ポケモンたちが食事を始めるのを確認し、コウキも昼食をとるために家に戻る。
腰に巻いているエプロンを外し、自分の席について盛られた料理に箸をのばす。
ふと自分の隣に座っている妹の皿に目を向ける。
食事を始めてからさほど時間はたっていないはずだが、既に彼女は半分以上を食べていた。
「早食いは体に悪いぞ?」
「おああういてうんあから…モグモグ、仕方ないじゃない」
口に食べ物を含みながら話していたため、マイの言葉の前半はあまり聞き取れない。
それについて再びコウキが注意すると、「は〜い」と生返事を返して、空になった食器を流しに持っていく。
そのままマイは二階の自室へと戻っていく。
「まったく、マイはいつもいつも」
「まぁまぁそれがマイでしょ?」
「そうそう」
愚痴るコウキを反対側の席に座っている2人が宥めようとする。
「母さんとホノカ姉ちゃんがそんなんだからマイも調子に乗るんじゃないかぁ!」
「そんなこと言ったって、マイは昔っからあの調子なんだから仕方ないじゃない @ラ
コウキの姉、ホノカは軽くコウキの言葉を受け流す。
ホノカはマイに対して少し甘いところがあるらしく、マイの肩を持とうとする。
こんなことが続いており、「姉としての自覚が薄れてきているんじゃないか」と、コウキは最近感じていた。
自分もまだ小さかった頃は"頼りになるお姉ちゃん"とホノカのことを見ていたが、最近はマイの姉というよりも"友達"といった感じだ。
そんな調子で昼食も終わり、食卓にいるのは食器洗いをしているコウキとテレビを見ている彼の母、「アヤコ」の2人だ。
先程の会話を思い出してアヤコがコウキに言葉をかける。
「コウキももうすっかりお兄ちゃんが板についてきたわね」
「どうしたんだよ急に…姉ちゃんがあんなんだから、僕が面倒みるしかないでしょ?」
「フフッ、確かにそうね。ポケモンたちもお昼を食べ終わった頃だし、食器を持って来るわね」
そう言ってアヤコはポケモンたちがいる小屋に向かった。
コウキは再び食器洗いを始めたのと同時に、テレビに速報が入った。
不意に、コウキはテレビに視線を向ける。
そのニュースの内容は『ナナカマド博士がシンオウに帰ってきた』というものだった。
昼食の後片付けを終え、ポケモンたちとのんびり過ごすコウキのいつもの昼下がり。
それを打ち壊すかの様に、一人の少年が慌ただしくコウキの家へと走ってくる。
急いで玄関の扉を開け放つと、少年は大きな声で叫んだ。
「コウキ!コウキ!コウキ!コウキ!コウキ!コウキーーーー!!大変だぁぁぁぁ!!」
突然の声に、耳鳴りをおぼえながらコウキが玄関へとやって来た。
「どうしたのさジュン!いきなり叫ばないでくれよ!」
「どうしたもこうしたもあるかよコウキ!お前もさっきのニュース見たろ!?」
コウキの言葉の後半には全く触れずに、自分が話したいことを話し進めるジュン。
彼はコウキの幼なじみで、家が近い者同士ということもあり、小さい頃からよく遊んでいた。
ジュンの欠点と言えば、先の言動からも分かるように、かなりせっかちなことだ。
ジュンの問いかけにコウキは頭にクエスチョンマークを浮かべる。
「さっきのニュース?」
「『ナナカマド博士がシンオウに帰ってきた』ってニュースだよ!お前だって見ただろ!?」
そう言えばそんな速報がテレビで流れていたなぁ、とジュンの言うニュースの内容を頭で思い返す。
「で、それがどうかしたの?」
「『どうかしたの?』じゃねぇよ!本当にお前って鈍いよな!」
「それとこれとは話が別だろ!?第一、どうやったら"ナナカマド博士が帰ってきたこと"と"ジュンが慌ててること"が繋がるんだよ!」
コウキの言葉に対し、ジュンは頭に右手を添えながら、呆れたようなため息をひとつ吐く。
そして、再度自分がコウキに伝えたかったことを話す。
「いいかコウキ。『博士』っていうくらいだからナナカマド博士はポケモンを沢山持ってるはずだ。ここまではいいな?」
「うん」
「だからさ、俺たちも頼めば博士が研究してる『特別なポケモン』の一匹や二匹貰えるんじゃないか?」
「それはどうか分かんないだろ?」
「いいや、そんなことはない!絶対に貰える!だからコウキ!これから『マサゴタウン』に行くぞ!!」
コウキの話しに聞く耳も持たず、ジュンは独断でマサゴタウンに行くことを決めてしまった。
こうなったら、いくら言ってもジュンには聞かない。
それでもコウキはジュンに制止を掛けようとしたが、早速ジュンは出掛ける準備をするために自宅へと引き返してしまった。
遠くから「遅れたら罰金100万円な!」と言うジュンの声を耳にしながら、仕方ないと諦めムードのコウキも自室へと向かう。
「まぁ僕もナナカマド博士に会ってみたかったし、丁度いいと言えば丁度いいか」
そんな事を呟きながら、クローゼットからベストやマフラー、帽子等を取り出す。