ある日、ソルロックは友人のルナトーンに言いました。
「我が友ルナトーンよ。この荒野を一人孤独に歩くあの青年のマントをどちらが脱がせることができるか、ひとつお手合わせ願いたい」
ルナトーンはとても不思議に思いました。
「――あのさ、ツッコミどころ多すぎてどこから指摘すればいいんだか分かんねぇんだけどもね、お前イソップ物語の『北風と太陽』的なことしたいわけ?」
「いかにも。さすが我が友ルナトーン、聡明かつ博識である」
「お前は愚鈍かつ凡庸だけどね。とにかく『北風と太陽』を再現するにはオレじゃだめなわけさ。オレは『月』なの。『MOON』。わかる? それとここは国道沿いの一般歩道で荒野じゃねぇし、あいつ青年じゃなくておっさんだろ?! 着てるのは背広! しかも勝手に孤独にすんじゃねえよ、多分妻子持ちだよ」
そうだったのです。ルナトーンの言う通り、そこはたくさんの自動車の行き交う国道。歩いているのは入社十八年目のベテラン商社マンでした。
しかし、次のソルロックの言葉はルナトーンの想像を遥かに超えていました。
「なるほど。我が友ルナトーンは非力なゆえ恐れをなし――」
「なしてねぇよ! どこをどう解釈してそうなんだよ! てかおっさんの背広脱がして何が楽しいんだよ?!」
「不満かね? ならば彼女たちではどうだろう?」
おっさんの後方を、スカートの短い女子高生が三人、笑いながら歩いていました。
「彼女らのスカートをめくることが――」
「受けましょう。我が友ソルロック」
ルナトーンはとても単純な性格でした。
こうしてルナトーンはソルロックと「女子高生のスカートめくり対決」という公序良俗に正面から反発するような勝負を買ってしまったのです。
「まずは私からいこう」
ソルロックは得意の日本晴れであっという間に辺りをカンカン照りにしてしまいました。
しかし女子高生たちはカバンからうちわを出してあおいだり、「マジあちぃんだけど!」というだけで、当たり前すぎることですがスカートはめくれません。
ちなみにさっきのおっさんは背広を脱ぎました。
「甘い! 甘すぎるんだよソルロック君! キミは砂糖か? 佐藤君か? こうするんだよ!」
ソルロックは突然キャラが変貌したルナトーンを黙殺しました。
ルナトーンは得意のサイコキネシスでスカートをフワリと浮かせます。
「きゃっ! ちょっと、なに!」
女子高生たちは必死に手でスカートを押さえます。
「もうちょっと――このっ――よっ――」
こうなってしまったらもうただの変態です。
「――失望だよ、我が友ルナトーン」
ソルロックはため息をついてそう言いました。
我に返ったルナトーンは、そこはかとなくおぞましい気分に駆られました。
「――なぁ、我が友ソルロック」
「なんだクソ野郎」
今ちょっと私自身も驚きました。
「(えー?! こいつ何様だよ……)いや、なんでもない。ただ、ポケモンは誰しも一度は過ちを犯すものだと思うのだ――」
「で? 自らの愚行を大目に見てほしい、そういうことかね? 愚鈍かつ凡庸なルナトーンよ」
「(――イライラやべぇ。大体こいつが先に提案したんだろうが。でも言い返すのもめんどくせぇ。金輪際、こいつの暇つぶしには付き合わん。てかこいつの目キモ)はは、そういうことでは――もう調子に乗りません。見逃して下さい」
「いいだろう。ただ今日から貴様のことを『スケベクチバシ』と呼ぶが構わんか?」
「いや、構う。それは認めない。認めるわけにはいかない」
ソルロックはルナトーンを無視し、「思い付きだったが、結構ゴロが良いなぁ。ツイッターで呟こ」とかなんとか言っています。
「マジ勘弁――てかお前、ツイッターいつ始めたの?」
「スケベクチバシ! 貴様口がきけたのか?!」
「黙れよ羅針盤」
その日のソルロックの呟きには、コメントが殺到しました。
―― この物語から得られる教訓 ――
「スケベクチバシに今度飲もうってw」――ガバイト
「親近感沸くな、悪い意味で」――オニドリル
「るなとーんさんは、すけべだったんですか? しょっくです」――ミミロル
「wwwww」――ゲンガー
「情報化社会だいきらい……」――ルナトーン改め、スケベクチバシ