「さて、今日はこれを使っていくぞ」
「これがランダムマッチの施設でマスか……」
4月18日の日曜日、ポケモンセンター。旅で訪れたトレーナーや、地域住民のたまり場として賑わっている。特に、俺達が今いる場所はな。
ランダムマッチ、全国のトレーナーと仮想的に対戦をする施設だ。ポケモンセンターの2階で受け付けている。仕組みはポケモン転送システムの応用だ。トレーナーとポケモンをデータ化し、それをやり取りして戦う。バトルの後は始める前の状態に戻り、経験が残る。全く、俺が開発した技術がこうも発展するとは。俺は半ば感心しながら説明をした。
「今年になってできたそうだ。気軽に参加できるフリーと成績が残るレーティングを選べるが、まずはフリーでやってみな」
「先生はどうなさるのですか?」
「俺はレーティングだ。少しやってみたんだが、フリーはごっこ遊びのレベルなんでな。レーティングも似たような状況だが」
「それは先生が強すぎるからじゃあ……」
イスムカは俺の発言にこう反応した。それにすかさずターリブンが続く。
「間違いないでマスね。少なくともイスムカ君は一生勝てないんじゃないでマスか?」
「それはターリブンも一緒じゃないか」
ったく、いつも元気な野郎共だ。これから勝負の時間だってのによ。
「おい、そろそろ始めるぞ。まずはラディヤからだ」
「はい」
ラディヤは、対戦用の椅子に座り、専用のヘルメットをかぶった。椅子とヘルメットはつながっており、ここからトレーナーのデータを読み取るようだ。ちなみに、椅子の右脇にモンスターボールをセットする穴がある。なお、データ化された世界、すなわち電脳世界は各階のモニターに映る。他のセンターのバトルも映されるから、昼夜を問わず対戦を見られるわけだ。
電脳世界に、データ化されたラディヤがいる。対戦相手もじきに来るだろう。電脳世界と言っても普通の対戦用コートが舞台だ。舞台装置は選べるらしい。そして、外野の俺達も中にいる。俺達以外にも大勢いて、外より活気がある。どうやら、全国のポケモンセンターの2階にいる人間は全員データ化されるみたいだな。正確な表現は無理だが、場を盛り上げるのには良いだろう。
「へえ、こんなかわいい娘が相手かい。嬉しいねえ。あ、オジサンはボルトって名前なんだ。よろしく」
「ラディヤと申します。よろしくお願いします」
いつの間にか対戦相手が到着したようだ。つなぎの男……ボルト……、あまり見たくなかった奴じゃねえか。少なくとも、向こうは俺を覚えている。まあ、電脳世界のやや崩れた姿では断定できまい。俺は、この時ばかりは性能の限界に感謝した。
「オッケー、挨拶も済んだから始めようか。事前の申し込み通り、1匹ずつのシングルでいくよ」
「はい。では……キノココ!」
「さあ仕事だ、ライチュウ!」
んなことを考えているうちに勝負が始まった。ラディヤはキノココ、ボルトはライチュウである。
「ライチュウですね。年季が入ってます」
ラディヤは手始めにライチュウの観察に入った。うむ、教えたことができているな。ライチュウはピカチュウの進化系で、能力はごくありふれたものである。ただし、ピカチュウによる珍しい技の使用報告が多いため、ライチュウ自身も恩恵に預かることができる。電気タイプながらくさむすびを使え、補助技や大技も揃う。最近ではひらいしんの特性を得たらしい。丸まった耳に触り心地良さそうな足、稲妻のような尻尾の先がトレードマークだ。
「キノココかあ。こりゃ油断できないな。まずはみがわりだ」
「タネマシンガンです!」
勝負の歯車が回りだした。先手はライチュウ、右手に小さな人形を作った。一方キノココは口から拳ほどのタネを連射する。タネは2回当たり、みがわり人形は木っ端微塵である。
「しまった、思わぬ火力だぞ。ならば一気に、わるだくみだ!」
「キノココ、きあいパンチ!」
ライチュウは悠長に戦うのを諦めたのか、いかにも悪者っぽい表情でわるだくみをした。しかし、キノココにとっては好機だ。……力を込め、形容しがたいところから一発叩きこむ。きあいパンチの威力はVジェネレートや爆発技に次ぎ、もろはのずつきやはかいこうせんに並ぶ威力だ。ライチュウとてひとたまりもあるまい。
ところが、ライチュウはまだ倒れない。ほう、運が良いポケモンだ。ま、形勢不利なのに変わりはない。キノココはいまだ無傷だからな。めざめるパワーさえなければ余裕だろう。
「……危ない危ない、皮1枚でつながったよ。さて、倒せるかどうかわかんないけど賭けるしかないね。必殺のかみなりだ!」
ライチュウは一か八か、かみなりを放った。めざめるパワーは無しか。かみなりは、電気のしぶきをあげながらキノココを突き刺す。さすがに半減でも効いてるな。だが、それでも勝利には届かない。
「いいですよキノココ! そのままタネマシンガンでフィニッシュです!」
ラディヤは勝ちを確信した顔だ。キノココは再びタネを打ちつけた。今度はこらえきれず、ライチュウは地に伏した。その瞬間ジャッジが下った。データ化したから的確な判断を出すってわけか。何はともあれ、ラディヤの勝ちだ。
「……かあー、やっぱり削りきれなかったか。ありがとう、良いバトルだったよ」
「こちらこそありがとうございます。緊張感あるバトルを楽しめました」
勝負の後は、どちらからともなく歩み寄って握手をした。ボルトはさりげなくハグをしようとするも、上手くかわされている。彼はラディヤにこう切り出した。
「うんうん。……ところで、真後ろにいるおじさんは知り合いかい? さっきからバトルを眺めていたけど」
「あ、先生のことですね。よろしければお呼びしましょうか?」
「いや、大丈夫だよ……。こんなところで見かけるとはね」
「あの、それはどういう……」
まずいな、完全にばれている。これ以上の長居は無用だ、ずらかるとするか。
「おいラディヤ、そろそろ交代だ。次のバトルの準備をするぞ」
「はい、今すぐ! それではボルト様、お先に失礼しますね」
「ああ。頑張るんだよ、君の先生は天才だからね」
俺はラディヤを呼び、ヘルメットを外させた。そうしてそそくさと撤収するのであった。これは厄介なことになりそうだ。
・次回予告
さて、ボクジョー軒に頼んだ物がやってきた。資金稼ぎはもちろん、戦力の強化にも欠かせないものだ。これで教頭の鼻をあかしてやるぜ。次回、第45話「金の成る木」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.108
今回はレベル50、6V、ライチュウは臆病特攻素早252、キノココ陽気攻撃素早252で計算。ライチュウのみがわりをキノココのタネマシンガン2発で破壊。その後のきあいパンチも耐えます。ライチュウのわるだくみ雷は高乱数で耐えられ、キノココのタネマシンガン2発できっちりとどめ。
ランダムマッチの仕様を考えるのは難しかったですが、某ゲームを参考にした結果こうなりました。矛盾があってもスルーしてください。
あつあ通信vol.108、編者あつあつおでん