未来のオレへ
知ってると思うけどオレは文章書くの得意じゃないし好きでもない。そのオレがなんでこんな手紙書くのかって言うと、オマエ、というか未来のオレがちょっとだけ心配だから。母さんはこの手紙は大人になったら届くって言ってたけど、これが届いたときオマエが何してるのか知らない。母さんはこの手紙に未来の自分がどうしてるかいろいろ質問したらとか言ってたけど、そんなことしたって教えてもらえるわけじゃないし、そもそもそんなことどうでもいい。そんなこと書くくらいなら昔のオレから未来のオマエにいろいろ教えてあげたほうがずっといいと思ってる。
今のオレのゆめはポケモンのチャンピオンになること。カントーの全部のバッヂ手に入れてセキエイのチャンピオンリーグに挑戦する。それであのワタルを倒してオレが最強になるんだ。もしかしたら未来のオマエにこの手紙が届くころにはもうチャンピオンになってるかもな。チャンピオンになって、超有名人になって、女の子からモテまくって、うまいもの毎日たくさん食べて過ごしてるかもな。もしそうじゃなかったら早くそうなるんだ。だいじょうぶオマエはオレなんだから。バトルは誰にも負けない。ちょっとぐらいミスとかで負けるかもしれないけどそれでもオレはさいきょうになるんだからオマエだってさいきょうのはずだ。
なにがかきたかったか良く分からなくなってきたけど、とりあえず早くチャンピオンになれ。なまけんなよ。ちょっとくらいのことでへこたれんなよ。だいじょうぶ、オマエはさいきょうだから。
ヘタクソな字と文章で読みづらいことこの上なかったが、私はゆっくりすべて読み切った。全く記憶にない文章だった。でも、かといって新鮮味のようなものはなかった。思い出したくない記憶が徐々に、引き出されていくのを感じていた。
――昔の私へ。君の夢は叶ったよ。チャンピオンになったら一瞬だけモテた時期もあったけど、本当に一瞬だったよ。美味しいものもあまり食べなかったな。追うべき夢を無くしたらそんなことする気なくなっちゃったんだ……。
心の中でそっとつぶやいていた。
「おじさん泣いてるの?」
言われて気が付いた。抑えきれなかった気持ちがあふれ出してきていた。
「僕の秘密を読んだんだから、それだけで終わらせないでよね。ちゃんと続きも読んでよ」
――えっ?
私は知らなかった。手紙の内容はすべて読んだものと思っていた。しかしそうではなかった。
その手紙、つまり、私の夢には続きがあったのだ。