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おもむろに下半身の服を脱ぎ、ついに下着まで取ってエミナの下半身は完全に露わになる。不摂生な生活を続けているせいか下腹部がたるみ、みすぼらしい見た目をしている。言っては悪いですが、見事に魅力ゼロです。
しかし、相手がポケモンだからという事で遠慮をしないのは分からないでもないが、いきなりこれはどういう風の吹きまわしなのか……いや、エミナの女性として大事な部分の近くに傷がある。目立たない、よく見なければ気付かないようなものだけれど、あれは何?
「ほう、眼が開いていないかと思ったが、きちんとこの傷に気がついたか? これはな、子宮癌の摘出手術の跡だよ……もう少し早くに発見していれば、部分摘出の手術も出来たのだがね。やたら危険な状態だったとかで……手術に使った麻酔の副作用がきついわ、抗がん剤の副作用がきついわで大変だったぞ。髪も治療の時だいぶ薄くなってしまってな……今は知っての通りカツラでごまかしている。
だがまぁ、分かるだろう? 私が辛かったのは、副作用の事でもカツラの事でもない……子供が出来ない体になってしまったことだよ」
それで……カツラをかぶっていたのですか。いや、それよりも……子供が出来ない事であの執念が生まれるものなのですか?
「私が、感情を実際に発するポリゴンを作りたいのは……私の手で子供を作りたいという願望なのだよ。なぜなら、子供を育てることなんて男でも出来る。女にしかできない子どもを産むという権利を剥奪されるのには、個人的に我慢がならないのだよ。
もちろんのこと、『私の手』というのは比喩表現だ。本当ならば、子宮で作るのが1番楽なのだからな……養子をとって満足できる性格ならば楽だったのだがなぁ……生憎、私は普通ではない。他人の子など育てられる気がせんよ」
「協力者がいないのは……」
「あぁ、それはだな。私が手術後に会社でこの企画案を出した時……それは一笑に伏されたのだ。他の案が多数出た中で、私の立案した開発プロジェクトには、研究員が私1人しかつかない事になってしまったのだ。当然、そんな事では会社からも資金もでないというわけだ。
他の研究員は、ポリゴンを異次元でも活動できるように……と、ポリゴンFだかZなる物を作ろうと躍起になってな……私が研究を続けるには、個人的にやるしかなくなってしまったからだよ。
まったく、友達がいないというのは辛いものだね。昔は1年に3回か4回は家に同僚を招いたし、招かれたものだが……これでも恋もしたんだぞ? ここに越してきてからは、スタリ以外を家に入れた記憶も無いし、公共施設や店舗以外の建造物に入った覚えもない。あぁ、だが家に招いたといえばお前がいたか……」
エミナはだんだん寒くなってきたのか、脱いだ服を着直して、また画面に向かいキーボードを叩きはじめました。
この人が、こうして一人で研究するようになったのは……子供を産みたいから? ある意味女性なら至極真っ当な、当たり前の感情ですが、それが歪んだ形で発言するとこうなるのでしょうかね。
それで、あのコードを開発したというのだとしたら、なんて純粋な人。それが、良い事なのか悪い事なのかは抜きにしても……純粋な想いを以って、開発に取り組んでいるのですね。私は感情や意志の強さを測ることはできないから、そういう点でアグノムやエムリットとは違うのが少し悔しい気がします。
しかし私には、私にしかできない事がある。でも……それをやってしまえば、流石にアレなしではアルセウスに顔が立たない。
私は、この人間に興味がわいた。だから……エミナをもう少し長い時間見ていたい。だから……ユクシーの能力の行使はしたくない。でも、ただの賢いポケモンとしての後天的な能力ならば……アルセウスの意向に逆らう事も無いはず。
「ラマッコロクルよ」
そんなことを考えながら、私はずっと彼女の作ったコードを読み返していた。現実に引き戻されたのはラマッコロクルのこの呼び掛けだ。
「何ですか?」
「なぁに、簡単なことだ。お前は私の作ったものを無駄なく無駄が多いと賞賛したが……これ、ここの部分だ」
そして、その後天的な能力を使う機会は、意外な事にエミナ自身が与えてくれた。
「これは本当に無駄な部分なんじゃないかな、と思っているのだ」
エミナが指差した場所は、私も少し違和感を覚えた場所であった。大胆不敵そうなエミナも、自分が作ったものを消すことが何となく怖いのか。
「いや、なに。ただ無駄なだけならばよいのだが、これがバグというか不具合の原因になっているならばぜひ消しておかねばならぬだろう? 悩んだり、迷ったりする、人間にもありうるような愛嬌のあるバグは歓迎だが、思考が停止してフリーズするバグ、処理が不可能になるバグはいただけない……人間だって、凍り付き症候群*10なんてモノがあるが、コンピューターの場合はそうなったら、最悪再起動しないと回復しないからな」
それにしても、一人での作業という事は……作ったものを消すのが怖いとか、ここは間違っているんじゃないだろうとか、そういった創作に関わる者ならだれもが抱える不安を……エミナはどれだけ長い時間抱えていたのでしょう?
『誰にも相談できなかったのか?』などとも思ったが、それは、彼女の事情から察するに最初から無理な相談なのだから。
このコードは例え、一から共同で作ったとしても、一握りのプログラマーしか解読できないような校正職人泣かせの変態かつカオスなプログラムだ。それだけで彼女のプロジェクト案が排斥されて然るべきだと納得が行く。
例え、最初から同僚だったという研究チームがプロジェクトの協力を申し出たとしても、きっとついてこれはしなかったであろうと。
なら、彼女に協力できるのって……もしかしたら、彼女の知り合いの中では私しかいない?
「どうした? 何か意見をくれ」
「あ、はい。えっと……お恥ずかしい話、私も違和感があるのですが……まだ、全体図を整理し切れていないので……1日ほど、時間を……」
「構わんよ、それにこれだけ複雑なものなら、1度や2度読んだくらいでは超一流のプログラマーでさえ理解できなくても恥ではない。だからゆっくりやってくれ。だが、その前に……お前のメロンパン頭を見ていたら腹が減ってきた。何か作ってくれ」
また、メロンパンと……しかし、もう目くじらを立てるのはやめましょう。
「わかりました……美味しいものを作りますから、貴方はその続きを頑張ってください」
ここまでユクシーの能力を行使したい気分になったのは久しぶりですね。とにもかくにも……美味しい食事を作ってあげねばなりませんね。
*10 突然の出来事に体が動かなくなる状態。いわゆる、蛇に睨まれたカエル状態