「うーん、里親募集中か」
ダルマは1人である看板を見つめていた。彼らは一旦解散し、各自鍛練に励むことにしたのだが、その合間に彼は散歩をしていたのである。セキエイ高原は高原と名乗るだけあり平地が広がっており、各地にポケモンが放し飼いされている。
そのような中、彼はある張り紙に目をとめたのだ。張り紙には「里親募集……色々います。中には四天王のポケモンが親の子も」と太字で書かれている。
「今3匹しかいないからなあ。戦力アップとしては手っ取り早いかも」
ダルマは周囲を眺めた。高原の敷地の一部に囲いがあり、内側には小さなポケモンがたくさんいる。また、囲いの近くには小屋が幾つか立ち並ぶ。
「あの小屋が受け付けかな? せっかくだから行っておこう」
こうして、ダルマは意気揚々と走っていくのであった。
小屋の内部には藁が敷き詰められてあり、そこで何匹かのポケモンがうとうとしている。管理人らしき人はいないが先客なら既に来ていて、品定めをしているようだ。坊主頭にサンダルを履き、膝より少し下まである綿パンツに黒のTシャツを着ている。幾分日に焼けており、筋骨隆々とまではいかないが割と鍛えられている。
「……なんか見たことある気がするけど、もしや」
ダルマはその先客に背後から近づき、声をかけた。
「父さん?」
「む、ダルマではないか! なぜお前がここに」
なんという巡り合わせだろうか。ダルマが話しかけた相手は自分の父親だったのだ。驚くダルマを気にすることなく、父は手をポンと叩く。
「そうか、わかったぞ。遂にバッジが揃ったからここまでやってきたんだな? まさかとは思ったが、本当に成し遂げてしまうとはな。しかもこんなに早く! さあ、わしに8個のバッジを見せておくれ」
「……はいはい」
ダルマはため息をつきながらバッジケースを開いた。そこにあるのはもちろん8個のバッジではなく、ウイング、インセクト、レギュラーの3個のみである。
「……なんだ、8個ないではないか。さてや、どこかで落としたのか?」
「いやいやいや、これが全部だよ。8個揃ったというのは父さんの単なる思い込み」
「なんと……しまった。このドーゲン、一生の不覚! ……なーんてな」
父、ドーゲンは苦渋に満ちた表情をしたと思うと、舌を出しておどけてみせた。
「俺もそこまで馬鹿じゃない。色々大変だったそうだな。よく生きて戻ってきた」
「あー、やっぱり知ってた?」
「当たり前だ。早朝のニュースでお前が大犯罪者だと言われてびっくりしたぞ。だから助けを乞うために大急ぎでセキエイまで駆け付けたのだ。まあ、逆に俺が騒ぎの鎮圧を頼まれたわけだがな。ははははは」
ドーゲンは腹の底から笑ってみせた。ダルマの手から汗が滲む。
「と、父さんも参加するの?」
「ん、それはつまり、ダルマも参加するのか?」
「うん。どのみち、がらん堂をどうにかしないと俺の無実は保証されないからね」
「そうか。ところで、ちゃんと取り引きはしといたか? 俺はポケモンリーグの出場権を引き出したが、お前はこういうところで甘いからなあ」
「それなら大丈夫。しっかりした友人がいたからさ。しかし……既に認めた1人って父さんのことだったのか」
ダルマは父を感慨深く見回した。ドーゲンは子供のように興奮している様子で、よほど嬉しいようだ。
「ふふふ、1度は諦めた夢が今になって実現するとは思わなかったぞ。やはり長生きはするものだな」
「……父さんまだ45じゃないか」
「まあ、そういう細かいことは言うな。で、ここに来たということは……里親でもやるのか?」
「うん。今はどのポケモンがいるの?」
「そーだな。俺もちょっと興味があったんだが、さすがに人気でほとんど残っちゃいない。ここにいるやつらは大体親が決まっているらしい」
「そ、そんなまさか……じゃあ、何が残ってるのさ?」
ダルマはダメ元で聞いてみた。するとドーゲンは小屋の隅にいる2匹のポケモンを指差した。1匹は、黄色と茶色の縦縞につぶらな瞳の頭を持ち、頭頂部に双葉が生えているポケモン。もう1匹は大きな耳と尻尾が特徴的で、藁ベッドの上で体をくねらせている。
「今残ってるのはイーブイとヒマナッツだけだそうだ」
「はあ。ヒマナッツはともかく、イーブイが残ってるなんて珍しいな。テレビでも特集が組まれるくらいだから、人気ありそうなのに」
「まあ、ジョウトは進化の石が中々手に入らんからな。それで、連れていくのか?」
「そうだな。じゃあイーブイだけ……」
ダルマがそこまで言いかけると、父は叱咤が飛んできた。
「こらダルマ、お前はヒマナッツとイーブイを離ればなれにするつもりか! そのような薄情なことをするとは、父さん悲しいぞ!」
ドーゲンは子供でもわかるような嘘泣きをしてみせた。ダルマは引き気味ながら、こう宣言した。
「う……わかったよ、両方連れていく。だから静かにしてくれ」
「よーし、よく言った。さて、そろそろ管理人も戻ってくるだろう。さっさとサインしとくんだぞ」
そう言い残すと、父は外へ向かっていった。ダルマは慌てて引き止めようとする。
「ありゃ、これからどこ行くの?」
「うむ、暇だから練習場にでも行ってくる。お前もしっかり鍛えとくんだぞ、今回の旅は中々タフになるだろうからな」
ドーゲンは振り返ることなく、右手を上げて去っていくのであった。
「……今回の仕事、大丈夫かな。父さんは色々厄介な事件を巻き起こすからなあ」
・次回予告
セキエイ高原を散策していたユミも、ある人物と出くわす。彼女は思い切って自分の悩みを相談することに。次回、第36話「ライバルを持て」。ユミの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.16
実に33話ぶりに登場したダルマのお父さん、名前は最初なかったのですが丁度良いのを思いついたのでこれにしました。ダルマは禅宗(座禅で悟りを開く宗派)の開祖、ドーゲンは日本に曹洞宗(禅宗の一派)をもたらした僧侶です。親子につける名前としては逆かと思いましたが、後付けなら仕方ない。
しかし、登場人物が5人から2人になると1人あたりのセリフが増え、文字数は減ってるのに話が進む。登場人物がいっぱいいる作品の作者さんが大変なんだと実感しました。
あつあ通信vol.16、編者あつあつおでん