悪徳勝法の馬鹿試合
3
「それでは! 試合開始!」
オウがベンチに腰掛け足を組むと同時に、ビシッと右腕を上げた。
「ターイムっ!」
間髪いれずにシオンが叫ぶ。
オウの物凄い煙たそうな顔が見えた。
「ヒメリさん! 先行ゆずってください! お願いします!」
そう懇願すると、シオンは凄まじき速度でひざまずき、額と両手を地べたに押しつけた。
お得意の土下座である。
果たして、向こう側に立つビキニのお姉さんに、今の自分はどう映っているのだろうか。
祈りながらシオンは地面を凝視した。
「んもー! しょーがないなー! 今回だけだぞっ!」
ずっとずっと遠くからヒメリのありがたいお言葉が響いて来た。
まるで駄目な弟をあやすような言葉遣いが、妙に心地よかった。
「ありがとうございます! ヒメリさん!」
顔を上げて御礼を言った。
ポケモンバトルは先に攻撃した方が圧倒的有利に立てる。
しかしシオンは、決して先制攻撃を与えたかったわけではない。
あのカイリューを倒す策を考える時間が欲しかったのだ。
たった今シオンには、最初に攻撃が出来るチャンスが与えられた。
つまりピチカの先手が決定した。
すなわち、ピチカがカイリューへの攻撃を始めない限り、
カイリューはピチカに対して攻撃することが出来ない。
そういう約束を今、ヒメリに誓ってもらったのだった。
シオンはその場であぐらを組み、腕を組み、目をつむって、脳を働かせ始めた。
ヒメリのポケモンはカイリュー。最低でもレベル五十五の力量を誇っている。
対して此方のポケモンは、およそレベル五のピカチュウ。
圧倒的過ぎる実力差を覆さなければならない。
ピチカの使える技は、
でんきショック、なきごえ、しっぽをふる、でんこうせっか、の四つ。
あの巨大ドラゴンを倒すとなったら、ピチカの攻撃技を百発ほど浴びせなければならない。
逆にピチカが攻撃を受けるとなったら、
カイリューがどんなに弱い攻撃技を使ったとしても、間違いなく一撃で葬られてしまう。
大きすぎる無理難題を前にシオンは必死で頭を使った。
敵の攻撃を避け続ける方法は?
ずっと俺のターンなんて状況を実現する方法は?
普通にぶつかり合って勝ち目はあるのか?
脳味噌の中でありとあらゆる戦術が駆け巡った。
浮かんでは消え、浮かんでは消え……シオンは一生懸命だった。
今、必勝法を思いつかなければ敗北からは逃れられない。
それからしばらくする。
「なあシオン君! さっさと始めてくれないかなあ!」
遠方からオウの急かす声が響いた。
「もう少しだけ!」
慌ててシオンは、脳内で作戦をまとめる。
シオンが先攻であり、ヒメリは後攻である。
つまりヒメリが、ピチカが攻撃したことを確認できなければ、
ヒメリはカイリューに攻撃命令が下すことができない。
これを利用しない手は無い。
まず、遠目のヒメリではハッキリ分からないくらいの些細な動きでピチカは『しっぽをふる』を連発する。
そしてカイリューの防御力を極限まで減らしまくる。
次に、ピチカとシオンがまるで会話しているかのように見せかけて、ピチカは『なきごえ』を乱発する。
ただの会話だと勘違いした馬鹿ヒメリは打ってこず、カイリューの攻撃力はさりげなく極限まで減らされる。
それからピチカに電気ショックを撃たせる。
そこで何故か偶然にもカイリューは『まひ』状態となる。
この地点でようやくヒメリが此方の攻撃に気付く。
しかし、そこから奇跡的に二十ターンほど『からだがしびれてうごけない』状態が続いて、
カイリューは未だに何もすることが出来ない。
その隙にピチカは『でんこうせっか』をカイリューの急所(股間とおぼしき部分)に何度も何度もぶちかます。
カイリューが倒れるまでぶちかます。
「……イケる!」
少なくともこの時のシオンには、それがパーフェクトな作戦としか思えなかった。
もしかすると自分は天才なのかもしれない、と思いこみ、緩んだ口元がニヤニヤしていた。
「ピチカ。こっそりと。あいつらに気付かれないくらい、物凄いこっそりと、しっぽをふる」
喉を震えさせずに、ほとんど吐息だけで言葉をつづる。
普通なら思わず聞き返す音量でシオンは囁き、ピチカに役目を伝えた。
――チュー!
ピチカは小さな尻をフリフリ振ると、ギザギザ模様とハート形の尾先がプルプルと震えた。
「おーっと、ピカチュウのしっぽをふるだー! 何故この技を選んだのか! 理解に苦しむー!」
技とらしいほどの馬鹿でかい声が公園中に響き渡る。
『しっぽをふる』にヒメリが気付かなくとも、オウには見抜かれてしまっていたのだ。
当然オウの馬鹿でかい声はヒメリにも伝わる。
ゾッとした。
「やっと技使ってくれた。それじゃあカイリュー、かえんほうしゃ!」
命令と同時に、カイリューは張り裂けんばかりにアゴを開く。
ノドの奥から、灼熱の赤い光が顔をのぞかせた。
「あっ! リアル口内炎だ!」
素っ頓狂な声でぼやいたのはオウだった。
「くそったれぇぃっ!」
シオンが悲鳴をあげた。
カイリューの口から放たれた、深紅の鋭い閃光の瞬き。
肌を焼きつく熱風が吹き荒れ、炎の濁流が槍の如く、ピチカ目掛けて一気に押し迫る。
敗北、が一気に押し迫る。
瞬間、シオンはその場を左に離れる。と同時に、シオンの右腕が動いていた。
グオォオオオヴヴォォオオオフォォオオオオ!!!
燃え盛る地獄の貨物列車が、轟音を立ててシオンの眼前を横切って走る。
苛烈に揺らめく火炎の息吹は、滝を真横にしたみたいに激しい勢いだった。
瞳が焼けるような紅の光景をただ茫然と眺めた。
目の前の空間が丸ごと消し炭になってしまったみたいだった。
カイリューのアギトから公園の隅っこまで、墨のようなワダチが一直線に伸びている。
砂地から煙が湧き、焦げくさい匂いが充満し、乾いた熱さが広がっては散っていく。
あの時左にそれなければ焼け死にしていただろうな、とシオンは冷静に思った。
「ピカチュウはどこ?」
ヒメリのつぶやきが聞こえた。
だだっ広い公園の砂地に、黄色い鼠の姿がどこにも見当たらない。
シオンの目にすらピチカの影をとらえてはいなかった。
「ひょっとして、ピカチュウ消滅しちゃった?」
「いくらなんでも、ありえないよ!」
「じゃあ一体どこに……まさか上! それとも地面の下! まさか私の背後に!」
何かを察した様子のヒメリは、首と体をキョロキョロ振って周囲を見渡す。
半裸のシルエットをくねくね動いて、遠目で見ていると馬鹿みたいで妙に可愛らしかった。
「いないの? それとも未だ何処かに隠れて、息を潜めて狙っているの?」
ヒメリが尋ね、オウは無言で、二人の視線がシオンに集まる。
その期待に答える。
「いますよ。俺のピチカは、ここです」
シオンは手中にあったモンスターボールを二人に突き付けてやった。
沈黙の間が挿す。
きっと驚いて声も出ないのだと思いこみ、シオンは若干の優越感に浸った。
「かわせっ! で攻撃の回避が出来りゃ『みきり』はいらないですよね。
でも俺はピチカが『かえんほうしゃ』に当たらないでいてほしかった。
だから炎が迫った時、ピチカをモンスターボールの中に戻してやった!
命中率100パーセントだったとしても、
この場にいないポケモンを相手に、攻撃を当てる術などないでしょう!」
自慢話を雄弁に振舞うが如く、シオンは己の罪状を述べた。
「たわけ!」
怒鳴り声が走る。
「呆れてものも言えぬわ!」
始めてオウの口調が乱れた。
ベンチの上であぐらをかいた巨漢は、悪鬼の形相でシオンをにらむ。
眉間に深い溝を作り、光る金歯で歯ぎしりしていた。
「まったくもってバカバカしい! とんでもない阿呆ですよ! 君は!」
「な、何がおかしいんですか!」
「君、たった今、ルール違反しましたよ! 反則負けですよ! 勝負は終わりましたよ!
だから、さっさと三千円くださいよ! ほら! ほら! ほらああああああ!」
突然の脅迫的態度への変貌にシオンは思わずひるんだ。
オウの気迫にたじろぎながらも、率直な疑問をぶつける。
「一体、今の何処がルール違反なんですか!」
「ポケモンをボールに戻した! だから反則負け!」
「そんなルール、聴いてません!」
「常識だから言わなかった!」
「じゃあ、ポケモン交代はどうなるんです?
闘うポケモンを別のポケモンと入れ替えるとき一度モンスターボールに戻さなきゃ駄目じゃないですか!」
「攻撃が当たる瞬間にポケモンをボールに戻してたら、
いつまで経ってもバトルが終わらねえだろうが!
こういうのはやっていいタイミングってのが存在してんだよ!」
「そんなもん分かるか!」
「そもそも一対一のバトルじゃねえか! お前はピカチュウ一匹しか持ってないだろ!
交代も糞もあるか!」
ふいにシオンは何も言い返せなくなってしまった。
反論の余地もない程の図星であった。
なんだか言いくるめられてるみたいなのが癪に障ったので、
何か反撃をしようと思い至るも、
特に言い返す言葉が思い浮かばす、
その結果、
シオンは無言でオウの鼻筋をにらみつけていた。
にらみつけるVSにらみつける。
不穏な空気と重たい沈黙が流れる。
にわかにオウの口が開いた。
「次、ピカチュウをボールに戻したら反則負け! いいですね!」
「……わかりましたよ」
ぷいっ、とシオンはオウに背を向けた。
振り向いた視線の先で、ジャングルジムが爆発していた。
キャンプファイヤーの如く、熱く激しく轟々と、ジャングルジムは燃え盛っていた。
先程カイリューが放った『かえんほうしゃ』が直撃したからだ。
この公園にある遊具が屍のように不気味だった理由がようやく分かった気がした。
派手に輝く火柱と、入道雲のような黒煙を眺めて、ふと、シオンの脳裏に考えがよぎる。
あのジャングルジムにカイリューをひきつけて、さっとかわして、
火柱に直撃させたらカイリューを倒せるだろうか。
「おら! ボケっとしてねえで、はよぉポケモン出してくださいよ!」
オウの恐喝がシオンを急かした。
渋々ピチカ入りのボールに手を伸ばす。
「焦るなよ。まったく……」
ぶつくさ言いながら、シオンはモンスターボールを構え、投げつけた。
きっとテレビゲームのボスの倒し方なんかじゃ、多分あのカイリューは倒せない。
いつの間にか、カイリューを討つ術を完全に見失っていた。
鉄球が割れ、光が飛び出し、再び電気鼠が解き放たれる。
呼び出されたピチカは、またしてもカイリューと対峙する羽目となった。
たまったものじゃあないのだろう。
自分が原因でありながらも、シオンは他人事のようにピチカを哀れんだ。
「試合再開!」
「カイリュー、10まんボルト!」
ヒメリの速攻。
カイリューの伸ばした両腕の爪先から、
バチバチ弾ける白い電流が閃いた。
アレがピチカを体をかすめた瞬間、シオンの敗北は確定する。
慌てる間もなく、冷や汗をかく間もなく、急いで次の手を打った。
「ピチカ、下がれ!」
ピチカが後へ飛び退く。
シオンは前へ踏み出す。
ピチカとシオンの立ち位置が入れ替わる。
カイリューの電撃が放たれた。
必死の雷光がシオンに迫る。
「うおっ!」
雷鳴の轟き。
稲光の輝き。
横殴りの落雷。
衝撃の襲撃。
鼓膜はかき乱され、目はくらみ、肉体から感覚がなくなった。
刹那の間に成す術もなく、シオンの五感は激しく揺れる。
全身がじんじん痺れる感覚があった。
体が浮いているような夢心地だった。
頭の中がボーっとしていて気持ちがよい。
そういえば目の前が見えない。
黒でもなく白でもない。色が分からない。
目が働いていない。
何故だろうか。
わからない。
わからないけれども、夢の中で意識がある時のように、今の自分には考える事が出来る。
そう理解した直後、思考することに新鮮さを覚える。
今まで考えることをしていなかったことに気付く。
何故だろうか。
ピ――――――
耳鳴りが聴こえる。
ずっと前から鳴り続けていたらしい。
――チュウ! チュウ!
耳鳴りの中にノイズが混じっている。
そのノイズがピカチュウの鳴き声だと分かる。
ピチカが呼んでいると悟る。
先程まで自分の意識がなかったことを思いだす。
今、何が起きたのか、思い出す。
ピチカを守るためにカイリューの『10まんボルト』を受けた。
だから自分は今きぜつして倒れている。
つまり今、ピチカに命令してやれるトレーナーがいない。
シオンはめをさました。
ヤバい! このままではピチカが危ない! ボケっとして、倒れてる場合じゃない!
動け、動け、動け、動け、動け!
「んんんんあああああっっっ!!!!」
痛みを忘れ、我を忘れ、五感が肉体に戻ってくるよりも早く、シオンは立ち上がっていた。
おぼろげな白の光がシオンの視界に射し込んだ。
さびれた公園を満たす朝焼けの光だと分かった。
体の表面から、弱弱しい痛みが湧き上がってくる。
頭の中がくらくらする。
見る物全てが、蜃気楼のように揺らめいて見える。
まだ体調がはっきりしていないらしい。
「嘘? 生きてる? よみがえった?」
ビキニのお姉さんが驚きの声を上げた。
遠くの場所でヒメリがたたずんでるのが見えた。
――ヴォォオエエエアアア……
アイボリー色のドラゴンが低い声でうなりを上げる。
ヒメリの隣でそびえ立つカイリューが視認できた。
「人間にはね! HPという概念がないからね! ポケモンの技を受けても『ひんし』にはならないよ!」
胡散臭い解説が大声で語られる。
相変わらずオウは、ベンチの上でふんぞり返っていた。
――チュ! チュウ!
シオンの足元から鳴き声が聞こえる。
幼い電気鼠が此方を見上げていた。
「でかしたぞ、ピチカ! よく俺を起こしてくれた!」
シオンは喜びのあまり、ピチカの若干柔らかい全身を舐めるようにしてなでまわした。
ピチカはくすぐったそうに目を細めて、くねくねした。
元気そうな様子を見て、ピチカが無傷なのだと安心した。
「しかし、ヒメリさんもあまいトレーナーだなあ。
俺が倒れている隙に攻撃すれば勝負は終わっていたというのに……」
「あんた、馬鹿じゃないの!」
シオンの独り言に罵声が割って入る。ヒメリだった。
「ねえ何で? 人間がポケモンの攻撃受けるとか馬鹿じゃないの! ふざけてんの?
罪悪感半端ないんだけど! 馬鹿じゃないの? 馬鹿っ!」
興奮気味のヒメリに怒鳴りつけられまくる。
酷い言われようだと思いながらも、必死な態度を前にして、シオンは怒る気になれなかった。
「耐えろ! で耐えてくれれば『まもる』はいりません。
だから俺が盾になってピチカを守った。以上です」
「それ反則だよ!」
オウがぴしゃりと言った。
「違う! 反則じゃない! 俺の天才的タクティクスです!」
「違わない! ただの反則! 天才じゃくて卑怯者!」
「違わなくない! 大体俺、ピチカをボールに戻してないじゃないですか!」
「さっきの反則とは別物! トレーナーがポケモンの闘いに割り込んだ! だから反則!
トレーナーがやっていいのは、ポケモンへの命令だけ!」
「んな話は聞いていない! 勝手にルール追加すんなよ!」
「……ならよぉ! 10まんボルト! もういっぺん! 受けてみっか! あ゛ぁん!」
シオンの反論が止まってしまった。
あのカイリューの攻撃を何度も受けてしまえば、誰でもそのうち死んでしまう。
しかし、ピチカがカイリューの攻撃を食らわば、間違いなく一撃で『ひんし』に陥るだろう。
盾になったら死ぬ。ならなければ負ける。打つ手無しの八方塞だった。
「なら俺はどうしたらいいんだよ……」
「負けを認めたらどうかな!」
「ポケモントレーナーが、そんな真似できるか!」
「でも今、降参すれば、君のピカチュウは傷つかずに済む!」
一瞬だけ戸惑ったが、シオンは断った。
「……俺は降参はしない!」
「どうしてそこまでして闘う!」
「このバトルで負けるようなトレーナーが、ポケモンマスターになれるワケがない!
だからこそ俺達は勝つ!」
「どうやってあのカイリューに勝つつもりだい!」
「それはっ……」
言葉に詰まった。
「インチキでもなんでもいいけど! 勝てる方法があるのかい!」
「あ、あるさ! 勝つ方法くらい!」
「嘘ですね!」
「嘘じゃない!」
嘘だった。
「君が反則を使ったのは、まともに闘えば負けるって認めたからだろ!」
正論を前に、返す言葉が見つからない。
シオンが押し黙る。オウが畳み掛ける。
「知ってるかい! 君のピカチュウはレベル五! ヒメリ君のカイリューはレベル六十八!
どう考えたって勝ち目ないでしょ! 普通に考えてみなよ!」
「そんなことはない!」
たまらず叫び返したが、シオンの本心ではなかった。
二匹の力の差を知って、内心では絶望に打ちのめされていた。
どうして勝負をあきらめないのか、自分でも不思議に思った。
「本当に勝てるんだね! あのカイリューに!」
「もちろんです!」
自信満々に嘘を言い切った。
「タマムシ大学の教授に説明して納得のいってもらえるような、
そんな必勝法を見つけたって断言できるのかい!」
「断言できる!」
即答した。
「……そうかい! わかった! わかったよ!」
オウはシオンからそっぽを向いて、そして叫んだ。
「ヒメリ君! シオン君が何かしでかすよりも早く、ピカチュウを仕留めてほしい!」
「わっかりましたー!」
ひょうきんな声が聞こえ、そこにヒメリがいたことを思い出す。
シオンがオウと言い合いしている間、
ヒメリはカイリューに攻撃を指示せず、ずっと待っていてくれたらしい。
意外と良い人なのかもしれない、と思ってしまいそうになった。
「試合再開!」
ビシッとオウの太い腕が上がった。
「げきりんでもなんでも撃ってこいやあ!」
シオンのちょうはつ。
もう、やけくそだった。
「分かったわ! カイリュー、れいとうビーム!」
長い胴体を倒して、前屈みの態勢をとり、カイリューは思いっ切り口を開いた。
「ピチカ! 逃げろぉ!」
シオンは声を荒げた。
『みきり』が使えない以上、命中率100パーセントの攻撃は避けられない。
だから『にげる』を使った。
カイリューの喉の向こうからカッ、と浅葱色の光線が放たれた。
その輝きが、シオンのまぶたに淡い青色を焼き付ける。
光の直線が宙を走り、あっけなくピチカに触れた瞬間、シオンの中で何かが消えた。
にぎやかだったテレビの電源が切られてしまったかのように、
プツンと、
シオンのめのまえがまっくらになった!
つづく