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  [No.3710] サンドパンの旦那さん 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/04/11(Sat) 05:38:47   111clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:サンドパン】 【サンド】 【ネズミ】 【バカップル

 サンドのサンドイッチの続き。ギャグですが下ネタ多いです。



 サンドパンの手を引いて僕はある場所を目指して歩いていた。サンドパンの手の片方は僕が握っていて、もう片方の手は息子のサンドが握っている。ときおりフワフワ風に乗って飛んでいくフラべべや、遠い空を飛ぶ鳥ポケモンの影に気を取られてフラフラどこかに行きそうな息子を、これっ! よそ見しないの! ご主人に迷惑がかかるでしょう、って感じでギイギイ鳴いて注意している。おかげで僕は通りすがる車なんかに注意を払い過ぎる必要がない。

 人間一人とポケモン二匹でやって来たのは、一軒の古い屋敷だった。家の周囲が白い高い塀で囲まれており、それさえも突き抜けて、昔のカントー家屋って感じの瓦屋根が顔を出している。表札にはきちんと家主の名字が書かれており、文字の横には何かを塗りつぶした跡がある。

 僕はインターホンを押した。鐘のように響く音の後、間があいて、それから一人の女の子と一匹のポケモンが横開きの玄関から出てくる。

「はあーい……なんだ、アマノじゃない。いらっしゃい」
「こんにちは、サンノ。お邪魔するよ。ミルミルも元気そうでなにより」
「グギュウウウウ!」

 突然の来訪を歓迎してくれた女の子の方は僕の幼なじみ、お腹に良さそうな名前のポケモンはミルホッグだ。握っても何故か痛くないサンドパンの鋭い爪から手を離し、僕はミルホッグの「お前なんでほっぺにいつも各種木の実詰めてんの?」って訊きたくなるようなほっぺを両側からウリウリする。ほ〜らウリウリ、ウリウリ瓜〜。両手でグリグリすると、ミルホッグはギュウギュウ鳴いて喜んだ。でもほっぺから各種木の実が飛び出すことはなかった。コイツのほっぺがぷくぷくしてんのはミネズミの時からで生まれつきのものだしね。

「ちょっと、私のかわいいミルミルいじめないでくれる?」
「いじめてないよ、スキンシップだよ」
「じゃあセクハラをしないで」
「合意の上だからセクハラじゃないよ」
「外でわいせつな行為をしないでと言っているの」
「ほっぺぷくぷく罪ですか」
「そうよ、ほっぺぷくぷく罪よ。私のミルミルのほっぺは私のためにあって、他の誰にもぷくぷくをウリウリさせる権利はないの」
「瓜をあげるのはいいかい?」
「好きにして」

 いいのか。ミルミルはポリポリかじれるもの好きだからなあ。ネズミだし。ネズミ、という単語に、僕はサンノの家の表札を見た。

 『根済屋』と墨でかかれた横に、塗りつぶした後。そこにはかつて「敷」という文字が極自然に、ナチュラルに追加されていたのである。

「なによ」
「表札のラクガキ、消す必要なかったんじゃないかなあって」
「ラクガキはラクガキよ。消してなんの問題があるの」

 あり得ないことを聞いたように首をかしげる彼女の頭上で、赤っぽいピンクのリボンと長いポニーテールが揺れていた。リボンの端には白いラインが入っていて、それが装飾品そのものを装飾していたりする。

「問題はないけど」
「なら問題はないわね。遊びに来たんでしょ、入って」

 話を一方的に打ち切って、彼女は僕にポニーテールと背中を向けてしまった。ミルミルも主人の後を追うものだから、僕は二つのしっぽがフリフリされるのを見送ることになる。

 白いライン付きのリボンで結んだ、サンノのポニテがフリッフリ。
 黄色いライン付きの、先端は白いミルミルのしっぽもフリッフリ。

 通されたサンノの家は広い。インターホンを押してから少し間があったのはこのせいである。奥の方の部屋にいると、玄関に来るまでちょいと間があいてしまうのだ。板張りの廊下を歩いていると、いらっしゃいませご主人のご友人様、という感じで、何匹かのポケモンが出迎えてくれる。いつもの事だ。ラッタ、ビーダル。

 彼女の部屋に入ると、更にもう数匹が僕達を出迎えた。鞠(まり)のように弾んで飛んで、サンノの胸に飛び込んでくるのはルリリ、勝手に僕の体をアスレチックに見立てダダダダダーッと肩に乗って来たのはデデンネだ。

 そして、部屋の机、ベッド、本棚の上などいたるところに黄色い物体が置かれている。ピカチュウのぬいぐるみだった。彼はこの世でもっとも有名かつ人気なネズミポケモンである。サンノも大好きだった。彼らのつぶらな瞳がジッと、僕とサンドパン達を見つめている。何匹かは白い綿をぷっくりした腹からはみ出させてしまっている個体もいた。ネズミ達にかじられてしまったのだろう。時々本能に抗えず、サンノのネズミ達は物を齧ってしまうのだ。げっ歯類さん達の共食い反対。

「で、何の用よ? 遊びに来たの? トランプでもする? おやつ食べる?」

 ルリリを抱えたまま、サンノは僕に座布団を勧めた。当然のようにピカクッション。僕に茶色いしましま背中を向けるピカクッションの上に、ちょいとごめんよとお座りした。傍らに僕のサンドパンと息子のサンドも座る。

「ちょっと話があって」
「とうとうあなたのサンドパンといつの間にか増えてるサンドちゃんを私に譲る気になったのね。いい心がけだわ」

 んなことしたらまた表札に敷って追加されてネズミ屋敷になるんじゃないかなあ。あげないよ。肩の上でデデンネがチュウチュウキイキイ鳴いている。

「いいや、今日は僕のサンドパンがいつの間にか増殖していた件について話に来たんだ」
「ネズミちゃんだからでしょ」
「いや合ってるだろうけど違うそうじゃない」

 そりゃ一般的にネズミポケモン(とそれに近いポケモン)は増えやすいって言うけどさ。サンドはまあ、一匹見かけたら四十匹はそこに住んでるって言われるコラッタほど見かけやすいポケじゃないけど、絶滅なんて言葉も聞かないのはやっぱり、そこそこ増えやすいからだろうね。

「まあポケモンだから、人よりは後先考えなくてもいいっていうか、実際一匹くらい増えても何も問題じゃないけど、気になって」
「何が?」
「いくらネズミちゃんでも一匹じゃ増えないだろ。だから父親がいるんじゃないかって」
「要件はそれ? なんていやらしいの。あなたは私のネズミちゃん達が一匹の可憐なサンドパンのメスを手篭めにする鬼畜畜生だとでもいうのね、」
「違」
「国家の犬! 猫の手先! ニャースを率いるロケット団!」
「だから」
「うちには犬も猫もいらないのよ、出てって」

 真顔でそういうこと言わないでくれるかなあ? いくら付き合いが長くったって冗談との区別がつかなくて悩む事もあるんだよ?

「だからその……手篭めにしたとは限らないだろ? じゃなくてね、僕のサンドパンは」
「『僕の』サンドパン、まさか父親はあなた、ずいぶんサンドパンへの独占欲が強いと思っていたけど、とうとう」
「君のがやってそうだけど」
「や、やってないわ……」
「どもった」
「本当よ」

 照れるくらいなら、手篭めだの、ポケモンと人間がどうだのなんてネタを振らなければいいと思うんだ。

「僕のサンドパンはこの通り義理堅い性格だから、あまりぼくのそばを離れないし、単独行動の時、どこかで全く知らないポケモンと行きずりの関係を結んだとは思えないんだよね」

 行きずりの関係って。サンノの表現技法が伝染しちゃったよ。言葉もネズミ式に増えるのか。

「だからさ、サンドパンそのものは君の手持ちにいないとしても、サンドパンと同じような種族を引き連れていて、僕ともサンドパンとも仲良くしているサンノ周辺が怪しいと思うわけだよ」
「何も怪しくないわ」
「つっかかるなー……言い方が悪いなら謝るよ、僕としちゃあただ気になることをハッキリさせたいだけなんだ」
「ルリルリはシロね」
「ルリリは赤ちゃんだからね」
「おねショタ」
「何か言った?」
「いいえ」

 サンドパンはいつの間にかサンノの横に移動して首元をなでなでされていた。いつネコになったんだこの野郎。あ、お母さんだった。このマザー。そのマザーだけど、この場にいるいつの間にか僕の頭の上で「頂上にたどり着いたー!」とチューギィ叫んでるデデンネにも、いつもビックリ仰天した顔してるビーダルにも、ラッタに尻尾を甘噛みされてああーんってなってるミルホッグにも、噛みついてるラッタにも反応していない。となると。

「ネズミちゃん一匹足りなくない?」
「足りなくないなんてことないわ」
「現に一匹足りないじゃない」
「いるわよ……ピカピカ! アマノが勝手に行方不明にしてるわよ! 出ておいで!」

 魔法をかけないでいつまでも、とか続けたくなるニックネームに応え、一部齧られ気味なピカチュウぬいぐるみの山がうごめいた。返事がないただのしかばねの山から出てきたのは……? ゾンビ!

「うーあーうーあー」
「何やってるのよ」
「効果音を」
「せめてピカピカチュウチュウと鳴きなさいよ」
「ピカピカチュウチュウ」
「よしよし」

 サンドパンのように僕も首をなでなでされてしまった。何これ。ゴロゴロすればいいの? 僕の頭のピカピカチュウチュウコールに釣られたかは知らないけど、ピカチュウぬいぐるみの中から出てきたのは生身の生きたピカチュウだった。おやびんって感じで、電気ぶくろの赤いほっぺに少し傷がある。今まで寝てたって感じで、つぶらな瞳がすげー釣りあがってて目つき悪っ!

「ギ……ギギィ!」

 瞬間! 僕のサンドパンが僕だけのサンドパンじゃなくなった! メスの顔になった! ボーッと顔を赤くして、ピカぐるみの上に立つおやびんピカチュウを見つめたまま動かない! ただならぬ気配に息子のサンドもお母ちゃんどうしたの、ってオロオロ母のトゲトゲを引っ張っているのだが気づかない!

 おやびんピカチュウは僕のだったサンドパンを一目見るや、おうおうマブいスケさんよう、元気してたかって感じで僕のサンドパンにつかつか歩み寄った。サンドパンはそれを真っ赤なお顔、恋する瞳でおでむかえし、あのう、そのう、って感じにツメをシャッシャカ合わせている。殺人準備っすか。

 あなたにまた会えるとは思いませんでした。サンドパンが鳴く。いつ一晩だけって言った? ピカピカが鳴く。こんなトゲだらけの身体すぐ飽きてしまうに違いないもの。そういう傷つくような身体、好きだぜ。嫌だわ恥ずかしい。これはあの熱い逢瀬の結果です。サンドパンが息子をそそくさピカチュウの前に出す。おう、オレもとうとう父親かい。ピカチュウおやびんがサンドの頭を撫でてやる。だあれ? って感じにサンドが首をかしげる。

 台詞は全部僕の想像でしかないけど、大体合ってるんじゃないかな。だって雰囲気がただ事じゃねえもん。

「……サンノが心配するような手篭めはなかったようだよ」
「いくら私のピカピカが強くても、じめんタイプで一メートルもあるサンドパンが、ピカチュウに抵抗出来ないわけがないものね」
「……いつ頃こうなったかは知らないけれど、逢瀬の場所は、あそこかな?」

 ピカぐるみの山を僕は指差した。サンノの部屋は広く、ピカぐるみの山は壮大。あの中なら気づかれまい。かじられながら愛の巣にまでされたピカぐるみたちは今何を思うのだろう。とりあえずジュペッタになる前に片付けた方がいいと思う。

「こうなったからには責任を取らないとね、さっさとサンドパンをサンドちゃんごと譲りなさい」
「手持ちもういっぱいでしょ」
「じゃああなたをパソコンに送るわ」
「解決してない!」
「一人減る」
「減らしてどうするのさ! そもそも譲る気ないからな!」

 声を荒げてしまった。思っていた以上にメスの顔をしたサンドパンがショッキングだったみたいだ。いやだって、あんな顔、トレーナーの僕でさえ見たことないぞ。それがあの、どこのネズミの骨とも知れないピカチュウと。いや知ってるけど! いやあん堪忍してえ、ってな感じに襲われたんじゃなくて良かったかも知んないけど!

「よしよし」

 サンノが僕の頭を撫でてくれた。頭の上のデデンネはとっくに下山している。撫でられたって嬉しく…………嬉しい。視界の端では発覚! 熱愛じめん/でんきの相性を越えた愛が熱い。



 サンノの名前は大好きなラノベの一つ「曲矢さんのエア彼氏」の曲矢サンノから。


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