「……なーるほど。彼の正体、突き止めましたよ。生きていたのですねー。彼女の研究も引き継いでいたとは……そこにいるのは誰ですかー?」
「ああ、心配ご無用。俺です」
「そーですか。どうしたのですか、あなたも彼の正体が気になるのですかー?」
「いえいえ、違います。俺はあなたを連れ去りに来たんですよ」
「な、なんですっ……て……」
「……よし、任務完了だ。後はこれを回収してコガネに戻るだけ。悪いな、これも金のためだ」
「あ、ダルマ様!」
月が水を得た魚の如く輝く夜、ダルマはセキエイ陣営と合流した。場所はキキョウシティポケモンセンター、皆くたくたな様子であちこちに座り込んでいる。
「……センターが開いてるということは、もしかして?」
「はい、がらん堂の拠点をまた1つ崩したことになります」
ユミは笑顔で受け答えした。疲れは隠せないみたいだが、充実感もまたにじみ出ている。
「なるほど。やっぱりキツかった?」
「ええ。人数が多いうえにセンターの予備電源で回復してくるので、しばらくは均衡していました。ところが、いきなりセンターを放棄してどこかに行ってしまいました」
「どこか? それって、例の交換システムを使ったのかな」
「おそらくは。予備電源が切れる前に脱出したのでしょうか?」
「お、帰ってきたね」
ちょうど良いタイミングでワタルが話に入ってきた。彼の自慢のマントはほこりまみれになっており、戦いの激しさを物語る。
「ワタルさん、ただ今戻りました」
「おかえり。今回は全てが上手くいって、被害はほとんどなかった。ジョバンニさんとカラシ君という重要な戦力のおかげだ。あ、もちろんダルマ君もね」
「ありがとうございます。……あれ、そのジョバンニさんとカラシはどこですか?」
ふと、ダルマは辺りを見回した。センターにいるのはショップの店員やジョーイを除けば、ソファーで寝ているドーゲン、日記を書いているボルト、変装の練習をするハンサムだけで、ジョバンニとカラシはいない。
「ジョバンニさん? 彼なら自宅のポケモン塾で調べものだそうだよ。けど、ちょっと遅いな。カラシ君の方は何も連絡がないんだ」
「な、なんだか怪しいですわね」
「確かに。少し様子を見に行った方が良さそうだな。君達も一緒に来るかい?」
「はい、せっかくなのでご一緒します」
「そうですね、先生の調べものも気になりますし、私も行きます」
「ジョバンニさーん、いないなら返事してくださーい」
「ダルマ様、それは無理ですよ」
「そりゃそうか、ははは」
ダルマ達はジョバンニのポケモン塾に来ていた。2人が面識を持った場所である。部屋は暗く、人探しどころではない。
「えーっと、電気のスイッチは……あ、ここか」
ダルマは壁をまさぐり電気のスイッチを入れた。少しして蛍光灯が光り、目がくらむ。
「こ、これは! 部屋が滅茶苦茶に荒らされてるじゃないか!」
「そんな、先生!」
視界が開けた先にあったもの。それは以前訪れた時とはまるで違うものだった。本棚の本は投げ出され、ジョバンニのものらしき机の引き出しは全て引っ張りだされてある。書類が足元に散乱し、まるで空き巣でも侵入したかのような惨状だ。これに動揺したワタルとユミを、ダルマはなんとかなだめる。
「……ユミ、ワタルさん、落ち着いてください。まず何が起こったのかを把握しなければ。これだけ荒らされています、まずは片付けてみましょう。手がかりが残っているかもしれません」
「……そ、そうだな。つい焦ってしまった」
「で、では1つずつ整理してみましょう」
3人は手分けして部屋の片付けを始めた。思いの外散らかっており、やや時間がかかる。
「これはここであれはあっちで」
「このファイルはあいうえお順に分けられているみたいですね」
「しかし、ポケモン関係と科学に関する資料ばかりだな。ポケモンリーグの優勝者、戦術の論文なんかもあるな。セキエイに持ち帰りたいくらいだ」
およそ15分ほど後、ようやくあらかたの始末はついた。ダルマは額の汗を拭いながら元通りになった部屋を眺める。
「ふう、これで大体終わりかな」
「……あの、ダルマ様。足りないものがあるのですが」
「足りないもの?」
「ここの、科学者略歴のた行とな行のファイルが見当たらないのです」
ユミは本棚を指差した。そこには「科学者略歴」というラベルの貼られたファイルが整然と並んでいる。が、なぜかた行とな行は行方知らずのままだ。ダルマは首をかしげた。
「た行とな行だけ? 部屋を荒らした誰かさんが持っていったのかな」
「しかし、それだけではジョバンニさんがいないことに説明がつかない」
ワタルの突っ込みに対し、ダルマは頭をかきむしった。そしてしばし唸り、一言ずつひねり出した。
「うーん、ジョバンニさんは調べものをしていたんですよね? 何か重要な事実を知って、他人に話すのを恐れたから連れ去った、というのはどうでしょう。あるいは単純に、こちらの戦力を削るためにがらん堂がさらったとか」
「なるほど。……いずれにせよ、ジョバンニさんがいなくなったのは僕達にとっては大打撃だ。急いで対策を考えなければ」
ワタルはまごつきながらポケモン塾を後にした。ダルマとユミも彼に続くのであった。
・次回予告
ジョバンニとカラシの失踪という一大事に、一同は頭を悩ませる。そんな彼らに、とんでもないニュースが飛び込んできた。次回、第50話「名誉の帰還」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.30
薄々気付く方もいるとは思いますが、最近は結構ストーリーを端折ることが多いです。ストーリーのメインや新キャラの顔出しにダルマを絡め、ダルマを中心に話を進めることでいくらか飛ばします。キキョウシティポケモンセンターの攻撃も、本来なら書くべきでしょうが説明だけに留めました。1話最大5000字しか書けないのと、大量の下っぱと長々戦闘させる技量がなかったためです。いつか外伝という形で書くかもしれません。
あつあ通信vol.30、編者あつあつおでん