「なるほど、時にはベンチから指示を出すというわけか」
「ええ、そうなんですじゃ。選手は血気盛んな者ばかりだから、わしら年寄りが遠くから状況を見ることも必要なのです」
2月22日の月曜日、午後5時頃。俺は部活の指導をしながら、ファイターズの監督と話をしていた。ファイターズ側は既に今日の練習を切り上げ、残った選手の何人かが部員達の面倒を見てくれている。だから俺は監督、テンプル氏からノウハウを聞いているというわけだ。
にしても、指示をするってのは面白いやり方だな。俺は1人のバトル以外を全く知らないから、そのノリで指導をするところだった。となると次は、これをどうやるかが問題だ。
「指示を下す、それは有効だな。しかし、当然相手に感づかれる可能性もあるわけだよな」
「ええ、そりゃもちろん。そこで役に立つのがサインですじゃ」
「サイン?」
一瞬三角形が頭に浮かんだが、さすがに違うよな。俺は監督の話に耳を傾ける。
「口にしなくとも、こちらの意図を伝える手段はいくらでもありますわい。いわゆるボデーラングエジというやつものが、主に使われますぞ」
「ボディーランゲージのことか。……ん、例えばポケモンを媒介に意思疎通を図ることはできないのか」
「それもできますじゃ。ただし、試合で使えるポケモンは諸々含めて6匹まで。戦力を割いてまで伝達に使おうとは思う者はそういませんぞ」
テンプル氏は懐からルールブックを取り出し、ある部分を指差した。なになに、「いかなる理由であれ、試合中に使用できるポケモンは6匹までである。また、バトルで使用したポケモンを他の役割に使用することはできない。その逆も然りである」か。ふむふむ、中々厳格だな。まあ、どんなポケモンが何をしたかなど、今時調べればすぐ分かる。ルールとしては生きているようだ。
「そんなルールがあるのか。じゃあ普段はどうするんだ?」
「それはですな、例えば……ホイッ!」
急に声を張り上げたと思ったら、監督は全身を使って動きだした。
「ヤッタッタ! ヤッタッタ! ヤッタッターノッホオーイホイッ! ……このような形が我がチームのサインですぞ」
「あ、ああ。なるほど、こりゃ中々……熱血だな」
俺は適当に返事をした。こりゃあれだ、盆踊りみたいなフォームだったな。あんなの見せられたら、敵味方共に集中できねえに違いない。
「そうでしょう。テンサイ殿も取り入れると良いですぞ。やり方は様々ですが、多くの学校がやっていますからな」
「そうだな、是非そうさせてもらおう。貴重な提言、感謝します」
俺は監督に一礼をしながらもこう思うのであった。……さすがに盆踊りはやらないがな。
・次回予告
短い間だったが、遂にキャンプの引き上げの時がやってきた。この1ヶ月でどれほど変わったか、ちょっとポケモン見せてみな。む、これは進化か……。次回、第36話「成長の跡」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.101
よくよく考えたら、口頭で指示を出したら相手に簡単に対応されてしまいます。ゲームとしたらそれで良いのですが、現実的には無益な行動です。他のスポーツではその辺どうなのでしょうか。
あつあ通信vol.101、編者あつあつおでん