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  [No.3793] 1.僕たちの話 投稿者:Ryo   投稿日:2015/07/29(Wed) 19:21:30   84clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

そのポッチャマは、白いペンキが剥げかかった木の柵にもたれて、夕焼け空をじっと見上げていました。
昼間はあんまり眩しくて目を向けることもできないのに、こうして夕方になると太陽は少しだけ光をおさえて、その本当の姿を少しだけ地球の生き物たちに見せてくれます。白い雲が通りかかって溶けかけたアイスクリームのようになった、白くて真ん丸なその星を見ているポッチャマの目は、なんだか寂しそうでした。
ポッチャマは大きく伸びをすると、背中を柵につけたまま、ぺたりと座り込み、大きくため息をつきました。ポッチャマの見ている先には、彼の背丈ほどの花畑が植わっていましたが、その花畑はよく見れば、あちこち踏み倒されていたり、掘り返されていたりして、ずいぶんひどい有り様でした。さらにもっとよく見てみると、柵の内側の地面には足あとだらけ。綺麗な水がはってあったらしい小さな池の水は半分くらいになっています。緑の芝生がしきつめられていたらしい場所はほとんど茶色くなってしまって、足あとがついていない地面がほとんどないほどでした。
たくさんの足あとは、どうやら二匹のポケモンによってつけられたものでした。ひとつは小枝をあちこちに落としたような形で、もうひとつは大きな葉っぱを丁寧に押し付けたような形をしています。葉っぱのような足あとの主はもちろん、このポッチャマ。そして、小枝のような足あとの主のもう一匹は、ポッチャマのいる柵のちょうど斜め向かいの、小さな花をつけた木の影から黄色いトサカをのぞかせて、疲れた様子のポッチャマを見つけると嬉しそうに駆け寄っていきました。ポッチャマも座ったまま、そのポケモンに小さな羽を振って迎えます。ポッチャマの横にちょこんと座ったそのポケモンは、アチャモの男の子でした。

「ねえ、今日は見つかった?」
「ううん、今日もダメだった…」
「そっか…ボクもだよ…」

二匹はささやくような声で何かを確かめ合うと、お互いの答えを聞いて、同時にため息をつきました。アチャモのトサカが元気のなくなったナゾノクサのようにへたりと倒れ、それを見たポッチャマは悲しそうにうつむきました。
二匹は隣り合ってくっついて、柵にもたれて座っています。時々柵の外側にある真っ直ぐな道を通る人間やポケモンが、珍しそうに二匹をちらっと見たりしながら忙しげに通り過ぎていきます。
ポッチャマは外のことなんか気にならず、ただアチャモのしっかりした足をじっと見つめていました。この柵に囲まれた小さな庭でも、ポッチャマの足では端から端まで行くのによちよち歩きで500歩くらいかかります。アチャモの足ならその半分もいらないで、あっという間に一周回って戻ってこられるでしょう。四本の強い爪がついた足は、どこまでだって走っていけそうで、いつでもポッチャマの憧れでした。
「僕もそういう足が良かったな」
ポッチャマが悲しげに言います。するとアチャモはすぐさま
「ボクはね、キミの羽のがうらやましいよ」
と返事をしました。ポッチャマはそれを聞いてどこかホッとしたような顔をします。きっとこのやりとりは、二匹の間で何度もくり返されてきたのでしょう。
「でも僕の羽、飛べないじゃないか」
「キミのは飛ぶんじゃなくて泳ぐ時の羽でしょう?ボクちっとも泳げないから、泳ぐってどんな感じかなって思うし、キミは泳げてすごいなって思う」
アチャモは早口で、一生懸命ポッチャマを励まします。ポッチャマはその間にアチャモへの励ましの言葉を考えていたようで、アチャモの言葉が終わるのを待つように、こう返しました。
「…ありがとう。僕も君みたいに思いっきり走ってみたらどんなに楽しいだろうって、よく思うよ」
「走るの気持ちいいよ!ビュンビュンって!まわり全部見えなくなるの、すごいよ!」
アチャモはトサカをピンと立て、肩のまわりの可愛い小さな羽をふわあっと膨らませて一息に答えました。アチャモのその様子を見たポッチャマは本当に嬉しそうな顔で、ほうっと息を吐きました。

「…もしも…もしも、さ」
少しの沈黙の後、アチャモがためらいがちにポッチャマに話しかけます。
「ボクとキミのタマゴが見つかったとして、ボクの足とキミの羽がついてたら、最高だよね?」
少し震える声でそう言ったアチャモの瞳は、木々の間に落ちる夕陽の最後の光を受けて、湖のように輝いていました。
その輝きを受けたポッチャマは、かなしばりにかかったようにしばらくアチャモを見つめていましたが、やがてゆっくりまばたきをしながらうなずいて、
「うん、きっとどこにでも行けるポケモンになるね」
と、返事をしたのでした。

***

―「本当になんにもしないでも、タマゴがいきなり見つかるの?」
「ええ、なあんにもしないでいいの」
それは二匹がここにやって来る少し前のことでした。人間のご主人や他のポケモン達と一緒に夕食をとっていたポッチャマは、一緒に旅をしている仲間で一匹だけタマゴを見つけたことがあるポケモンであるライチュウに、何度も何度もこういう質問をしていました。
「あの柵に囲まれた小さい庭に、二匹でただ一緒にいればいいの。そうしたらいつのまにか、そばにあるのよ」
このライチュウはたいそう優しい性格で、例えそれが食事の時間でも、前に答えたことのある質問でも、自分が食べるのを止めていくらでもこの熱心なポッチャマに付き合ってくれたのでした。特にこの話―ライチュウがタマゴを見つけたまさにその瞬間の話は、ポッチャマだけでなくアチャモもお気に入りで、二匹とももうすっかり覚えてしまったのですが、この時もまた、ポッチャマはいつものようにその話をしてもらいました。
「そうねえ、あの日はお日様が気持ちよかったから、少しうたた寝してしまったの。まわりはみんなお花に囲まれてて、暑すぎも明るすぎもしない、気持ちいい場所だったわ。どのくらい眠ってたかは覚えていないけど、目を覚ましてもお日様はまだ空の高いところにいて、起き上がったらすぐ横に、この子のタマゴがあったの」
ライチュウはそこで決まって、そのコッペパンのようなふかふかの暖かい手で、見つかったタマゴからかえったピチューの頭を優しくなでるのでした。
「にいたん、おんぶ」
ピチューがあどけない声でポッチャマに両手を差し出します。ポッチャマはくるりと背を向けてかがむと、小さいけれどしなやかで強い羽でピチューをその背に持ち上げました。ピチューが歓声をあげ、テーブルで食事をとっていた人間のご主人が微笑みます。
「ねえライママ、一緒にいた相手のポケモンはー」
アチャモがそこまで言いかけて、はっとした顔で口をつぐみました。ポッチャマも不意をつかれたように真顔になりました。ピチューの笑い声がやみました。アチャモの頭をパシリと大きな灰色の翼が叩き、アチャモとポッチャマは同時に目をぎゅっとつむりました。
「やめておけ」
それだけ言ってアチャモをにらみつけているのは、この旅仲間のリーダーであるムクホークでした。とても無口で厳しい性格で、敵には全く容赦しないので、ポッチャマやアチャモにとっては、頼れるけれど近寄りがたくもありました。
そんなリーダーに叱られたことでアチャモはすっかりしおれてしまい、
「ごめんなさい」
と、ライチュウに頭を下げました。
「いいのよ、ムク」
ライチュウはやっぱり笑って、しみじみとした様子で首を振りました。
「確かにタマゴが見つかってからあのピクシーとは会っていないけれど、彼は別に私やこの子のー」
ライチュウはそこで言葉を切って、ポッチャマとピチューの方を見やりました。ピチューは不安そうな顔で小さくふるえ、ピリピリした痺れと痛みはポッチャマの体まで伝わっていました。
「ううん、やめましょう。とにかく、今はこの子が私にとって一番大事だから」
ライチュウは目を閉じ、誰にともなくそう言うと、
「さあ、おいで、かわいい坊や」
と、さっきまでの笑顔を取り戻して両手をポッチャマの方に広げました。ポッチャマがそっと腰を下ろすと、「坊や」はとん、と一瞬だけ地面を踏んで、ライチュウの腕の中に思い切り飛び込みました。
「おんぶしてもらってよかったねぇ。楽しかった?」
「うん!」
ピチューはモモンの実のようなほっぺをライチュウのふわふわの胸元にすり寄せてうなずき、全身でそのぬくもりを感じているようでした。

何にもしなくても、一緒な庭に二匹でいるだけで、タマゴが見つかるということ。
それは、ピチューにとっては、ピクシーもライチュウも本当の家族ではないかもしれない、ということです。このピチューが本当はどこからやって来たのか知っているポケモンは、だれもいません。けれど、もしもそれを誰かがピチューの前で言ってしまったら、ピチューの小さな心はきっとこわれてしまうでしょう。そして、そうしてピチューの心がこわれてしまわないよう思いはからっているライチュウがピチューの「ママ」ではないなんて、誰がどうして言えるでしょうか。
ライチュウがポッチャマたちに話してくれた、どこからかやってくるふしぎなタマゴの話。ライチュウがピチューを本当の子供として可愛がっている姿。それが、ポッチャマとアチャモがここへやって来た理由でした…

***

「―ねえ、起きて。起きてよ。アオ…」
柵にもたれて座ったまま、いつの間にか眠ってしまっていたポッチャマに、アチャモが小声で呼びかけています。
アオ、と呼びかけられたポッチャマは、よっぽど疲れていたのか、なかなか夢から覚めません。
「アオってば!」
左のほおをくちばしで軽く小突かれて、やっとアオは目を開けました。
「うーん、どうしたの、ヒバナ…」
どうやら旅仲間のライチュウが仲間たちから「ライママ」と呼ばれるように、ライチュウがムクホークのことを「ムク」と呼ぶように、この二匹には、人間のご主人には秘密の、お互いだけの呼び方があるようです。アオが両目をこすっていると、ヒバナがしきりにくちばしで、柵の向こうを見るよう示してきました。そしてアオがそちらに顔を向けるとーなんと人間のご主人がいるではありませんか!
二匹はあせりました。もしかしたら人間のご主人は、僕らを連れ戻すつもりでやってきたのじゃないだろうか。もうすっかり暗くてよくわかりませんが、庭の入り口に建っている小屋の明かりは、小屋の側にいる二人分の人間の姿をぼんやり照らしています。一人はアオとヒバナのご主人で、もう一人はこの庭の世話をしているおじいさんのようです。大きな影ぼうしのような姿の二人は何かを話しあっているのですが、二匹には何を言っているのかわかりません。人間の言葉は難しい言い回しが多くて、ご主人が話しかけてくれる言葉はなんとなくわかっても、人間同士で話していることはわからないのです。それに、二匹の背丈は、人間たちの会話をきちんと聞くには少し低すぎました。けれど、落ち込んだような真剣なような二人の声の調子を聞くと、どうやらそれが良い内容の話でないらしいことはわかりました。
「やっぱり僕ら、連れ戻されるんだ」
「ボクらがタマゴを見つけられなかったから…」
小さな二匹はお互いに、きっとそうだと言い合って、悲しみに肩を落としました。でも、いつまでも黙って下を向いていてはいられないことも、二匹には分かっていたようでした。元々人間のご主人にも相当なわがままを通して二匹でここへ来させてもらったのだから、ここであきらめてしまっては何もしなかったのと同じだと、二匹はうなずきあいました。
「ねえヒバナ、ご主人にもう一回お願いしよう。まだここへ来てから、お日様も2回しか登っていないよ。3回目の朝には何か見つけられるかもしれないもの」
「そうだね、ボクもう一度大きな声でお願いしてみるよ。アオの願いを叶えてあげたいから」
アオはそれを聞いて一瞬だけ困ったような悲しいような顔になり、すぐに何か言おうとしたようですが、それはきちんとした言葉にならず、ただ一言
「ありがとう、ヒバナ」
と言えただけでした。

二匹はすくっと立ち上がると、小屋の方へ走りました。アオは葉っぱのような足で精一杯走り、ヒバナは何度も立ち止まって振り返りながら、アオに合わせて走りました。
そして二匹は小屋のすぐ側まで来ると、話しこんでいる二人に向かって大声をあげました。人間のご主人がすぐに気づいて、柵の向かいに駆け寄ります。
「どうしたんだ、おまえたち?」
しゃがみこんで二匹と同じ目線でかけてくれた言葉は、アオにもヒバナにもはっきり分かりましたので、二匹も精一杯に声を張り上げて
「僕たち、まだ帰りたくないんです!」
「タマゴを見つけさせてください!」
と叫びました。それが人間のご主人に届いたのかどうか、よくは分かりませんでしたが、人間のご主人は、必死に小さな翼をばたつかせてお願いする二匹に少し辛そうな笑顔を見せて、その頭を軽くなでると、立ち上がっておじいさんの元へ戻って行きました。それからまた二人で何か話していたようですが、話の内容は、アオもヒバナも柵にぴったりくっついて聞き耳を立ててみても、やっぱり分かりませんでした。やがて人間のご主人の足音が闇夜に遠ざかっていくのが聞こえ、おじいさんも小屋に戻ったらしく外には誰もいなくなりました。そして庭にも静かな時が訪れました。

アオとヒバナは、庭の奥の花畑へ戻ってきました。どうやら今夜連れ戻されることはないようでした。安心と疲れと花の香りが、二匹を眠りの世界に誘おうとしていましたが、草花でそれぞれの寝床をこしらえて横になっても、アオはまだ眠ることができませんでした。
「ねえ、ヒバナ」
真っ暗な空に点々と光る星明かりを見上げたまま、アオはヒバナに声をかけました。少し離れたところから
「どうしたの、アオ」
と返事がかえってきました。それから少しアオは次の言葉にためらい、ヒバナはアオの言葉を待っていました。
「ごめんね」
そのアオの言葉はヒバナを驚かせたようで、ヒバナは弾かれたように寝床から半分体を起こして
「何が?どうして?アオが謝ることが何かあるの?」
と、アオに向かって質問の雨を降らせました。アオは困ったように答える言葉を探して黙りこみ、ヒバナは半分起きた格好のままアオの方をじっと見つめていました。
やがてアオは慎重に話しだしました。
「さっき、ね、ご主人が来た時に、ヒバナは僕の願いをかなえてあげたいと言ったでしょう。もしヒバナが本当はそんなにタマゴを欲しくないのに、無理やり僕のわがままに付き合ってくれてるんだったらー」
「違う!」
ヒバナは大声を上げました。アオはその声にびっくりして飛び起きましたが、ヒバナ自身も自分の出した声があんまり大きいのに驚いて目を丸くしていました。でもすぐにヒバナはぶんぶんと首を横に振って、アオの目をしっかりと見て言いました。
「確かにタマゴが欲しいって最初に言ったのはアオだよ。アオの願いを叶えてあげたいのも本当だよ。でも、ボクが本当はタマゴが欲しくない、なんて思ってたら、ここに一緒にいさせてくださいってご主人に頼んだり、この庭までご主人を連れてきたりなんかしなかったよ!そうでしょ?」
「…ヒバナ」
アオの声は少し涙ぐんでいました。ヒバナはにっこり笑って
「ボクとアオのタマゴからかえるのは、どこにでも走っていけて、どこまでも泳いでいける、最高のポケモンなんだよ。ね?」
と、アオに言いました。アオはもう何にも言えなくなって、涙をこぼしながら何度も何度もうなずきました。

それから二匹はまたそれぞれの寝床に寝転んで、眠りの時が訪れるまで星を眺めながらぽつりぽつりと色んな事を話しました。
「ご主人、ここに連れて来られた時は目を丸くしてたよね」
「みんなでご飯食べてる時に、突然自分のポケモンが逃げ出したら、そりゃご主人はびっくりするよ」
「確かにそれもだけど、ボクが柵を飛びこえてこの庭に入っちゃった時のご主人の顔ったら、もうおかしくってさ!」
「その顔、僕も見てみたかったなあ。ご主人もヒバナも足があんまり速くて、僕、追いかけるのが大変だったよ」
「あはは、ごめんごめん。絶対に作戦を成功させなきゃって思って、他のことは考えられなかったんだ」
ヒバナの声が弾んでいます。アオは自分の足の遅いことを考えてまた少し切ないような気持ちになりました。でもこれはヒバナが悪いのではないのです。元々アチャモはあかあかと燃える炎のような明るさと情熱を、ポッチャマは吹雪の中で耐え忍ぶための辛抱強さと思慮深さを持って生まれたポケモンなのですから。そしてそのお互いにない部分をこそ、二匹はお互いに素晴らしいと思っているのです。
「やっぱりヒバナの足が羨ましいよ。柵だって簡単にこえられてさ。僕も頑張ったけど無理だったもん。下からくぐるのも失敗したし、かっこ悪かったなあ」
「でも、ご主人が分かってくれてよかったよね。僕らがここにいたいってこと」
「そうだね。ありがとうヒバナ、作戦に協力してくれて」
「ボクの方こそ、いい作戦を考えてくれてありがとう、アオ」
「明日はきっとタマゴを見つけようね」
「うん、きっと見つけようね」
二匹はしっかりとした声でそう言い合って、それから交互におやすみを言いました。

***

次の日の朝は、空に雲ひとつない、まことに良いお天気でした。お日様の光にさそわれて、アオはうっすらと目を開けましたが、ポカポカとした陽気とひんやりとした草の感触に包まれて、すぐにまた眠りの世界に戻りたくなるような心地になりました。
そんなアオの眠気を一気に吹き飛ばしたのはヒバナの声でした。
「アオ!!こっちに来て!早く!!早く!!」
明らかにいつもと違う、興奮で爆発しそうな大声に、アオは何かとても凄い、素晴らしい出来事が起きたことを感じました。そしてそれはきっと、

「タマゴがあったんだよー!ボクたち、とうとう見つけたんだよ!!」

やっぱり思った通りの言葉が聞こえてきましたが、アオはもうその声も半分聞こえず、自分の遅い足のことも忘れて、小屋の影のあたりで本物の火花のように飛び跳ねるヒバナの元へ向かって全力で駆け出していました。

二匹の胸くらいまである大きさの、ころんとしたタマゴは、触るとなんだかしっとりとしていて、アオは、なんだかそれ自体が生きているポケモンであるような、ふしぎな気持ちがしました。
「あのね、アオ、ボク今朝起きてね、あくびして背伸びしてね、そしたらね、小屋の近くのここの地面の上に、何か石みたいなのがあるのが見えてね、近づいてみたらね!タマゴがあって!うれしくってもう、本当に、本当に!」
ぴょこぴょこと跳ねてトサカをゆらしながら、ひっきりなしにしゃべり続けるヒバナの横で、アオは上の空でうん、うんとうなずきながら、タマゴのあちこちを両方の羽で触ったり、なでたり、耳を当ててみたりしています。まるで、そこにあるそれが本当にタマゴであることを確かめるように。
「ねえってば、アオ!」
ヒバナが怒ったようにアオのほおをくちばしで小突いたので、アオはびっくりして固まり、目を白黒させてヒバナの顔を見ました。
「アオは嬉しくないの?せっかくタマゴが見つかったのに、いつまでもむっとした顔で、ボクの話も聞かないで…嬉しくないの?」
ヒバナは最初は怒った声でしゃべり始めたのですが、アオに怒りをぶつけているうちにだんだんと炎が小さくなるようにしゅんとした顔になっていったので、アオは慌てて
「違う、違うんだよ、ヒバナ。嬉しいよ。本当に、凄く嬉しい。でも…まだ信じられないんだ。本当に僕たちのタマゴが見つかったって、まだ頭がぼうっとしてて、分からないんだ」
と、一生懸命に、そして正直に自分の気持ちを話しました。ヒバナは最後までじいっと真面目に聞いていましたが、悲しい顔をしていたのが突然ニッと笑ったかと思うと、アオのほおに思いっきり「みだれづき」を食らわせました。
「いたっ、いたたたっ、いたい!!」
何度も何度もつつかれて、アオは必死に羽で顔をかばいます。ヒバナはそれを見てつつくのをやめ、おかしそうに笑いながら、
「ね、痛いならこれは夢じゃないんだよ!もうわかったでしょう?本当の本当にボクたちのタマゴが見つかったんだよ!!」
と、高らかに歌うように喜びの声をあげて、何度もその場で飛び跳ねました。アオはほおをさすりながらそんなヒバナを見て、困ったような、その日初めての笑顔を浮かべました。

それからアオはタマゴを両方の羽で大事に包み込むように触れて、ヒバナは反対側から自分の体でタマゴを温めるようにそっと寄り添い、
「生まれてきたら、呼び方を考えようね」
「色んな所に一緒に行きたいね」
「速く走るやり方、教えてあげてね」
「じゃあキミは泳ぎ方を教えてあげてね」
「楽しみだね」
「本当に全部、楽しみだね」
と、そんな話を、いつまでも続けていました。
やがて小屋から出てきたおじいさんがタマゴを挟んで寄り添う2匹を見つけ、人間のご主人が鳴らす自転車のベルが聴こえるまで、いつまでも。


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