昼下がり、アタシはいつもの喫茶店で、いつも通りに窓際の席でメモを並べていた。
今日は他のお客さんもいるので1人で黙々と。といっても今日の成績は勝ち越しで、コジョフー君のおかげで良い勝負もできた。その上お店にアイツがいないとくれば、心は結構晴れやかだった。
メモの上を走るペンは軽く、ブルーハワイのかき氷はいつもよりおいしい。まさに絶好調ね。あ、ちょっと頭痛い。
調子に乗るなと自制しながら頭を叩いていると、ドアベルが新たなお客さんを知らせた。音につられて首が動けば、そこには馴染みの顔があった。
なんでいる?
まさかの登場にアタシばかりが驚いている。「いらっさいまし」と出迎えた店員さんは堂々とアイツをアタシのいる方に案内し始めた。おい、ちょっと?
バシャーモとミミロップを引き連れて、こんちきしょうめが図々しくもアタシの真横に腰を下ろす。シフト交代には微妙な時間だけど。ってことは今日は非番ってわけ? ますますわからない。
ちょっと店員さんや、コイツをここに連れてきてどうするのよさ。「ハシバさん借りるぞ」じゃなくて。説明責任ってないの?
アタシがこうもうろたえてるってのに、コイツは「ブレンドコーヒーでな」とか言ってのん気に水すするし。
「……うろたえてるな」
「あったりまえでしょ。あんた店員じゃないの、バイトだけど。非番の日に勤め先に来るなんて、思う? あと、なんでアタシの隣に来るわけ?」
「順番に答えるぞ。店に来たわけだが、なんと、イトウさんがバイトに認められてな。今日から働くってんで、様子を見に来たんだ」
「はぃい?」
言われてみれば、今日のコイツはサーナイトを引き連れてなかった。てっきり家政婦でもやらせてるのかと思ってたけど、すでに店にいるってわけだったのね。
しっかしまぁ、店長さんってば、なに考えてるのかしら。
「ちょっと、ここ何時からポケモンオッケーの店になったのよ」
「いつからって、俺が働き初めた頃からだが。……だいぶ前だな」
昔を思い出しながらコイツが言った。その様子だと1年2年じゃなさそうね。
つまりなに? ここの店長さんはコイツを雇って、一緒にポケモンたちを置いとくために、わざわざ危ない橋をこんな長いこと渡ってるってわけ? 行政や保健所は? もう認可もらったの?
信じられないものを見る目で、アイツの隣に座るミミロップを見た。
「…………あんた、優遇されてるわね」
「どうかな。トレーナー向けの飲食店にならっただけだろ」
「ここ茶店よ? どこぞのレストランとは訳が違うじゃない。ポケモンバトルが起きるようなとこじゃ……あー……」
「なんだぁ? なにか思い当たる節でもあったか?」
あ、自分で言ってて思い出した。訝しがるアイツの顔から視線が明後日の方角にずれる。
シンオウ地方、モーモーミルクカフェ。バトルのできる喫茶店……。
友達の読んでる雑誌にあったわ。ウェイトレスの格好が悪趣味って印象しかなかったけど、あれもニーズに応えた結果ってことなの?
「……ありなの? これは、衛生面とか、別の話なの?」
「そう頭ん中だけで悩まれると、こっちはイマイチわかんないんだがな。
とりあえず、頭冷やすか?」
鼻先に突き出されたスプーンに気づいて見れば、アタシのかき氷をひとすくい、差し出していた。
そのスプーンを受け取って口に運ぶ。冷気と甘味が頭に広がり、少しだけ気が落ち着いた。うん、甘いものは良いわ。
「…………ノリの悪い」
「なに?」
「いーえ」
ずずぃ、と水をすする音。
なによ、残念そうに。アタシなにかおかしなことした?
「2つめの質問に答えるぞ。
ここに座ったワケだが、俺は店員の案内に従っただけだ」
「なに、偶然だって言いたいの? まっすぐこっちに来ておいて」
「あいつの作意だよ。文句はアッチに言っとくれ」
責任転嫁? まぁ実際その通りだけどさ。
「あの店員、あんたの仕事仲間でしょ。あんたから何とか言っときなさいよ」
「あー、わかったよ。
そうだな、俺もお前のキツいセリフばっかり聞いてると心が荒んじまいそうだ」
「キツくて悪かったわね。まったく、なんでこんなところに連れて来るかしら」
「そりゃお前が常連だからだろ。俺も、なんだかんだで気心が知れてるからねぇ」
「あー、それは認めるわ。アタシも、毎日ってほどじゃないけど来てるし。すっかり常連だからねー。
でもねぇ……」
常連は認める。気心が知れてるのも。でもやっぱりね、
「あんたと顔つき合わせるように進めた店員の気だけは知れないわ」
「おぅ、イヤか」
「イヤね」
正直に端的に言うとコイツは、ひどいヤツだと言わんばかりにぶっきらぼうに返してきた。
「おーおー、言うこったぁねぇ。
こんなでも俺がいなきゃぁ お前、話し相手もいないでこんな窓際で。寂しいったら無いでしょうに」
「話し相手がいると楽しいのは認めるけどね?
アタシは別に寂しくないし、あんたは口やかましいの。今日だって、他のお客さんがいるからアタシは静かに勉強してるのよ」
言って、メモ用紙をペン先で突いた。時と場合をわきまえろって、わかるでしょ? バイトの店員。
「店の評判悪くしたくなかったら、今しばらく黙ることね。でないと、店長さんも黙ってないでしょ」
「っかぁ〜……」
返す言葉も無いのか、いよいよホントに荒んだか。コイツはアタシから顔を逸らすとミミロップの方に向けてぼやき始めた。
「ウサミさんや、どう思うよ。
この女の冷たいこと。きっとかき氷ばかり食ってるから腹の底まで冷たくなっちまったんだ。
ツンベアーもまっつぁおのツンツンぶりだぜ、これは」
好き放題 言うわねぇ。あんた後でオモテ出てもらうから。
ミミロップも反応に困ってるじゃない。あんたの言葉は人間でも難解なんだから。ポケモンにはとても通じないっての。
「ホントこいつといると荒むよ……。
ウサミさーん、ちょっとこっち来てくんないかな」
そうコイツが招くなり、ミミロップはそりゃぁうれしそうに膝の上に座ってみせた。コイツもまた、ミミロップの耳をフサフサと撫でては満足そうな顔をする。
「おぉよしよし、お前さんはホント素直でかわいいよ。あれだな、アニマルセラピーってヤツ。勉強してみようかね」
「……お楽しみのところ悪いんだけどさ。気持ち悪い絵よね、それ」
「そうか? 毛並みの感触に心を癒すなんて、至って普通だろう」
「そこだけ聞くとね。相手がミミロップじゃなかったら、アタシも至って普通に見てたと思うわ。
そのミミロップも、耳撫でられてウットリしちゃってまぁ。なぁんかヤラシいのよねぇ」
「俺のブラッシングが悪くないって証拠じゃないの。ミミロップの耳は敏感でなぁ、気を使うんだよ、これが」
敏感なら尚のこと、そうやって撫でて良いもんじゃないと思うんだけど。
そんなアタシの視線を受け止め、コイツは「しかしな」と続ける。
「これだきゃぁ言っておく。そういう目で見るんじゃぁないの」
「あぁん?」
なんでアタシが悪いみたいに言われなきゃならないのよさ。アンケート採ったら100人が100人、コイツがおかしいって言うわよ、きっと。
「公の場でイチャコラしておいてよく言うわねぇ。どういう目で見られてるか知ってるんなら余所でやんなさい、ヨソで。
そういうことしてるから趣味疑われてるって、判ってんの? あんた」
「しゅみぃ? なんだい、俺がケモノ趣味だってか? そんなわけあるかぃ。俺だって人間の女の方が良いっつの。
だいたいそんな趣味だったら尚のこと、こんなことしてて平気な顔してられないでしょうに」
「あー、そう言われたらそうねぇ。特に鼻息も荒くなってないし。ゴメンね、誤解してたわ」
「お前も疑ってるクチだったのかぃ」
心外とばかりにムクレてしまった。でもねぇ、あんた、そのミミロップの懐きようを見たら疑いたくもなるわよ。
わかる? あんたのミミロップ、あんたが「人間の女の方が良い」って言ったら、目に涙浮かべたのよ? 何やったらそこまで懐かれるのさ。
「……なんか言いたげだな?」
「いーえ、なんにも。ただ、ほんっとに良く懐いてるわよね、って」
言いながら、その時アタシは友達とのやりとりを思い出していた。
コイツの疑惑はこの辺じゃわりと有名で、あの時は「あいつ、いつかポケモンと間違い起こすわよ」なんて話で盛り上がっていた。
そのうち話が「いつ起きるか」で賭になって……。
「賭ける? 一応、私は“夏のうちは無い”にイチゴサンデー1つ」
「あれ、分の悪い方に賭けるね」
「言い出しっぺだもん」
「じゃ私は“夏のうちに起きる”にチーズケーキ1ホール」
「あらま、強気に出たわねぇ。ひょっとして太らせようって魂胆?」
「それぐらい賭けないとつりあわないってだけよ。あんたは?」
「んー? ……アタシは、夏のうちに“押し倒される”に氷いちご1杯」
「あー……」
「あー……」
そのときはそれでみんな納得してしまい、賭はお流れになった。
つくづく思うけど、コイツはどうしてこう、趣味を疑われるようなことばっかりするのかしら。
連れ歩くにしても、サーナイトの時点で薄ら疑惑が立つようなものを、ミミロップでさらに濃厚になるってわかるでしょうに。
コイツがそれすらわからないような純情ハートな野郎ってことは、いくらなんでも有り得ないわ。
「一応聞いておくけど、そのミミロップとは何があって仲間にしたわけ?」
「ウサミさんか? あー、以前シンオウ地方に行ったときにな、とある街の路地裏で出会ったんだよ」
町中で? 珍しいこともあったものね。ミミロップ自身、懐いてなきゃ進化しないような、野生じゃ見かけないポケモンなのに。
「路地裏って、なに、捨てられてたの? 変な話ねぇ。ミミロップって結構人気のポケモンだと思うんだけど」
「事情は知る由もないけどな。飽きられたのか、捨てざるを得なかったのか。なんにせよ、あの時の様子じゃウサミさんにとっちゃ不幸でしかなかったよ」
確かに、コンクリートジャングルで独り、ってのは不幸以外の何物でもないわね。
それから話を聞いたところ、イトウさんの協力で信用させて、保護という名目で仲間にしたらしかった。まさに警戒心の塊だったそうだけど、イトウさんのテレパシーを使って意志疎通を図り、少しずつ馴染ませていったとのこと。
キレイ好きで知られるポケモンだけど、その毛並みも、毛繕いをする余裕も無かったのか、出会った当初はミミロップと思えないほど乱れていたらしい。今じゃ普通にキレイなのは、それだけコイツがこのミミロップを大切にしてるってことなのよね。
「そういえばあんた、ブラッシングもしてるって言ってなかった?」
「あぁ、言ったぞ。耳を触っても怒らなくなった頃からだな。試しにやってみたらえらく喜ばれてな、今じゃ俺にせがんでくるよ」
「あらま、うれしそうに言うわね」
「そりゃぁな」
そこまで許されるってことは相当懐いてるってことなんでしょう。それとも人を信用できなくなった反動で、コイツに思いっ切り甘えてくるようになったのか。
まぁ、ポケモンに懐かれるのはコイツも嬉しいってことよね。アタシだって、隙あらば人に“とびげり”かますような荒くれコジョフー君が、アタシを認めてくれたときは嬉しかったもの。
……とは言ってもねぇ。コイツはブリーダーとしては結構いい腕してるとは思うんだけど、趣味が、ね。コイツは否定してるし、納得できる説明もあったけど……。
「ところでさぁ」
「なにか?」
「その右手は、無意識の所業?」
アタシの目が腐ってなければ、コイツの右手がミミロップの内股を撫でている様に見えるんだけど。
「……おっといけねぇ。
メロメロボディって怖いなぁ。危うく疑惑が再燃するところだった」
知らず知らずということなのね。
うん、「危うく」じゃないから。これでもうあんたの疑いは確信に変わったから。コイツは涼しい顔でそういうことをするヤツなんだ。今にポケモンと間違い起こして、社会的に死んでしまえばいい。
そう考えた時点で、アタシもふと冷静になった。コイツといると、どういうわけかいつも以上に刺々しくなる。
何かしら。悪口の相性が良いとか…………我ながらワケが分からないわ。
などと考えていると、濃厚なコーヒーの香りが鼻に伝わってきた。そういやアイツがブレンドコーヒーを頼んでいたかしら。しかし店員からは声がない。
「ん、おぉ、こういう具合なんだ。イトウさん、ありがとうな」
イトウさん? 何かと思えばそこにはエプロン姿のサーナイトが。
そのサーナイトと目が合うと、笑顔とともに感謝の意がテレパシーで飛んできた。毎度どうもってわけ?
『まいど、ありゃぁとぉ、ござぃぁす』
あら、これは……言葉のお勉強? テレパシーで音だけマネてみたって感じかしら。第1歩としては、上々じゃないかしら。
お返しにアタシから、「毎度、ありがとうございます」と人間の女性の声で返してあげた。すると、サーナイトは嬉しそうに笑うとアタシの声をそのままに送り返してきた。
自分の声をテレパシーで聞くなんて、ちょっと不思議な体験。自分の声だから若干の気色悪さはあるけど、ま、役に立てるなら結構ね。すこしだけ良い気分になって、かき氷を食べる。
「イトウさんには優しいんだな、お前」
そんな気分をぶち壊す、あんにゃろうの声。
「お黙んなさい。あの子はあんたみたいなクソ生意気な性格してないの。
もしあんたが自分にも優しくしてほしーなんて思ってるんなら、あの子の穏やかさを少しは見習うことね」
「クソ生意気と来たか。どんな生活してたらそこまで口が悪くなるやら。
お前こそイトウさんの性格を見習うべきだと思うね、俺は」
「大きなお世話よ。アタシみたいな女をキツいと思うなら、あんた、世の中の女の7割はキツいことになるわよ。
それともなに? キツいのはイヤだから素直で可愛いポケモンちゃんに走る? そのミミロップなら喜んでくれると思うけど」
「バカ言っちゃいけねぇ。俺だって人間だよ。たとえ性格悪くても人間の女じゃなきゃ恋愛できねぇさ。世の中にお前みてぇな、腹の中にフリージオが住んでそうな女ばっかりでもな」
カッチーン。
うっわー……今のカチンと来た。
あー、ダメ。今すぐコイツ、ぶん殴り飛ばしてやりたい。でもダメ、押さえて、アタシ。ここは人前。店の中。暴れるのはNG、出入り禁止になっちゃう。
とりあえずかき氷。頭を冷やしましょう。ブルーハワイの青は澄んだ色。見た目にもキレイ。
……これだけじゃ足りないみたい。
「店員さん、すみません。アイスコーヒー、お願いします」
「アイスコーヒーですね、かしこまりました。あ、かき氷の器、お下げしますね」
頭の痛みを堪えながら注文する。コーヒーは落ち着くもの。ちょっと苦いけど、冷たいコーヒーで怒りを散らさないとダメみたい。
「…………えー?」
ふと振り返ったとき目に飛び込んできたのは、カウンターの向こうでアイツのバシャーモが、燃える手をサイフォンの下に挿し入れている姿。
ハシバさん、だっけ? コーヒー係? 燃料代の節約になるとは思うけど……。
「おぅ、ハシバさんのコーヒーか。できればホットで飲んでほしいもんだな」
いや、あんたね。……バシャーモが、コーヒー?
「ハシバさん、俺と同じ頃からずっとアレやってるんだよ。今じゃ火加減の調整も上手くなってなぁ、コーヒーの味も安定するようになったよ。
店長からもオッケーもらったし、もう普通に店でも出してるぞ。今だって、俺も飲んでるし」
「あれ保健所に突っ込まれなかったの? 流石にあれ、有り得ないでしょ」
「そう言うなよ。コーヒーのブレンド自体は店長がやってるんだし。
それに、サンヨウシティだっけか。あそこのレストランでも似たようなことやってるだろ。ほれ、ポケモンの葉っぱや水がお茶の材料になるとか。アレに比べりゃうちなんてまだまだ」
いやそれと比較しても……。
なんていうか、ここに来てアタシはドッと疲れた。突然 妙な物を見せつけられて、怒りもすっかり霧散してしまった。それ自体は結果オーライなんだろうけど……。
この店はどうなるんだろう。そう思いながら、イトウさんの持ってきたアイスコーヒーを飲む。苦みが強く、氷で薄くなると見越して濃い目に仕上げてある。勉強したのね、あのバシャーモ。
実際、アイスコーヒーを飲み終わる頃にはアタシの頭もだいぶ落ち着いていた。これは店長さんのブレンドか、はたまたバシャーモの腕によるものか。
ともかく、頭も冷えた以上、店に長居するのも迷惑だと思えた。そろそろ店を出ようかしら。
「まー、イトウさんもがんばってるみたいだし? アタシはそろそろお邪魔ましょうか。
あんたはどうするの?」
「ん? あー、どうってもな。ハシバさん連れてきて、イトウさんの様子見て……あとはなんもないな」
「あ、そう。だったら、ちょっと来てほしいんだけど」
「んえ? ……あぁ、いいけど、なんだ?」
「ちょっと話が、ね。ここじゃ難しいこと」
「へー……そうかい。じゃ、俺もお暇するかね。
……そうだ、代金、俺が支払うわ」
「は?」
コイツはいきなり何を言い出すの? アタシの伝票 掠め取って、奢り? やめてよ、デートじゃあるまいし。
「いや、俺の暇つぶし、話し相手のお礼ってことで」
「ふーん、ならいいけどさ。ホントわかんないわね、あんたも」
わかんないけど、儲けたと思いましょうか。でもコイツってそんなに寂しいヤツだったかしら。そりゃポケモンと一緒の姿ばかりで、浮いた話なんて微塵もないけどさ。
……ま、アタシのやることは変わんないけどね。
「……待たせた。んで、どこに行くんだ?」
「とりあえず、ありがと。それじゃぁ……オモテ出ましょうか」
「あぁ、案内頼むわ…………あ?」
*
「ツンベアーも真っ青って、なにさぁ!」
「え、待っ……あっぐ!!」
「腹の中にフリージオって! えぇ!? アタシゃそんなに冷たいかしら!?」
「ちょ……ウサミさっ、助け……! お前、騙したなぁ!?」
「肉体言語よ! このアホンダラ!!」
「屁理屈……っぁあああああ!!」
……よし。
「さて、申し開きは?」
「こっ……今回は、俺が言い過ぎました……」
「わかれば良し」
これくらいで勘弁してあげましょうか。
あんまりやりすぎても悪いわよね。知り合い友達に避けられるなんて、寂しいし。……たとえ相手がコイツでも。
「口は災いの元。わかったんなら少しは減らず口を控える事ね」
「お前もな」
「なにぃ?」
「ハイ、ワカリマシタ。しかしな……あんまり厳しくされると、俺も拗ねるぞ?」
拗ねるぅ? 何を世迷い言をぬかしてるんだか。でも、そうねぇ……少しぐらいなら。
「はい、オボンの実」
「……ワァ、アリガトォ」
「それでも食べてしっかり休んで。次に会うときに身体が痛いとか、グチグチ言わないでよね」
「わぁかったよ。……ったく、泣けてくるぜ」
「泣く元気はあるんだ?」
「おー、涙も出ねぇぜ。頼むから帰ってくれ」
ん、そうまで言われちゃ帰るしかないじゃないの。
まぁ、だいたいスッキリしたし。今日は夢見も良さそうだわぁ……。
「いっつも思うんだが。お前ら、仲良い割にくっつかねぇよなぁ」
「勘弁してくれ……」