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  [No.2889] 感情の刃、理性の尻尾。 投稿者:逆行   投稿日:2013/02/17(Sun) 22:50:46   122clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:書いてみた

 ポケモンがリストカットをする場面があります。そんなに過激には書いてませんが、グロイのが苦手な人は注意してください


 もうこの人間の下では生きていけない。私は目撃した。決定的な所を目撃した。まだじめじめとした暑さが残っている季節、彼は瀕死のポケモンに止めを刺した。衝撃的だった。信じられなかった。そして、許せないと思った。私は決意した。決断した。もうこの人間の下では生きていけない。私はもう、ついていけない。私は逃げる。彼から逃げる。私はもう嫌なんだ。ポケモンを殺すような人間の、ポケモンでいるのが嫌なんだ。
 でも、これは嘘。彼はそんなことしていない。ポケモンを殺すなんて、そんな醜いことはしていない。そんなこと、絶対にするわけがない。あの人は、そんな醜い人間じゃない。むしろ彼は正反対だ。彼は優しくていい人だ。とっても綺麗な、いい人なんだ。
 そんな綺麗な人だから"こそ"、私は毎日苦しんでいる。私は悩み悶えている。心は締め付けられている。彼に認められない私は、駄目なんだと思ってしまう。彼から嫌われる私は、もうおしまいだと思ってしまう。
 こんなこと言っていいのかな。彼がポケモンを殺すような人間であれば、私はむしろ苦しまなかった。そんな主人に否定されたって、痛くも痒くもないだろうから。というよりむしろ、喜んだかも。


 彼に初めて出会ったとき、私はまだ小さい尻尾を持っているだけだった。小さい尻尾しか持たないこの身を、とても歯痒く思っていた。とても情けなく思っていた。
 彼は私を指名した。私は彼に抱きしめられた。所々薄い線のある彼の腕の中は、とても暖かくて気持ちが良かった。そしてとても、居心地が良かった。
 彼の声を聞いた。彼の笑顔を見た。彼の少し寂しげな目と、私の目が合った。その瞬間、私は思った。この人にずっとついていきたい。理由は分からないけど、そう思った。そして、彼に認められたい。彼に認められることが、私にとって全てだ。そんなふうに思った。そんなふうに、思ってしまった。
 彼の腕の中で私は鳴いてみた。まるべく綺麗に聞こえるように、頑張って気を付けて鳴いてみた。早く彼に認められたい。早く彼から見て、綺麗に見えるようになりたい。

 
 彼に認められるため、私は頑張って戦った。本当に一生懸命戦った。私がバトルに勝ったとき、彼はすごくうれしそうな顔をした。そして、私のことを誉めてくれた。そんな彼の様子を見て、私は心が躍ったすごくうれしかった。これで彼に認められる。彼に必要とされる。
 日々はどんどん過ぎて行った。楽しい日々だから、どんどん早く過ぎて行った。私は彼に認められるため、一生懸命戦った。そしてそれは、途中まで順調だった。逆に言えば、途中から順調じゃなかった。
 あるときから、彼の様子がおかしくなった。明らかに、どう見ても、絶対に、彼の様子がおかしくなった。そして、彼がおかしくなったのは、私のせいだと思った。私のせいだと、思ってしまった。
 私がバトルに勝っても、彼は笑わなくなった。それ以外でも、少しも私に笑顔を見せなくなった。代わりに私を見て、溜息を付くことが多くなった。非常に寂しげな目をして、溜息を付くことが多くなった。私と目が合った瞬間、頭を抱えてその場にしゃがみ込むこともあった。ときには私を、鋭い目で睨むこともあった。
 怖いと感じた。恐ろしいと感じた。体が震えた。私はもしかしたら、嫌われているのかもしれない。私はもしかしたら、見捨てられるのかもしれない。 
 理由が分からない。何故私は嫌われたのだろう。私は何かしたのだろうか。えっ? 私のせい? そうか私のせいか。あっ、そうか。私のせいなんだ。私が弱すぎるから。頑張ってないから。彼から見て、綺麗じゃないから。私が彼にとって、不都合だから。
 確信した。私は彼に嫌われた。私にとって、彼が全てだった。彼に嫌われたら、私はもうおしまいだった。何と言うか、彼に嫌われると、もう全てから嫌われるような、そんな気がしていた。何者かに後ろから狙われていて、お前は悪者だと後ろから刺してきそうな、そんな感じがしていた。
 この恐怖から逃れるために、私はあることをした。無意識と意識の境目の状態で、私はあることをした

 私は、"いあいぎり"という技を覚えていた。道路にある細い木を切ることができる技だ。私はこれを使って、自分を傷つけた。具体的に何をしたかと言うと、自分の左腕を切った。
 狂っていると思われればいい。頭がおかしいと思われればいい。そうすれば、誰も私を責めないから。狂っているから仕方がないと、たくさんの人が頷くから。 

 
 刃の部分が肌に触れた。すっと軽く線を引く感じで、そのまま手前へと引っ張った。すぐに痛みが来た。そして、私の心は少し落ち着いた。不思議な感じで、すっと落ち着いた。心の底に沈んでいたおもりが、少し軽くなっていくのを感じた。

 切りながら私は思う。私は何にそんなに怖がっているのだろう。
 
 しばらくして、切った部分から血が滲んできた。赤い血が少しづづ出ていって、しずくとなって下に垂れていって、私はそれをただ眺めていた。ただじっと、眺めていた。すると、私の心はさらに落ち着いた。心の底に沈んでいたおもりが、消えてなくなっていくのを感じた。

 血を見ながら私は思う。何故私にとって、彼が全てなのか。何故彼に認められないと、私は正しくないのか。普通に考えたらおかしい。彼が全てのはずがない。でも、何故かそう思ってしまう。いったい、どうして。

 もう一度切った。今度は少し深く切ってみた。私の腕は細いから、あまり深く切ると怖い。でも、少しは頑張らないと、背後から「甘いよ!」って怒鳴られそうな、そんな気がして。だから、私はできるだけ深く、そして長く切ることを試みた。

 この傷を彼に見せたら、彼はどう思うのだろう。彼はどう感じるのだろう。彼は私のことを心配して、それでその後、私に対して、少し用心深くなるだけ。別に私は、心配されたいわけじゃない。決して、そういうわけじゃない。私はただ……
 

 我に帰った。私は我に帰った。
 何馬鹿なことしてんだろうと思った。何でこんなことやってんだろうと後悔した。何の意味もない。確かにやっている間は恐怖から逃れられるけれど、終わった後に残るものはただのむなしさだけ。もうしばらくしたらまた、体が震えてくるのだろう。もうこんなことはやらない。絶対にやらない。そう胸に誓った。

 
 しばらく日にちが経った。私はもう進化を終えていた。ふと酷くむず痒い感覚を覚えたかと思うと、瞬きをする間に体が大きくなり、そして長く立派な尻尾を手に入れた。あ、これ、強そうだと思った。この長い尻尾を使えば、どんな強敵も巻きついて倒せると思った。
 あれから、腕を切ることはやっていない。自分で自分を傷つけることは、一度もしていない。彼の様子はまだおかしいままだ。私はもうずいぶん、彼の笑顔を見ていない。私は彼をみるたびに、また切りたくなったけれど、必死でその衝動を抑えた。


 ある日のことだった。彼が私をボールから出した。最初は戦うのかなと思った。けれど、回りには彼の以外の人間はいない。私以外のポケモンもいない。様子がおかしかった。彼の様子が、おかしかった。
 彼の口が、ゆっくりと開いた。

「僕を殺して」

 意味が分からなかった。彼が何を言っているのか、理解ができなかった。何でそんなこと言うの? 急にどうしたの?
 ふと私は、彼の左腕を見た。私は驚愕に目を見開いた。
 彼は、

 私と同じことをしていた。 

 しかも、私より遥かに多く切っていた。彼の左腕には、相当な数の傷があった。こんなに切ったら、死んでしまうんじゃないかと思うくらい。と言うよりたぶん、死のうとしたんだと思う。死のうとしたけど、死ねなかったんだと思う。
 彼が今まで溜息を付いたり、頭を抱えてしゃがみこんだり、私を鋭い目で睨んだり、おかしくなっていったのは、私が原因じゃなかった。私に問題があるんじゃなかった。彼はもともと、おかしかったんだ。彼はもともと、異常だったんだ。
「お願い、僕を殺して……」
 私は知っている。人間はすごく弱いことを知っている。私が彼の首に巻き付けば、恐らくすぐに死ぬだろう。
 私はするりと、彼の首元へと近寄っていく。彼に認められようとして、頑張った結果手に入れたこの尻尾が、まさかこんな使われ方をするなんて。
 自分の主人に殺してと言われて、その通りに普通はしないだろう。でも、私は何故か、それをしようとしている。何故私は、躊躇しないんだろう。何故私の体は、徐々に彼の首に近づいているのだろう。
 私は、少しだけ喜んでいた。彼の様子がおかしかったのは、私が原因じゃなくて、そしてさらに、彼の最期に私を必要としてくれたのが、こっそり嬉しかった。
 私がどうして、彼にそんなに認められたかったのか、その理由が今なら分かる。私と同じにおいを、彼から感じ取ったからなんだ。恐怖から逃れるために自分を傷つける、同じことをするような性格だったからなんだ。彼の寂しげな目を見て、自然と彼に"共感"したからなんだ。
 どうして彼がこんなふうになってしまったのか。彼をこんなふうにしたのは誰か。そんなことは気にならない。私が興味あるのは、彼に好かれるかどうかだったから。
 本当なら、彼の異常に気付けなかった自分を責めるべきなのに、私はそれをしようとしない。私にとって、彼に認められるかどうかが善悪の基準だった。だから、私は躊躇しないんだ。彼の首を締めることを。
 でも、やっぱりこれは嘘。私は決して、躊躇していないわけではない。まだ彼を殺す、完全な覚悟ができていな
い。だって私の目から、冷たい涙が零れてきているから。そしてその涙は、どんどん溢れ出てきているから。
 この涙は、決して偽りじゃない。やっぱり私は、彼を殺したくないんだ。彼に必要とされても、彼が望んだことでも、でも、でも、やっぱりそれをできないんだ。
 私は本当に、彼に認められたいのか。彼に認められたい、それだけで動いてきたのか。私は何故、躊躇しているのか。分からない。私は、自分の感情が分からない。

 私はいったい……














遅くなってすいません。(土下座
「ハローマイガール:手」の書いてみたを書いてみました。
結局リストカットの描写ちゃんとかけなかったorz
内容がアレすぎて荒れすぎてすいません。


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