「皆さん。今回のがらん堂討伐、ご苦労でした。結果は悲しいものでしたが、これで任務完了です」
一夜明け、ダルマ達はコガネシティのポケモンセンターに集まっていた。がらん堂の崩壊した今、街は日常を取り戻したようである。当たり前のようにトレーナーがポケモンの回復を行い、トレーニングに励む。
「……ということは、俺達全員ポケモンリーグに参加でくると?」
「うん。ダルマ君にユミ君。カラシ君、ドーゲンさん、ボルトさん、ハンサムさん、ジョバンニさん、ゴロウ君。皆さんにこれを渡しておきます」
ワタルは一同に紙を配った。それには「ワタル」という文字とカイリューが彫られた判子が押されている。また、「この書類を持つ者にポケモンリーグの出場権を与える」と書かれている。ダルマは目を通し、念のために確認した。
「あの、これは?」
「許可証だよ。これがあればチャンピオンロードに入れる。後は256人の1人に入れるように頑張ってね」
「ちょ、ちょっと待ってください。俺達の報酬は『ポケモンリーグの出場権』ですよ? これでもし出られなかったら……」
ダルマは慌ててワタルに抗議した。しかしワタルは意に介さない様子である。
「ふふふ、その心配はいらないさ。今の君達なら十分やっていけるよ。僕の目から見ても分かるくらいにたくましくなったからね」
ここで、カラシがワタルに近づいた。それから許可証をワタルに差し出した。表情はいつにも増して険しく、眉間にひびが入りそうな程だ。
「……ワタルさん、1つ言わせてくれ。俺は……」
「俺は?」
ワタルが問い返した。カラシは踏ん切りがつかないのか、中々言いだせない。ここで、事情を察したダルマは助け船を出した。
「おいカラシ、恥ずかしがるなよ。カラシは報酬に現金も欲しいそうなんです。家族に送るとのことですよ」
「おい、余計なことを……!」
「なんだ、それくらいお安い御用さ。今は無理だけど、セキエイに来たら幾らか工面しよう。まずは500万円くらいかな?」
「そ、そんなにですか?」
ダルマは目を丸くし桁を数えた。カラシも思わず唾を呑む。
「いや、むしろ安いくらいさ。発電所での活躍がなければ僕達の勝利はなかったわけだしね。後に正式な報酬を用意しとこう」
「なるほど。良かったな、カラシ」
「あ、ああ。……済まない、ありがとうございます」
カラシはワタルに一礼した。ついでにダルマも頭を下げる。ワタルはダルマの行動に首を捻ったが、すぐに切り替えた。
「それじゃ、僕はそろそろセキエイに帰るよ、始末書をたっぷり書かないとね。ポケモンリーグで会えるのを楽しみにしてるよ」
ワタルはそう言い残すと、手を振りながらポケモンセンターを出ていった。そして、カイリューにつかまり空へ飛び立つのであった。
「行ってしまったか。ふむ、俺達も一端家に戻った方が良さそうだな。ポケモンリーグまではまだ時間があるし、たまった仕事を片付けなくてはな」
「そうだな。私も1度本部に合流しておこう、給料日が近いものでね。またスロットでもやっておくとしよう」
「じゃあ僕は工場の掃除でもしておくよ。ポケモンリーグで知名度を上げて、今度こそレプリカボールを売らないと」
ワタルの退出に釣られたように、ドーゲンにハンサム、ボルトも相次いでポケモンセンターを後にした。残ったのはゴロウ、ユミ、カラシ、ジョバンニ、ダルマである。その中で次に動いたのはジョバンニだった。
「私はがらん堂の屋敷を訪ねてみますかねー。私が捕らえられていた部屋にあった数々の品は、ナズナの遺品でした。がらん堂の生き残りに大事にするよう伝えとかないといけませーん」
ジョバンニはこまのように高速で回転しながらがらん堂に向かった。道行く人々の度肝を抜いたのは言うまでもない。
「俺も行かせてもらうぜ。今回は礼をさせてもらうが、ポケモンリーグでは必ず勝ってみせる」
残り4人となったところで、カラシもダルマ達にしばしの別れを告げた。遂にいつものトリオにまで解体されてしまった。
「みんな行っちゃったなあ。ゴロウとユミはどうする?」
ダルマはぼんやりと2人に尋ねた。するとゴロウは荷物を手に取りダルマに宣戦布告をした。
「俺は1人で行くぜ。もうダルマに負けっぱなしの俺じゃないからな!」
「ふーん、強くなったようには見えないけどな」
「ふっふっふっ、脳ある鷹は爪を隠す。ポケモンリーグで泣いても知らねえからな!」
ゴロウは上機嫌でその場を去っていった。ダルマはただ1人残ったユミに問いかける。
「ゴロウは1人か。ユミは俺と一緒に来る?」
「……ダルマ様、私はダルマ様のライバルです。がらん堂の件が終わった今、私達に馴れ合いは許されません」
突然のお別れ宣言。ユミの瞳はバトルでもないのに燃えていた。ダルマはのけぞりながらもこれに対応する。
「え、だからと言っていきなり豹変しすぎじゃあ……」
「そのようなことはありません。ともかく、私も冒険家を志す者。1人でセキエイ高原に向かいます。それでは失礼します」
ユミはダルマに背中を向けると、さっさと歩いていった。ダルマは半ば唖然としている。8人のグループは瞬く間に離散してしまったのである。
「おいおい、全員ばらばらかよ。仕方ない、大急ぎで家に帰るか。ワカバから東に進めばチャンピオンロードにたどり着くはずだ。いざ、セキエイ高原へ!」
ダルマは気を取り直し意気込むと、リュックを背負いコガネシティを経つのであった。
・次回予告
数々の困難を乗り越え、ダルマはセキエイ高原に戻ってきた。一息ついた彼は様々な思いをめぐらす。次回、第71話「到着」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.51
さて、いよいよポケモンリーグですね。本当に長かった。しかし本番はここからですよ。なんたって次回かその次からは、平均2〜3話使うバトルを何回も繰り広げますからね。がらん堂との勝負どころではありませんよ。まあ、全員既出のキャラ使いますし、あの人とあの人以外は楽でしょうか。展開考えるのは大変ですが。
あつあ通信vol.51、編者あつあつおでん