マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1734] Chapter.7 “孤高か、絆か! 信義に通ずる支え” 投稿者:ミュウト   投稿日:2023/09/02(Sat) 23:46:28   4clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


 集いの中央都市、旅の宿屋・居室内。

 身動ぎと共に、瞼を摩りながら背中を起こすあたしは、窓辺から差すあさのひざしに目を細めていた。 
 唸り声一つ上げてから、ベッドから優しく身を降ろす。
 
「いつもなら、一匹で何とかしてたのが懐かしいね……」

 目覚め後の顔、手と喉を清潔にしてから、昨日のタブンネ先生から云われていた治療の勧めを実行しようと、あたしは水場まで小さな歩幅で移動して行った。
 ポケモンたる種族の自然治癒力―― 重症でない限りは回復が追い付く。冒険の役立ちノートにも、書かれていた通りである。



 チルトは…… 今頃どこで、何をしているのだろう。

 親から、あたしから不本意に引き離されて、心細い思いをしたまま空虚な時間を過ごしていないだろうか。
 あの子はのほほんとしていても、芯はとても弱い―― 不安に耐えかねて泣き出していそうである。

 どうか…… 無事でいて。



 焦ってばかりいた昨日を反省に、あたしは両手を合わせて大きく深呼吸をした。

「あ…… ジョッシュくん、おはよう―― 早起きなのね」
「おはよう、チナ。此処のベッドは良いね、フカフカで気持ち良いもの」

 目的地に到着する直前、コジョフーとすれ違うのを視認。
 彼の常備していた保管器は、あたし達の寝ていた居室のテーブル上に置かれる形となっている。
 彼も、あたしに気付くなりさり気無く笑顔で挨拶、治そうとしている足の方にも注目をする上で部屋へと向かって行った。
 昨日から縁合って旅を共にしてくれる事となっている、ジョッシュ=パウアー。この上なく、安心感を覚えるのは間違いない。

「何たって頑丈さと“かいふくりょく”が取り柄ですから! 精神統一や瞑想も、鍛錬の一つに組み込んでるからね」

 ジョッシュは保管器を肩に掛けながら、自身の腕を摩ってニコリと笑う。
 彼の言葉からして、好き好んで自分から仕掛ける事は少ないけれど、一旦戦うと決めたら覚悟は固める律儀な一面が伺えるだろう。
 コジョフー一族の一部に持つとされる特性でも、連戦に強い証になるに違いない。 

「……タマゴも元気そうで、何よりよ。おかげで前よりも頭が良く回りそうだわ」

 一通り、顔と体とを洗い終えるに至ったあたしは、ジョッシュが肩に掛け直した保管されているタマゴに向けて言葉を添えた。
 これでも微笑んでいる、つもりである。端から見たら普通の表情そのものだが。

「市場へ行ってみましょう。ラウドさんの食料品売り場、百聞は一見に如かずと云うじゃない」

 昨日に病院にタブンネ先生の手配及び、同伴をして下さった恩人…… タテトプスのラウド。
 そんな彼から、商品を取引するに当たりあたし達が優位になるように取り計らいの文言を掛けてくれている手前、どの様に交易スペースとして展開されるのか、あたし自身の視点の注意が外へと向いてしまう。
 此処でジョッシュからのキャッチストップ。丁寧に肩に手を置かれながら。

「チナ、そんなに急がなくても商品は逃げないよ。タイムセールをやる訳では無いんだし。オレンのみを食べて、調子整えてから出発するのでしょ?」
「これでもセカセカは自制してるのよ。でも、アナタから云われる位だから…… 分かりやすいかぁ」

 ジョッシュが半ば呆れる様にあたしを制して、一旦部屋の方で軽めの朝食及び傷の軽減を進める様に促した。
 全く以てその通りである。商売関連の好奇心を前にすると、疼く感覚に先走って碌な事にならないのが今回のやり取りで露呈するに至る。
 あたしは恥ずかしさを押し隠しながら、リュックサックの中のきのみ―― オレンのみを口に含み、噛み砕いて喉に流し込む。

「……ごちそうさま、さぁ行きましょ!」
「了解チナ。いつもの通り、側に付いてるから」

 これで朝の準備はバッチシ。あたしとジョッシュは、それぞれ荷物バッグを掛けながら宿室の戸を開けていく。
 念の為に施錠をして行くのは忘れずに。



 ∴



 集いの中央都市、市場広場。

 あたし達は、既に販売スペースを展開して各々商売を始めていたポケモン達の横を通りながら、タテトプスのラウドの管轄下に当たる場所まで向かおうとしていた。
 気持ち、歩く速度が少し早まっていたが、先程の“オレンのみ”のおかげなのか痛みは昨日より感じない。
 彼が云うには“食糧品、スイーツ一式”を扱っているとの事であるが…… 一体どのような宣伝で以て、客の注目の的としていくのだろうか。

 近付くにつれ、記憶していた声の主のポケモンが見えてきた。
 “さぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 食料品スペースは此方だぜ!”、と、景気の良い声を掛けているのも確認。
 漁師に属するポケモンにも負けぬ声量に、商魂たくましい気概を感じる。
 
「よぉ、いらっしゃい! チナのねえちゃん、ジョッシュのにいちゃん、此方だ!」

 丸く頑丈な盾の顔を持つ店主が、あたし達に気付いて右前脚を横に上げながら呼び掛ける。
 幅は狭くとも上質な生地のレジャーシートに乗りながら、更にカウンターの上にはカゴにリンゴ、バナナ、ドーナツ等が器用に置かれてあるのを視認。
 丁寧に取り扱おうという姿勢でも、他のポケモンも同じ様に伺える点に見直すのも抜かりは無い。

「何て綺麗に並べられてるんだろう……! どれも、美味しそうに見える!」
「昨日言ってたように、おれは御客ファーストを第一にしていきたいからな。商品は品質が大事って云うだろ?」
「リンゴにドーナツ、押さえるべき食へのこだわりを把握してるのね。艶やかな見た目も然り、味も申し分無さそうな……」

 到着してからのあたし達の反応は、以下の通り。
 まず、ジョッシュはラウドに会釈をするなり、陳列された商品・食料品やスイーツの類に目を輝かせていた。
 あたしの場合は、それらの品々に感銘深いとばかりに吟味して、タテトプスの彼に労いの言葉を掛ける。
 共に、“先行きが楽しみな、交易スペース”の印象として、この目にしっかり焼き付ける事で確定する形となった。

 ドーナツの入っているカゴの方は、需要が行き渡るのか在庫が少なくなっている。他の品々よりも、売れ行きが頷けるだろう。
 ラウドがふと、あたしの右足に視線を移す。包帯の巻かれている箇所をじぃっと見ながら……。

「時に、チナのねえちゃん。足の方はどうだい?」
「おかげさまで。順調に回復してってるよ」

 ジョッシュが口元を抑えて食べたい欲を我慢しながら、品物を選んでいる傍ら。
 ラウドからの問い掛けにあたしは素直にそう答えた。支援や環境にも作用しているのか、回復への速度が速まっている気がしなくもない。
 クスリとタテトプスの彼は微笑む。そっか、と安堵したように言葉を次に紡ぐ。

「一匹孤高に旅路を行くってのも、余程の精神力でない限りは折れちまうもんだから」

 前回の件から、買っていた道具の存在、同行していた仲間によって助けられた恩と独り旅におけるデメリットをひしと感じ取っている分――

「何つーかね…… うん。チルトと笑顔で会う為にも、時々で良い。立ち止まる上でねえちゃん自身を褒めてやんな」
「えぇ、承知しているわ」

 今すぐは難しくても、どこかで自分に“よくやった”と言えるように。ラウドは、あたしに余裕を持たせようとしてくれているのだろう。
 その心持ちには、胸に来るものがある。

 あたしは、ラウドからの声に胸元を手で押さえながらコクっと頷いた。

「おおきなリンゴと、ミニドーナツを二つずつ。ポケはこれで…… あ、そうか2割引き!」
「前の恩は今後の縁に、てな」

 購入していく物は決まり、あたしはいつもの様にポケをラウドの前に置こうとするが、昨日の文言を意識していなかったのか定額分を置いているポカをやらかした。
 気にしてない、普通ならそれで取引は成立してるもんだとばかりに、行商タテトプスはすまして短く答える。
 御代を受け取ってくれた事から、2割引きでの取引は“真”。おかげで所持ポケの消費が少しながら抑えられ、経費が浮く形となった。
 バックパッカーとしてやり繰りするに当たって、地味に嬉しい事だ。

「ポケが貯まったら、また此処に来ても良い?」
「おぅともさ!」

 あたしとラウド、双方の話が一段落した後―― ジョッシュ側の買い物も同じ様に終了。
 リュックサックに購入した食糧を詰め込むと、ラウドに再度礼を述べては市場から離れ都市内を周る事を決めた。 
 背に響く店主タテトプスの景気の良い掛け声を、以降忘れはしないだろう。

「毎度さん、これからも御贔屓に!」



 ∴



 暫くあたしとジョッシュは、タウンマップを参照しながら街路を歩いていた。今回はどの施設に出向いてみたものか。
 カフェバーで、心と環境とを落ち着けながら回復に専念して行くか。もしくは、アクセサリー屋…… 気分転換に、着飾りの装飾品を見ていくか。ポケを使う使わないは後で考えるとして。
 元々後者は、旅をしているに当たり気には掛かっていたが、目的を重視に於いて選択肢から除外しかけていた経緯がある。まだ果たせていないのに、寄り道で遊んでる訳には行かないと…… そう、追い込ませていたのも否めない。

「自分自身を褒めてやりな、か……」

 あたしにとってのオシャレは、基本、必要最低限で十分である。
 ただし、被っているバンダナは別―― ミカン色を基調とした、アホ毛の箇所を除く頭部を守る布製の頭巾、それでいて三角の文様が隅部分に編み込まれているものながら、掛け替えの無い宝物かつトレードマークとして寝る時以外は片時も外すまいとしている。
 今回は単に、ポケが少なく買える物も少ないだろうと推測…… 最も、アクセサリーはポケもそれなりに高額で取引される事から、身分の低い者にとっては“高嶺の花”に近いものなのだろう。
 いや、救出出来た時のチルトへの慰め、家族への御土産を候補として見ていくだけなら、悪くは無いかもしれない。

「次は、どうしてくの? あー、そう云えば。昨日に落としちゃった道具、欠陥品になったりとかはしてない?」

 ジョッシュがあたしと目線を合わせる様に、立ち止まってリュックサックの道具について気に掛けてきた。
 口元に先程、食べたとされるドーナツのカケラが見受ける当たり…… 食べ歩きをしてたのだろう、多少の気の緩みも可愛く感じる。

「今の所は売りに出す道具も無いから…… うーむ、その事なら心配要らないわ。現場の目的の品と同様に、あたしの落としちゃってた道具も皆無事だった」

 比較的、身動きの妨げになりやすい重たいものは極力詰め込まない様にしてるのもあるけど、と付け加えて。
 あたしは特段問題になってないと素直に伝えた。

「何より、この布切れの持ち主に繋がるヒントを得られた事。これが一番に進歩ってトコかしら」

 リグレーから話してくれるに至った、“生命”を司る神に等しいポケモンを何らかの理由で忌避している者、と思われる持ち物。
 少なくとも、ボロボロに傷んだ布切れを通していずれチルトの行方に通ずる証拠に発展、するかも分からない、可能性を秘めた大事なもの。
 右掌を開きながら、あたしはまだまだこれからよ、と自分を奮い立たせようと――  

 おや、あたしからの答えに違和感を感じるのか、ジョッシュの表情が少し笑みが曇る。
 加えて、見つめる視線もどこか寂しげに…… いや、不満げと云うべきか?

「ちょ、ちょっとジョッシュくん。どうしたのよそんなにむくれて?」
「むくれてない! 違うよ、これでもチナが心配なんだから」
「まだ本調子じゃないものね。ありがと、その心持ちだけでも嬉しいよ」
「んー… どういたしまして」

 口を尖らしながら、でも配慮は欠かすまいとするジョッシュ。
 継続治療を試みながらの移動と相成るあたしは、足の方を気にしているのかと鑑み返答をするものの……
 そう云う事じゃ無いんだけどな、とでも言う様な呻き声と共に、コジョフーの彼は返礼を返す。

 あたしの知らない所で、彼にとって気に障る事があるのだろうか。
 気持ちを汲み取れないもどかしさを、あたしはこめかみに手を当ててごまかしていた。



 ∴



「ん? 何かしら。ポケモンの群衆?」

 ふと、都市内の掲示板付近に差し掛かった際、集まって何かを話している住民の一つの集団に目を向ける。
 昨日のウェルカモ保安官の話が脳裏に蘇る―― 強奪案件もあった事ながら、何があったとしても不自然は無さそうだ。

「チナは此処で待ってて。ボクが、話を聞いてみるよ」
「それじゃあ、御願いしようかしら。分かる範囲までで良いからね」
「はーい」

 あたしは立ち止まり、遠方からじっと見ているだけだったが…… ジョッシュが小さく両手を叩くと、こう提言の上でその場を離れた。
 タウンマップを折り畳みながら、あたしは経過を待つ事にしてみる。必要な待機分なら、何て事は無い。そう心の中で言い聞かせて。

 数十秒経った後、聞き込みに向かっていたジョッシュがUターンする形で戻ってきた。
 あたしは左手を上げながら出迎えてあげる。

「おかえりなさい。それでジョッシュくん、あの群衆何を話題に騒いでたの?」
「チナ! んっと…… 中央都市から離れた所で、稲妻を迸らせながら最速で駆け去る馬車を見掛けたって、住民の一匹から聞けたんだ」
「稲妻を迸らせながら、最速で……?」

 掻い摘んできた話を整頓しようと聞き出そうとして、ジョッシュからの持ってきた情報に一瞬目を細めた。
 でんきタイプのポケモン、それも馬型の関わってる馬車。特徴からして恐らくゼブライカだろう。
 もう少し、彼からの話に耳を寄せてみよう。

「窓が鉄格子、嵌められてる感じで…… 耳の良いオンバットさん曰くね、その中からすすり泣く声も聞こえてたって言ってた。でも、助けるまでには行かなくて、見張りのポケモンの数と凄みに圧されてただ遠くから状況を見るだけしか出来なかったって……」
「そう……。中の様子は推察しか出来なくても、劣悪な環境と思えてならないわ」

 此処に来て、犯罪情勢の上で懸念すべき種類を一つ着目する事になる。前日に保安官に聞き込もうとしていた、“誘拐”……“ポケモンさらい”。
 加速中に際してあのスピードで、風の様に去っていく光景は。一部の目撃者からしたら心の深い傷になりかねないものとなるに違いない。
 見張りの人数について確認はしてみたが、其処までは確認は取れなかったとの肩落とし。
 ……まぁ、そんなものだろう。気にしない気にしない。

 足を揃え、群衆に視線を向けていたあたしは、ジョッシュの方に戻すとリュックサックからメモ帳を取り出してしきりに書き込んでいく。

「後は、この情報役立つかな。見張りの一匹のポケモンの腕に、小さく絵で描かれたポケモンの紋章を施したスカーフが巻かれてたんだって。昨日、チナが判明させてたゼルネアスのとは違ってた」
「そのスカーフ、桃色のだったの?」
「ううん、桃色じゃなくて“朱色”って言ってたよ。それに鳥の様な見た目の絵だったって聞いたんだ」

 ジョッシュからの取ってきた、もう一つの情報に。
 あたしは桃色の布切れを追加で取り出すと彼の話す事柄を検証してみようと試みる。
 群衆の一匹が見ていた、ゼブライカ達が引っ張り走る“黒い馬車”―― その見張りの一匹の腕に巻いていたスカーフの色が、この持っているそれとは違うもの……?

「朱色…… 鳥の様な見た目の、絵の描かれた紋章……。ちなみに、そのモデルのポケモン、アンノーン文字で言えばどんな感じだった?」
「アンノーン文字? 云われてみれば…… そうだ、“Y”だ! でも、何でアンノーン文字に例えて?」
「ゼルネアスは“X”の由来を持つ、伝説の不思議なポケモン。故郷でも、イラストだけど本で見た事があるから」

 拳法使いのコジョフーは、学と書物にも通じていた。
 生き神と称される、七色の光を解き放つXに所縁のあるゼルネアス―― 対し、彼の挙げてくれていたYに所縁のある、死神と称されるポケモンは。 

「ゼルネアスと対を為す、もう一匹のポケモン。“イベルタル”よ」
「い、イベルタル? “死”を司ると云われる、あの伝説の魔鳥って事!?」
「此処から更に、聞き込みをしなくてはだけどね。今はまだ、推測の域を出ない。確定するには不十分よ」

 顎に手を添えながら、あたしは現時点で挙げられる種族を言ってみると、ジョッシュは突拍子も無い繋がりのポケモンだとばかりに驚きを隠さず反応を返した。
 思わぬ所で情報は得られたが、細かいかつ確証に得るには些か材料が不足している。
 群衆に混ざる形で、中には悪意共に誤情報を忍ばされる懸念。つまりデマ、フェイクの可能性も否定は出来ない。
 慎重に細かく摘み取って行かないとならないのは、これからの課題点だろう。

 黒い馬車…… 一体、何物で、何の為に都市近辺を騒がせているのか。
 行方不明になっていると思わしきポケモンも加えて、昂る調査の好奇心があたしに駆け巡る。
 もしかしたら、その中にチルトも―― あくまでも可能性であるが。

「ジョッシュくん、この事は一旦持ち帰りましょ。新たに謎が増えたけど、でも同様に導ける材料も整えられるはずよ」
「え? う、うん……」

 万全になってから、動けなかった分の遅れを取り戻すまで。コクっとするあたしの気持ちは、別のベクトルに突き動かされる様に闘志を燃やしていた。
 対するジョッシュの方は、あたしの返事に面食らってなのかいつもの要領を得ない返答をしていたが。

「あたしには、羽ペンとメモ帳があれば…… ある程度推理や仮説を基に進められるの。ケガが完治するまでの間、有効に使わせて頂こうかしらね」

 こう云うのをシンキングタイムと云うのかしら、と付け加えて、あたしはカフェバーへと歩を進めていく。
 今回は自分の状態を把握している手前、冒険には出られないけれど。情報を精査する時間なら限りなく残っている。
 保安官や救助隊たちに出来て、あたしに出来ない事は無いと信じる手前…… やるべき事に務めよう、今決めた事だ。

「転んでもただじゃ起きないなぁ、チナ。でも…… 安心したよ」

 暫く立ち尽くしていたジョッシュだったが、先程の寂しそうな顔から安堵するようなため息を吐くなりあたしの隣に並ぶと、拳を弱く握ってあたしの手にコツンとぶつけた。

「手の届く範囲の助けていくポケモン―― 頼れる時はいつでも、頼ってよねっ」

 そう云うと、彼もカフェバーの方に歩を進め始めた。
 後半の、子どもらしくあどけない調子で言い添えていた当たり…… あたしに対する、仲間として頼って欲しい、距離感を覚えていた節を考えるに推測。
 ……気を使わせて、ごめんなさいねジョッシュくん。



 ふと、保管器の中のタマゴが、コト、コト…… 小さく、でも確かな揺れで以て音を立てていたが、あたしもジョッシュも気付きはしなかった。


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