窓を開けると軒下の黒いテルテル坊主がぎょろりとこちらを睨んだ。
地面には穴があいて宝石の目が光を反射している。
抜け殻は天井付近で全く動かないし、ガス玉はそこら辺を徘徊している。
・・ゴースト濃度、高すぎなんじゃないの?
シブチョ―がまたわけのわからない企画を打ち出した。
その名も『カゲボウズ配送サービス』・・って、なんじゃこりゃ。ただでさえバレンタインフェアで忙しいって言うのにこの期に及んで意味不明なサービス増やしてどうすんですか。
カゲボウズは人間の負の感情を食べることで有名で、この付近にはカゲボウズが住み着く物件まで存在するという。そりゃ、それくらいは基本知識ですけどね。
で、バレンタインはハッピーな人に比例してアンハッピーな人も増えるという。そんな人のためにカゲボウズを送ります!あなたのブラックな感情をカゲボウズに食べさせて明るく前向きに暮らしましょう!
・・・って、シブチョ―、ど―ゆーアイデアですか。こんなの需要あるんですか?それ以前に何処からカゲボウズ調達するんですか!?
え?夏にカゲボウズ冷やし中華作ってた店の協力?冬の期間限定サービスとして試す?例のカゲボウズ物件の大家さんには回収の許可が出ている?
・・・。手回しが良いですね、シブチョ―。分かりましたよ、行ってきますってば!
商売人としての発想は悪くはないんだろうけど、人間としての発想は如何なものか。カゲボウズ送りつけるってまともに考えたら結構不吉じゃねぇ?
・・ここが件の『幸薄荘』ね。別なうわさではミカルゲが要石のプリントのシャツを着て生息しているとかどうとか。うーん、嘘かまことかさっぱりだ。
美人な大家さんに許可をもらって、とりあえず箱いっぱいにカゲボウズを回収することに。おいゴ―ス、お前もゴーストポケモンなら探知機代わりになってみろ。
いたいた、軒下にぶら下がるカゲボウズ。とりあえず収穫。ぷちっとな。ぷちぷち、何これ結構楽しい作業だな。お、廊下にもいる。収穫。そこにもいた。収穫。気分だけで行ったらカゲボウズ収穫祭。一回り小さいのも収穫。ゴ―スが何匹か連れてきた。収穫。
大体こんなものかな?よし、大家さんありがとうございましたー。
箱の中にみっちりカゲボウズ。窮屈じゃないかな?・・まぁ、大丈夫か。とりあえず、持って帰ろう。
カゲボウズどもは興味津津と行った様子を出こちらを眺めてくる。うーん、悪いけど今のところ君達に食べてもらうような都合の良い感情がないぞ・・?
まぁ、君たちにはこれから配達する人々のところで存分におなかいっぱいになってもらいましょう。
と、ゆーわけで一匹一匹包装しまーす。この箱の中に入ってね。うん、じっと見つめてくれても何も出ないから。はい、蓋するよ―。
包装紙で包んで、リボンをかける。ぱっと見はただのプレゼント。あけてびっくりカゲボウズ。あなたの心を癒します。・・シブチョ―、本気でこのキャッチコピーつけるつもりですか・・?
んなこと考えてたら手が止まるな、どんどん包みをつくっていく。プチなカゲボウズも包みます。これでいいか?こんなものか。
荷物室へ運びに行くか。
あー、コウモト先輩、例のサービス注文来ました?・・なわけないですよねー。やっぱりこのサービス失敗なんじゃ・・え、注文が来た?マジすか・・。伝票ください、配達行きますから。
カゲボウズボックスを積んで自転車が走る。世間はどう見てもバレンタインムード。その中を走る。うーん、中身がカゲボウズだと分からなければ絶対チョコ運んでいるように見えてるんだろうな―。
まずはここか、チョロネコヤマトでーす。本日はカゲボウズ配送サービスをご利用いただきありがとうございます!
きちんとカゲボウズの食事をさせた後は窓などからちゃんとリリースしてあげてくださいね―。
それではまたのご利用お持ちしております。
なお、カゲボウズ達のほとんどはあのアパートに帰って行くらしいのでストックが足りなくなったらいつでも収穫に行けるとのこと。
微妙に汚れてきたらトリミングセンターに連れていくこと。そう言えばこの辺の風物詩って洗濯されたカゲボウズだっけ。なんでも隠れカゲボウズ洗いの名人がいるとかいないとか。
うーん、今度ヌケニンでも洗ってもらおうか。ゴ―スどもは洗濯できるからなぁ。
今日も今日とてカゲボウズを運ぶ毎日。
中にはこっちに来た方が早いと思ったのか、何匹かのカゲボウズはこちらの軒下にぶら下がってくれた。収穫。ぷちっと。
「チョロネコヤマトのカゲボウズ配送サービスです!」