四つ子との別れ 夜
ブリガロンが重い書籍の数々をオレの部屋に運び込む。そしてその分厚い本のページを繰るのはオレではなく、ユンゲラーである。
この有能なユンゲラーは法学や政治学の教科書を驚異的なスピードで流し読みしては、片っ端からその情報をコンピュータに入力していった。画面上で教科書を読むことができれば、オレは本を使うよりも容易に勉強ができる。
政治経済などは、ポケモンを育成する上で全く不要な科目だった。だから知識などはほぼ無いに等しい。だから今はひたすら吸収するしかない。
かつての夢を諦めようとは思っていない。
しかし、確実に夢を奪われたような、そんな喪失感がただ重い。
もう少しだと思っていたものが遠く果てしなく遠くなり、それがあまりに遠いので少し気力が失せてしまっただけだ。だから一休みしがてら、寄り道するのだ。
オレ以外にも、夢を希望を断たれた人間はいるだろう。そして、そういった人間を踏み台にして、のうのうと自由に大地を歩く者がいるのだろう。
それはポケモンのせいなのか、トレーナーのせいなのか、それとも国のせいなのか。知らないことだらけで、何もわからない。
でも、あの四つ子もきっと、オレと同じことを考えて、迷いつつ進んでいくだろう。
だからあの四つ子とオレは同志なのだ。
テレビ画面が、カロスリーグの中継を映している。
オレの傍らには共に夢に舞台を追ったブリガロンが、反対側には病院から借りた気さくなユンゲラーが、オレと一緒にカロスリーグの模様を眺めていた。
驚いたことに、カロスリーグに出場した四つ子は、レイアだけではなかった。ついこの前までバッジが三つだったキョウキと、五つだったサクヤも出場していたのである。
彼らが何を思ってこの短期間でバッジを集めたのかはわからない。しかし、彼らのバトルスタイルは変容していた。大技ばかりをぶちかますということをしないのである。
四つ子は強さを誇示しない。
何を考えたのだろう。
オレには分からない。
それにしても、バッジを一つしかもっていなかったセッカは、さすがにリーグまでのバッジ集めは間に合わなかったということだろうか。
いや、あいつはあいつのエセ新人作戦で金を稼いでいるに違いない。あいつはいつも、飯と金に飢えているのだから。けれど、他の三人と同じく、もう力に溺れることはないのだと信じたい。
オレはあの四つ子を信じようと思う。
だから、彼らの自由な旅を許そうと思う。
遠い遠い夢の舞台を眺めながら、オレは別の夢を見ている。
フェイマスな男とは、どんな男だろうか。たとえカロスリーグのチャンピオンにならなくても、そう、例えば、歴史的な勝訴をもぎ取った敏腕弁護士だとか、驚異的な判断を下した最高裁長官だとか、あるいはこれまで人知れず涙を呑んできた人々を救済した国会議員だとか。そういう男はフェイマスだと、認めてもらえるだろうか。
いや、違う。
認めさせてやろう。この世界に。
そしていつか、四つ子にあの店の寿司を奢ってやるのだ。