日も暮れた、深い深い山の中。歩いてくるのは、一人の幼い子供。
うつむいて、かすかな嗚咽を漏らしながらも、細い山道をとぼとぼ進んでいく。
――彼女の親は今日、死んだ。
彼女の進む先に、目的地など存在しない。行く当ても無い。すでに来た道も見失った。
それでもただひたすら、小さな足を動かし、彼女は歩き続けたかったのだ。
その悲しみが消えうせるまで……。
引いていく波のように、だんだんと悲しみも心の底へ戻っていった。重苦しいものはまだ残っているけれども。思考力を取り戻した彼女は、おうちにかえりたい、と思った。
でも帰れない。深く入り込み過ぎて、後になってようやく気付く。大抵の子供がそうするように、彼女もまたそうだった。とたんに、また悲しさがこみ上げて来るようだった。
「おかあ、さん」
もちろん、その呟きに対して彼女の母親が来てくれるなどということはありえない事なのだ。その呟きを聞いていたのは辺りの木々と、空で輝いている三日月くらいだろう。
少女は、立ち止まった。そして、一番そばに生えていた木の根元に座り込み、そのまま動かなかった。疲れて、眠ってしまったようだった。
その時彼女が一番見たかった夢は、きっと父親と母親の夢だっただろう。
【好きにしていいのよ】