「誰だよそこのチビ」 俺がどなたですかと『丁寧に』尋ねる前に拓哉が言い放った。思わず背中に汗が流れて「馬鹿」と拓哉を罵倒してしまった。背はあれだけど身なりからして明らか目上の人だろう、その人に向かってチビとは。確かにチビだけど。 そしてチビと言われて彼女は真面目そうな表情が一瞬で崩れた。 「あら。礼儀ってものを知らないのね」 「ァんだと?」 おいおい出会い頭でいきなり抗争状態か。本当にロクな奴じゃないぞ拓哉のもう一つの人格。って長いな。そうだ、良い呼び名思いついた。拓哉(裏)! これでどうだ。 いやいや、そんなことよりも話題を逸らそう。 「あの、俺たちを呼んだ用事ってのは──」 「そんなのどうでもいいんだよ、黙ってろ」 ダメだこいつ。ネジが八本以上足りてない。 「私は松野藍(まつの あい)。ポケモンカードゲームの制作に携わっている人間よ。翔君のお父さんにはお世話になったわ」 「父さんの知り合い?」 「ええ、上司よ」 「へえ! そうなんですか!」 父さんのことをいろいろ聞きたかったのだが、拓哉が妨げるせいで叶わぬものになってしまった。 「そんなことはどうでもいい。このチビに人に対する礼儀っていうのを教えてやる」 「それはお前だろ!」 と言い返したものの人の話まるで聞いてない。ダメだ、もうどうにでもなれ。風見も頭を手で押さえて日本海溝並に深いため息を漏らした。 「……はぁ。どうしても戦いたいなら戦ってあげるわ。その代わり、負けたら勝った方の言う事を一つ聞く」 「いいぜ。やってやろうじゃねえか」 更に雲行きが怪しくなってきた。どうしてこうなるんだ。松野さんは腋に置いていた鞄からデッキを取り出し、拓哉はポケットから無造作にデッキを取りだす。 「ってちょっと待てー! 対戦するのはいいけどここ公園じゃないか。プレイマットも何もないし」 「それが出来るんだな。ちょっと待ってろ」 さっきまで黙っていた風見が突然持っていたスーツケースを大切そうに地面に置いて、これまた大切そうに開く。開かれたケースの中には変なベルトが三本もついていた。 「『バトルベルト』という、うちの最新商品だ。これがあれば公園だろうと対戦が出来る。とりあえず二人ともつけてくれ」 いやいや、むしろ対戦を止めろよ! 真顔で突っ込みそうな俺をよそに、松野さんは素直にベルトをつけ、拓哉は渋そうな顔をするもベルトをつける。 拓哉のベルトは紫色。松野さんがつけたのは白色である。どちらもへその下の辺りから右ポケット側へとモンスターボールのようなものが合計六つ並んでいる。アニメのポケモントレーナーっぽい。 「起動させるためには手順がある。俺の言う通り動いてもらいたい」 拓哉は仕方なく言う通りを聞くという合図か、両手を力なく挙げた。頷いた風見は続ける。 「まず、ベルトに六つモンスターボールのようなものがついていると思う。一番右側の、いわゆる一番ポケット側のモンスターボールの真ん中のスイッチを押しながら、更にポケット側へ押してくれ」 二人ともボールの、ポケスペでいう「開閉ボタン」を押しながら更にポケット側へ押し込む。カチッという軽快なスイッチ音が聞こえた。 「そして今度は一番左側、つまりへその下のモンスターボールのボタンを押してくれ。押した後は危ないのでベルトの傍に手を出さないでほしい」 危ない? 少し疑問だったが答えはすぐ分かった。二人とも今度はへその下のボールの開閉ボタンを押すと、パソコンが作動するような電子音が鳴り始め、トランスフォームし始めた。 本当に何が起きているか分からない。ただ分かることはへそ側からポケットに向けての五つのボール、言い換えると最初に動かしたやつ以外の全てのモンスターボールが目にもとまらぬ速さでガシャガシャ音を立てて別の物へと変形しようとしていた。 「これがバトルベルトの『テーブルモード』だ」 五つのボールはプレイマットに形を変えていた。しかし、公式のプレイマットとは少し違う。テーブルにはバトル場、ベンチ、トラッシュ、山札を入れると思わしきポケット。そしてテーブルの左右にはカードを置くところが合計六つ。恐らく数的にサイドカードを置くところだろう。 テーブルの配置位置は微妙にプレイマットと違う。バトル場の後ろにベンチがあるのは同じだが、バトル場の右の方にトラッシュと山札を置くポケットがある。 それにしても腹から机を突き出しているようで少し滑稽だ。 「それじゃあテーブルの手前にあるボタンを押してくれ」 「これか?」 テーブルの一番右手前に指先と同じ程度の大きさしかないボタンがあるようだ。それを二人が押すと、テーブルの裏側からテーブルの脚が生えた。生えたっていうのも変か。 そしてベルトとテーブルのつなぎ目が外れ、完全に一つのテーブルとして独立した。 「このテーブルだけで独立したものの名称を『バトルテーブル』、と言う。さあこれで勝負の準備は整った。デッキをデッキポケットに入れてくれ」 二人とも指示通りデッキをデッキポケットに突っ込む。 「最後にデッキポケットの隣の青いボタンを押してくれ」 デッキポケットの隣には青いボタンと赤いボタンが縦に並んでいる。そのうちの青い方を押すと、デッキがオートでシャッフルし始めた。どうやらデッキポケットに秘密があるようだが、これでわざわざ自分でシャッフルしたり、相手にシャッフルさせたりする手間が省けるもんだ。 「バトルベルトを使った場合は少しだけルール変更として、サイドカードは自分のデッキの下から取ることになっている。システム的に仕方がないことなんでな、勘弁してくれ」 シャッフルが終わり、デッキの上からカードが(おそらく)七枚デッキから突き出る。そして左側のサイドゾーンにいつの間にかサイドカードが三枚置かれていた。おそらく山札からカードが突き出た時にサイドもおかれたのだろうか。 「それは手札だ」 拓哉と松野さんは突き出た七枚を左手に持つ。 「これで対戦準備の完成だ」 と言えど、風見のペースになってしまったので拓哉の戦意は見るからに衰えている。そりゃあ、あんだけ鋭気に満ちていたのに長々と説明をされれば気も削がれるのは頷ける。 ところが松野さんはそうでもないようだ。いつでも来いと言わんばかりの余裕の表情だ。 「私をブッ潰すんじゃなかったかしら?」 煽りも上手い。 「ケッ、ほざきやがって! ブッ潰してやる!」 隣にいる風見は勝負が始まったのをニヤリと眺望する。拓哉も拓哉だが風見も風見だ。もうやだこいつら。
風見「今日のキーカードというよりは次回のキーカードだな このスタジアムが場にある限り超、悪タイプは逃げ放題だ! これで試合を有利に運べ!」
月光のスタジアム サポーター おたがいの超ポケモンと悪ポケモン全員のにげるエネルギーは、すべてなくなる。
スタジアムは、自分の番に1回だけバトル場の横に出せる。別の名前のスタジアムが出たなら、このカードをトラッシュ。
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