マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.418] 空想の空想 投稿者:teko   投稿日:2011/05/10(Tue) 02:33:31   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

※ 神話が出てきます(というより大半)が神話に詳しくないので間違ってたらすみません
  あくまでも、勝手な考えです。イメージを崩されたくないというかたはみないことをおすすめしまう



 ゴーゴン三姉妹。昔々に作られた神話に生まれたこの三姉妹は、誰もが見とれてしまうような容姿を持つことで知られていた。ステンノー、エウリュアレー、そしてその三姉妹の仲でもとりわけ知られていたのは、末妹メドゥーサである。

 三姉妹の中でもメドゥーサは特に美しいと褒め称えられた。例え、千人の女達の中に彼女を無造作に放り込んだとしても、彼女を見つけることは非常に容易い事に違いない。幾ら他の女が青や赤の宝石で身を飾り、美しい色彩の布を纏ったとしても、裸の彼女の美しさに勝ることは無いだろう。もはや、容姿容貌というよりはもう彼女の持つ「気」の様なもの、それが彼女を美しく見せているとしか言い様がなかった。
 桃の皮表面の色、やわからさを連想させる頬。蝋燭のように滑らかな細い指の先には、魚の鱗の如く透き通った爪がはり付いている。そして、何より美しかったのは、彼女の髪であった。長く伸びた彼女の髪は、背中を彩る装飾品と言っても過言ではない。やわらかな髪の一本一本が太陽の光に反射し、大きな宝石を置いている様に輝いた。

 そんな美しさを持つメドゥーサであるが、あることがきっかけでゼウスの娘アテーナーの怒りをかい、醜い姿に変えられてしまう。このことに抗議した姉、ステンノー、エウリュアレーも共に醜い姿に変えられてしまうのである。
 かつての美しい姿は何処へやら。
 薄紅色の頬を隠すかのように、青銅の鱗が全身を覆いつくし、歯は剣の切先の如き鋭さを持った。何より美しかった彼女の長い髪は、森の小枝の様に短く絡み合っている。いや、それはもう髪と呼べるものではないだろう。髪の一本一本がゆらゆらと不気味に揺れ、近づくものには牙をむき真っ赤な舌を出す。三角の頭、縦に長い瞳孔。そう、彼女の、あの美しかった彼女の髪は「メドゥシアナ」と言う蛇になってしまったのである。かつて髪がしなやかに垂れていた背中も、今や黄金の翼がその場所を奪っていた。
 けれど、彼女の容貌自体は美しかった彼女のまま。黒い体についた首は美しい少女の顔をしているのである。背に生えた黄金の翼も彼女の顔も美しいはずであるのに、黒い肌や蛇の髪との不釣合いであり、より一層彼女の不気味さを醸し出していた。
 人々は彼女を怪物、魔女などと呼び恐れた。美しい姿を失い、人々からは恐れられ、心の荒んでしまった彼女は、人々を度々苦しめるようになった。

 そんな彼女を退治しようと立ち上がったのはゼウスの息子、英雄ペルセウス。姉ステンノー。エウリュアレーと違い可死であったメドゥーサだが、その彼女を倒すことは、そう簡単なことではなかった。何せ、彼女の目を見たものは一人残らず石になってしまうというのである。同じ能力を持つと言われるバジリスクやコカトリスならば、背後から忍び寄って首を斬ってしまえばそれで終わりだが、メドゥーサの場合、例えメドゥーサに気づかれずに後ろから斬りつける範囲に辿り着いたとしても、彼女の頭は蛇の群。蛇に騒がれ、メドゥーサに振り向かれればペルセウスの身体は石と化し、二度と動くことは出来ないだろう。
 考えたペルセウスは鏡の様に磨いた盾を前に、決してメドゥーサの顔を見ることなく、彼女を倒したと言う。そんな彼女の最後はどのようなものだったのだろう。ペルセウスが盾を前に翳し、反射した映った自分の目を見て石になったとも、ペルセウスに寝ている間に首を斬られたという話もある。何れの話でも、彼女は最終的にその首を斬られ、アテーナーのもとへ贈られることになった。

 ペルセウスは彼女の首を抱え、空飛ぶサンダルで海の上を飛んだ。その際、布に包まれた彼女の首から流れ出した血は布を赤く染め、海に滴り落ちた。空から海に落ちた彼女の血は、やがて赤い珊瑚になったと言う――。



 そこで私は筆を止め、一息吐いた。メドゥーサは神話の中でもよく知られた怪物である。蛇の髪を持つ、少女。だが、昔私はメドゥーサどころか、ゼウスすら知らなかった。しかし、初めてメドゥーサの話を聞いた時、私はどこか、見たことがあるような心当たりがあったのだ。

 首、黒い肌、美しい少女の顔、短い髪、珊瑚の色、魔女――。

 部屋の隅へと目をやる。部屋の暗がりに浮かぶそれは、眠たそうに欠伸をして何も居ないはずの空間をじっと見つめている。ムウマ。私は思わず、それの名を呼んだ。それが不思議そうに、赤い目で私の顔を見た。
 心臓が跳ねる。手から落ちたペンが机の上を転がり、床に落ちる。時間が止まってしまったかのように、私の瞬きも呼吸も止まった。石と化した私は宙に浮かぶそれを、しばらく見つめ続けた――。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー