「それでは授業を始める。起立、礼!」
10月8日の木曜日、1時間目。いつも通り授業が始まった。いや、必ずしもいつも通りではないな。生徒達はいつも以上に顔がやつれている。中には涙をまぶたに湛えている奴も。
「……いつも思うんだが、挨拶くらいきっちりやろうぜ。ま、今日はんなことどうでも良い。言っても聞かないだろうからな」
そう、今日は試験明け1回目の授業だ。俺はあまり共感できないが、落ち着いてはいられないようだ。妙にくたびれているのもそのせいか。よし、待たせるのもあれだからな。一思いにやってやるか。
「早速だがテストの返却を行う。出席番号順に取りに来るように。それから、受け取る時は両手でな。それが礼儀と言うもんだ」
俺がこう言うと、皆一斉に列をなした。ある生徒は答案を隠し、またある生徒は自信満々な表情をみるみる崩していく。
「おお、辛うじて赤点を免れたでマス!」
「え、なんだって! 僕は赤点なのにさ……」
……ターリブン、お前さんとイスムカは1点しか変わらねえぞ。だが、よく3割近くも取れたと言っておいた。てっきり1桁かと思ったからな。
一通り済み、生徒は席に着いた。皆、答案の点数が書かれた部分を折っている。隠したところで学年毎に掲示されるんだから、意味無いのにな。
「さて、わめくのは授業後にしてもらうとする。まずは講評をさせてもらおう」
俺があちこちにガンを飛ばすと、たちどころに生徒はおとなしくなった。それを確認し、俺はゆっくり口を開く。
「結論から言えば、お前さん達の不勉強さが良く分かるものだった。学年平均が28.5点、クラス平均に至っては21.1点の体たらく。ちゃんと、赤点を回避できるように作ったんだがな」
「有り得ないでマス……どう考えても殺しにかかってたでマス」
「それを勉強不足と言うんだ。全部教科書に載ってたぜ」
俺は軽くあしらった。証明問題の出来が特に悪かったのが、一夜漬けで臨んだ良い証拠になるんだよな。ま、落としてばかりでは逃げ道が無い。明るい話題も撒いておくか。
「もっとも、進学クラスもここと大差無い。これは裏を返せば、進学クラスも大したことない連中だったと言うこった。今、1年生200人は横一線……このチャンスを活かすも殺すもお前さん達次第だな。ま、こんな状況でも満点を取った強者がいることは喜ばしい限りだ」
「だ、誰なんですかそれは?」
お、イスムカが食いついたな。生徒達もにわかに騒がしくなってきた。俺は指揮者の如く両腕を上げ、これを鎮めた。
「誰か? イスムカ、お前さんも良く知る人物だ。まあ、許可も取ってるし大丈夫だろ。今回満点を取ったのは進学クラスのラディヤ、ただ1人だ」
俺が彼女の名を口にすると、生徒達は驚嘆の声を上げた。一方、一部の奴らは諦めたかのようにため息をつく。俺は構わず話を続ける。
「そもそも、半分に到達したのは彼女だけだった。……これだけ見れば、勉学は才能でもって決まるように思える結果だ。だが、それは違う。今回の問題はいずれも教科書に根差したものだから、ちゃんとやっとけば半分は余裕だったはずなのさ。しかし、テスト前にあれ程言ったにもかかわらず、お前さん達は参考書に走って勉強した気になった。その結果がこれだ……もっと基本を丁寧に押さえるんだな。それと、毎日復習しろよ。毎日10分の継続学習と1日だけ10時間やるのでは、前者の方が圧倒的に強い。楽だしな。じゃ、そろそろ解説に入る。各自、ペンを持って備えるように」
俺はチョークを持ち、黒板と向かい合った。生徒達がペンを持つ音が止むのを見計らい、さっさと書き始めるのであった。
・おまけ テスト解答
問1: △ABCとそれに外接する円Oについて、半径をR、BC=a、CA=b、AB=cとする。 (i)0<∠A<90°である時 BD=2Rとなるような点Dを円周上にとる。この時、円周角の定理より ∠BCD=90°、∠D=∠Aだから、 sinD=sinA=a/2R これを変形すると、a/sinA=2R 他の角でも同様である。 (ii)∠A=90°の時、 sinA=1、a=2Rだから a/sinA=2R 他の角でも同様である。 (iii)90°<∠A<180°の時、BD=2Rとなるような点Dを円周上にとる。この時、∠Dは∠Aの対角だから ∠D=180°−∠A よって、sinD=sinA=a/2Rだから a/sinA=2R 他の角でも同様である。
問2:△ABCについて、BC=a、CA=b、AB=cとする。また、AからBCに垂線を下ろし、交点をHとする。 (i)∠Bが鋭角の時 AH=c*sinB BH=c*cosB CH=BC−BH=a−c*cosB 三平方の定理より、 b^2=(a−c*cosB)^2+(c*sinB)^2=a^2+c^2 −2ac*cosB (ii)∠Bが直角の時、(i)より b^2=(a−c*cos90°)^2+(c*sin90°)^2=a^2+c^2−2ac*cos90°=a^2+c^2 (iii)∠Bが鈍角の時 AH=c*sin(180°−∠B)=c*sinB BH=c*cos(180°−∠B)=−c*cosB CH=BH+BC=−c*cosB+a 三平方の定理より b^2=(c*sinB)^2+(−c*cosB+a)^2=a^2+c^2−2ac*cosB 問3:17個の玉から8個を選ぶのは 17C8=24310通り これを円になるように並べるからその組み合わせは (8−1)!=5040通り ゆえに、求める組み合わせは 24310*5040=122522400通りである。
*別解 円順列はぐるぐる回すと同じものになる組み合わせがあり、玉を8個使う今回は同じものが8通りできる。ゆえに、 (17P8)/8=122522400通りである。
問4:(1)3C2*(3/11)2*(8/11)=216/1331
(2)1-(3/11)4=1-(81/14641)=14560/14641
(3)取り出す回数が1回の期待値は3/11回である。 取り出す回数が2回の期待値は(9/121)*2+(48/121)*1=66/121=6/11である。 3回の期待値は(27/1331)*3+(216/1331)*2+(576/1331)=9/11 4回の期待値は(81/14641)*4+(864/14641)*3+(3456/14641)*2+(6144 /14641)=12/11 よって、赤い玉を取り出す期待値が1回をこえるには最低4回取り出せば よい。
問5:(i)左の図において、円周角より ∠BAC=∠BDC ∠ACD=∠ABD 二角相等で △ACP∽△DBP よって PA:PC=PD:PB ゆえに PA・PB=PC・PD (ii)図において、円に内接する四角形の内対角より、 ∠PAC=∠PDB ∠PCA=∠PBD 二角相等で △PAC∽△PDB よって PA:PC=PD:PB ゆえに PA・PB=PC・PD (iii)図において、接弦定理より、 ∠PTA=∠PBT また、共通の角で ∠TPA=∠BPT 二角相等で △TPA∽△BPT よって PT:PA=PB:PT ゆえに PT^2=PA・PB
問6:(1) ┏┳┳┳┳┳┳D ┣╋╋╋╋╋╋┫ ┣╋╋╋╋╋B2┫ ┣╋╋╋╋╋╋┫ ┣╋B1╋╋╋╋┫ ┣╋╋╋╋╋╋┫ A┻┻┻┻┻┻┛
図がこのような形であるとした時、全ての経路は 13!/6!7!=1716通り また、南西のBをB1、北東のBをB2とすると、両方を通る経路は (4!/2!2!)*(6!/2!4!)*(3!/2!1!)=270通り
┏┳┳┳┳┳┳D ┣╋╋╋╋╋╋┫ ┣╋╋┻┻┻B2┫ ┣╋┫ ┣┫ ┣╋B1┳┳┳╋┫ ┣╋╋╋╋╋╋┫ A┻┻┻┻┻┻┛ 元の図において、両方を通る経路は (4!/2!2!)*2*(3!/2!1!)=36通り よって、元の図において全ての経路は 1716−(270−36)=1476通り また、B1だけを通る経路は (4!/2!2!)*(7!/2!5!+5!/1!4!)−36=120通り B2だけを通る経路は (8!/2!6!+6!/2!4!)*(3!/2!1!)−36=93通り ゆえに、求める経路は 1476−(36+120+93)=1227通りである。 (2)(1)より、Bを1回通る経路は 120+93=213通り また、B1、B2の両方を通るのは36通りである。 全体が1227通りだから、それぞれの経路を通る確率は 213/1227、36/1227 よって、Bを通る回数の期待値は (213/1227)*1+(36/1227)*2=285/1227=95/409である。
問7: 円の中心をO、それに内接する四角形との交点をA、B、C、Dとする。 (1)円Oに内接する△ABCにおいて (i)ACが中心Oを通る時、△OBCは二等辺三角形だから ∠OBC=∠OCB また、∠AOBは∠COBの外角だから、 ∠AOB=∠OBC+∠OCB=2∠OCB よって∠OCB=1/2∠AOB (ii)どの辺もOを通らない時、CとOを通る直線を引き、C以外の円との交点をEとする。 △CAE、△CBEはともにOを通る三角形だから、(i)より ∠ACE=1/2∠AOE、∠BCE=1/2∠BOEである。 ∠ACB=∠ACE+∠BCEだから ∠ACB=1/2(∠AOE+∠BOE)=1/2∠AOB (i)、(ii)より、同じ弧の円周角は中心角の半分に等しい。
(2)∠BADは∠BODの円周角だから、 ∠BAD=1/2∠BOD また、∠BODの外角は360°−∠BODである。 この時、∠BCDは∠BODの外角の円周角だから ∠BCD=1/2(360°−∠BOD)=180°−1/2∠BOD ∠BADと∠BCDは対角であり、 ∠BAD+∠BCD=180° ゆえに、円に内接する四角形の対角の和は180°である。
問8:(1)PとQの中心をそれぞれp、qとすると、 p+q=13>12 よって、PとQは異なる2点で交わる。
(2)pから接線に平行な直線を引き、qSとの交点をXとする。この時四角形pXSRは長方形だから、 pX=RSである。 また、XS=pR=6より、qX=1 よって、pX>0だから、三平方の定理より pX=√(144−1)=√143 ゆえに、RS=√143である。
(3)(2)より、pq=rだから RS=√(r^2−1)である。
・次回予告
読書の秋と言われる季節になった。そんなことをしきりに叫ぶ奴に限って大して読んでない気がするが、まあ良い。たまには知識を蓄える時間が必要だからな、イスムカ達と何か読んでみるか。次回、第18話「知識の山」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.83
この連載を始めた当初はここで話すネタに困りがちでした。今は少し楽になりましたが。前作はあれでも途中から始めたので、貯まったネタで話をつないでいたのです。
さて、皆さんは今回のテストで何問解けたでしょうか。証明問題はやや手強いですが、全体的に基礎的な事項の定着を計る構成としました。格子状の道と期待値なんかは、まさにその典型的な例ですね。複合問題や証明問題を増やした分、ネタ切れで後半が適当だったのですが、そこにまだまだ力不足を感じました。次回はより完成度を上げるので、是非挑戦してみてください。
あつあ通信vol.83、編者あつあつおでん
[ 891.pdf (283kB) ]
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