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「戻すときは逆の手順だ。テーブルに近づいて、ベルトとキッチリ合わせてテーブル手前のボタンを押す。そう、それでテーブルの脚がなくなる。今度は一個だけ残ったポケット傍のモンスターボールのボタンを押してくれ。その時も危ないから手とか近付けるなよ。最後にさっきのボールを最初とは逆にへそ側へ押してカチッと鳴ったら終わりだ。そう、そうだ」
言われた通りの操作して二人はバトルベルトをはずして風見に返す。しかめっ面の拓哉とは反対で、風見はテストプレイが上手く行ってご満悦のようだ。
「さて、私に負けたから言うことを一つ聞いてもらうわよ」
『……はぁ。どうしても戦いたいなら戦ってあげるわ。その代わり、負けたら勝った方の言う事を一つ聞く』
そういやそんなこと言ってたね。だんまりの拓哉の元に、静かに松野さんが歩み寄る。
「私の言う事は、『私の言う事を聞いてほしい』よ」
「は?」
「え?」
俺と拓哉から思わず間抜けた声が出る。意味を理解するまでに少しの間を必要とした。
「まあ、分かりやすく言うと、貴方達を呼んだ理由を話すからさっきみたいに喧嘩とか売らないで私の話を黙って聞いてほしいの」
意外と従順で、拓哉はあっさり黙り込んだ。松野さんはそれを見てようやく満足したのか、その話を始める。
「大事な大事な話だから、ちゃんとよく聞いててね」
松野さんの目が真剣になり、それに誘われるように自然と雰囲気が重たくなる。張りつめた空気ゆえに、自分の唾を飲み込む音が聞こえた。
「まず、君」
と言って松野さんは拓哉を指差す。
「この前の風見杯で、君は人を消した。君の言い方を借りると、異次元に幽閉した、かしら」
「あ、ああ」
「君みたいに不思議な『能力(ちから)』を持つ人が最近あちこちに現れたの」
「なんだと?」
「どういうことですか? 詳しく教えてください」
風見だけは話を聞くというより、話を聞いている俺と拓哉を静観しているようだった。事情は既に聞いているまたは知っているのだろうか。
「それぞれ藤原君とは違う能力だけど、まあ似た類のものが跋扈して困ってるのよ。たとえば、ここ東京では対戦相手がことごとく意識不明になったり、青森県ではカードのポケモンが具現化したり、島根県では左半身麻痺の女の子がポケモンカードをやっているうちに麻痺が回復したり」
「いろいろありますね」
「今のところ二十八人確認されてるわ。このままだと増加していく一方よ」
「それで?」
「この、能力を持つ人のこと。まあ能力者って名づけようかしら。その人達の全員が勝率百パーセントなのよ。ほら」
ポケットから取り出した小さなモニターにはその能力者の名前が羅列してあり、名前の隣に勝敗数が並んでいる。勝数にはばらつきがあるが、負けは揃って0。しかし気になることが一つ。
「あれ? 拓哉の名前はないけど」
「ええ。理屈はさっぱり分からないけど、対戦で負けると能力が無くなるみたい。だから藤原君はもう欄外なの」
確かに、拓哉はあの能力はもう使えないと言っていた。あまりしっくりこない理由だが、そうなった以上事実と認めるしかない。
「今のところ、負けた能力者は藤原君を含め五名。その五名とも、事情を聞く限り何かしら出来事があって精神状態が崩れてから、能力を身に付けたらしいわ」
拓哉が心なしか萎れている。まあ気持ちは分かる。あまり触れられたくない過去だろうし、最も能力のこと自体がそうかもしれないけど。
「俺達を呼んだのはそれを伝えるだけじゃないでしょう?」
「ええ、もちろんよ。君たちにはお願いがあるの。風見君も含めてね」
じっとこちらを見つめていただけの風見がふと我に返ったように松野さんを見る。
「そうなんですか?」
「いや、昨日言ったじゃない」
本題に入る、気が引き締まる場面で風見のこれだ。空気が読めそうで読めないところはなんとかしてほしい。お陰で文字通り気が抜けて行ったよ。
「はぁ。何だかグダグダになったけど、本題よ。貴方達には能力者を倒してほしい」
予想はしていたけど、倒してほしいって簡単に言ってくれる。拓哉と戦うときだって大変だったのに。
「まだそうなってないのが不思議だけど、このまま不祥事が表立ってしまったらポケモンカード自体が完全に信用を失ってしまうの。我儘なのは承知よ。でもこれもポケモンカードの、いや、むしろポケモンの存続のためなの!」
最後の言葉で完全にお願いが脅迫になったじゃないか。ポケモンカードの存続がかかっているとかまで言われれば、こうなったらもう選択肢は一つしかない。
「なんとかします」
「おい翔! それでいいのか!?」
「いや、いいもクソもないだろ」
「そうだ。実質俺たちには拒否権はないようなもんだ」
「おい、風見。テメーまで!」
拓哉は不満を口に現わすが、やがて威勢は消えていき、「仕方ねえ」と静かに言い放った。
「皆ありがとう。能力者のほとんどが、後に開かれるPCCに出場登録してるらしいの。対戦表は操作できないけど、高確率で勝ちあがってくるはずよ。つまりいつかは戦う事になる。その時に、必ず……」
「ちょっと待ってください。それはいいんですけど、東京はまだしも他の道府県は?」
「勿論手を回してあるわ。貴方達には目の前の事だけ考えてれば大丈夫よ」
風見杯も決して穏やかな動機じゃなかったが、PCCもまたそうなるのだろうか。いいや、今からそんなことを考えてもどうにもならない。
「まあなんにせよ、俺たちは初めから相手が誰だろうと勝ち抜くつもりですよ」
「それもそうだな」
「ふん、全くだ!」
「ふふっ。それじゃあ頼んだわよ、頼もしい三人さん」
からかわれているのか、本気で言ってもらえているのやら。とりあえずただ、今は笑っていた。
やがて俺たちは能力者の真の恐ろしさを知ることになるが、それはまだまだ先の話になる。
松野「今日のキーカードというよりは前回のキーカードよ。
このスタジアムが場にある限り出した番、あるいは進化した番にも進化できるわ。
これがあるだけで試合のスピードが一気に変わるわね」
破れた時空 サポーター
おたがいのプレイヤーは、自分の番に、その番に出たばかりのポケモンを進化させられる。(その番に進化したポケモンも進化させられる。)
スタジアムは、自分の番に1回だけバトル場の横に出せる。別の名前のスタジアムが出たなら、このカードをトラッシュ。
「むむ、お前達。下っぱはキキョウか屋敷にしかいないはずだが、何故ここにいる?」
「いえ、先生からの指示です。キキョウに討伐に行く人数を減らし、屋敷を守れとのことでした」
がらん堂の入り口には、3人の男がいた。1人は門番、後の2人は弟子のようである。3人とも着流しを着て草履を履いている。門番は2人を鋭い目でチェックすると、門を開けた。
「なるほど、先生の指示なら問題ない。屋敷には見られてはまずいものがたくさんあるからな。よし、入れ」
門番に促され、2人は礼をしながら黙って門をくぐった。それから門番の死角に入り、そそくさと茂みに飛び込む。2人は頭だけを出し、様子を伺った。広大ながらん堂の屋敷だが、人影はまるでない。そして不気味なほど静かだ。
「……そろそろ良いか、ハンサムさんよ」
「ええ。ここなら大丈夫でしょう、ドーゲンさん」
2人は誰もいないことを確認すると、おもむろに鼻を引っ張りだした。するとなんということか、顔面の皮膚が全て剥け、別人の顔が現れたではないか。更に2人は着流しも脱いだ。そこにいるのはもはやがらん堂の弟子ではなく、2人の中年男性である。
「ふう、やっと楽になったわい。変装というのは思った以上にキツいな」
「最初は皆そう言いますね。ですが人を騙すのはこの上なく面白いですよ、ドーゲンさん」
「……あんた、本当に警察か?」
2人のうちの1人であるドーゲンは、もう1人のハンサムに突っ込みを入れた。ハンサムはそれをスルーし、腰をさする。
「さあ、そろそろ中に入りましょうか。がらん堂はキキョウに大半の弟子を投入していると推測される。とすれば屋敷に残る弟子は少数、我々でもなんとか突破できるでしょう。かなり鍛えましたからね、老体に鞭打って」
「おい、俺はまだ45だぞ。……おい、何かおかしくねえか?」
ふと、ドーゲンが辺りを見回した。そして冷や汗が幾筋も滴ってきた。ドーゲンの言葉の意味をいまいち把握できてないのか、ハンサムは首を捻る。
「おかしい? 私にはなんのことか。静かですし、問題があるようには思えません」
「あんたも分かってねえたあ。静かすぎるだろ、今。ポケモンの鳴き声さえない。明らかに変だ」
「そう言われれば……こ、これは!」
「ふふふ、やはり図星か。警戒して正解だった」
ハンサムが周囲を眺めると、物影からわらわらと人が集まってきた。数は40人とも50人ともいそうだ。その中には、あの門番も混じっている。
「お前は先程の門番、何をした!」
「何もしてないさ。ただ怪しい奴を敷地内に誘い込んだと仲間に知らせただけのこと」
「くっ、私の変装が見破られるとは……」
ハンサムが唇を噛んだ。それを受け、門番はにやにやしながら1歩前進する。
「ああ、あれか。確かに変装は完璧と言って差し支えない。だが先生の行動が不自然すぎる。がらん堂は報連相を徹底している故、そのような真似は有り得ない! まして先生がルールを無視したら、私達に示しがつかないだろ?」
「……油断したか。こうなればこちらもただではやられたりしない!」
「ハンサムさんよ、逃げるのも戦うのも無理だと思うのだが」
ドーゲンは四方を指差した。いつの間にか背後からも弟子が迫り、進退窮まったと表現しても差し支えない。包囲網は徐々に狭まり、血路を開くことすら難しい状況だ。
「くくく、ものわかりの良い奴だ。皆の衆、かかれ!」
「くそっ、ここまでか……」
ハンサムは天を仰いだ。彼の視界に2つの影が通り過ぎる。次の瞬間、その影が彼の目の前に飛び降り、弟子に向かって突進。それを数回ほど繰り返し、弟子達を皆のびさせてしまった。残るは門番のみである。門番は不測の事態に目を丸くした。
「なな、何が起こった? 私達がらん堂の兄弟が全滅するなど、よほどの手練でないと不可能だぞ! 何者だ一体!」
「……勇者は遅れてやってくる。どんなに遠く離れても、助けの声ありゃ馳せ参じる。これぞヒーローの心意気よ!」
「あ、あれはまさか……」
「1人に1匹のトレーナーか、セキエイで見たな。確か……」
「勇者ゴロウ、ただ今参上!」
2つの影のうちの1つは人であった。その者は名乗り口上をあげると、門番にのしかかった。
「ば、馬鹿な……」
門番は抵抗するものの、やはり気絶するのであった。突然登場したその人は、軽いノリでハンサム達に声をかけた。
「ようおっさん達、大丈夫か? 早速だけどがらん堂の奴らを縛るの手伝ってくれよ」
「ゴロウ君、実に驚いたよ。まさかたった1人でこの場を切り抜けてしまうとは」
「うむ、若いもんはそれくらいやんちゃでなければな!」
一段落した後、ハンサム達は現れた影、ゴロウと話をした。近くには足首と、手首を背中で縛られたがらん堂の弟子達が転がっている。ゴロウは頭をかきながら喋る。
「へへ、セキエイできっちり鍛えた甲斐があったもんだぜ」
「……そういえばゴロウ君、君はどこからやってきたのだ? 道によってはがらん堂の者と鉢合わせたはずだが」
不意に、ハンサムがゴロウに尋ねた。セキエイからコガネまで、ハンサム達がたどり着くまで10日はかかったのだから、急にやってきたことに疑問を持つのは自然な成り行きである。
「道のり? セキエイからキキョウまで飛んで、そこから自転車で36番道路と35番道路を駆け抜けてきたけど。がらん堂の奴らにはたくさん出くわしたけど、全員倒しといたぜ」
「ぜ、全員か。それはまた……恐ろしい強さだな。しかし、キキョウまで飛んだというのはどういうことだ?」
「ああ、交換システムが改造されてたらしいじゃん。あれを使わせてもらったんだよ。すげえ気分が悪かったけど、おかげで間に合ったみたいだな」
「全くだ。助かったぞボウズ、それとラッタにもな」
ドーゲンはもう1つの影の正体、ラッタに頭を下げた。ラッタもない首を少し曲げる。
「……さ、ぐずぐずしている暇はない。皆が無事ならここに集合することになっている。それまでに残党探しと物色をしておくとしよう」
ハンサムがそう言うと、3人と1匹はがらん堂の屋敷へ潜入するのであった。
・次回予告
ドーゲンとハンサム、ゴロウは外で戦っていたワタル達と合流。彼らががらん堂の捜索をしていると、あの人を発見。その人から聞かされたことは、この動乱の根本に関わるものであった。次回、第64話「合流、そして発覚」。彼らの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.44
カラシ以来の無双状態に、書いてる私もちょっと興奮しました。普段はゲームに忠実な戦闘なので、どうしても無双にならないわけです。
そして今日は久々にダメージ計算がありませんでした。私の連載からバトルを引いたら水分の抜けたキュウリみたいなものですが、終盤だし大丈夫か。何度も言ってますが、70話(遅くとも73話)までには決着がつきます。そこまで読んでもらえれば後はなんとかなりますので、もう少しお付き合いください。
あつあ通信vol.44、編者あつあつおでん
信仰とは感謝することだとボトルは思っていた。
神をあまり信じていないし、それにすがることもしないが、感謝をする相手に、神は最適だとボトルは考えていた。植物を育てるということは、思い通りにいかないことが沢山ある。しかし、上手くいかないことは自分の力不足だとして、上手くいったのが自分の実力だと中々思えなかった。そして、その収穫の喜びなどの向かう先が神で、神への感謝が彼の心の平穏を強く作っていた。
ボトルは頭を上げると合わせていた掌を離す。その礼が終わって振り向くと、いるはずのない人間がいて、仰天した。
「ボトルさんおはようございます」
「サクヤか、今朝は随分早いな。何かあったか――?」
気の抜けた声のサクヤは開ききっていない瞼でよろよろと歩いてきた。サクヤは
「早いのはボトルさんですよ〜。いつもこんな時間に起きてるんですかぁ〜」
あたりはまだ真っ暗で、随分と静かだった。それは夜の果樹園とはまたまた違った穏やかな静寂だ。
「それ、何ですか?」
「ああ、祠だよ。豊穣の神が祭ってある」
子どもの背ほどもない小さな祠があった。茂みに隠れてしまうほど小さくて、その場所を教えられていないサクヤは、初めてその存在に気付いたのだった。
「こういうのはちゃんと教えてくださいよ」
そう言った後、彼女は自分の頬を軽く叩いて目を覚ますと、姿勢を正して祠に向き合った。そのまま二拝四拍手一拝を行う。ボトルが普段行っているものと作法が異なり随分と丁寧なものだったが、神への拝礼に礼儀正し過ぎることなんてないだろう、とボトルは感心してそれ見ていた。
「でも、イッシュ地方もこういう祠があるんですね。なんか少し意外です」
「農耕や豊穣の神を祭った場所はみんなこういう形みたいだな。イッシュではそうだな……、確かホワイトフォレストの近くに大きな神社があったな」
「へぇ……。じゃあ一度お参りに行ったほうがいいかもしれませんね。私も果樹園で働いてるわけですし」
それには纏まった休みを貰わなければ行くことができないな。とそこまで考えて、彼女はボトルが休みという休みを取っていないことを思い出す。ボトルがいなければわからない部分も多く、ボトルの休日に決めても、結局果樹園の仕事に必ず加わっている。それはサクヤの力がまだまだ足りていないことの証明で、彼女が苦々しく思うことの一つだ。すぐに彼女はその考えを振り払った。
「神様かぁ。そういえば私、イッシュの神話とか言い伝えとか、ほとんど知らないんですよね。建国の二対のポケモンの話ぐらいはさすがに知ってますけど」
「なんだお前、そういうのにも興味があったのか」
「いや、知り合いにそういうのが凄く好きな人がいて。その人に連れられてシンオウのミオシティの図書館で――」
先ほどまでは開ききっていなかった目も、今はいつものようにその存在をアピールしていた。サクヤの目は大きくて、その感情をよく表す。そしてボトルは彼女の大きな目で見られると純粋な視線に晒されている気がして、なんだか居心地が悪くなって顔を背けるのだった。
朝の簡単な下準備の作業を教えた後、二人は朝食を食べる。朝食に関しては、いつもボトルが作る。以前、サクヤが半分寝たような状態で作った料理を出し、それを口にしたボトルが朝キッチンに彼女が立つことを禁じた。彼女もいつかは朝食も作らなければと思ってはいるのだが、同時にそれが来ることはないだろうとも思っていた。
食事はほぼ交互の当番制になっている。お互いレパートリーが多くないので、続けて料理すると同じようなメニューが続いてしまうから、自然とそうなっていた。
ボトルは簡単に作れて味の応用が利く、サンドウィッチやパスタなどが多い。が、客が来るとたまに凝った料理も出す事があり、サクヤを驚かせた。対してサクヤの方はあまり料理をしてこなかったので、最初はカレーやシチューなどの初歩的な料理しかできなかった。しかし彼女が何を料理するか困っていると働きに来たトレーナー達が料理を手伝ってくれ、教えてくれることもあり、徐々にではあるが、作れるメニューも増えてきている。お客に食べさせることもあるのだから、いずれきちんと料理を学ぶ時間もとらなければ、とサクヤは思っていた。しかし実際の所は仕事に追われ疲れ果て、休みは休みで見たいものやりたいことが山積みで、中々そこまで手が回らないのが現状だったのだが。
今日はたまたま早くに目が覚めたので、仕事をすることになったが、サクヤのいつもの朝は、朝刊や雑誌を取って来て食卓につくことから始まる。テレビをつけ、キャスターが暗い話題を熱心に伝えるのを右から左に受け流しながら、二人はトーストと目玉焼きを食べる。朝からボトルは少しご機嫌で、それはサクヤが珍しく早起きをしたせいか、それとも目玉焼きが随分まん丸に作れたからなのかはサクヤにも本人にもわからなかった。
ボトルは食事が早い。彼の方が先に食べ終わり、コーヒーをゆっくり飲み終わった頃にやっとサクヤが食べ終わる。彼女は、ちゃんとよく噛んでるのかしら、と心配になる時もあったが、そう思うのは大抵食べ終わった後なので、どんな風にボトルが租借しているのかを一度も彼女は見たことが無い。
食事が済み、食器を洗って席につくと、ボトルは経済新聞を読み終え、地元の少し過激なタブロイド誌に目を通し始めていた。
「ブラックシティでモンスターボール流通の動きが活発、ねぇ……。あんな高い場所で買う物好きがいるってんだから、世の中わからないよな――」
サクヤは新聞もタブロイド誌も読まない。書いてあることのほとんどが自分と関係ないことしか載っていない気がしたし、知るべきことはテレビのニュースだけで事足りる気がしたからだ。本当のところは単純に難しくて読み気がしないだけなのだが。その代わり、ポケモン関係の雑誌を講読していて、その日はブリーダー専門誌が届いていたので、夢中になってページをめくる。綺麗にトリミングできる新発売のブラシの広告に目を輝かせたが、その値段のゼロの数にがっくりと肩を落とした。そんな彼女をボトルは横目で見ながら、少し心配をする。旅をしていたトレーナーなのだから、新聞ぐらい読んだ方がいいのではないかと。ところが自分のことを省みると、同じぐらいの頃は全く新聞なんて読んでいなかったことを思い出す。いつの間にかサクヤも新聞を読むのが当たり前になっていくのだろう。だから、彼はそれを口にはしなかった。
『――次のニュースです。最近その活動を活発にしてきたポケモン保護団体のプラズマ団ですが、先日、イッシュのポケモン協会に莫大な額の寄付をしていたことが明らかになりました』
画面には物々しいマントを纏った男が演説をしている映像が映った。組織の幹部で顔役のゲーチスという男だ。カリスマを持ち合わせているようで、団員の数は中々の勢いで増えており、誰もが無視できない規模の組織に成長している。
「これって、最近ポケモンの強奪とかしてるって、怖い組織ですよね」
「そんな話も聞くな。ポケモンの解放を謳ってる組織みたいだが、そういうことしてるのは末端の暴走なのか、根も葉もない噂なのか、どっかの嫌がらせの風評なのかはわからないな。メディアでもそういったことは具体的な事件として取り扱われていないし、知り合いでそういう目にあったやつはいないしな――」
「最近ホドモエでも、あの甲冑みたいな制服着た人達、見かけるんですよね。ちょっと怖いな……」
「まぁ、近づかない方がいいだろうな。そもそもウチなんて、ポケモン働かしてるから、強奪するしないは置いといても、こいつらの主張とは真っ向から対立しちまうからな。気をつけろよ」
「そうかもしれませんね……」
プラズマ団のニュースが終わって芸能コーナーが始まり、ライモンシティのシムリーダーの熱愛疑惑に話が移ったところで二人共テレビへの関心が薄れ、お互い雑誌に視線を戻した。それからほぼ同時に壁の時計を見る。そして、サクヤだけが口を手で覆いながら大きな欠伸をした。
剪定をする実や枝などはボトルが木を確認してから選ぶ。本格的な収穫時期は、予め目星がつくので、番号の札などをかけて、どの木がいつ収穫なのかを区別している。ボトルがその番号をカレンダーに記入していたので、サクヤはそれを毎日チェックするだけで何を収穫するのかがわかった。その日は収穫の番号は二つしか振られておらず、一つ目のゴスの実は随分と数が少なかった。個人による注文のようで、大した数の収穫ではなかったようだ。サクヤはホッと胸を撫で下ろした。その日の受け持ちの仕事のノルマが早く終われば好きにしていいために、ブリーディングに集中できるからだ。
収穫するゴスの木の近くに行くと、音楽が流れてきた。静寂を嫌うのか、その方がはかどるのか、手持ち無沙汰でつけるのか。ボトルはいつも時間がかかる作業の時にはラジカセを運んで来る。そして適当につけたラジオを聴きながら仕事をする。
「ボトルさんって、仕事の時はいつもラジオ聞くんですね」
「ああ、悪い。消すよ」
「違うんです! そういう意味じゃなくて! 流しておいてください!」
慌てて両手を振るサクヤを見て、ボトルはラジオをつけ直した。もちろん彼女の言葉に非難を感じたわけではないのだが、ボトルは反射的にさっきのような言葉が口に出て、ラジオを消していたのだ。彼は顔には出さなかったものの、自分の行為に少しだけ動揺していた。
ボトルとサクヤの暮らしは、こういったことは少なくなかった。手伝いのトレーナーがいる日は別だが、どうしてもサクヤと二人だけで顔を合わせることが多い。しかし、彼は長い間この場所で一人で暮らしてきた。他の人間と暮らした経験はあったが、彼女とは似ても似つかないタイプだったり、彼より年上の人間ばかりだった。自分主導で年下の人間と接する機会はほとんどなかった。その弊害が少し現れていた。と、そのように彼は思い込んでいたのだった。実際は経験不足だけではなく、彼の人との関わり方や彼女への考えからくる行動だったのだが、彼はそんな深く自分について考えることはなかった。
そしてサクヤの方はというと、彼とは違い、自身の至らなさや未熟さばかり考えて、ボトルがどんなことを思っているのかまで考える余裕がなかった。
お互いわかったフリをして、面倒にならないように適当に振舞う。そうしてこの果樹園のたった二人の人間関係は、変に噛み合ったすれ違いが積み重なっていて、奇妙な平静を保っていたのだった。
ラジオで流れてきたポップスに合わせてボトルがハミングする。どこかで聞いたことがある曲だと思い、サクヤは尋ねる。
「それ、なんて曲でしたっけ?」
「『Clock Wolker Brothers』の『Land Of 1000 Giarus』って曲」
「クロックワーカーブラザーズ……、1000のギアルの国……、聞いたことないですね」
「CMなんかでも使われてる有名な曲だから、聞き覚えがあるんだろ。……ああ、結構カバーもされてるから、他のバージョンを聞いたのかもな」
サクヤはタイトル名を聞き、ハミングの後ろに聞こえる妙な音はギアルの鳴き声だったのか、と納得した。そして、そのネーミングは決まったスケジュールと習慣できっちり生活するボトルにはピッタリだと思った。サクヤはたまに、彼を機械の様だと思うことがある。その体の中に小さなギアルが詰まって回っているのを想像し、彼女は噴き出す。それを聞いたボトルは歌うのを止め、黙々と作業する。彼女はなんだかばつが悪くなり、自分が木でボトルから見えなくなる位置をキープして、ボトルのいる場所を気にしながら仕事を続けた。
果樹園で育てている木は、普通の植物とは違う不思議な力を秘めている実のなる植物だ。その実は何といってもポケモンが道具として使うことが出来るという、不思議な力を秘めている植物だ。バトルで持たせると様々な効果を発揮してポケモンを助ける。また、それらの木の実は全てのポケモンが食すことができる。木の実を食べるとポケモンの魅力を引き出すことができると言われており、コンテストに参加するポケモンやブリーダーには必須の食べ物だ。とにかく、バトルでもコンテストでも、はたまた普段の食べ物にも、ポケモンとは切っても切れないものなのだ。
しかしながら、イッシュ地方では大きなコンテスト専用の施設が無い。そのためコンテストは一部のトレーナーや上流階級などが参加するイベントとなり、他の地方に比べてあまり一般化しなかった。もちろんそれ専門のテレビ番組や雑誌などもあったが、どちらかといえばコアな扱いを受けている。こういった中でイッシュ地方では木の実はバトルに活用する道具であったり、ポケモンが好んで食べる食料という面の方が強かった。
木の実についてサクヤがイッシュで妙だと思ったのは、一般のトレーナーが木の実を育てないことだった。彼女の故郷のシンオウ地方などでは、トレーナーが特定の場所で木の実を育てられる場所があった。付ける実の数はそれほど多くは無いものの、促成で育つ木の実を植える代わりに成った実をいくつか貰っていく。そうして木の実が多くのポケモンやトレーナー達に受け渡っていた。しかし、イッシュはそうした習慣はないトレーナー達は木の実を買ったり譲り受けたりするだけ、消費するだけである。では、それはどこから来るのか。もちろん、ボトル達の様な農家が木を育てて売って広まっている。それもシンオウなどとは比べ物にならない程の土地があるので、大量に育てられて流通する。特に木は、シンオウなどに比べてかなり大きく実も沢山成る。成り立ちからして違い、サクヤはその状況を理解するのに時間が掛かったものだった。
「どうだ。もうゴスの実は終わりそうか?」
「――今終わりました!」
「ご苦労さん。運ぶのは俺がやっておくから」
「あとウブの実の収穫で終わりですよね。ウブの木ってどこでしたっけ?」
「ああ、すぐそこだよ。こっち」
ボトルについていくと、すぐに黄色い実のなった木が現れ始める。さすがにゴスの実のように一本二本では収まらないようで、次々に収穫の数字の札が見つかってゆく。
「ウブの実は今日全部収穫だ」
「これ全部ですか?!」
目の前にあるウブの木は無限に続いていきそうな気がする程生えていて、いつもの一日の収穫の何倍もの量の実をとらなければいけないことは確実だ。せっかく考えた今日のブリーディングプランは弾けて消えた。
「ウブは全部工場に卸すんだ。ジュースやワインになるんだよ。だから一気に大量の出荷をしなきゃならなくなるんだ」
「ちょっと凄い量ですね。ハァ……」
「細かい作業は終わってあとは採るだけ、楽なもんだろ?」
簡単に言ってのけるボトルに、サクヤは少しムッとした。最近、彼女はボトルの言動に怒りを覚えることが多い。要するに一言多いのだが、それが気になるようになってきた。
「全く男の人はこれだから――」
ブツブツ言いながら作業を行う彼女の動作はいつもより速く、「やる気だな」なんてボトルが言うものだから、彼女はさらに怒りを募らせてそれを作業に集中するコトで紛らわせた。実は、ボトルは彼女が怒ると作業能率をアップすることに気付いてワザと焚きつけるようなことを言っていたのだが、もちろん彼女は気付かない。
彼女は何か作業を行う時、いつも考え事をする。たまにそれに気をとられて作業が疎かになることもあった。そこで、ボトルは単純作業の時はわざとそれを行うようにしていた。怒らせることによって嫌われることも考えたが、気に入らなかったら出て行って、また一人に元に戻るだけだと考えていた。フォローもしない。それが彼の出した結論だった。怒ったサクヤが彼をどう評価するか、それは彼にはあまり興味の無い話だった。
果樹園で育てる木はオレンやオボン、ヒメリなどの回復の効果を持つものが一番多い。バトルで重宝されるのも勿論だが、滋養強壮の効果があると言われ、人にも良く食されているためだ。次に多いのが、モコシ、ゴス、ラブタ、ノメルだ。これらは特別バトルに効果は発見されていないが、食用として優れていた。サクヤにとってはポフィンの具材として馴染みのあるものだが、味もしっかりしていてそのままでも人が果物感覚で食べられ、調理素材としてもポピュラーだ。そしてラブタは皮ごと食べることによって、胃の洗浄効果がある健康食品として人気がある。
「――よし、じゃあ次。この木も結構成ってるわね」
梯子を立てかけ、木に登った彼女は、最初の実に手を伸ばした時、沢山の何かがいるのに気付いた。枝、実、葉、気のありとあらゆるところにうじゃうじゃとクルミルがいた。
「――っ!」
声の無い悲鳴を上げると、渾身の力でボトルの名を呼んだ。
「おーい、どうしたー?」
しばらくしてからやっと根元から聞こえたボトルの声はやけに呑気で、手近にあった実をぶつけてやりたい衝動に駆られたがぐっと堪えると、サクヤは震える声で言った。
「ボトルさん、見てくださいよ! この木、クルミルがウジャウジャいますよ……!」
「あれ? お前虫苦手だったっけ?」
「苦手じゃないです! 大丈夫なはずですけど、そんなこと言っていられるレベルじゃないですよぉ……!」
「今行く。……うわ、これはすごいな」
ほとんどの木の実は齧られていて、とても商品にはならないだろう。そして葉も上手そうに食べているので、そのままにしておいては木も死んでしまうかもしれなかった。いつも被っているパナマ帽のつばを弄りながら、ボトルはじっと考えている。それが待ちきれないサクヤは、彼の腕を揺すりながら言う。
「私、今、手持ち、全部いないんですけど、どうします?」
「ポケモンで追い払おうかって? バトルで追っ払うわけにはいかないんだよ。参ったな」
「何で駄目なんですか?」
「こいつらクルマユに進化するだろ? クルマユがいると植物が良く育つんだよ。もちろん木もな。落ち葉を腐葉土にしたりって習性があるらしいんだ。んで、前にも葉や実を齧ってるクルミルをポケモンで追っ払ったら、クルマユ達が果樹園で全く姿を見せなくなってな。おかげで育ちが悪くなって大変だったんだ。再び顔を見せるようになるまでだいぶ掛かったからな――」
「この木は諦めるればいいんですか……?」
「いや、この量だ。食べ終わって他の木に移ったら目も当てられない」
「じゃあどうするんですか?!」
「しょうがない。全部運ぶ」
ボトルは木の根元に置いてあるカゴ付き台車に、手じかにあった齧り跡のついたウブの実を二三放り込む。そしてそっとクルミルを掴んで肩に乗せ、カゴまで運んだ。
「俺がここのクルミルを外れの木に運ぶから、お前は他の木の収穫に取り掛かってくれ」
そうやって何度も梯子を上り下りしてクルミルをカゴに集めて運ぶらしい。体力も時間もだいぶ消耗してしまうだろう。しかし、サクヤには他にいい案も浮かばず、その場を任せることにした。まだまだ、収穫しなければいけないウブの実はたくさんあった。もう、他の木にクルミルはいませんように、と祈りながら次の木に向かう。そして、次の木に登るとまた何かがいた。しかし、それは休んでいたエモンガで、サクヤの顔に驚いて飛んで逃げていった。サクヤは溜息をつくしかなかった。
「よし! これで全部!」
昼食を挟んで空がオレンジ色に変わりかけた頃、やっとサクヤの収穫作業は終わった。実の入ったカゴを台車に乗せて運ぶと、保管庫の前にチラーミィがいた。尻尾で木の実をせっせと磨いている。すでに運んであった木の実を丁寧に拭いていて、しっかり出荷できるものと出来ないもので仕分けされていた。
「ご苦労様。じゃあこれで最後だから、私も手伝って終わらせちゃおう!」
サクヤの声に、チラーミィは視線を向けたがすぐに作業に戻った。
「でも、ボトルさん、いつのまにチラーミィなんてゲットしたのかしら? 私、サクヤ。よろしくね」
自己紹介をしても振り向きせずに作業を続けるチラーミィに、サクヤは少し悲しくなった。気を取り直して布を持って隣に腰を下ろした時、その臭いに気付いた。
独特の強い獣臭さ。それはチラーミィの体臭だった。
「ひょっとして、あなた野生の子なの?!」
野生のポケモンとゲットされたポケモンの一番の違いはその臭いだ。ゲットされたポケモンは主人達に洗われたりして、臭いを薄めていく。しかし、野生のポケモンは土や植物などの自然の臭いや、ポケモンそのものの臭いを強く感じさせる。チラーミィから漂うのは野生の臭いそのものだった。
サクヤの出した大きな声に、チラーミィは一瞬動きを止めるが、やはりサクヤを無視するように作業を続ける。
「どうした? 今日はでかい声出してばっかりだな」
「ボトルさん、この子――」
「ああ、最近ちょくちょく顔を出すようになってたんだが、木の実を磨くのが好きみたいでな。手伝ってもらってる」
「手伝ってもらってるって……!」
「終わった後、好きな実を二三適当にやってる。ま、正統報酬だろ。安いぐらいだけどそれ以上持っていかないからな。飯代も掛からないし、どうやって俺らと付き合えばいいか仲間に広めてもらえるとありがたいんだけどな」
さも当然のように言うボトルを見ていると、サクヤは自分が驚いてるのが馬鹿らしくなってきた。それがイッシュ地方にでは普通なのか、それともボトルや果樹園が特別なのかはサクヤには経験も見聞も不足していた。
いくつか実を磨き、効率的なやり方を生み出そうと色々試していると、彼女の手持ちのトゲチックが飛んできた。すごいスピードで鳴にも近い高い声を上げてサクヤの周りを飛び回る。何かを伝えようとしていた。それは少なくともいい知らせではないのがわかる。
「ねぇ、どうしたの?! 落ち着いて!」
宥める声も聞かず、髪や服を引っ張る彼女のトゲチックに、サクヤは戸惑う。必死に捕まえるが、そのまま振り回されてしまっていた。チラーミィも木の実の山を盾にして様子を伺っている。
「ちょっと――」
やっとサクヤはトゲチックを押さえ込む。体の中でバタバタ暴れるトゲチックをなんとかボールに戻し、一息つくと、木の実の山が崩れた。カゴが少し動き、実が揺れた。ほんの僅か地面が揺れている。そして、地響きと何かの鳴き声が聞こえた。
「先に行ってろ。後からすぐ行く」
言うと同時にボトルは飛び出した。ボ−ルからトゲチックを出す。何とか気が静まったようで、暴れるようなことはなかった。
「リッキー、何か来てるのね。怖いかもしれないけど、案内してくれる? お願い」
目を見ながら頼むと、心細そうな小さな鳴き声を上げたものの、ゆっくり浮かび上がり、目的地へ飛んでいく。トゲチックについて果樹園の中を走る。かなり奥まで進み、息が切れるほど走る。やがて見えてきたのは倒れる木と、その前に超然と佇む大きな影。そして、それは顔から生える二本の牙を見せ付けるように振り回すと、雄たけびを上げた。
「ドラゴン……!」
オノノクス。イッシュに生息するドラゴンポケモン、キバゴの最終進化系。我が物顔で歩くオノノクスは木の近くに来ると、その木の胴体目掛けて――、
「駄目っ!」
身をよじる様に頭を振り、牙を打ち付けると、ゆっくりと嫌な音が響いてあっけなく木が切れ倒された。
その牙は刃物のように鋭く光っていた。体は鈍く光る金属のような輝きを持っていて、並みの攻撃は簡単に跳ね返してしまうだろうとてつもない硬さを思わせた。
ドラゴンは耐性が多く弱点が少ない戦いづらい。さらにそのポテンシャルも高く最強のタイプと名高い。そんな相手と戦えるのか、彼女は頭をフル回転させる。現在手持ちはトゲチックだけ。有効な技も無く、レベルの差もあるかもしれない。どう考えても圧倒的に不利なバトルになるのは明らかだ。しかし、追い返すだけならなんとかなるかもしれないと、考える限り最善の戦術をシミュレートし、今まさに、指を刺し口を開いたところ、
「待て、手を出すな」
横にボトルがいた。肩に手を置き、もう一方の手で彼女の腕を下ろし止める。
「でも! 木が……!」
「いいんだ」
言ってるそばから、オノノクスはまた木を倒す。普段手を入れていない生え抜きの木だが、育てているものと同じ木が倒されるのは、彼女にとって仲間が倒されるような、心が張り裂けそうな光景で目を逸らしたくなった。だが、彼女はなんとか歯を食いしばって見届ける。
倒れた木をじっと見ていたオノノクスはやっと二人の存在に気付いた。血のような真紅の目で二人を見回すと、一際大きな声で鳴く。
「きゃあっ――」
迫力に気圧されて、後ずさりながらサクヤが小さく声を漏らした。足の震えるサクヤの横で、ボトルは一歩踏み出す。顔は緊張で少々強張っている様だったが、そんな口から出たのは空気にそぐわぬ明るい声だった。
「おう、久しぶりだな」
友人にでも声をかけるように手を挙げると、オノノクスは真っ赤な目でボトルの姿を捉えていた。
「まぁ、そんなもんで勘弁してくれ。周りのやつらにもお前が縄張りの主だってことは十分わかっただろ」
オノノクスが警戒を強めたところで足を止める。そして、リュックから木の実を取り出した。紫の実は特に味が濃くて貴重なべリブの実だ。
「昨日採った実だ。受け取れ!」
投げた実は丁度オノノクスの足元に転がった。それを尻尾で器用に弾くと実は口元に飛び、顎で思いっきり噛み砕いた。何度も噛み締め飲み込むと、二人に向かって大きく口を開いた。
絶叫にも近い声。大気がぶるぶると震えた。
何度か鳴いて、満足したのか、振り向いて元来た道を引き返していく。
「またな!」
ゆっくりと森の置く、山の方へと消えていく。見えなくなっても鳥達が飛び立つせいで、どこに行くのかがわかるほどだった。
それすらなくなり木の葉が風で揺れる音しか聞こえなくなった時、やっとサクヤが声を出した。
「なんだったんですか、あれ」
「あいつはここら辺の主なんだよ。果樹園も縄張りに入ってるみたいで、たまに見回りに来るんだよ」
「そうなんですか。……それにしても怖かった。――あー怖かった! やっぱり凄い迫力ですね、ドラゴンって」
「ああ、お前知らなかったんだな」
茶化すように言って恐怖を振り払おうとする彼女に、ボトルは納得したとばかりに言った。
「何がです?」
「オノノクスって、温厚なポケモンなんだよ。人懐っこくて人間を襲うことはほとんどない」
キバゴの進化系のドラゴン達は皆、温厚なポケモンばかりだ。縄張りを侵すものや平和を乱すものには容赦しないが、見つければ襲い掛かってくるような凶暴なポケモンではない。特にソウリュウシティでは野生のキバゴやオノンド達が闊歩するほどだ。
「そうだったんですかぁ?! 先に言ってくださいよぉ……!」
緊張が切れたことと、その緊張が意味のないことだったのを知り、サクヤはへなへなとその場に座り込んだ。そんな彼女を鼻で笑ってからボトルは言う。
「縄張り意識は強いから、中で好き放題するポケモンには容赦ないけどな。暴れまわってるヤツなんかがいるとやってきて、もう、一発だよ」
掌に拳を打ち付けて言うボトルは何だか誇らしげだ。
「あいつは酸っぱい実が好きみたいでな。どうにも他じゃ満足のいく実が手に入らないのか、縄張りの主張のついでにたまに食べに来るんだよ。なんつーか、ウチの実を気に入ってくれてるんだな。俺もショバ代を収めるじゃないけど、そんな感じでいつあいつか来てもいいようにベリブの実は常備してる。あとな、森の開拓なんかもあいつらの仕事だ。オノノクスが通れば道が出来るし、倒れた木でまた草木が育ったりポケモンの住処になったりな。倒す木も手当たり次第じゃなくて、弱ったり古くなった木が多いらしいからな。あれもウチの敷地だけど、手を入れてるやつじゃないから問題ない」
サクヤにとってドラゴンポケモンというのは、強く恐ろしいイメージがある。故郷シンオウ地方のドラゴンポケモンと言えば、ガブリアスだ。野生のフカマルの進化系のドラゴン達は住処の洞窟から滅多に出てくることはないがどれも獰猛で、トレーナーが手なづけるのも難しい。だが、彼女は思い出した。シンオウにいるもう一種類の野生のドラゴンポケモンを。チルタリス。大空を散歩し歌うことを好む温厚なポケモンだ。ドラゴンは恐ろしいものだけではないことを彼女は思い出した。そんなことはすっかり忘れていたのだった。
美味そうに木の実を頬張り飲み込み、歓喜の咆哮を上げたガブリアス。ひょっとしたらボトル自慢の木の実は酸っぱ過ぎて驚いて鳴いていたのかも、と考えると随分愛らしいポケモンな気がしてきて、サクヤは愉快な気分になった。
「すごいですね。果樹園って、自然の中にあるんですね。果樹園って自然の一部なんですね」
新たな発見と関心でサクヤは笑顔で言う。
「まぁ、いやがおうにも自然の中にいることは思い知らされるよな」
「でも、何か自然のいっぱいでいいですね。私ここに来てよかったです。今まで知らなかったことも沢山知ることが出来るし、こういう自然を守るお仕事ですもんね。だから――」
「いや、それは違う」
「え?」
「人の手で自然を弄り、管理して、制御して、思い通りにしようとするんだ。農業なんて、俺達のやってることは自然とは程遠い、不自然で人口的なもんだよ」
サクヤには淡々と言うボトルの声は、なんだか突き放すように聞こえた。せっかくの感動に水をさされた気がして、文句の一つも言ってやろうとボトルの方を向く。
すると、ボトルは笑っていた。普段見慣れているからこそわかった、かすかな笑み。そのままボトルは踵を返すと、ひらひらと手を振って歩いていった。
それに込められているのはどんな意味言葉なのか。色々浮かぶがサクヤには本当の所はわからない。聞いても教えてもらえることは無いだろう。適当に言葉を濁すか、話を逸らされるに決まっている。だが、彼女はわからなくてもいいかな、と思った。言葉や考えが交じり合わなくても、果樹園で働いていて、オノノクスが現れたのを一緒に見て――、それだけでいいのかもしれない、別にわからなくてもいいんじゃないか。そう彼女は思った。
そうして彼女は、ボトルのことを考えた。一体、あの人の方はどうなのだろう、と。自分の言葉、行動はどう伝わり映っているのか。
「ボトルさんにだって、わからないのかも」
二人はお互いのことがわからない。なぜならお互いのことをまだ知らないからだ。
「わかるわけないわよね」
ボトルは過去のことをあまり話したがらない。そして自分もそこに踏み込むようなことをしなかったし、できなかった。できないならば今の彼を知ればいい。そして色々話して自分の事をわかってもらえばいいのだ。そう彼女は思った。果樹園でブリーディングを受け持つことを主張した時、彼女は二人の心が触れ合った気がしたのだ。そして、その上でお互いがのことがまだわからなくても、それはそれで構わないのではないか。そんなことを前向きに考える始めた自分自身に彼女は少し驚いて、笑みの吐息を漏らした。
「――っ」
お腹が小さく鳴った。夕食の時間までは少しある。早く戻らないと、チラーミィが木の実を磨き終わってるかもしれない。今日中にもう少し仲良くなってやる、とサクヤは走り出す。その足取りは一日中働いていたにしては軽やかに動いた。
「あれはクロバットか。思った以上に速いな」
ダルマはカラシの3匹目、クロバットを図鑑で調べた。クロバットはゴルバットの進化形で、全てのポケモンの中でも特に高い素早さを誇る。それ故素早さ調整の標的にされやすい。嫌がらせやサポートを得意とする。
「……こいつのスピード、とくと見ておくことだ。ブレイブバード!」
「負けるな、火炎放射!」
バトルが再開した。まずロコンがおいかぜに乗り、火炎放射をした。クロバットはそれを受けながらも体の側面をロコンに向け、回転しながら突っ込んだ。回転により予想以上の破壊力を持った攻撃を食らい、ロコンはたまらず気絶した。
「ロコン!」
「ちっ、抜けるとは思ったが見当違いか。だが……こちらが有利になったことに変わりはない」
カラシは辺りを見回した。先程まで吹いていたダルマのおいかぜが、本来のそよ風に姿を変えた。
「おいかぜがやんだ……」
「これでお前のポケモンは機能停止だな。キマワリのソーラービームにイーブイのじたばた、お前はこれに頼りきり。しかし、先制できなければ意味のないこと。きあいのタスキも消費した今、お前に勝ち目はない」
「……それはどうかな」
「なんだと?」
ダルマは冷や汗を滴らせながら、不適な笑みを浮かべた。そんなダルマをカラシは怪訝な表情で睨みつける。
「どんなに不可能と思われても、必ず逆転への糸口はある。それがあったからヤドンの井戸で勝つこともできたし、今まで戦ってこれた。そして、それはこれからも変わらない! 頼むぞカモネギ、俺達の腕の見せ所だ!」
ダルマはロコンをボールに戻し、4匹目のポケモンを繰り出した。植物の茎を口にくわえ、カモネギが舞い降りる。カラシは鼻で笑って指示を出した。
「ふん、自惚れやがって。クロバット、ブレイブバードだ」
「まずはこらえるんだ!」
カモネギは腹部に力を込め、翼を交差させた。そこにクロバットが4枚の羽を鞭のようにしならせカモネギを襲う。カモネギはずるずる押されていくが、なんとかダルマの目の前で踏みとどまった。ここでクロバットが攻撃の手を休める。
「今だフェイント攻撃!」
「し、しまった!」
これを好機とばかりに、カモネギは茎でクロバットの頭をどついた。ロコンの火炎放射とブレイブバードの反動のダメージを負ったクロバットは、抵抗できずに力尽きた。
「よし、やっと半分か。まともにやったら大変だから、確実に倒さないとね」
「……キリンリキ、いくぜ」
カラシは静かにクロバットを回収し、再びキリンリキを投入した。さっきの戦いの疲れはほとんど残っていないようである。
「よし、じた……」
「遅いわ、サイコキネシス!」
わずかな差だが、キリンリキが機先を制した。キリンリキはカモネギの体を雑巾のように絞った。これをこらえられるはずもなく、カモネギはあっさり瀕死となってしまった。ダルマは歯ぎしりしながらカモネギをボールに納める。
「嘘だろおい、あんなに素早さ伸ばしたのに先制されるなんて」
「くく、残念だったな。もう少し強いポケモンなら勝てたかもしれないが」
「うるさい、馬鹿にするな! イーブイ、出番だ!」
ダルマは顔を紅潮させながら5匹目を送り出した。出てきたのはイーブイだが、今日は手ぶらである。
「はっ、やっとチャンスが巡ってきたぜ。キリンリキ、こうそくいどう!」
「こっちもチャンス到来! あくびだ!」
キリンリキは最初と同じく力を抜き、高速で移動した。他方イーブイはあくびをし、キリンリキの眠気を誘った。カラシは首をかしげながらイーブイを見つめる。
「……なんの真似かは知らねえが、悪あがきは止めとくことだ。バトンタッチ」
「……この一瞬、待ってたぜ。イーブイ、もう1度あくび!」
ここで勝負が大きく動いた。キリンリキは現在の状況を引き継ぎ、カラシの最後の1匹であるガラガラに交代。ダルマはイーブイに再びあくびをさせた。カラシはせせら笑いをしながらキマワリを見下ろす。
「おやおや、遂に血迷ったか。ガラガラ、骨ブーメランだ」
ガラガラは自慢の太い骨をイーブイに投げつけた。ガラガラとは思えない機敏な動きについていけず、イーブイは倒れた。ダルマは勝ち誇った顔でイーブイをボールに戻ず。
「助かったよイーブイ。これでガラガラは眠る!」
ダルマはガラガラを指差した。ガラガラは舟を漕いでいるかと思えば、骨で体を支えて寝てしまったではないか。すかさずダルマは最後のポケモンをスタンバイする。
「キマワリ、ソーラービームだ!」
キマワリは自らの体を焼きながら光線を発射。寝ているガラガラに逃げ場はない。一撃で地に伏せた。
「ば、馬鹿な!」
「さあ、あとはキリンリキだけ。次の1手で勝負が決まる」
「くっ、そんなことは百も承知。キリンリキ、これで最後だ!」
カラシはガラガラを退かせ、キリンリキに全てを託した。カラシの命令にも力が入る。
「キマワリはサンパワーの特性でダメージが蓄積されている。サイコキネシスで決めろ!」
「そのくらいなら耐えられる! もう1度ソーラービーム!」
キリンリキはキマワリを丸めて握り潰した。キマワリはこれを余裕を持って耐え、2度目のソーラービームを撃つ。光線はカラシもろとも飲み込んでいった。
「ぐぐ、がはぁっ!」
「畜生、何故だ! 何故このような素人に負けたんだ俺は!」
「……現実的な理由としては、手持ち不足かな。さすがに4匹で6匹を相手にするのは難しいよ」
戦いの後、カラシは膝をついて地面を叩いた。ダルマはカラシに近寄り声をかけようとしたが、さえぎられた。
「言っておくが、慰めならいらないからな。お前に負けたせいで今回の報酬はなしだ。笑いたければ笑うがいいさ。さあ、笑えよ!」
「そ、それは遠慮しとくよ。なんだか、発狂するか泣きだしそうだからな。それより、まだ報酬もらってなかったのか?」
「……ああ。後払いという約束だったからな。おかげで俺は赤貧のままだ。どうせもうすぐ逮捕されて、評判も失っちまうさ」
「なるほど。ならもう1度こちら側についたらどうだ?」
ふと、ダルマが口から漏らした言葉に、カラシは目を丸くした。それからいきらかうろたえる。
「な、何をふざけたことを。そんなこと、できるわけがないだろ」
「そうかあ? カラシががらん堂にいたのを知ってるのは俺だけだ。俺が黙っとけば大丈夫だろう。ついでに、報酬を上乗せしてもらえば良いさ。少しくらいならはずんでくれるよ。手柄なしよりはよっぽどましだろ?」
「……不思議な奴だ。さっきまで敵だった人間を平気で引き抜くなんてな」
「そんなに変か? ポケモンバトルなんかも野生のポケモンと戦って仲間にするわけだし、普通じゃないかな。それに俺達は頭数すら集まらない状況だから、いちいち気にしないよ」
ダルマはそうまとめると、ゆっくり歩を進めだした。
「じゃ、俺はラジオ塔を調べてくるから。仲間になるならがらん堂の屋敷に行ってくれ、みんないるはずだから」
「……ちょっと待て、こいつを取っとけ」
突然カラシはポケットから石のようなものを取り出し、次々ダルマに投げつけた。ダルマはそれらを全てキャッチする。
「こ、これはげんきのかたまりか。4個もあるけど良いのか?」
「気にするな。……上にはあの男がいる。せいぜい頑張ることだ」
「カラシ……。助かった、じゃあ行ってくるぜ」
ダルマはそう言い残すと、ラジオ塔に突入した。夜はまだ深いが、星の明かりがダルマを照らすのであった。
・次回予告
一足先にがらん堂の屋敷へと忍び込んだドーゲンとハンサムであったが、大勢の弟子達に囲まれる。このピンチを救ったのは、あのトレーナーだった。次回、第63話「遅れてきた勇者」。おじさん達の明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.43
終わった、やっと連戦が一段落しました。ジョウトカントー縛り故、普段考察もしないようなポケモンばかりを起用しましたが、予想通りかなりてこずりました。あれでも、パウルさんとカラシのパーティは気に入ってるんですよ。やっつけにしては上手くできているんで。
ダメージ計算は、クロバット陽気攻撃素早振り、カモネギ陽気攻撃素早振り、イーブイ意地っ張り攻撃素早振り、ガラガラ@骨陽気攻撃素早振り、キマワリ@メガネ臆病特攻素早振り。クロバットのブレイブバードでロコンは確定1発、カモネギのフェイントと火炎放射、ブレイブバードの反動でクロバットは倒れます。カモネギはなんと最速でも調整キリンリキより遅いです。後は太陽神の独壇場。キリンリキのサイコキネシスはサンパワーのダメージを1回受けても確定で耐えるので、そのまま無双できます。
あつあ通信voL.43、編者あつあつおでん
「ふん、相変わらずアリゲイツからか」
「あれはキリンリキか。カラシの奴、手持ちが増えているな」
ダルマの初手はアリゲイツ、カラシの先発は尻尾にも頭を持つポケモン、キリンリキである。ダルマは図鑑を開いた。キリンリキは珍しいノーマルとエスパーの複合で、トリックを自力で覚えられる希少な1匹である。攻守ともにバランスが良いが、どちらかと言えば補助をこなすことが多い。
「まずは小手調べだ。いくぜキリンリキ、こうそくいどうだ!」
「アリゲイツ、まずはアクアテール!」
戦いの火蓋は、切って落とされた。先手はキリンリキで、辺りを駆け回りだした。一方アリゲイツはゆっくり歩き、キリンリキが付近を通る時に自慢の尾を叩きつける。キリンリキは一端歩を止めて懐から木の実を取り出し、さっと食べた。
「あ、あれはオボンの実か。体力回復したみたいだし2回で倒すのは無理そうだな」
「……1回の攻撃でオボンを使わせるとは、思ったよりはやる。キリンリキ、そのままバトンタッチだ!」
「逃がすな、もう1度アクアテール!」
ここでキリンリキが動いた。どこからともなくバトンを持ち出すと、急いでボールへ逃げ帰ってしまった。代わりに、2本の足と4本の腕を持ったポケモンが登場。手から玉のようなものが確認できる。アリゲイツのアクアテールはこのポケモンに当たった。この直後、カラシのポケモンが握る玉から毒が吹き出し、そのポケモンは猛毒状態になった。
「か、カイリキーもいたのか。にしても、何故毒々玉を持っているんだ?」
ダルマは再び図鑑を覗いた。カイリキーはゴーリキーの進化形で、非常に高い攻撃と多様な技を兼ね備える。反面素早さは低い。ノーガードという特性を持ち、爆裂パンチとの組み合わせは強力。また、根性の特性も厄介である。
「なるほど、根性の特性を発動させるために持ってるか」
「……おいおい、良いのか? そんなにちんたらしててよ。カイリキー、インファイトだ」
カラシの指示の下、カイリキーは瞬時にアリゲイツの眼前まで接近。そのままやたらめったらに殴りまくった。そして、アリゲイツはボロ雑巾のように投げ飛ばされてしまった。
「あ、アリゲイツ!」
「ははは、脆いもんだな。さあ、次はどいつが相手だ?」
「くそっ、こりゃ厄介だな。頼むぞスピアー!」
ダルマはアリゲイツをボールへ戻すと、2匹目を繰り出した。出てきたのは、きあいのタスキを腕に巻いたスピアーである。カラシは眉1つ動かさずカイリキーを動かす。
「はっ、お決まりの手だな。カイリキー、ストーンエッジ!」
「なんの、おいかぜだ!」
カイリキーは軽く跳ね、地面を踏みつけた。すると、スピアーの足元から岩の刃が突き出してきたではないか。この不意討ちをもろに受けたスピアーだったが、きあいのタスキでなんとか凌いだ。そこからおいかぜを呼び起こし、辺りに大風が吹き荒れた。
「それくらい計算済み。バレットパンチでとどめだ」
カイリキーは攻撃の手を緩めない。急加速しながらスピアーの前に躍り出て、軽めのパンチを当てた。ほうほうの体だったスピアーはそのまま地に伏せた。カイリキーは毒が回ってきたようだが、まだ戦えそうだ。ダルマは苦虫を噛んだような表情でスピアーを回収する。
「うぐ、戻れスピアー」
「どうした、さっきまでの威勢は。……晴れにできなけりゃ、お前のパーティなんざ約立たずばかりだろ?」
「う、うるさい! お前の知らない新しい戦い、見せてやるよ。ロコン、出番だ!」
ダルマは3匹目のポケモンを投入した。現れたのは、今朝仲間になったばかりのロコンである。ロコンの出陣と同時に、夏の暑さと照り返しが周囲を襲った。
「……新しいポケモンか。それよりなんだ、真夜中だってのに日差しが強くなっただと! まるで昼間じゃないか!」
「これこそ俺の隠し玉だ。火炎放射!」
ロコンはおいかぜに乗って走り、カイリキーの顔面に陽炎を放つほどの炎を放射した。自らが起こす日照りで強化された炎技にアリゲイツのアクアテール。自身の毒のダメージによりカイリキーは地響きを立てながら倒れこんだ。カラシは脂汗を流しながらカイリキーをボールに納める。
「ぐ、速いな。これでこちらは残り3匹か。……いくぜ、次はこいつが相手だ!」
・次回予告
激戦の続く2人の戦い。数で有利なダルマの手持ちは徐々に減り、遂にカラシと並んだ。果たして勝負の行方は。次回、第62話「雪辱の戦い後編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.42
カラシは高速バトン、ダルマは追い風。お互いやってることは似ているんですよね。まあ、130族が抜けるポケモンを使うあたりカラシの方が1枚上手でしょうけど。
ダメージ計算は、いつものようにレベル50、6V、アリゲイツ意地っ張りHP攻撃振り、キリンリキ@オボン臆病HP252防御68特攻4特防108素早76振り、カイリキー@毒々玉意地っ張り攻撃素早振り、ロコン臆病特攻素早振り、クロバット陽気攻撃素早振り、カモネギ陽気攻撃素早振り、イーブイ意地っ張り攻撃素早振り、ガラガラ@骨陽気攻撃素早振り、キマワリ@メガネ臆病特攻素早振り。キリンリキは、高速移動で100族スカーフ抜き、プレートメタグロスコメットパンチ耐え、残り特防の調整となってます。一応控え目ボーマンダの流星群も耐えます。で、アリゲイツのアクアテールでオボン発動。カイリキーの根性インファイトでアリゲイツ確定1発。ロコンの晴れ火炎放射とアリゲイツのアクアテール、毒々玉3ターン分のダメージでカイリキーは倒れます。
今更ですが、ストーリーの途中からアリゲイツの性格が無補正のものから意地っ張りになってます。同一個体ゆえにこのミスはまずいと思いますが、見逃してもらえれば助かります。
あつあ通信vol.42、編者あつあつおでん
やや暗がりの晩の公園で、学生とポケカの開発者がバトルベルト制作者の陰謀を交えて対戦を始める。全く意味がわからん。
何が何だか。俺の必要のなさを考慮して帰らさせてくれないかな。
さて拓哉の最初のポケモンはフワンテとヨマワル。一方で松野さんのポケモンはポチエナだ。
風見杯とかで3D投影機とは違い、ポケモンの左下に緑色のバーがついてある。その緑色のバーのすぐ上には、たとえばフワンテには「50/50」、ポチエナにも「50/50」とある。これはHPの数値だ。きっとダメージを受けるとバーは減っていく仕組みだろう。
「先攻は俺がもらう! ドロー」
拓哉の使うゴースト(超)タイプは基本的に悪タイプが弱点となっている。相性で既に負い目を背負っている拓哉だがどう戦っていくのだろう。
「手札の超エネルギーをヨマワルにつけ、ベンチにムウマージGL(80/80)を出す」
どうやら対戦を見ている限り、『バトルベルト』とやらはやはり3D投影機を簡易化にしたもののようで、風見杯と同様にポケモンが実際にいるように映像が見える。
「へぇ、ゴーストタイプねえ。じゃあ今度は私の番よ。まずは手札からスタジアム発動。破れた時空!」
松野さんはバトル場の左にあるスタジアム置きに破れた時空のカードを置いた。すると、先ほどまで夜の公園だった辺りが一気にダイパなどで見た槍の柱に変わる。そして松野さんの背景には破れた世界の入り口が現れる。
「このスタジアムがあるとき、お互いにその番に出たばかりのポケモンを進化させれるわ。その効果によって、ポチエナをグラエナに進化させる」
ポチエナがより立派な体躯に進化する。左下のバーの数字が50/50から90/90へと変わる。
「そして手札からスカタンクGを場にだす」
スカタンクG……。風見杯本戦一回戦を思い出す。半田さんに使われたあの毒コンボには苦しめられた。
「拓哉! 気をつけろ!」
「行くわよ。スカタンクGのポケパワー発動、ポイズンストラクチャー」
スカタンクGの体から紫色の霧が噴出され、バトル場のグラエナとフワンテを覆う。
このポケパワーはスタジアムがあるとき、互いのバトル場のSPポケモン以外を毒にするポケパワー。風見杯の時は相手もSPポケモンを使っていたから毒を食らったのは俺だけだったが、グラエナはSPポケモンではない。自分のポケモンを巻き込んでまですることか?
「そしてグラエナで攻撃。グラエナのポケボディー、逃げ腰によってグラエナが状態異常の時、ワザエネルギーは全てなくなる。やけっぱち攻撃!」
「な、なんだと!?」
グラエナが首をあちこちに振り回して暴れながらフワンテに頭から突進をかます。フワンテは「50+10」と書かれた数字を表記しながら思い切り跳ね飛ばされると、左下のHPバーがゲームのように減少して0になった。
「見やすくなっただろう?」
「ああ。さっきのフワンテに現れた数字は食らったワザのダメージだろ?」
「そう。通常のワザダメージは青文字で。弱点補正が入るときはさっきみたいに+10が赤文字で書かれる。×2とかもあるぞ」
しかし気になるのは笑顔で解説する調子の良い風見ではなく、明らかに苦しい試合運びにされてしまった拓哉だった。
「サイドカードを一枚引くわ」
「クソっ、だったらムウマージGLをベンチからバトル場に出す」
「そしてポケモンチェック。グラエナは毒なので10ダメージ受けるわ」
グラエナが体を苦しそうに縮める。紫色の文字で10と表記表記され、HPバーがわずかに削られる。しかしまだ80/90もあるのだ。拓哉はこれをどう攻略するか。
「俺のターン!」
山札からカードを引いた拓哉は、怒りで爆発しそうなほど不機嫌だった。
「クソッ! ヨマワルをサマヨールに進化させる(80/80)! そしてお前が出したスタジアムの効果でヨノワール(120/120)にまだ進化させる! さらに超エネルギーを……」
そう、ムウマージGLにはつけたくてもつけれない。ムウマージGLが超エネルギー一枚で使えるワザはサイコリムーブのみ。しかしこれは与えるダメージが10しかなく、グラエナは超タイプに抵抗力をもつため結果的に与えるダメージは0となる。ワザの効果も、コイントスを二回行い両方ともオモテなら相手のエネルギーを全てトラッシュするというものだがグラエナにはそのエネルギーが初めからついていない。
「ヨノワールにつけてターンエンドだ……」
渋った結果、控えのヨノワールにつけるだけで何も出来ない。
そしてグラエナは更に毒のダメージを受ける。これで残りHPは70/90となるも、拓哉からの攻撃はまだ一つも受けていない。
「私のターン。ベンチにポチエナを出し、さらに破れた時空の効果でグラエナ(90/90)に進化させる。そしてクロバットGをベンチに出す」
クロバットGはHP80/80。バトル場のグラエナの残りHPを上回るくらいだ。忙しそうに羽を羽ばたかす。
「そしてこの瞬間にクロバットGのポケパワー発動、フラッシュバイツ!」
視界が一瞬白に変わる。まばゆい光に思わず目を腕でかばう。ようやく目が見えると、ベンチにいたヨノワールのHPが110/120に変わっていた。
「クロバットGのフラッシュバイツはこのカードを手札からベンチに出した時、相手のポケモン一体にダメカンを一つ乗せる効果を持つ。これでヨノワールも圏内だ」
風見が関心するように解説をする。圏内、というのも、グラエナのやけっぱちは相手が自分よりつけているエネルギーが多いと与えるダメージが+30され、80ダメージになる。さらにヨノワールの弱点は悪。さらに30ダメージ食らうことになり一撃で倒されてしまう。ここまで計算されているプレイングは拍手物、流石だ。
「さらにユクシー(70/70)をベンチに出してポケパワー、セットアップを発動。その効果により手札が七枚になるよう、つまり五枚ドローする」
そう宣言すると、松野さんのデッキの上からカードが五枚突き出される。へえ、バトルベルト。中々便利だ。前の風見杯のやつは自分でカードを引かないと行けなかったし。
「そしてグラエナで攻撃。やけっぱち!」
ムウマージGLもフワンテと同じようダメージを受ける。50×2と表示され、80/80あったムウマージGのHPも一瞬で0/80となる。
「あら、ケンカ売ってこの程度? がっかりもいいとこね。これで私の残りのサイドは一枚よ」
「くっ……、俺の最後のポケモンはヨノワールだ。それでお前のグラエナにはこのポケモンチェックのときに毒のダメージを受けてもらう」
完璧、と言っても過言ではない松野さんのプレイングだが、たった一つだけミスを犯した。まだ可能性はある、かもしれない。今のグラエナのHPは60/90こちらも圏内だ。
「俺のターン! まだだ、ヨノワールのポケパワー発動。消えてなくなれ! 闇の手の平!」
ヨノワールがバトル場から姿を消すと、松野さんのベンチのグラエナの背後に移動していた。そして音も立てずグラエナを両手で握る。すると、そのままグラエナは音も無く消えてしまった。
「相手のベンチに四匹ポケモンがいるとき、そのうち一匹についているカードを全て山札に戻してシャッフルしてもらう」
「へぇ……」
松野さんが苦い顔をしてベンチに置いていたグラエナとポチエナのカードをデッキポケットに差し込む。すると、勝手にシャッフルし始めた。
「便利だろう?」
風見がやってやったと言わんばかりの表情、どや顔でこちらを見る。そんなに自信に満ちた表情をされるとちょっと腹が立つ。
「ヨノワールにエネルギーをつけて呪怨! このワザは相手にダメカンを五個、さらにプレイヤーが既に取ったサイドの数のダメカンを乗せる。よって合計七個だ! そしてこれはダメカンを『乗せる効果』なので抵抗力は無視できる」
今のグラエナのHPは60。そして呪怨によってのせられるダメカンは七、つまり70ダメージ。ようやく逆転の一手だ。HPを削られたグラエナは少しのたうちそのまま倒れていった。
しかも相手のベンチにはロクに戦えそうなポケモンもおらず、どれもエネルギー一つさえ乗っていない。巻き返せるか。
「よし、サイドを引くぜ!」
「私の次のポケモンはユクシーよ。私のターン、手札のサポーター、ハマナのリサーチを発動。山札の基本エネルギーまたはたねポケモンを二枚まで手札に加える。私はポチエナとユクシーを選択」
デッキの中途半端な位置からカードが二枚突き出る。デッキの中のカードを勝手にサーチもしてくれるのか! いちいち自分でデッキを見るよりよっぽど早い。これはすごいぞ風見!
「ポチエナをベンチに出し、グラエナ(90/90)に進化させる」
「なっ、バカな!? 三枚入れてるのか?」
「悪いわね、このターン引いたカードがグラエナだったのよ。運も実力のうちってことね。破れた時空をトラッシュして月光のスタジアムを発動!」
辺りがやりの柱から公園に戻る、のもつかの間で今度は薄暗い夜の草原に変わった。松野さんの上空には綺麗な三日月が浮かんでいる。
「月光のスタジアムがある限り、超と悪タイプの逃げるエネルギーはなくなるわ。ユクシーを逃がしてグラエナをバトル場に出し、スカタンクGのポケパワー、ポイズンストラクチャー発動。これでお互いに毒状態にさせるわ」
拓哉が右手に作った拳は外から見ても汗ばんでいるのが分かる。もうここから逆転は無い。拓哉の番が回ることはない。
「そして逃げ腰の効果でグラエナはワザエネルギーが必要なくなった。グラエナで攻撃。トドメよ、やけっぱち!」
「くっ……!」
グラエナの攻撃により吹き飛ばされたヨノワールに「80+30」のダメージ値が表示され、ヨノワールのHPバーは尽きた。
松野さんが最後のサイドを引き、勝負の決着と共に夜の草原やポケモンが消えて元の公園に戻る。
公園の街灯が、圧敗して項垂れる拓哉を悲しく照らしていた。
松野「今日のキーカードはグラエナよ。
特殊状態にさえなっていればワザエネルギーは不要よ。
やけっぱちとのシナジー性もバッチリね」
グラエナLv.47 HP90 悪 (DPt1)
ポケボディー にげごし
このポケモンが特殊状態なら、このポケモンのワザエネルギーは、すべてなくなる。
悪無 けったく 20+
この番に、自分が手札から「サポーター」を出して使っていたなら、20ダメージを追加。
悪悪無 やけっぱち 50+
自分のエネルギーの数が、相手のエネルギーの数より少ないなら、30ダメージを追加。
弱点 闘+20 抵抗力 超−20 にげる 0
───
松野藍の使用デッキ
「期待への謀略」
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「もぉ・・・」
キャルシが不機嫌そうに唸った。
「どしたのキャルシ?」
ボクは不思議そうに言った。
「だってルゥがぁ!!」
「へ?ボク?」
「またつまんない事で騒いでいるんでしょ」
ローズがうんざりそうにボソッと呟いた。
「ルゥがあたしのオレンの実たべたんだもんっ!」
「へ?ボクそんなことやってな・・・」
「俺は見たぞ」
ヴァイブが呆れ顔で言った。
キャルシがこっちをキッと睨んでいるのでボクは冷や汗をかくと近くの水たまりに向かって「とける」を使った。
「ルゥはこういう時だけ頭が働きますね」
フィックが静かに呟いた。
「お、ようやく見えてきた。ラジオ塔にコガネ城だ」
ダルマは前方にある建物を見上げた。何重もの白壁に囲まれた敷地にあるのは、権力を象徴する天守閣とラジオ塔である。ラジオ塔からはいまだ怪電波が垂れ流しにされている。
「そういや、発電所は止めたのに何故ラジオ塔は動いてるんだ? 自家発電でもしているのかな」
ダルマが疑問に思いながら歩いていると、突如彼の目の前に1本の骨が飛んできた。ダルマはすんでのところで回避したが、骨はUターンしていった。ダルマは辺りに呼びかける。
「だ、誰だ!」
「……俺だ」
「あ、お前はカラシじゃないか!」
ダルマの前に現れた人物、それはカラシとガラガラであった。ダルマには聞きたいことが色々あるようだが、まず1つ尋ねた。
「今までどこに行ってたんだ? 迷子になるようには見えないし、かといって1人で行動するほど無鉄砲でもない。何があったんだ?」
「……これまでの状況から考えても思いつかないとは、やはり凡人か。俺はがらん堂に雇われた身、お前達の動向を探っていた。仕事が済んだから雇い主の元に帰還しただけ、どこかおかしいところがあるか?」
「……な、な、な、なんだってええええ! お前は金を稼ぐためにセキエイに仕官したんじゃなかったのか!」
衝撃的なカミングアウトに、ダルマは思わず後ずさりした。一方カラシは、そうしたダルマをあざ笑うように話を続ける。
「ああ、あれか。つくづく馬鹿な奴め。考えてもみろ、ワタルという男が俺に提示した報酬は何だ?」
「報酬? 確か、俺達と同じでポケモンリーグの出場権だったよな。それがどうしたんだ」
「……ポケモンリーグの出場権。魅力的な条件であることに変わりはない。しかし、それが直接金になるわけではないのもまた事実。金を求めていた俺がそんなもので動くのは、端から眺めれば不自然極まりない。つまり、俺の行動は根本的に矛盾していたのだ! それに気付けなかったお前達の、なんと浅はかなことよ。ははははは」
カラシは、腹を押さえながら笑った。幸い、周囲に民家はないので市民が様子を伺うことはない。彼の発言を受け、ダルマは冷や汗を流しながらも首をかしげた。
「そ、そこまで堂々と自分の矛盾を主張するとは……。ん、待てよ。お前は以前ロケット団でも仕事してたじゃないか。そんなトレーナーをがらん堂は雇ったのか?」
「ふん、ようやくましな思考になってきたな。それについては心配いらない、ロケット団はがらん堂の下部組織だからな」
「え、ロケット団ががらん堂の一部だって!」
2度目の重大発言に、ダルマはのけぞり、そのままブリッジして1回転した。カラシは眉1つ微動だにせず説明をする。
「そうさ。がらん堂の弟子達がロケット団として悪事を働くふりをし、それをがらん堂が成敗する。がらん堂が高い支持率を誇った理由はこれだ。ロケット団がコガネを占領したというのも、がらん堂によるジョウト征服をスムーズに進めるための狂言だったのさ」
「……するとあれか、俺達はコガネに来た時から完全に利用されていたのか?」
「なんだ、今更理解したか。ま、わかったところで邪魔はさせねえけどな。今回の仕事は、コガネ市街に潜伏する反逆者を捕らえること。悪いが連行させてもらうぜ」
カラシは1歩前進した。彼の左手には手錠がぶら下がっている。ダルマは腰のボールに手をつけた。
「そ、そうはいくか。お前を倒してがらん堂を止めてみせる!」
「はっ、あくまで抵抗するか。……俺とお前は2回戦い、どちらも1勝1敗。あの時の雪辱、今果たすのも一興だ。相手してやろう」
カラシもボールを手に取った。2人はしばし睨み合うと、ほぼ同時に最初のポケモンを繰り出すのであった。
・次回予告
ダルマとカラシ、因縁の対決は熾烈なものであった。カラシの動きにかき回され、ダルマは中々得意のパターンに持ち込めない。果たしてダルマは彼に勝てるのか。次回、第61話「雪辱の戦い中編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.41
遂に60話到達。毎日投稿していたらこんなに早く進むのか……。
そういえば、この間文章の診断サイトで自分の作品をチェックしてみました。そしたら、概して硬い文章と言われました。接続詞の多用や体言止めをほとんど使わないこともよくわかりました。文体が似ているのは浅田次郎だそうです。まあ、わかりやすければそれに越したことはありませんけどね。
あつあ通信vol.41、編者あつあつおでん
はじめまして!ルビィという物・・・者です((
キャラ紹介でも。
ルゥ
シャワーズの♀。
天然で溶けるのが大好き。
ヴァイブ
ブースターの♂。
しっかり者で皆を強引にまとめる。
エリス
サンダースの♂。
自分の名前が嫌い。怒りっぽい。
ローズ
エーフィの♀。
ツンデレでイッサのことが好き。
イッサ
ブラッキーの♂。
物静かで影が薄い。
キャルシ
グレイシアの♀。
甘えん坊で子供っぽい。
フィック
リーフィアの♀。
いわゆる優等生タイプ。
チーム「なないろ」
こいつらの所属チーム。↑
とりあえずこのくらい。
ギャグ小説です。はい((
「いきますよ、ガバイト!」
ユミの3番手は軽やかに舞い降りた。首元から腹部にかけては深紅、それ以外は瑠璃色の皮膚を持つ。また、背中にはヒレを備えている。
「ガバイトとは珍しいな、しかも色違いか」
「……この子はタマゴから孵ったポケモンなんです」
ユミが漏らした一言に、ふとパウルは食いついた。
「タマゴ? それってもしや、俺があげた?」
「それはわかりません、タマゴは2つ持っていましたから」
「ふーん、そっか。じゃあそろそろ再開しようか、ウッドハンマーだ」
「ならばこちらは砂嵐、起こします!」
勝負は再び動きだした。先手はガバイト、周辺から土煙を巻き起こし、砂嵐が発生した。ウソッキーは砂嵐に隠れたガバイトを捉えることができず、ウッドハンマーは当たらなかった。
「くっ、外したか。ウソッキー、今度は当てるんだ」
「ガバイト、今のうちにつめとぎです!」
ガバイトはウソッキーから距離を置き、片方の爪でもう片方の爪をとぎだした。ウソッキーはこのチャンスを逃すまいと懸命に走り、なんとかガバイトにその腕を叩きつけることができた。
「今です、あなをほる!」
「なんだと、逃がすなウソッキー!」
ここで、ガバイトは地面に穴を空けて地中に潜った。ウソッキーはウッドハンマーで追撃するものの、すんでのところで逃げられた。それからしばし訪れた沈黙。砂嵐の舞い踊る音と2人の呼吸だけが耳に入る。
「……そこです!」
束の間の静寂は、ガバイトがウソッキーの足元から出てくることで破られた。ガバイトは地下から飛び上がり、ウソッキーを穴に打ち落とす。ウソッキーは背中から着地し、周囲の岩で傷つけられた。どうにか地上まではい上がったが、そこでウソッキーは力尽きた。パウルは目を丸くした。
「やりました、これで2匹!」
「こいつは驚いた。ウソッキーをたった1回の攻撃で倒すとはね」
「ふふ、私もあの時よりは成長しましたから」
「そうかい。では俺の3匹目はこいつだ!」
パウルはウソッキーをボールに戻すと、3匹目のポケモンを繰り出した。顔が2つあり、あごにはバツやマルの模様が施されている。また、妙な形のメガネをかけている。
「あれはマタドガスですね。こだわりメガネでしょうか、あれは」
ユミは図鑑をチェックした。マタドガスはドガースの進化形であり、高い防御を持つ。また、毒タイプでありながら特性の浮遊により地面タイプを克服。格闘タイプを受けるためによく使われる。
「防御が高いのは厄介ですが、こちらは能力を上げています。ガバイト、ドラゴンダイブです!」
「そうはいくか、めざめるパワーだ!」
ガバイト対マタドガス、またしても先制はガバイトだ。ガバイトはジャンプし、マタドガスの頭上からずつきをかました。マタドガスはこれをこらえ、体中からエネルギーを放出。これが顔面に直撃し、ガバイトはぼろきれのように動かなくなった。
「ガバイト!」
「……はっはっはっ、やはりめざめるパワーは素晴らしい技だ。せっかくだから教えておくと、マタドガスのめざめるパワーのタイプは氷。ドラゴンタイプは強いからね、対策はしっかりしとかないと」
「……油断しましたわ。あとはこの子だけ、しくじんじゃないよ!」
ユミの瞳が火事になった。彼女はガバイトを回収すると、最後の1匹を送り出した。夕暮れ時の紫色の体毛に、額の赤い宝玉、それに二股の尻尾が印象的なポケモンである。パウルはユミの豹変にうろたえながら、戦況を見通した。
「く、口調が変わったぞ。いやそれより、最後はエーフィか。俺はあと2匹、交代してもいいけど万が一の時マタドガスでは勝てないからな」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる。サイコキネシスでぶっ飛ばしな!」
ユミの最後の1匹エーフィは、パウルを待たずに攻撃をしかけた。マタドガスはサイコキネシスに捕まり、雑巾の如くたっぷり絞られる。そして、そのまま目を回して気絶した。パウルは冷静にマタドガスをボールに収める。
「さすがに耐えないか。それにしても、ここまで追い詰められるのは先生とのバトル以来だ。……いくぞ最後の1匹、スリーパー!」
パウルは4個目のボールを投入した。現れたのは、ふさふさした首輪に紐を通したコインを装備するポケモンである。
「スリーパーねえ、そんなのでアタイを止められるとでも?」
ユミは図鑑を眺めた。スリーパーはスリープの進化形で、エスパータイプながら高い耐久を持つ。反面決定力がやや低めで、補助技を絡めた戦術が求められる。また、幼い子供を襲うことがあるという。現に、パウルのスリーパーはユミに反応して興奮している。もっとも、彼女がガンを飛ばすとしゅんとなったが。
「止めてみせるさ。先生の邪魔はさせないよ」
「はっ、ならやってみな。エーフィ、瞑想で様子見だよ」
「隙だらけだ、催眠術!」
最後の対決、エーフィが機先を制した。エーフィは意識を集中させ、力を蓄える。他方、スリーパーは振り子を揺らし、エーフィを夢の世界へ引き込もうとした。ところが、眠ったのはスリーパーの方ではないか。パウルは予想外の事態に動揺した。
「ば、馬鹿な! 当たらないならまだしも、スリーパー自身が眠るなんて……!」
「あんた、何勘違いしてんの? この子の特性はシンクロじゃなくてマジックミラーなんだけど」
「ま、マジックミラーだって! 常にマジックコートを使った状態になるあの特性か……!」
「今更気付いても遅いよ、シャドーボール!」
エーフィはどこからともなく黒い塊を数個作り出し、サンドバッグ状態のスリーパーに撃ちまくった。スリーパーは吹き飛ばされ、パウルもまた被弾した。
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!」
「雑魚はすっこんでな!」
「……ははははは、俺もまだまだ弱いな。先生と渡り合えてると思ったけど、実は手加減してくれてたのか」
「パウル様……」
しばらくして、ユミはパウルの元に歩み寄っていた。パウルは乾いた笑い声をあげる。
「しかし、負けは負けだ。もう俺に抵抗する手段はない、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「……私はあくまでがらん堂のやっていることを止めに来ただけ、あなた方をどうこうするつもりはありません。ただ、1つ聞いてもいいですか?」
「ん、なんだい。プライベートな質問でも答えてあげるよ」
「……がらん堂がこのようなことを起こした理由を教えてください。あなた方が私達に濡れ衣を着せてまでジョウト地方を支配しようとした、その訳を」
ユミが問いただすと、パウルは何度も頷きながら言葉を発した。
「ほう、そりゃ確かに気になるよね。……実は、わからない」
「そ、そんな!」
「おいおい、そんな目で見ないでよ。この計画は先生が考えたわけだけど、理由を一切言わなかったんだ。今まではそんなことなかったのにさ。でも、あの時の先生はとても怖かったことは覚えてる。何かに対する怒りとでも言えばわかりやすいかな」
「怒りですか……」
ユミは腕組みしながら首をかしげた。しかし、頭に浮かぶのはクエスチョンマークばかり。考えるのを諦めた彼女は、パウルに礼を述べながら東北東の方角に目を遣った。
「ありがとうございます。ではそろそろ私は行きますので、おとなしくしててくださいね」
「ああ、そうしとくよ。君に逆らったらとてもかなわないてっ!」
最後にパウルの背中を蹴ると、ユミはがらん堂へと向かうのであった。
・次回予告
がらん堂幹部は全て倒された。にもかかわらず、街中を歩くダルマの前に1人のトレーナーが立ちはだかる。果たしてトレーナーの正体は、そして実力は如何に。次回、第60話「雪辱の戦い前編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.40
どう考えても現状ダルマ以上の力を持ってますよね、ユミは(種族値的に)。ゴロウやダルマと差別化しようとした結果がこの豪華な面子です。一応ダルマパーティなら有利に戦えるのですが……。
ダメージ計算は、ガバイト陽気攻撃素早振り、エーフィ臆病特攻素早振り、マタドガス控えめHP特攻振り、スリーパー控えめHP特攻振り。ウソッキーのウッドハンマーをガバイトは耐え、ガバイトのつめとぎ穴を掘るでウソッキーを確定1発。ガバイトのドラゴンダイブをマタドガス@眼鏡は耐え、返しのめざ氷でガバイトを確定1発。エーフィのサイコキネシスでマタドガスは確実に沈みます。そして瞑想エーフィのシャドーボールでスリーパーは確定2発。
あつあ通信vol.40、編者あつあつおでん
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