「では、使用ポケモンは3匹としよう。準備は良いかい?」
「ええ、いつでも」
俺達は病院の庭に足を運んだ。俺とマーヤは対峙し、その他は見物をしている。マーヤは車椅子だ。自由に歩けないってのはかなり厄介だよな。俺も旅をしていた頃は、怪我をする奴らを大勢見てきた。その中には旅を止める者もいた。健康こそ全ての基盤だと心に留めたもんだ。まあ、その俺が後に海に身を投げるのも皮肉な話だが。
「テンサイさん頑張れー!」
外野ではナズナ、イスムカ達が口々に声をかけている。所詮外野に勝負を左右することなどできねえってのに、呑気な奴らだぜ。
さて、俺とマーヤはほぼ同時にボールを手に取った。わざわざタイミングを合わせる必要は無い。あの男はかなりの手練れだってことはすぐにわかっている。互いに上手い具合に勝負を始められるだろう。
「よし、始めるぞ。出でよシャワーズ!」
「いくぜカイリュー」
マーヤがボールを投げた直後に俺は1匹目を繰り出した。俺の先発は切り札カイリュー、マーヤのポケモンはシャワーズだ。シャワーズと言えば、耐久、ス
カーフ、アタッカー、なんでもこなせる優秀なポケモンである。特に特性のうるおいボディを使った耐久型は凶悪と評判だな。さあ、どう来る。
「まずは様子見だ、りゅうのまい」
「ふふふ、予想通り。シャワーズ、にほんばれだ!」
初手はりゅうのまい。特性のマルチスケイルのおかげで、氷技であってもかなり耐えられる。一方シャワーズはと言うと、尻尾を箒のように左右に振り、空の雲を掃除してしまった。
「にほんばれ……晴れパか」
「その通り。このポケモンにはちょうはつが飛んできやすいけど、力押しもできるから使いやすいんだよ」
「なるほどな。ま、晴れたところで構うこたあねえ。げきりん、決めてやりな」
「なんのこれしき、れいとうビーム!」
カイリューは頭から湯気を放ちながらシャワーズをぶん殴った。速さ、力共に申し分ない。だが、シャワーズはこの猛攻をしのいだ。しかもまずいことに、懐から半透明の石を取り出した。あれはこおりのジュエル! シャワーズは強化されたビームを一閃、カイリューを貫く。……シャワーズの攻撃が終わると、カイリューは力無く崩れ落ちた。
「な、これは!」
「どうだい、シャワーズの耐久は伊達じゃないだろ? 本当は初手で撃つべきだろうけど、場を整えるのも大事だからね」
「……こいつぁ一本取られたぜ。だが、これくらいのフォローはできて当たり前だ。スターミー、頼むぜ」
俺はカイリューを引っ込め、スターミーを起用した。見た目は星を2つ重ねただけのポケモンだが、俺の6匹の中核、じゅうりょく要員には違いない。今はそんな余裕無いがな。
「そうはいかないさ、でんこうせっか!」
「サイコキネシスだ」
スターミーよりも先に、シャワーズが動いた。シャワーズは急加速して前足でスターミーをはたく。これに負けじとスターミーもシャワーズを雑巾の如く絞った。既にほうほうの体であるシャワーズにとどめをせには十分な攻撃だった。マーヤは胸の前で手の平を見せるジェスチャーを取る。
「あう、容赦ないねえ。ま、仕方ないか。じゃあ次はゴウカザル、仕事だよ!」
マーヤはシャワーズと入れ代わりにゴウカザルを送り出した。ゴウカザルと言えば、格闘タイプとしても炎タイプとしても最速のポケモンだ。強力なポケモンの多くから先手を取れ、攻撃特攻共に高く、しかも様々な技を覚える。それゆえ汎用性は非常に高い。……だが、1つ気になるな。
「ゴウカザル……最後の1匹はスターミーに対抗できないと見た」
よくよく見れば、ゴウカザルの右腕にはきあいのタスキが結ばれているじゃねえか。敢えてゴウカザルで挑むからには、それなりに理由があるはず。余裕ぶっこいてるのでなければ、不利なポケモンが残っていると考えるのが妥当だ。ならば、やることは1つ。
「一気に片付けるぞ、サイコキネシス」
スターミーは先程と同じく、ゴウカザルの体を捻った。ゴウカザルからは色々危ない音が響いてくるものの、奴はなんとかこらえた。これがきあいのタスキの効果、体力全快のポケモンは必ず1回耐える。
「ちっ、面倒だぜ。だがその程度で戦況は変わらねえ!」
「それはどうかな? ゴウカザル、オーバーヒートだ!」
マーヤが不適な笑みを浮かべると、その瞬間ゴウカザルは太陽のように輝いた。周囲は光に包まれ、そして熱波が辺りを襲う。光は白、紫、青、黄、橙、赤と変化し、数秒後に収まった。白い光は高温の証拠。赤い光は低温になっていくのを如実に示している。まあ、それでも所詮炎技。水タイプのスターミーなら……何!
「馬鹿な、一撃で落ちただと!」
燃え尽きたゴウカザルの向かいに、干物に成り果てたスターミーが横たわっていた。こいつぁ……予想外だったぜ。
「どうだい、これが晴れの威力さ。元々の技の威力にタイプ一致、晴れ、特性のもうかが合わさった。水タイプと言えど、とても耐えられないよ」
マーヤは自信たっぷりに言い放った。車椅子に座ったまま言われても全く説得力が無いな。だが、現に俺は久々に追い詰められている。晴れ主軸の相手に苦戦するのは、タンバに流れ着く前と合わせて2度目だ。俺は軽くため息をつく。
「……俺はつくづく晴れに弱いな。ま、んなこと言っても仕方ねえ。こいつで勝負を決めよう。俺の最後の1匹はこいつだ!」
俺は堂々とした立ち居振る舞いで3匹目を外に出した。出てきたのは、どこぞのロボット似のニョロボン。こいつが今回の切り札だ。これを受けて、マーヤの表情はより確信を持ったものとなる。
「ニョロボン? ……良かった、ニョロトノだったら破綻してたよ。じゃあゴウカザル、インファイト!」
「まずはしんくうはでとどめだ」
先手は譲らねえ。ニョロボンは腹部に力を入れ、渦巻き模様から波を飛ばした。ニョロボン目がけて突っ込むゴウカザルはこれと直撃し、その場に伏せた。ゴウカザル撃破だ。
「ひえー、しんくうはが来たか」
「ふ、ニョロボンなら先制技は来ない……そう勘違いする奴が多いもんでな、重宝してるぜ」
俺はお返しとばかりに胸を張って答えた。さて、これで1対1。ニョロボンには隠し玉もある、タイマンなら間違いなく勝てるぜ。
「確かに、素直にマッハパンチを使えば良かったよ。だけど僕の勝ちは決まりだ、リーフィア!」
マーヤはゴウカザルを回収すると、勝負を託したボールを投げた。現れたのは、葉っぱのような耳を持つポケモン、リーフィアだ。イーブイの進化系の1匹で、物理が得意。防御はかなり高く、強引につるぎのまいを使って攻めることもできる。特性はどちらも晴れに関するものだが……。俺は天を指差した。先刻までの灼熱の日差しはどこへやら、天候は元通りとなっている。
「最後は草タイプか……だが、晴れは終わっちまったぜ。ようりょくそだろうがリーフガードだろうがこっちのもんだ」
「はは、これでもそう言ってられるかな? リーフィア、リーフブレードで終わらせろ!」
マーヤの号令と同時に、リーフィアは走り出した。リーフブレードは体のどこを使って繰り出すかは見当つかねえが、普通に殴り合っても負けは明白だろう。しかし、こんなこともあろうかと仕込んだ技がある。
「……ふっ、カウンターだ」
俺は小声で指示を出した。ニョロボンは両手を前に突き出して構える。他方、リーフィアはニョロボンから見てやや左に逸れた。そしてそこから円を描くような足取りで接近、真正面に尻尾を振りかざしてきやがった。このままだと、切りつけざまに右方へ抜けられちまう。そうはさせるか!
ニョロボンは、リーフィアの尻尾が左脇腹に食い込んだ時を見計らって胴体を掴んだ。ニョロボンの耐久ならこれくらい造作もねえ。そうしてニョロボンは、ここから状態を逸らす。掴まれたリーフィアは抵抗すらできず、地面に激突。バックドロップの完成だ。リーフィアも戦闘不能、俺の勝利だ。
「勝負あったな。中々油断ならない戦いだったぜ」
「……さすが、校長に勝つだけはあるね。僕の完敗だよ」
マーヤは負けを認めた。彼はリーフィアをボールに収めると、俺の元に近寄り握手を求めた。俺はそれに応じる。
「んなこと無いですよ。相手の隙を突くという大事な部分を実行できていた。あんたに指導してもらえる部員は幸せ者でしょう」
「そう言ってもらえると助かるよ」
……よし、これで俺達は顔見知りだ。やはり、勝負してみないことには素性が分からないからな。こういった機会を持てて良かったぜ。
「テンサイさんやりましたね! 本当にマーヤ先生に勝っちゃうなんて」
あ。そう言えば、ナズナ達のことをすっかり忘れてたぜ。それだけ勝負に熱中していたということか。彼女とイスムカ達は俺の勝利を称えた。
「ギリギリだったがな。もしや、俺が負けるとでも思ったか?」
「そんなことはありませんよ、へへ」
彼女ははにかんだ。……なんだかなあ。昔からそうなんだが、こういう仕草を取られるとどうにも抵抗する気が無くなっちまう。俺もまだまだ俗だな。
そんなことに思いを巡らしていると、マーヤが時計を示した。もうに1時か。
「それじゃ、そろそろお昼にしようか。せっかくだからみんなも食べていきなよ。ここの病院の食堂は一般にも解放されていて、結構評判なんだよ」
「おお、そうでマス。早く先生におごってもらうでマス!」
「ああ、そうだな」
俺達はポケモンの回復と昼食のため、院内に戻るのであった。さあ、明日からまた仕事だ。
・次回予告
部活の指導をやっていて忘れていたが、そろそろ中間テストの時期らしいな。どうせやるなら徹底的に難問揃いにしたいところだが、そうもいかないらしい。さて、どうしたものか。次回、第16話「試験」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.81
執筆や構想を練っていると、シナリオの最後の話が先にできてしまうことってありませんか? 私は前作で既にこの傾向が出ていました。なにせ最終話は3年前に完成していたんですから。今作も実は連載開始前から最終話の流れだけはできているのです。その間にどれくらい濃い内容が書けるかで、ラストの感動も全然違うのでしょうね。
ダメージ計算は、レベル50、6V、カイリュー陽気攻撃素早振り、シャワーズ控えめ防御特攻振り、スターミー臆病特攻素早振り、ゴウカザルせっかち特攻素早振り、ニョロボン控えめHP特攻振り、リーフィア陽気攻撃素早振り。まず、カイリューの竜舞逆鱗をシャワーズは確定で耐え、その後ジュエル冷凍ビームで68.8%の確率で一撃。スターミーのサイコキネシスでシャワーズを落とし、ゴウカザルにはタスキで耐えられる。そしてゴウカザルの猛火晴れオーバーヒートでなんとスターミーが81%の確率で一撃。最後のニョロボン対リーフィアでは、リーフィアはリーフブレードを確定で耐えられ、ニョロボンのカウンターで粉砕できます。
最近思うのですが、努力値調整は必要ですかね? あまりピンポイントな調整をするみたいな露骨なことはしたくないですが、メジャーな耐久調整やスカーフ、葉緑素調整くらいなら大丈夫ですかね? よろしければご意見お願いします。
あつあ通信vol.81、編者あつあつおでん