歌が聴こえる。優しくて、とても綺麗な声。朝からパソコンをいじっていた私は、ふと窓の外を見た。青い水平線の上に、ぽつりと何かが浮かんでいる。あれは…
ラプラスと…少女?
私が歌う理由 風間深織
『楽譜は歌の設計図なの』
いつだったか、あなたは私にそう言いました。きらきらと目を輝かせ、そう話すあなたは、本当に楽しそうでした。ポケモンにとってただの技である歌を「芸術だ」と言い張って、一緒に旅に出たあの日が昨日のように思えます。
『この紙を立体的に表現するのよ』
オタマロのような丸がたくさん並んだ紙を見て、あなたは歌いだしました。透明で澄んでいる、綺麗な声。それだけじゃない、何か説得力のある声は、私にとってまるで魔法の声のように思えました。その歌声に感動し、何度涙したことでしょう。
『あなたの声も、すごくいい声。とても歌心があって、私は大好き』
私の歌を最後まで聴いて、眠らずにいてくれたのもあなただけでした。時には、私の声に合わせて即興でハーモニーを作ってくれることもありました。
『行こう、アリア』
アリアというのは華やかな旋律の独唱曲を表すのだそうです。ラプラスである私にそう説明しながら名前をつけたのも、あなたでした。私にはとてももったいないくらいの美しい名前を、いつかその名前に相応しいポケモンなればいいと、あなたが言ってくれたのを今でも私は覚えています。
「どうしたの?アリア」
いいえ、なんでもないですよ。ただ、あなたと歌ったあの日々を思い出していたのです。あなたが私の歌声を好きだと言ってくれるから、私はとても幸せです。そして、これからも、あなたの隣で歌っていたいのです。
それが
私が歌う理由なのですから…
歌が少しずつ消えていく。ラプラスと少女は水平線の向こうに溶けてしまった。窓の外はまさに快晴。私はパソコンをシャットダウンして、久しぶりに海へと向かった。
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自分の所属していた合唱部で「何故歌っているのか」というのを真剣に考えたことによりうまれたさくひんです。