11
カオリは最初に手渡された覚醒剤しか使用していなかった。
だから一安心、というわけではないが、今もずっと使い続けていて、もう抜け出せなくなっているわけではないと分かって、やっぱり「一安心」だった。
ちなみにあの一袋は、僕が帰り道、少し遠くまで歩いて見つけた林の中に捨てた。
しばらく僕は「これからどうする」か、漠然と考えながらも、いたって普通の日々を過ごしていた。
十二月に入り、寝雪にこそならないものの、パラパラと雪が降り始める、そんな季節になった。
ケイタに後から聞いた話によれば、定期戦の日の打ち上げは、まあひどかったらしい。
元々定期戦は四年生にとっては最後の大きな公式戦でもあり、三年生にとっては就職活動が本格化する前のひとつの区切り、という位置づけだから、毎年それなりに荒れる傾向にある。
事件がきっかけになって、一体感の増した「ヘル・スロープ」一同は、コトブキのダイニング・バーで一次会。ミオに戻って居酒屋で二次会。カラオケで三次会。その後はいくつかのグループに分かれ四次会と、とにかく凄まじかったという。
上級生のほとんどは一次会の段階でトイレに駆け込む始末だったし、マキノ女帝などはカラオケで大暴れ。やっぱりそれなりに悔しかったんだな。
マイ先輩とコウタロウ先輩は――これが実は一番びっくりしたのだったが――その日の二次会からずっと抱き合ってたらしい。「犬猿の仲」だとばかり思っていたのだが、何が起こるかわからないものだ。
感動的な場面もいくつか見られたようだ。マキノ先輩はサークルのメンバー一人ひとり回って感謝を述べた。恩返しとばかりにコウタロウ先輩が「偉大なる四年生に捧ぐ!」と音頭をとり、三年以下全員がイッキした。
この会に行けなかったのは、ちょっと残念だ。ただ内容の濃さはこちらも負けちゃいない。ベクトルは全然違うけどね。
それはそうと、あの事件で渦中の人となってしまったマサノブは、本当に「無実」だった。
サークル集会で彼が戻ってきた時、みんな真っ先に「おかえり」と言った。
マサノブは泣きながら、何度も何度も謝った。
本人の話によると、コトブキ大の友達(言い回し的には「悪友」にも近い感じだった)に、その日漫画を借りる予定で、その会場でカバンごと手渡されたのだという。
その友達(話を聞いているうちにそいつのイメージが「ジャイアン」になった。いやごめん、ジャイアンに失礼だよね。映画では最高に良いやつだし)から「サークルのみんなで読んでくれよ」とまで言われたらしく、後から考えると腹立たしい話だ。
大勢の人が集まるイベントごとの中で受け渡しを行おうとしたところを見ると、そいつはてんで「素人」だろうが、警察はそいつを、暴力団に繋がる人物で学生の間にドラッグを「ばら撒く」仕事を依頼されていたと見ている。
とにかく、今までそんなものに興味を抱きもしなかった人間にまで影響が及んでいることは確かだった。
悔しいが、カオリもそのうちの一人だ。
こういう道を選んだ以上、彼女の罪の意識は消えるものではない。時間とともに薄れていく類のものではない。
向き合って、考え抜いて、でも答えなど出なくて、考え続けるはめになる、そういうカテゴリーに属するものだ。
頭の片隅には、常に「罪」が居座れるスペースを空けておかなければならない。
と、カッコよく決まったように言ってみても、そう簡単にいかないのが人間だ。
それも、まだ十九歳の女子大生ならなおさらである。
僕といる時も、カオリは時々暗い顔を見せる。
そのたび僕は優しい言葉を全力でかける。
カオリはホッとしたような笑顔を見せるけど、本当に不安が拭いきれたわけではないことは僕にもわかる。
僕には気休め程度のことしか出来ないのだ。
そう彼女に言うと、それでも今まで不安をこぼす相手もおらずただ溜め込むばかりだった頃に比べると幾分楽になったと、やはり笑ってくれる。
「あの合コンね、友達があたしの落ち込み様を心配してくれて誘ってくれたんだ。シュウも来るって聞いて、行くことに決めたの」
たとえ気休め程度でも、そばにいてくれる人は必要なのだ。そういう人のいない人間から先に、薬の海に溺れてしまうのだろう。
そうそう、僕が付き合い始めた当初に気付いた、彼女の目の「クマ」は、あの時は勉強熱心なため寝不足なのだろうと思ったが、そうではなかった。
だからと言って、今回のこととも関係は無かった。彼女が最後に薬を使ってから、あの時は一カ月以上は経っているのだから。
なんてことはない、オール明けだったのだ。
カオリの恋を応援していた彼女の友達がお祝いしてくれたのだとか。
現実、「クマがあった」なんていう伏線は、その程度の理由で消化されるものだ。
彼女に覚醒剤を手渡し、売った「ディーラー」は、カツノリといった。
学食で一度カオリに「あの人だよ」と教えてもらったが、あまりぱっとしないやつだ。ミオに一人暮らししている人には多いが、いつもスウェット上下で登校しているようなやつだった。
だが、僕たちにとってはあいつが一番危険人物なのだ。
「パイプ野郎め、そのうち必ずパイプカットしてやる」
そう言って、ケイタはハイボールをグイッと飲んだ。ここは僕の部屋。二人で晩酌中である。
僕はケイタに事の真相をすべて話した。
最初は話そうかどうかかなり迷ったが、決め手は、彼の弟のことだ。同じ境遇を経験しているケイタなら、絶対に力になってくれると思った。
それに、ケイタは口が堅いし。
ちなみに「パイプ野郎」とは、カツノリが暴力団とミオ大をつないでいるという意味でケイタが名付けた「愛称」である。
「まあ、しかし――」ケイタはため息をついた。「したのか、セックス」
「そこは重要じゃない」
「いや、お前は今の一連の話の中で、セックスしたことを話すとき一番緊張していた」
「そ、そうかもしんないけど……。とにかくおれがしたいのはそういう話じゃないから。どうか離れてくれません?」
ケイタはたばこに火を付けた。飲む時だけ吸うんだよ、こいつ。
「――まあいい。お前はカオリちゃんを守り通すと決めたんだな?」
「も、もちろん」
こういう質問は、いざされると緊張する。
「なら、おれもできる範囲で協力しようじゃないか。ただな、押さえておかなきゃならないのは、おれたちがいくらカオリちゃん側について擁護しても、みんながみんな、理解を示してくれるわけじゃない。なんも知らないやつから見れば、ただの"やっちゃった人"だ。事実そうじゃないとしても、そう映るんだ」
「覚悟してるよそのくらい」
ケイタはたばこの灰をアルミ缶に落とした。
「――その覚悟、試される時もそう遠くはないと思うぞ」
それは、ホントにすぐやってきた。
12
「薬物根絶キャンペーンに、ご協力お願いしまーす!」
次の朝、雪が降りしきる中を白い息を吐きながら登校した僕の目に入ったのは、ビラまきをしているボランティアサークルの集団だった。
こういう学生団体もそろそろ動き始めるとは思っていたが、いざ目にしてみると、下手に事を荒立てられているみたいでなんだか腹が立った。
いや、よそう。彼らはあくまで善意でこうした活動を行っているのだ。「薬物根絶」は、悪いことじゃない。
ポケットに入れた手を出すのは億劫だったが、ビラの中身が気になったので手を出して受け取った。
「ありがとうございまーす!」保険のセールスマンのような口調の男子学生が快活な声を出した。
ビラには、黒い背景に血で書いたような真っ赤な字で「知っていますか? ドラッグの本当の恐ろしさを」というフレーズが踊っていた。
「シュウ!」
振り返ると、カオリがビラを片手に僕の方へ駆けてくるところだった。
「おいおい転ぶなよ!」地面は緩やかな坂になっている上に、氷が張っていた。「おはよう」
「おはよ――」カオリが僕に追いついて並んだ。「それ、シュウももらったの?」
僕がさっきもらったビラをさして彼女は言った。
「ああ――余計なお世話だってな?」
「――うん」カオリも白い息を吐く。「でも『本当の怖さ』って意味では、私、知らないのかも知れないな……」
「そんなもの、知らない方がいい。だろ? あんまり気に病むなよ? 大丈夫だから」
「うん。ありがとう」
ビラによると、今週の昼休み中に学食で「薬物使用禁止条例」の署名活動をするらしい。ミオシティの条例として、現行の法律よりも厳しい規制を設ける意気込みだそうだ。
なるほど、ここまでされたら大学もこの話題で一時的に染まってしまう。僕たちとしては「肩身の狭い」思いを強いられることになるだろう。
だけど、まだこの時の僕は甘かった。覚悟はあったはずなのだが。
ごくごく自然な流れで、話題は薬物に及ぶ。もっとも暇な大学生にとっては、話題を提供してくれてむしろありがたいくらいなのだ。
我がサークル内でもその話題にならないはずがなかった。
「この大学にも薬売ってるやつが何人かいるらしいんだよ」
授業終わりになんとなく集まったサークル部屋。そう言ったのは僕と同学年のタツヤだ。
今年に春に硬式野球部を辞めてうちに入ってきた彼は、投手だったらしく、モンスターボールを投げる際の「セット」が美しい。本人曰く「ボークが気になるんだよ」とのこと。
「硬野の連中が話してたんだけど、その手口がさ――」タツヤが話し続ける。「最初は薬をタダであげちゃうらしいんだ。『お試し用』みたいなことを言って。でもああいうのって依存性があるだろ? そのお試し用を使っちゃったやつはほとんどの確率でまた買いに来るらしいんだ。そうなっちゃったら中々抜け出せないんだって」
「嫌だなー、なんでそんなことする人がいるんだろ?」
真面目な顔でため息をこぼしたのは、彼女もまた僕の同学年のヤスカ。
最初に彼女を見た時、僕は彼女と仲良くなれるか不安だった。
だって頭の右側、思いっきり刈り上がってたんだもん。怖かったさそれは。
でも性格は全然刈り上がっていなかった。ボーイッシュなところもあり、今では同学年で一番話しやすい女の子だ。
それにヤスカはコロコロ髪形を変えるオシャレっ子なので、今は刈り上げは消え、ナチュラルなブラウンの髪に、前髪だけブラックのパネルカラーを入れていた。
「――さあ。そういうやつらのやることなんて分かんないよ」とタツヤ。
「金になるからだよ」僕がヤスカの疑問を受けた。「ドラッグはほんの少しの量でも値段が張るから、暴力団の資金源なんだ。学内で売買してるやつは、十中八九、暴力団とつながってると思う。最近は薬も安くなって、学生でも手に入れやすいんだ」
半分はケイタの受け売りだった。ケイタは今日、久方ぶりのデートらしいので、ここにはいない。
「暴力団とか――うち、絶対関わりたくない」とヤスカは言い捨てた。
「そりゃそうだ。てかさ、ドラッグとか使っちゃう側のやつらもよく分かんないよな。大変なことになるって分かるはずなのに」
タツヤのそのセリフから、僕の血液の温度はみるみる上昇していくことになる。
「うちもそう思う! なんで手出しちゃうんだろね?」ヤスカも同調する。
「まあ、そういうのに手出すやつってほとんど不良だろ? 遊び半分なんじゃないの?」
「遊びで覚醒剤とか吸っちゃうんだ。バカみたい」
「ほんと!」
二人はケラケラと笑った。
この二人がカオリに向けて言っているわけではないことはもちろん分かっているし、特に深い感情を持って罵っているわけでもないことも分かっている。
悪気はないんだ。でも、頭ではそう分かっていても、僕はそうやって割り切ることができるほど器用じゃなかった。
僕にはこの二人が、カオリに向かって刃物を振り下ろしているようにしか見えなかったんだ。
カオリもどこかで似たような会話を聞いている。そうに違いない。
この大学に、カオリの居場所はどこにもない。
笑い声が響く。
僕たちは包囲された――
「二人とも、笑いすぎだろう」
感情が凝り固まり、噴火寸前だった僕の前に、ずっと寡黙に漫画を読んでいたアキラ先輩が、静かに、そして重々しく言った。
アキラ先輩は四年生で、副代表。定期戦では、あの事件が起こらなければ、残り二試合のうちのひとつに出場する予定だった。
「薬に手を出した人間はみんな遊び半分なのか? みんなバカで、何にも知らないから手を出すのか?」
タツヤとヤスカは口をぽっかり開けたまま、押し黙ってアキラ先輩を見ていた。僕もじっと先輩を見つめた。
「全く薬に興味の無い人でも、毎日辛くてしょうがない人や、身内に不幸があったりしてどうしようもなくなった時、そういうものに逃げたくなるのかもしれないよな」
僕は驚愕した。アキラ先輩は、なにもかもお見通しなのか? いやいや、そんなはずはない。
「――でも、分かんないっすよ。そんな追い詰められた人の気持ちなんて」タツヤが沈んだ声で言う。
「おれだって分からないさ。でも分からないなら、一概に指を指して笑うべきじゃないだろ? 『ドラッグに手を出した人』をひと括りにするのはよくない」
と言ってから、アキラ先輩はにっこりした。
「とまあ、この手の話は全部本に書いてあったんだがな。ただ、今みたいにシビアな話が熱を帯びている時は、いつも以上に冷静に、よく考えて物事を判断しなきゃならないんだ。今のおまえらは残念ながら『その他大勢』に見えたぞ」
僕はアキラ先輩の話にだいぶ救われた。
大学全体の雰囲気はまさに「薬物追放」。そして、その中に、確かに僕は「薬物使用者追放」のニュアンスを感じ取った。
僕自身も気付かないうちに意識が過剰になっているのかもしれないが、薬物使用者への理解が置いてきぼりにされて、とにかく「薬物にかんするもろもろを排除」しようとする風潮が先行していることは事実だった。
そして、その風潮は、当然のように「正義」のかたちをしてるのだった。
それを僕は「そんなの間違いだ!」と否定する気はない。正しい動きだと思う。
ただ、アキラ先輩の言うように「よく考えて」欲しいのだ。
カオリがどうして覚醒剤に手を出してしまったかを聞けば、だれも彼女を責められるはずはないんだから――
――いや、責めるかもしれない。「薬」とその「使用者」を混同し、どちらも絶対悪とする今の空気なら、そうさせるのかもしれない。
「みんなバカだ」と言ったケイタの言葉も、今となっては本当にはまった言葉だと思う。でもアキラ先輩のように、思慮深く物事をとらえている人もいるのは確かだ。
矛盾しているようだけど、二人とも秀逸で、的を得た言葉を残す天才だ。矛盾は世の常、甘んじて受け入れよう。
13
そしてこの季節は、なにも息の詰まりそうな話題ばかりではない。
十二月も半ば。街はクリスマスムード一色で、ところどころにツリーやイベント告知のポスターが配置され、クリスマスソングも街を彩った。
「なんでお前とプレゼント選びしなきゃならないんだ」とケイタは文句を言った。
今日はケイタに付き合ってもらい、コトブキに足を運んでいた。
去年は彼女なんていなかったから、この赤と緑が全部、リザ―ドンとフシギバナにでもなって、街中でやり合ってくれればいいのにと思っていたけど、今年は違う。良いイベントだ、クリスマス。宗教なんか考えずほいほい異文化を取り入れる日本、万歳だ。
二十四、二十五日はしっかりバイトも休みをもらい、カオリと二人で最高の夜を過ごす準備は万端である。
「まあそう言わずにさ、実は女心が分かっていそうなケイタくんに、是非知恵をかしてほしいんですよ」
「女心は分かんないから良いんだ。分からないから考えるのが恋愛の醍醐味だ」
「それ、頂き。とりあえずロフト行こう」
ああでもないこうでもないと言いながら、僕はプレゼントを選んだ。
ケイタは僕の手に取るものすべてに文句を付けた。なんだかんだ口出しするんじゃないかこいつ。
結局僕は、超無難なシルバーのチェーンにピンクのストーンが真ん中に入ったクロスのネックレスを、店員さんにラッピングしてもらった。
「――浮かれ気分のお前に、真面目な話をぶち込んでいいか?」
ケイタは「浮かれ気分の僕」に切り出した。
人でごった返しているマックで、僕はジンジャーエールをストローで飲みながらプレゼントを眺めていた。
「へ? あー、悪い。なんだ、真面目な話って?」
ケイタはあきれ果てた顔を見せたが、すぐに表情を固めた。
「おれ、パイプ野郎を洗おうと思う」
お忘れの方に言っておくと、「パイプ野郎」とはカオリに薬を渡したカツノリのことである。
「――それは、つまり……」
「カツノリ本人、もしくは周りの人間に探りをいれて、あいつがどこからドラッグを仕入れているのかを突き止める」
ケイタは飲み物にもポテトにも、テリヤキチキンバーガーにも手をつけていない。
「それ、かなり危険じゃないか?」
「あいつら密売人のせいで大学がドラッグに溢れることの方が危険だ。カオリちゃんのような犠牲者が増える方がよっぽどな――仕入れ先、まあまず間違いなく暴力団絡みの場所だろうが、突き止められたら警察に摘発してもらう」
本気なのだ。
カツノリのようなパイプ野郎をとっちめるわけではなく、その供給源を経つ。例えるならこのジンジャーエールのストローをちょん切るわけではなく、コップごとゴミ箱に放るのだ。
ボランティアサークルのように間接的に動いてても始まらない。
ケイタは直接敵を討つつもりなんだ。
でもそうなると、僕はあの定期戦の夜からずっと考えていたある疑問に衝突する。
「もしそれがうまくいって、暴力団が摘発されたら――カオリはどうなるんだ?」
警察は、捕まえた暴力団に間違いなく尋ねるのだ。
(君たち、どんなストロー使ってたの?)
(そのジンジャーエール、"誰が飲んだの?")
ケイタは初めてポテトに手を伸ばした。
「おれだって鬼じゃない。なんとかしてから動き始めるつもりだ」
その後はその「なんとかする方法」を二人でずっと議論していた。
覚醒剤取締法では、覚醒剤の所持、譲渡、譲受、使用は「十年以下の懲役」と規定されている。
カオリのケースでは、断り切れなかった譲受時の状況や、父母の死による精神的なショックという特段の事情がどこまで加味されるかが、量刑緩和の判断基準になる。
実際、二十歳未満であれば「懲役」ではなく「保護更生処置」のようなものになるのだろうか。
これを機に法律でも勉強してみようかな。
そういう法的な話も怖いが、もっと怖いのは「薬物使用者」というレッテルを張られたカオリが、始まったばかりの大学生活をこの先楽しめるはずがないということだ。
周りの人間は、みんなそういう色眼鏡をかけてカオリのことを見るのだから。
「ちょっとトイレ行ってくる」と僕。ジンジャーエールを一気に飲みすぎたのかもしれない。
そして戻ってくると、ケイタが携帯を開いていた。
「おいお前、メーリス見たか?!」ケイタが早口で僕に言った。
僕も携帯を出すと、メールが一件。サークルで登録してるメーリングリストだ。マキノ先輩が回していた。
内容を確認した僕も、度肝を抜かれた。
「ホントかよ?!」
文面を一言で伝えよう。「シロナさんが、僕たちの練習を見に、ミオ大学にやってくる」のだ。