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  [No.344] 抜け殻 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2011/05/02(Mon) 22:48:34   52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

これは、あるポケモンの誕生の物語である。


(畜生……何故だ!)
うっそうと生い茂る草の中に、何かが隠れている。薄い黄色に少し茶色を混ぜたようなみてくれで、草すらなびかないそよ風に身を任せている。近くで聞こえる耳障りななきごえが、この場を何か滑稽なものとしている。
(今まで苦しい思いで耐えぬいて進化したと思ったら……畜生、畜生、ちくしょおぉぉ!)
草に隠れている「何か」は、必死に動こうとあがいてみたものの、芋虫ほどにも動けず、ただ時間が流れていくだけであった。


「……君、なぜこのような所で倒れている?」
しばらくして動こうとすることをやめた「何か」の前に、誰かが現れた。背は高く、白い布で体を覆っている。明らかにここの者ではないが、どこかからやってきたというわけでもない。
(誰だ……)
「心配するな。別に取って食べるわけではない」
(なら、なぜ俺に話し掛けた?)
「それはな、気になるではないか。こんな場所で動けずにいるのが見えたのだから」
「誰か」は「何か」にのんびりとした口調で答えた。
(けっ、なら教えてやるよ。どうせ俺は死んだんだ)
「うむ、では話してくれ」
「誰か」は腰を下ろし、楽な姿勢を取った。そして、「何か」が語り掛けてきた。
(俺は元々ツチニンというポケモンだ。長年俺は進化する為に全てを我慢してきた)
「どれくらいだ?」
(大体7年だ。その間はどんなに攻撃を受けても決してやりかえさず、ただ進化の為に待ち続けた)
「そして進化したと言うわけか。だが、それなら君がここで倒れている理由がわからんな」
(そうだ、ここからだよ肝心なのは)
「何か」は語りつづけた。次第に風が強くなり、周りの樹木は不気味に揺れる。しかし、「何か」と「誰か」の近くではそよ風すら吹いてない。
(俺はテッカニンと呼ばれるポケモンに進化する時、抜け殻として捨てられたんだよ!)
「抜け殻……なるほど、確かに抜け殻は成長の妨げになるからな」
(なぜ俺が捨てられなきゃいけないんだ!7年も耐えた結果がこれか!……あまり本体を恨んだおかげで抜け殻に意志ができちまったよ。今あんたに語り掛けてるのは、抜け殻の怨念だ)
抜け殻は一通り語り掛けると、「誰か」が尋ねた。
「君は……これから生きたいかね?」
(何だと……?おとぎ話じゃあるまいし、俺をからかってるだけだろ)
「それは私の目を見て言ってほしいな」
「誰か」は抜け殻に優しく諭した。しかし、その目の中は熱意で燃えている。
(俺は動けないから見れねえよ)
「それもそうか。で、できるできないはともかく、君は生きたいかね?」
(……当たり前だろ、7年も耐えてきたんだぞ)
「なら、君に祝福だ。はっ!」
「誰か」が手を抜け殻にかざすと、青緑色の光が辺りに広がった。それと同時に、辺りの風も化け物のように荒れ狂う。その状態がしばらく続いたが、やがて光が消え、風もやんだ。
「さぁ、浮かび上がれ」
「誰か」は立ち上がり、右手を天にかかげた。すると、抜け殻がまるで風船のようにふわふわ浮かび上がり、空中で静止した。
(こ、これは一体!?)
「おお、忘れてた」
抜け殻が驚くのも聞かず、「誰か」は体の白い布を細長く切った。そして抜け殻の頭の上にわっかにしてのせた。
「これでよし!今日から君も生き物だ。そうだな、名前はヌケニンだ!」
(……あんた、一体何者だ?)
「え?うーん、ただの通りすがりのおじさんだ。それよりだ」
「誰か」、もといおじさんは、ヌケニンに顔を寄せて言った。
「君は確かに生き物となったが、体が脆い。ポケモンには相性があるが、弱点の攻撃を受けたらすぐにやられるから気を付けろ」
(ああ……こちらとしては生きることがまたできて、嬉しい限りだ)
「そうか。では、最後にもう一つ。君の種族が進化する時は必ずヌケニンも生まれるようにしとこう」
(……あんた、なぜそこまで自分で決めるんだ?)
「なぜって、そんなこと言えないよ。では、また機会があれば会おう」
おじさんは再び右手を天にかかげた。すると、そこから太陽よりまぶしい光が発生した。
(ぐわ、なんだこりゃ!)
光はすぐおさまったが、そこにはすでにおじさんの姿はなかった。
(……もう夜か)
ヌケニンはすでに夜になっていることに初めて気付いた。なぜなら、今までうつぶせに倒れていたからである。
(誰かは知らねえが、感謝するぜ。よし、再びもらったこの命、全力で生きてやるぜ!)
ヌケニンが思い切りなきごえを出すと、そよ風にながされてどこかに行ってしまうのであった。




ヌケニン誕生の妄想です。たまにはこんなロマンチックな話書いても、バチはあたらないでしょう。

それにしても、この作品のことを覚えている人ってどれくらいいるのでしょうか。一応サイト改築前に掲載していた作品ですが、ついでなので投稿しときます。


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