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  [No.2397] いたみわけ 投稿者:紀成   投稿日:2012/04/19(Thu) 20:08:26   101clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

たとえば、

とても大切な人が大怪我をして、

苦しんでいたとして


どうしてその痛みを分かち合うことが出来るのだろうか。


「……酷くやられたね」

レディはモルテの腕に包帯を巻いていた。切り傷、打撲痕、噛み跡。回収の際に姿を見て怯えたハーデリアから付けられた物だ。『かみつく』『かみくだく』
こうかは、ばつぐん。

『油断した。次は大丈夫だ』
「次が無かったら、どうするつもりだったの」

長い髪が春の風に揺れる。毛先が大分傷んできたようだ。そろそろ切りたいな、と思う。

『伸びたな』
「そうだね」
『最後に切ったのは……』
「半年前かな」

他愛も無い会話。包帯を巻き終え、鋏で切る。もう動いていいよ、と言うとモルテはそっと浮き上がった。
レディは鋏をジッと見つめている。

『どうした』
「あのさ、」

「『いたみわけ』ってあるだろ?」

カシャン、と音がして手から鋏が飛んだ。そのまま近くのゴミ箱に突き刺さる。続いてモルテの左手からぽたりと赤い血が流れた。

「……何を考えてこうしたかは知らないけど、手当てするのはこっちなんだからね。
そこらへん考えてね」
『いたみわけ。相手の体力と自分の体力を同じにする技…… あだっ』
「よかった。そんなに深くなくて」

お互いの傷を舐めあうのか。下らない。どんなに相手に同情したって、その痛みが分かるのは本人だけだ。かわいそうなんて言葉、軽々しく口にするもんじゃない。

「モルテ」
『なんだ』
「たとえ私が死に掛けたとしても、変に助けようとしないでよ」

返事が遅れた。だが確かに彼は、

『ああ』

と言った。


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