さて。試験は前日に終了し、授業のない先生方は採点に追われている。俺の担当である数学は初日からやったから、既に結果は出た。それをこれから返すわけだが……相も変わらず騒がしい奴らだ。
「ああ……オイラ今回はできた気がしないでマスよ」
「試験前にあれだけ自信あったのによく言うよ。僕も相変わらず赤点が怖いけど」
やれやれだぜ。毎度のごとく、俺は2人をたしなめた。
「イスムカ、ターリブン、静かにしな。ではいよいよ返すが、今回はこのクラスで一番だった奴の答案を先に渡そう」
俺の発言に、クラス中はどよめいた。普通は出席番号順だが、今回は中々面白い事態になったからな。勝者を称える意味も込めてこういう手法を取ってみたのだ。
「そいつは俺が希望する最低ライン、60点を大きく下回る。だが成長したのは間違いない。その証拠に、基礎的な部分の得点率が大幅に改善されていた」
俺はイスムカとターリブンの目の前に立った。この2人は隣同士の席なのだ。周囲が沈黙し、誰に最初に手渡されるかを注視している。
「今回のトップ、それはターリブンだ。皆、拍手!」
俺は解答用紙を力強くターリブンに返却した。その瞬間、拍手ではなく感嘆の声が響き渡った。そりゃそうだろうな、今まで赤点の常連だったのだから。もっとも、当人が一番意外に思っているようだが。
「お、オイラでマスか! おかしいでマス、これ49点しかないでマスよ!」
「そうだ、ターリブンの結果は49点だ。逆に言えば、残り29人全員はこれ以下だな。もっと正確に言えば、40点以上はターリブンだけだが」
「えっ、それじゃもしかして今回は……」
イスムカはいち早く気付いたのか、声をあげた。
「鋭いな、イスムカ。予想通り、今回の赤点の人数は末恐ろしいレベルだった。今までは30点代後半が平均だったが、今や言いたくもねえ。その中でターリブンが抜け出したわけだ、これを誉めないわけにはいかまい」
「……それは嬉しいでマスが、なんだか物足りないでマス。一番になるならもっと良い結果を出したかったでマスよ」
ほう、ターリブンらしくない発言だな。少しは勉学に執着が生まれたか。
「ふっ、そう言えるようになったなら上出来だ。なら次は、学年トップを狙うこった」
「そ、そうでマスね。オイラ、勉強でも一番になるでマス! ……あれ、学年トップは確か……」
「さあ、さっさと解説始めるぞ。全員ペンを持って構えろ」
ターリブンが余計なことを考える前に、俺は説明を始めるのであった。今は上を目指すだけ、誰がトップなのかなど気にする必要がないからな。
・次回予告
さて、春休みがやってきた。いつものように鍛練をこなすつもりだったが、あることを忘れていたな。これからのためにも話を聞きに行くか。次回、第39話「獄中の叫び」。俺の明日は俺が決める。
・1学年末試験、解答
1:以下の問いに答えよ(各5点)。
(1)Q=a+5、R=0
(2)2x^3-7x^2+2x+3
(3)3+x/3x
(4)1/1−x
(5)x=-1、y=-2
(6)a=-1、b=1、c=2
(7)x=-2、y=3
(8)4√3
2:
a>0、b>0の時、√a>0、√b>0だから
(√a-√b)^2
=a+b-2√ab≧0
a+b≧2√ab
よってa+b/2≧√ab
また、等号が成り立つのはa=bの時である。
3:
x^4+x^3−x^2+ax+b=(cx^2+dx+e)^2(c、d、eは実数)とおくと、
x^4+x^3−x^2+ax+b=c^2x^4+2cdx^3+(d+2ce)x^2+2dex+e^2となる。
両辺の係数を比較して整理すると、
c=1、d=1/2、e=-3/4、a=-3/4、b=9/16またはc=-1、d=-1/2、e=1/4、a=-1/4、b=1/16
よって、a=-3/4、b=9/16またはa=-1/4、b=1/16
4:
a≧2、b≧2より、
(a-1)(b-1)=ab-a-b+1≧1
よってab≧a+b……1
同様に、c≧2、d≧2より、
cd≧c+d……2
同様に、ab≧4>2、cd≧4>2より、
(ab-1)(cd-1)=abcd-ab-cd+1>1
よってabcd>ab+cd……3
1,2,3より、abcd>a+b+c+d
5:
(1)
(右辺)−(左辺)
=c^2−(a^2+b^2)
=(a+b)^2−(a^2+b^2)
=2ab>0
よって、a^2+b^2<c^2。
(2)
(右辺)^2−(左辺)^2
=(c^3)^2−(a^3+b^3)^2
=(c^2)^3−(a^3+b^3)^2
=(a^2+b^2)^3−(a^3+b^3)^2
=a^2b^2(3a^2-2ab+3b^2)
=a^2b^2{3(a-b/3)^2+8b^2/3}>0
よって、a^3+b^3<c^3。
あつあ通信vol.103
新しいジャンルに進むにつれて徐々に問題が難しくなっていると錯覚する人がよくいますが、よく教科書を読んでください。最初の例題は、手前の文章を読めば誰でも解ける上に解法まで載ってます。最初はこれを真似しながら問題を解くことに集中しましょう。これを繰り返せば上達するはずです。怠けたらどっちみち駄目ですが。
あつあ通信vol.103、編者あつあつおでん