草木も眠る丑三つ時のこと。 満月の下、船も通っていない、静かな大海で桃色のくらげと水色のくらげが十数匹集まっていました。 しばらくしますと大きな銀色の鳥が海底から現れます。 それは銀色の海神様と呼ばれる者で、海から出る際に大きな水しぶきを宙に描き、それから翼を広げますと、それはそれは清らかな声で鳴き始めました。
集えや集え魂の子や そろそろこの世からお暇する時刻 満月が黄泉への道を照らしている間に還りましょう 集えや集え魂の子や 迷子にならぬようにこの銀色の歌が目印にしましょう それと黄泉行きを示す銀色の片道切符一枚忘れずに 銀色の海神様は夜空を見上げながら、歌い続けます。 どこまでも澄み渡るような歌声が響き渡ります。 しばらく歌い続けていますと、遠いところから、ぽぉっと淡白くて丸っぽい光が飛んできました。 それは一つだけかと思いきや、次々と集まってきて、気がつけば海神様の周りには淡白い光の園が生まれていました。 そしてやってきた淡白い光から銀色の海神様から、銀色の羽――黄泉行きの片道切符を受け取っていきます。
なぁなぁどうだった 久しぶりに家族の顔見れました ウチは大家族でね 皆いい笑顔をしてましたよ ねぇねぇどうでした アイツ元気そうやったなぁ もっと勝負したかったで なぁなぁどうだった 我が子が進化していてビックリしましたわ ねぇねぇどうでした あの子も恋したようで タマゴを産んでいたのう はてさて どんな子が生まれることやら 尽きることのない土産話を白い光達が交わしていますと、桃色のクラゲ達と水色のクラゲ達が動き出します。 淡白い光達の前まで行きますと、桃色のクラゲ達と水色のクラゲ達が泡を吐きます。 それから一つの淡白い光が、黄泉行きを示す銀色の片道切符を一匹の桃色のクラゲに見せてからその泡の玉の中に入りますと、ふわりと夜空に向かって浮かびました。 続いて、同じように他の淡白い光が銀色に輝く片道切符を今度は水色クラゲに見せてから、違う泡の玉に入りますと、これもまた、ふわりと夜空に向かって浮かびました。 一個の泡の玉に、銀色の片道切符を持った一つの淡白い光。 それが繰り返されていきますと、夜空には銀色に淡白い光の川ができあがっていました。 それはまるで天の川のように。 魂の川が夜空を流れていました。
ふわりふわりと泡の玉 さよならと言ってパチンと割れた 最後に映ったのは名残惜しそうな顔 ふわりふわりと泡の玉 元気でねと言ってパチンと割れた 最後に映ったのは花咲くような笑顔 ふわりふわりと泡の玉 何も言わないままパチンと割れた 最後に映ったのは幸せを願うかのような微笑み
年に何回か、魂達は黄泉の国という死後の世界からこの世に戻ってこられるときがあり、数日間、それぞれ、想い想いの場所で過ごします。 それから還るとき、銀色の海神様は魂が迷い子にならないように呼び声をかけまして、そして、桃色のクラゲ達と水色のクラゲ達の泡はいわば、魂が黄泉まで還る為の乗り物の役を果たしていました。 泡が割れるとき、それは魂が黄泉の国へとちゃんと還ることができたことを示します。
夜空を流れる魂の川 その輝きは想いを説いて 夜空にはびこる銀色の波 その輝きは命を説いて 夜空へ去りゆく一時の夢 その輝きは刹那を説いて
やがて魂の川が流れ終わり、夜空にいつもの静寂が訪れますと、桃色のクラゲ達と水色のクラゲ達は海の中へと帰っていき、銀色の海神様は夜空高くへと翼をはためかします。 今回もしかりと魂達を黄泉の国へと送ったことを知らせるかのように。 また彼岸の日を迎えたときにお会いしましょうと挨拶に願いを込めながら。 清らかな声で歌い去りて。
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