マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1735] Chapter.8 “情報のピンセット! 子は親よりもよく見ている?” 投稿者:ミュウト   投稿日:2023/09/18(Mon) 21:05:39   1clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


 集いの中央都市、カフェバーのテーブル席付近。

 賑わいは変わらず和みある食卓を愉しむポケモン達がいる中。
 テーブルの上に、先程注文していたココアパフェと白玉ゼリー、ミルクセーキを囲みながら、あたしはメモ帳を頁を一部切り取って推理推敲に当てはめようとしていた。

 一方のジョッシュは、ホットケーキと砂糖入りホワイトコーヒーを前に、あたしのやろうとしている事を終始見つめている様子。

「よし、食べたいものはこれで揃えたし。さてっと、パズルのピース填めと行きますかー……」
「えっと、まずはチナの持ってる桃色の傷んだ布切れと、ボクの聞いてきた“朱色のスカーフ”についての関連性だっけ。スイーツが溶け出しちゃう前に、どう動いてくのか――」
「まぁ、見ててなさい?」

 甘味のメニューを食べ進めながら興味津々に聞いてくるジョッシュに、焦らずとも、とばかりに答えられる解を並べて準備を進めるあたし。
 これからの行動指針も兼ねた現段階のおさらいをしていくからと、注意を向ける彼を押し留めて。



 ∴



 さぁ、此処からである。

 まずは、旅を始めるに当たって拾っていた布切れの情報から。
 その前提として説明するのは。

「Xと、Yのシンボルが伺える、伝説のポケモン2匹。ゼルネアスとイベルタルが深く関わってるのは知っての通り」

 本で見た事がある、とある地方に伝わる厄災の記録“大破壊”の主要ポケモンの二匹にして。
 生命と、死―― それぞれ対極する概念の司るポケモンの名を、白と黒の丸石に見立てて伝えていく。
 ジョッシュは、理解していると云った具合に頷きを一回。



 桃色の布生地に描かれていると思わしき、現在は判明するに至っているゼルネアス。

 一方のジョッシュが手に入れてくれていた、朱色の布生地に同様に描かれたイベルタルについて。



「あたしの持ってるこの布切れ…… 元は背中しか見れていない犯人達の落としたものよ」
「チルトさんが連れ去られた時に、何かの弾みで布が切れて落ちたもの、と仮定するのなら…… きっと犯人側も想定してない事だっただろうね」
「桃色の布生地にドーブルのインクか何かで汚されてて醜くなってるのには…… その集団が、特定のポケモンに対して強い嫌悪の情を持っていて辱める目的で行っていた、と推測は出来るわ」
「ゼルネアスを、“生命”を忌憚視するポケモン達がいるなんて、罰当たりも良い所だけどなぁ」

 数十日前に記憶を遡ってみても、人数や目安となる特徴が出てこないのがもどかしい所ではあるが、冷静を保ちながら順に説明をしていく。
 芸術作品を不当に、悪意以て毀損に至らしめる、世のポケモンの一部にはその様な行動を取る者がいる悲しい事態もある。しかし裏を返せば、相手を傷付ける前提とした行動を取るには相応の理由が考えられるのではないか…… 無論、あたしは肯定する気持ちなどゼロである。
 ジョッシュも保管器のタマゴに視線を向け、あたしの考察に続けて悩み顔でコメントを述べる。

「切れ端となってるそれ、元は大きな布。旗や紋章を載せる為の生地でもあったのかな」
「えぇ。その切れ端をくっつける大掛かりな証拠を集めるのには、多大な時間を要するだろうけど……。でも幸い、この“生命”のポケモンと合致する外見情報を拾う事が出来ている」

 大っぴらに認めたくは無いが、リグレーからの答えが現段階で情報が開けている一因。
 いつの間にか苦々しい表情になっていたのに気付いてか、ジョッシュが慌てた様に顔が大変な事になってると親指で知らせた。
 善と悪、印象の傍らどうしても主観かつ感情が持ち上がる癖、少しずつでも進歩しなくてはいけないのは確かである。

 あたしとジョッシュが情報を掻い摘んで整頓して行くと同時に、注文していた甘味メニューの質量も少しずつ小さくなっていく。
 同時並行するにも些か、御行儀が悪いのは周知済みである。ただ、頭を使うにも疲弊する分があり、一長一短に近しいものも否定はしない。

「次は、“朱色のスカーフ”についての関連性を。ジョッシュくん、説明を御願いしても良い?」
「わかった、チナ。えっと、順を追ってくとね」

 治療しているあたしの足を気遣ってか、ジョッシュが自分から先程の都市の群衆相手に聞き込みを健闘してくれていた、繋がる結果の一部始終。 

「中央都市から離れた場所で、稲妻を迸らせながら最速で駆け去る“黒い馬車”を見掛けたって…… 住民の一匹からの情報。その中で、関わる見張りのポケモンの腕に、小さく絵で描かれたポケモンの紋章を施したスカーフが巻かれてたの」

 最初に話した後者のイベルタルに関わる絵のスカーフ…… そしてカフェバーに入る前に伺っていた、鉄格子の嵌められた窓と聞いていた手前、捕らえたポケモンを閉じ込める劣悪な作りの馬車が想像に難しくない。
 点と点を繋ぎ合わせ、少しの緩みも無くするように、ジョッシュが言葉を紡ぎ続ける。

「絵の内容こそ、鳥の様な見た目―― チナの挙げてくれてたアンノーン文字、“Y”の特徴から。イベルタルじゃないかって思うんだ。その前の可能性はまだ不透明で、ボクは未だに“シンボラー”じゃないのかなって考えたりもしたけど……」
「そう、現にまだ確定はしてないもの。いずれ情報を探る上で確実にして見せるんだから」

 最後の所であたしが聞き込みを入れる前に考えていたポケモンを述べてくれる当たり、ジョッシュの天然で正直な所が伺える。
 クスリと笑みをこぼしながら、あたしは切り取った頁を回収してから彼に黒い馬車についての見解を指し示す。

「黒い馬車、あたしが思うに馬車を引いてるそのポケモン、ゼブライカではないかと睨んでる。あのポケモン達がよっぽど急ぐのには、訳があるんじゃないかと思うんだけど…… ん?」

 じぃーっ。

 情報を敷き詰めようとした所で、後ろから突き刺さる何かの視線。それも、テーブル席の隣かつ自分の後ろをピンポイントで。
 何だろう、でも邪気は感じない。もしかして、家族連れで来ている子どもなのだろうか。

 ふと、向こうのテーブル席から覗いていた小さな、でも真摯に見つめている可愛げな眼。 
 その紫色の体毛をしたよだれ掛けに似た白い紋章と半白色のプラズマを持つあかごポケモン――エレズンは、あたしに向き直るとペコリとお辞儀をした。つられて、あたしも同じく返していく。
 どこから聞いていたのかはさておき、小さな背丈ながら身を乗り出して聞き入ろうとしている姿勢には、冒険心溢れるポケモンを思い浮かべる事だろう。

「……こんにちは。おねえ、おにい、じょうきょうせいとん?」
「そんな所ね。あたし達が共有してるカードを、確かめ合ってたのよ」
「ずっと視線を感じると思ったら、キミのだったのかぁ」

 エレズンの話す声は、思ったよりも舌足らずでは無くおませな感じが聞き受けた。
 そんな中でも、ジョッシュはさり気無く自分の分の甘味を完食していた様子。妙な所でマイペースなのも理解が出来る。

「ぼく、しってるよ。おっかぁ、このあいだね。コジョフーおにいのはなしてた、しゅいろのスカーフのこと。おばさんとはなしてたの、きいてたもの」

 その中で語るエレズンの一節に、ジョッシュは朱色のスカーフについてに目を見開くだろう。
 数分前に聞き込みしていた群衆の情報群、しかし不確かな要素の含むそれに匹敵する―― 子どもからの吸収している大人達の話。一聞価値が低そうな話でも、わずかに正確な真実をつまみ上げられる可能性が見えてきた瞬間である。

「えっと、良ければ聞かせてくれないかしら。エレズンくんのお母さん、そのトモダチとスカーフについて何を話してたの?」
「んんっとねぇ……。“このせかいはくさっている”、ってくどきもんく… かんゆう、というのかな。ぶっそうなことばが、ここのところとびかってるんだって」
「外を通して、この世界は腐っているって切り出しに勧誘を……」
「“この世界は腐っている”? それ、チナが尋問していた時にリグレーの彼が言ってたのと同じだ……」

 周囲に他に誰か聞き耳を立てていないか確認の上で、あたしはエレズンに口元を隠すようにしながら小声で話を始める。ジョッシュもまた、身を乗り出すようにして聞き取ろうとして行く。
 天井とあたし達、他の皆の目を気にする様にキョロキョロ視線を変えながら…… 見たまま聞いたままを伝えてくれたエレズン。

「みんな、くろいばしゃのポケモンに…… なんか、おびえてるみたい。つれさられたら、かえれない。はもんみたいに、つたわってくかんじ」
「…っ……」

 荒地の奥の、開けた岩場で言っていた、リグレーの言葉が脳内で響くのを感じてなのか…… 苦し気にあたしはこめかみに手を当てる。
 ジョッシュがその場に早歩きながらあたしに近寄り、そっと肩を摩って労わってくれる当たりありがたい事だ。

「あのね。ぼく、まだちっちゃいからよくわからない。でもね、ぼくやみんなをいかしてるいのちは…… それぞれ、おっかぁのおかげでなりたってる。それだけは、わすれないでいたいんだ」
「……エレズンくん」

 右手を小さく振りながら、エレズンもあたしに言葉を添えた。
 今はまだ道理も理不尽も分からない、無垢な彼なりの思いではあるが―― 自身を、あたし達も含めて生きている命は母親の愛情あって繋がっている分もある。そして、父親もまた然り。
 コクリと頷き、あたしは笑顔を向ける事だろう。宿屋ではぎこちなかった笑顔だが、今ではこのやり取りを通して、思い起こすに至っている。

「こ、この事は周囲にはナイショだよ。良いね?」
「うん、わかったー。どくとでんきのなにかけて、だまってるー」

 ジョッシュはエレズンと同じように周囲を気にしつつ、今話したのは他言無用とばかりに彼に口元に指を立てながら締め括る。
 この御時世、見ず知らずの旅ポケモンが赤の他人の家族に話を、と云うのも世間体が訝しく感じられるのだろう。エレズンの母親であろうストリンダーがあたし達に不審な眼で応対するのも時間の問題だ。
 エレズンがその事を察してか、母親ストリンダーに対して“なんでもないよー”と如何に関係ない振りして話を終えるだろう。この子、かなりの強者である。

「チナ、そろそろ行こう。ごちそうさまでした!」
「わかった、ジョッシュくん。ありがとう、この御礼は後程にね」
「おっけーべいべー」

 保管器を肩に掛けたジョッシュが、あたしに促していくと、店員のいるカウンターの方に頼んだ甘味の代金を支払いにスタスタと歩いて行った。
 やたらと張り切っているのは、あたしに気を遣っているのみならず頼れる自分でありたいと思っているからなのだろう―― そう思わずとも、あたしはキミを既に信じられる友と考えているのに。
 そっと、エレズンに御礼を言うとあたしも同じ様に、ジョッシュの後を追い掛ける。不思議と、足の痛みも前日より感じなかった。

 最後に、何なんだそのカッコ良い人差し指使いを添えた言葉の送り出し。まるで“Check it Out!”と言うような……。



 ∴



 此処に来て、傷んだ桃色の布の切れ端とジョッシュくんの持って来てくれたポケモン達の聞き込みからなる“朱色の布”。
 カフェバーでの情報の整頓、後者の正確なそれを掻い摘もうとする中で…… 突拍子も無いシュールな出会いではあったが、エレズンの子による思いも掛けない追加の情報助け舟には、あたしもジョッシュも大いに助けられた。
 
 黒い馬車、いずれにせよ放って置けぬ重大なものとなった瞬間もある。
 チルトが虜囚の身として関わっているかどうかは、情報の探りと冒険を進める事から明らかになるのだろう。見過ごす訳には行かない、そんな闘志に火が付いたのは確かだ。

 あたしとジョッシュは、来る万全に備えて準備を整えようと、宿屋に戻る事を決めてそのまま歩を進めたのだった。



 ∴



 やがて、包帯を完全に取れるに当たってあたしの脚が元通りに使える様になったのは、それから1日後の事である。
 保管器の中のタマゴもまた、少しずつ揺れを多くながら音を立てていた。あたしは、ジョッシュにそれとなく呼び掛けた。

「ジョッシュくん、見て! そのタマゴ、もうそろそろ孵りそうじゃない?」
「えっ!? そうか…… 後少しなんだ。じゃあ、旅立つ前にボクの話を。少し、聞いててもらえないかな?」
「もちろん。いずれ知っておかなきゃと思ってたから」

 今までにない、切なげな表情と共に、ジョッシュがあたしを呼び止める形で向かい合う。
 ジョッシュ自身のルーツ。しかし彼の憂いの目から…… あたしと同じく、順風満帆では無さそうなのが想像出来そうなものなのだが。

「ボク、このタマゴと出会う前、拳法使いとして旅立つ前はね―― 孤児院で育ってたんだ。と云うのも、母さんと父さんの… 記憶、抜け落ちてしまってて……」

 お師匠様の事は覚えてるんだけどね、とどこか困った顔をしながら、ジョッシュは身の上を切り出していく。
 あたしは自身の胸元に手を当て、彼からの紡ぐ話に耳を傾けていた。


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