向こうの方に赤いバンダナが見える。赤いバンダナは上着と揃いで目立つから、遠くからでもすぐわかる。今
日はピカチュウを連れた少年と、細目の少年と、彼女の弟が見あたらない。別行動でもしているのだろうか。
そこはどちらでもかまわない。こっちは良きライバルとして、声をかけるだけだ。相棒のロゼリアを連れて、
彼女の元へと歩く。後十メートル。五メートル。いつも通りのバラを懐から出す。いつでもそれはみずみずしい
。広場ではお弁当を食べたり駆け回ったりしている子どもがいて騒がしい。騒がしさが少しだけ心臓に活を入れ
る。柄にもなく緊張していた。あと二メートル、一メートル。
「やあ久しぶり」
「あ、シュウ! これあげる!」
彼女は何故か、自分と同じ色の真っ赤なバラを持っていた。何か言う前に、強引に手にバラが押しつけられる
。どっかのロケット団もバラを手に持っていたが、そのバラが一本でなく二本になるだけで果てしなく間が抜け
て見えるのは何故だろうか。
「何のつもりだい、これは」
「だってシュウ、いっつもキザにバラを投げてくるから、仕返ししてあげようかと思って」
「仕返しって、キミ、それでわざわざバラなんか用意して一人でウロウロしてたのか? ボクにだって会えると
も限らないのに」
「ウロウロって失礼ね! ・・・・・・だって、今日はなんとなく、会える気がしたんだもん」
自分でも間抜けだと思ったのか、ハルカの顔が赤くなる。赤いバンダナに赤い服のハルカが顔まで赤くすると
、上半身全部が真っ赤みたいだ。
「・・・・・・で、でも! こうしてシュウにも会えたし! シュウだっておどろかせられたし、結果オーライか
も!」
「たしかに、キミの面白い発想についていけなくて、驚いてはいるけれどね」
「ふーんだ。もうシュウはバラを受け取っちゃったし、驚いちゃった方が負けだもん」
「ロッゼゼゼゼゼッ!」
あんまりわけのわからないことをやっている自身のトレーナーとその友人に、とうとう笑いが堪えきれなくな
ったのか、ロゼリアは花の手のひらを口に当てて上品に笑った。
「ロゼリアッ」
「ローゼッ」
これは失礼しました、と今がコンテストならいい点が入りそうな動きでロゼリアは優雅に頭を下げる。本当に
反省したのか怪しいが、まあいい。普段から怠らない美しい動きに免じて許してやろう。
今は何だか顔が赤いままふてくされている彼女と、間抜けにニ本もバラを持つ羽目になっているこの状況をど
うするべきかこそが問題だ。