うっかりコータスのオーバーヒートを喰らったサトシの顔は、それはもうだんろの煤(すす)を思いっきり頭
からかぶったみたいに真っ黒だった。
トレードマークの赤と黒の鍔(つば)つき帽子も、少し黒めの地肌も、横にとんがった黒い髪さえも、全部煤
色に黒くなって焦げている。特訓中にうっかりサトシに攻撃する形になってしまったコータスは噴水みたいな勢
いで泣いて、サトシは見事な勢いで仰向けにぶっ倒れた。
白い雲の浮かんだ青い空に向かって少しだけ突きあげられた手は引きつけを起こしてガクガク震えていて、焦
げた顔についている目は見開かれ、開いた口は「あががががが……」と言葉にならない音を発している。
とどめに頭からは黒い煙がプスプスと絵本のえんとつみたいに出ているのである。それを見ると苦笑いをせず
にはいられないし、事実自分も苦笑いをしてしまう。
横に座ってサトシの特訓を見ていた心優しいハルカは見てらんないというように目を両手で覆っているが、ピ
カチュウを抱っこしているマサトはすっかり慣れたもので、アハハハハと苦笑いでさえない笑いを周りに提供し
ている。そうして、なんだか情けなくて面白い兄貴でも出来たように親しみをこめていうのだ。
かっこわるい、と。
だがしかしそれは違うと思う。言われたサトシもマサトに向かって怒ることもなく、引きつけまで起こしてい
たのがウソのようにムクッと起きあがり、笑い返しているが、敢えて言う。それは違うのだと。
確かに自分もマサトに抱っこされながら苦笑いをしているが、もしサトシたちと口がきけてもかっこわるいと
は言わないであろう。
真っ黒コゲにされても数秒後には復活するじこさいせいを繰り返すスターミーやサニーゴも真っ青なサトシは
笑ってしまうが、かっこわるくはないのだ。反論するなら見てみればいい。
一回目のオーバーヒートを喰らったのに、サトシはいかりをぶつけ、あばれることもなく、コータスの甲羅を
なでているではないか。
そうして撫でながら、「前よりパワーが強くなっているじゃないか」とほめているではないか。 これが並の
トレーナーに出来ようか。いや出来ない。
彼は少しばかり猪突猛進なところがあるが、決して思いやりがないわけではない。むしろ人一倍お人よしの節
がある。
そして自分は、そんな彼がいっとう好きで、誰よりもカッコいい、素晴らしい相棒だと思っているのだ。
思ってたよりいっぱいありました。こちらの投稿にさせていただいて正解だった。コータスが特訓相手なのは
趣味です。長々と失礼しました。