マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.171] 第二話  歴史の動かし手 1 【修正版】 投稿者:クーウィ   投稿日:2011/01/14(Fri) 01:51:23   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「よし……今日は、その辺にして置こう」

ハインツが見守るその前で、カイリキーが昨日ドック入りした潜水艦から運び出した最後の『魚雷』を、保管用のケースに収め終えたところで――彼は作業場にいる仲間達全員に向け、今日一日の作業終了を呼び掛けた。

するとその言葉に反応して、作業場のあちこちに散らばっていた工員達が一斉に手を止めて、彼の方を振り返る。
種族は様々な、仕事仲間達一匹一匹の顔を順々に見回しつつ、彼はねぎらいの言葉と共に、翌日の作業予定を簡潔に説明して行く。

――彼の前に居並ぶのは、全てが異種族の作業員達。
手近に立っているのは、カイリキーとワンリキーの兄弟に、少し低身長気味のハッサム。  
右手に位置するのは、年老いて多少草臥れた感じのドンファンに、連れ立って此方に目を向けて来ている、オーダイルとヌマクローのコンビ。
更に奥の方では、溶接作業を担当しているブーバーと補助要員のスリープ、それに補充で最近来たばかりのハスブレロが、ゆっくりと歩み寄りつつ、聞き耳を立てていた。
 
 
  
――ここは秋津国から西に位置する大陸の、そのまた西の外れに位置する、中規模国家の一地方都市。
古くから港町として栄えたこの都市は、近年始まった大戦争を待つまでも無く、近代以来ずっと軍港として、発展し続けて来た。
……特に、国家の指導者に現『カイゼル』が即位して以来、徹底した海軍力拡張主義を取った彼の手により、元より戦略上の要衝であったこの都市は、更に一層軍事色を強め、港には軍艦の整備や偽装に使われる施設が、冷たく硬いコンクリートの地肌を連ねて、整然と立ち並ぶ事となる。

三年前に南方の田舎町で徴兵されて以来、ずっと各地で兵役についていたハインツは、一年ほど前に南方の国との戦い―『南部戦線』で負傷し、退役扱いとなったが――優秀なポケモントレーナーでもあった彼には、最早戦局も傾いた昨今、故郷でゆっくりと療養して過ごす事は、許されなかった。
傷が癒えるか癒えないかと言う内に、すかさず勤労召集を受けた彼は、故郷とは丁度真反対の位置にある北の端のこの都市に、ポケモン達による作業班の指図役として投じられて、現在に至っている。
――元々工場やドックで働いていた男達は、次々と徴兵されて前線に送られてしまい、今では彼が指示しているようなポケモンのチームが、この町の機能を支えていた。 
 
 
  
「明日は、今日と同じく早朝からの作業になる。  …きついだろうから、しっかりと休んでおいてくれ」

全員が人ならぬ者である目の前の工員達は、当然ながら一匹として、口がきける訳ではない。 ……それでも、家族同然に付き合って来た彼の言葉を受け止めるその表情は真剣で、目付きも含めて不満や不審の色は、まるで無い。

そんな彼らの表情を見る度に、ハインツはいつも心が揺れる。 ……『喋れなくとも、言葉が通じる』――それ故に彼は、本来この様な使われ方をすべきではない生き物である彼らに対して、自分達人間にのみ当て嵌まる義務や責務を、『命令』と言う形で背負わせる事が出来るのだから。
――自分達が行うこの作業が、結果的に破壊や殺戮、あるいはその両方を、憎しみと共に振り撒く根源となっている事……それを正確に自覚しているのは、彼だけであるにもかかわらず――

しかし同時に、彼は自らの経験からも、この仕事が手を抜けないものである事を、良く理解していた。 死と崩壊を呼び込むだけの、『兵器』と呼ばれる忌むべき道具――その一つ一つの出来と調整具合が、実際に命を懸けて戦っている前線の同胞達の生命を、直接左右する事になるからである。
その事を考えれば、如何に愚かな行いであろうとも……一国民として、この国を挙げた生き残り闘争の一端を担う事は、非常な名誉であり、また避けられない義務でもあった。 ……何時も彼は、心が揺れ動く度にそう自らに念じ、合わせて戦局の不利に伴って各地で起こっている、いわゆる『サボタージュ』の動きに対して、控えめながらも批判の論陣を張る事を、躊躇わなかった。
 
 

中天に昇った月の光が、波止場付近の倉庫群を青白く照らす。 ……彼が一日の報告書類をしたためている内にも、時は歩みを些かも止めずに、しっかりと夜の何たるかを、地上に示し続けていた。

職場である簡易な修理工廠を出たハインツは、町の中ほどにある自らの仮住まいに向けて、退役の直接の原因となった左足―膝に南の敵国の弾片が、食い入ったままのそれ―を僅かに引き摺りつつ、満月から数夜が過ぎたばかりの、まだ月光あらかたな立待月に見守られながら、長い帰途についていた。
左手には、月の光さえ反射することの無い、漆黒の海。 ……停泊艦船から漏れ出た重油がうねる水面には、どろりとして真っ黒なメタンガスの泡が始終浮かんでおり、時折そういった環境を好むヘドロポケモン達がちらほらと、輝く月に誘われたように顔を出して、波に揺られている。
……しかし彼らは、ハインツに気がつくと一目散に逃げ出して、頭を素早く波間に沈め、水中に身を潜める。 ……まだ戦争が始まって間もない時期は、この急激な環境の変化に、廃液やヘドロを好む彼らはそれこそ爆発的に増え、同じく増え続けていた各種ゴーストポケモン達と共に、『銃後』の社会問題になりかかっていた事さえあったのだが……戦が激しくなって『総力戦』が叫ばれるに及び、凡そ『ポケモン』と名の付くものは見境無く捕らえられ、前線に送り込まれるようになってからは、流石の彼らも大幅に数を減らすと同時に、人間を見れば素早く逃げ出し、身を隠すようになっていた。

ハインツ自身も、現役時代に西部戦線に居た頃は、実際に後方から送られて来て、まだ人に馴染んでもいない新米ポケモン達を、現場の空気に慣らしつつ戦力化するのを担当していただけに、その辺の経緯には、非常に詳しかった。 ……どうしても人に慣れない一部のそう言ったポケモン達は、毒ガス兵器の材料として、用いられてすらいるとも聞く。

しかしそれもまた、このような情勢下では、止むを得ない事であった。  ……少なくとも、彼はまたそう信じ、自分を納得させていた。  


……他の事共と、また同じように――
 
 
 
やがて沿岸線を右に折れ、倉庫の間を通り抜けて住宅地に入り、宿舎として借りている、レンガ造りの家屋が近付いてきた時――漸く彼の表情に、柔らかな温もりが戻って来た。
彼が戸口に近付いた頃、静寂に包まれたまま、内部に闇が蟠っていただけのその家屋に、パッと淡い光が燈る。

ゆっくりと手をかけてドアノブをまわし、重い戸を手前に引き開ける。 すると、待ち兼ねたような勢いで、中から一匹のロコンが器用に尻尾をすぼめ、出来た隙間を潜り抜けて、彼の足にじゃれかかって来た。

「ただ今、クライネ」

帰路思った事に、仕事の途中に感じた事――それら今日一日の苦悩の一切を忘れる願いも込め、万感を込めて帰宅の挨拶を言葉にし、身を屈めて綺麗なオレンジ色をした毛並みに手を触れると、彼女は嬉しそうに彼の体に頬を摺り当て、次いで背中側に素早く回り込んで、肩に身軽によじ登る。
未だ子供である小柄な体は、如何に膝に欠陥を抱えている彼と言えども、それほどの負担にはなりはしない。 ハインツはそのまま相手の好きにさせるがままにしておいて、ロコンがしっかりと自分の肩に地歩を固めたところでゆっくりと立ち上がり、室内用の履物に履き替えた。
 
 
 
クライネは、まだ生後2年にも満たない、♀のロコン。 ……ハインツはこのたった一匹の同居人を、一年半前、南部戦線の山岳地帯で拾った。

当時の彼は、最悪の激戦地として恐れられていた西部戦線の塹壕地帯から、同盟国への援兵としてこの地域に派遣されて来た、増援部隊の一員として抜擢され、山深い故郷にも何処となく似た岩と針葉樹林の起伏に満ちた世界を、生まれながらにして備わっていたオドシシの様に屈強な足腰を持って、縦横に駆け巡っていた。
……心中最早二度と出られないだろうと諦めていた、狂おしいほどに狭い壁土と、泥濘の地獄。 ――そこから一転して、自分が生きて来た本来の世界に舞い戻った当時の彼は、未だにその身が覚えていた山野への適応力に対する感動に打ち震えつつ、文字通り水を得た魚が如き軽快さを発揮して、幾多の功績を上げる。

――山中で生まれ育った彼には、平地から登ってきた素人じみた敵の大群の移動経路をいかにして遮断し、どう防衛線の裏を掻き、何処で奇襲を仕掛ければ良いのかが、まさに手に取るように分かった。

 
そして、そんなある日――彼は、クライネを見つけたのだ。

その日彼らが通過する事となった山林は、敵味方両軍による事前砲撃により、徹底的な掃討射撃を受けていた。 ……そして、行軍を開始してから間も無くの事――彼らは砲弾によって根元から抉られたハイマツの残骸の程近くに、全身に無数の破片を浴びて既に息も無い、金色の毛皮を纏ったボロボロの骸と、その傍らで頻りに親の首の辺りに鼻先を潜り込ませ、早く行こうと促すかのように動かぬ体を押している、幼いきつねポケモンを発見したのである。

「騒ぐようなら、始末しろ」――そう口にした小隊長をそっと押し止めると、ハインツはゆっくりとその親子に歩み寄って行って、冷たくなってゆく親元から離れようとしない、まだ尻尾が一本しかない小さなロコンの体をそっと抱き上げ、連れ去った。
当然ロコンは、嫌がって暴れ出すも――幸い既に空腹やショックで憔悴し切った状態であった為に、按ずるほどには彼ら一行の行軍を妨げる事も無く、無事にその日の野営地まで、連れて行く事が出来た。

その夜、彼は夜通し眠らずに、怯えるロコンの横で付きっ切りで世話を焼き、泥を被った体を拭いてやったり、破片が掠った傷を手当してやったりして、どうにか彼女を落ち着かせた後、有り合わせの携帯食料を食べさせて、寝かし付ける事に成功した。
――昔から共に暮らしていた祖母の、ポケモンの子供の育て方についての知恵や、一緒に山歩きに連れて行ってくれた、山の番人であった祖父の教えが、小さなポケモンの恐怖心とショックを和らげるのに、彼の元々の性格とトレーナーとしての才能同様、非常に大きな役割を果たした。  

そして、眠れぬ一夜……自らに意図的に安息の時間を禁じた、長い夜が明けた時――最早そのロコンは、森の奥へと送り出そうとした彼の足元から、離れようとはしなかった。
 
 
――それから2ヶ月半の間、険しい山々を縫って転戦する彼らと共に、ロコンは常に行動を共にした。  

初めは厄介視していた小隊長や、単なるマスコットとして見、可愛がっていた隊の同僚達も、ロコンがきつねポケモンならではの優れた嗅覚や聴覚で、先んじて危険を察知する場面が増えるに及び、彼女に『チャーム(お守り)』と言う愛称を付けて、重宝がるようになって行く。
彼女は何時もハインツの傍らを離れず、彼が聞き耳を立て、遠くの情勢を確認する為に立ち止まって目を凝らす度に、自らも周囲の気配を確かめるように耳をそばだて、臭いを嗅ぐ事を常としていた。 ……それによって彼女は、度々チームの誰よりも早く隠されていた罠を見破り、また潜んでいた敵ポケモンの位置を特定して、小隊の危機防止に、大きな役割を果たして見せる。
――ロコンが部隊と共に行動するようになってからは、彼の隊では誰一人として、身を潜めていた森トカゲに襲われたり、樹木の陰に敷設された地雷の犠牲になるような者は、出る事がなかった。

……しかしそれでも、ハインツだけは知っていた。 彼女が身を置いている部隊の仲間達からも、寄り添われている自分自身からも……あの時彼女の一番大切な存在を奪っていった、悪魔の臭い―死を連想する無煙火薬と金錆びの臭いが、濃厚に漂い出で、こびり付いている事を――


だから彼は、それ以後もずっと相手のポケモンに対して、捕獲用具を使わなかったし――敢えて彼女―ロコンに、特別な名は付けなかった。 ……常には同僚達と同じくチャームと呼んだし、直接構ってやる時は、『クライネ(小さいの)』と呼んだ。
――全ては、自らをして彼女の主人となる決心が付かなかったのと、心を込めた名前を付けて、必要以上に身近な存在になるのが、怖かったからだ。 ……自らの立場の危うさや、それによって浮き上がってくる相手のポケモンの運命を思うと、彼はどうしても暗澹たる思いと躊躇いを、振り払う事が出来なかった――  
 
 
  
「(しかし僕は、まだこいつと一緒にいる……)」

遅い夜食を意識して、ゆっくりと時間をかけて口にした後――これもまた同じく、慎ましいながらも心の篭った、彼お手製のポケモンフーズを十分に口にして、幸せそうに腕の中に抱かれているロコンと共に、静かに寝所へと足を運びつつ、ハインツは独り思いを反芻し、噛み締める。
 

 
――結局あれから半年後、彼は単身斥候に出た所で敵方の索敵網に引っかかって、迫撃砲での猛烈な制圧射撃を受けて重傷を負い、前線を去ったが――その際にもこのポケモンは、膝の辺りを弾片で抉られて、血だらけになって呻吟していた彼を真っ先に見つけ、そのまま片時も傍らを離れようとはせず、最終的には引き離そうとした軍医や同僚達の方が根負けして、『傷病兵の付き添い』と言う名目で、共に彼の故郷へ帰ることになったのである。


しかし、漸く戻った故郷も、確かに都会に比べれば、ずっと密やかなものではあったが――冷たく暗い戦争の影は、山間に佇む小さな町にも、しっかりと忍び寄って来ていた。
彼の父親は―前線にいた頃に、前以て手紙で知らされていた事ではあったが―既に東の国との戦いで戦死しており、近所の見知った顔も、随分少なくなっていた。
幼馴染も、同性別の連中は全て各地に散っており、残っていたのは、みんな異性の顔見知りばかり。  ……その彼女らも、殆どは既に相手を決めており、送り出した婚約者や夫の帰りを待つ身ともなれば、一様に表情は暗い。

中には意識して明るく装おうとするような者も、数人は居たが……やはり翳りを含んだその笑顔では、生来他者の感情に対して敏感な感性を持つハインツの目を欺く事は、到底叶わなかった。  ……それでも、何とか気丈に振舞おうとする幼馴染達の健気な努力は、反って負傷してリタイアせざるを得なかった彼の心に、言いようの無い感情を呼び覚ます。
――もう二度と、山野を駆け巡る事が叶わないのは、この上も無い苦痛だと思っていたのだが……故郷の有様と置かれている状態を見て、彼はこの時勢に『何もせずに静かに過ごす』と言う事が、下手な苦悩や障害よりも遥かに苦痛に満ちたものであると言う事実を、身を以って味わう結果になったのである。  
……だからこそ、現在の職務への勤労招集が掛かった時の心境は、正直な所ホッとしたと言うのが、本音であった。
 

 
「(そしてこいつも、またここまで付いて来てしまった……  ……別にあそこの空気や山並みが、気に入らなかった訳でも無いだろうに)」
 

 
――故郷(あそこ)で過ごした2ヶ月足らずの間、既に尻尾が種族名通りに6本にまで分かれ終わっていたクライネは、始終近くの山中に分け入って遊んでいた。
当初は、現地に元々住んでいるポケモン達の縄張りを犯してトラブルになる事を恐れたハインツが、不自由な体を押して、一緒に付き添ったものであったが……『実戦経験』で鍛えられた彼女の感覚や危機回避能力は、同伴するハインツですら舌を巻くほどのものであり、危ない目に合うような要素は皆無であった。
その内ロコンは、ハインツの家族―寡婦となってしまった母親や、共に家を守っている年老いた祖母。 既に婚約者の決まっていた妹に、幼い弟。 ……それに、未だに矍鑠としている山番の祖父にも良く慣れて、森に木の実を拾いに行くのに同伴したり、近所の子供達の遊び相手を務めたり、まだ小さな『火の粉』しか使えないながらも、釣ってきた魚を燻製にするのを手伝ったりして、すっかり家族の一員として、受け入れられるまでになったのである。

……だからこそ彼は、再び此方に赴任してくる時、命の恩人でもあるクライネを、何とか静かな山間の町に置いて来ようと、様々に苦心したのであるが――元より知能の比較的高いポケモン・ロコンである彼女は、幾度か試みた彼の不意の出発を尽く空振りに終わらせて、とうとう煤煙と火薬の臭い、それに喧騒と灯火管制が支配するこの地まで、彼にくっ付いて来てしまった。 


そして、そんなこんなで日々は過ぎ行き――やがていつの間にかハインツにとっても、このまだ幼いきつねポケモンは、鬱積する苦悩や空虚さを埋めてくれるただ一つの支えとして、彼の心の中に、動かしがたい地位を占める事となっていったのである――
 
 
  
寝所に足を踏み入れたハインツは、依然変わりなく、足に負担が掛からないようゆっくりと歩きつつも、今度は加えて意識して、極力足音を立てぬように気を配りながら、家の本来の所有者が好意で残して行ってくれた、小さなベッドに向けて近付いていった。  ……次いで、その縁の辺りにそっと腰を下ろしてから、大人しく運ばれるままになっていたロコンを、反対寄りに寝かせてやる。
既に満腹感と留守番による疲れから、大きな瞳を泳がせながら揺らめかせていた彼女は、やがて間も無しに大きな欠伸をしたかと思うと、とろんとした両の目を閉じて、静かな寝息を立て始める。
――現場監督にされる前の、兵隊に仕立て上げられる更に前――祖父から薫陶を受けた腕利きの猟師だったハインツの耳には、微小に過ぎる小さなポケモンの寝息も、しっかりと聞き取ることが出来た。

そのあどけない様子に、彼は声を立てずに優しく微笑むと、敏感なきつねポケモンの眠りを妨げないよう手は触れずに、静かにお休みを言う。  
……次いで、そっとベッドの下に手を入れると、そこに置かれている大きなトランクの中から、一枚の羽を取り出した。

彼は眠っているクライネの頭の上に、静かにそれ―薄い青を基調とした地に水色の文様が乗った、美しい風切り羽―をかざすと、柔らかな毛先の部分で優しくきつねポケモンの頭を撫でながら、古くから伝わる祝詞を呟く。
――寝る前には何時も必ず、欠かさず行っているその呪(まじな)いは、共にあるポケモンが健やかで丈夫に育つようにとの祈りを込めたもので、村にずっと伝わって来ていた、古い習慣であった。
無事にロコンを起こす事も無くそれを終えると、ハインツはベッド際に置いてある小さな二本の蝋燭の内一本を吹き消し、残り一本の小さな明かりを遮りながら、大切なパートナーの穏やかな寝顔を、静かに見守る。
 
 
 
……明日もやはり、予定は詰まっていたが――   今はただ、この一時を大切にしていたかった――


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