「この1ヶ月、実に有意義な練習ができましたぞ。今年は優勝できるかもしれませんな」
「それは良かった。我々タンバ学園一同も、応援させてもらいますよ」
2月28日の日曜日、朝。さすがにこの時期になると寒いとは思わなくなる。風も南のものが多くなり、道端にはどこからかハネッコが舞ってきている。冬の終わりは近い。
さて、今日は日曜日だが俺は生徒達と学校に来ている。キャンプに来ていたファイターズの撤収に立ち会っているというわけだ。シジマ校長とテンプル監督のおべんちゃらを聞いてから選手を見送る予定だが、ここで流れが変わってきた。きっかけは監督である。
「ありがとうございますじゃ。して、子供達はどれくらい育ちましたかの?」
「子供達とは、部員のことですか?」
「それですじゃ。『教えることは学ぶこと』という金言があります。これは逆に言えば、子供達の育ち具合は自らの成長を確認する指標になるのですぞ」
「なるほど、そういうことですか。では、その点についてはテンサイに話させましょう」
校長は不意に話を振った。おいおい、いきなりかよ。こう言ってはなんだが、あいつらはあまり成長していないと思うんだよな。まあ、お互いの顔に泥を塗るわけにもいかねえ。上手いこと乗り切るか。
「分かりました。おいお前さん達、こっち来てポケモンを出しな」
俺は生徒の中から3人を呼び出した。いつもの面々は俺達の近くに歩み寄り、ボールを投げる。イスムカのトゲピー、ラディヤのキノココ、ターリブンのメタグロス、ボーマンダ、ハスボーの揃い踏みだ。
「さて、ここには5匹のポケモンがいます。内訳はメタグロス、ボーマンダ、ハスボー、キノココ、トゲピー。この中で1匹、今から進化します」
俺が宣言をした直後、ハスボーの体が光に包まれ始めた。周囲の歓声の中、ハスボーはその姿を著しく変化させ、光は収まった。ほんのり赤く染まった口元と爪、子供と間違えそうな直立二足歩行が特徴的である。これはようきポケモンのハスブレロだ。
「進化したのはハスボーでした。では次に、ある技を見せましょう。キノココ、ちょっとあの技を頼むぜ」
俺はキノココにジェスチャーを送った。少し考えて、キノココはトゲピーにわずかながらの粉をふりかける。トゲピーはこの不意うちに飛び跳ねたが、すぐに寝息をたてて眠ってしまった。よし、上手く指示が通ったな。
「今使ったのはキノコのほうし。この技を使えるのは強いキノココのはず。つまり、成長した証拠に違いありません」
キノココは以前からこの技を使えたが、その点について触れてはいけない。突っ込まれる前に話を終了に持ち込むとしよう。
「このように、皆さんのご指導の甲斐あり私達は大きくなれました。感謝の言葉もありませんが、この場を借りてお礼申し上げます」
俺は深々と頭を下げた。個人的な意見ではあるが、今年の成績はだめだろうな。これからチームの主力になろうって奴が素人の俺に完敗するのだからな。まあ、そんなことはおくびにも出さないが。
しかしながら、どうやらあちらさん達は俺の言葉に燃えてきたようだ。監督は胸を叩き、こう叫ぶのであった。
「うむ! それなら安心ですじゃ。皆の衆、今季はやりますぞ、覇権奪回!」
「……期待していますよ」
ま、たまには新聞で結果を見てみるとするか。
・次回予告
さて、色々あった2月も終わったわけだが……あれを忘れてるみたいだな。色恋沙汰にうつつを抜かし、部活に精を出したのは結構。しかし、これだけはやってもらわねえとな。次回、第37話「年度末の試練」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.102
今回は極端に短かったです。あんまり大事な話ではないのでぱっぱと進めました。やはりメリハリつけた方が、書く側からすれば楽できます。
あつあ通信vol.101、編者あつあつおでん