家がゆれた。もう、だめかと思った。いや、だめなんだけど、うん、だめなんだ。この状況は非常にマズい。嘘だろォ?今日家に俺以外いねぇぞ?やべぇぞ。ああああ、どうする俺!
落ち着け。そうだ、まず落ち着いて今の状況を整理するんだ。えっと……こんな時に限って物の名前が思い出せねぇ!チキショー!ふざけんのもいい加減に……いや、今はこんなパニクってる場合じゃねぇ。落ち着け。落ち着け俺。餅つけ。
よし、まず自分の名前から確認だ。俺は葡萄。ミノムッチの葡萄。名前はまだな……いや、名前は葡萄?とりあえず俺はゴミのミノのミノムッチだ。それは間違いない。そしてニックネームがブドウなんだ。そうだった。よし、ちょっと落ち着いてきたぞ。よしよし。
そう、俺は家にいた。俺の主人は確か……今日はいとこの家に泊まりに行くとかなんとかで一日いない。そんで、そのいとこは虫が嫌いだから俺は家で留守番……あーまたなんかイライラしてきた落ち着けよ俺。そんで、次だ。さっさと次いこう。家がゆれた。急にゆれた。そして俺はこれ、この……名前が出てこねぇ!えっと……そうだ!たんす!これは、たんすだ。This is たんす。このたんすの下敷きになったんだ。
なんか全然話がまとまってねーなぁ。とりあえず、俺は今、たんすの下敷きになっているわけで身動きがとれない。重要なのはこれなんだ。動けない。重さは感じるが痛みは感じない。……え?これってやばくないか?ショック症候群?え、そうなのか、そうなの?え?うそーん。
なんか妙に落ち着いてきたぞ。ん?動けない……わけでもなさそうだ。少しだけだがばたばたできる。ばたばた。思い切って葡萄前進でもしてみるか。いや違う、匍匐前進や。あかん、あれじゃブドウ前進やないかぁぁぁあ、でも俺名前がブドウだから間違っちゃいねぇのか。あ?う?紛らわしいなぁ全く。ばたばた。ばたばた。
っていうか待てよ?俺、とくせい「だっぴ」じゃなかったか……?いや、まじで。だっぴすればここから出れるよな。そうだよな?よし、いっちょやってみっか。葡萄のだっぴ……
▼ブドウ は ミイラに なった
……?ミイラ……?葡萄がミイラになったらただのブドウ酒だぞ?え?いやいやいや……。ミイラ?何故ミイラ?
いやーな予感。このたんす……もしかして……
「オイたんす。お前まさか」
返事はない。でも、このたんす、小刻みに震えてやがる。笑ってるぞコイツ。ふざけんな。見事にやなよかんが的中しちまったじゃねぇか。
「お前……たんすじゃなくてデスカーンだな!」
「バレたか。そして私はデスカーンではない。マスカーンだ。お前が葡萄であるのと同じ的な意味で」
「……いや、いいんだけどよ。お前がポケモンなら話がはやい。そろそろどいてくれないか?」
やっと……やっと解放される。このはっきり言ってメタボ感溢れるマスカット…じゃなくてマスカーンの下敷きから卒業できる!やっほい!
「それは、残念だが不可能だ。私はここでずっとたんすとして生きてきた。それ故、動くことを忘れてしまったようなのだ」
……嘘だろォ!?
とある静かな一軒家。大きな地震の余震が続く中、哀れにもがく葡萄が一匹。
「だれでもいいから、俺とマスカーンのでぃすたんすを離してくれよぉ……」
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地震直後のチャットでうまれた作品。
実はカレー屋が「ミノムッチって葡萄っぽい」と影から教えてくれた……というのは秘密。