12月14日の月曜日、朝から大風が吹いている。沿岸部だから雪は降らないが、着流し1枚の身にはこたえるぜ。まあ、そんなことはどうでもいい。俺はいつものように教室に入り、授業を始めた。
「さて、これからテスト返しをする。出席番号順に並ぶように」
俺が指示すると、生徒達は1人ずつ結果を受け取った。ある者は嘆き、またある者は予想外の内容に目を丸くする。どちらにしろ、喜ぶ奴は皆無だ。それはイスムカやターリブンも同じであった。
「ああ、赤点でマスぅっ!」
「ぼ、僕も赤点なのか……」
「静かにしやがれ、いちいちわめくな。それがお前さん達の実力だ」
俺は、教室の隅々まで届く声で生徒を静めた。果たして効果があったのか、彼らは力なく席に座り込む。やれやれ、最初からそうしてろってんだ。これで講評に入れる。
「さて、今回は平均点が上がると思ったのだが、前回と大差ない25.4点だった。言っておくが、今回は特別易しくしてある。難しすぎると人のせいにばかりする輩がいるが、これで分かっただろう? 結果が出ないのは単なる実力不足だってことが」
「それでもこれは難しすぎるでマスよ!」
おや。ターリブンめ、言うようになったな。赤点が何を偉そうに開き直ってやがる。こういう時は、徹底的に教えておいた方が良いだろう。
「ほう。ではターリブン、どの問題が教科書のどこに出たか覚えてないみたいだな。確か授業でやったはずなんだが。嘘だと思うならノートを探しな」
「……あ、あったでマス」
ターリブンはノートをめくり、まさにテストと同じ問題を見つけた。……ノートの中身がラディヤのそれとそっくりだが、この点については黙っておいてやろう。
「そら見ろ。ついでに、反論される前に言っといてやる。最後の問題は確率と三角形の複合問題だが、サイコロを振る回数を2回に留める等の措置を取ってい
る。しかも複合と言いながら、単に三角形の問題で導いた値を確率の問題で使っているだけだ。問題を細かく分ければ単純な計算の寄せ集めなのだから、難しくもなんともないのさ。授業でやった問題や単純な計算問題すらできないで教師を非難するなんざ……百年早いぜ若造共」
「う、やられたでマスー!」
決まったな。勝負はいとも簡単に終わった。燃え尽きたターリブンをよそに、俺は皮肉に満ちた声で他クラスの状況を説明する。
「まあ、他も大したことがないのがせめてもの救いだな。そんな中でも進学クラスのラディヤはまたしても満点だった。他の教科の先生にも聞いたが、全体的に……満点らしいな。同い年で部活もやってるのにこれだけの差が出るのは、才能なんてもののせいじゃない。今回悪かった奴は自らの怠慢を反省するこった」
ひとしきり話し終えると、教室からは通夜の席みたいに音が消えていた。ああ、こりゃやりやすいぜ。次からもこんなやり方でいくかね。まあ、今はそれよりも解説だ。俺はチョークを手に持つと、こう指示するのであった。
「じゃ、解説始めるか。しっかりついてこいよ。今年の疑問は今年のうちに、だ」
・1学年2学期末試験、解答
問1(30点):以下の問に答えよ。(各5点)
(1)5/54
(2)「X^2<1ならばX<1」
(3)6√6
(4)4回
(5)45゜
(6)4πr^3/3
問2(10点):
√3が有理数であるとする。有理数は既約分数a/bで表される。
よって√3b=aだから
3b^2=a^2
a^2が3の倍数なのはこれより明らかである。さらに、√3>0、a>0より、a=3p(pは自然数)と表すことができる。これを代入すると
3b^2=9p^2だから
b^2=3p^2となる。
a^2が3の倍数なのはこれより明らかである。さらに、√3>0、b>0より、b=3q(qは自然数)と表すことができる。これを代入すると
a/b=3p/3q
これより、a/bは約分できるとわかる。ところが、a/bは既約分数であるから、これは矛盾する。
ゆえに、√3は無理数である。
問3(15点):
(1)
樹形図を書くと、1回のゲームで勝つ確率は135/216=5/8となる。これを2回繰り返すのだから、求める確率は
(5/8)^2=25/64である。
(2)
このゲームを1回やった時、勝てない確率は(1)より3/8である。
よって、期待値は
(5/8)×1000+(3/8)×(−100)=587.5円
1回につき500円を払うから、期待値で見ればプレイヤーの特になる。
問4(15点):
(1)
pの否定p~はm≦kかつn≦k、すなわち(ハ)である。
(2)
(i)
k=1とする。この時
p:m>1またはn>1
q:mn>1
だから、mとnが自然数より、p→qは真であり、q→pも真である。
よって、pはqであるための必要十分条件(チ)である。
(ii)
k=2とする。この時
p:m>2またはn>2
q:mn>4
r:mn>2
だから、mとnが自然数より、p→rは真であり、r→pも真である。
よって、pはrであるための必要十分条件(チ)である。
また、p→qは偽であり(反例:m=3、n=1)、q→pは真である。
よって、pはqの必要条件(リ)である。
問5(15点):
(1)
四角形ABCDは円に内接するから、∠ACD=180゜−∠ABCだから
cos∠ACD=−cos∠ABCとなる。
余弦定理より、
AC^2=25−24cos∠ABC=16+DA^2+8DAcos∠ABC
また、cos∠ABC=9+16−37/24=−1/2だから、
AC^2=25+12=37=16+DA^2−4DA
DA^2−4DA−21=0
これを解くと、DA=7、−3
DA>0より、DA=7
(2)
△ABC=3×4×1/2×sin∠ABC=6×√3/2=3√3
△ADC=7×4×1/2×sin∠ADC=14×sin∠ABC=7√3
よって、△ABC:△ADC=3:7となる。
問6(15点):
(1)
AB=4、BC=6となるのは、ABを1回、BCを1回伸ばしたときである。
ABを伸ばす確率は2/3、BCを伸ばす確率は1/3であるから、求める確率は
2×(2/3)×(1/3)=4/9
(2)
∠ABC=60°だから、求める面積は
4×6×1/2×sin∠ABC60°=12×√3/2=6√3
(3)
2回振った時、ABを1回とBCを1回、ABを2回またはBCを2回伸ばすことになる。これらが出る確率はそれぞれ4/9、4/9、1/9で、この時CAの長さは余弦定理よりそれぞれ√37、2√7、√91である。
ゆえに、求める期待値は
√37×4/9+2√7×4/9+√91×1/9=4√37+8√7+√91/9となる。
・次回予告
長かった授業期間が一段落つき、冬休みに入った。もう年末だから大掃除をしねえとな。そうして部屋中を掘り返すと、あるものが発見されるのであった。この写真は……。次回、第28話「自らの遺影を見る」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.93
前回のテスト回でもしつこく書きましたが、テンサイさんの教育方針は全くぶれませんね。こういうのは基本ながら、ないがしろにされている気がします。何度でもトライして、成長してほしいものです。
あつあ通信vol.93、編者あつあつおでん