マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  •   [No.673] 35、疾走 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/08/30(Tue) 22:17:54     77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ホムラは倉庫の壁に背中を預けて腹をさする。さすがに短時間の間に同じところへ二発もくらっては動くことが難しい。心の中でマツブサへ詫びる。カガリを上手く使ってくれと。
    「そう睨むなよ」
    自分を見る視線に気付く。それはこの状況においてもなお負けないというオーラに溢れていた。マツブサの言っていたことを思い出し、やっとのことでそいつに近寄る。そしてそっと手をかけた。
     アクア団の手に渡らないようにしろ。そうホムラに命令した。この状況で動けなくなるのは時間の問題。やりたくはなかったがこうするしかなかった。ホムラがゆっくりとザフィールの気道を閉める。アジトに残れと言われた時に外れクジだと覚悟した。マツブサのために何でもやると誓った。ずっとそうしてきた。それなのに、
     初めてのポケモンのドンメルが言うことを聞かなくて困ってるところをそうじゃないと言ったこと
     やっとのことで初めて野生のポケモンを倒せた時の報告
     負け続けだったトレーナー戦で、アドバイスを受けながらも勝てたとき
     信頼関係が築けたのか、ようやく背中の傷のこと、昔のことを話してくれたり
     それでもマグマ団のみんなが優しくていい人たちだから、いつまでも悩まないしこれからがんばると前向きだったこと
     バクーダになったとき、はしゃぎすぎて堤防のりこえて海に落ちたこと
     その後、なぜかカガリに二人とも怒られた
     遠くの任務で帰れなくなり、せっかくだからと星空を見上げて星座や流れ星を数えた
     本当の弟のように思っていたのに、マツブサからくだった残酷な命令
    「できる、かよ!」
    みっともなかった。マツブサの命令は絶対に従うと約束した。けれど、ホムラの中の感情がそれはダメだと抑制する。アクア団の手に渡って利用されたとしても、生き残って欲しかった。その後、マグマ団を恨もうが何しようがどうでもいい。手をかけることだけは、どうしても出来なかった。
     力が緩んだところを狙ったのか、ザフィールがホムラの手を払いのける。その力加減は、すでにマグマ団としてではなく、敵として認識した力だった。その目も、すでに今までと違っていた。憎むような目だった。子供だと思っていたザフィールがそんな酷い負の表情をするなんて、ホムラにはにわかに信じがたい。けれどそんな顔をされても仕方ないくらいに、マグマ団として彼に残酷な仕打ちをしている。
    「何も、もう信じない」
    ザフィールがモンスターボールに手をかけた。そこから出てくるのはジュカイン。体の葉は刃のように鋭く、強いものでは岩をも叩き切る。その刃を街灯に光らせた。ホムラは目を閉じた。
     倉庫の入り口で、物凄い地響きが起きた。何かを思いっきり叩き付ける音。ジュカインがその音の方向を見る。ウシオが何かに怒鳴りつけてる声、そしてもう一つは高さからいって女。それも子供。そしてうっすら漏れる眩しい光。赤い炎が見えた。
    「私は眠いの。だから、早くしてくれないかしら。そこを退きなさい」
    狼狽がきこえる。体格のいいウシオが何をうろたえたのだろうか。ホムラには想像もつかない。地面に重いものがのしかかる音がした。甲高い馬のいななき。
     そして倉庫の重い扉が開く。そこに立っているのは、何とも不機嫌そうな顔をした女の子。とても眠そうだった。すでに時計は午前3時をまわろうとしている。
     少女の後ろから現れたのは一層燃え盛るたてがみのギャロップ。真夜中だからか、炎が目に焼き付いて離れない。そして誰よりも速くザフィールのところにかけより、血の匂いを嗅いだ。そしてザフィールの顔に鼻を近づける。何かを訴えるように、頬にふれた。
    「大丈夫!?」
    「ミズキ?なんでここが?」
    「シルクが教えてくれた。ここに誘導されて来たの。それより、ちょっと見せて」
    たてがみの炎に照らされた傷口。そこに巻いてある元が何色か解らなくなってる布。それが少しは止血の役割をして、ここまで持たせていたようだ。それでもまだ血は止まり切ってない。この量からして、すでに意識が飛んでいてもおかしくないはずなのに。
    「痛くない。痛みは止まれ。血も止まれ」
    力強い言い方。今までにないほどのミズキの言葉。なぜかそれと共に今までに感じていた右足の重さがなくなっていく。試しに動かしても違和感はなかった。あらたな出血も感じない。
    「もう痛くないから!あとこれ飲んで!」
    ザフィールに拒否権は無かった。先ほども同じようなことがあった。ただ、今回は得体の知れない漢方薬ではなく、ちゃんとした痛み止めというところ。しかしその量が半端ない。加減を知らない人間だったことに気付いたがもう遅い。10錠も口の中に入れられた後、おいしい水を差し出された。吐き出したら眠気で不機嫌なミズキに何されるか解らない。
    「もう痛くないから!」
    「本当、だ。全く痛くねえ」
    立ち上がっても足が悲鳴を上げることがない。喜んだのもつかの間、いきなり襟首を掴まれる。そして振り回されて空中を飛ぶ。何が起きたか一瞬わからなかった。数秒そこにいてようやく理解する。シルクがくわえて自分の背中に乗せたのだと。ミズキに礼を言う間もなく、シルクは走り出した。風が強く、大きく荒れているミナモシティの港に。
    「はは、お前何者だよ」
    そこにいたホムラがミズキに話しかける。
    「何者って、おじちゃんたちに世話になった者。というかホムラおじちゃんも大丈夫?」
    「・・・俺、おじちゃんって年じゃねえんだが、ガキからみたらおじちゃんか」
    見た目は不思議だった。中に着ている青い服と上に羽織っている白い上着のせいで、サーナイトのように思えた。超能力で主人を全力で守るポケモンだ。人を超えた不思議な力は、まさにサーナイトの生まれ変わりのようだった。
    「それより、まじで眠い。でもやらないと私が来た意味がない。海の神様、力をかして」
    ホムラにも不思議な言葉をつぶやく。本当に一瞬にして体が軽くなっていた。ホムラが再び何者だと聞こうとした時には、すでに倉庫からいなくなっていた。

     夜中のミナモシティを照らしながらシルクは走る。ザフィールはその背中につかまっているだけで精一杯だ。速さも高さも、落ちたらただでは済まない。それにずっと乗っていたガーネットはどう思っていたのだろう。
     突然、いななきを上げてシルクの足が止まる。下が砂浜だ。そして打ち寄せる波の音。シルクの炎で見た夜の海は、かなり波が高い。シルクの出番はここまでだ。ザフィールは降りる準備を始めた。
     しかし、シルクは背中の客を無視して歩みを進める。波の中に足を入れたのだ。当然のごとく、小さな悲鳴が上がった。
    「無理するな。大丈夫、大丈夫だから。お前の主人は絶対に取り返してやる。今、信じられるのはガーネットしかいない。だから全力で取り戻す。お前はここで待ってろ」
    降ろしはしない。そういうようにシルクが何度も波打ち際へと寄っては水に悲鳴を上げる。その間、ザフィールは怖くて降りることが出来ない。イトカワのボールを出したくても、暴れ馬のように揺れる背中では出すことも容易ではない。
    「解ってる。お前の気持ちは良く解る。だからこそ待っててくれ!頼むから!」
    大きな波が来る。それに向かうようにシルクは走る。このままでは助けるどころか、ギャロップまで無くすことになってしまう。ザフィールは目を閉じる。
     海が静寂だった。さっきまで沖の方まで轟いていた波の音が聞こえない。ザフィールが目を開けると、見事なまでに凍り付いた波。そして流氷の到着を思わせる真っ白な世界。夜のため遠くまで見えないが、見える範囲では海が全て凍っている。
    「なんだ?何が……」
    近くの氷が割れる。そして首を出したのはミロカロスだった。野生のミロカロスのようだったが、ザフィールをじっと見つめて動かない。
    「まさか、お前あのときのヒンバス?」
    行け、とでも言うように首を横に振る。氷の上にはミロカロスが連れて来たらしいタマザラシやトドグラーがたくさんいた。まさか野生のポケモンが、こんなことをするなんて聞いたことがない。ザフィールは信じられないものを見ていたような、幻を見たような。
     シルクがおそるおそる氷に乗った。下が海なので少し揺れるが、氷はヒビ一つ入らない。
    「ありがとう。シルク、おそらくマツブサとガーネットは一緒にいる。マツブサがいるのはおそらく」
    ザフィールは空を見上げた。すでに蠍座が西の空に消えそうな時刻。そしてさらに探す。ホムラに教えてもらった道に迷った時の星のレールのこと。
    「北極星があの位置。ならば行くぞシルク。あの見える流星を追いかけて走れ」
    シルクはいななく。そして凍った海へと走り出した。シルクのたてがみが道を照らし、行くべき方向を導く。ただ一人だけ信じられる人間、ガーネットを取り戻すために走り出す。
     潮風が強く叩き付ける。その度にシルクは何度も足をとられそうになる。それでも負けないと鼻から息を吹き出した。たてがみがあかるくなる。炎のようなたてがみは、星明かりの海の上を走る。その姿は、燃える弾丸だった。


      [No.672] 第49話「失踪」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/30(Tue) 14:53:29     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    「……なーるほど。彼の正体、突き止めましたよ。生きていたのですねー。彼女の研究も引き継いでいたとは……そこにいるのは誰ですかー?」

    「ああ、心配ご無用。俺です」

    「そーですか。どうしたのですか、あなたも彼の正体が気になるのですかー?」

    「いえいえ、違います。俺はあなたを連れ去りに来たんですよ」

    「な、なんですっ……て……」

    「……よし、任務完了だ。後はこれを回収してコガネに戻るだけ。悪いな、これも金のためだ」










    「あ、ダルマ様!」

     月が水を得た魚の如く輝く夜、ダルマはセキエイ陣営と合流した。場所はキキョウシティポケモンセンター、皆くたくたな様子であちこちに座り込んでいる。

    「……センターが開いてるということは、もしかして?」

    「はい、がらん堂の拠点をまた1つ崩したことになります」

     ユミは笑顔で受け答えした。疲れは隠せないみたいだが、充実感もまたにじみ出ている。

    「なるほど。やっぱりキツかった?」

    「ええ。人数が多いうえにセンターの予備電源で回復してくるので、しばらくは均衡していました。ところが、いきなりセンターを放棄してどこかに行ってしまいました」

    「どこか? それって、例の交換システムを使ったのかな」

    「おそらくは。予備電源が切れる前に脱出したのでしょうか?」

    「お、帰ってきたね」

     ちょうど良いタイミングでワタルが話に入ってきた。彼の自慢のマントはほこりまみれになっており、戦いの激しさを物語る。

    「ワタルさん、ただ今戻りました」

    「おかえり。今回は全てが上手くいって、被害はほとんどなかった。ジョバンニさんとカラシ君という重要な戦力のおかげだ。あ、もちろんダルマ君もね」

    「ありがとうございます。……あれ、そのジョバンニさんとカラシはどこですか?」

     ふと、ダルマは辺りを見回した。センターにいるのはショップの店員やジョーイを除けば、ソファーで寝ているドーゲン、日記を書いているボルト、変装の練習をするハンサムだけで、ジョバンニとカラシはいない。

    「ジョバンニさん? 彼なら自宅のポケモン塾で調べものだそうだよ。けど、ちょっと遅いな。カラシ君の方は何も連絡がないんだ」

    「な、なんだか怪しいですわね」

    「確かに。少し様子を見に行った方が良さそうだな。君達も一緒に来るかい?」

    「はい、せっかくなのでご一緒します」

    「そうですね、先生の調べものも気になりますし、私も行きます」










    「ジョバンニさーん、いないなら返事してくださーい」

    「ダルマ様、それは無理ですよ」

    「そりゃそうか、ははは」

     ダルマ達はジョバンニのポケモン塾に来ていた。2人が面識を持った場所である。部屋は暗く、人探しどころではない。

    「えーっと、電気のスイッチは……あ、ここか」

     ダルマは壁をまさぐり電気のスイッチを入れた。少しして蛍光灯が光り、目がくらむ。

    「こ、これは! 部屋が滅茶苦茶に荒らされてるじゃないか!」

    「そんな、先生!」

     視界が開けた先にあったもの。それは以前訪れた時とはまるで違うものだった。本棚の本は投げ出され、ジョバンニのものらしき机の引き出しは全て引っ張りだされてある。書類が足元に散乱し、まるで空き巣でも侵入したかのような惨状だ。これに動揺したワタルとユミを、ダルマはなんとかなだめる。

    「……ユミ、ワタルさん、落ち着いてください。まず何が起こったのかを把握しなければ。これだけ荒らされています、まずは片付けてみましょう。手がかりが残っているかもしれません」

    「……そ、そうだな。つい焦ってしまった」

    「で、では1つずつ整理してみましょう」

     3人は手分けして部屋の片付けを始めた。思いの外散らかっており、やや時間がかかる。

    「これはここであれはあっちで」

    「このファイルはあいうえお順に分けられているみたいですね」

    「しかし、ポケモン関係と科学に関する資料ばかりだな。ポケモンリーグの優勝者、戦術の論文なんかもあるな。セキエイに持ち帰りたいくらいだ」

     およそ15分ほど後、ようやくあらかたの始末はついた。ダルマは額の汗を拭いながら元通りになった部屋を眺める。

    「ふう、これで大体終わりかな」

    「……あの、ダルマ様。足りないものがあるのですが」

    「足りないもの?」

    「ここの、科学者略歴のた行とな行のファイルが見当たらないのです」

     ユミは本棚を指差した。そこには「科学者略歴」というラベルの貼られたファイルが整然と並んでいる。が、なぜかた行とな行は行方知らずのままだ。ダルマは首をかしげた。

    「た行とな行だけ? 部屋を荒らした誰かさんが持っていったのかな」

    「しかし、それだけではジョバンニさんがいないことに説明がつかない」

     ワタルの突っ込みに対し、ダルマは頭をかきむしった。そしてしばし唸り、一言ずつひねり出した。

    「うーん、ジョバンニさんは調べものをしていたんですよね? 何か重要な事実を知って、他人に話すのを恐れたから連れ去った、というのはどうでしょう。あるいは単純に、こちらの戦力を削るためにがらん堂がさらったとか」

    「なるほど。……いずれにせよ、ジョバンニさんがいなくなったのは僕達にとっては大打撃だ。急いで対策を考えなければ」

     ワタルはまごつきながらポケモン塾を後にした。ダルマとユミも彼に続くのであった。


    ・次回予告

    ジョバンニとカラシの失踪という一大事に、一同は頭を悩ませる。そんな彼らに、とんでもないニュースが飛び込んできた。次回、第50話「名誉の帰還」。ダルマの明日はどっちだっ。



    ・あつあ通信vol.30

    薄々気付く方もいるとは思いますが、最近は結構ストーリーを端折ることが多いです。ストーリーのメインや新キャラの顔出しにダルマを絡め、ダルマを中心に話を進めることでいくらか飛ばします。キキョウシティポケモンセンターの攻撃も、本来なら書くべきでしょうが説明だけに留めました。1話最大5000字しか書けないのと、大量の下っぱと長々戦闘させる技量がなかったためです。いつか外伝という形で書くかもしれません。


    あつあ通信vol.30、編者あつあつおでん


      [No.670] 第48話「キキョウシティ解放作戦後編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/29(Mon) 13:58:34     67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    「な、なにいぃぃぃぃぃ!」

     ダルマの悲鳴とほぼ同じタイミングで、トゲチックは指を振った。すると指先から極寒の冷気が放たれた。狙いは滅茶苦茶だが、攻撃した直後のアリゲイツに当てるのは造作もないことだ。アリゲイツは瞬く間に氷漬けとなってしまった。

    「あ、アリゲイツ!」

    「どうだてめえ、これが神軍師の力よ」

    「……どちらかと言うと、『運』師だけどな」

     ダルマは毒づきながらアリゲイツをボールに戻した。既に次のポケモン、スピアーのスタンバイは完了している。

    「スピアー、いつものあれ、頼むよ」

     スピアーは勢いよく飛び立つと、両腕を上げたり踊ったりした。端から見れば滑稽でもあるが、中々馬鹿にできるものではない。その証拠に、窓という窓から照りつける日ざしが入り込み、塔はほのかに明るくなってきた。

    「にほんばれだと? んなもん効くかっ。トゲチック、スピアーにしがみつけ!」

    「まずい、急いで追い風だ!」

     追いかけるトゲチックから逃げながらも、スピアーは唸り声をあげた。それと同時に窓から突風が吹き荒れてきた。しかし、追い風発動時に一瞬止まったのがあだとなり、トゲチックに胸ぐらを掴まれてしまった。スピアーは必死に抵抗するが、予想以上に張り切るトゲチックの力に歯が立たない。

    「つのドリルだっ!」

     リノムの怒号を受け、トゲチックはスピアーを拘束しながら右手の指を動かした。トゲチックの手元が光ったかと思えば、どこからともなく高速回転するドリルが出現。そのままスピアーの胸部をえぐった。たまらずスピアーは気絶して床に落下した。

    「スピアー! くそっ、なんなんだよこのトゲチックは!」

    「おい見たかてめえ、これが神軍師の引きなんだぜ。トゲチックの『ゆびをふる』で狙った技を使えるってのは、実に便利なもんだ。あらゆる技に最高の頭脳が加わればどうなるか? 考えるまでもねえ、完全勝利を達成できるのだっ!」

    「……ふーん。じゃあいきなりだけど、その完全勝利とやらを潰させてもらうよ」

     ダルマはボールからヒマナッツを出した。フスベジム戦同様、こだわり眼鏡を装着している。また、日に当たって焦げている。

    「ヒマナッツ、もっとすごい一発を見せてくれ!」

     ダルマはポケットから太陽の形をした石を取り出し、ヒマナッツの額に乗せた。石を当てられたヒマナッツは、目をくらますほど全身が光に包まれた。形も変わり、光が収まる頃には別のポケモンとなっていた。葉っぱの手足が生え、何枚もの花びらを持つ頭。口元の笑みと奇抜な眼鏡は強烈な印象を与えることうけあいだ。

    「キマワリに……進化だ。これで勝ちを手繰り寄せてみせる」

    「あぁん、何言ってんだこいつは。できるもんならやってみな!」

    「……言ったな? その油断、命取りだぞ。キマワリ、ソーラービームだ」

     ダルマは胸を張って指示した。キマワリは窓際の日光の当たる位置に移動すると、トゲチック目がけてソーラービームを発射した。ヒマナッツの時でさえ数々のポケモンを丸焼きにしてきた一撃だが、進化して塔全体をカバーできるほどの光線を撃てるようになったみたいだ。トゲチックはおろかリノムをも巻き込んだ光の束は、しばらくしてようやく止まった。トゲチックは炭のように黒くなり、リノムもまた片膝をついた。

    「どうだ、草タイプ半減の飛行タイプだって一撃だぜ!」

    「う……ばぐってんだろおおおおおおお」

     リノムは苦しそうに呼吸をしながらトゲチックをボールに回収した。顔からは脂汗が噴出している。

    「くっそー、健康に悪そうなビームなんて撃ちやがって。俺は神軍師なんだぞ!」

    「そんなの関係ない。それなら避ければ良かっただけのことだよ」

    「ぐぐ……まあいい。次でそのちんけなひまわりを止めてみせるぜ、ドククラゲ!」

     リノムは2番手を送り出した。中から現れるのは大量の触手を持ったポケモンだ。ダルマは再び図鑑に目を向ける。ドククラゲはメノクラゲの進化形で、実に80本もの触手がある。防御こそ低いものの、恵まれた技、タイプ、能力を備える。物理、特殊、二刀流、耐久、どれをやらせても結果を残す優秀なポケモンだ。

    「うわ、結構特防高いな。けど、立ち止まる余裕なんてない。キマワリ、もう1度ソーラービーム!」

    「負けるな、ミラーコートだっ!」

     キマワリは今一度、日の光を集めてドククラゲにぶちこんだ。対するドククラゲは体を鏡のようなもので覆い、キマワリの攻撃に真正面から挑んだ。2度目の攻撃はキマワリも自重したのか、幅を狭めてドククラゲに狙いを絞った。代わりにパワーが一ヶ所に集中し、先程を超える火力となった。陽炎を作り出すほどの高温と光ならではの速さ。2つを兼ね備えた一閃を弾くことなど不可能に近く、ドククラゲは何もできずに崩れ落ちた。

    「よし、これで2匹!」

    「や……ヤバいヤバい。ヤバいを通り越してヤバい」

    「さあ、次はどんなポケモンを使いますか? 神軍師リノムさん」

     ダルマが勝ち誇った表情でリノムに視線を遣った。リノムは万事休すといった様子で後ずさりを始めた。それをダルマがじわりじわりと追い詰める。

     その時、どこかから「めざせポケモンマスター」のメロディが辺りを包んだ。ダルマは静かに耳を傾け、音源のありかに顔を向けた。そこでは、リノムがポケギアを耳に押しつけていた。

    「はい、すみませんが今お父さんとお母さんがいないのでわかりません。……え、パウルさんっすか。……はい、はい。つまり、撤退してコガネに戻ると? わかりました、すぐに帰ります」

    「あ、あのー。今のはもしかして……」

    「おい、電話を盗み聞きすんなよ。それはともかく、俺は今から戦略的撤退をする。決して逃げるんじゃないからな、勘違いすんなよ! それと、俺の情報は漏らすな。ではさいならっ!」

     リノムはポケギアを納めると、すたこらさっさと階段を駆け下りた。後に残されたのは、呆れて追うこともできなかったダルマとキマワリだけである。

    「なんだか、最後まで忙しいやつだったなあ。……しかし、これで任務完了だ。キマワリ、みんなと合流するぞ!」

     ダルマはキマワリをボールに入れると、ポケモンセンターへと急いだ。追い風とにほんばれは落ち着き、塔の内部にはそよ風と柔らかな陽光が流れるのであった。


    ・次回予告

    無事に帰還したダルマは皆と合流し、戦況を報告する。そんな中、見当たらない人物がいる。ダルマ達はその人物を探すのだが……。次回、第49話「失踪」。ダルマの明日はどっちだっ。


    ・あつあ通信vol.29

    今日のバトルでヒマナッツが太陽神になりました。もう少し後でも良かったのですが、ドククラゲを一撃で倒すために進化させました。レベル45個体値オールVの場合、攻撃無振りアリゲイツの冷凍パンチと控えめ全振りサンパワーキマワリ@眼鏡のソーラービームで、ずぶといHP防御248特防8振りトゲチックが乱数で落ちます。また、素早全振りキマワリは無振りドククラゲを抜き去り、上記のソーラービームでHP全振りドククラゲを確定1発。ドククラゲはかなり特防が高いのですが、やはり太陽神は格が違った。皆さんも、今日からヒマナッツをお供えして太陽神を使いましょう。


    あつあ通信vol.29、編者あつあつおでん


      [No.669] 34、ホムラの本気 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/08/29(Mon) 01:12:50     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「こうして見ると、マグマ団も大したことないのね」
    机に頭と体を押しつけられ、身動きが取れない。圧倒的な力でイズミに押さえつけられては、微動だにすることも許されない。呼吸するたびに息苦しさを感じる。
    「あんまり力いれんなよ。イズミだったら握りつぶしかねない」
    入り口でウシオはそう言った。ミナモシティの港の倉庫にアクア団がいること。もうすでに日付が変わった。人通りも少なく、気付いたものは無い。
    「大丈夫よ。そんなヘマはしないわ。それに子供の力だもの、あんたを押さえるよりかなり楽よ」
    イズミに対し、ため息で答える。そしてアオギリが来るであろう方向をじっと見ていた。まだマグマ団のアジトを探しているのだろうか。街灯に人影はなく、今か今かと待っている。すでに出発の準備は整っていて、他のアクア団たちも仮眠を取ったり、休憩したりして待機中だ。

     どのくらい時間が経ったか解らない。高い外洋の波音に消されて足音は全く聞こえないが、街灯に照らされるアクア団の目印が見える。ウシオが体を動かし、その人物を迎えた。長身、そして体格の良い体はアオギリの特徴だ。
     辺りは暗い。アオギリの顔の詳細までは見えないけれど、マグマ団のアジトで何も収穫が無かったのは解った。そして休むこともなく、ウシオとイズミに声をかける。
    「よし、マグマ団を追いかけるぞ。水中戦となればこちらの有利だ。先を越されるな」
    号令と共に二人は動きだす。イズミはザフィールを完全に動けないように持ち上げ、ウシオはアオギリを導くように先頭を歩く。
     それから数歩。全く進んでいないところで、ウシオは止まる。夜の海風は一層強く、波も岸壁に打ち付けられ、大きな音を立てていた。だからこそ気付かなかったのか。
    「うひょひょ、リーダーの命令は絶対なんでね。そいつを置いてもらおうか。そうじゃなきゃ、もったいないけどそいつごと食いつくぜ」
    グラエナの隣に立っているマグマ団。それを確認すると、ウシオは一歩前に出た。
    「あれだけ食らって、よく立てるもんだ。その根性だけは認めてやるよホムラ」
    「ありがとよウシオ。だが今はそんな長話してる暇もねえ。そいつを返せ。じゃなけりゃまとめて噛み砕く。俺としちゃあ、イズミみたいなナイスバディをわざわざ傷付けたりしたくないわけだ。でも、リーダーの命令となりゃ別。もう一度言う。そいつを返せ。そうじゃなきゃ噛み砕く」
    聞いたことのある声に、ザフィールは動けない体をやっとのことで動かし、そちらを見た。この状況で嘘のような人物の登場だ。すがるような思いで、ホムラを見つめる。
     助けてくれると期待して。マツブサに見捨てられた分、ホムラに期待をかけて。ウシオとにらみ合い、グラエナが今にも飛び掛かりそうにうなっている。そしてホムラの手が動いた。
     そのグラエナは真っ黒な毛皮を暗闇に溶かし、風のごとく走る。そしてイズミに突進し、その手からザフィールが開放された。転がりながらも助かったことを覚え、立ち上がろうとすると、背中を踏まれる。グラエナに。
    「ザフィール、お前も動くんじゃねえよ。おっと、アクア団のお三方も同じだ。下手に動けばグラエナがそいつの頭を噛み砕く。必要なんだろ?ずっと探してたヒトガタなんだからなあ!」
    いつもの、優しいホムラではなかった。ガーネットが言っていた、みんな冷たい人に見えるとはこういうことだった。もうマグマ団の幹部としてのホムラでしかない。マツブサの命令を忠実にこなす、冷徹なマグマ団。あの特徴的な笑い声さえも、氷柱のように耳に突き刺さる。
     目標を殺されてはたまらない。アオギリはイズミとウシオに動くなと伝える。ホムラの隙をうかがっている。グラエナはいつでも大丈夫だと言うようにホムラを見ていた。
     この状況、前もあった。その時は本当に子供で何もできなくて、ただ怖かった。泣き叫び、背中に感じる灼熱の痛みから逃げようとしていた。その時と全く同じではないか。強くなるとマグマ団でマツブサの言う通りに鍛えて強くなったと信じていたのに、何もできないことは変わってない。
     辺りは暗く、誰も気付かなかった。強い波と風で、声はかき消されていた。コンクリートを濡らす涙も見えなかった。唯一、背中に乗っているグラエナだけが異変に気付く。主人の命令でこうしているけれど、グラエナには今までホムラがかわいがっていた人間にいきなり敵意をむき出しにすることは難しい。グラエナの顔が、ザフィールの顔に近づく。どうしたんだと尋ねるように、頬をなめた。
    「グラエナ!」
    ホムラの声にグラエナは体をびくつかせた。まっすぐ主人の方を向き、ちゃんとやっているとでも言うようにしっぽを軽く振る。
    「あとな、おくりび山ではよくもやってくれた。悪いが、単なる恨みじゃすまねえぜウシオ。それにアクア団のリーダーさんよ」
    「ふっ、自分自身も守れない小僧の生き残りが何を言う。単なる逆恨みでよくも幹部にまでなれたものだ」
    アオギリがホムラの神経を逆撫でするかのように喋りだした。
    「誰が勝手に喋っていいっつったよオッサン。、あんたたちみたいのを助けるために、俺の弟は死んだんだぜ?復讐できるなら、マグマ団に利用されようが知ったこっちゃない。ようやく、リーダーの願望が実現されて、俺たちはあんたたちに復讐できる。カガリの分も一緒にな!」
    激しい怒りを見せるホムラ。こんなホムラは見た事がなかった。いつも笑ってるかぼーっとしてるか、グラエナと戯れているかのどれかだった。そもそも昔のこととかマグマ団に入る前の話は一切しなかった。きっかけなどみなバラバラだが、最も深い怒りを潜めている。
    「あの日、天気予報は台風そのもの。なのにあんたらは危険だという沿岸のおっさんのまで振り切って海にもぐったよな!特にアオギリのオッサン。結局帰れなくなって、レンジャーだけでなく、トレーナーまでかり出して、捜索させた挙げ句に助けに来たやつらを見殺しにして助かりやがった。あんたらだけ生きてるのはおかしい。おかしいだろうよ!」
    煮えたぎるマグマのごとく、ホムラの怒りが弾ける。肩で息をしていたホムラが、大きく息を吸い込んだ。そしてうってかわって大人しい口調へと戻る。やるべきことが目の前で待っている。
    「人んち荒らしといて、よくもまあ、そんなこと言えたもんだな。それに壊滅させてもらったようだが、俺たちの底力なめてもらっちゃ困る」
    生き残りの意地か、赤いフードたちがアクア団の下っ端たちを囲んでいる。立場が逆転しているようにも思えた。アクア団の方も全ての人員を連れて来ているわけでもない。追跡のために少数で組んでいた。おくりび山の光景とは逆のことがいま起きている。
    「さて、と。夜明けまで付き合ってもらおうか。足止めできればそれでいい。アジトにつれていけ」
    ホムラが命令すれば、マグマ団の下っ端たちが動き出す。ここから離れてしまったが、岬にあるアジトへは人目を気にせず運べる。夜の闇にまぎれて。
     そして残るは幹部とアオギリ。それを見計らったかのように、最後のマグマ団が十分離れた時、アオギリは手を動かした。暗闇でも縦横無尽に空を飛ぶクロバットが現われ、ホムラのグラエナを翼でたたく。驚いたグラエナは、思わずザフィールから離れた。
     その隙をウシオが逃がさないわけがない。グラエナがかみつこうとしても、クロバットがそれを邪魔する。
    「下っ端などいくらいなくなろうが、関係ないんでね。じゃ、マツブサによろしく頼むよホムラ」
    アオギリがクロバットにそのままを命じる。飛び出そうとするが、ダメージが回復しきってないホムラが素早く動くことなんて不可能。ホムラは叫んだが、待つわけがない。
     ホムラのすぐ側を大きな風が通った。街灯の影にうつるのはオオスバメ。こんな夜中に飛べるのか。そのオオスバメはそのままウシオにぶつかる。何が起きたか解らず、ホムラはその光景を見つめた。そしてグラエナがクロバットを振り切ってザフィールを救出する。
     オオスバメはザフィールの側によると、心配そうに翼のもふもふした羽毛でなでる。そして近寄るグラエナを警戒し、翼を大きく広げて威嚇する。グラエナは近寄るに近寄れない。
    「スバッチ……行け」
    涙がかかった声で短く命令する。その言葉通りにスバッチは翼で風を起こす。グラエナは強い風に耐えられず目を閉じ、クロバットは吹き飛ばされて飛ぶことが出来ない。
     ボールをあらたに出す力もないけれど、スバッチに命令することくらいなら出来る。合流するのが遅いようにも思ったが、この状況ではありがたいことだと修正する。
    「ちっ、隠し玉か。時間がないというのに」
    ウシオは部下に命ずる。作戦変更だと。イズミが素早く船に乗り込む。その姿を確認すると声を張り上げて宣言する。
    「思ったより藍色のヒトガタは元気が有り余ってるようだな。こうなればマツブサを何がなんでも止めて、それからアクア団の目的を遂げる。そうマツブサに伝えておいてくれ」
    ホムラの方を向いてはっきりと言った。もう立つ元気もないホムラは、膝をつきアオギリをにらむ。
    「させる、かよ……」
    グラエナに命令するより早く、羽ばたく音がする。波の音よりも大きく。
    「お前らの思い通りにさせるかよ。せめて、相打ちにしてやる」
    地に這いながらも、ヘビのような執念でアオギリに全ての恨みの感情をぶつける。煩わしそうにアオギリはクロバットを出そうとするが、海からの風も強まっている。そして得意の毒攻撃をオオスバメは攻撃力として返してくる。相性が悪い。
     それに、うっかり近づこうものなら、オオスバメが鬼のようなツバメ返しを放ってくる。アオギリには時間がないのだ。マツブサはすでにグラードンを呼び出す準備を整えて目的地に向かっている。ならばそれを先に止めなければ。見張りとしてウシオを残す。
    「ではウシオ、後を頼む。帰ってくるまで逃がすなよ」
    その動きは素早く、ザフィールの命令も届かなかった。アオギリは船の中へと消え、もやいが解かれて岸から離れて行く。それと同時に、ホムラの体はさらに強い衝撃を受けて倒れ込んだ。


      [No.668] 第47話「キキョウシティ解放作戦前編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/28(Sun) 13:38:57     81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    「お、ようやく見えたぞ」

     茂みの中からダルマは周囲を伺う。人はいないが、3階建ての古びた塔がたたずんでいる。ダルマはポケギアを耳に当てながら、茂みの中を移動する。

    「マダツボミの塔はあったかい?」

    「はい、発見しました」

    「よし、それでは早速忍び込むんだ。洗脳電波の中継装置を確認したら、速やかに破壊するように。バッジは装置しているね?」

    「もちろんです」

     ダルマは左胸にあるバッジに触れた。「ワ」の文字がプリントされた安物の缶バッジである。

    「それから洗脳電波を妨害する電波が発信されている。くれぐれも落とさないようにね」

    「了解です。ではワタルさん、行ってきます」

     ダルマはポケギアのスイッチを切ると、そそくさとマダツボミの塔に潜入するのであった。










    「ここに来るのもだいぶ久々になるな」

     ダルマはマダツボミの塔の2階を歩き回っていた。無事に突入できたのか、追っ手は見当たらない。また、内部からの応戦もまるで起こらない。

    「予想通り、洗脳電波に頼っているから警備が甘いな。これなら俺1人でも十分仕事できる」

     ダルマは、いつ現れるかわからないがらん堂の構成員を警戒しながらも、軽い足取りで階段を上る。また、なぜか腰も塔を支える柱のように揺れている。

     こうしてダルマは最上階に到達した。彼が辺りに目を遣ると、およそ古風な建物には似つかわしくない機械が視界に飛び込んできた。

    「お、あれが中継装置かな? 不用心だな、こんなに堂々と置くなんて」

     ダルマは怪しい機械に接近し、それをまじまじと眺めた。機械は西の窓に沿って設置されており、アンテナとコンピュータの構成である。稼働中なのか、低い唸りのような音を放っている。

    「それじゃ、早いとこ終わらせようか。アリゲイツ、頼む」

    「ちょっと待った!」

     ダルマがアリゲイツをボールから出した、まさにその時。何者かが階段を駆け上がってきた。その人物は、足元まで届く灰色のフード付きコートを着用しており、コートの裾がたなびいている。内側に着るのは黒のワイシャツ、白のネクタイ、岩井茶のズボン、これまた黒の革靴で、右手首にはミニチュアのトランプとサイコロが付いたミサンガをはめている。

    「……あのー、どちら様ですか?」

    「それはこっちの台詞だ! 俺がちょっとトイレに行ってた間にこんな所まで来るとはな、やりやがるぜ」

    「で、結局どちら様ですか? 人に聞く前に自分から名乗り出る。俺は学校でそう習いましたよ」

    「く、くっそー。反論できねえ。……軍師リノムと申します。がらん堂の幹部として、キキョウシティの中継装置を守護しています」

    「そうですか。俺はダルマ、旅のトレーナーです。早速ですが、これは壊しときますね」

     ダルマはがらん堂のリノムに一礼すると、さりげなくアリゲイツに合図を送った。アリゲイツは中継装置に水鉄砲を食らわせると、自慢のパワーで装置を持ち上げ、窓から放り投げた。数秒後、何かが地面に激突する音が響いた。

    「あ、みんなの嫁が!」

    「よ、嫁? あの機械が?」

    「そうだ。がらん堂に従うだけでなく、『あの機械はみんなの嫁であり共有財産であり、決して傷つけてはならない』って洗脳してたんだ。ちゃんとシャニーという名前もあったのに……」

     コートの奥で体を震わせるリノムに対し、ダルマは困惑するしかなかった。至極当然の反応である。

    「許さねえ。許さねえぞてめえ、嫁の仇は俺が取る! トゲチック、出番だ!」

    「え、ちょっと待ってってば!」

    「るせえ!」

     リノムはボールを手に取り力強く投げつけた。登場するのはカラフルなわっかの模様のある、卵の殻のような色をした鳥ポケモンだ。ダルマはすぐさま図鑑をチェックする。トゲチックはトゲピーの進化形で、癖のある特性を2つ持つ。技はそこそこあるが、特に補助技のレパートリーが光る。これを活かしたサポートが主流となっているようだ。

    「なるほど、タイプはノーマルと飛行か。あまり戦いたくはないけど、仕方ない。アリゲイツ、新技のお披露目だ!」

     ダルマの指示の下、アリゲイツはトゲチックに接近した。そして右腕に冷気を発生させ、トゲチックの腹部に殴りかかった。トゲチックはその場にうずくまる。

    「なんだと! どうなってんだどうなってんだ!」

    「へへ。隠し玉の冷凍パンチ、大成功だ!」

    「……くっそー、なめやがって。神軍師の俺の力を見ろ! トゲチック、ぜったいれいど!」

    「な、なにいぃぃぃぃぃ!」


    ・次回予告

    がらん堂幹部のリノムと戦闘を開始したダルマだったが、その常識を覆す戦略の前に終始押され気味。バトルの行方はどうなるのか。次回、第48話「キキョウシティ解放作戦後編」。ダルマの明日はどっちだっ。


    ・あつあ通信vol.28

    最近の執筆の流れが、あつあ通信→本文→次回予告の順に固定されてきました。このコーナーで書きたいことが結構あるものでして。ちなみに、本文は流れをちょろっと書いて下書きなしでやってます。誤字が心配ですが時間短縮のためにはやむを得ません。誤字がありましたら報告お願いします。
    ちなみに、岩井茶というのは黒と緑を合わせた色に少し白を混ぜたような色で、例えるなら「黒っぽい畳」です。ググれば出てきますが、良い色ですよ。


    あつあ通信vol.28、編者あつあつおでん


      [No.667] 37話 決戦の果て 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/08/28(Sun) 12:15:02     79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    37話 決戦の果て (画像サイズ: 450×270 29kB)

    「見てろよ風見! ここからが俺のタクティクスだ!」
     今、俺の場にはノコッチ60/60。そしてベンチには炎エネルギーが一つついたワカシャモ80/80。
     対する風見の場には炎エネルギーが一つ、水エネルギーが二つついたガブリアス70/130に、ベンチにはもう一匹タツベイ50/50がいる。
     サイドは俺が三枚残しているのに対し、風見は二枚。場の状況を考えても俺が劣勢だ。でも、まだまだ!
    「俺のターン!」
     俺の手札は今引いた一枚だけ。しかし今引いたカードはサポーターカードのハンサムの捜査。このカードの効果によって相手の手札を確認し、自分か相手の手札のどちらかを山札に戻させて戻したプレイヤーがカードを五枚引くことができる。
     つまりその効果を自分に使えば、戻すカードがないので単純に山札からカードを五枚補充出来るのと同値だ。
    「俺は手札のハンサムの捜査を発動! まずは風見の手札を見せてもらうぜ」
     風見の手札はボーマンダ、炎エネルギー二枚、不思議なアメ、デンジの哲学。不思議なアメとボーマンダが多少引っかかるも、それ以前に自分がなんとかしなければ始まらない。予定通り、自分を対象にカードの補充を行う。
    「俺は自分の手札を山札に戻してカードを引く。だが、俺の手札は0なので普通にカードを五枚引くぜ」
     このドローで戦況を大きく変えてしまう……。来い、キーカード!
    「っ、よーし! まずはワカシャモに炎エネルギーをつけて、ワカシャモを進化させる! 現れろ、バシャーモ!」
     荒ぶる炎と共に進化したバシャーモ130/130が威圧するように雄たけびを上げる。ハンサムの捜査で引いた当たりのカードが、まだまだチャンスを作ってくれる。
    「進化したバシャーモのポケパワー発動。バーニングブレス! このポケパワーによって相手のバトルポケモンを火傷にさせる」
     ベンチのバシャーモが風見の場のガブリアスに向かって赤い吐息を吐く。数歩後退しつつ体を横に振るガブリアスは、ぶんぶんと体を振りながらなんとか対応しようとするものの勿論火傷状態。逃れる事は出来ない。
    「ノコッチで攻撃だ。噛んで引っ込む」
     のそのそとノコッチはガブリアスのもとへ進み寄ると、右足に噛みつく。ガブリアス50/130が鬱陶しそうに足を払うと、ノコッチは振りほどかれてバトル場まで戻される。
    「威力は10しかないけど、ガブリアスの弱点は無色タイプ! よってガブリアスが食らうダメージは20だ。さらにノコッチは攻撃した後、自分のベンチポケモンと入れ替わる。その効果でバシャーモをバトル場に出させる」
     ポケモンが入れ替わり、俺の番が終わる。そしてここでポケモンチェックに入る。火傷によってコイントスをしてウラの場合、ガブリアスは20ダメージを受けるが……。
    「……ウラだ。ガブリアス(30/130)はダメージを受ける。今度は俺の番だ。手札の不思議なアメを発動してベンチのタツベイをボーマンダ(140/140)に進化させて水エネルギーをつける。そしてガブリアスをレベルアップさせる」
     ガブリアスの体が一瞬光に包まれ、ガブリアスLV.X40/140が現れる。面倒なことにレベルアップしたため、火傷状態が回復してしまう。いや、まだある。確か──。
    「レベルアップしたこのタイミングでポケパワー、竜の波動を発動。レベルアップしたときに三回コイントスをしてオモテの数かける10ダメージを相手のベンチポケモンに与える。ウラ、オモテ、オモテ。よって翔のベンチポケモン、ノコッチに20ダメージを与える」
     ガブリアスの口から青色の球体が発せられ、ノコッチ40/60に触れると小さな爆発を起こす。ダメージを与えるポケパワー、危ない。もし致命傷を負っているポケモンがいる状態でこれを食らえばたまったもんじゃない。
    「更にデンジの哲学を発動。手札の炎エネルギーをトラッシュして山札から六枚引く」
     デンジの哲学は手札が六枚になるまでカードを引けるサポーターだ。カードを引く前に一枚だけ手札をトラッシュできる。今、風見が炎エネルギーをトラッシュしたことによって手札が0となり、六枚引いた。スージーといい手札を捨てるカードが多いということは、やっぱり来るか。
    「ガブリアスLV.Xのワザ、蘇生を発動。トラッシュのポケモン一匹をたねポケモンとしてベンチに呼び出し、トラッシュの基本エネルギーを三枚までつけることができる。俺はトラッシュのボーマンダに炎と水エネルギーをつけて蘇生させる!」
     あらかじめベンチにいるボーマンダの隣に白い穴が開き、そこから新手のボーマンダ140/140が這い出てきた。これでボーマンダが二匹並んだ状態となる。マズイ、ボスラッシュ並みの圧巻だ。
     ただでさえ俺にはポケモンが二匹しかいない上にノコッチが非戦闘要員であるのに、こんなにバカバカと大型ポケモンが乱発されては立つ瀬が無い。
     さらに加えて不味いことに俺のバシャーモはHPは130/130。このせいでボーマンダのポケボディーのバトルドーパミンが発動してしまう。バトルドーパミンが発動している限りボーマンダのワザは無色二個分だけワザエネルギーが減る。
    「くっ、ドロー! ヒコザル(50/50)をベンチに出し、バシャーモに炎エネルギーをつける! 更にサポーター、オーキド博士の訪問を使うぜ。山札からカードを三枚引いて一枚をデッキの一番下に置く。そしてバシャーモで攻撃、鷲掴み!」
     バシャーモがジャンプ一つでガブリアスLV.Xまで距離を詰め、その喉元に右手を出してそのまま握力で締め付ける。抵抗して両腕を振っていたガブリアスLV.X0/140だったが、次第に力を失って倒れていく。
    「レベルアップしてガブリアスLV.Xの最大HPを増やしただろうが、それでも残りHPは40! わしづかみのダメージも40だ、これでガブリアスLV.Xは気絶だぜ!」
    「それでもガブリアスのポケボディー、竜の威圧を発動する。ガブリアスに攻撃したポケモンはエネルギーを一枚手札に戻さなくてはいけない。そして俺の次のポケモンは今蘇生したばかりのボーマンダだ」
    「竜の威圧の効果で炎エネルギーを戻す。そしてサイドを一枚引いてターンエンド」
     これでサイドの残り枚数はなんとかイーブンに持ち込んだ。まだ勝機はいくらでも残っている。なんとかその糸を手繰り寄せないと。
    「あの状況をここまで持ち直すとは流石というべきか。だがそれでもまだまだ足りない! 俺のターンだ。手札の水エネルギーをバトル場のボーマンダにつけてバシャーモに攻撃。蒸気の渦!」
    「うおわっ!」
     白い渦がバシャーモを空へと持ち上げ、吹き飛ばす。無造作に受身も取れずに落下したバシャーモ10/130は、右腕を立ててなんとか立ち上がる。
    「蒸気の渦のコストとしてボーマンダの炎、水エネルギーを一枚ずつトラッシュ」
     たった一撃で気絶寸前まで。しかもベンチのポケモンも全然育っていない、圧倒的不利な状況。……なのだが、俺の心はいまひとつ緊迫感がなく、むしろワクワクしている。
     だってこんなに楽しいことがあるか? そうそうないぜ。風見だけじゃない、今まで戦ってきたライバル達が皆が皆強かった。こんなに一日中ワクワクドキドキするなんて滅多に無い。
    「……。楽しいな」
     そんな俺の心を見透かしたかのように風見が呟く。
    「ああ、楽しいな。やっぱりカードはこうじゃないとな」
    「まったくだ」
    「……、続けるぜ。俺のターン、ヒコザルをモウカザル(80/80)に進化させてバシャーモに炎エネルギーをつける。そしてバシャーモのバーニングブレスでボーマンダを火傷にする! そして攻撃だ、鷲掴み!」
     本来は100ダメージを与える大技の炎の渦を使いたかったが、エネルギーが竜の威圧で戻されたせいで計算が狂い、一枚足りない。だが足りない以上は足りないなりになんとかするしかない。
     バシャーモはボーマンダ100/140の首をがっちりと押さえたまま離さない。
    「鷲掴みを受けたポケモンは次の番、逃げることが出来ない。そして俺の番が終わったことでポケモンチェックだ」
    「……ウラなのでボーマンダは20ダメージだ」
     これでボーマンダのHPは80/140。まだ気絶には遠い。でも着実に近づいてるのは確かだ。さらに鷲掴みの効果で逃げれないため、火傷から逃れる術はない。あわよくばもうワンチャンスあるかもしれない。
     それに加えてボーマンダのワザは火炎と蒸気の渦の二つ。前者は炎で、後者は炎水で使えるワザ(バトルドーパミンの計算を加えているので本来はさらに無色が前者は一つ、後者は二つ必要)。しかしあのボーマンダについているエネルギーは水エネルギーのみで、風見が次のターンに炎エネルギーをつけれなければ攻撃出来ない。攻撃さえ受けなければ──。
    「俺のターン。手札の炎エネルギーをボーマンダにつける」
     しかし淡い期待は見事に粉砕。しかしそれもそうか。そこまで虫のいい話もないのも当然といえば当然だ。
    「そしてボーマンダで火炎攻撃だ」
     ボーマンダの口から無慈悲なほど大きい火球がバシャーモめがけてぶつけられる。HPはもう尽きた。あまりにも早い展開についつい舌打ちしたくなる。
    「俺の次のバトルポケモンはモウカザルで行く」
    「サイドを引いてターンエンドだ」
     風見はまたしてもミステリアスパールではないほうのサイドを引く。それも当然か。
     それはともかく、さっき唱えたもうワンチャンスがある!
    「ポケモンチェックをしてもらうぜ」
    「ふん。……ウラか」
     これでボーマンダのHPは60/140。さらにHPが120以上のポケモンが俺の場からいなくなったことでバトルドーパミンの効力も消え、風見のボーマンダはワザを使うのに多大なコストが必要になる。チャンスだ!
    「俺のターン!」
     引いたカードはワカシャモ。ゴウカザルではない。手札にはサーチカードも、ドローサポートカードもない。ここでゴウカザルがくれば一気にペースを持ってこれたのに、とはいえ仕方あるまい。
    「モウカザルに炎エネルギーをつけて攻撃だ! ファイヤーテール」
     俊敏な動作でボーマンダに近づくと大きく跳躍し、縦に回転しながら適当な高さに至るとその尾でボーマンダを叩きつける。背に一撃を受けたボーマンダ20/140は悲鳴を上げ、バランスを崩しかけるも持ち直す。
    「ファイヤーテールは威力が40だけど、デメリットとしてコイントスをしてウラならばエネルギーをトラッシュする必要がある。……オモテなので回避だ!」
    「ならばここでポケモンチェックだ。なっ……、またウラだと!?」
     決まった! 残りHPが20/140だったボーマンダはこれで20ダメージを受けて気絶。ここまでおいしくは行かないかもしれないと考えていただけに、まさしく僥倖だ!
    「サイドを一枚引くぜ」
    「まだ俺にはもう一匹のボーマンダが残っている。俺のターンだ。炎エネルギーをつけてバトル。火炎だ!」
     モウカザルよりも一回り大きな火球がモウカザルを包み込む。これでHPわずか30/80。やっぱりボーマンダとモウカザルでは地力が違いすぎる。
    「もし次の番で、お前が俺のボーマンダを倒さない限り、お前に勝利はない。たとえプラスパワーなどの小細工をいくらしようともこの圧倒的なHPをモウカザルが削り切ることなど出来ない」
     風見の言うとおりだ。モウカザルのままでは勝てない。せめてゴウカザルに進化させないと。でも手札にゴウカザル、もしくはそれをサーチしたりするカードがない。このドローに全てが懸かる。
     俺の山札は四枚、つまりゴウカザルを引き当てる確率は四分の一。いや、サイドカードがまだ一枚あるから五分の一。それも違う。前に使ったオーキド博士の訪問でキズぐすりを山札の一番下に置いたのでやはり四分の一だ。
     しかし確率論は所詮机上の空論、引いてみなくちゃわからない。信じるんだ、自分が引くことを。そしてカードが自ら現れてくれることを。
    「俺のターン!」
     思わずドローした瞬間目をつぶってしまう。右目を恐る恐る開くとそこには一枚のサポーターカードがあった。
    「よし! 俺は手札から二枚目のオーキド博士の訪問を発動!」
     残った三枚の山札を全て引く。するとそこにはきっちりゴウカザルがあった。良かった、サイドに行ってなくて。これでまだまだ戦える。勝利の可能性は開かれる!
    「モウカザルに炎エネルギーをつけて、モウカザルを進化させる!」
    「何っ、ここに来て進化だと!?」
     フォルムをあっという間に変えて現れたゴウカザル60/110が、首を回しながら威圧するような咆哮を上げる。
    「行くぞ風見! これが最後の攻撃だ、ゴウカザルでバトル。ファイヤーラッシュ!」
     このワザはバトル場の炎エネルギーを好きなだけトラッシュし、コイントス。オモテの数×80ダメージを相手に与えるワザ。俺の場にある炎エネルギー全て、ゴウカザルについている炎エネルギーを二枚トラッシュする。
     ボーマンダのHPは140/140。つまりここでオモテを二回出せば俺の勝ちだ!
    「ま、まさか本当に二回連続でオモテを出すつもりじゃないだろうな」
    「出すつもりに決まってるだろ! 勝負だ! 一回目のコイントスはオモテ!」
    「っ……!」
    「二回目のコイントスは……オモテだ!」
    「ばっ、馬鹿な!」
    「行っけえええ!」
     ゴウカザルは右手に盛る炎を纏い、ボーマンダに殴りかかる。爆発のエフェクトで一瞬視界が白に包まれた。



    翔「今日のキーカードはガブリアスLV.Xだ。
      そせいはなんとエネルギーなしで使える!
      トラッシュされた仲間を蘇生させよう!」

    ガブリアスLV.X HP140 無 (DP4)
    ポケパワー りゅうのはどう
     自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。コインを3回投げ、オモテの数ぶんのダメージカウンターを、相手のベンチポケモン全員に、それぞれのせる。
    ─ そせい
     自分のトラッシュから「ポケモン(ポケモンLV.Xはのぞく)」を1枚選び、「たねポケモン」としてベンチに出す。その後、のぞむなら、自分のトラッシュの基本エネルギーを3枚選び、そのポケモンにつけてよい。
    ─このカードは、バトル場のガブリアスに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
    弱点 無×2 抵抗力 ─ にげる 0


    ───
    風見雄大の使用デッキ
    「ドラゴンエフォート」
    http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-675.html


      [No.666] 第8話 フルバトルその5 VSリョクシ 投稿者:マコ   投稿日:2011/08/27(Sat) 17:40:53     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ここは仮想空間の中の砂上の楼閣。そこにいた青年、アキヤマの目の前に、プラズマ団の下っ端が1人、立ち塞がっていた。
    「この反逆者め、お前をこれ以上先に通すわけにはいかねえんだよ!」
    「……何言うとんねん、お前。そっちの方が邪魔やねんけど」
    「うるせえ!!もう話が通じねえみてえだな!叩き潰してやるから覚悟しやがれ!!」
    そう言うなり、そいつは真っ赤なワニ型の威嚇ポケモンを繰り出してきた!!
    「よし、ワルビアル、地震……!?」
    下っ端は指示を出そうとしたが、その前に勝負がついていた。ワルビアルが地震を繰り出す前に、ジャローダのリーフブレードによって倒されていたわけだ。目を回している威嚇ポケモンの上で、ロイヤルポケモンはフン、と鼻を鳴らしていた。
    「指示が届く前に倒したったからなあ。それはそうと……、お前、他のポケモン持っとんの?」
    アキヤマがそう言うと、下っ端の顔色が蒼白になっていき、そして、真っ青な彼はこう言い放ったのだ!
    「うわーっ、弱い俺のバカバカバカ!もひとつおまけにバカ!可愛く言ってアンポンタン!!」
    アキヤマは呆然としていた。ジャローダも驚きを隠せない。
    「そんじゃ、俺はこれで……」
    「おい待てこら」
    その隙に逃げようとした下っ端であったが、ジャローダが伸ばした蔓のムチによって捕縛され、アキヤマの所に連れてこられた。
    「七賢人の場所を吐く前に逃げるとは、お前ええ度胸しとんなあ……」
    「ひいい、すみませんすみません!!これではリョクシ様に申し訳がたちませ……」
    その時だった。老人が1人、いつの間にか姿を見せていた。
    「リョ、リョクシ様!こいつが反逆者です!」
    下っ端はアキヤマを指してこう言うが、リョクシというその老人は聞く耳を持たなかった。
    「……その前に話すべきことがあろう。お前がそこの男に負けたということを」
    「……すみませんでした!!!」
    下っ端はすぐに土下座していた。老人はその様子を横目でちら、と見て、青年に言う。
    「わしの部下が見苦しいことをしたな……、青年よ、わしはお前に、きっと負けるだろう。だが、それでも真剣にお手合わせ願いたい。良いか?」
    「……?良い、ですけど……」
    七賢人の口からそのような言葉が出るとは、意外でしかない。しかし、人として、そんな決意を述べられた以上は、それに応えてあげないと失礼なものだ。


    リョクシがトップバッターとして出したのは、イッシュで非常に珍しいポケモンとされているてっしんポケモン・コバルオンだった。それに対し、アキヤマはゴルーグを出した。それを見た瞬間、リョクシは若干顔をしかめた。ゴルーグには格闘技が通用しないからだ!
    しかし、すぐに考えを切り替えたリョクシは、コバルオンに鋼の頭による頭突き、アイアンヘッドを指示した。動きが若干鈍重なゴーレムポケモンに、着実にダメージを積算させていく。
    それでも、ゴルーグも負けじと地震を放つ。重量感あふれる巨体から放たれる揺れは、てっしんポケモンが思わず、膝をついてしまうくらいだ。そして、その隙を見逃すまい、と、アキヤマは指示を飛ばした。
    「アームハンマー!!!」
    ゴーレムポケモンが腕を振り下ろすドッスーン!!という音とともに、コバルオンは力なく倒れていた。


    次いで老人が出したのは、コバルオンと同系列で語られる草原ポケモンのビリジオン。青年はそれを見て、ヘルガーを出した。
    お互い弱点を突くことができるが、ビリジオンの特性、正義の心によって悪タイプの技は相手を強化してしまうために、ヘルガーは主に炎で攻める他なかった。
    そして、ビリジオンと比較すると小柄なヘルガーは、最初に素早く小さな炎を繰り出していた。
    それは、鬼火だった。
    ダメージを与えるほどの技ではないが、しつこくまとわりつき、草原ポケモンの体に火傷を重ねていく。草原ポケモンが、ダークポケモンの弱点である格闘の物理技である聖なる剣を繰り出しても、攻撃力の落ちたそのツノではまともな傷を与えられるはずがなかった。逆に火炎放射の波状攻撃を食らったビリジオンは、ほぼなすすべなく倒れた。


    3匹目としてリョクシが出したのは炎の蛾、ウルガモスであった。羽から炎の粉がいくつもこぼれ落ちるほど、火の蛾は威勢が良いらしい。一方、アキヤマが送り込んだのはエルレイド。礼儀正しいこのポケモンは相手に向かって一礼すると、戦闘態勢に入った。
    刃ポケモンは心の刃を具現化して相手に叩きこむサイコカッターでウルガモスを攻める。
    一方の太陽ポケモンは、それを甘んじて受けつつも、蝶の舞で速さと、さらなる攻撃力を得ていた。
    「攻撃するたびに強くなる炎の力を受けてみろ、炎の舞!!」
    先程の蝶の舞は「補助の踊り」であるが、こちらの舞は「攻めの踊り」だ。踊るたびに炎が宙を舞い、刃ポケモンに降り注ぎ、いくつかの炎は太陽ポケモンに還り、また強くなる。
    脅威でしかないその攻撃ではあったが、太陽ポケモンが見せた一瞬の油断を、刃ポケモンは見逃さなかった。アキヤマの指示が飛ぶ。
    「ストーンエッジをぶち込めっ!!!」
    一撃に力を込め、尖った石をぶつけていったのだ!この攻撃には、いくら強い炎の蛾といえど、白旗を挙げざるを得なかった。ウルガモスにとって、岩の属性は最大の弱点、というわけだからだ。


    リョクシが繰り出した4匹目はギャラドスであった。攻撃力が高く、手懐けることが難しいポケモンとしても知られる。それに対し、アキヤマが出したのはライトポケモン・デンリュウであった。
    両者出揃ったところで、凶暴ポケモンはライトポケモンの戦意を削ぐ咆哮を発した。威嚇の特性効果である。さらに竜の舞まで踊っていた。
    しかし、このデンリュウは結構図太い精神の持ち主なのかもしれなかった。咆哮を意に介さず、電気を含ませた綿を発射する。進化前のメリープやモココは体表に綿があるため、そこから生み出されていると分かるが、デンリュウのどこに綿の産生器官があるのかは分からない。そんな、どこから出したかも分からない綿は、ギャラドスにしっかり貼りつく。
    さらに、綿に含まれた電気が水・飛行タイプの凶暴ポケモンにかなりのダメージを負わせていたのだ!
    そんな大ダメージを受けながらも、竜の舞によって強化された、水を纏った尻尾によるアクアテールをデンリュウに食らわす。
    2撃目のアクアテールを凶暴ポケモンが撃ち込もうとしたその時だった。

    ギャラドスの周囲に、キラキラ光る宝石が舞っていた。リョクシは思わず、何事か、と注視していると、
    「パワージェム!!」
    宝石は意思を持って凶暴ポケモンに襲いかかり、ノックアウトさせていた。
    「そんな技まで使うとは、大したものよ」
    「この技は相手の不意を突けそうやからな。意外なとこからの攻め、という分にはええかな」


    老人の手持ちは後2匹。そのうちの1匹、ノクタスを出してきた。青年はそれに対し、エンペルトを出す。
    3本の伸びたツノが王者の風格を醸し出している皇帝ポケモンは、カカシ草ポケモンに向かって冷凍ビームを発射する。普通の攻撃より早くその攻撃はノクタスに到達し、腕の一部を凍らせていた。
    「これはすごい威力。それならば……砂嵐を起こせ!」
    カカシ草ポケモンを中心として、砂がフィールドを覆った。砂隠れの特性を持つノクタスにも、鋼タイプを持つエンペルトにも、砂嵐によるダメージはないが、厄介な砂隠れの効果が発動し、カカシ草の回避の力が上昇していた。
    これをチャンス、とばかりに攻め立てるノクタス。ニードルアームやリベンジといった技を食らわせていく。
    それらの攻撃に、エンペルトは耐えていた。
    「反撃をしてこない、とは……何を考えているのか?」
    「よし、そろそろ……やな。エンペルト、我慢を解放!」
    「そういうことか!!!」
    今まで食らったダメージを解放とともに倍返しにする我慢のパワーにより、ノクタスは大ダメージを受けて吹き飛ばされていった。そして、そこに、エンペルトの嘴が回転しつつ直撃していた。我慢とドリル嘴によって、ノクタスも倒された。


    最後にリョクシが出したのは、コバルオンやビリジオンと同系列の岩窟ポケモン、テラキオンであった。一方、アキヤマが最後に出したのは、彼のパートナーで、下っ端戦では一瞬で勝利を収めたジャローダだった。
    岩窟ポケモンは登場するなり岩雪崩を撒き散らしていた。しかし、ロイヤルポケモンも負けてはおらず、次々降る岩をリーフブレードで壊しつつ、逆にテラキオンの周囲に種を蒔いていた。これをテラキオンが踏んだ瞬間、種が萌芽し、複雑に絡みついていった。
    そこから奪った体力は、ジャローダのものとなっていく。
    「刺激を与えることで発芽する種を蒔いたのか」
    「鋭いですね。ただ発芽するだけやと、何もおもろくないですから」
    ストーンエッジがロイヤルポケモンを掠めるが、その度に草の締め付けが強くなり、ジャローダの傷を癒していく。テラキオンがやっとの思いで締め付ける宿り木を引きちぎったところで、ロイヤルポケモンは、大技の準備を整えていた。
    「食らえーっ、ハードプラント!!!」
    アキヤマの指示とともに、大きく太い根っこが岩窟ポケモンを飲み込んでいった……。


    「あ……あ……リョクシ様が……負ける……なんて……」
    下っ端はかなり泣きじゃくっていた。今の光景が信じられないのだろう。
    「わしの全力を超えるものを見させてもらった。ありがとうよ」
    「いいえ、でも、あなたも強かったです。正直、敵味方っていう状況を無視しても、俺はあなたのことをすごいって思いました」
    リョクシはアキヤマに鍵を渡し、そして言った。
    「お前の仲間達はきっと優勢に事を運んでいるように思う。しかし……スムラと当たった者は……負けを覚悟した方が良いかもしれん」
    「それは……何故?」
    「奴はとにかく、卑劣であるからだ。対峙する者が強ければ強いほど、奴に倒されやすい。事実、そのようになって、ギロチンで処刑された者を、わしは何人も見てきた。……大切な仲間を失うことになってしまうかもしれんぞ?」
    「……誰と当たるとしても、誰が当たるにしても、俺らは誰も失いたくないんです。……負けないと、信じているんです」
    アキヤマは、そう、しっかりと言い切った。そして、扉を開き、先を急いだ……。

    七賢人完全撃破まで、あと、1人。

    次へ続く……。



    マコです。お久しぶりです。約1か月振りの更新です。
    無事に試験も済み、合格も無事にもらえました。
    さて、本編です。
    七賢人に1人くらい、こういう考えの人がいてもいいと思います。
    さて、いよいよ次回、七賢人編ラストです。
    リョクシが言っていたスムラがラストの七賢人です。
    これは……スムラと戦うあの人がヤバい目に遭ってしまうかもしれません……。


      [No.665] 第46話「石の宝庫」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/27(Sat) 11:05:38     80clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    「ふわーあ、眠い眠い」

    「ダルマ様、昨日は遅くまで起きていたようですが、大丈夫ですか?」

    「うん、大丈いてっ」

     ここはくらやみの洞穴。一寸先は闇という言葉が見事にマッチするこの洞窟は、整備がほとんどなされていない天然の迷路だ。それゆえ明かりなど望むべくもなく、利用者は数えるほどもいない。そのような道で、フスベシティを出発した一同はキキョウシティを目指して歩を進めていた。そんな中、ダルマとユミは小声で会話をしている。

    「ほら、やっぱり疲れているようですわ」

    「……どうやらそうみたいだ。けど、少しでも速くキキョウシティに到着しないと」

    「それはそうですが……。発電所がこちらの管理下にある今、幾分は有利になったわけですから。休憩はちゃんととってくださいね」

    「そうするよ。にしても、全員で歩くと狭いなここは」

     ダルマは壁に触れながら進む。進軍における安全確保の理由から光源は一切使用されておらず、セキエイ陣営は文字通り手探りで歩く。ダルマの付近にいるのはユミ、ドーゲン、ジョバンニ、ワタル、ボルト、ハンサム、カラシだが、驚くことにこれで全員である。また、暗がりに話し声とポケモンの鳴き声がこだまする。

    「仕方ないだろう。この人数を分散させたら各個撃破されるのは、火を見るより明らかだからな。フスベのトレーナーも町の防衛に必要である。交換システムを停止したとはいえ、強襲の可能性はある」

    「ハンサムさん。……前々から思ったのですが、ハンサムさんは何か得意なものはないんですか? 訓練中もあまりバトルが強そうには感じられませんでしたけど」

     話に割り込んできたハンサムに対し、ダルマはふと質問を投げかけた。するとハンサムは不敵な笑みを浮かべながら答えた。

    「良い質問だ。私の得意技はずばり、変装だ」

    「へ、変装?」

    「その通り。人の姿をそっくりそのまま借りられるのだ。人だけではなく、岩に擬態したこともある。いずれもばれた試しはない」

    「岩……まるで学芸会の木みたいですわね」

     ユミの一言は彼にクリーンヒットしたこともようだ。ハンサムは苦笑いをしながら話題を変えた。

    「そ、そうそう。この辺りはジョウト地方でも進化の石が豊富な場所らしいな。開拓はあまり進んでないようだが」

    「進化の石って、イーブイの進化なんかに使うあれですか?」

    「うむ。ほれ、君達の足元にあるじゃないか」

     ハンサムは地面を指差した。ダルマとユミは目を凝らして観察してみると、彩り豊かな石が点在することに気付いた。

    「こ、これが全部そうなんですか?」

    「おそらく。君達は石で進化するポケモンを持っていたな。ダルマ君はイーブイとヒマナッツ、ユミ君はイーブイ。せっかくだから失敬したらどうだい? 誰もケチをつけることはないだろうし、戦力の充実にもなるからね」

    「……それもそうですね。では頂きますか」

    「私もお言葉に甘えて失礼します」

     ダルマとユミは腰をかがめ、手元にあった石を抜いたり別の石で折ったりした。ダルマの収穫は炎の石2個と太陽の石1個、ユミは水の石1個である。

    「進化の石かあ……こういうのも人の手で作れればいいんだけどなあ、ふわーあ」

     ダルマは大あくびをして口を手で押さえた。それから伸びをすると、元気に出口を目指すのであった。



    ・次回予告

    キキョウシティまでたどり着いたダルマ達は解放作戦を決行する。ダルマの任務はマダツボミの塔の攻略となり、意気込むのだが……。次回、第47話「キキョウシティ解放作戦前編」。ダルマの明日はどっちだっ。


    ・あつあ通信vol.27

    実はゴロウには「ゲットの際にボールを投げるのが壊滅的にノーコンで、2匹目が中々手に入らない」という裏設定があります。現実の世界にポケモンがいたら、このようなトレーナーは必ずいると思われます。例えば私とか。逆にサトシやらのアニメキャラはコントロール良すぎです。やはりスーパーマサラ人は格が違う。


    あつあ通信vol.27、編者あつあつおでん


      [No.664] 第45話「技の継承」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/26(Fri) 23:30:00     66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    「よし、少し休憩しようか」

     夕日が人々にウインクする頃、ダルマはフスベジム周辺の湖で小休止していた。傍らにはアリゲイツとイーブイ、ヒマナッツにカモネギ、そしてスピアーが肩で息をしている。

    「やっぱり走るのは疲れるなあ。けどがらん堂とポケモンリーグが控えてるわけだし、もう少し頑張るか」

    「おお、まだトレーニングをしておったか。感心感心」

     と、そこにあの朗らかな声が飛び込んできた。ダルマは声の方向に目を遣る。

    「……父さん、どうしたの?」

    「飯の時間だ。センターに戻るぞ」

    「もうそんな時間か。ちょっと待って」

     ダルマは自分のポケモンをそれぞれのボールに戻し、そのままポケモンセンター目指して歩きだした。走り終えたばかりである彼の足取りは重い。

    「しかし、やりおったなダルマよ。お前は本当に才能があるのかもしれんな」

    「どうしたんだよ一体。別に驚くことなんかしてないって」

     普段お目にかかることなどまるでないドーゲンの真剣な表情に、ダルマは思わず背筋が伸びた。

    「……お前は俺が旅をしていたのは知っておるな?」

    「うん。海千山千越えた大冒険だったらしいね」

    「そうだ。あの頃は夢中だった。だが、俺の旅はこの町で終わってしまったのだ」

    「え、どういうこと?」

     ダルマの口から疑問が出てきた。ドーゲンは山々の頂上を眺めながら、一言一言呟く。

    「……バッジを7つ集め、遂にたどり着いたフスベジム。俺はジムリーダーと勝負をした。当時のリーダーは初老の爺さんだったが、俺はこてんぱんにやられちまった。すると、それまで持っていた『ポケモンリーグで成り上がる』という野心が吹き飛んじまったのさ。やる気がなくなった若かりし俺は、おとなしくワカバに帰って道具作りを始めたってわけよ」

    「……と、父さんも色々あったんだ」

     夕焼けを一身に浴び黄昏に染まる父を見て、ダルマは一瞬言葉を失った。ようやく絞りだした台詞を受け、ドーゲンはきっぱりこう言い切った。

    「そうだ。今思えば、道具作りを始めたのは自分に言い訳がしたかったからかもしれないがな」

    「言い訳?」

    「あの時道具があれば勝てたはず。そんな言い訳にすがって道具作りに打ち込んだもんだ。もっとも、現在は道具職人の自分を誇りに思っているのは紛れもない事実よ。トレーナーの明日を左右するものを手掛けるんだ、つまらないはずがねえ」

     ドーゲンは、腹の底から笑ってみせた。ダルマもそれにつられる。一息おいて、父は鋭い眼差しで息子を見つめ、あることを尋ねた。

    「……ダルマよ。この旅が終わった後に道具作りをやってみる気はないか?」

    「え、俺が? うーん、正直まだわかんないよ。他の地方に足を運ぶのか、あるいは旅を止めるのか。そもそもがらん堂との戦いもあるし、今は決められない」

    「確かにそうだ。では今晩から少しずつでも教えてやろう、いつでも仕事を始められるようにな。異存はないな?」

    「それは構わないけど、どういう風の吹き回しだよ? 家にいた頃は頼んでも教えてくれなかったじゃないか」

     ダルマはいぶかしげに質問を返した。ドーゲンは腕組みしながら何度もうなずき、言葉を選ぶように答える。

    「うむ。あの頃は無理に教えて嫌気が差してしまうのを警戒していたのだ。それと、中途半端な気持ちでやった挙句飽きられても困るからな。だが、お前はこの旅を経て随分成長したようだ。……子供が独り立ちできるように技術を仕込むのは親の義務だと俺は思っている。だから、旅の間に少しでも鍛えておくとしよう」

    「……旅が始まる前はこんなことになるなんて思いもしなかったよ。まあどちらにせよ、がらん堂を倒さないとこれからのことは考えられない。そのための戦力を充実させるためにも、道具の力はあるに越したことはない。今日からよろしく頼むよ、父さん」

    「よく言った! さあ、こんな湿気た話は終わりだ。しっかり食べて準備しとけよ!」

     そうとだけ言い残すと、父は息子を残して先にポケモンセンターへ走りだした。その後ろ姿を見送りながら、ダルマも家路につくのであった。

    「あ、父さん! やれやれ、これじゃあどっちが親かわからないな」


    ・次回予告

    フスベシティを出発してくらやみの洞穴を進むセキエイ陣営。彼らは思いがけないものを発見するのであった。次回、第46話「石の宝庫」。ダルマの明日はどっちだっ。




    ・あつあ通信vol.26

    セキエイ陣営は、なぜ人手不足にもかかわらずゴロウの修行を認めたのでしょうか。ストーリー的にはキョウが才能を見出だし、戦力を増やすという観点からワタルもゴーサインを出してますが、作者的な都合もあります。あんまり人数が増えると敵も増やさないといけないし、それぞれをざっくり描くのが難しいと判断したためです。カラシも入ってきましたしね。それでもゴロウは印象に残っている……と信じたいです。皆さんは誰がお気に入りキャラですか?


    あつあ通信vol.26、編者あつあつおでん


      [No.660] プロローグ 投稿者:ヴェロキア   投稿日:2011/08/24(Wed) 17:46:15     13clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    華麗にスケボーを操る子どもがいた。とても子どもの技とは思えない。ジャンプ台も軽々と飛び上がる。それどころか、1070度回転した。公園に来ていた子供達も、遊ぶのを忘れてそれに夢中になっている。
    難しい技、手すり滑りも公園の階段で難なくこなす。プロ並みだ。
    するとその子はシーソーへ移動した。片方に乗り、沈んだ所でジャンプし、手すりに乗る。難易度は高い。
    そしてまた、下がっているシーソーで降りた。公園中に拍手が響き渡る。ヘルメットをかぶっているので誰かは分からないが、それを診るために公園に来るマニアもいると言う。
    その子が、ヘルメットに手をかけた。
    「おぉ〜やっと誰か分かる!」
    一人のマニアが言った。
    水色のヘルメットを外すと、その子は、
    「ライナ!」
    少年でもなく、少女だったのだ。
    「ライナ、なんでこんな事をしてるの?」
    マニアがメモ帳を手に聞く。
    「フッ 趣味でねぇ。いつも公園でやっているんだよ。」
    そういい残して、スケボーで去っていった。
    「あれがライナだったとは。」
    「あり得ないぜ。」
    「ライナでも、上手いもんは上手いんだ。これからも見ようぜ。少年だと思ってな。」
    次々と人が帰っていくが、10数人だけ残った。
    「俺達で、ファンクラブ作るか?」
    「いいな。ネットにな。」
    すると、どこからか声が聞こえてきた。
    (だめだ。やるんじゃない。この私が許さない。)
    「今のは?」
    残った人が、公園中を探すが、誰もいない。
    「もしかして、ライナ様がお許しになっていないんじゃ・・・祟りだ・・・」
    「ライナ様、心からお詫び申し上げます。」
    いつの間にか敬語の中の敬語になっている。
    (よし。今度はただじゃおかねぇからな)
    また同じ声が聞こえてきた。
    ライナは、ちょっと男らしい所(言葉遣い)があるが、本当は優しい女の子だ。
    明日は、ライナの誕生日。プレゼントは何かな・・・?
    続く
    (プロローグなので短いです。一話からはもう少し長いです。)


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