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「さすがに人が立ち入らない場所とだけあって、うっそうとしてるな」
「これだけ木々に囲まれては、野生ポケモンもあまりいないでしょうね」
最後の訓練から一夜明けた早朝、ダルマ達は決戦の地へ向けて出発していた。進路は、アルフの遺跡の西側にある森林地帯を踏破し、コガネシティの東側から突入するというものである。コガネ東部にはがらん堂の敷地があり、これを奇襲できる点で優れている。だが、その前に最後の難関である大自然が立ちはだかる。
「山道はまだしも、旧道の1本もないとは驚くばかりだな」
「まあ、既に平地に道路がありますからね」
ダルマはハンサムの言葉にさらりと返答した。この辺りは深い森だけでなく、山でもあるのだ。傾斜と遮られた視界のダブルパンチが、道行く者を苦しめる。ダルマはやや息切れをしながらも山中に分け入っていく。
「私達がこの森に入ったのは午前3時。予想では15時間ほどで市街地に到達する。現在は午前8時、もう朝日が射し込んでも良い時間帯だが、いまだに暗いな」
ハンサムは頭上を見上げた。空には雲1つない。代わりに木々の枝や葉が所狭しと並ぶ。おかげで彼らの足下は一向に明るくならない。
「仕方ないです、このような場所ですもの。それよりも、今日中にはコガネシティに入りたいですね」
「ああ、まったくだ。早くこの汚名を返上してポケモンリーグに……あれ?」
ダルマは汗を拭いながらも、ある光景に目を奪われた。そこにいるのは1匹のポケモンである。全身は茜色に染まり、大きな瞳と6本の尻尾が特徴的だ。だが、彼が引き付けられたのはそのようなことではない。なんと、そのポケモンの周りにだけ日光が降り注いでいるのだ。もちろん、ポケモンの上も葉っぱやつるで覆われている。
「こうした僻地にもポケモンはいるのですね。ダルマ様、どうしますか?」
「……まだ気付いてないな。今のうちに、クイックボールの出番だ」
ダルマはリュックのボールポケットからあるボールを取り出した。青地に黄色でバツマークが描かれたボールである。ダルマはそれをポケモンに投げつけた。ポケモンは逃げる暇なくボールに吸収された。しばらくボールは揺れていたが、やがてそれも納まる。ダルマはおとなしくなったボールを手に取り、図鑑で調べた。
「えーと、このポケモンはどうやらロコンのようだな」
「ほう、こんなじめじめした地域にロコンとは……って、これは!」
「どうしたんですかハンサムさん?」
図鑑をそっと盗み見していたハンサムは、いきなり叫んだ。彼に他のメンバーの視線が集まる。
「そ、そのロコンの特性……ひでりではないか」
「ひでり?」
「確か、バトルに出すと天気が晴れになるはずです。一般に、伝説のポケモンが持つ特性ですよね、ハンサム様」
「そうだ。ポケモンにはたまに、新しい特性を持った個体が生まれる。ダルマ君のカモネギにユミ君のイーブイもその類だ。ひでりロコンもそうしたポケモンなのだが、この特性は非常に危険なものとされている」
「危険なもの? ロコンの周りくらいしか晴れてませんでしたよ」
ダルマは首を捻る。そのまま進んでいたのでつまずいた。いまいち実感が沸いてない様子である。ハンサムは解説を続けた。
「それは普段抑えているだけで、実際は陽炎を発生させることだってできる。……ここから離れたホウエン地方である事件が起こったことがあるのだが、その時この特性が悪用された。それはホウエンの大地を荒れさせ、復旧まで時間を要した。そうでなくても、天気を変える特性はバトルで絶大な影響力を持つ。それゆえ密猟や密輸が絶えない。今は取り締まりを強化したから沈静化したが、野生では絶滅したとも考えられていたんだ。まさか生き残りがいたとは……生きていれば色々な縁があるものだな」
ハンサムは歩きながら何度も頷く。ダルマはボールを見つめながら、ハンサムに問うた。
「で、でもちゃんと扱えば大丈夫ですよね?」
「……それは微妙だ。自分だけはと言う者に限って、コントロールできずに捨てていく。私も現場で幾重に渡り見てきたさ」
「そんな、ダルマ様は立派なトレーナーです! この子もきっと……」
「もちろんそれはわかっている。私も君なら問題ないと思うよ。船上で会った時から随分成長しているからね」
ハンサムは朗らかに笑い声をあげた。落ち葉が口の中に入ったが、それを吐きだすとダルマの肩を叩いた。
「この件は口外しないでおこう、全て君に任せる。ただし最後まで面倒みるようにな」
「ハンサムさん……心遣い、感謝します」
ダルマは頭を下げた。ハンサムは前を向くと、また1歩ずつ前進しだした。
「それでは、再び出発だ! 一刻も早くがらん堂を捕まえねばな!」
ハンサムが先頭を快走する後ろで、ダルマとユミ達は着実に山を登る。彼らの足下には先程とは異なり、仄かな木漏れ日が届くのであった。
「……久しぶりだな、ジョバンニ。最後に会ったのは10年前か」
「その通りでーす。しかし……まさかあなたとこんな形で再会するとは思いませんでしたよ」
「ふん。その様子だと、もう気付いちまったようだな。先手を打って正解だぜ」
「当然でーす。電波研究をしていた彼女の亡き今、それを形にできるのはあなたくらいしかいませんからねー。ところで……なぜこのような騒乱を起こしたのですか? 彼女の研究成果まで悪用する必要のある理由なのですか?」
「黙れ、気安くあいつの話をするな。それに、理由ならあるさ。俺を葬った奴らへの復讐という目的がな。……あいつは優秀な女だったよ、体を張って悪人を示してくれたからな。俺はその想いに応えてやるだけだ」
「なーるほど。しかしそうしたところで、彼女は戻ってきませーん。進むべき道を間違えたのではありませんかー?」
「……フハハハハハ! 貴様も老けたものだ、ジョバンニよ。俺の研究テーマを忘れたのか?」
「あ、あなたの研究テーマですかー?」
「そうだ。俺の研究は正しかった。そしてそれは歴史さえ動かすことができる。貴様の命と引き換えに、全てを元通りにしてやる。悪く思うなよ? あいつが教えてくれたからな、元凶は貴様だと!」
・次回予告
コガネシティに足を踏み入れたダルマ達は、作戦通りまとまって進むことに。ところががらん堂幹部に囲まれ、分散を余儀なくされるのであった。次回、第53話「運命の夜」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.33
皆さん大好きな狐ポケモンの登場回でした。私はロコンキュウコンはそこまで好きというわけではありませんが、特性がダルマにぴったりなので採用しました。これでダルマのパーティは原型ができました。キマワリをエースとした追い風晴れパです。果たしてどれだけ戦えるのか。
ストーリーも佳境ですね。コガネにたどり着いた先には何が待っているのか。乞うご期待。
あつあ通信vol.33、編者あつあつおでん
仮想空間内にある洞窟に、オオバヤシはいた。この洞窟は、電気の力が働いており、岩も浮遊していた。視界も利く。そして、彼の前に、男女の下っ端プラズマ団がいた。
「プラーズマー!来たな反逆者め!ここがお前の墓場だ!」
「私達とのダブルバトルに勝ったなら、ここを通してあげる。言っておくけど、私達手強いからね!あんたなんか足下にも及ばないくらいよ!」
(自分で手強いとか言う奴は大体弱いねん)
「分かったわ、相手になったる」
トレーナー1VS2という、変則的なダブルバトルだ。下っ端の方は、警戒ポケモンとゴミ捨て場ポケモンを、それぞれ出してきた。
「ミルホッグ、お先にどうぞ!ダストダスに順番を渡すわ!」
「よーし、この勝負もらった!ダストダス、あのムカつく男にヘドロ爆弾!」
いかにも毒々しいヘドロの塊がオオバヤシ目がけて飛んでいく。明らかなダイレクトアタックだ。
しかし、その目論見はほうようポケモン、サーナイトの放ったサイコキネシスによって未遂に終わる。楽々と念動力でヘドロを止めたかと思うと、その放出の軌道を変え、跳ね返す要領でミルホッグへとぶつけ返したのだ!ヘドロ爆弾とサイコキネシスのダブルパンチを食らった格好の警戒ポケモンはすぐにノックアウトされていた。
「何で攻撃がこっちに来るのよ!あんた卑怯よ!」
「俺に直接攻撃しようとしたお前らに言われとうないわ。こっちは普通に攻めただけ。悪いか?」
一方のゴミ捨て場ポケモンも、能天気ポケモン、ルンパッパが放ったバブル光線と冷凍ビームによって氷の中で目を回していた。
「サーナイト、ルンパッパ、よう頑張ったな。……どうしてんお前ら。もう終わりか?」
「……くっ、まだまだ!ウツボット、行ってきなさい!」
「こっちはペリッパーだ!蓄えまくれ!」
まだまだ戦意の喪失の見られない悪党どもは、オオバヤシの挑発に単純に乗っていた。見る限り、まだいけるようだ。
そして、次いで出されたハエ取りポケモンと水鳥ポケモンは、どちらも何かを蓄え始めていた。どうも、蓄えたものを吐きだしたり飲み込んだりして、攻撃と回復を同時にこなす気であるようだ。
その様子を見ながら、オオバヤシは指示を飛ばす。
「ゴウカザルはペリッパーに雷パンチ、ほんでデンチュラはウツボットに虫のさざめき!」
炎の大猿は腕に火炎ではなく電気を纏わせ、隠れ特性「鉄の拳」の特性効果によって重みを増した拳で水鳥ポケモンに殴りかかる。一方の電気蜘蛛は、体をすり合わせることで衝撃波を発し、それをハエ取りポケモンにぶつけた。
それに対し、ペリッパーは溜め込んでいたものを飲み込むことで何とか対処していた。ウツボットの方はというと、溜め込んでいたものを吐きだしていた。もっとも、デンチュラには避けられていたが。
「キーッ、何で攻撃が当たんないのよー!」
「そうだそうだ!お前は卑怯だ、卑怯、卑怯」
自分の非を認めようとしない下っ端2人に、オオバヤシはため息をつきつつ言った。
「あんなあ、卑怯や卑怯言う前にお前らで考えろ。……少なくとも、強い奴は誰かに非をなすりつけるようなことはせえへんで?」
そして、ゴウカザルとデンチュラから放たれた炎のパンチと10万ボルトが、下っ端のポケモン達を同時にノックアウトさせていた。
「次のポケモンで最後ね……行ってきなさい、ハクリュー!」
「こっちはコモルーだ!どうだ、ダブルのドラゴンポケモンは!」
アンカーとして出された下っ端のポケモンはどちらもドラゴンタイプ。もう後がないからか、本気らしい。
「どうだ反逆者、参ったか!さあ、大人しくポケモンを渡せ……!?」
下っ端が驚くのも無理はなかった。オオバヤシのアンカーは、最古鳥ポケモンのアーケオス、そして、その隣で圧倒的な存在感を放つ凶暴ポケモン、サザンドラだった!!
下っ端にとっては最凶ともいえるタッグに、彼らは恐れおののいた。
「ちょ、ちょっと待って、こんな相手怖すぎる……」
「あんた何でこんな強いポケモン持ってんのよ!あんたみたいな奴は強いポケモン持っちゃダメなのよ!」
もはやここまで来ると、下っ端の言葉は妄言ともとれてくる。
「それ何のルールやねん。ほんで、誰が作ったん?」
「今私が作ったルールよ!すぐに従いなさいよ!!」
「やるかボケ。ポケモンを持つのにルールなんぞないやろ」
最古鳥は低空飛行の後に、鋭い爪でもってドラゴンポケモンを引っ掻いた。ドラゴンクローだ。威力の高い一撃にふらつくハクリューに追い打ちをかけるが如く竜の波動がサザンドラから放たれる。ハクリューは攻撃に耐えられるはずもなく、ノックアウトと相成った。
「え、ちょっと待って、残り1体……」
「とどめや!サザンドラ、流星群!!!」
三つ首の悪竜は口から橙色の光球を打ち出す。それが弾け、容赦なく忍耐ポケモンに降り注ぐ。もちろんコモルーは一撃ノックアウトとなった。
「人に責任をなすりつけるお前らは俺に勝たれへんねん。分かったか」
「うう、すみませんでした……」
「スムラ様ならば、私達の無念を晴らしてくれましょう……あなたは大いに後悔するわ」
「それはどういう事やねん」
「あんたが自責の念にさいなまれながら死んで行くからよ」
オオバヤシに対し、女の下っ端がそう言ったところで、老人が姿を見せた。
「わたしはスムラと申します。……わたしの手で、あなたを送ってあげましょう」
「お前、どうにも胡散臭いな。何か隠してるんちゃう?」
スムラから漂う胡散臭さを感じ取ったオオバヤシ。すると、スムラの手に、黒いボールが見えた。普通のものではなさそうだ。
そのボールは一瞬にして、オオバヤシが腰につけていた6個のボールを奪ったのだ!
「お前何しとんねん!この泥棒が!!!」
「フフ、これがわたしの解放の方法。わたしの手にポケモンが渡ることにより、野生の気持ちが目覚め、持ち主を殺し、ポケモンをトレーナーという鎖から解き放つ!行きなさい、我がしもべたちよ!」
スムラがそう言うなり、操られたデンチュラ、アーケオス、ルンパッパ、サザンドラ、ゴウカザル、サーナイトがオオバヤシに接近していく!
「お前の解放は間違っとる!トレーナーを殺したポケモンは幸せになんかならへん!!」
「あなたの言っていることは無駄なこと。ポケモン達にその言葉は届かない!自分とともに強くなった分だけ、あなたは死に近くなる。さあ、行ってしまいなさい!」
「うるさい、スムラ!お前がおかしいねん!……お前ら、俺のことを忘れたんか?忘れてへんなら、攻撃を止めろ。止めてくれ。そんな幸せ望んでへんぞ。やから頼む、止めてくれーーーっ!!!!」
その時だった。オオバヤシの想いが通じたのかもしれない。6匹の動きが止まり、目からぽろぽろ、零れるものも見える。
「どうしたしもべども、あいつのことを殺せと言っているのが分からないのか!?」
スムラが罵った瞬間、黒のボールがガタガタ揺れ出し、ひびも入っている。どんどん広がっていく。
「ま、まさか、洗脳を破るなんてことが……」
パリーーーン!!!
黒いボールは弾けた。元のボールは全てオオバヤシの手に戻り、ポケモン達も呪縛から解放され、元の心を取り戻したのだ!
そして、6匹は向き直り、スムラに向かって攻撃を放ったのだ!
「うわああああっ!!!!」
当てるつもりはなく、ただ戦意を喪失させるためだけのものであったため、ケガはさせなかった。それでも、悪だくみを壊すだけの効果はあったようだ。
「無理矢理の洗脳くらいじゃ、俺と仲間は引き離されへんで。……こいつらは俺の大事な仲間や。……お前のやり方は間違ってんねん」
「う、うああ……か、鍵を渡す、から……先に行け。お前の顔なんか……見たくない……」
オオバヤシはスムラから鍵をとると、先へと走った。
彼が去った後、スムラは子供のように泣きじゃくっていた……。
七賢人完全撃破。
次へ続く……。
マコです。
とうとう七賢人を完全撃破しましたね!
命の危機にまでさらされた人もいましたが(特に今回のオオバヤシさん)、着々とプラズマ団を撃破できています。
基本的には、一行の戦いは順調なようです。
さて、次回は、久し振りにマイコちゃんの登場です。
彼女も彼女で、少し厄介な目に遭っているようです……。
「ダルマ様、ライバルの私と勝負してくれませんか?」
「え、俺と?」
キキョウシティのポケモンセンター前で、ダルマはストレッチをしていた。既に朝食を食べた後であるせいかわからないが、とてつもなく硬い体だ。長座体前屈をやっても、指先はすねの真ん中程度までしか届かない。
そんな彼に、ユミが勝負を申し込みに来た。彼女は少し照れ臭そうにしているが、ダルマは特に気にせず返事をした。
「そういえば、ユミと勝負したことってまだないよなあ。じゃあちょっとやってみようか」
「ありがとうございます。では早速練習場に行きましょう」
ユミは足取り軽く歩きだした。ところが、突然ダルマが彼女を呼び止めた。ユミはダルマの方に振り向く。
「あ、ちょっと待って。……できれば背中押してくれないかな。体が硬くてこれ以上曲がらないんだ」
「使用ポケモンは手軽な2匹でいこうか」
「はい、ではそれでお願いします」
ダルマとユミはポケモンセンターの脇にある屋外練習場に移動していた。センターの地下にも練習場はあるが、天気の良い日は屋外の方が人気がある。溢れる日差しに流れ行くそよ風といった、自然に近い環境が好評の秘訣だ。
ダルマとユミは1個目のボールを手にした。ダルマは至って落ち着いているが、ユミの瞳には火が灯る。2人はほぼ同時にボールを投げ込んだ。
「アリゲイツ、出番だ!」
「ベイリーフ、いきますよ!」
ダルマの先発はアリゲイツ、ユミの1番手は初見のポケモンだ。首周りと頭に葉っぱを持ち、辺りにスパイシーな香りを振りまく。ダルマは図鑑を取り出した。ベイリーフはチコリータの進化形で、耐久力が高い。葉っぱから漂う香りは、嗅いだ者を元気にさせたり戦いたい気分にさせるという。
「ベイリーフ、まずはエナジーボールで様子見です!」
「チコリータ、進化していたのか。相性も相まって手強そうだ……よし、いきなりだがアリゲイツ戻れ! カモネギ!」
ダルマは初っぱなからアリゲイツを戻し、2匹目のポケモンを繰り出した。出てきたのは茎を操るカモネギだ。カモネギは、ベイリーフが放った攻撃を茎で切りながら受けとめた。
「チャンスだカモネギ、つるぎのまいだ!」
「これは分が悪いですね……ベイリーフ、下がってください。ヌオー!」
ユミはベイリーフを引っ込め、次のポケモンが飛び出してきた。なにやら丸々とした体形で、ややうとうとしている。一方でカモネギは茎を用い、戦いの舞いに耽っていた。
「ヌオーか、カモネギで大丈夫なのか?」
ダルマは険しい表情で図鑑を覗き込む。ヌオーはウパーの進化形で、水タイプながら地面タイプのおかげで電気タイプを無効とする。また、特性の貯水で水タイプも効かない故に、電気タイプや水タイプを完封することができる。これらのタイプには強いポケモンが多いので、数値以上の活躍が期待される。
「なるほどなあ。アリゲイツが動きにくくなるのは厄介だ、一気に決めるか。カモネギ、アクロバットだ!」
ダルマの指示の下、カモネギは茎をくわえて飛び立った。太陽と重なる位置に到達すると急降下して、軽やかな身のこなしでヌオーの頭を攻撃した。ヌオーはやや表情が苦しくなる。
「ふふ。ヌオー、カウンターですよ!」
「か、カウンターだって!」
ところが、カモネギが一発入れた瞬間、ヌオーの目は大きく見開いた。それから右手を振り下ろし、カモネギを叩き落とした。驚くほど急な反撃にカモネギは対応できず、そのまま気絶してしまった。
「カモネギ!」
「これでまずは1匹ですわね」
「……ユミは俺の動きを読んで、敢えて動かなかったのか」
「ええ、その通りです。ダルマ様のバトルは何回も見てきましたから、ある程度の推測はできます」
「……それもそうか。どちらにせよ、こいつで勝負をつけなきゃな。アリゲイツ!」
ダルマは力強くボールを放り込んだ。再び現れるはアリゲイツ。牙をむいてヌオーを威嚇している。
「まずはヌオーを倒そう。噛み砕く!」
「させませんわ、自己再生!」
先に行動したのはアリゲイツだ。アリゲイツはヌオーが技を使わないうちに接近し、ヌオーの背中に全力で噛み付いた。ヌオーはたまらず全身を揺さぶりアリゲイツを引き離した。しかしカモネギの攻撃によるダメージも重なり、ヌオーはその場に倒れこんだ。
「よーし、これでイーブンだな」
「……ヌオー、戻ってください」
ユミは力なくヌオーを回収した。ダルマは深呼吸をして最後の局面に備えている。
「さあ、あとはベイリーフだけだ。タイプは不利だけど必ず勝ってみせる」
「ふふ、勇ましいことですね。では……とっとといくぜ、ベイリーフ!」
ユミの目がますます燃え上がったところで、ベイリーフがバトルに舞い戻ってきた。ベイリーフは闘志むき出しで、前足で地面を蹴っている。
「うわっ、そういやユミは性格変わるんだっけ。こりゃもたもたできないな。アリゲイツ、冷凍パンチだ!」
「甘い、エナジーボール!」
「は、速い!」
なんと、先手はベイリーフである。ベイリーフは口からエネルギーの塊を発射し、アリゲイツにぶつけた。アリゲイツは直撃しながらもベイリーフに近づき、凍った右腕で殴りつけた。だがベイリーフは涼しい顔であった。
「はん、ぬるい攻撃ね。……とどめよ、マジカルリーフ!」
「まずい、避けろアリゲイツ!」
ダルマが叫んだ直後、ベイリーフはどこからともなく葉っぱを撃ちだした。アリゲイツは辛うじてかわしたが、葉っぱはアリゲイツをつけまわしてきた。かわしてもかわしても何度も追いかけるしぶとさに、アリゲイツの体力は確実に奪われる。そして……。
「アリゲイツ!」
「フン、雑魚はすっこんでな」
アリゲイツは遂に攻撃を受け、地に伏せた。ダルマがアリゲイツに駆け寄るのとは対照的に、ユミは静かにベイリーフをボールに収め、ダルマに歩み寄ってきた。
「すまんアリゲイツ、今回は俺のプレイングミスだ」
「ダルマ様! 今のバトルはどうでしたか?」
「え。う、うーん……なんというかその、強かったよ」
ダルマは冷や汗を流しながら答えた。しどろもどろな上に目線をわずかに逸らしている。その反応のためか、ユミの表情が曇る。
「もしかして、また熱くなっていましたか? 私」
「い、いや。そんなことはないよ。例えそうだとしても大したほどじゃ……」
「あ、隠さないでも大丈夫ですよ。これは昔からの癖ですので。……これのせいであまりお友達ができなかったり敬遠されたりしてましたが、気にしてないですから」
ユミはそう言ってのけたが、うつむいている。無理をしているのはさすがの彼でも容易に理解できる。ダルマは頭をかきむしりながら、なんとかフォローしようと言葉を捻りだした。
「……俺、そういうの嫌いじゃないよ」
「えっ? 今まで嫌われることはあってもそんな風に言われることはありませんでした。どうしてですか?」
「そ、そうだなあ。嫌がられていたのは単にギャップが激しいからだと思う。……勝負で熱くなれるのは、それだけ真剣な証拠。俺の場合は熱くなるというよりは慌ててるだけだし、羨ましいな。もっと自信持って、胸張ってみてよ。俺が見とくからさ」
「だ、ダルマ様……」
ユミは思わずむせ、目から光るしずくが滴り落ちた。ダルマは彼女の肩を軽く叩くと、こう切り出すのであった。
「さ、一緒に練習しよう。あと1日だからね」
「……はい!」
・次回予告
最後の準備を終え、遂にダルマ達はコガネシティへ出発する。その道中の森で、あるポケモンと遭遇するのだが……。次回、第52話「幻の狐」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.32
今回はベイリーフの技のなさに苦しみました。ダメージ計算はレベル50、6V前提で。攻撃全振り剣の舞カモネギの手ぶらアクロバットでHP全振りヌオー確定2発、返しのカウンターで即死。攻撃全振りアリゲイツの噛み砕くとアクロバットの合計ダメージでヌオーを倒せます(ただし乱数)。特攻無振りベイリーフのエナジーボールとマジカルリーフでHP全振りアリゲイツを高乱数で倒せ、アリゲイツの冷凍パンチをHP全振りベイリーフは余裕で耐えます。ちなみに、ベイリーフはアリゲイツより素早さが高いです。先に行動できたのはそのためです。
あつあ通信vol.32、編者あつあつおでん
!!注意!!
流血表現があります。
閲覧には注意してください。
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何もない、黒いだけの空間が広がっているこの世界に二体のポケモンが浮かんでいた。片方の薄い桃色をしたポケモンが一方のポケモンを威嚇していた。もう一方の藍色をしたポケモンはその威嚇に何も感じていないといった様子で深いため息をついた。
「ふっ……。今アルセウスは千年の眠りについた…。さあ、ディアルガ。決めようじゃないか…。どちらがこの世界を統べる神なのかを」
「はぁ……。やはり戦わなければいけないのか…。随分アルセウスも残酷なことをやってくれたよ…。そうは思わないか?パルキア……」
「ふん、そんな顔をしても無駄だ。私達は戦わなければならない…。己の存在意義をかけて…。
貴様のような生ぬるい神など世界は必要となどしていない。だから俺がこの手で貴様を葬ってやる……!」
そう言うとパルキアと呼ばれたポケモンは相手の言葉を待たずに腕を勢い良く振りおろして空間を切り裂きその中へと姿を消した。ディアルガと呼ばれたポケモンはぽつんと一人ふわふわ暗い空間に浮いていたが直に誰が聞いても恐れを抱くような咆哮を上げた。そしてディアルガも暗い空間から姿を消した。
――――これが全てのはじまりだった―――
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「おーい!リー! そんなところでポァっと突っ立てないでちゃんと木の実集めろよ!!」
「ふぇ!? ご、ごめん。にぃ!」
ハクタイの森の一角で響いた二匹のポケモンの声。その声のトーンの高さがこの森が平和であることを示しているようだった。現にこの森に住んでいるポケモンたちはみんな幸せだった。何者にも縛られることなく自由に過ごすことが許されていた。それぞれの行為に何者からの許可を必要とはしなかった。必要なのは自分の行為に対する責任のみだった。今日もきっと幸せな一日が始まるのだ。そう、誰もが思っていた。
しかし、その平和はたった二匹のポケモンの意思によって脆く崩れ去ったのだった。
突如吹いた一陣の風。にぃと呼ばれたリーフィアは頭に載せていた木の実のかごを風に払われ落とした。不思議そうな顔をして空を見上げたかと思うとけたたましい轟音とともに何の比喩表現でもなく文字通り空が割れた。青空に一筋の亀裂が入り暗い空間がその中に顔をのぞかせる。そこから出てきたひと際大きな薄い桃色をしたポケモンと数百匹の体の大きなポケモンたち。それを見た瞬間リーフィアの本能が叫んだ。「逃げろ」と。
「リー!逃げろっ!!」
未だにのんきに植物と戯れているリーと呼ばれたリーフィアに駆け寄り、はやく逃げるよう諭そうとした。
……しかし、リーに再び声をかけることすらできずに彼の想いと言葉は紅蓮の炎の中に包まれ、
――――消えた。
リーと呼ばれたリーフィアは今目の前で起きた事を理解しれずにいた。「逃げろ」と声をかけられたからにぃの方を向いた途端にぃは真っ赤な炎の中に消えてしまった。急いで辺りを見てみるとバクフーンが辺りを見渡している。その眼には光がなく焦点が合っているのも定かではなかったがその無気力な目を見た途端リーフィアは得体のしれない恐怖を感じた。
彼女は走った。その恐怖を少しでも自分から遠ざけたかった。……兄の死を自分から遠ざけたかったからかもしれない。行くあてはあった。家族のもとへ行きたかった。家族のもとには私をここまで怖がらせる何かは存在しないだろう。そう彼女は考えた。辺りが焦げ臭いのもいつもよりも温度が高く乾燥しきっているこの空気も気にせず彼女はまっすぐ彼女の家を目指した。
だが、彼女は目的の地にたどりつき絶望した。彼女の家は兄と同じように赤々とした炎に包まれ時々小気味いい音を立て家の一部が炭にへと変わっていった。
そんなまさか。彼女は自分の頭をたたいた。夢なら覚めてくれと。必死に。涙のたまった目で家を見た時見てはいけないものが見えてしまった。彼女と同じ姿をしたポケモン……が黒いケシ炭になったものだった。
リーフィアは叫んだ。悲痛な叫び声が森の一角で木霊した。たった数分のうちに森は変わってしまった。平和だったはずの森は大半が焼けて炭になった。多くのポケモンが炎に身を焼かれその命を散らしていった。多くのつながりを断たれ多くの恨みも作りだした。
あの泣き叫んでいたリーフィアは炎によって家族を失いながらも炎の燃え盛る音により泣き声を聞きつけられる事もなく夜を迎えた。彼女は泣きやんでいた。しかし、悲しみに暮れていた。森に残っているポケモンは全滅に近かった。彼女はたった数時間で最愛の家族を失った。親しかった友人も奪われた。彼女に残ったのは計り知れない悲しみと恨みだけだった。
彼女は歩き出した。行くあては無かった。ただ、何かしていないと悲しみに押しつぶされてしまいそうで怖かった。しばらく歩いていると彼女は二匹のグラエナに取り押さえられてしまった。この闇の中で先に彼らを見つけること自体無理な話ではあっただろうが。
しかし、彼女は嫌がった。もちろんいきなり雌のポケモンに雄のポケモンが飛びついてきたら誰だって嫌がるだろう。しかし、彼女は嫌がるだけでは終わらなかった。彼女は一匹のグラエナの腹部にシザークロスをたたき込んだ。もともと威嚇の為に放ったものなのだろう。しかし、それでも悪タイプに放たれた虫タイプの技。傷は浅いのにもかかわらず派手な叫び声をあげグラエナはショックで倒れた。
そうこうしているうちにこの騒ぎを聞きつけて彼女は知らないうちに囲まれていた。いくら彼女がそこそこ強いからといってもやはり数には勝てない。しかし、勝てないと知っていながらも反発だけはしたかった。これは彼女の性分なのだろうか。
未だに威嚇をやめずにいる彼女にどこからか電磁波が飛んできた。彼女の視界に入っていない場所から放たれた為か彼女はよけることが出来ずにその場に倒れ込んだ。ああ、私はもうここでこの変なポケモンたちに好き勝手やられてしまうんだ……。そう諦め目に涙をためた時、ひと際大きな足音と共に優しい声が彼女の耳に入っていった。
「君…大丈夫か?」
彼女はそっと顔を上げた。まだ麻痺が残っていて顔を上げるのにも少しきつかったが彼女はなんとか顔を上げてその優しい声をかけた正体を探ろうとした。
彼女目の前にいたのは……彼女が見た事もないポケモンだった。藍色の体をベースにし体のいたるところに鋼をまとっている一言で言ってしまうとポケモンにしては随分と異端な姿をしたポケモンだった。そのポケモンは静かに目をつぶって彼女の体にそっと触れた。彼女の顔に前足が触れられた時彼女はびくっと怯えたような表情を見せたがその表情は徐々に驚きの表情へと変わっていった。彼女の体から麻痺が抜けていた。彼女は不思議そうな顔をしてつぶやいた。
「……すごい…」
その声を聞いて目の前にいるポケモンは静かに微笑んで言った。
「私の力を使って技を受ける前の君の体に戻したんだよ。これぐらいしかできないからね。
私の名前はディアルガ。時をつかさどる者だ」
そう言うと悲しげな顔をして彼女の来た森の方を見ながらさらに言葉を続けた。
「しかし、焼けてしまった森は戻せない。戻せたとしても失った命はいくら時間をゆがめても戻ってはこない。
命の重みの前に私はあまりにも無力すぎた…………君はどこから来たんだい?」
彼女は静かに森の方を指し示した。そして彼女は涙を目にためながら目の前にいるポケモンに訊いた。
「私の森を……あのようにしたのは一体誰なんですか?」
ディアルガと名乗ったポケモンは深いため息をつくと目の前にいるリーフィアを真っ直ぐ見つめながら答えた。
「あの森を襲ったのはパルキア率いる軍隊だ。私達の対処がもう少し早ければ……っ」
そう言うとディアルガは頭を抱えた。時をつかさどる者と名乗ったわりには意外と涙もろかったのか泣き始めてしまった。そんなディアルガを一生懸命三日月のような形をしたポケモンが慰めていた。
しかし、彼女はようやく見つけることが出来た。森を焼かれ、大事な人達を奪われたこの怒りを誰にぶつけるべきかを。パルキア……。その名前を彼女はかみしめてディアルガに訊いた。ここで一体何をやっているのかを。以外にも早く泣きやんだディアルガは簡単に今の状況を説明した。
「ふむ……。パルキアの好きにさせるわけにもいかないし私も軍隊を整えることにしたんだ。
ここはそのベースキャンプってこと」
彼女はディアルガの言葉を聞いて歓喜した。この軍隊に所属出来ればパルキアを追い詰める為の礎になることが出来る…っ!彼女は早速ディアルガに交渉した。私も軍隊に入りたいと。人数が増えればそれだけ有利になるからすんなり入れてくれると彼女は考えていた。しかし、返ってきたのは意外な答えだった。
「だめだよ。君みたいな子をこんな戦争には巻き込みたくない。さぁ、はやくここから遠く離れた地に避難しなよ」
彼女はあきらめなかった。軍に所属したい訳も細かくディアルガに話した。パルキアに復讐してやりたい。その一心で彼女はディアルガにくらいついていた。
彼女の熱意に押されたのかそれとも不毛な交渉に折れたのかディアルガはリーフィアを正式に仕官させた。森を守れなかったことに責任を感じているらしくせめて居場所は作ってやろうという口実だったが。それでも、リーフィアは一般兵士として戦場に行くことを許された。
彼女はベースキャンプに用意されていた自分用のテントの中で高まる気持ちを抑えていた。まだ幼さも残る顔に満面の笑みを浮かべて一人テントの中で嬉しそうに横になっていた。
このとき誰も知らなかった。彼女の存在が大きくこの戦いを変えることを…。
次の日。ディアルガのベースキャンプの中は異様に騒がしかった。それはそのはずだった。昨日の今日でパルキアがディアルガ達に宣戦布告をした。最悪午後にでも軍隊が整っていないとベースキャンプを襲撃されて壊滅するのは目に見えていた。ディアルガは各部隊の隊長と共にしょぼいテントの中で会議を開いていた。
しかし、一向に各部隊の意見がまとまらず結局クレセリアと呼ばれるポケモンの頭に頼るしかなかったという情けない結果になってしまったわけだが。
一方、兵士たちの間では初めての戦闘らしい戦闘が始まろうとしている為か妙に昂った雰囲気がキャンプの中に充満していた。練習の為に技を繰り出しているものや友人と一緒に出撃する準備をしているものや中には今になって怯え始める者まで出ていた。その中で昨日のリーフィアは多くの兵士に取り囲まれていた。内輪揉め……ではなさそうだったが。
どの道多くの雄たちに囲まれてしまい彼女は困惑しきっていた。味方なのは理解しているから昨日みたいに威嚇のために技を放つわけにもいかないし、一緒に戦っていく仲間になるわけだから冷たい言葉を放っておいかえすわけにもいかないしそんなことはしたくなかった。それ以前に彼女はなぜ自分が雄に取り囲まれているのか理解しきれなかった。
彼女は今この状況を把握しようと雄たちの会話に耳を傾けた。しかし、聞こえてきたのは雄同士の会話だけ。「かわいい」だの「嫁にする」だのよこしまな会話が飛び交っていた。全くこれだから雄ってやつはデリカシーがない…。と考えて顔をしかめた。だが、その言葉を聞いてから彼女は気がついた。この場に彼女以外の雌はいないのだと。先ほどの会話は彼女自身の事を指しているのだと気がついた時には顔から火が出そうな勢いで恥じらった。顔を赤くしてうつむき始めたリーフィアの仕草が余計に雄たちを興奮させたのか彼女に声をかける者まで出てきた。彼女はそれらをしかとして誰かに助けを求めようと逃げ出した。当然逃げる雌を追いかけ始める雄たち。彼女はどこに逃げ込めばいいか分からなかった。せめて昨日のうちにベースキャンプ内を把握していればこんな事はなかっただろうがあいにくもう過ぎてしまったことだ。しかし、彼女は運よく見つけることが出来た。ディアルガ……の足を。テントからだらしくなくはみ出ているその足にすがる思いで彼女はテントの中に飛び込んだ。息を荒げながらテントの中を見渡した。なんか重苦しい雰囲気の中に飛び込んできてしまったのは彼女でも察しがついた。体中に傷を作っていかにも多くの修羅場をくぐりぬけてきたようなポケモンが一斉に彼女へと視線を移した時には彼女はすでに目に涙をためていた。その中の一匹のゴウカザルが彼女に声をかけた。
「会議中だ。出ていけ」
その声のトーンの低さに彼女は再び怯えてしまった。足を動かそうとしても動かなかった。しかし、そんな彼女に一匹のポケモンは優しく声をかけた。
「こら、ゴウカザル。そんなにひどいこと言わないの。……どうした?何か困ったことでもあったのか?」
聞き覚えのある声。威厳に満ちていながらも優しさのこもっている不思議な声。彼女は顔を上げると彼女の求めていたディアルガが微笑みながら立っていた。彼女はついさっき起きた事をディアルガに話して聞かせた。会議を中断してまでディアルガはその話を聞いてくれた。もっともこの会議で役に立っていたのはクレセリアの頭だけだったが。彼女の話を聞き終えるとディアルガは苦笑いしていった。
「あぁ……。まあ嫌がらないで雄たちとも話をしてやってよ。君はクレセリアを含めたとしてもたった二匹の雌のうちの一匹なんだから。
でも、クレセリアは性格からして雄っぽいから正確には唯一の雌ってことで……いたっ!」
「誰が雄っぽいですって?私はちゃんとした雌です。今度そんなことを言ったら机であなたの頭を叩いて差し上げますからね」
飛んできた分厚い本の角を頭に受けて痛そうに涙ぐんでいるディアルガにさらに言葉で追い打ちをかける三日月のような形をしたポケモンを見ながら彼女は先ほどまでの緊張はどこかへいってしまった。よし、これからはしっかり雄たちとも会話をしてあげなきゃな。そんなことを考えながらディアルガに別れを告げた。
しかし、彼女はディアルガのテントを抜けてから考えを改めようかと思った。彼女の前にできた人だかり。雌に飢えた陣中に放り込まれた彼女が多くの雄を虜にしたようだった。しかし彼女はそんなことなど全く考えずにこの雄たちをどう対処しようかと再び頭をひねることになったのだった。
結局リーフィアは次々と押し寄せてくる雄どもに自己紹介と挨拶代わりのはかない笑顔を送り続けていた。ずいぶん精神的につらいものもあったが流石にディアルガのテントの前で揉め事を起こすわけにも行かないし、つい先ほど雄たちとも仲良くしなければならないと決意したばかりでもあってしぶしぶ続けていた。雄たちはというとそんなリーフィアの苦労を知るはずもなくリーフィアに笑顔と自己紹介を求めて群がっていた。
そんなこんなで大幅に精神力を消耗させたリーフィアと雄たちに昼食の合図の鐘が響き渡った。その鐘を聞いて助かったといわんばかりに食堂への道を雄から聞き出して一目散に会議のテント前を離れた。途中何匹かの雄に一緒に昼食に誘われたが流石に昼食のときぐらいはひとりにしてほしかったのだろう。やんわりと断って逃げるようにして雄の群れから離れた。
食堂用に作られた広いテントの隅っこでリーフィアはひとり細々と野菜ばかりが多く盛り付けられた料理を食べていた。もともとリーフィアという種族の性質上、肉を食べなくとも光合成でエネルギーを得ることができるようだ。後は体の調子を整えるためのものを摂取していれば健康的に生きていける。ということを本能で知っているリーフィアは意図的に野菜ばかりを盛り付けていった。傍から見ればすごい偏り方をしている昼食をゆっくりと味わいながら食べているリーフィアにあるポケモンが声をかけた。
「ねぇ、隣……いい?」
夢中になって野菜やら木の実やらをほおばっていたリーフィアに少しおどけた感じのブースターが肉を中心に盛り付けられた料理を持ちながらリーフィアの座っていた横長の木箱の一端を指差した。少し広めに作られた食堂用のテントの中を見渡してみるとすでに満員といった感じで空いている席を探していては昼休みがなくなってしまうかもしれないほどだった。流石に断るわけにもいかないリーフィアはブースターに口の中に野菜を入れながらうなずいて見せた。ブースターは満面の笑みを浮かべ「ありがと」と言って隣に座っていかにもスタミナのつきそうな昼食を食べ始めた。リーフィアもその様子を確認して自分の昼食を食べ始めた。しばらくしてブースターがふとリーフィアのほうを向いて声をかけた。
「そういえば……君、名前はなんていうの?」
そう聞かれて彼女は名乗ろうか迷った。ほかの雄たちには彼女には名前がないことになっている。彼女は自分の名前が嫌いであった。ありきたりで、平凡な名前を名乗ろうとはしなかった。親からもらった名前なのだが兄との名前の違いを思うと余計に自分の名前を名乗ることに嫌気を感じていた。……でも、このブースターに嘘をつくのはなんとなくためらわれた。彼女に群がってきた雄たちとは違って彼女を雌ではなく一匹のポケモンとして話しかけてきてくれたブースターに嘘をつくのはなんとなくいやな感じがした。ほかの雄たちに名前だけは教えていなかった。
リーフィアがどうしようかと悩んでいると「名前」という単純なものを訊こうとしたはずなのに一向に答えの返ってこないブースターは違和感を抱いて思わず訊き返そうとした。
「ねぇ……どうしたの?」
「えっ……。い、いや…。なんでもないの……。…私の名前はリーフ。あなたは?」
いきなりブースターに心配されてリーフィアは焦ってしまったのか悩んでいたはずの名前を口から滑らせてしまった。しかも勢いに乗って相手の名前まで訊いてしまった。相当あせっていたのか訊いてから言い直そうかと思っているとブースターに先を越されてしまった。
「へぇ……。リーフさんか……。僕はフレイ。よろしくっ」
そういうなりフレイはリーフに手を突き出していた。リーフはその手が何を意味しているものか一瞬、全く掴めなかったが直に握手を求めているのだと気がついてあわててブースターの手を握った。なんかこのポケモンと一緒にいるとペース狂っちゃうなぁ……。そんなことを考えながらぎこちない握手を交わして微笑んでいるブースターの顔を眺めていた。
こんなまったりしたひと時を過ごしていたリーフとフレイの時間をたった一つの鐘の&ruby(ね){音};が崩した。
出撃が決まった。彼らの顔が一気にこわばった。
鐘の音を聞くとともに兵士たちは慌てて食堂を出る支度を始めた。リーフとフレイも動き始めた。兵士たちの流れに乗ってベースキャンプの中で最も開けている広場に全兵が集合した。ざっと見渡して数百匹……。こんな数で果たして軍と呼べるのかはいささか疑問であったが対するパルキアの軍もそこまで軍らしい軍は編成していないと思われる事から頭数では対して有利不利もなさそうであった。
目の前に敵軍が迫ってくる中ディアルガの作った部隊は面白いものだった。リーフの配属された部隊には一見何の統一性もなかった。統一性があるとすれば全員青いスカーフを巻いていることぐらいだろうか。似合わないものも数多くいたが…。そんな部隊に命じられたのは本隊とは離れ別動隊となり正面から衝突した本隊同士の横に回り込み進撃してくる兵の脇腹をたたく事であった。この作戦には「速さ」が必要となる。力は無くとも全く警戒していない所をたたかれれば損害は大きくなるかもしれないうえに敵が混乱するのは火を見るよりも明らかだった。リーフはこの作戦には向いていた。彼女はある程度は自分の足に自信を持っていた。この別動隊に選ばれた兵は全てそうであった。リーフはふとあたりを見渡した。探していたのはフレイの姿だった。しかし、別動隊の兵士の中にその姿を捉える事は出来なかった。
ベースキャンプを出て本隊は迎撃の姿勢を取り始める。リーフ含める別動隊は不意打ちの為に早めにパルキアの軍の通るであろう場所の小脇に身を潜めていた。出撃する時にディアルガに聞かされた話をリーフは再び心の中で繰り返す。まず、自分の任務を必ず遂行する事。これは兵士となったら当然のことであるが…。もう一つは無駄に多くの命を奪ってはいけないと言う事。基本的にポケモンと言う生き物はタフなものだ。戦闘においてポケモンの本能はある程度の負傷で活動を止める。これをポケモンは「瀕死」と呼ぶ。縄張り争いなどで死者が出にくいのも死ぬ前に決着がついてしまうからだ。瀕死の状態のポケモンに攻撃をつづけたらどうなるか。ある程度想像はついていると思うがなおも肉体が傷つけられ続けるとそのポケモンの生命活動そのものが止まってしまう。これを「死」と呼ぶ。これから始まるのは戦争だ。死とは切っても切れないもだ。だがそれでもディアルガはたとえ敵のものであろうとも命は守ろうと決めた。
リーフは頭の中で今回の作戦のおさらいをした。本隊同士の戦いがある程度白熱してきた所でディアルガが一発吠える手はずになっている。その方向を合図に別動隊が二方向から敵の中軍を挟み撃ちにする。二つの本隊がぶつかり合っている。別動隊を出した分こっちの軍の本隊は規模が小さい。思っていたよりも早く別動隊出撃の合図が出た。片方の別動隊を指揮するゲンガーがにやけながらリーフ達に指示を出した。
「さぁて、別動隊の出番だよ……。ぜんそくりょぉ〜く!」
そう言うとゲンガーはものすごいスピードでかけだした。威嚇のためだけに放つのでも十分効果はあるとのゲンガーの意見でゲンガーのサイコキネシスやシャドーボールに続けて各々の遠距離技を放っていた。リーフは遠距離技を持っていなかったのか少し後ろのあたりで技の発動の邪魔にならない所を走っていた。前の方で悲鳴が聞こえる。じかに戦況を見るのは少し難しかったがポケモンの叫び声だけで彼女自身が今戦場の中にいるのだと改めて自覚した。直に別動隊が敵の中軍にぶつかった。敵はすでに混乱しきっていた。威嚇射撃が敵部隊指揮官に当たったのか指揮系統を失い中軍は壊滅状態に陥っていた。リーフもここでなら、肉弾戦なら戦える。そう思い右前脚に力を込めた。いつ敵が来てもリーフブレードで斬る事ができるように。
しかし、彼女の算段はすぐに崩れた。味方がはなった紅蓮の炎。それが敵のポケモンや荷物に燃え移った。荷物が激しく燃えたちまち大きな火炎と化す炎に別動隊は手を打って喜んだ。……しかし、リーフはその場に崩れ落ちた。燃え盛る火炎の中に兄が火の中でもがき苦しむ姿が見えた様な気がした。焦げ臭いにおいを敏感に察知し、吐き気を催す。右前脚で口を押さえながら大粒の涙を流し始めた。既に本隊が中軍の位置まで押し上げているのにも気がつかず彼女は泣いていた。そんな彼女にそっと声をかけたポケモンがいた。
「大丈夫? リーフさん……。」
彼女はその言葉を聞いて何を想ったのだろう。何も想っていなかったのかもしれない。リーフはフレイの言葉の中に兄の面影でも感じ取ったのか、彼女はフレイに抱きついて泣きじゃくっていた。フレイのぬくもりを感じながらリーフは泣き続けた。ディアルガ率いる本隊はすでにパルキアの崩れたった中軍の位置まで押し寄せていた。しかし、フレイに抱きつきながら泣きじゃくっているリーフはそれを知る由もなかった。
気がついたら戦争は終わっていた。リーフにとって今回の戦闘はそんな印象しか残っていなかった。それもそのはず、ずっとフレイの胸に顔をうずめていて泣きやんだ時は引き上げの鐘が鳴っている時だった。泣きはらした目をこすりながら夕陽の光のなかにぼんやりと見えるフレイの顔を見つめていた。
【創世暦5000年 5月】
ハクタイの森南部、ハクタイ平原にてパルキア軍と交戦。
パルキア軍を退けることに成功。
死者0匹
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夕食の最中リーフはずっとうつむいていた。隣に座って夕食を食しているフレイを見るたびにかあっと顔が熱くなる。会って間もない雄のポケモンに交戦中に抱きついて泣きじゃくっていたことを思い出すと当然顔も合わせたくはなかったのだろう。重苦しい雰囲気のまま兵士たちの入浴の時間が始まった。リーフはフレイから逃げるようにして夕食をのせていた皿を片付けさっさと入浴場へと足を運んだ。
雄用の風呂と雌用の風呂とに分かれている入浴場を見てリーフは安心した。もしかしたら雄と一緒にお風呂にはいるなどということだったらきっとリーフは入浴自体断念していただろう。安堵のため息をつきながら入浴場へと入る。中にはもう先客がいた。三日月のような形のしたポケモン。一瞬名前を忘れかけていたリーフははっと思い出す。確かクレセリアとかいう名前だったな……。そんなことを考えながら浴場へと入る。
クレセリアはリーフの存在に気がついたのか浴場の入り口のほうへ視線を移した。リーフにとってクレセリアは上官であるからリーフは深々とお辞儀をした。お辞儀だなんてするのは初めてであったのもあってなんともぎこちないものとなってしまったがそれでもクレセリアはにこっと笑ってリーフに手招きをした。リーフはお辞儀から顔を上げると手招きをしているクレセリアに気がついてあわててクレセリアのほうへと駆け寄った。
そしてお風呂の中に二匹が体を洗う音だけが響く。直にその音がやみリーフとクレセリアは湯船に浸かった。しばらく二匹でのんびりとしているとクレセリアがそっとリーフに訊いた。
「ねぇ、あなたにとって戦闘は辛い…?」
そう心配そうに訊いてくるクレセリアの質問の意図が掴みきれていないリーフは首を傾げて再びクレセリアのほうへと向き直った。上官に対してはずいぶんと失礼な態度であったがクレセリアはまったく気にしていない様子でリーフに再び聞いた。
「うぅん……。今日戦場で泣いていたから心配になっちゃってさ……。
辛かったら、やめてもいいんだよ?」
クレセリアの心配そうにしている声を聞きリーフは首を横に振った。
「私は平気です。戦闘もぜんぜん大丈夫です」
そうしっかりした言葉で語るリーフを見て安心したのかクレセリアは再び湯船に体を沈め心配そうな表情を緩めた。
一方、そのころディアルガはリーフの扱いに頭を悩ませていた。別働隊隊長のゲンガーから聞いた話によると味方が火を噴いたときに泣きだしてしまったとのことだった。ディアルガも事情をまったく知らないわけではなかった。リーフを治療するとき彼女の記憶まで一緒に干渉してしまい鮮明な記憶を垣間見てしまった。焼け焦げた同胞、燃え尽きた森、ディアルガですら今思い出しただけで吐き気を催したくなる映像だった。もしかしたらその一件でリーフは火に対してトラウマがあるのだろうか。そんなことを考えながらリーフの所属部隊を考え、頭をひねるのだった。
初勝利の次の日から軍事演習が始まった。リーフももちろんそれに参加し大いにその力を振るった。雌でしかも戦場で泣いていたのもあって大半の雄は手加減しながらリーフに戦いを挑んだが全てのオスを返り討ちにするリーフを見て一日で雄たちへの印象を変えた。仕官させたディアルガ自身もリーフがここまでやるとは思わなかったのか改めてリーフの力を見直すこととなった。
それから2週間後、再びディアルガ軍のベースキャンプに戦いの鐘が響き渡ったのだった……。
鐘の音が響き渡るとともに南の方角から多くの陸上兵と白い大きなポケモンが空を駆けてくるのが見えた。敵かと構えるリーフ含める兵士たちをなだめディアルガは待ちわびていたかのようにその方角を見て満面の笑みを浮かべディアルガの目の前に降り立った白い大きなポケモンをねぎらった。
「遠くからはるばるありがとう。ルギア殿」
「いやいや、私もホウオウとは決着をつけたかったわけだし共同戦線張るのも悪くないかな〜。なんて思ってさ」
「どっちにしろ、共に戦ってくださること、深く感謝するよ」
そういってディアルガは深々と頭を下げた。ルギアと呼ばれたポケモンは照れながらも「こちらこそ」といって頭を下げていた。
相変わらずきちんとした部隊も決まっていないまま2度目の戦闘となった。今度は敵の陣容も明かされ敵もこの短時間で以前にも増して強くなっていることがうかがえた。リーフたち兵士はディアルガの口から明かされていく敵の陣容を必死に聞いていた。まず、敵軍の大将であるパルキア。こいつを討つことができれば戦闘は終わるだろうが……なにせ神だ。そう簡単に倒せるとは思えないのも事実だった。続いて敵の軍師であるダークライ。クレセリアとはもともと敵対している存在でありクレセリアに負けも劣らない奴らしい。その知略を前に兵は闇に飲まれていくとかそんな噂の絶えないポケモンだった。そして最後に今回の戦闘から援軍にやってきたホウオウ。空を統べる者であり最近は海を統べるルギアとはもめている関係だったらしい。以前はルギアといちゃいちゃしていたらしいが……どうやら今はそうではないらしい。
ざっと敵の頭を数えて3つ。こちらも3つである。今回も以前と同じくどっこいどっこいの戦力になるからクレセリアに指示を出してもらいたかったのだが…思ったよりも敵の進軍速度が速く結局正面から衝突するのを想定した陣を組みパルキア軍が来るのを待っていた。
ベースキャンプの櫓から敵の先陣を切るものが伝えられる。リーフとフレイ、2匹は最も戦闘の激しいと思われる場所に配属され完全に固まっていたがそんなのを待つわけもなく目の前にパルキアの軍が迫ってきていた。2匹は覚悟を決め混沌とした戦場に飛び込んでいった…。
リーフは必死に戦っていた。リーフブレードで道を切り開きながら草結びで敵の動きを止める。そしてリーフの横ではルギアが戦っていた。海の神と聞いておきながらも空気を操り敵をなぎ倒す。時には超能力で敵の動きを止める。そんなルギアの力強い戦闘のおかげで戦意を喪失することなくリーフは戦うことができていた。他の者たちも各々の陣を構え敵と交戦していた。ルギアはホウオウと戦いたかったようだったが。
しかし、新たな敵の登場により大きく戦局が傾いた。突如敵陣の中に現れた黒い影。その黒い影は恐るべき速さでルギアに接近し黒いエネルギーの塊をルギアの額にぶつけた。そして、ルギアは痛がることも、悲鳴を上げることもなくその場に倒れてしまった。得意そうにしている黒い影と倒れてしまったまま動こうとしないルギアをリーフは味方の兵の間から見ていた。直に聞こえてきたのはルギアの穏やかな寝息。しかしその幸せそうな寝息は徐々に乱れ始めとても苦しそうな唸り声を上げる。まるで悪夢を見てうなされているような声を聞きながら味方は手出しをしようとはしなかった。リーフは周りを見た。誰もルギアを助けようともあの黒い影に攻撃を仕掛けようとはしなかった。リーフは味方の兵の間を通り最前列へといった。黒い影は静かに手を伸ばしルギアへとその手のひらを向けた。その途端さらにルギアは苦しみだす。
もう見ていられない。そうリーフは思った。敵の黒い影まで後23歩。10歩気が付かれずに忍び寄り8歩走って飛び掛るか。いや、どうせ私はただの一兵士。ならば派手に飛び出していくのもいいのではないか。そんなことを考えリーフは後ろ足に力を入れた。
そして、力強く地を蹴った。一気に黒い影との間合いをつめ黒い影の腹部めがけて飛びついた。黒い影は青く光るその目でリーフを捉えたのはリーフがすでに影へと飛び掛る瞬間であった。腹部目指して飛び掛りながら顔の前で前足を高々と振り上げる。失敗したら死んでしまうかもしれない。そんなことを考えながら技の出の早いシザークロスを決めるため前足の先に付いている葉に虫の力を宿す。そして黒い影との間合いがなくなった。あと少しで影とぶつかる。 その瞬間にリーフは振り上げていた足を目の前で交差させながら一気に振り下ろし、目の前の影を切りつけた。自分の葉が敵の肉を裂くこの感覚。何度感じながらも慣れなかったこの感覚を感じ安心している自分がリーフの中にあった。技を放ち終え宙で一回転しながら着地し黒い影の状態を確認する。息はまだある。しかし、腹部から大量の血を出し口からも血が垂れているように見えた。呼吸も荒く浮かんでいるのがやっとといった状態であった。
「………撤退……だ……」
そうつぶやくとその影は姿を消した。そして先ほどまでうなされていたルギアが目を覚ましあたりを見渡す。敵は真っ青になって散り散りに逃げ出した。「ダークライ様がやられた」そう口々に叫び軍の規律などはもはやなく撤退していった。リーフは敵の引き際の言葉を聞いて自分が斬ったのはダークライだったという事実を確認し放心状態に近い状態で空を見上げていた。そして、本軍を崩され別所で戦っていたホウオウもやむなく撤退しディアルガの軍は大勝利を収めることができた。
前のような失態もなく力を存分に発揮できたリーフにディアルガは直々に挨拶に行った。リーフのテントの中で仰向けで無防備に寝転がっているリーフに声がかけられあわててリーフは起き上がった。
「やぁ、リーフ。今回はありがとう。君がダークライを倒していなかったらどうなっていたかと思うと……。
本当にありがとう。感謝しているよ」
「はあ……。あ、ありがとうございます…」
「そこでだ。これから兵をいくつかの部隊に分けようと思うのだが…。
リーフには小部隊の隊長をやってもらいたいと思っているのだ。どうかな?
……というかもうクレセリアが取り決めちゃったんだよね。はい、この書類にサインプリーズ」
そういってディアルガは明るく書類と羽ペンを差し出した。下のほうに著名欄がありそこをディアルガは指差して微笑んでいた。リーフは迷うことなく羽ペンを握り書類にサインをした。サインにしてはやけにきれいなサインを眺めながらディアルガはにっこり笑って付け足した。
「さてと、誰か部隊に所属させたいポケモンはいる?いるのならその名前も一緒にこの用紙の裏に書いちゃってよ。あっ……。あと、これ。あげるよ」
そう言われ紙切れと何か包まれた小包を渡されたリーフは迷ってしまった。誰を部隊に入れるべきなのか。雌というのもあって雄となんかあまり会話はしていなかったから誰が強いのかもよくわからないし知っていたとしても名前がわからない。悩んでいるリーフの頭の中に思い浮かんだ一匹の雄の顔。そのポケモンのことを考えながら書類の裏に名前を書いた。
「ふぅむ。………『フレイ』…このポケモン一匹だけでいいんだね」
「はい。よろしくお願いします」
そういってリーフはぎこちないお辞儀をディアルガにした。ディアルガは微笑みながらリーフに言った。
「こちらこそよろしく。リーフ小部隊隊長殿」
そういって紙切れを咥えながら飛んでいってしまった。その姿を見送りながらリーフは自分に渡された小包の中身を見ると中に小隊長のバッチが入っていた。スカーフにつけておくようにとの指示がある紙と共に入っておりリーフはうきうきしながらスカーフにバッチをつけたのだった。
【創世暦5000年 5月】
ハクタイ平原にてパルキア連合軍と交戦。
パルキア連合軍を退けることに成功。
死者0匹
今回の戦闘から部隊を分け、ディアルガ軍は新世軍を名乗る。
新世軍白陽同盟を締結。
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リーフ小隊が誕生してから3日後。リーフとフレイはベースキャンプ外側の警備に当たっていた。しかし、敵などくるはずもなく二匹楽しく談笑していただけだったが。そんな二匹に一匹のポケモンがベースキャンプの外から声をかけた。
「おーい……そこの君……。…って……ユウ……?」
リーフとフレイが振り返ってみるとそこには凛々しいサンダースがこちらを向いて立ち尽くしていた。なんだろうと思って二匹が歩み寄ろうとすると目の前にいるサンダースは二匹の元へ駆け寄り、いきなりリーフに無言で抱きついたのだった。
いきなり抱き付かれたリーフは困惑しきっていた。困惑しきっているリーフとそんなリーフを強く抱きしめるサンダースを見ていたフレイはとっさに二匹を引き離してサンダースをにらみつけた。サンダースは引き離されて我に返ったのかまじまじとリーフの顔を見つめて呟いた。
「あれ……。お前、ユウじゃないな……?」
そういってサンダースはリーフの顔を観察し始めた。今にも顔がくっついてしまいそうなほど接近している二匹を見てフレイはなんとも腹が立ったが口には出さずなるべくそっぽを向いていた。直にサンダースが言葉を発した。
「やぁ、ごめんごめん。ポケ違いだったよ。
………ところで、ディアルガがどこにいるか知ってる?」
まったく反省の色の感じられない謝罪を述べた後あろうことかディアルガを呼び捨てにしたこの無礼者はいったいどこのどいつなのかとフレイは疑問に思い始めた。そんな無礼なサンダースを前にリーフはディアルガのところまで案内すると言い出して正直フレイは気が乗らなかったが仕方がない。ここでこのサンダースを無視するわけにもいかないし、ベースキャンプはなにかと入り組んでいる。口頭での説明も不可能に近かった。しぶしぶ付いていくフレイを気にすることもなくリーフはサンダースに名前を聞いた。
「ところで、あなたの名前はなんていうの?」
「ん?俺の名前? 俺の名前はレイ。よろしくな」
「……!?」
フレイがレイという名前に過剰に反応した。いきなり取り乱し始めたフレイを見てリーフは心配そうに訊いた。
「ねぇ、フレイ。どうしたの?」
「えっ……。いや、だってサンダースのレイって言ったら…………」
呼吸を整えながらフレイは言葉を続けた。
「『独眼の雷撃手』だよ……」
「『独眼の雷撃手』……?おっかしいな〜…。地元じゃ『片目の利かない雷撃手』って呼ばれてた気がするんだけど……。
まあ、いいや。似たようなもんだし。ちょっとかっこいいからそれでもいいか」
そうへらへらと笑いながら言うレイとお互い顔を見合わせて驚いているリーフとフレイ。フレイはまさかあこがれのポケモンが今目の前にいるとは思ってはいなく、リーフは今目の前にいるのがハクタイの森出身のポケモンだったとはと親近感のようなものを感じながらレイを見ていた。二匹からまじまじと見つめられたレイは気恥ずかしそうに頭をかきながら言った。
「い、いや……。そろそろディアルガのところに案内してくれないかな…?」
「ふむ。報告ありがとう。レイ」
敵の今の状態。何か大きな動きだけでなく細かい動きまでも内部の雰囲気と共に事細かく伝えるレイを見ていてリーフやフレイたちは驚いていた。ここまで敵の状況を探ることなどほかに誰ができるであろうか。まず敵の陣の中にもぐりこむことすら難しい上に、さらに内部の情報まで探ってくるとは、お見事としか言いようのない仕事ぶりだった。てっきり強いだけかと思い込んでいたリーフとフレイが驚くのは当たり前であった。
そんなレイの報告を聞き終え丁寧に先ほどの報告を紙に書いていくディアルガははっと思い出したかのようにレイの方に振り返って言った。
「そうだ、レイ。君の所属部隊をまだ考えていなかったな……。いつまでも傭兵じゃかわいそうだからな…。
……そうだ。リーフの部隊に所属してみてはどうだ?ここまで案内してきてくれたのも何かの縁だろう」
そう言ってレイに青いスカーフを巻きつけリーフの元へ向かわせる。リーフの方はというと、焦っていた。成り行きでここまで強いポケモンを味方につけてしまうのも如何なものかと思われた。が、はっきり言ってフレイと数人の雄しかいない小部隊では何かと寂しいところもあったし来てくれる分には歓迎したい状態だったのも確かであった。ディアルガの半ば強引な後押しのおかげでリーフ小部隊の兵士はさらに一匹増えた。
その日、いつもの軍事演習が行われた。しかし、せっかく部隊に分けてからの演習というのもあって今日の演習は部隊別に取り決めてやるようにとの指示が出された。リーフはこういうことを決めるのに慣れていないからか散々頭を悩ませて決めたのは部隊の中で兵士たちの強さを確かめてみることでった。
新しく入ってきたレイの実力も確かめたかったし、いつも穏やかにしているフレイの強さも見てみたいと思ったのもあった。部隊の中の雄に強いやつがいるかもしれない。そんなことを考えながらリーフは戦闘順を決め始めた。
戦闘はトーナメント方式にしてやってみたが……。ほかの雄たちは脆かった。どんどんリーフとフレイとレイが勝ち進んでいく。フレイは戦闘の時も穏やかで無駄に相手のポケモンを痛めつけようとはせずに加減というものを知っているかのような戦い方をしていた。対するレイは相手に徹底的敗北を見せ付けて勝ち進んでいた。感電して無様な姿をさらしていく雄たちを見てリーフは同情していた。リーフ自身ももちろんトーナメントに参加していたが、雄が雌相手に本気を出せないでいるのかあっけなく草結びで動きを止められリーフブレードをのどに突きつけられて降参という戦闘ではなく作業を繰り返していたため強いのだか弱いのだかフレイとレイは理解することができずにリーフを見ていた。
直にフレイとレイが戦闘位置につく。先ほどから二匹に叩きのめされてきた兵士たちは二匹が向かい合うのを見て固唾をのむ。戦闘開始の合図をリーフが出す。それを聞いた途端、意外なことにフレイからレイに飛び掛っていた。肉弾戦ではサンダースは圧倒的に不利。それを一番よく知っているレイは横に飛びのいてフレイに至近距離から十万ボルトを浴びせようとする。恐ろしいほど出の早い十万ボルトをフレイは間一髪で交わし大きく息を吸い込んだ。そして今までの戦闘では一度も使ってこなかった炎タイプの技を放った。フレイの口から赤々としたの炎がきれいな直線の描いてレイへと襲い掛かる。ここまで正確にレイの位置を捉えて火炎放射を放ってくるとは思わずにレイはあわてて横へ逃げだす。その姿を捉えフレイは追い討ちにとレイの逃げてくるであろう場所に先回りし日本晴れを使った。刺さるような日差しを擬似的に作り出しさらにフレイの目が生き生きとする。この炎タイプにとって圧倒的に戦いやすい状況の中レイが近づいてくるのを確認すると共にフレイはオーバーヒートを放った。
あたりを高温の空気が包み込む。焦げ臭い匂いも漂ってきた。兵士たちはこのオーバーヒートの破壊力に度胆を抜かれていた。リーフはというと……炎がよっぽど怖かったのか隅のほうで縮こまっていた。直に黒煙が風に流されフレイの姿があらわになる。流石にあれだけの力を一気に解放して疲れたのかそれとも反動が思ったよりもきつかったのか足元がふらついていた。しかし、フレイの姿を見つけることができたがフレイを含めすべての兵たちがレイの姿を見つけることができなかった。どこにいったのか力なくあたりを見渡すフレイの背中に鋭い稲妻がいくつも落ちる。当然よけることなどできず悲痛な叫び声を上げて力なくフレイはその場に倒れこむ。上から落ちてきたということはと思いフレイは痺れの残っている体に鞭打って上を見上げた。そこには傷ひとつ付いていないレイがテントの上に座っていた。フレイはレイの姿を確認すると再び地面へと崩れ落ちた。もう動くことすらできないほどに傷ついてしまったのか倒れてしまってから動く様子が見られない。あわててリーフが駆け寄り救護班からもらった粉薬をフレイに飲ませる。相当苦かったのかフレイは顔をゆがませ咽ながらもリーフの飲ませようとしている薬を口に含みそのまま飲み込んだ。
それを確認してフレイを日陰で休ませリーフとレイが戦闘位置につく。同じ部隊の兵が緊張しながら戦闘開始の合図を出す。リーフはある程度は足に自信があったがレイには決してかなわない。それをわかっていて下手に動こうとしなかった。レイのほうはリーフの動きをじっと窺っていたがリーフが何も仕掛けずに構えているだけなのを確認すると一気にリーフとの間合いをつめようとした。リーフはなるべく気が付かれないようにと前足に力をこめた。接近し電磁波を浴びせようと体に電気を帯びリーフに向かって一直線に接近するレイの足に何かが絡みつきレイは派手に転倒した。そんなレイののど元にリーフはリーフブレードを突きつけて降参を促す。今までの雄もこうやって降参してきたのだがレイは違った。リーフを見上げると共に放つはずだった電磁波を仕掛けたのだった。
勝った。レイはそう思って足に絡みついた蔓を解こうとしたときに前足にまで蔓が絡み付いてきた。そんな馬鹿な。技など使えるはずがないのに。そう思ってリーフを見上げるとまぶしいほどに強い日差しに照らされ逆光で暗く見えるリーフの顔は電磁波を浴びているとは思えないほど生き生きとしていた。レイは思い出した。リーフィアという種族の特性を。フレイが先ほどの戦いで日本晴れを使用したことを。フレイの作り出した日の光が今のリーフを守っているのだ。あらゆる状態異常を受け付けないリーフガードが発動していることに気が付き絶望した。
「ちょっ……まって……っ!…降参降参っ!」
そう叫ぶレイはすでに蔓に体を縛り付けられ黄色い体毛のほとんどが蔓に覆われ見えなくなっていた。ほかのポケモンの使った技を利用するのは少々ずるいような気もするが戦場ではずるいずるくないなどといっていられないのを考えると当たり前の戦術であろう。
リーフが蔓を地面の中へ引っ込めるとレイは咳き込みながら立ち上がってリーフをまじまじと見つめた。
「お前……。意外と強いんだな!」
そう屈託ない笑顔で声をかけたレイは疲れたのか自分のテントへ戻っていった。ほかの兵士たちも各々のテントへ戻っていき演習場にはリーフとフレイが残っていた。考えなしに本気を出しすぎたのかレイに負けて相当ショックだったのかだいぶ辛そうに見えたフレイをリーフはその場で介抱した。本当はテントまで運んでいきたかったが体がまだ小さいリーフにはそんな力技が到底できるとも思えなかった。電撃が直撃した場所を擦ってあげたりと医学的な介抱はリーフにはできなかったが一緒にいてくれるだけでフレイはうれしかった。それから日が沈みかけるころまで二匹で一緒にいた。
リーフは日が沈み終えフレイがだいぶ回復した後、少し遅くなった風呂へと向かった。いつも一緒に風呂に入っているクレセリアは必ず一番最初に風呂に入っているため今日は一緒に入浴するのは誰もいないのかな。と考え浴場の戸を空けてみると……そこには意外なことにルギアがいた。超能力か何かで桶を操り自分の体にお湯をかけているところにリーフは縮こまって入っていった。そんなリーフの姿を確認するとルギアは微笑んで声をかけた。
「あっ、リーフ。一緒にお風呂に入らない?」
そう声をかけられ小さな声で「はい」と答えルギアの隣に座るリーフにルギアは向き直り静かに声をかけた。
「この前の戦闘では助かったよ。改めて礼を言わせてほしい。
……ありがとう」
そう頭を下げながら礼を述べるルギアを前に少し困惑気味だったリーフにルギアはすっと右翼を差し出す。リーフもその右翼に右前足で触れた。そして二匹は握手を交わし世間話に花を咲かせた。
そこにガラッと扉が開く音がした。おかしいな。この時間は誰も来ないはずなのに。そう思った二匹は同じタイミングで扉のほうを向いた。そこに立っていたのは紛れもない、この軍の最高指揮官であるディアルガだった。
「おや? ご一緒してもいいかな?」
「…………」
二匹とも口が利けなかった。今彼女たちの目の前にいるのはディアルガだ。そして、今彼女たちがいるのは雌用の風呂である。さらに気の毒なことにリーフは水を浴びた後でいろいろと隠すべきものが隠されてはいない状況でディアルガが来てしまった。そもそもなぜディアルガがここにいるのかをリーフは一生懸命考えた。覗き見か?いや、豪快に扉を開けて雌用の風呂に入って覗き見だなんてそんな馬鹿げた話はないだろう。それにそれは覗き見とはいわない。
そんなことを考えながら開いた口がふさがらないリーフをよそにルギアはディアルガに桶を飛ばした。
「すけべっ!」
「えっ? いたっ!」
見事に桶がディアルガの頭にクリーンヒット。一生懸命防ごうとはしていたもののルギアのコントロールのいい桶には通用しなかった。ルギアはものすごい剣幕でディアルガを叩きのめしてやろうかと浴場の桶をすべて神通力で持ち上げディアルガに一斉攻撃の構えを見せた。流石にあれだけの桶に殴打されては時をつかさどるポケモンもただではすまないだろう。それよりもルギアの出している殺気がディアルガとリーフにとって、とてつもなく恐ろしかった。
「さあ、弁解があるならこの私、雌風呂の守護者ルギアがきいてやるっ!」
そう言ってディアルガをにらみつけながら答えを待つ。リーフはルギアがいくつもの桶を浮かべてディアルガに詰め寄っているこの異様な光景に呆気にとられていた。……もちろん隠すべきものも隠さずに。
「い、いやっ。これには深い訳がだね………」
そう言うとディアルガは重いため息をついて訳を話し始めた。
「はっきり言って僕の性別はよくわかんないんだ。僕自身でさえも。
体は雌だけど心は雄。でも胸はないし声は高い」
「…………」
いきなりのディアルガの告白に浮かべていた桶を静かに床に置き始めるルギア。リーフとルギアは静かにディアルガの言葉に耳を傾けた。
「それで、最初はこっちのお風呂に来るのはためらわれたんだけど……
雄用のお風呂に行くと最近は雄どもの猥褻行為がだね………」
そこまで言うと重いため息を再びついてルギアを見た。
「それで……こっちに来ちゃだめ?」
「…………」
しばらく黙った後ルギアは静かに口を開いた。
「いいだろうっ。しかたないなぁ……」
その後、何事もなかったかのように3匹仲良く湯船に浸かった。ディアルガとルギアが一緒に入りだいぶお湯が流れたが「最後だからいいじゃない」とルギアに言われ2匹とも気にはしなかった。
そんな中勢いよく風呂の戸が開けられクレセリアが雌風呂に飛び込んできた。
「ディアルガ様。大変ですっ!正体不明の軍がこちらへ向かって急接近しておりますっ!
今、偵察部隊を出動させましたが敵の進軍の方が早いと思われます。 ほら、さっさと風呂から出てくださいっ!!」
そう言われ慌てて湯船から出るディアルガ。それにつられてルギアとリーフも湯船から出る。クレセリアがテレポートの発動の準備を進めている間、3匹は各々の体を拭き始めたが……どうしても体毛のあるリーフは水気を飛ばせずに色気たっぷりな格好となっていたが本人が自分の姿のことよりも軍のことを考えたのだろう。焦るクレセリアのテレポートにリーフは自分から飛び込んだ。
まるで細い筒のようなものの中で自分の体が乱暴に転がされているような感覚を覚えリーフは目をぎゅっと瞑ってテレポートが終了するまで待った。
気がつけば変な感覚もせずに地べたに自分の足が付いていた。ゆっくりと目を開けあたりを確認する。そこはリーフとフレイとレイがいつも寝るときに使っているテントの中であった。そこには不慣れなスカーフをそれぞれの体に巻きつけているフレイとレイがいた。いきなりのリーフの登場に最初は驚きの表情を浮かべていた2匹だったがじきにレイは俯き始め、フレイは顔を赤くしてリーフを見つめている。
やっぱりね……。そんなことを考えながらリーフは濡れた体にスカーフを巻きつけてテントから出て行こうとする。
「ちょ、ちょっとまってよっ」
フレイにそう声をかけられテントを出る一歩手前で振り返るリーフ。フレイはリーフが外に出て行かなかったことに安心し続けた。
「そんな恰好で出歩いちゃダメだよ……。というか雄に見せちゃダメだって…」
そう言ってますます顔を赤くするフレイ。でもどうしようもない。リーフはそう思いテントの中で簡単に毛を乾かせそうな『何か』を探し始めた。もっとも、そんなものがあるわけがないのだが。慌てているフレイにそっとレイが声をかけた。
「おい、フレイ。 お前が乾かしてやればいいんじゃねぇの?」
そう耳元で言われ、確かにいい考えだけど……。とフレイは考え込んだ。でも、乾かすには僕に密着する必要がある。リーフさんに密着する……。は、恥ずかしいよぉ……。
一匹でリーフに体を密着させている自分を想像して顔を赤くするフレイ。そんなフレイをよそにリーフは再びテントを後にしようとする。集合までもう時間がない。やはりこれしか方法はないのではないか。そう焦る気持ちも出てきてフレイはリーフに普通の雌になら拒絶されてもおかしくない提案をした。
「えっと……。僕なら乾かしてあげられる…かも」
そういうと今まで別に乾かしていなくともいいようなそぶりを見せていたリーフの目が輝き始める。なんだかんだ言ってもリーフも雌なんだなぁ…。そんなことを思いながらフレイは乾かし方を説明した。……その説明はとても簡単だった。ただ単純にフレイに抱きつく。それだけで乾く。
しかし、説明は単純でもこれが果たして雌にできるのか。そんなことを思いながらフレイはリーフの答えを待った。いや、待ったというほどの時間を有することなくリーフからの返事は返って来た。
「じゃあ、よろしく。 ……? どうしたの?ほら、はやくしようよ」
絶対に遠慮されると思っていた提案にオーケーが出されるとは思わずに驚くフレイ。そんな彼の中に提案を聞いてくれて喜んでいる彼がいた。なんだかんだ言って彼もまた雄なのである。ということだろうか。
それからリーフは何の躊躇もなくフレイに抱きついた。といっても抱きしめるとか愛情の滲み出ているような抱き付き方でなくほんの少しぎこちない抱き付き方だった。それでもフレイの心臓の鼓動をより速くするには十分だった。顔を赤くしながらも体内のエネルギー出力を調整してあたりに温度をそれなりに調節した熱気を送り出す。徐々に体温を上げていくフレイ。しかし、抱きつかれているフレイにはリーフの顔がしだいに曇っていくのに気がつくことができなかった。
「あ、あついっ!」
リーフが慌てた様子でフレイから離れる。毛並みはともかくとしてすっかり乾燥した毛を見てレイは目を丸くしていた。こんなにすぐに乾くんだ。おれも今度からフレイに乾かしてもらおうかな…。そんなことを思いながら2匹をまじまじと見ていた。
フレイはというと焦っていた。思っていたよりもはるかに低い温度でリーフが熱いと感じていたことに驚いてもいた。もっとも、草タイプと炎タイプでは体感温度は違うものなのだがフレイはそのことを知らなかった。リーフにいやな思いをさせてしまった。その思いだけがじわりじわりとフレイの心を締め上げてすっかり泣きそうになっていた。
リーフはしばらく自分の体を見つめた後、きれいに体毛から水分が飛んでいるのを見て内心「羨ましいな」と思っていた。
「ご、ごめんっ!」
突然フレイが謝りだしたのでリーフは何だろうと思って顔をあげた。
「ん? あっ、私は平気だよ。 乾かしてくれてありがとっ」
そう言ってリーフはフレイに笑って見せた。そして、時間がないと判断したのか戸惑っているフレイのスカーフを咥えて外へと連れ出した。そのあとをレイは小走りで追った。
「ちょっ、ちょっと待ってってば! いたいっ。耳、耳が取れるっ!!」
そう騒ぎながら本来首に巻きつけるべきであろうスカーフを耳の付け根あたりに巻いているフレイがそのスカーフをリーフにひかれ足をもつれさせながら何とかリーフについて行った。ぐずぐずなんかしていられないというリーフの焦る気持ちが余計にフレイのスカーフを引く力を強くする。そのたびにフレイは緊張感張りつめたリーフに向けてゆるゆるとした口調でスカーフを引くのをやめるように言う。それを全く聞く様子もなくずんずんとフレイのスカーフを咥えながら速足で歩いて行った。
「おぉっ。思ったよりも遅かったじゃないか、リーフ隊長。
さ、早く行きなさい。 ……と言っても後詰めだけどね」
広場にはディアルガとクレセリアが並んで戦場を遠目で見ていた。リーフの存在に気がついたディアルガはそう言ってほかの兵も待機している場所を指し示した。リーフはディアルガに頷いて見せると他の兵たちと一緒にかたまって戦場を眺めていた。 と言っても背が小さく全く戦場の様子など見れなかったのだが。
今までの戦闘では全て前線に駆り出されていたのもあってこうやって多少なりとも落ち着いた雰囲気でいられることがうれしかった。もしかしたら自分は戦争に向いていないのかな?なんて思いながらもパルキアに復讐することなく終えるのも嫌だったし、任された小隊長の任をそう簡単に投げ出そうとは思わなかった。
再び心の中で決意を固めているリーフをフレイは耳に巻きつけてあるスカーフを弄りながらちらりと横目で見た。リーフがその視線に気がつかないうちに再び視線を元に戻す。ふと空を見上げると雲一つ浮かんでいない夜空の星の美しさにフレイはここが戦場であることを忘れ見とれた。
そんなフレイの目に異様なものが映った。戦場の方から聞こえてきた大きな爆音とともに夜空へと吸い込まれていく火柱。何事かとリーフ含める後詰めの兵士たちは火柱の立った方へと緊張を持った面持ちで見やる。後詰めの後ろの方にいたリーフたちはいったい何が起きているのかよくわかっていなかった。炎を出したのが敵か味方さえも全く分からなかった。そんな中後ろからクレセリアの歓喜に満ちた声が聞こえてきた。
「ディアルガ様!援軍……援軍ですよ!」
「そうだね……あれは間違えようがないしね…。
十字に繰り出される炎……」
「レシラム……!」
リーフたち3匹はディアルガ達の会話の意味を汲み取ることができなかったがとにかく新世軍に援軍が来てくれたということは理解した。それが今の火柱を作り出した本人のようだったがやはりまだよくわからなかった。
直に1匹のサーナイトがディアルガのまえへ現われる。
「ディアルガ様。敵軍が撤退を始めました……。というか、もとから攻撃をこちらは受けていませんが…」
「え?」
「つまり最初から戦う気が無かった。そのような動きに見えました」
「う〜ん……。それで、今はどちらに向かって?」
「テンガン山へ」
用件だけをテキパキと伝えるとさっと再び姿を消した。ディアルガはいぶかしげな顔をしながら陣は崩さないまま攻撃をやめるように指示を出してパルキアの動きを注意して見ることにした。
その間にディアルガ軍のベースキャンプへと向かってくる1匹の白い大きなポケモンがいた。白くて大きなポケモンと言ったらルギアぐらいしか知らなかったリーフが初めて目にしたそのポケモンは優雅に両翼を広げ全身を覆う純白の体毛に風をたなびかせ両の目の燦然たる青い輝きに満ちていた。
フレイはその姿に固唾をのんだ。なんでそうしたかは本人も分からなかった。目の前に近づいてくる圧倒的存在に本能から服していたからだろうか。リーフの方をちらりと見ると新しいポケモンの登場に目を輝かせているようだった。 なんでさっきからちらちらリーフばかり見るんだろ。そんなことをフレイが思いながら白いポケモンへと再び視線を戻した。
「やあ。ディアルガ殿…。貴殿の手紙、確かに受け取った。
私の力であれば好きなように使ってくれてかまわない」
「こちらこそ無理を言ってすまない…。実は本当に来てくれるとは思わなかったのだが…。
兎にも角にもご助力、感謝しているよ。レシラム殿」
「構わないと言っている。それに………」
一息置いてレシラムと呼ばれたポケモンは言った。
「ゼクロムが敵方についているかもしれない。どちらが強いのか、それを知るいい機会だ」
そう言うとテンガン山の方角へ視線を向けた。それにつられてディアルガ達もテンガンさんの方を見る。テンガン山のには赤々とした炎や白い光がちらちらと見え、それが上へ上へと登っていく。
とうとうシンオウ地方はテンガンさんを境にして二つへ別れた。
西の新世軍
東のパルキア連合軍
両軍の戦いはまだ始まったばかりであった………。
【創世歴5000年 5月】
ハクタイ平原にて移動中のパルキア連合軍と交戦。
パルキア連合軍、テンガン山東側へ移動。
死者0匹
レシラム、新世軍に加わる。
ゼクロム、パルキア連合軍へ加わったことが明らかに。
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「………っと、これでよし」
にんまりとフレイは笑みを浮かべると木製の杭が地面にしっかりと突き刺さっていることを確認してそこへ苦労して縄を巻く。慣れない手つきで縄を巻き終えると違う場所へ再び杭を打つ。一緒になってレイも杭を打っていたようだがどうやらスタミナ切れらしい。杭も縄も放り出しフレイが放り出された杭を打ち縄を巻いている始末であった。
リーフは近くの林の中にいた。植物の声や気持ちを感じ取ることのできるリーフはそれを頼りに木の実を探していた。何せ小隊全員に配るほどの木の実が必要となるのだ。早いうちから木の実は集めておいた方がいいと判断したリーフは力仕事を雄たちに任せ一匹林の中へと潜り込んでいた。直においしそうな木の実を見つけると保存のきく外皮の固い木の実も一緒に籠へ詰めその籠にスカーフを引っ掛けそれを咥えて林から籠を引っ張り出し始めた。
「よぉ〜し!かんせ〜いっ!」
フレイとレイが一緒になって声を張り上げる。ほかの雄たちも日が傾き始めてやっと終わった作業に喜んでいた。リーフの採ってきた木の実をみんなで頬張りながら日が落ちるのを待った。
それから毎日、木の実集め以外はほとんど自由行動であった。
今リーフたちがいるのはテンガン山の麓。テンガン山の東へ移ったとはいえパルキア連合軍がいつ侵攻してきてもおかしくないこの状況に国境防衛隊としてリーフ小隊もこの地に留まることとなった。リーフたちの仕事は敵が来た時のための罠などをいくつも張りめぐらせなるべく敵の侵攻を抑えながら自軍へ素早く連絡をすること。
しかし、御覧の通り暇である。一応任務がいつでも果たせるようにリーフの草笛が聞こえる位置にいるものの暇なものは暇なのだ。
今日もまたいくつも貼ってあるテントの中の食料が保管されているテントへ忍び寄る影が……
「やっぱり小腹がすくよね〜…」
さっとテントの中へがいるフレイ。こうしてたまに食料を失敬する雄が増えていたので木の実を集める量を増やしていたためいつもより食料が………少なかった。
よくよく籠の間を見ると青いつるつるしたものがもぞもぞと動いている。
「………なにこれ?」
魚の尾鰭のようなものまで飛び出しているそれをフレイは乱暴に握った。
「にゃぁぁぁぁぁっ!!?」
「うわぁぁっ!?」
耳に響く高い声で奇声を発した目の前のポケモンは泣きそうな顔で尻尾を離さないフレイを見た。
「あわわわわわ……。ご、ごめんなさいごめんなさい……」
泣きそうな顔でそう謝ってくるが……パルキア連合軍の偵察と言うこともありうる。それをみすみす逃してはリーフに顔向けできなくなってしまう。とりあえずテントの中に放り出してあったテントを張る用の荒縄を目の前のポケモンに見せ……
「とりあえず………あばれないでね♪」
「にゃぁぁああぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁんっ!!!!」
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長い長いプロローグが終わりました。
最後の一部は何だろうorz
byみなみ
ブースターのかえんは、パワーストーンの力で七色戦士の1人、赤い体のブイレッドになった。
「なんだよ……めちゃくちゃ格好いいじゃん! オイラもいくぜー! 七色チェーンジ!」
らいどがそう叫ぶ。
まばゆい黄色い光がらいどを包み、新たな姿へと変えてゆく。
光が止んだらいどの背中には、レッドのものよりシャープな作りで、先の方がギザギザになっている黄色のマントが揺れていた。首周りのギザギザは黄色くなり、白地に黄色でVが描かれたバッジは、レッドのものと色違いだ。
「うおおお! オイラかっけぇ! かえんがレッドなら、オイラはイエローだな!」
「まあそうなるだろうな」
「うおおお……! かえんもオイラもかっけええ!!」
「うるさいわね! らいども人のこと言えないじゃないの!」
「だってかっけぇじゃん! みずきも早く変身しろよ!」
「はいはい。七色チェンジ」
三匹目、みずきもそう呟く。
ほかのニ匹とは違う、やさしい青い光がみずきを包みこむ。
「……じゃあわたしはブルーなのね、まったく、子供みたい」
「それ言ったらダメだろ」
ブルーの格好はレッドやイエローと同じように体は全体的に青くなり、えりまきには青いVのバッジがついている。
背中のマントは少し幅が広く、先はまるで海を思わせるような波型に切られている。
「みずき、「子供みたい」は禁句じゃよ♪」
「長老さん……もう少し捻った名前にしてください」
「じゃあ「ブイエターナルクライシスアクアティックメランコリィ」なんてどうじゃ?」
「……ブイブルーでいいわ」
「そうか? まあ、これで七色戦隊「ブイブイズ」の3匹が誕生したのう♪」
「……長老さん、もしかして七色戦士って七匹いるんですか?」
かえんが長老に尋ねると、長老はニコニコと微笑み応えた。
「そうじゃよ♪ しかもみんなイーブイの進化系、つまりブイズじゃ♪」
「ブイズ……はっ! だから「ブイブイズ」なのか!? 長老!?」
今度はらいどが長老に詰め寄る。
「まあそういったところじゃの♪」
「……わたし、長老さんのセンスが分からなくなってきたわ……ブイブイズって……」
「ほっほ♪」
長老は穏やかな笑みを浮かべた。
その時突如、空を切り裂くような轟音が鳴り響き、激しい揺れがレッド達を襲った。
「きゃあ!? な、なに?」
「敵が来たんじゃの〜」
長老は涼しげな顔で言った。
「て、敵ぃ!?」
「そうじゃ♪ レッド、イエロー、ブルー! 外に出て、敵を蹴散らしてくるのじゃ〜!」
「はい!」
「いーっえっさー!」
「了解しました……ハァ」
そう長老に告げると、三匹は外へと駆け出していった。
「……頼んだぞ、ほっほ♪」
中編に続く!
「──です。そして今度の3D投影機はベルト状になっていて、簡単な操作で簡単になおかつコンパクトに立体映像を伴ったカードバトルが出来るようになります。お手元の資料の十二ページをご覧ください。これが設計図案です。現在まだ正式名称は未定ですが、仮名として『バトルベルト』という名前としています。小売希望の方は、まだしばらくは調整中というところです。図案を見て分かると思われますが、バトルベルトは前回のステージ式3D投影機との相違点が見られると思います。その点に関して何か質問等ございますか」
昨日に風見杯があり、翔との壮絶な戦いをした。そんなことは遠い過去のような気がする程静かに今日は始まった。
風見杯で使ったステージ式3D投影機とは違う、新型光学機器『バトルベルト』のPR。株式会社TECKの社員(どちらかというとエンジニアかもしれないが)である俺は、TECKの大プロジェクトの責任者として早速この戦場でまた新たな戦いを繰り広げている。
風見杯はそう、全てはこのバトルベルトへの布石だ。
俺の一人演説が終わり、静寂が再び訪れた会議室に小さな腕が一つ上がる。松野さんだ。
「調整中って言ってあるけど価格はどうなの? 主なユーザー年齢的にも四万越えると苦しいわよ?」
「そこも踏まえて調整中です。出来る限り抑えるつもりですが」
「わかったわ、私からは他に質問はないわ」
しばらくしてようやく会議が終了した。会議室を出る人がそれぞれ伸びをしたり、うーだのあーだの言って視界から消えていく。これで会議室に残ったのは片づけをしている俺と、一人座ってそんな俺を見ている松野さんだけだ。
「ねぇ風見君……、この後時間あるかしら」
「はい? 大丈夫です」
「ちょっと込み入った話なのよ。あまり人に知られたくないから」
「分かりました、部屋を手配しておきますね。……風見杯関係ですか?」
「惜しいわ。『風見杯に出ていた藤原拓哉について』、よ。お昼取ってからいつもの場所でね」
それだけ言い残すと松野さんは会議室から去って行った。一人取り残された俺は考える。
藤原、確かに明らかにおかしいことばかりだ。少年を3D投影機無しでサマヨールを呼び出し、幽閉。恐らく松野さんの話とは大方これに関することだろう。
不穏な心が渦巻く中、資料を整え会議室を出る。
風見杯から二日。前日の月曜は祝日だったので本日火曜からが学校だ。
教室に着くなり、どこから話を聞いたかは知らないがクラスメイトの蜂谷 亮(はちや りょう)がいきなり話しかけてきた。
「五百万ってすげえな!」
ああ、やっぱりか。大方恭介から聞いて来たんだね。あのバカ口軽すぎ。
「まあもう手元にはないけどな。借金返してまたいつも通りすっからかんだ。俺みたいな素寒貧捕まえてもうまい棒一本さえ出てこないぜ」
「別に金目当てで聞いてる訳じゃないけどさ。いや、そういうと嘘になるかもしれないけど、俺もポケモンカード始めようかなぁ」
「どうしてさ」
「賞金だろ賞金!」
「滅茶苦茶金目当てじゃねーか!」
蜂谷のあまりに眩しい笑顔を、思わずグーで真正面から殴りつけたい。そのあとパーで。
というよりそもそも賞金が出る大会は数少ない。本当に少ない。その辺をこいつは舐めてる。ポケモンカード舐めるな!
「ばーか。風見杯が異例なんだよ」
突然俺の背後から恭介が現れて、俺より先に釘を刺す。お前がこいつに喋ったんだろうが。
「なんだ、恭介かよ。お前も初心者なんだろ? お前が言ってもあんまり信用できないな」
「しょ、初心者っつったってお前よりは経験者だ!」
急いで胸を張る恭介だが、とても虚しく見える。うーん、これが準決勝まで行ったんだよなあ。
「なあ、翔。本当に今回だけなの?」
「たぶんね。余程の事がないと賞金なんて出ねーよ」
「そらそうだ」
「恭介お前は黙っとけ」
「はぁ。一攫千金のチャンスだったのになぁ。……でも俺もちょっとポケモンカードやってみようかな」
「おっ! だったら俺が教えてやるぜ!」
再び恭介がしゃしゃり出るも、右手だけであっさり恭介はどかされる。若干悲しそうに視線を下に向けていた恭介を見て、ちょっと可哀想かなと思ったものの二秒でそんなこと吹き飛んだぜ! 恭介だし。
「で、俺にも教えてくれよ!」
「ああ、いいぜ蜂谷。放課後からやるか?」
「えーと、うん。今日部活休み出し頼むわ」
蜂谷が満足そうに自分の机へ戻っていくと次の来客者が現れる。
「おはよう、翔くん恭介くん」
「おっ……拓哉か」
一昨日の記憶が思わず蘇る。しかしあの時の変な拓哉は嘘のような。というか夢だったんじゃないのかな。
いろいろ考えすぎた俺が応答に少し詰まっていると、元気そうに恭介が拓哉に声をかける。
「おお、拓哉! 昼休みに俺と本気の勝負しようぜ!」
本気の勝負と聞いて拓哉の眉がピクッと反応する。
「俺と本気の勝負だぁ? いいぜ、ブッ潰してやる」
アァ、ユメジャナカッタノネ。
ハハハハハと高らかに笑いながら席へ着く拓哉をよそに、俺と恭介はただ固まるばかり。特に事情を知らないほかのクラスメイトは皆揃って口あけながら拓哉を見る。そして鋭い眼光に睨みつけられたのか、皆授業の準備に戻っていく。
「なんだあれ……」
「二重人格だったか」
「うおお、風見か」
虚空に呟く恭介の問いに答えたのは、いつの間にか教室に来ていた風見だった。
さっきから、右に左にいろいろ出てきて忙しい。
「うんうん。そんなこと言ってた気がする」
「なるほどねぇ……。ごめん俺にはぜーんぜんわかんねえ」
「まあ特に気にかけることはしなくていいな。それよりも三月にある公式大会のこと知ってるか?」
三月の公式大会、ああ。もちろん聞き覚えはあるし、参加するつもりだ。
そのことを知らなかった恭介は、喜色満面で本当か? と風見の方をガン見する。やや困った顔を浮かべたものの、一歩下がって風見が答える。
「嘘をついてどうする。ポケモンチャレンジカップ、略してPCCという大会だ。翔は出るよな」
「ん、ああ。勿論。恭介はどうする?」
「俺? お、おう。もちろん出るぜ」
俺たちの答えに風見は満足そうな表情を見せる。また風見杯みたいな熱い対戦が出来そうな気がして、まだまだ先の話だというのにもう胸が熱くなる。
しかし新たな脅威は、既にじわりじわりと滲み寄っていた。
翔「今回のキーカードはバシャーモ!
俺を支え続けてくれた相棒だ。
これからもよろしくな!」
バシャーモLv.59 HP130 炎 (DPt1)
ポケパワー バーニングブレス
自分の番に1回使える。相手のバトルポケモン1匹をやけどにする。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
無無 わしづかみ 40
次の相手の番、このワザを受けた相手はにげるができない。
炎炎無 ほのおのうず 100
自分のエネルギーを2個トラッシュ。
弱点 水+30 抵抗力 − にげる 1
ブースターとシャワーズがサンダースについていくと、森を抜け、小さな洞窟に出た。サンダースは迷わずそこに入っていく。
「何ここ? ボロいわね」
「ボロいとか言うな。オイラ達のひみつきちだぞ!」
「え、オイラ「達」?」
「ああ、オイラとお前らの♪」
「はい? いったいなんなのアンタ!? そもそも名前すら聞いてないわよ?」
「お前うるせーなぁ……人に名前を聞く時はまず自分からだろ」
「なんで急に正論言うのよ……まあいいわ、私は水季(みずき)よ」
「オレは火炎(かえん)だ」
「みずきにかえんか。オイラは」
「らいど、つれてきたのか?」
サンダース……雷怒(らいど)が名乗ろうとしたとき、ちょうど洞窟の奥にたどりつき、そこにいたポケモン……キュウコンに言葉を遮られた。
「あ……長老、なんで遮るんだよ!」
「ほっほ♪ すまんのう♪」
「はあ……ほら、つれてきたぜ」
そういってらいどはキュウコン……もとい長老のもとにかえんとみずきを押し出した。
「はじめましてじゃのう♪ かえんにみずき」
「え……? なんでわたし達の名前を?」
「わしはキュウコンじゃ。長老と呼んでくれ♪ さっきの会話を聞かせてもらったのじゃ♪」
「……で? オレ達に何の用なんだ?」
「ほう……話が早いの♪ では説明させてもらうとしよう」
「なあに、簡単なことじゃ♪ おぬし達3匹に、この世界を救ってほしいのじゃ♪」
「「……は?」」
みずきとかえんの声がハモった。
ーーそれから30分後……
「……で、らいどに頼んで私達をつれてきた……つまり、わたし達3匹に「戦隊ヒーロー」をやってほしいと?」
「そうじゃ♪ みずきは物分かりがいいのう♪ かえんはどうじゃ?」
「えーと、この荒れた世界に平和を取り戻すということですか?」
「2匹とも頭がいいのう♪ らいどなんて、納得するのにきっかり2時間かかったのにな♪」
そう言いつつ長老はらいどの方を向く。
「う、うるせぇ! それよりみずき、かえん! やるのか!?」
みずきとかえんは考える。
ーーオレの故郷もグラエナ達に荒らされ、オレは必死に逃げてきた。唯一王と呼ばれているオレがこの世界を救えるなら!
ーーわたしの暮らしていた海でもドククラゲが大量発生して、みんな苦しんでいる。わたしが少しでも役にたてるなら!
「やります! 長老さん!」
「長老さん、わたしやります」
「ほっほ♪ いい返事じゃのう♪」
「ちょ、オイ! 聞いたのはオイラだぞ!」
らいどは焦りながらそう叫ぶ。
「あ……ゴメンな!」
「まあ、これからよろしくね」
「おう!」
らいどはにかっと笑った。
「ほほ♪ 話は決まったの♪ じゃあ3匹とも、こっちに来なさい♪」
ーー洞窟の更に奥
「これは……?」
かえん達の前に現れたのは、真ん中に真珠のような白い石がうめこまれ、まわりが赤、青、黄、紫、黒、緑、水色に美しく輝く丸い石版だった。
「これは七色石。伝説の七色戦士に変身するための力が封じ込められているんじゃ」
「七色石……キレイ……!」
「おっと♪ みずき、みとれてる場合ではないぞ♪ 早く変身しなくてはのぅ♪」
そう言って長老はいそいそと七色石に歩み寄ると、真ん中の白い石に前足をのせる。
「かえんは赤、らいどは黄色、みずきは青の所に前足をのせてくれ」
「はい!」
「りょーかいだぜ!」
「わかりました」
3匹は言われた所に前足をのせた。
「……七色石よ、ここに七色戦士になりえる者がいる。どうかその力を認め、パワーストーンを生み出したまえ……」
七色石が突然光った。
そして3匹が前足を置いていた所から、3つの石が出てきた。
「よし♪ そのストーンで早速変身じゃ♪」
「えっ……どうするんですか? 長老」
「おっと♪ 変身のしかたはの、石を持ち、「七色チェンジ」と唱えるのじゃ!」
かえんは火の玉のような形の真紅の石を握りしめた。
「七色チェンジ!」
かえんの体が真紅の光に包まれる。
光が止むと、かえんの姿が変わっていた。
黄色だった首周りや尻尾の毛は赤くなり、背中には真紅のマント。 首の所には白地に赤でVマークが描かれたバッジ。
長老はその姿を見て、嬉しそうに呟く。
「ブイレッドの誕生じゃの♪ ほっほ♪」
……続く!
「……というわけです」
「なんと、では俺達6人でコガネに乗り込むのか」
「むう、こんな時に警察の応援を呼べれば……」
「ワタルさん、さすがにそれは無謀すぎる。僕達8人の時でもほうほうの体だったんだよ?」
ポケモンセンターに戻ったダルマ達は、ドーゲン、ハンサム、ボルトに事情を説明していた。初めこそ機嫌の良かったドーゲン達だが、話を聞くと言葉に詰まってしまった。
「確かに、今のままではかなり厳しいでしょう。ですからコガネへの進路と作戦を変更します」
ワタルはポケットから地図を取り出し、テーブルの上に広げた。ジョウト地方全体の地図である。
「本来、僕達はキキョウから36番道路と35番道路を経由してコガネに突入する予定でした。しかし戦力の欠如が明確な今、こうした真面目からの戦いを挑むのは得策ではありません」
「では、どのように進むつもりだ?」
ドーゲンの問いに、ワタルは地図のある地点を指差して答えた。そこは、キキョウとコガネの間にある場所だ。
「キキョウの隣にあるアルフの遺跡の西側は、人が入りこまない森林地帯です。普段は道路があるので通ることはまずありませんが、現在は非常事態。ここから直接コガネに侵入します」
「ほう、そりゃまたワイルドだな。では作戦はどうする?」
「もちろん作戦は集団戦法です。数人で1人を囲い込み、反撃を受けないうちに倒します。いくら個々が優秀とはいえ、人数で勝れば恐るるに足りません」
ワタルは胸を叩いた。いまだ各々の表情から晴れ間は見えないが、少しは落ち着いたようだ。
「……そうだ、たまには情報収集しないと。セキエイ出発してもう10日くらい経つ、何か変化があったかも」
ふと、ダルマはポケギアのラジオの電源を入れた。図鑑を兼ねる紐で綴じた昔の本のようなポケギアも、大分しっくりしてきた。やがて、スピーカーから音声が流れてくる。
「……皆さん、がらん堂から本日のお知らせです。この時間はパウルがお送りします。まず、凶悪犯罪者を擁する暴徒が各地で暴れています。集団はフスベとキキョウを襲撃し、現在占領中。フスベの発電所が止められ、大規模な停電が発生しております。ろうそくを灯りに使う場合は火事に注意しましょう」
「……どうやら、相当悪く言われてるみたいだね。今に始まったことじゃないけどさ」
ボルトは笑いながら手元に置いてある飴を舐めた。ラジオ放送はまだまだ続く。
「では、続いてのニュースです。皆さんに朗報です。私達のサトウキビ先生が、本日夕方帰還しました! 間もなく会見が開かれる模様です」
ニュースを読み上げるパウルの言葉に、一同は凍り付いた。ダルマは少し飛び上がり、ユミはお茶で舌を火傷。ワタルはむせこみ、ボルトは冷や汗を滴らせ、ハンサムは声にならない叫びを放つ。ただ1人、ドーゲンだけは事の次第を把握しきれないのか、皆の顔を見回している。
「それでは皆さんお待たせしました。サトウキビ先生の会見です」
パウルの一言の後、何かが切り替わる音がした。6人は耳を傾けて、一字一句洩らすまいとしている。
「……親愛なるコガネの諸君。いや、今ではジョウトの諸君と言った方が良いな。俺はサトウキビ本人だ。濡れ衣を着せられ、海に沈められるという屈辱を受けたが、今こうして諸君に話しかけることができている。それもこれも、諸君が俺の帰還を信じて待っていてくれたからだ。まずはそのことに深く感謝する」
サトウキビの声が聞こえてきた。最後に話したのはもう2週間以上も前になるから、懐かしささえ感じられる。ラジオの向こうからは歓声とスタンディングオベーションの嵐が巻き起こる。サトウキビはそれらが静まるのを待ち、また口を開いた。
「……それから、がらん堂の弟子達。コガネにまたしても現れたロケット団を成敗し、市民の平和を守った。それだけでなく、動揺の走る他の町を指導し、正しい方向に導いている。彼らには最大級の敬意を払いたい」
「良く言うよ、洗脳電波で無理やり従わせてるってのにさ」
ボルトは口の中の飴を噛み砕き、まとめて飲み込んだ。
「……だが。このジョウト地方にはいまだ、平和を乱す悪の枢軸がいるそうだな。報告によれば、俺に濡れ衣を着せた奴らやポケモンリーグ、一般人を寄せ集めただけの暴漢に過ぎないらしいが、現にフスベシティとキキョウシティを占拠しているそうじゃねえか。それにより、なんの罪もない市民の生活に大きな支障が出ている。電気は止まり、物流量は減少。占領地域では暴行まで行われる始末。実に嘆かわしい事態だ。……多くを与えられる者は多くを求められる。我々は今まで、実に多くのものを与えられてきた。ならば今こそ、多くを求められる時なのだっ!」
サトウキビの怒号と共に、机を叩く音もやってくる。いよいよボルテージも最高潮に迫ってきた。
「悪の枢軸は、我々の手で倒さねばならない! 賢く気高きジョウト地方の諸君よ、立ち上がるのだ! 今虐げられている友の犠牲を無駄にしないためにも、我々はあらゆる手段をもってして奴らに対抗する! なに、恐れることはない。抵抗の方法などいくらでもある。奴らと商売をしない、嘘の情報を教える、奴らの現在地をがらん堂に伝える……戦わなくても良い。自らにできる形で奴らに一矢報いるのだ。たとえ1人の力は微弱でも、ジョウト地方の全ての市民が力を合わせれば、未来を変えることなど造作もない。未来を変えるのは明日、明日を変えるのは今日。明日を変えるためにも、今日から変わるのだ。戦え、市民よ!」
「……ここまで、サトウキビ先生の会見の冒頭でした。それではここで……」
パウルが全て言い切らないうちに、ダルマはラジオのスイッチを切った。皆一様に黙りこくっているが、ワタルは弱々しく呟いた。
「……なんてことだ。あんなに早く帰ってくるとは」
「ワタル様、おじさまのことをご存知なのですか?」
「う、うん。以前からその存在は掴んでいたけど、四天王以上の力を持つともっぱらの評判だったようだ。僕がすぐにがらん堂退治を決断したのも彼が行方知らずだったからで、まさかこうもすぐに現れるとは……正直、思いもしなかった」
ワタルはうつむきながら返答した。彼の顔色は徐々にモスグリーンに染まっていく。それを阻止せんとばかりに、ダルマが発言をした。
「な、なら一刻も早くサトウキビさんに匹敵する力を身につけましょう!」
「……また特訓かい? 駄目だ、彼がいたら交換システムがなくても3日ともたない。かといって今更撤退するわけには……」
「なら1日で十分です」
「な、なんだって?」
ダルマの予想外の言葉に、ワタルは拍子抜けした。思わず顔から暗さが逃げていく。
「ここで逃げたら、がらん堂に勢いがつきます。今でさえ苦戦するのに流れを持っていかれたら、勝利は絶望的でしょう。それどころかセキエイ高原にまで攻め込まれて、誰も抵抗できなくなるかもしれない。それなら、今あがけるだけあがくしかないじゃないですか。」
「ダルマ君……」
「まだ時間はあります。進路は森を進む。直接対決は避けられます。だから1日だけ、最後の訓練をしましょう!」
「……君を見てると、古い友人を思い出すよ。常に全力で挑むその姿、そっくりだ」
ワタルの顔から自然と笑みがこぼれた。肩の力が抜けたのか、呼吸も穏やかである。彼は全員に向けてこう指示を下すのであった。
「皆さん、明日は1日ポケモンを鍛える日とします。移動はしません。がらん堂との勝負は近いです、各人最大限の力を出せるように準備してください。では本日はこれにて任務完了、ゆっくり寝てください!」
・次回予告
コガネシティへの決戦に向け、ジョバンニとカラシの穴を埋めようと懸命に訓練しようとするダルマ。そんな彼に、あるトレーナーが勝負をしかけてきた。次回、第51話「ライバルバトル」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.31
遂にこの連載も50話に到達しました。ここまで来れたのもひとえに読者の感想やコメントのおかげです。
さて、このシリーズの終わりはまだまだ先になると思いますが、がらん堂の話は80話までには完了すると想定しています。チャットで60話くらいで終わるとか言いましたが、無理でした。自分でもどこまで長引くかは未知数です。ストーリーは決まってるんですけどね。
あつあ通信vol.31、編者あつあつおでん
これは、ポケモンだけが暮らす世界で起こった奇跡の物語。
空は曇り、木は焼け焦げ、地面はひび割れた見るも無残な広い荒れ地を、赤い体に黄色い首周りの毛……1匹のブースターが走っていた。肩でハアハアと息をして、汗だくで今にも倒れそうだ。
「……くそっ」
その後ろを、かなりの速さで3匹のグラエナが追いかけてきていた。その目は血走っていて、見るからに普通の状態でないことが分かる。
「グルルル……待てぇ!」
「ま、待ってたまるかよ……!」
ブースターはそう言うが、後ろからどんどんグラエナ達は追いついてくる。
そして1匹のグラエナの鋭いキバが自分に遅いかかろうとしたその瞬間、ブースターは覚悟を決めた。
ーーもう、ダメか……!
その時だった。
「ううううおおりゃああああ!」
その叫びと共に、空から激しい「かみなり」がグラエナ達に降り注いだ。
グラエナ達は「ぐわぁ」や「ギャア」と言いながら地面に倒れ、ブースターは突然目の前に現れたポケモンに驚き、目を見開く。
「だ、誰だ……?」
目の前には、自分と同い年くらいに見える黄色いトゲトゲのポケモン……サンダースがいた。
「自己紹介は後だ! オイ、これ食え!」
そう言ってサンダースはブースターに、体力回復効果があるオレンのみを放り投げた。ブースターはすぐさま口に含み、噛み砕いた。
「早く逃げるぞ!」
「ムグ……て、ちょ!?」
サンダースはそう言って、まだオレンを飲み込めていないブースターの手を握ると、ものすごい速さで駆け出した。
ブースターには周りの景色が風の様に早く過ぎていくように感じた。
「オ、オイ! 速すぎる! ちょっとスピード落とせ!」
「あ? これでも普段の8分の1だぜ!」
「8分の1!? これがか!?」
これの8倍なんて体験したら摩擦で体が燃え上がりそうだ、と感じていたブースターは目の前の光景を見て驚き、叫んだ。
「うわあ! おまっ、前見ろ前!」
「ああ? 前がどうし……って、おわあああ!」
その叫びと共に2匹は足を滑らせ、盛大な水しぶきと共に橋の掛かっていない川に転落した。
ブースターはひっしでもがく。
「お、おい! どうすんだよ! オレ水苦手なんだよー!」
「オイラに言われても知るか! こんなとこにある川が悪い!」
「川のせいにすんな! ……ゴボッ! み、水が……」
「おい! しっかりしろ! 誰か助けてくれー!」
サンダースはブースターを抱えながら叫んだ。
川の上流でその叫び声を聞いた者がいた。
「なんかうるさいわね……行ってみましょうか」
青い体に青い尻尾のポケモン……シャワーズはそう呟くと、下流に向かって泳ぎ初めた。
「……」
少女が見たのは、溺れかけているブースターと、それを必死で助けようとしているサンダースだった。
「あ、オイそこのシャワーズ! 助けてくれ!」
サンダースがシャワーズに呼びかける。ブースターの方は首の毛に水が入り、その重さで今にも沈みそうだ。
「……とにかく、助けなきゃいけないみたいね」
少女はそう呟くと、巨大な波を操る「なみのり」を繰り出し2匹を岸辺へと押し上げた。
「……ぐぇっ!」
ブースターはまだ辛うじて意識があったようで、地面に激突してうめき声をあげた。
「うわっ! おい、もっと優しくやれよ!」
サンダースの方は自慢の脚力で綺麗に宙返りし、スタッと地面に着地した。
「はあ……助かったんだからいいじゃない」
「よくねーわ!」
ギャーギャーと2匹が騒いでいると、遠くの方から先程のグラエナ達の声が聞こえてきた。
「……ヤバッ! おいお前ら! オイラについてこい!」
「「……はい?」」
サンダースが何故かキメ顔でそう言うと、2匹の声がハモッた。ブースターは大分復活していて、シャワーズの方は陸地に上がっていた。
「いいから早く!」
サンダースはそうまくしたて、走りだした。
「おい、まてよ!」
「なんなのよあんた!」
2匹も急いで後を追う。
「だから速いって! スピード落とせ!」
「ちょっと! 乙女に全力疾走させないでよ!」
「うるっせー! つべこべいわずに走れー!」
3匹は騒ぎながら、近くの森へと消えていった。
……後編に続く!
この小説は、akuroが執筆する戦隊モノです。厨2病全開なので注意!(笑)
なお、DSiで投稿しているので、1話が短くなると思います。前編中編後編はあたりまえだと思ってくださいw
[全編に渡って書いても描いても批評してもいいのよ]
キャラプロフィール(随時更新)
ネタバレ注意!
年齢は、人間で言うとこれくらい……って感じです
かえん/火炎 ブイレッド
種族:ブースター
性別:♂
年齢:17
変身時は体全体が赤くなり、背中にはシンプルな作りの赤いマントを装着する。 首の毛につくバッジのVの色は赤。
らいど/雷怒 ブイイエロー
種族:サンダース
性別:♂
年齢:15
変身時は体が黄色くなり、背中の黄色いマントは細くて先がギザギザになっている。 バッジのVの色は黄色。
みずき/水季 ブイブルー
種族:シャワーズ
性別:♀
年齢:18
変身時は体が青くなり、背中の青いマントは幅が広くて先は波形に切られている。 バッジのVの色は青。
長老
種族:キュウコン
性別:♀
年齢:不明
色々と正体不明なキュウコン。 みーさんからお借りしてます……
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