プクリンのギルドに入門(仮だけど)して二日目――――――
海岸で……不思議なことが起きた。
確か……いつもの通り、ボーっとしてたんだけど……よく思い出せない。
気がついたら海岸で寝てたわけだけど……うん。
あれは本当に夢だったのだろうか……あの……金色の……なんだったっけ……
なんだかよくわからないけど……そこだけ記憶が曖昧だ。
何か大事なことを言われた気がするけど……
『心を通わせることのできる友が、近いうちに必ずできる』って言っていたことしかおもいだせない……どうなってるんだろう?
「そうねぇ……私が、一緒にやってあげようか?」
目が覚めた時に目の前いいたのは、薄緑の体と頭に大きな葉っぱを持ったポケモン、チコリータ。
私のことを『こんなの』って呼んだり、そこからどいてとか言っておいて、話しかけてくる、よくわからない性格の持ち主。気は強そうだけど。
最初はこれもまた夢かと思ったけど、つるのムチで半分叩かれながらゆすり起こされたんだから現実なのだろう。
「聞こえてる? 一緒にやってあげようか? って聞いてるの。」
うん。気のせいじゃないみたい。
こんなに早く一緒にやってくれるポケモンが見つかるとは思わなかったなぁ……
……でも、出会って10分も経ってなにのに、話を聞いただけで、『一緒にやってあげようか?』って言うかな……普通。
なんか怪しい……けど、本当の好意で言ってくれているとしたら……
うーん……どうなんだろうか……
「ん? なんなのよ。その疑りの目は。別にいいのよ? そっちがいやなら。私は別に一緒にやってあげなくたっていいんだから。」
とっさに首を横に振り、『別にそんなこと思ってないない』といった感じの表情を作って、チコリータに向き直る。
ここまで来ておいてやっぱり一緒にやってあげないとか言われたら、私泣くよ。きっと。怪しいとは思っていても。
……でも、一応聞いておきたいことがある。
どうして、話を聞いただけで一緒にやることにしたの?
――――――ということを。
「ん〜? 何か言いたげね? 何? なんでいきなり一緒にやってくれることになったのかって? …………そ、それは……」
一瞬、物凄く複雑な顔をした後、しばらくの沈黙が続く。
そのあと、くるりと後ろをむき、何やらもじもじとしている。
何がそんなに言いにくいのだろう。
「そ、それは……な、なんとなくよ! なんとなく! なんとなーく、かわいそうだったからやってあげようと思っただけよ!」
物凄く動揺しているようだ……何かまずいことを聞いてしまったのだろうか。
はっきり言って、どこにそんなに恥ずかしがる要素があるのかがわからない。
よく見ると、さらに小さな声でぼそぼそと何かを喋っているようだ……が、上手く聞き取れない。
「別に……私も……興味が……とか……友達が……とか……そういうのじゃ……ぶつぶつ」
声が小さくてよく聞こえない……
もう一度大きな声で言ってくれる? って頼んだら何故かつるのムチでたたかれた……痛い。
結局、どうして一緒にやってくれることになったのか、ということの詳しい理由は聞けずじまい……
「と、とにかく、今日は荷物をまとめに家に一旦帰ってくるから、明日。明日の朝、交差点で待ってて! いいわね! 絶対に遅れないこと!」
つるのムチで私の背中をばしばし叩きながら走っていく。
結構痛いんだよ……つるのムチ。
そう言えば、細かい集合時間を聞いていない……遅れるなとか言っておきながら詳細時間を教えないって……
細かい集合時間を聞こうとチコリータの走って行ったほうに振り向くが、その姿は既になかった。
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……うん。これが昨日の出来事だよね。
昨日の出来事を頭の中で整理して、目をこすりながらベッドから起き上がる。
まだ外は薄暗い。もう少し寝てようかな、とも思いつつ、身支度を始める。
朝、一番最初に毛づくろいするのだが、毎日時間がかかる。
特に、尻尾。寝癖が酷い。それに、よだれでべとべとになってるときもある。
夜寝るとき、尻尾を体の前に持って行って、抱き枕のようにして寝るのだが、気づかないうちにしゃぶっていることがあるらしい。
口の中毛だらけだったからすぐに気がついたんだけど。尻尾がべとべと&ぼさぼさになっててひどかった。
何度も寝るときは尻尾を抱き枕にするのはやめようと思ったけど……癖になっちゃって、知らない間にそういう体勢で寝てる。
しょうがないと思って最近はあきらめてるけど。
尻尾の毛づくろい、完了。結構な時間がかかる。毎朝。
鞄の中身をチェックして……ともだちリボンしか入ってないのはわかってるけど。
一度はずしちゃったら自分でつけれないのが難点、だろうか。こんなことじゃあほとんどのリボン系統使えない気がする……
リボン、かぁ……そういうのあまりつけたことないなぁ……ともだちリボンだって頭につけれなかったし……きっとそういうのは私には似合わないと思うけど。
相変わらずすっからかんな弟子の部屋を横目で確認し、広間へ出て、梯子を上る。少しづつだが、のぼるのにも慣れてきた。
プクリンのギルドの入口である鉄格子をくぐると、そこには既にチコリータの姿があった。
まだ薄暗いのに……自分でもかなり早起きしたつもりだったんだけど。
「遅い! 何分待ったと思ってるのよ! 朝日が昇るずっと前から待ってたのよ? それなのにあんたはねぇ……」
朝日が昇るずっと前って……どれだけ待ってたんだろう……
ん……? チコリータの背中に、何か大きな物が。
背負っている、といったほうが適切だろうか。自分の体と同じくらいのを背負って普通に立っている……
「さぁ、早く案内して。これで私も探検隊になれ……こほん……一緒にやってあげるんだから。」
本当に早く案内しないとまたつるのムチでたたいてきそうな状況だったので、おとなしく案内した。
何かとすぐつるのムチでたたいてくるんだから……どうにかしてほしい。
まだ朝早いので、下ろしてもらって鉄格子を閉めておく。どうやって開けたり閉めたりしているのかは謎だけど……
梯子を降り、一番下の階へ。
ここがプクリンの部屋……と、説明しようと後ろを振り向く。
後ろにはチコリータがついてきているはずだったのだが、そこに見えるのは梯子だけ。
一瞬チコリータが梯子になってしまったのかと思った。
……上を見上げると、鞄が梯子と壁にひかっかって動けなくなっているチコリータの体が見えた。
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「まったく……どうなってるのよ……この建物は……」
梯子に引っかかってたのを助けた後、ずっとこの調子だ。
プクリンのギルドのヘンテコな構造に疲れた様子で、ぐったりとしている。
やっぱりこの建物の構造ははじめてくるポケモンにとっては疲れるものらしい。
また随分と感情の起伏が激しいポケモンと知り合っちゃったもんだなぁ……
まぁ、それは置いておいて、ペラップに報告を済ませた後にプクリンの元へ行き、正式入門することになった。
ここに来るまでに三日……短いようで長かったようで……でも、家にいた時とは比べ物にならないくらいいろいろと出来事があって……
なんというか……とても充実した三日間だった気がする。
どんなポケモンであっても変わらない接し方をするプクリンに多少驚きつつ(いい意味で)、チームの登録を済ませた。
済ませた後に、プクリンから予想外の言葉が……
「おめでとう! これで君たちは正式入門したことになったよ! じゃあ、早速君たちのチーム名を教えて!」
「チーム名? そんなもの、考えてないわよ? イーブイ、あんた何かいいチーム名ない?」
チコリータに同じく。チーム名なんて考えてなかった……なんかいいのあるって聞かれても、私も考えてないから困ったことになった。
うーん……うーん……よし! 決めた!
これでどうだ!?
「………うん。さ、最後に聞いても……いい……かな? 本当に、その名前でいいの?」
「イーブイ……あんたそれ、本気で言ってるの?」
もちろん。私はいつでも本気だよ! ……嘘だけど。
何故かプクリンとチコリータが引いてる。なんでこんな反応なの?
とーってもいいネーミングだと思うんだけどな……
ほら、とってもいいと思わない?
『ぶいさんず』!
「………わかった。じゃあ、『ぶいさんず』で、登録するよ♪ とうろく♪ とうろく♪ たぁー!!!」
「ちょ……え、ちょっと待ってよ……本当にこれで登録されちゃったの……?」
「うん♪ こんなチームの名前、初めて聞いたけどね。」
「……………………………イーブイに任せた私が悪かった……はぁ。」
え? え? なんでそんなにがっかりしてるの?
なんでプクリンはそんな顔してるの? わけがわからないよ!
すっごくいいじゃない! 『ぶいさんず』! なんでこの名前のよさがわからないのかなぁ……
とにかく、これで私たちはこれで完全に弟子入りできた。
チコリータは始終不満そうな顔してたけど、どうしてなのかよくわからない。
ペラップによると、明日から依頼を受けることができるらしいけど……
初めてだからしばらくの間はペラップが依頼を選んでくれるらしいから、掲示板の前には行かなくてもいいって。
そう言えば……掲示板を見ようとすると、ペラップが毎回どこからともなく飛んできてなんやかんやで理由をつけて追い払おうとしてくるんだけど……
きっと、難しい依頼はまだ早いってことだよね。
ふぅ……ちょっと疲れちゃったから、足らに備えてお昼寝しようっと……
チコリータはもう隣で寝てるし……そりゃあ日が昇る前から起きてれば眠たくなるよ。
まぁ、そんなこんなで、私たちの探検が、始まった。
後篇に続く