「ようやく収穫かあ、長かったなほんと」
5月30日の日曜日、朝。俺達はサファリの貸し農地にいた。あちこちに背の高い木々が生い茂り、枝からは様々な香りの木の実がぶら下がっている。全く、どうして実の成る木ってのは成長が早いのかね。そこら辺にあるやつは何年もかかるってのに、高々数か月でこうもでかくなるとは。ま、収穫したら枯れるあたり、バランスは取れているだろうが。
そう、今日は木の実の収穫だ。やや時間がかかったものの、これで直近の資金繰りは楽になる。ついでに、戦術の幅も広がるってもんよ。
「これで私達の活動も不自由することが減るでしょうね」
「だな。じゃ、1つずつ回収していくぜ。そのうち半分はこっちの袋に、もう半分はこの中へ入れるんだ」
「了解でマス。でもなんで分けるでマスか?」
「ま、それは今に分かる」
俺は用意してあった麻袋を広げると、1つずつ中に入れていくのであった。
「おう、テンサイの旦那じゃねえか。もしや、木の実が収穫できたのかい?」
その日の夕方4時。汗ばむ日差しの中、俺達はボクジョー軒を訪れていた。収穫だけなら午前中で終わったんだが、その後また植えたから時間がかかった。それにしても、相変わらずガッツ店長は活発に動いている。それとは対照的に、収穫した木の実を担いだイスムカとターリブンは息が上がっている。まだ鍛錬が足りねえか、仕方のない奴らだ。
「ああ。今日はひとまずこれだけ持ってきた」
俺は、2袋ある麻袋の片方の封を切った。その中を覗き込むや否や、店長は目の色を変えた。1つ1つ手に取り、底にあるものまで丁寧に質を確かめている。一通り確かめた後、こう評した。
「チイラにリュガ、ヤタピ、ズア、カムラ、イバン、ナゾ、レンブ、ミクル、サン、スターか。こいつぁ大したもんだ、これほど立派なものは滅多にねえよ」
「そうなのですか?」
「そうとも嬢ちゃん。これらの木の実は育てんのが難しくてな、水やりの他に土や日当たり、野生ポケモンの生態なんかまで関わってくる。希少性に加えてバトルで有効なものばかりだから、馬鹿みたいに高いってわけよ」
ガッツ店長はウエストポーチから電卓を取り出しながら説明した。これに納得する一方で、ターリブンが首をかしげた。
「なるほどでマス。……じゃあ、なんでオイラ達は上手くいったんでマスか?」
ほほう、中々目の付け所がシャープじゃねえか。やはり、頭脳を磨いた成果が出てきてる。俺は感心しながらヒントを提示した。
「それはな、植えた場所が関係している」
「場所? サファリの農園ですよね」
皆が俺のヒントに戸惑っている。が、さすがにプロは違った。店長は右手拳で左手のひらにポンと叩く。
「そうか! サファリなら様々な環境が用意されてるから、どれか1つは当たりだったってわけだな」
「その通り。俺も庭で育ててみたが、ヤタピしか育たなかった。海に近い所ではこいつしか育たないみたいだ。これからは農園で育てることとしよう」
俺がぼやいていると、店長はささっと電卓をつつきだした。そして、出た数字を俺達に示す。
「では、今日はこれくらいで買い取るとしようか。へっへ、また頼むぜ!」
「こ、この額は! これでオイラ達、お金持ちでマスよ!」
ターリブンが思わず腰を抜かした。無理もない、麻袋1袋で50万もすれば、誰だって飛び上がるさ。だが、そう上手くいくはずもない。俺は現実を知らしめることにした。
「……残念ながら、そうはいかねえよ。なぜか分かるか? ラディヤなら分かるんじゃないか?」
「そうですね……これらの木の実は大変高価です。木の実の1つは黄金の1つとまで呼ばれることもあるそうです。おそらく、仕入れ値がとても高かったので、利益自体はそこまで大きくないのでは?」
「ああ、全くもって大正解だ。自由に活動するにはまだまだ心もとない。明日からもまた水やりは続くから、覚悟しとけよ、はっはっは」
俺は高笑いをするのであった。全く、仕入れで30万も使ったのは俺なんだからな。感謝しろよ。
「ヒエッ……」
「甘かったね、ターリブン」
・次回予告
おや、ミュージカル部の連中が練習してるな。ジョウトでは露とも耳にしない言葉だが、一体どんな代物なんだろうな。ちょっくら見てみるか。次回、第52話「ミュージカルの妙味」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.116
冷静に考えて、数時間で身が成る木の実って異常ですよね。どれだけ物質を集めたり吸収するのが得意なんだと言いたくなります。まあ、ふやふやでしょうが。
あつあ通信vol.116、編者あつあつおでん