「じゃあ、まずはラディヤからだ。全力でかかってこい」
俺と部員達は、互いに適当な間合いで対峙した。向こうは1番手がラディヤだ。果たして、いかなる動きをするか注目だな。
そよ風に周囲の雑草がざわめく。自然の観客もお待ちかねだ、そろそろいくか。俺は先日教えられたようにボールを投げた。それに釣られるようにラディヤも繰り出す。
「小手調べだ、エレブー!」
「いきますよ、キノココ!」
俺が使うのはエレブーだ。先週捕まえた、実に20年ぶりの新戦力。随分せっかちだが、能力や技を考えると適していると言えるだろう。
対するラディヤはキノココか。かの有名なキノコのほうしを覚えるポケモンで、進化すると無限戦術と言う戦法を使えるキノガッサになる。能力的には平凡だが、一撃で落としては訓練にならない。少しは考えて技を選ばないとな。
「まずは10まんボルトだ」
先手はエレブーだ。エレブーは両腕をプロペラの如く回し、頭の角から電撃を放った。電気は伝わるのが速い。キノココはこれを真面目から受け、弾き飛ばされた。しかし、その丸々とした体はすぐに起き上がる。これを見て、ベンチから疑問の声が聞こえてきた。
「キノココに対して電気技でマスか?」
「そりゃ訓練だからな。いきなり弱点突いて倒したら、意味が無い」
「なるほど」
イスムカが軽くうなずいた。彼が頭を上げるまでの一瞬のうちに、ラディヤは叫ぶ。
「キノココ、きのこのほうしです!」
キノココは頭上から苔のような色の粉をばら撒きだした。粉は風に乗り、エレブーにまで到達。すると、エレブーは膝をつき、しまいには地面に伏していびきをかき始めた。
「まあ、予想通りの展開だな。さて、これからどうする?」
エレブーは寝た。しかし向こうに決定力は無い。キノココと言えば、どくどくだまを持たせて特性のポイズンヒールを発動し、みがわりを利用して戦う無限戦術だ。それは先程も述べたが、キノココに変化は無い。こりゃ手ぶらか。なら待つか。
「もちろん考えてあります。やどりぎのタネ!」
そうこうするうちに、キノココが仕掛けてきた。またしても頭のてっぺんから種を出し、無抵抗なエレブーに発射。種は瞬く間に発芽し、エレブーの左腕に絡みつく。
「……ほう、それは悪手だな。起きなエレブー、ボルトチェンジだ」
俺は眠っているエレブーに指示を送った。幸いにもエレブーは目覚めた。それから電気をまとってキノココに体当たりをし、すぐさまボールに戻る。あんまり悠長にやってたら、簡単に交代されるってのが良く分かるだろうな。
「隙あり、みがわりです!」
もちろん、彼女もそれは理解しているようだ。俺が次のボールを投げると同時に、キノココは人形を額に作り出した。一方俺は、こいつを2番手に投入。それを見て、ベンチのイスムカが声を上げる。
「あれは、フォレトスか!」
「ご名答だ、イスムカ。フォレトス、むしくい攻撃」
フォレトスは速かった。回転しながらキノココに接近し、鋼鉄の殻で噛みついた。キノココはタネばくだんで抵抗するも、かすり傷にもなりゃしねえ。
「ああっ、みがわりが……」
「ついでにもう1発、とどめだ」
動揺するラディヤを尻目に、もう1度むしくいをお見舞いした。エレブーの攻撃とみがわりで消耗したキノココを倒すには、十分すぎる攻撃だった。キノココは気絶し、その場に転がる。
「キノココ!」
「緒戦は俺の勝ちだな。次はどっちが勝負するんだ?」
俺はベンチの2人に問いかけた。これを受け、威勢よく動いたのはターリブンだ。
「ふふふ、ここはオイラに任せるでマス。全部やっつけるでマスよ」
「そいつぁ、大した自信だ。ならば早く出しな」
「わかったでマス。ハスボー、出陣でマス!」
ターリブンは腕に力を込めてボールを投げ込んだ。出てきたのは、頭に平たく大きな葉っぱを持つポケモン、ハスボーだ。
「ハスボー?」
俺は不意を突かれた気分だった。ハスボーは水、草タイプ。水タイプの技ならフォレトスに通るが、こちらは虫タイプだぞ。もしや……。
「いくでマス、懐刀めざめるパワー!」
「……フォレトス、むしくいだ」
思った通りだ。ハスボーは体から力を放出しようとした。だが、ハスボー程度には抜かれねえよ。なにしろこのフォレトスは、ぎりぎりまで速く動けるように育てなおしたんだからな!
フォレトスはハスボーの攻撃を避け、またしても殻で食らいついた。そして、ハスボーもキノココと同じ末路をたどった。ミイラ取りがミイラになるってところか。
「や、やられたでマスー!」
ターリブンは地面を踏みつけた。その悔しさをぶつけてほしいものだな、今後の訓練に。
「やれやれ、まだまだ読みが甘いな。わざわざ弱点の相手に出したら、疑われて当然だ。では、最後はイスムカの番だぞ」
「は、はい。くそー、こうなりゃやけくそだ。トゲピー、頼む!」
さあ、ターリブンも退けた。残るはイスムカただ1人。イスムカは明らかに緊張している。表情が強張っているからな。そんな彼が勝負を託したのは、まだよちよち歩きのトゲピーだった。こいつぁ、面食らったぜ。
「トゲピー……だと? サファリにこんなポケモンいたか?」
「いませんよ。このトゲピーは、家にいるトゲキッスが持ってたタマゴから生まれたんです」
「そういうことか。ま、いるならなんだって構わん。フォレトス、じしん攻撃」
俺はすぐさま勝負に出た。フォレトスは軽く飛び上がると、大地に全力でタックル。そこからトゲピー目がけて地割れが起こった。その衝撃でトゲピーは転ぶ。もっとも、この程度で沈む程やわな耐久でないことは分かっている。それはイスムカも同じなようで、彼は緊張しながらも声に力を込めた。
「負けるなトゲピー、だいもんじだ!」
トゲピーは、イスムカの期待に応えんとばかりに両手を前に突き出し、口から火の玉を発射。火の玉はすぐに大の字となり、フォレトスに襲いかかる。フォレトスはしばし火だるまとなったが、なんとかしのいだ。俺は冷や汗を滴らせながらも胸を張る。
「ぐ、だいもんじたあ派手にやってくれるじゃねえか。だが残念、さすがのフォレトスもこの程度の攻撃は……こ、これは!」
俺はうなった。なぜなら、耐えたはずのフォレトスが飴玉のように転がってしまったからだ。まさか、この俺が素人に不覚を取ろうとは……。
「フォレトスが倒れています! トゲピーの勝ちですわ!」
「ふうー、危なかった。特性『てんのめぐみ』で火傷にできなかったら負けてました」
イスムカは額の汗を拭った。ま、こんなこともあるよな。気にしても仕方ない。俺は次のボールを懐から取り出し、こう言うのであった。
「……ふん、運には恵まれているようだな。それが吉と出るか凶と出るか、見物だぜ。さあて、気を抜くなよ。勝負はまだまだこれからだ」
・次回予告
今日は久方ぶりの休日だ。だが、ただ休むのは大層愚か故に立ち読みでもすることにした。そのつもりだったのだが……。次回、第24話「休日なんて無かった」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.89
今日は久々の対戦回。ダメージ計算は全員レベル50の6V。ただしハスボーはめざぱの都合上攻撃特攻素早がU。キノココは陽気無振り、エレブーはせっかち無振り、フォレトスは陽気攻撃素早252振り、ハスボーは控えめ無振り、トゲピーは図太い無振り。キノココはエレブーの10万ボルトとボルトチェンジを確定で耐えます。しかしむしくいにはやられます。ハスボーも確定1発。一方トゲピーの大文字はフォレトスでもタネばくだんのダメージ込みで耐えられるものの、火傷ダメージ込みだとギリギリ確定1発にできます。
あつあ通信vol.89、編者あつあつおでん