから、リンドの実を使っても耐えなかったのはうなずけます」
ダルマがそこまで説明すると、ボルトは舌を巻き拍手をした。その顔は実にさわやかなものである。
「かー、あれだけで色々分かるものなんだねえ。こんなにお勉強してる人にはそりゃ勝てないよ。……ダルマ君、君なら優勝できるかもね。僕からはこの言葉を餞別として送るよ、『ピンチの時こそふてぶてしく笑え』」
「……ボルトさん、その言葉、胸に刻んどきましたからね」
ダルマはそう言うと、ボルトと握手を交わした。すると観客席から惜しみないスタンディングオベーションが送られるのであった。
・次回予告
ダルマの勢いはとどまるところを知らない。次の対戦相手は彼を止めることはできるのか。次回、第74話「ポケモンリーグ3回戦第1試合」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.54
最近ダルマが無双しているのは、たまたまです。どうしても活躍するポケモン、しないポケモンの差が出てきますが、そこはどうしようもないです。
そういえば、オーダイルは冷凍パンチとアクアジェットを両立しています。これは実現可能ですが、教え技必須です。特にBWではHGSSから冷凍パンチを覚えた親が必要となります。
ダメージ計算はレベル50、6V、ランターン穏やか特攻特防振り、キマワリ@こだわり眼鏡臆病特攻素早振り、ヌオー意地っ張りHP攻撃振り、ピカチュウ@電気玉せっかち攻撃素早振り。キマワリはランターンより速く動け、リーフストームで確定1発。ピカチュウのめざ氷をランターンの10万ボルトと合わせて確実に耐え、2段階ダウンリーフストームで確定1発。ヌオー@リンドは4段階ダウンリーフストームで確定2発。まあ、ボルトのヌオーはてんねんの特性なので、通常威力で撃てるのですが。しかしさすが太陽神、晴れてなくても無敗記録を維持したぜ!
あつあ通信vol.54、編者あつあつおでん
「さあ、ポケモンリーグ本選がいよいよ始まります。各地のジムを攻略するという形で予選が行われ、256人の精鋭が勝ち残りました。全国中継される中、彼らは常に注目されています。スカウトもあちこちにいるはずです。果たして今回の優勝に輝くトレーナーは誰なのでしょうか? では1回戦第1試合に出場するトレーナー2人の入場です!」
「……行くぜ、俺達の檜舞台に!」
実況の声に促され、ダルマは戦いの舞台に乗り込んだ。セキエイ高原のスタジアムは超満員だ。皆全国からの猛者を今か今かと首を長くしている。スタジアムには巨大モニターがあり、半分をトーナメント表が占めている。観客には困ったことに、トーナメント表には今から行う試合、つまり1回戦第1試合の組み合わせしか表示されていない。
「1回戦からダルマ君とか。これは気が抜けないなあ」
「……な、な、何故ワタルさんがいるんですか!」
トレーナーの立ち位置にたどり着いたダルマはトーナメント表と目の前にいる人物を何度も見比べ、目を点にした。彼の対戦相手はワタルである。ワタルはいつものように時代錯誤甚だしい服装で立ちふさがる。
「実はね、チャンピオンロードを突破して受け付けをしたのが255人しかいなかったんだ。そこで最後の1人の代役として、現チャンピオンの僕が参加することになったのさ」
「……次の大会は128人に戻した方が良いかもしれませんね」
「全くだよ。それじゃ、そろそろ始めようか」
ワタルはボールを手に持つと、審判に目配せをした。審判はそれに気付くと、試合開始の号令をかける。
「これより、ポケモンリーグ本選1回戦第1試合を始めます。対戦者はワタル、ダルマ。使用ポケモンは3匹。以上、始め!」
「ギャラドス、出番だ!」
「ゆけ、オーダイル!」
ワタルとダルマは同時にポケモンを繰り出した。ダルマの初手はオーダイル、ワタルはギャラドスである。バトルに使うフィールドは角張った岩石がそこら辺にある、荒れたものだ。
「さあ、バトルが始まりました。ワタル選手の1番手はギャラドス、ダルマ選手はオーダイルだ。レベルはどちらも50ですね。尚、選手のポケモンには専用のチップが取りつけてあり、強さの目安をレベルとしてモニターに表示しています」
実況の説明でテレビカメラがモニターを捉えた。トーナメント表の右隣に選手名、残りポケモン、現在戦うポケモンのレベルが映されている。しかし勝負に影響するのか、さすがに能力は一切分からない。
「まずは竜の舞いだ!」
「ならばこちらはつるぎのまい!」
そうこうするうちにバトルが動きだした。オーダイルは戦いの舞いを踊り、ギャラドスは跳ねる。ギャラドスの竜の舞いはコイキングのはねるに匹敵する程間抜けな様子だ。観客席から爆笑が巻き起こる。
「先制攻撃だ、地震!」
「負けるな、いわなだれ!」
能力を上げた後は、両者攻撃に移る。まずギャラドスが尻尾で地面を叩き、地を這う波を一直線に飛ばした。それに対しオーダイルは懐からオボンの実を取り出し、腹ごしらえ。そして周囲の岩という岩をギャラドスに投げつけた。ギャラドスは6.5メートルもの巨体である。次々に襲いかかる砲弾にたまらず気絶した。これがまた観客席のツボを刺激する。
「……ギャラドス戦闘不能、オーダイルの勝ち!」
「おーっと、ここで大波乱だ! 緒戦を制したのはダルマ選手、ワタル選手を力で押し切りました!」
「くっ、さすがに元チャンピオンに勝つだけのことはある。けど、これならどうかな? カイリュー!」
ワタルはギャラドスを引っ込めると、2匹目を場に送り出した。現れたのは、色々な意味で彼の象徴と言えるカイリューである。
「ワタル選手、2匹目に投入したのは切り札のカイリュー。ここを勝負所と判断したのでしょうか」
「これ以上好きにはさせないよ、竜星群!」
カイリューは出てきて早々勝負にきた。スタジアム中に響く咆哮をあげると、空から火のついた岩石が雨のように降り注いだ。狙われたオーダイルは何発も受けるが、すんでのところで踏みとどまった。とはいえ、肩で呼吸をする程ダメージが蓄積しているようである。
「……よし、よく耐えた。返しの冷凍パンチ!」
カイリューの攻撃をしのいだオーダイルは、カイリューに捨て身で近づき冷気を込めた右手拳を腹に差し込んだ。カイリューの顔色はみるみる青くなり、歯をがたがたさせながら倒れた。これにはワタルも叫ばずにはいられない。
「カイリュー!」
「……カイリュー戦闘不能、オーダイルの勝ち!」
「ななな、なんということでしょう。現チャンピオンのワタル選手、オーダイルの前に2匹を落としてしまいました! ダルマ選手、あと1匹倒せば1回戦勝利となります」
さっきまで笑い声の絶えない観客席だったが、ここにきて静まり返った。ダルマは不敵な笑みを浮かべながらワタルの3匹目を待ち構える。
「へへ、マルチスケイルじゃなかったらカイリューだって一撃ですよ」
「ま、まさか立て続けにやられるとは。……最後の1匹、ダルマ君の控えを考えるとこいつかな。プテラ、任せたぞ!」
ワタルは祈るように最後のボールを投じた。甲高い鳴き声と一緒にプテラが空中を舞う。
「ワタル選手、最後のポケモンはプテラです。このポケモンに全てを託します」
ダルマはそっと図鑑をチェックした。プテラは化石から蘇ったポケモンで、ポケモン全体でも屈指の素早さを持つ。決定力自体は大したことないが、先手でステルスロックを撒くなどの仕事をこなす。稀ではあるが、寝言でふきとばしと吠えるを引き、まきびし等のダメージを稼ぐ戦い方もある。
「プテラ、ストーン……」
「隙あり、アクアジェットで終わりだ!」
プテラが技を使う前に、ダルマは素早く指示を出した。オーダイルは全身に水をまとい、弾丸としてプテラに突進。激流の如し攻撃でプテラの体力を削りきり、何もさせずにダウンさせた。スタジアムがしばし沈黙に包まれる。
「……プテラ戦闘不能、オーダイルの勝ち! よって1回戦第1試合の勝者はダルマ選手!」
「よっしゃ、まずは1回戦突破だ!」
「これは現実なのでしょうか……。現チャンピオンのワタル選手が無名のトレーナーにストレート負け。ダルマ選手、もしかしたら彼は今大会のダークホースかもしれません」
審判のジャッジが下ると、観客席はどよめいた。実況もスタジアムやテレビに驚きを隠せないようだ。実況の戸惑いがスピーカーを通じて聞こえてくる。
そんな中、ガッツポーズを取っていたダルマにワタルが近寄ってきた。
「さすがだね、ダルマ君。やはり初めてセキエイに来た頃より格段と強くなってたよ」
「いやあ、それほどでも。……けどこうなれたのは、今思えばワタルさんががらん堂討伐に誘ってくれたからです。ついでにコガネからの救助も助かりました。ありがとうございます」
「どういたしまして。……僕に勝ったことで注目度が増すとは思うけど、2回戦も頑張ってね。君なら優勝できるさ」
「はい!」
ダルマとワタルはがっちり握手を交わした。この姿を撮ろうと、テレビカメラはもちろんカメラが一斉にスタジアム中央を狙う。カメラのフラッシュはしばらく途切れることはないのであった。
・次回予告
観客から見れば大番狂わせとなった1回戦第1試合。これを制したダルマは、勢いそのままに次の試合に臨むのであった。次回、第73話「ポケモンリーグ2回戦第1試合」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.53
ドラクエモンスターズというゲームを昔やってた時、モンスターの性格を変えるために「冒険談」のようなアイテムを使っていました。このようなアイテムがポケモンでもあれば良いなあとは思うのですよ。
ダメージ計算はレベル50、6V、オーダイル意地っ張りHP攻撃振り、ギャラドス陽気攻撃素早振り、カイリュー控えめHP特攻振り、リザードン陽気攻撃素早振り。オーダイルの1段階上昇岩雪崩でギャラドスを低乱数1発。カイリューの竜星群はオボン込みで乱数で耐えます。しかしギャラドスの攻撃でオボンが発動しなければ終わります。カイリューは冷凍パンチで言わずもがな。リザードンは1段階上昇激流アクアジェットで確定1発。カイリューはトウサさんのやつと努力値が被るので逆鱗型でも良かったのですが、描写が思いつきませんでした。
にしても公式絵見る限り、何故ギャラドスがイワークより小さいか分からないです。
あつあ通信vol.53、編者あつあつおでん
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