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  [No.3357] 変わらないもの 投稿者:焼き肉   投稿日:2014/08/26(Tue) 23:20:21   101clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:BW2】 【ヒュウ】 【メイ】 【ヒュウメイ

 メイは、年齢はオレの妹以上オレ以下の、昔からの近所の幼なじみというやつだ。すっとぼけてて天然で、年
齢はオレの妹以上なのに、オレの妹より幼いイメージがずっと取れないようなやつだった。妹ももっと小さいこ
ろは聞き分けがなくて世話がやけたけれど、メイは妹の手がかからなくなってもずっと目が離せない、いつまで
も子どもみたいなやつだった。

 まるで妹が二人いるみたいだッ! と思うこともあった。雨あがりの日に水たまりで転んでベトベターみたい
になるわ、近所になってるオレンのみをとろうとして木にのぼって降りられなくなるわ、とにかく手のかかるエ
ピソードにいとまがねえ。

 呼び方も、オレの妹がオレをおにいちゃんと呼ぶように、メイもオレを「ヒュウお兄ちゃん」と呼んでいた。
いつの間にかその呼び方はしなくなっていったけれど。「ヒュウお兄ちゃん」の「お兄」が取れて、「ヒュウち
ゃん」。ちゃんはいつ取れるんだちゃんは。オレはずっとお前のことメイ、って呼んでるのに。オレが年上だか
ら、呼び捨てを無意識的に避けてるのかもしれない。何にも考えてなさそうなのに。

 アイツの面倒を見ていて特に大変だったのが、街の近くに迷い込んできたミネズミをかわいいって追いかけ回
して、噛まれそうになった時だ。オレが間に入ってかばってやったからいいけど、あのまま噛まれたらどうなっ
てたことか。代わりにオレが噛まれる羽目になったけど、その時長袖だったから服が破けたくらいで、ケガは大
したことなかった。

「えっぐ・・・・・・ゴメンね、ゴメンね、ヒュウお兄ちゃん。わたしのせいで、ヒュウお兄ちゃんが」
「・・・・・・別にへーきッ! これからは、ポケモンを追いかけまわしたりしちゃダメだからなッ! 初めて
会う友達に接するみたいに、目線をあわせて、優しく話しかけるんだ」
「うん・・・・・・こんどから、きをつける・・・・・・それから、ありがと・・・・・・」

 話が逸れたけど、とにかく少なくともサッと見た感じは何にも考えてなさそうに見えるから、オレはメイがポ
ケモンを貰うと聞いて喜んだ。ポケモンのことは普通に好きみたいだし、ポケモンと一緒にトレーナーとして旅
に出たら、少しはすっとぼけたところがなくなるんじゃないかと思ったからだ。

 その予想は、当たった。予想以上だった。ジムリーダーのチェレンさんと戦って、てっきり一回は負けて泣い
て戻ってくると思ってたのに、メイは一回挑みに行っただけで、ライブキャスター越しに燦然と輝くベーシック
バッジをオレに見せてきたんだ。

 それからのアイツはすごかった。次々とポケモンを捕まえては各地のジムリーダーに挑んで行って、着々と、
確実にトレーナーとしての階段を上がっていく。バトルを挑んでもこっちが簡単にやられることもあったし、共
闘してもほとんどメイがいいところを持って行ったこともある。

 オレの目的に協力してくれるサポーターとしても申し分ない。兄貴代わりとしても、すっとぼけたメイの成長
は、頼もしささえあった。だけど、ポンポンとオレを飛び越して、どこまでも行ってしまうメイには少しだけ、
少しだけだけどな、さびしいって、気もしたんだ。

 ふわふわと周りを跳ねていたハネッコが、いつの間にか飛び方を知ったワタッコになって飛んでいってしまう
みたいに、メイは変わった。アイツが一人旅なんてだいじょうぶなのかと思ったけど、案外なんとかなるもので
、変なやつに騙されたりとかはしていなかった・・・・・・モンスターボールをスーパーボールと取り替えてく
れる親切なおじさんがいたとは言ってたけど。本当にだいじょうぶなのかと思うこともあったけど、まあとにか
くだいじょうぶだった。

 頭についた、ふたつのお団子頭だけだ。ずっとずっと変わってないのは。



「ひさしぶりー、ヒュウちゃん。待った?」
「いや。そもそもまだ待ち合わせまで時間あるしッ! というかなんだよその頭は」
「えっ、何かヘン?」
「ヘンだよッ! ボサボサじゃん!」

 メイの頭の団子は、団子と形容できないくらいグチャグチャになっていた。へんしんに失敗したメタモンみた
いだ。メイじゃあるまいし、へんしんできないメタモンなんてハラハラするやつがいるのかは知らないけどな。

「ちょっとオマエこっち来いよッ!」
「わー、ヒュウちゃんが怖いよー」
「当たり前だ! みっともないッ!」

 まるでサボネアみたいに毛羽立ったメイのお団子を直すために、その辺の石に座らせた。待ち合わせを街中に
しなくて良かったと思う。メイとはいえ女の髪を直すところを人に見られるのなんて恥ずかしい。イルミーゼと
バルビートのつがいが通りがかってニコニコこっちを見てきたけど、無視だッ! 無視ッ! 虫ポケモンだけに
なッ!

 メイの髪は解くともっと長い。地面に垂れ下がってしまうほどだ。野生のポケモンがメイの髪で遊んだら大変
なことになるので、手早く結び直し始める。お団子頭は手間がかかるけれど、コイツの髪質がサラサラで結びや
すいのが救いだ。面倒くさくない。面倒くさいけどな。

 小さい頃はしょっちゅうヘマをしてボサボサにしていたコイツの髪をよく直してやっていた。最近はしなくな
ってたからまだ出来るのか自分でもわかんなかったけど、どうも手が忘れられないほど手順を覚えていたらしく
て、簡単に直してやることが出来た。

 ・・・・・・コイツは、いったいどんだけ髪をボサボサにしてたんだッ!!

「最近は少し大人になったと思ってたのに・・・・・・相変わらずだなッ! オマエはッ!」
「えへへ、ゴメンねヒュウちゃん。ここにくる途中でちょっとゴタゴタしちゃって。気がついたら待ち合わせに
間に合わない! って時間になってたから、髪直すヒマもなかったんだあ」
「・・・・・・ゴタゴタってなんだよ?」

 オレが聞くと、メイは言葉につまったように黙り込んだ。オレが髪を直す手を止めて頭を撫でてやると、観念
したように続きを話し始める。

「プラズマ団・・・・・・あ、白い服着てる人たちじゃないほうね、とにかくプラズマ団の人が、ヒュウちゃんの妹ちゃんよりちっちゃい女の子のクルマユを、取ろうとしてたの。ツルたちに頼めば良かったんだろうけど、気がつ
いたら、体が動いてて、黒い服のプラズマ団の人たちにたいあたりしてて・・・・・・りあるふぁいと? みた
いになっちゃって」

 オレはとびひざげりを失敗したコジョフーみたいにすっころびそうになった。ダメだ。ちょっとは成長したと
思ってたのは幻想だった。ゾロアークのイリュージョンとおんなじで。ちなみにツルというのはこいつのジャロ
ーダのニックネームだ。

「アホかオマエは・・・・・・ポケモン勝負で決着つけろよッ!! ポケモントレーナーだろ! 何かあったら
どーすんだ!!」
「うーん、でも、プラズマ団の人もりあるふぁいとだと結構弱かったよ? 相手の人は男の人だったのに、結構
情けないなーって」
「二度とすんなよッ! オマエも、妹のチョロネコも・・・・・・どこ探したって他にいないんだからなッ!」
「うん、わかってる、ごめんなさい・・・・・・ヒュウちゃんは優しいよね、むかしから。ポケモンも、人も、
おんなじように、大切に思ってる」

 流石のメイでも自覚症状はあったのか、素直に謝って、それからはしばらく黙ってオレに髪を直されていた。
近くの川でバスラオが水面に顔を出して、また水の中に潜っていく。

「もちろん、助けなきゃ! って気持ちもあったんだけど・・・・・・わたし、あのクルマユのトレーナーの女
の子のことを、むかしのわたしと重ねてたのかもしれない」
「・・・・・・どういうことだよ」
「自分のことは、自分で守らなきゃって、思ったの」
「話が見えてこねえ」
「ヒュウちゃんも今言ったじゃない。わたしと、妹ちゃんのチョロネコも、他にいないけど、ヒュウちゃんだっ
て、他にいないんだよ?」

 やっぱり話が見えてこない。こいつのすっとぼけたところはやっぱり変わっていない。なんだか話しててわか
らないことがあるのだ。

「ええっとー、ほら、むかし、ヒュウちゃんが、怒ったミネズミからわたしをかばってケガしちゃったでしょ?
 ああいうこと、ヒュウちゃんにさせちゃいけないって思ったんだ」

 思わず手に持っていたくしを地面に落としてしまった。そんなこと、メイはぜってー覚えてねえと思ってたか
らだ。

「ヒュウちゃんは平気って言ってくれたけど、ヒュウちゃんの赤い上着の白い部分がね、血で赤くなってて、怖
くって・・・・・・もっとしっかりしなきゃ、ずっと「ヒュウお兄ちゃん」に頼ってばっかじゃダメだって」

 そういえば、

「うん・・・・・・こんどから、きをつける」

 いつからだっけ、

「・・・・・・それから、」

 こいつが、

「ありがと・・・・・・」

 オレのこと、

「・・・・・・ヒュウちゃん」

 ヒュウお兄ちゃんって、呼ばなくなったのは。

 そうだった、しょっちゅう世話を焼かせられたとはいえ、あれが最初で最後だった。大したことがないとはい
え、オレがケガするはめになるほど、危ないことになったのは。

「あの時は、本当にありがとう、ヒュウちゃん。ヒュウちゃんがいつも一緒にいてくれて、優しくしてくれたか
ら、わたしは少し強くなれたんだと思う・・・・・・ヒュウちゃんに怒られちゃうようじゃ、まだまだなんだろ
うけど」

 いいや、変わったよ、オマエは。考えるより先に体が動いて、女の子助けちまったんだろ? それってスゲー
ことじゃん。そりゃ、あんまり危ないことはしたらいけねえと思うし、もうするなよッ! とは思うけど。実際
強くなったじゃん、オマエ。すっとぼけてんのは相変わらずだけどさ。

「・・・・・・そーだな。強くなったけど、オレに怒られてるようじゃ、まだまだだッ!」

 そう思ってるのに、オレの口は思ってることの半分以下も出てこなかった。いつまでもガキなのは、どっちだ
ろうな。どっちもまだまだガキなのかもな、オレたち。

 オレが髪を直す作業を完了させると、ずっとむかしと変わらないお団子が、何もなかったみたいにメイの頭に
二つ、くっついていた。


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