「メーリさんのメイリープ、メイリープー メイリープー メーリさんの・・・・・・むぎゃ」
適当に作った歌を歌っていたら、メイちゃんから落ちそうになった。
「メイちゃん落とさないで、走らないでゆれないでええ」
黄色い塊となって動くメリープの群れ、その中でもひときわ大きい、どのくらいかというと、子供を乗せられるぐらい大きい
そのメリープに、半ば埋まるようにして乗っていた少女が叫んでいた。
叫んでも、大半がふかふかの毛と群れの足音に消されて聞こえない。
何事かと止まったメイちゃんこと特大メリープ。助かった思ったのもつかの間、後ろからぶつかってくるメリープの
衝撃に驚いて「進んで!」と叫んだ私を振り向いたその顔は、ふかふかの毛が邪魔して見えない。もしかもして
「メイちゃん・・・・・・また太った?」
後ろで伸びているメリープも気にならないほど、少女にとってその問題は大切だった。
群れの先頭を歩いているはずの兄が群れの進行を止めさせてまで見に来ても、
後ろで伸びているメリープたちのことで怒られたって耳に入らない。メイちゃんが太った、また大きくなった?
今でさえ標準の二倍以上なのに、また大きくなった。お医者さんに怒られる。
「こら、キロお前なにしたんだ。」
メイちゃんの後ろには、倒れて積み重なるメリープたち。積み重なるというほどでもないが、
困ったようにメリー、メーと助けを呼ぶ声が絶え間なく聞こえてくる。少女には聞こえてなかったけど。
相棒のヒツジ(デンリュウ)とメリープを助け起こしているキロの兄はそんな様子を見て、ため息をついた。
「まーた自分の世界に入りやがった。」
頭を困ったようにかきながら走っていった兄の背中を見おくったあと、少女は気づいた。いまさらだと。
すでに体長は2メートルを越え(二倍どころじゃなかった、3倍以上)父からはあきれられ、兄はうらやましがり、
メイちゃん本人はいつの間にか群れのリーダーになっていて、本当のリーダーである兄のヒツジちゃんことデンリュウと
たいまんで勝負してたし・・・・・・しかものしかかりでノックアウトしていなかったっけ?
おかげで私はヒツジちゃんに睨まれる羽目に。そういえば、ヒツジちゃんとのリーダー争いでは、
間一髪仲裁に間に合わなかったお父さんとアラタにメイちゃんが吹っ飛ばされて勝敗はうやむやになったんだ。
相変わらず強いよね、お父さんのアラタ。結構ご高齢になってきたのに、毛並みが白くなっちゃってもメイちゃんを
ふっ飛ばしちゃえるんだもん。あ、
あ、という言葉もかき消されながら、少女の体は軽く宙に浮いた。メイちゃんが再び歩き出しただけだったりするが、
上に乗っている少女にとっては大問題。黄色いもふもふで、暖かくなってきたこの時期には暑すぎるその毛をひっつかんで、
バランスをとろうとした、バランスは取れた、バランスは。
ぶち、という音と共にその手に残る黄色のもふもふ。意外にごわごわのその塊は、さっきまでメイちゃんに、
ぶるぶると頭を振って、思考をまとめる。どっちにしろ、これから冬毛を刈りに行くんだから問題なし。
手につかんだままの黄色い塊は、メイちゃんの背中に押し込んでおいた。
後ろを見てみると、アラタが走っていた。早く早くと群れをせかしている。
アラタの、その後ろを見れば赤い夕日。ぺラップが奇怪な声を上げながら飛んでいった、「あほーあほー」と。
メイちゃんはキッとそのぺラップを睨みつけてた。小刻みに体が揺れていたからきっと怒ってる。
ちらりと見えた角が突き上げるようにぴょこぴょこ動いているのと、地面を打ちつける足の音が・・・・・・怖いからやめて。
相変わらず揺れはひどいけど、怒っているんだから仕方ない。さっさと家に帰り着くためにも怒りを静めてもらわなきゃ。
周りのメリープがおびえていてなかなか進まないし、舌を噛まないように注意して歌ってみようかな、メリーさんのメリープ。
なぜかメイちゃんが好きな有名歌。舌を噛まないようにするのは無駄な気もするけどね。さーて、ちゃんと聞いてよね。
【批評していいのよ】【書いてもいいのよ】【描いてもいいのよ】