|
「突然の大雨と強い日差しにより、気圧が乱れています!」
テレビの前でレポーターが叫ぶ。レインコートを着て、必死でカメラをみて。カメラが映しているのはずぶぬれのレポーターと何かにつかまっていないと飛ばされそうなほどの強風。すでに何匹かのポケモンが飛ばされているところを映している。
「なお、この大雨で現在の行方不明者は500人以上にのぼり、死者も50人を越えています。明け方にミナモシティ沖の海が凍り付いたという現象も報告されていますが、今の所関係性は不明です。大雨による今後の警戒は必要です!」
テレビの中継が終わる。それと同時に本部から連絡が入った。退避しろと。海岸沿いのミナモシティ、カイナシティ、離島のトクサネシティ、サイユウシティ全てに、退避命令がたった今、発令した。
突然グラードンに投げ出された。蒸気で不快な暑さがへばりついてくる。体を起こす気力もなく、地面にうつぶせのまま目を開けた。グラードンがカイオーガを叩きのめし、カイオーガは勢いのある水圧でグラードンの腹を遠慮なく攻撃する。トレーナー同士の戦いや、野生のポケモンが攻撃するのとはまるで違う。殺意がそこに立ちこめる殺し合いだ。だからこそ相手より有利に立つためにグラードンはヒトガタの命を欲しがる。カイオーガも同じこと。
止めなければ。近くにある紅色の珠が言っている。ガーネットはそれに手を伸ばした。少しでも声を聞き取るために。
「残念だったな」
左手に重圧がのしかかる。思わぬ痛みにうめき声をあげた。そこに見えたのはユウキの靴。見上げれば勝ち誇った顔で、藍色の珠を持っていた。異常なほど光り輝いて。カイオーガの強さを物語っているように。
「こいつらを復活させたら後はお前らに用はない。後は捕まえるだけなんだからな」
さらに体重がかかる。手がつぶれそうだと悲鳴を上げた。苦しんでいるガーネットを嘲り笑うかのようにユウキは紅色の珠を遠くへと蹴飛ばした。手の届かない場所に。
「お前がヒトガタかなんだか知らねえが、余計な真似するなよ」
グラードンの咆哮が聞こえた。カイオーガが放った大砲のようなハイドロポンプの轟音と共に。カイオーガは動きの鈍くなったグラードンにさらなる追い打ちをかける。蒸し暑さが嘘のような冷えきったエネルギーがカイオーガから生み出され、グラードンへ襲いかかる。触れたところは霜がついたように白く見えた。
「そのままだ、カイオーガ。そのままこいつも消せよ。俺を偽物扱いしたやつらを!」
ユウキの言葉に導かれるかのようにカイオーガがさらに力を込める。グラードンから受けた傷からたくさんの血を流しながら。体に赤い模様を浮き上がらせ、目標をグラードンに定める。
直後、グラードンが最後の抵抗とばかりに雄叫びを上げる。洞窟全体が揺れて、冷たい水がしぶきを上げてあたりを濡らす。それを押さえようとカイオーガがグラードンにハイドロポンプを放つが、揺れる中で狙いを定めることができずに外れた。洞窟の壁が派手に崩れ、上からも小さな岩が降ってくる。
その破壊力に、人間たちは言葉が出ない。それぞれの目で、ただじっと2匹を見ていた。ユウキの持つ藍色の珠はさらに青い光を増している。
「それだけはやめろ。これ以上グラードンに恨みの心を渡すな!」
紅色の珠からそう言われた気がした。頭を持ち上げるだけで精一杯の体力では負けるかもしれない。けれどガーネットは解っていた。。2匹に気を取られてこちらの動きを察知していない今だけがチャンス。逃したらもう後はない。
立ち上がる。息を止めて力を入れて。そしてユウキの背後から飛び掛かり、腕を首にまわした。突然のことにユウキも離そうとするが、ガーネットの力にはかなわない。彼の手から離れた藍色の珠は遠くへと転がった。
先ほどまでの弱い力がどこにいっていたのか不思議なほど、今のガーネットは力が強かった。まるでグラードンのように。そのまま体重を利用し、後ろへ引く。気道が締まり、ユウキの苦しそうな息が聞こえる。けれどもガーネットは容赦しない。
「人殺しが!」
ユウキが腕を振りほどこうと力を入れる。
「てめえが何をしたのかわかってんのかよ!てめえみたいなクズ、死んでも誰もこまらねえよ!てめえが奪ったもんはてめえの命で償え!」
心の奥底から湧いてくる罵る言葉。そしてそれを実行するための力。グラードンの声もカイオーガの声も聞こえない。目の前には苦しみから逃げようとするユウキしか見えない。
ずっとこの時を待っていた。犯人に復讐する時を。親友の命を奪い、自分の心を傷付けたことへの怒りをユウキにぶつける。そして望みは、彼の死をもって償わせること。
「死ね!てめえは死んで当たり前なんだよ!」
さらに締め付けた。ユウキの抵抗が少し弱くなった。もう少しで彼の命も消える。それこそが一番の手向け。
「やめろガーネット!」
彼女の背後から、二人を引き離す力が加わる。あのびくともしなかった力が嘘のように離れ、ユウキは地面に手をつき、酸素をたくさん求めるように呼吸をする。
「何するのよ!離して!あんたなんかに解るわけない!」
しめつけていた手を、たった今に来たザフィールにしっかりと握られていた。ガーネットが何度も振り払おうとしても、彼は離さなかった。地面にすわり、彼に優しく抱き込まれて。
「俺には解らないかもしれない。けど、ガーネットの手を汚す必要なんてない」
大きくユウキがむせ込んだ。ザフィールは黙って立ち上がると、彼の前に行く。ユウキが見上げると尋常ではないほどの威圧感で、見下ろされていた。
「マツブサとどういう関係かは知らねえ。だがお前もマグマ団なら俺の敵だ。容赦はしない。死にたくなきゃ失せろ」
ユウキは息を飲み込む。この状況では明らかに不利だ。ザフィールが一歩前に出る。思わずユウキは後に下がる。
「ガーネットと違って、俺はすでに色々やってる身だ。今さら殺人が加わろうが大したダメージじゃねえよ。それに今だったら事故に見せかけることだって簡単だからな」
「お前……」
何かを言おうとしていた。けれどもザフィールの冷たい視線がユウキの言葉をつぶす。最後までザフィールの目を見ていた。そして数秒後、うしろも振り返らずに走って行く。その速さはザフィールと並びそうだった。
黙ってザフィールは転がった藍色の珠を拾う。水に濡れてすこし冷たい。そして離れたところにある紅色の珠も。 二つは一層光を強め、中に浮かぶ模様をくっきりとさせている。それはおくりび山においてあった時は無かったもの。グラードン、そしてカイオーガが暴れていることの印。
「立てるか?」
紅色の珠を差し出す。視線を合わせるようにしゃがんで。少しの間じっと見つめ合い、やがて差し出された手を掴む。
「終わらせよう。あんなもの、現代にいていいポケモンじゃない」
ガーネットを支えるようにザフィールは手をそえる。彼女も離れないよう、彼をしっかりとつかんで。そして二人は何も言わずに、モンスターボールに手をかけた。
「戦えシリウス」
「終わらせろスバッチ」
2匹のポケモンが、巨大なグラードンとカイオーガへと向かう。シリウスはその力でグラードンを、スバッチは素早さでカイオーガの狙いを狂わせて。トレーナーの声が咆哮の合間に聞こえる。
「濁流で押し流せ!」
「影分身でカイオーガを惑わせろ」
傷つけ合い、それも癒えてないうちに他のポケモンからの攻撃。グラードンも傷口にえぐられるような濁流には悲鳴に近い鳴き声をあげる。そのままさらに攻撃しようとした時に、グラードンが振り払うかのように、シリウスをきりさく。体重もあり、がっしりとしたラグラージの体が吹き飛ばされる。
「ありがとうシリウス」
代わりのポケモンを。一度くらったらもう二度目はない。それだけ巨大な力だ。それにまだグラードンを封じ込めるには体力がありすぎている。素早くて力もあるポケモン、キノガッサがガーネットの隣に現れた。
ザフィールもスバッチの動きをずっと追っている。撃ち落とそうと何度もカイオーガはハイドロポンプを撃つ。実体が見えず、当たらないことにイライラしているのかカイオーガはシャチのような大きなヒレを動かした。水しぶきが何度も跳ねる。
「つばめ返し!」
カイオーガの傷を狙え。そう指示した。素早い動きで敵との距離を確実に詰める。右のヒレの大きく裂けた傷口。まだ血が流れているところへとオオスバメの紺色が風となって斬りつける。その痛みに暴れ、翼にカイオーガの体が当たった。
「戻れ!」
鳥は飛びやすくするために骨が軽い。オオスバメは戦う鳥ポケモンであるから、普通の鳥よりは丈夫だが、あのカイオーガのヒレを何度も受けられるほど強くはない。その直後、カイオーガのハイドロポンプがザフィールへと向かう。それを受け止めたのは、カイオーガより大きなホエルオー。
「転がれイトカワ!」
体を横にして、カイオーガへと転がる。転がっているのか、のしかかりなのかもう区別などつかない。そんなのどうでもいい。カイオーガを確実に弱らせることができるなら。
マッハパンチがグラードンの顔をとらえる。一見して強くなさそうであるのに、キノガッサはとても力が強い。油断していたのか、グラードンがうなる。けれども腹の底から響かせるような声ではない。ガーネットは違う指示を出す。
「リゲル、キノコの胞子!」
しっぽのような部分から、大量の粉が飛び散る。この湿気が無かったら、自分の方にも飛んで来そうなほどの。
ホエルオーの下敷きになりながらも、なお攻撃しようと狙ってくる。けれどホエルオーの体にはカイオーガの攻撃がほとんど効かない。ザフィールのあらたな指示で、カイオーガの正面に来る。
「捨て身タックル!」
咆哮ではなかった。うめき声のような声、しかも先ほどより小さい。確実に弱ってきている。このままならいける。ザフィールもガーネットも、相手の体を強く握りしめた。もう離れないように。
「消えろ2匹とも!」
紅色の珠をグラードンに、藍色の珠をカイオーガに投げつける。ヒトガタだと言われた時に意味が解らないと戸惑ったことが嘘のように。腹をくくり、覚悟を決めて二つの宝珠に願いを託す。
紅色の珠の光がグラードンをとらえ、藍色の珠の光がカイオーガをとらえる。その瞬間、ガーネットの体から残りわずかな体力を奪い尽くし、ザフィールの体には全身が焼けるような痛みが走る。それでも二人は無理だとは言わなかった。二つの宝珠と、相手を信じて。
やがて光が治まる。そこにはもう2匹の姿は無かった。あるのは模様の浮かばない紅色の珠と藍色の珠。かなり痛みは残り、体も動かしにくいが、全てが終わったという安堵感が残る。
「終わったな、終わったんだよ」
ザフィールが思わず言葉に出したのと同時に、倒れる音が聞こえた。
「……ようやく見つけたよ、ユミちゃん」
「パウル様」
ユミとパウルは、コガネ港にて対峙していた。打ちつける波の音だけが響く、静かな時間である。
「しかし、なんとも惜しいね。才能ある美人を葬るのはさ」
「か、からかわないでください。私もパウルさんとは戦いたくなかったです」
「そう言ってもらえるだけでもありがたいね。……さて、最後にもう1度確認しておこう。がらん堂に来ないか? 君のように真面目で観察力のある人は大歓迎さ」
「……申し訳ありませんが、それはできません」
ユミは軽く頭を下げた。それを受けてパウルは首を捻る。
「どうして? 君にとって良い環境は揃ってるんだよ。ただ各地を回るだけじゃ得られないものが、がらん堂にはあるんだ」
「確かにそうかもしれません。ですが、私は他人に迷惑をかける人間になるつもりはありません。私はあなた方とではなく、旅で知り合った方々と道を共にします」
ユミの声は凛としており、力強さがあった。これを聞いたパウルは、右手にボールを持った。彼の瞳には炎が宿り、臨戦態勢と表現して差し支えない。
「……そうかい。ならばもう何も聞くまい。もったいないけどここで捕まってもらうよ。エテボース!」
「そうはいきません、ベイリーフ!」
パウルはボールを投げた。すかさずユミも繰り出す。ユミの先発はベイリーフ、パウルの1匹目は2本の尻尾を持つポケモンだ。
「あのポケモンは……」
ユミは図鑑を開いた。エテボースはエイパムの進化形であり、高い素早さと攻撃を持つ。特性のテクニシャンにより様々な技で大ダメージを与えてくる。特にねこだましは、ポケモンによっては体力の半分以上持っていかれることもある。
「まずは手堅くねこだましといこうか」
先手はエテボースだ。エテボースはベイリーフに接近して1回拍手をした。そしてベイリーフが怯んだ隙に尻尾で叩きつけた。怯んだおかげでベイリーフは技を使えなかった。
「ベイリーフ、しっかりしてください!」
「さらにそこからとっておきでとどめだ」
エテボースの攻撃はこれだけでは止まらない。エテボースは両手首を合わせ、手のひらからエネルギーを放った。この攻撃を直撃で受けたベイリーフは、なんとバトル開始から1分も経たずにやられてしまった。
「ベイリーフ!」
「ふふっ、どうだい、先生とまともに勝負できる俺の腕は。もう命乞いしても助けてあげないからね」
「命乞いなんかしません! ヌオー、出番です!」
ユミはベイリーフをボールに戻すと、次のポケモンを投入した。ずんぐりした体形のヌオーの登場である。パウルは冷静に指示を出した。
「今度はヌオーか。エテボース、とっておきだ」
「カウンター!」
エテボースは再度手のひらからエネルギーを放出した。これに対し、ヌオーは腕で払いのけ、反射した。エネルギーはエテボースの顔面に衝突し、エテボースは伸びてしまった。パウルは思わず身構える。
「おっと、こりゃびっくり。良い技覚えてるね。じゃあ俺の次のポケモンはこいつだ、ウソッキー!」
パウルはエテボースを回収すると、2番手のポケモンを送り出した。胴は樹木のようだが、腕は緑色をしている。
「あれはもしかして……」
ユミは図鑑に目を通す。ウソッキーはウソハチの進化形で、見た目に反して岩タイプである。無駄のない能力を備え技も優秀なので、活躍が期待できる。ただし遅いのでその点は注意する必要がある。
「なるほど、素早さは低いのですね。では先制しますよ。ヌオー、じし……」
「遅い、ウッドハンマーだ!」
驚くべきことに、ウソッキーはヌオーの倍近いスピードで走った。そしてヌオーが技を使う前にタックルをかました。ウッドハンマーは草タイプの攻撃技、ヌオーには効果抜群である。たまらずヌオーは地に伏せるのであった。
「ヌオー!」
「ははっ、戦況は俺に有利か。どこまで戦えるかな? ユミちゃん」
「……まだまだ私とポケモンは戦えます! いきますよ、ガバイト!」
・次回予告
余裕綽々で戦うパウルに対し、苦戦を強いられるユミ。彼女にチャンスはいつ来るのだろうか。次回、第59話「避けられぬ戦い後編」。ユミの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.39
今更ですが、パウルの名前は海外でよくある名前が由来です。パウロというのがあまりにもメジャーなのでパウルにしたのですが、こちらも使う人が割に多いだと……。
ダメージ計算はレベル50、6V、ベイリーフ穏やかHP特防振り、エテボース陽気攻撃素早振り、ヌオー意地っ張りHP攻撃振り、ウソッキー陽気攻撃素早振り。エテボースのテクニシャンねこだましととっておきでベイリーフを確定で倒します。ヌオーのカウンターでエテボースは軽く一撃。ウソッキーのウッドハンマーでヌオーはどうあがいても一撃。
あつあ通信vol.39、編者あつあつおでん
「ゆけ、リザードン!」
ワタルは3匹目のポケモンを繰り出した。両肩から生える翼に尻尾の炎がトレードマークのポケモン、リザードンである。サバカンは腰にあるボールに手をつけた。
「……いい加減学習したらどうだ、チャンピオンよ。戻れハッサム、出番だマンタイン!」
「身代わりだ!」
サバカンはハッサムを戻し、新たなポケモンを投入した。扁平な体型で非常に大きな胸びれを持つ。また、テッポウオがくっついている。カイトポケモンのマンタインだ。一方リザードンは人形を作り出し、左手に持った。サバカンは思わず目を丸くする。
「身代わりとは、慣れないことはしないことだ。身を滅ぼすのみよ」
「それはどうかな? リザードン、かみなりパンチ!」
「なんと!」
リザードンとマンタイン、先手はリザードンだ。リザードンは右腕を帯電させ、マンタインの顔面を殴りつけた。電気はマンタインの体に流れ込み、みるみるうちにダメージを蓄積させる。そうして、マンタインは力なく倒れた。
「よし、まずは1匹だ」
「……これは驚いた。かくのごとき懐刀を持っていたとは」
「どうだい、僕の腕は」
「ふん、自惚れるな。出でよデンリュウ」
サバカンはマンタインを回収すると、再びデンリュウを場に送り出した。ワタルは不適な笑みを浮かべ、リザードンに指示を出す。
「……今こそチャンスだ。リザードン、集中しろ!」
突然、リザードンの周囲が揺らぎだした。尻尾の炎はリザードンの頭に届くほど強くなり、辺りを熱気で包み込む。
「何をする気かは知らぬが、そうはいかん。デンリュウ、10万ボルトだ」
デンリュウは充電をすると、まばゆい電撃を放った。電撃は空気を押し退けリザードン目がけて迫る。
「甘い、ガードするんだ!」
ここで、リザードンは左手の身代わり人形を前方に突き出した。10万ボルトは人形に命中し、人形は消えてしまった。だがリザードンには何の被害もない。
「きあいパンチ!」
リザードンはそのまま、隙だらけのデンリュウに接近。唸る拳を腹に叩きつけた。先程の地震によるダメージもあったため、攻撃を受けたデンリュウは立つので精一杯だった。だが、しまいには地響きとともに崩れ落ちた。サバカンの頬に脂汗が滴る。
「ぐ、デンリュウ!」
「……さあサバカン、君の手持ちはもうハッサムだけだ。……あくまでも抵抗するつもりかい?」
ワタルはサバカンの意志を確認した。サバカンは静かに首を縦に振り、こう口を開いた。
「愚問だな。某は誇り高きがらん堂の一員、命に替えても師に背くような真似はしない」
「そうか。ならばもう何も言うことはない、決着をつけよう」
「……ハッサム、頼むぞ」
サバカンはデンリュウをボールにしまうと、最後の1匹ハッサムに全てを託した。彼は一縷の望みを持って怒号をあげる。
「バレットパンチ!」
「これで終わりだ、リザードン フレアドライブ」
ハッサムはハチマキを棚引かせながら加速、リザードンにハサミをねじりこんだ。リザードンはそれを悠々と受け止め、全身に火炎をまとう。それからハッサムに突進した。リザードンは歩を止めることなく前進し、サバカンもろとも業火にさらした。
「う、うぐおぉぉぉぉぉぉおおおお!」
「……これがチャンピオンの実力だ。わかってもらえたかな?」
数分後、決着がついていた。ワタルはサバカンに近寄り声をかけた。サバカンは仰向けで虫の息となっている。
「……ああ、確かに我が身をもって思い知らされた。貴殿は強いな」
「ありがとう。……ところで1つ聞いていいかい。何故君達がらん堂の人達はそこまでサトウキビに忠実なんだ? 離反しようとは思わないのか?」
ワタルの問いかけに、サバカンは胸を張って答えた。その眼は子供のように光り輝く。
「そのようなこと、考えるはずなどない。……師は、向上心はあるが事情により学ぶことができない若者を養い、好きなだけ勉強させる。某も師に救われた1人だ。当然、我等は師の恩義に報いるために様々なことをした。貴殿等を迎えうつのもそういった活動の1つに過ぎない」
「……そうだったのか。だとしたら尚更わからないな、彼は何故急にこのような暴挙に出たのか」
「ふん、気になるなら師に直接会うことだ。まあ、生きては帰れぬだろうがな」
「お、忠告ありがとう。じゃあ僕はそろそろ行くよ、がらん堂にね」
ワタルはそう言い残すと、1人がらん堂へと移動するのであった。夜はまだまだ長い。
・次回予告
ユミの前に現れたのは、がらん堂のパウルであった。サトウキビに匹敵する力を持つ彼のバトルは、実に厄介なものであった。次回、第58話「避けられぬ戦い前編」。ユミの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.38
私が出す女の子キャラは、大体自分好みに設定している気がします。例えばユミはおしとやかだったり清楚な点ですね。ただ真面目なのも好きですが、立ち居振る舞い1つ1つに現れる優美な感覚を重視していると思います。あとは眼鏡っ子等も好みです。次回作では必ず……おっと、危ない危ない。
ちなみに、ダメージ計算はリザードン陽気攻撃素早振り、マンタイン穏やかHP特防振り。リザードンのきあいパンチとギャラドスの地震でデンリュウが乱数で落ちます。雷パンチはマンタインを確定1発。フレアドライブでサバカンもろともハッサムを一撃。
あつあ通信vol.38、編者あつあつおでん
七賢人と戦っている6人と別れ、ゲーチスの元へと走るマイコ。
(みんな大丈夫なのかな……?いや、心配は無用なはず。みんな絶対勝ってくれるんだ。私が信じないで、誰がみんなを信じるの?)
そんな彼女の前に、何と、100人以上の下っ端が待ち構えていたのだ!
「相手が多すぎるじゃん……」
「来たぞ!反逆者は1人だ!」
「プラーズマー!かかれ!どんな奴でも数で圧倒すれば怖くない!」
そう言うなり、下っ端どもはみんなでポケモンを出してきた。ざっと200匹以上はいるに違いない。
それを見たマイコは腹をくくり、自分のパーティを全員出した。
「エンブオー、ウォーグル、ムシャーナ、フシギバナ、ラグラージ、ライボルト!みんな、一斉に攻撃して突破するよ!」
マイコは6匹に指示を発し、立ち塞がる相手を容赦なく叩きのめしていく。
その様は、女帝というに相応しいものだ。
「火炎放射!ツバメ返し!10万ボルト!サイコキネシス!マジカルリーフ!熱湯!……」
そして、30分ほどたった頃だった。
「はあ……はあ……何とか……勝った……」
下っ端はみんな一様に倒されていた。だが……
「ごめん……みんな……ゲーチスの……ところ……に……辿り……つけそうに……な……」
マイコの方にも限界が来ていた。いくら下っ端といえど、マイコ1人に対して100人相手では精神力の消耗も早かった。そのままフラッと倒れこみ……
「……じょうぶですか、大丈夫ですか?」
「……!?」
マイコは見慣れない部屋で目を覚ました。状況が全く掴めない。
(あれ、さっき、私、倒れたはず……何でベッドにいるの?)
彼女の目の前には女性が2人。桃色の髪の人と金髪の人だ。そして気付く。
(腰につけてるはずのボールがない!!)
「あのっ、私のボールをどこにやったんですか!?もしかして、プラズマ団に渡したとか」
マイコがまくしたてると同時に、桃色の髪の人がすっと立ち上がり、トレイに乗った6個のボールを運んできた。
「心配はいりません。6匹ともあちらの回復マシンで完全回復させておきました」
マイコは自分の元に運ばれたボールを覗き見る。6匹とも皆、自分の主人が無事だったことを喜んでいた。
「良かった……無事だ……みんな私のポケモンだ」
心配が1つ消えて、マイコも少し安心していた。そして、今度は金髪の人が薄緑色の薬湯らしきものを持ってくる。
「これはトレーナーの気力・精神力を回復させるという秘湯です。飲んでください」
「え……でも」
色からして苦そう、という言葉が出そうなくらい、ゲテモノ系の雰囲気があった。
しかし、マイコは腹を決めて、ぐいっと一気に飲み干した。
「んっ、え!?甘い!!……ああ、何か力が湧いてくる感じがする」
体力も気力も十分なところで彼女は2人に聞く。
「あなた達は一体、誰なんですか?」
まず答えたのは桃色の髪の女性。
「私は、愛の女神という者です」
次いで、金髪の女性が口を開く。
「私は平和の女神と名乗っております」
「愛と平和……確かに、お二人とも美しいですからね……それはそうと、何故私を助けたんですか?プラズマ団であるあなた達にとって私は敵とも言える存在ですから、私を幹部に突き出すという手段もあったでしょう?」
マイコの質問に、愛の女神はこう言った。
「行き倒れる者に、敵も味方もありません。ましてや、1人で100人を相手にして倒れない方が普通ではないですからね」
「は……はあ」
今度は平和の女神が話し出す。
「このプラズマ団という集団の中にいて、私達はフェアな立場でありたいのです。ですから、死地に飛び込んでいったあなた方を助けるという使命が私達にはあるのです」
マイコはそれを聞き、立ち上がってすぐにでもゲーチスの元へ向かいたい気持ちになったが、大事なことに気づく。
「ここは……どこの場所にあるんです?プラズマ団の城の中、ということだけは分かっているんですが……」
「ここはゲーチスの待つ場所の1フロア前の部屋です。もうあと少し行けば、辿りつけるはずです」
「あなたも、あなたの仲間も十分に強いのです。もっと自分に自信を持ってください。ゲーチスは強いですが、あなたならきっと倒せるはずですよ」
2人の励ましの言葉に、マイコは笑顔でこう言った。
「色々と、ありがとうございます!……それでは、行ってきます!!」
マイコは走り出した。
いざ、最終決戦の場へと。
次へ続く……。
マコです。
久し振りにマイコちゃん、登場。
ゲーチスの元へ向かうまでに紆余曲折あるんですね。
さて、次回、万全の状態になったマイコちゃんは、いよいよゲーチスと戦います!
勝負はどうなるのか!?乞うご期待!
四
僕はその時、本当の走りとは風になることなのだと分かった。
風になっている。今、僕は風になっている。風として大地を駆けている。激しく身体が上下しており、本当にちゃんと掴まっていないと振り落とされてしまいそうだった。何よりも速く、速く、速く突き抜けていく。目まぐるしく風景は変わっていって追いつけない。その圧倒的な強さに僕は必死にしがみつきながら、同時に自分がどれだけ小さく弱者であるかを改めて思い知らされる。
僕は風になっている。
風になったウインディと僕は一体になって、駆け抜けていく。
どれくらい時が経ったろうか、ある時突然ウインディの走りは減速した。ここは一体どこなのだろうか、それすらも僕にはよく分からない。僕はあまりの速さに顔を上げていられず、ずっとウインディの毛に顔を埋めていた。僅かに横目で移る景色を捉えていただけだった。僕を落とそうとしているかのような強い風は止み、遂に激しい揺れは完全に無くなる。
埋めていた顔を上げる勇気がなかなか込み上げてこなかった。もう見てもいいのか、悪いのか。まるでかくれんぼをしていて、僕は鬼でもういいかいと言っても、もういいよと声が返ってこない時の不安にそれはとてもよく似ていた。
「着いた」
掠れた声が僕の耳に届き、途端に安心感が僕の中に満ちる。かくれんぼで言えば、さあこれからあの子を探しに行こうと心を弾ませるあの感じ。僕は伏せていた耳を立てて、その瞬間大きな耳に少し強く温かな風が吹きこんできたのが分かった。僕の知らない風だった。
恐る恐る顔を上げていって、しかし風景を視界に入れた瞬間僕の世界は暗闇に太陽が差すようにぱっと照らされた。
うわ、臭い! 新鮮な空気に鼻が触れた瞬間、嗅いだことのない鼻がぴりっと辛くなるような匂いが飛び込んできた。匂いというより本当に分厚い空気そのものが入ってきた感じだ。
その臭さに僕は嫌悪感を覚えたけれど、それはすぐに消え去る。嗅覚よりも視覚の方が衝撃的だったからだ。
「うみっ……!」
僕は声を発した。ウインディは深く頷いた。
「そう、これが海だ」
ウインディの立っているのは切り立った崖の先だ。それがどんな高さであるかそんなのはよく分からないけどとにかく高い。その目下、そして遠くずっと遠くの世界まで深い深い青が続いていた。空との境目が真っ直ぐ横に伸びていて、太陽の光を受けて煌めいている。青の中で引き立つ白い波があちこちで上がり、視線を横に逸らせば僕等のいる絶壁に波が弾けているのが分かった。それは荒々しく力強い。けれど視線を向こう側に戻せば高く打たれる波とは裏腹に穏やかでなんと綺麗なものだろうか。鼻につくしょっぱい強い風が激しく僕を揺らす。温い風だ。森の中では感じた事の無い風だ。耳を傾けるときゃあきゃあという高い生き物の声がいくつも飛び交っている。海上を沢山の白い鳥が飛びまわっていた。いいなあ羨ましいなあ。きっと気持ちいいんだろうなあ。僕も鳥だったならもっと向こう側まで行けるのに。
なんでかな、ちょっと森を離れただけなのに、こんな場所があったんだということを初めて知って感動するやら嬉しいやらちょっと怖いやら、心臓の高鳴りが止まない。どきどきとして呼吸すらも苦しくなりそう。
僕の知らなかった場所。僕が立ち入ろうともしなかった場所。なんて豪快で、壮大なんだろう。
「広いだろう」
ウインディは感慨深そうに呟いた。僕は深く頷いた。
「海の向こうに更に陸があり、様々な生き物が住んでいる。私も個性豊かな色んな者に出逢ってきたよ」
ああ、また懐かしそうな目をしている。
「こうして海を間近にすると、本当に戻ることはできないのだと実感させられる。もう海を渡る手段が私にはないんだ」
「じゃあ、どうやってここにやってきたの?」
僕は思わず口走ってしまい、直後に少し後悔する。立ち入ることができないと思っていた境界線を僕はなんと呆気なく越えてしまったんだろう。
ウインディは視線を僕に移し、細い目で見つめてくる。風に吹かれてウインディの長い毛も大きく揺れている。それのせいか、顔に暗みがかかっているように見えた。大きく重い口がそっと開く。
「……私には主人がいた。人間の主人が」
僕は耳を疑い、もう一度ウインディの言葉を自分の中で噛み砕く。ウインディははっきりと人間と言った。海に対する感動の嵐は一瞬にして止んだ。そして身を硬直させる。心が重く静かな湖へと沈んでいく。冷めていく一方で、心臓の鼓動が激しくなっていく。鋭く鈍い記憶が叩いてくる。
人間。
僕は必死に表情を平静に保ちながら、自分の中でその言葉を唱えた。
人間。人間。
僕とお母さんを引き離した、人間。
じゃあ、ウインディは人間の仲間ということ?
「彼と共にこの地を踏んだのだ。船を使って」
頭の中が混乱しているせいかウインディの言葉が雑音に埋もれているように聞こえる。隣にいるのに急にとても遠くに感じる。あの日と同じ太陽が僕等を照りつける。炎の唸るような熱や音が僕の中で轟く。お母さんが必死に僕を守りながら囁くような声で僕を励ます声がこだます。大丈夫、大丈夫だから、と何度も言う声がだんだんと小さくなって、遂には聞こえなくなってきて、そしてお母さんは消えた。光に包まれて巨体は小さな球へと吸い込まれていった。音は、無かった。静寂の中でかつんと球が地面に落ちた音が響いた。ああ、色褪せていたかと思っていたけれどはっきりと僕は覚えている。モノクロになんかなっていない。忘れるもんか、あの虚しさも悔しさも淋しさも、そして怒りも。混沌とした記憶を追っていくうちに負の感情が膨れ上がっていく。
その時突然、僕の顔が優しく撫でられる。ウインディが顔を寄せてきたのだ。はっとしてウインディの方を見ると、僕の身体の何倍もの大きさの顔面がそこにあり思わず萎縮してしまう。
「落ち着け、表情が強張っているぞ」
掠れた声で囁く。そんな声質で僅かな声量だと、耳を澄まさなければ聞こえなかった。
僕はじっとウインディ軽く睨む。ウインディは睨み返すことも憐れむこともせず、ただ黙って無表情で僕を見つめていた。
上空で響く鳥の鳴き声が遠くなっていく。波の音もなんだか小さい。
「どうして人間といたやつがここにいるんだよ」
声を低くして少し脅すような構えで僕は呟いた。聞こえただろうか、いや、きっとウインディの大きな耳なら掴んでいるはずだ。証拠にウインディの目が僅かに細まる。
「人間なんて嫌いだ。だいっきらいだ!」
打って変わって力の限り僕は叫んだ。どろどろとした感情が一気に溢れだす。けれどウインディは表情を殆ど変えない。何も言わない。それが苛立ちを呼ぶ。何か言ってこれば僕も飛び出しやすいのに、一見平然としてる。
「人間と関わってるなら出て行けよっここは……僕等の場所は僕等のものだ、余所者は出て行けばいいんだ!」
勢いのあまり唾が飛び出す。
もう何も失いたくない。失うくらいなら何も変わらないでいた方がいい。もう海なんてどうでもいい。外の世界なんてどうだっていい。今まで通りいればそれでいい。
ずっとそうしてきたのに何かが狂うように変わり始めた。そのきっかけは目の前の獣だ。既に僕自身も、森の雰囲気も彼を中心として変わってしまった。外の世界は何をもたらすか分からない。けれど事実なのはお母さんを奪ったのは外の世界、すなわち人間だ。それは紛れもない事実。もういい、懲り懲りだ。外界なんて懲り懲りだ。そしてウインディも外界の存在だ。だから出ていけば丸く収まるんだ。また日常が戻ってくる。
それを望むべきなんだ。
ああ、なのに、どうしてだろう。針のような言葉を投げつけているつもりなのに、どうして何も言ってこないんだ。
これじゃあ、僕がただ喚いているだけのように見えるじゃないか。
「あんたの主人だってまだ近くにいるかもしれないだろ、探しに行けばいいじゃないか! それもせずにどうしてここにいるんだよ!」
その瞬間何か言おうと相手の口が開いた。が、何も出てくることはない。
しかし口よりも大きく動いたのは彼の耳、直後に体勢を低くし僕の傍に僅かに跳んだ。身体の方向を真逆、つまり僕と同じ向きに転換した。突然動き出したために僕は大きく震えた後に硬直した。視界を殆どウインディの身体が覆う。
なんだよ、と言おうとするとウインディが足を僕の前に出し制す。情けなくなった僕は身体を縮こまらせながら、ウインディが低く唸っているのが分かった。表情は見えないが、恐らくは睨みつけていると想像できる。視線の相手を探るように僕はウインディの身体から顔を覗かせると、目を丸くした。
人間だ。
傍に柔らかい緑色の巨大な蛇のような生き物を携えて、こちらを見つめている。まだここから数メートル距離を置いているが、僕はまったく気付かなかった。周りを全然見ていなかった。ウインディは僕の話を聞きながら他の僅かな音を感知したのだろう。
相変わらず吹きつけてくるしょっぱい風がぶわりと束になって襲ってくる。
記憶が鮮やかに走り抜ける。さっき思い出したようにやってくる。けれどさっきとは違う。膨れ上がるのは虚しさでも悔しさでも淋しさでも、怒りでもなく、足をすくませ纏う恐怖だけだった。心臓の鼓動が速くなる。ぐんぐん速くなる。身体は動かない。呼吸が荒い。視界がぶれる。見えない。今僕は立っている? 座っている? いや、立っている。その足は、動かないまま。
その僕を小さく小突いてきたのにはっと気付いた。ウインディが横目で僕を見ている。僕が我に返ったのを確認してから口が動いた。今度はちゃんとでてきた掠れた声は乗れ、と単調に滑る。
僕は人間をもう一度改めて見る。当然僕があの日見た人間とは違いまだどちらかというと子供に見える。けれど人間なのに変わりはなく、それ以上様相を見る余裕など僕には無かった。
ウインディは元々低姿勢だったのを更に低くし、僕が乗りやすいように配慮する。逃げるつもりなんだろう。お母さんの時と違って不意打ちを仕掛けられたわけじゃない。まだ間合いは十分とっている。逃げる余裕はある。それでもいつあちらが飛び出してくるか分からない。早く逃げなきゃと思うのに足は動かない。頭の中を炎が焼きつくす。熱が襲いかかってくる。静寂はまだ訪れない。
「早く、乗れ!」
苛立っているようにもとれる声が僕を駆り立てた。慌てて僕は飛び上がった。助走を取っていなかったために上手く乗れなかったが、懸命によじ登る。巨体に乗り、長い毛で視界が殆ど塞がれる中で僕は少し顔を上げて人間の様子を伺った。緑の大蛇が光に包まれ、小さなボールに収納されるのが見えた。あれはお母さんが捕まえられたのと同じもの。なんて恐ろしいものだろう。
嫌だ、あれにだけは入りたくない。捕まればここから離れてどうなるのか分からない。
別のボールが人間の手に握られた。他にも従えているらしい。
ウインディの身体が少し動く。
「しっかり掴まれ――どんなことがあっても」
彼の声が僕に跳び込んできた直後、巨体が一気に動き出し加速した。方向は一直線に人間の方だ。別の鳴き声が僕の耳に跳び込んできた。
その瞬間、それまでの掠れた声が嘘であるかのように、爆発のような咆哮がウインディから跳び出した。巨大な声量に心臓が大きく跳ね顔を毛の中に潜らせた。ウインディの全身が叫びにより震えているのが分かった。彼の身体が一層熱を帯びる。咆哮は一瞬の出来事ではなく数秒に渡り、その中で視界のはじっこに光る火の粉が舞っているのが見えた。あれは敵のものか、それとも……。
気付いた頃には元の道である森の中へと跳び込んでいた。あっという間の出来事であった。彼が動き出してから十秒と経っていないだろう。海から遠ざかっていく。波の音などもう耳には入らない。風や木の葉がめちゃくちゃに荒々しく僕を引っ掻く。必死にしがみつく。行きよりも速いのだろうか、比べられないけれどきっと速いんじゃないかと思う。
とても今迄怪我をし、穏やかに笑みを浮かべていた者と同じとは思えない。僕の目の前にいるのは、確かに獣だった。湧き上がる力を余すことなく発揮した獣の姿がそこにあった。
ああ、これが、力か。
最初こそ神速の如く走り抜けたウインディだったが、そのスピードが明らかに落ちていくのを体感できた。荒い呼吸をしている。彼の身体に耳を澄ませてみると、ひゅうひゅうと鋭い風が吹いているような呼吸音が聞こえてくる。快活な足の動きはもう無い。それでも走り続けた。僕の故郷にやってきたころにはもうふらふらと身体はぶれていた。
顔を上げて僕は何度か彼に声をかけたが返答は一切無かった。時折僕は後ろを伺ったが当然人間が追ってくる様子は見えない。
「ウインディ!」
聞き覚えのある声が耳に跳び込んできて僕ははっと顔を上げた。おじさんが赤と白の丸い手を振っていた。ウインディの足はもう歩いているのとほぼ変わらなかった。ひなたぼっこをした丘のてっぺんに辿りつきおじさんの傍までようやくやってくると、突然ウインディは糸が切れたように全身の力を抜き、横に倒れ込む。
僕は慌てて倒れる前に地面に跳んだ。着地と同時にウインディが丘に倒れた。その目は閉じ、僅かに開いている口から出てくるのはか細い呼吸だけ。時々荒い咳が跳ぶ。それとは裏腹に胴体は大きく膨れたりしぼんだりを目に見えて繰り返す。
「ウインディ!」
僕は悲鳴をあげた。おじさんがすぐに傍に寄り、身体を撫でる。僕とおじさんは何度も彼の名前を叫んだ。返事は無い。
代わりに咳と共に少量の血が吹き出た。
その日はウインディの傍を離れずにいた。おじさんが薬草を取りに行っている間も、彼の容体を見つめていた。良くなる傾向は一切なく、運動後からしばらく経っても呼吸は激しいまま。何もできないことが腹立たしかった。苦しい表情を和らげる方法を僕は知らないのだ。
おじさんが戻ってきて声をかけるのに疲れていると、いつの間にか僕は眠りについていた。夢の内容は覚えていない。何か見ていたのか、何も見ていなかったのか、それもよく分からない。ただ、心地よい眠りについていたわけではない事だけは確かだった。
目が覚めると夕日は既に山の間に落ちており、星が空に瞬き始めていた。身体を動かそうとしたが、傍で会話をしているのに気付いて寝たふりを続けることにした。重苦しい雰囲気であるのは寝起きの僕でもすぐに理解できた。起きていることを悟られないように、ただ会話の内容だけは気になって静かに耳を立てた。
会話をしているのはおじさんとウインディ。時々聞こえてくる咳の音が痛々しかったが、会話ができるほどには回復したようだ。僕はとりあえずほっと胸を撫でおろす。けれどウインディの声は今までよりずっと掠れており、必死に耳を傾けないと聞こえないほどに小声であった。
「気付いていたんだな」
ウインディの呟きにおじさんはそうねと返答した。
「その掠れた声に、ずっと引っかかっていたのよ」
「そうだな。さすがに隠しようがない」
「怪我なら私も多少は処置できるけど、病気に関してはどうしようもないの」
病気。
心の中で僕は呟く。
「分かっている。もうどうしようもないんだ。手遅れでね」
「諦めたらいけないわ」
「はは……残念ながら諦める他ないということは、もうずっと前から分かっていた」
激しい咳がすぐに聞こえてくる。身体を軽く叩く音は恐らくおじさんがしているものだ。
話の流れがだんだんと読めてきた。嫌な予感だけが過る。話の先が見えているけれどそれを全力で否定したい。否定したいのにできない。
「もう時間は残されていない」
咳が収まってからウインディは言った。自分のことなのに淡々と話すウインディの落ち着きように、恐ろしささえ感じた。
無風、無音の世界が僕達を包み込む。
「そう遠くない日に、私は死ぬだろう」
「……そろそろ姿を現したらどうだ、サバカン」
35番道路へとつながる門の近くに、ワタルはいた。既に地上に降り、カイリューはボールの中だ。南に雨雲が発生して大雨が降っているものの、それ以外は全くの静寂である。その中で、ワタルはあの男を呼んだ。すると、物陰から当人が姿を見せた。
「……やはり気付いておったか」
「当たり前だよ、これでもチャンピオンだからね」
「残念ながら、その肩書きも今宵で外れるべし。明朝には『反逆者』として処刑されよう」
「ははは、そりゃ傑作だ。けど、僕だってそう簡単には捕まらないよ。ギャラドス!」
「ふん、もとより承知しておる。ハッサム、仕事だ」
ワタルとサバカン、3度目の戦いの火蓋が切って落とされた。ワタルの先鋒はギャラドス、サバカンの初手はハッサムだ。ハッサムは相変わらずこだわりハチマキを装備している。ギャラドスはまずハッサムを威嚇した。
「手始めに竜の舞いだ」
「ならばこちらはとんぼがえり」
ギャラドスは、ただ跳ねているとしか思えない舞いを披露した。一方ハッサムはギャラドスの懐にジャブを入れ、すぐさまサバカンの元に引く。そして、次のポケモンと交代した。出てきたのは、額と尻尾の先にある赤い玉が印象的なポケモンである。また、首には紐を通した木の実がぶらさがっている。
「デンリュウか。しかしそれだけでは対策にならないよ。地震だ!」
「……甘い」
ギャラドスは地面を叩きつけ、大地を揺らした。デンリュウは地に伏せる。ところが、デンリュウの首にある木の実が光り、地震が急に弱まった。ワタルはこのカラクリにすぐピンときた。
「な、まさかあれはシュカの実!」
「10万ボルトだ」
デンリュウは立ち上がるとギャラドスに電気の束を放った。ギャラドスは水、飛行タイプ。通常の4倍ものダメージを耐えられるはずもなく、あっけなく丸焼きになってしまった。
「ぎゃ、ギャラドス!」
「……哀れなり、チャンピオンよ。命に関わる勝負に道具すら使わないとは。平和ボケもここまでくれば、ある意味幸せなのかもしれんな」
サバカンは、ワタルがギャラドスを回収するのを鼻で笑った。ワタルは拳を握り締めながら2匹目のボールを掴む。
「くっ、ならばプテラだ!」
ワタルから飛び立った2個目のボール、そこから2番手は登場した。そのポケモンは宙を舞っており、手と翼が1つになっている。いわゆる古代のポケモン、プテラだ。これにサバカンは身構えた。
「……敢えて飛行タイプを出すのはいと怪し。戻れデンリュウ、出でよハッサム」
「地震攻撃!」
サバカンは冷静にデンリュウを戻し、再びハッサムを繰り出した。プテラは地震を発生させたが、ハッサムには大したダメージになっていない様子である。ワタルは攻め手を緩めることなく指示を出す。
「まだまだ、ストーン……」
「バレットパンチ!」
プテラが動きだすよりも先に、ハッサムが急加速した。あまりの勢いに残像ができたほどである。ハッサムは飛んでいるプテラの真下に移動すると、自慢のハサミをプテラの腹部にねじりこんだ。プテラは一瞬にして気絶し、ハッサムのハサミにかぶさった。ハッサムはそれを軽々と投げ捨てる。
「プテラ!」
「……まさかこの程度とはな。1度とはいえ、このような者に遅れをとった自分が情けない」
「ぐ、ぐう。何も言い返せない……」
ワタルは歯ぎしりをして肩を震わせた。サバカンは自信に満ちた声でワタルにこう言い放った。
「さて、チャンピオンよ。某は手持ちが3匹しかいない。対する貴殿は5匹のようだ。こちらはいくらかダメージを負ったが、ようやく公平になった。ここからが本当の勝負、せいぜいあがくことだ」
「……言われなくても、必ず君に勝つ! チャンピオンの底力、目に焼き付けろ!」
ワタルは瞳に炎を宿し、3匹目のポケモンを場に送り出すのであった。
・次回予告
華麗な立ち回りの前に、能力で勝るはずのワタルは大苦戦。このまま押し切られるのか、それともチャンピオンの意地を見せられるのか。次回、第57話「3度目の正直後編」。ワタルの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.37
結構バトルシーンを考えるのって難しいんですよ。誰がどんなポケモンを使うかもそうです。パーティバランスを考慮してみると同じタイプばかり入れられないのですが、結果としてあるタイプが足りないという事態になるのです。
今回のダメージ計算は、ギャラドス陽気攻撃素早振り、デンリュウひかえめHP特攻振り@シュカ、ハッサム意地っ張りHP攻撃振り@拘り鉢巻、プテラ陽気攻撃素早振り、レベル50、6V。竜舞ギャラドスの地震をシュカ込みで余裕で耐えたデンリュウは返しの10万でギャラドス即死。プテラの地震を軽く流したハッサムのバレットパンチでプテラは即死。ワタル交代しろよ……2度バトルしてるからいくらか読めるはずでしょ。
あつあ通信vol.37、編者あつあつおでん
「ははは、俺様の力はどうだ?」
「うんうん、確かにすごいな、『君のドククラゲ』は」
ランターンをボールに戻したボルトは、ふてぶてしく笑った。その手には既に次のボールがスタンバイしている。いまだ雨は降り続くものの、徐々に晴れ間が覗いてきた。
「なんだとおい、明らかに俺の腕だろ。100歩譲っても7割は俺の実力だっ!」
「ふーん。……どちらにしろ、僕はかなり不利だ。けど、こんなこともあろうかと対策はばっちりさ」
「はっ、どうせハッタリに決まってらぁっ!」
「なら、実際に見てみればいい。ヌオー、出番だ!」
ボルトの叫びと同時に、2匹目が飛び出した。くびれのない胴体にぼんやりした眼、あくびをするその姿は、まさにヌオーである。
「ヌオー? 貯水で水、タイプで毒を封じるつもりか。残念だったな、こいつにはこれもあるっ! 冷凍ビームだっ!」
リノムの指示を受け、ドククラゲは凍えるビームを発射した。ビームはヌオーの腹部に直撃する。ヌオーは多少のけぞったが、すぐに体勢を立て直した。
「うっそ、ドククラゲの攻撃を余裕で耐えただとっ! ゲームバランスがおかしいっ!」
「おいおい、何を言ってるんだい。ヌオーの特性、天然が効いてるだけだよ」
「て、天然だと?」
「そうそう。『お互いの能力変化を無視する』だなんて、便利な特性でしょ? 元々はちいさくなるとかの技を対策するために入れてたんだけど、意外なところで役立ったよ。というわけで、地震攻撃」
ヌオーは足をばたばたしながら地面を揺らした。するとドククラゲ目がけて、横揺れと縦揺れが順番に襲いかかった。ドククラゲはなんとか踏ん張ったものの、苦しそうなのは火を見るより明らかだ。
「ぐおお、何しやがるっ! 能力アップなんかなくても俺は勝てるっ! ハイドロポンプだっ!」
「やれやれ、元気なことだ。ヌオー、もう1発頼むよ」
雨があがって雲が散り散りになりだした。ドククラゲは間欠泉のごとき水を叩きこみ、ヌオーは再び地震を放った。どちらもクリーンヒットし、互いにしゃがみこむ。やがてヌオーはゆっくり立ち上がったが、ドククラゲはそのまま崩れ落ちた。
「よし、その調子だヌオー!」
「や……ヤバいヤバいヤバい。ヤバいを通り越してヤバい」
「さあ、まだやるかい? 僕は一向に構わないけどさ」
「……ああ、やってやるぜ。ただしっ! 俺が勝ったら神軍師と呼んでもらうぞっ!」
「どうぞどうぞ、いくらでも呼びますとも」
「よーし。いくぜ最後の1匹、サイドンっ!」
リノムの掛け声に合わせ、彼の切り札が場に出てきた。2本の足で立ち、鼻の上にはドリルのような角が生えている。また、手には長い爪が取り付けられている。
「なるほど、あれが彼の最後のポケモンか。またとんでもない戦法なんだろうな」
ボルトは図鑑に目を通した。サイドンはサイホーンの進化形で、弱点こそ多いが攻防ともに優れた物理性能を持つ。中々手に入らないアイテムだが、しんかのきせきを持たせると驚異的な耐久力を得られる。
「いくぜ、神軍師の本領っ! つのドリルっ!」
先手を取ったのはサイドンだ。ヌオーに接近してから頭を突き出し、角を差し込んだ。ヌオーは悶絶し、すぐに気絶してしまった。ボルトは苦虫をつぶすような表情で、ヌオーをボールに回収した。
「な、一撃必殺技をこうも簡単に当てるとは……」
「へっへっへっ、所詮素人にはたどりつけねえレベルさ。それより早く次を出しな、またぶちのめしてやるぜ」
「くっ、……これで終わりだ、ピカチュウ!」
ボルトは3個目のボールを投げつけた。中から現れたのは、様々な事件やブームを巻き起こしたあのポケモン、ピカチュウである。ピカチュウの左手には、赤い帯のようなものが結んであるが、リノムはお構いなしにサイドンに命令した。
「はーっはっはっはっ、そいつが最後の1匹たあ、運が尽きたなっ! 先制つのドリルで終わりだっ!」
「な、なんだって!」
突然、サイドンの爪が光ったかと思えば、サイドンは猛然とピカチュウに近寄った。完全に不意を突かれたピカチュウは回避のしようがない。それを見たボルトは、人々を起こしかねない怒号をあげた。
「今だ、カウンターを決めろ!」
サイドンの角がピカチュウに突き刺さる。ピカチュウは脂汗を流しながらサイドンの耳に手を伸ばした。そのままサイドンの勢いを利用し、体を反らしながらサイドンを地面に叩きつけた。鮮やかな動きにサイドンは全く反応できず、驚くことにこの一撃で地に伏せた。ボルトの顔からは笑みがこぼれ、リノムは膝をついた。
「……うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお! すまねえ先生っ! 奴らを止めることはできなかったっ!」
「そう、君達の野望は今日で終わる。このバトルをきっかけにね。さ、おとなしく捕まってもらうよ」
ボルトはピカチュウをボールに収めると、うなだれるリノムを縄で縛った。これで1人目の討伐が完了である。
「……助かったよ、ダルマ君。さてと、早いとこがらん堂の中に行かないとね。みんなも無事なら良いんだけど……」
ボルトは他のメンバーの身を案じながら、元来た道を静かにたどっていった。雨雲はいつのまにか消え去り、綺麗な星空が夜のコガネを照らすのであった。
・次回予告
ワタルが出会ったのは、今まで2度戦ったサバカンであった。因縁の対決は、どちらに軍配が上がるのか。次回、第56話「3度目の正直前編」。ワタルの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.36
天然はピクシーとビーダルがいましたが、被りを気にせずヌオーを選択しました。理由としては、1つはピクシーの天然は夢特性ですが未解禁なこと。もう1つはビーダルはジョウト地方にいないことです。意外と天然って少ないんだなあ……。
ダメージ計算は、前回同様レベル50かつ6V。ヌオーはいじっぱりHP攻撃振り、サイドンは慎重防御特防振りで先制の爪持ち。ピカチュウは臆病特攻素早振りで気合いのタスキ持ち。ヌオーは地震でドククラゲを確定2発、ドククラゲは冷凍ビームとハイドロポンプを合わせてもヌオーを倒せません。また、ピカチュウのタスキカウンターでサイドンは確実に沈みます。仮に地震を受けても結果は一緒。やはりタスキカウンターは便利だ。
あつあ通信vol.36、編者あつあつおでん
「やれやれ、だいぶがらん堂から離れちゃったなあ。みんな無事なら良いけど」
ボルトは長屋の軒下を歩いていた。多くの市民が住まう地で姿を見られたら非常に危険であるが、上空からの監視や追っ手を避けるため、敢えて込み入った長屋の集中する場所を歩いていたのである。辺りは静寂に包まれており、ボルトの乾いた足音はよく響く。
「さて、どうしたものか。ラジオ塔やコガネ城に突っ込むのも悪くないけど、さすがに1人だとまずいか……って、あ」
ふと、ボルトは足を止めた。彼の目の前には、開けた大通りが広がっている。人通りは皆無だが、思わずボルトは身構えた。
「危ない危ない、こんな道を通ったら簡単に見つかっちゃうよ。さて、戻ろうか」
「ちょっと待ちやがれっ!」
ボルトがUターンしようとした、まさにその時。大通りから怒号が聞こえてきた。ボルトが声の方向に目を向けると、1人の男がいた。
「あれ、君はがらん堂の……リノム君だっけ?」
「そうだ、俺様は神軍師のリノムだっ! 命が惜しけりゃ無駄な抵抗をするなっ!」
「……君、神軍師を名乗るには少し思考力がなさすぎるよ」
リノムの発言に半ば呆れながら、ボルトは言い放った。リノムは顔を真っ赤にしながら反論する。
「んだとっ、どこがおかしいっ!」
「だってさあ、考えてもみてよ。僕達はわざわざ自分からコガネシティにやってきたんだ。他の地方に逃げるという選択肢もあったのにさ。それはつまり、僕達は命を賭けていることを示している。今更命乞いなんかしないよ。僕達は何も悪いことしてないし、人としての誇りがあるからね」
「ぐぐ、言わせておけば綺麗事を……! 先生はいつも言っている、『自らの行いを反省できない奴は治しようのない愚か者だ』と。てめえみたいな奴は俺様が成敗してやる、トゲキッスっ!」
「やれやれ、これだから若い人は困るよ。ランターン、出番だ!」
リノムがボールを投げたのに応じ、ボルトもポケモンを繰り出した。リノムの先発は翼を持ったポケモン、ボルトの1番手は光を撒き散らす青いポケモンである。
「えーと、確かトゲキッスはっと」
ボルトはポケットからくすんだ図鑑を取り出した。トゲキッスはトゲチックの進化形で、全体的に高い能力を備える。特性はどちらも中々強力で、天の恵みを用いて追加効果を狙う型や、はりきりとしんそくで相手に何もさせない型などが代表例だ。
「なるほどね。ま、タイプ相性もあるから大丈夫かな」
「ごちゃごちゃうるせえぞっ! トゲキッス、まずは電磁波だっ!」
「で、電磁波だって?」
ボルトの驚く顔を見向きもせず、トゲキッスは先制で電磁波を使った。弱々しい電撃はランターンに当たり、ランターンは元気になった。痺れた様子は微塵もない。
「う、嘘だろおい。電磁波が効かないなんて……」
「リノム君、ランターンの特性が蓄電なのくらい知ってるだろ? 良くないなあ、うっかりミスは。ということでこちらはあまごいだ」
ランターンは頭の先を著しく明るくした。するとどこからともなく雨雲が現れ、土砂降りになった。ボルトもリノムもずぶ濡れである。
「くっそー、舐めやがって。くらいな、くさむすびっ!」
「なんの、雷だ!」
雨に打たれながら、トゲキッスは草を絡ませランターンを転ばせた。技を使おうとしていたランターンは照準が逸れたようだが、問題なくトゲキッスに雷を当ててみせた。
「はは、やっぱり雨の雷は良いね。必中するから小手先の技くらいでは止められないのも魅力的だ」
「ぬぬぬ……ええい、もう1度くさむすびっ!」
「甘い、とどめの雷だ」
トゲキッスは再び攻撃しようとするものの、体が言うことをきかない様子である。その隙を突き、ランターンは悠々とトゲキッスに引導を叩きつけた。雷はまたも命中し、トゲキッスは力なく地面に落ちた。
「よし、まずは1匹」
「……ばぐってんだろおおおおおお」
リノムは雨に打ちつけられているトゲキッスをボールに回収した。ここで、ボルトがある提案をした。
「なあリノム君、君の実力では僕に勝つことすら難しいと思う。ここは休戦して、お互い会わなかったことにするのはどうだろう? 君は負けなかったことになるからお咎めなしになる。悪い話じゃないとは思うんだけど、どうだい?」
「……おい、なんで俺が負ける前提で話を考えてんだよ。俺はてめえなんざに負けるかっ!」
「おやおや、こりゃ交渉失敗か。わかったよ、ならば気が済むまでやってごらんよ」
「……馬鹿にしやがって。その言葉、後悔させてやるぜ。ドククラゲっ!」
リノムは歯ぎしりしながら次のボールを投げた。出てくるのはドククラゲ。ボルトはため息をついた。
「やれやれ、あまり学習してないみたいだ。トゲキッスの二の舞になっても知らないよ?」
「フンッ、こいつを見ても減らず口が叩けるか? つぼをつくだっ!」
「つ、つぼをつく?」
ドククラゲは登場早々、80本の触手で体中を突きまくった。ボルトとランターンはその異様な光景に唖然としている。
「……はっ、油断してしまった。とにかくチャンスだ、雷で落とすんだ!」
ランターンはボルトの指示の下、三度雷を呼び込んだ。それはドククラゲにクリーンヒットした。だが、ドククラゲはびくともしない。
「な、雷が効かないだって!」
「言っただろ、俺は負けねえって。つぼをつくは能力を上げる技だが、何が上がるかわからない。しかしこの80本の触手で突きまくればすぐに全ての能力が限界まで伸びる。これこそ神軍師たる俺様の力だっ! ドククラゲ、ヘドロばくだんっ!」
ドククラゲは想像以上に速かった。ヘドロでできた塊を作ったと思った時には、既に発射してランターンに直撃していた。ランターンはボルトの手元まで吹き飛ばされ、そのまま気絶するのであった。
「ランターン!」
「へっ、俺様の勝ちは決まりだなっ!」
・次回予告
ドククラゲの圧倒的な力の前に、ボルトのランターンは為す術なく倒れてしまった。このポケモンの快進撃を止めることはできるのか。次回、第55話「ギャンブルゲーム後編」。ボルトの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.35
実はリノムにはモデルとなった人物がいます。運師というのもそれが元ネタです。お時間のある方はニコニコのタグ検索で「運師」と入れてみてください。どんな人かわかりますよ。
今回のダメージ計算は、ランターン穏やか特攻特防振り、トゲキッスずぶといHP防御振り、ドククラゲずぶといHP防御振り、レベル50で6Vを前提とします。ランターンの雷でトゲキッス確定2発、トゲキッスのくさむすびをランターンは2回耐える。つぼをつくで限界まで能力を上げたドククラゲはランターンの雷を4〜5回耐え、返しのヘドロばくだんでくさむすびのダメージと合わせてランターンを確定で倒せます。ランターンの雷こんなに耐えるとかチートすぎる。
あつあ通信vol.35、編者あつあつおでん
二月下旬、非常に寒い季節は続く。私立高ゆえに土曜日も授業があり、今日がその土曜日。昼までだからと言えど喜ばしくない。とんでもなく喜ばしくない。
そんな朝の教室で、俺と風見はいつものように談笑をしていた。
「相変わらず寒いな」
「寒すぎて黒い塊が出そうだ」
「なんだそれ」
「まるで鼻からよだれが出る」
「……どういう状況か分からん。大丈夫か?」
渾身のボケがことごとくかわされ、風見は笑うどころか苦笑いを浮かべている。
「もしかして翔、お前熱でもあるんじゃないか」
「失礼な! いや、中学時代の友達の真似事をしたんだ」
「と言うと?」
「大阪出身の友達がいてさ、こんな感じで面白い事言ってたんだけども俺には面白いこと言えないなぁ」
「しかしどうして急に?」
「久々にメールがあったんだ」
と言って制服ズボンの左ポケットから携帯を取り出し、受信ボックスを開く。
受信ボックスの一番上にから宇田 由香里(うだ ゆかり)と書かれたメールが数通ある。その中の一つを表示して風見に見せた。
「『ポケモンチャレンジカップに出るん?』、か。こいつもポケモンカードをしているのか?」
「ああ、中々強いぜ」
「一度手合わせしたいもんだな。大会でぶつかれたらいいな」
ポケモンチャレンジカップ、略してPCCはまず全都道府県で地区予選を行い、その後は地方予選、全国大会となる。
由香里は大阪出身の友人だが父親の仕事の関係で中学時代の一部、二年間だけ東京で過ごし、今は大阪に戻ってそっちの高校に通っている。つまり会うとしたら全国大会だ。
「ああ、そのためにはまず東京での激戦勝ち抜かなきゃなー」
「そうだな」
その刹那、教室の扉が開く。担任かと思い振り返ると担任ではなく拓哉がやってきた。すかさず風見が声をかける。
「藤原か。悪いが今日の放課後暇か?」
「え? 僕? うーん、大丈夫と思うよ。急にどうしたの?」
「翔とお前とでちょっと着いてきてもらいたいところがあるんだ」
あれ? 何その話。ちょっと何かおかしいぞ!
「俺が行くのはもう確定済みなの!? 今初めて聞いたんだけど」
「よし、これできまりだな。放課後よろしくな」
「いや、初耳なんだけど……」
放課後、タクシーに三人乗り。予想は出来たけど風見は助手席、俺ら二人は後部座席。
「タクシーとは偉い身分だよな」
「そうか、翔はそんなに歩いていきたいか」
「ごめんなさい。普段からタクシー使ってるのか?」
「いや、そうでもない。地下鉄とか私鉄とかJRとかも何でも使うぞ。今日は急ぎだからこうしてる」
「へえ。さすが風見君。都心慣れしてるよね」
いきなり拓哉が身を乗り出して会話に割り込んできて、びっくりした。手で制して座らせる。
「都心慣れと言ってもようやく慣れたくらいだけどな。東京はいろいろややこしい」
「何その言い方、県外の人みたいだ」
「いや、実際俺が東京に来たのは高一の春からだぞ」
「えー!」
「なんだってー!」
「バカ、二人とも声のボリューム。言ってなかったけか。俺は元々北海道で住んでたんだ」
「トンネルを越えると」
「それは新潟」
「あれ新潟だったんだ」
「北海道の屋敷で母親と、後はまあその辺いろいろと住んでたんだが嫌気がさしてな。東京から屋敷にたまたま来ていた父親に頼んで、俺を北海道から東京に連れて行ってもらった」
「ふーん。じゃあ今はお父さんと二人暮らしか」
「いいや、一人暮らしだ」
「えー!」
「なんだってー!」
さすがに調子に乗って騒ぎ過ぎたか、ミラーに映る運転手さんの顔がひどく歪んだ。申し訳ない、もうしません。
「さっきからそれ流行ってるのか?」
「いや、別に。……そういえば風見が手製の弁当持って来てるとこみたことないのは一人暮らしだったからなんだな。お世辞にも料理する風見が俺には見えねえ」
「うん。いつも食堂かお弁当だったよね。僕も料理する風見君はちょっと……」
「……まあそういうことだ」
「というより風見はお母さんのこと嫌いなのか?」
「ああ。面倒にも程がある、今は一人で暮らせて快適だ」
「いろいろあるんだなぁ」
「まあ戸籍的には俺はまだ北海道に住んでることになってるしな」
「えらく長い旅行ですね」
「その言い方は腹が立つな」
「そういえば僕と翔くんはどこに向かってるの?」
話が一段落して、拓哉が忘れられていた本題を口にする。何をするかも聞いてないよね。
「もうすぐ着く。着いてからの楽しみだ」
「というより俺と拓哉っていう組み合わせがイマイチ謎だな。恭介とかはいいのか?」
「ああ。用事があるのは翔と藤原の二人だ。それ以外は関係ない。具体的に言うと、翔とこないだの大会で翔と戦った方の藤原だ」
と風見が言ったが同時、拓哉の態度や雰囲気がコロッと変わる。
「俺様に何の用なんだ?」
「着いてから話そう。もう着く」
今の拓哉、そうだな。仮称・拓哉(裏)の扱いはまだよく分からないからこんな車内で引っ張り出してほしくなかったんだけどな。
会話の止まった俺たちを乗せたタクシーは、夕方の都会を走り続ける。
「着いたぞ」
「おー、ようやくかあ。って、公園?」
「ああ。公園だ。さ、出よう」
「いや、その前に金払えよ」
グダグダしてる風見を置いてタクシーから降りて、公園に入る。昼間とは違う静けさがちょっとドキドキする。が、誰もいない。カップルさえいないじゃないか、話が違うぞ恭介。いや、そうは言ってもまだ晩だしこんなもんだろうか。
「ったく。呼んでおいて誰もいねえじゃねえか」
「落ちつけよ」
声を荒げる拓哉を制する。こいつはあまりにも短気すぎる。まあ成り立ちが成り立ちだけに仕方ないかもしれないがいくらなんでも難アリだ。
「そんなとこでぼさっとしてないで行くぞ」
唐突に背後から現れた風見が俺たちの間を通り抜けて公園の奥に進んでいく。勝手に公園の入り口で待ってたと思ってただけだけど、どこか裏切られたような気がして拓哉と二人、少しバツの悪い顔を浮かべて風見の後に着いていく。
が、その顔が余計バツの悪いそれになるのには時間がかからなかった。公園の奥まで連れて行かれた奥で小さな人影が。目を凝らして見れば、暗がり一人レディーススーツを着た小学生程度の背の小さな女の子がまるで俺たちを待っていたかのように立っていた。
「え、この人?」
「そうだ」
「ほんとに?」
「そうよ。初めまして、奥村翔君、藤原拓哉君」
その女の子は背丈とは合わぬやけに大人びた笑みを浮かべていた。
翔「今日のキーカードはハマナのリサーチ!
たねポケモンと基本エネルギーがサーチできる!
試合展開をこれで早めよう!」
ハマナのリサーチ サポーター
自分の山札から、「たねポケモン」または「基本エネルギー」を合計2枚まで選び、相手プレイヤーに見せてから、手札に加える。その後、山札を切る。
サポーターは、自分の番に1回だけ使える。使ったら、自分のバトル場の横におき、自分の番の終わりにトラッシュ。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 | 82 | 83 | 84 | 85 | 86 | 87 | 88 | 89 | 90 | 91 | 92 | 93 | 94 | 95 | 96 | 97 | 98 | 99 | 100 | 101 | 102 | 103 | 104 | 105 | 106 | 107 | 108 | 109 | 110 | 111 | 112 | 113 | 114 | 115 | 116 | 117 | 118 | 119 | 120 | 121 | 122 | 123 | 124 | 125 | 126 | 127 | 128 | 129 | 130 | 131 | 132 | 133 | 134 | 135 | 136 | 137 | 138 | 139 | 140 | 141 | 142 | 143 | 144 | 145 | 146 | 147 | 148 | 149 | 150 | 151 | 152 | 153 | 154 | 155 | 156 | 157 | 158 | 159 | 160 | |