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  [No.3358] ある晴れた日に君と喫茶店でコーヒーを飲むこと 投稿者:焼き肉   投稿日:2014/08/26(Tue) 23:23:20   113clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ポケモンXY】 【カルム】 【セレナ】 【カルセレ

 オレの隣の家って長いこと空き家だったんだ。少なくともオレが物事の判別がつくようになった時にはもう、
空き家だった。

 なんでかは知らない。前の持ち主が何かやらかしたいわくつきの物件だからとか? ウソウソ。アサメタウン
はのどかで緑が多くていいところだけど、へんぴなところだからね。

 単に交通の便が悪いから買い手がなかなかつかなかったんだと思うよ。だからこう、すぐ隣の家に誰かが住ん
でる気配がするのは、いつの間にか部屋の家具が一個増えてて当たり前にそこにあるような、ちょっと心霊現象
みたいというか、変な感じはするね。

 変って言うのは失礼かな。だけどオレの隣はこれからもずっとイトマルの巣が張ってるような空き家なんだろ
うって思ってたし。気を悪くしたら謝るよ。どう言ったらいいのかな。驚きなんだ。早い話がね。



 向かい合ってテーブルについている「お隣さん」に一方的に喋りかけると、カルムはアイスクリームにコーヒ
ーをかけたデザートを一口食べた。

 ミアレシティのあちこちに散見される喫茶店の一つであるこの店は、コーヒーそのものよりも甘味に気合いを
入れている店として有名だ。飲めないというほどじゃないし、友達にもクールだと言われることもあるけれど別
にカッコよく見られたくてブラックコーヒーを飲むほどキザなカッコつけのつもりもない。

 だからこうしてアイスクリームに存在意義の大半を浸食されてしまっているような甘味を、普通に女の子の前
で食べている。「お隣さん」はこういうことをからかわないから気が楽だ。ただアタシもそれにしようかななど
と言いつつ普通に特大チョコレートパフェを頼んだのは謎だが。

 まあ甘味に気合いを入れた店なのだから、曲がりなりにも苦いコーヒーしてるこっちよりも正解だろう。何に
しても一方的にしゃべっても文句も言わないのが心が広いというか。「お隣さん」の女の子は看板メニューの一
つである特大チョコレートパフェを優雅に崩している。六分の一ほどが崩し終わったところで、「お隣さん」は
ようやく口を開いた。

「ある晴れた日にお隣さんのアタシと喫茶店でコーヒーを飲んでることが?」

 少し間を置いてから、「お隣さん」の問いかけが先刻の「驚きなんだ」という発言にかかっていることに気が
つく。いや「お隣さん」がいること自体が驚きなんだけれども。そしてこの場にいる自分と「お隣さん」、その
どちらもコーヒーを「飲んで」はいない。と思ってから、これが「お隣さん」流の冗談なのだということにも気
がつく。大変わかりにくい。

「まあそれも驚きと言えば驚きかもね。なにしろオレは女の子とのデートなんて無縁だから」
「へえ意外」
「なんで」
「だって女の子にモテそうだし。カルムってクールだし、カッコいいじゃない」
「冷たいとはよく言われるよ」
「へえそれも意外」
「なんで」
「だってアタシが困ってる時もさっそうとクールにやってきて、助けてくれるじゃない」

 とっても恥ずかしいことを言っても、「お隣さん」はほえるを喰らってもへいきな顔をしている勇敢なポケモ
ンみたいに、表情一つ変えない。こっちが恥ずかしくなってくる。

「そう取られるのも驚きかもね」

 なぜだか熱くなった手のひらの中にあるコーヒーのかかったアイスクリームは、熱が堪えたように少し形を崩
していた。


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